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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 前日譚

時、たぶん真夜中。場所、海の中。
海面から数m。月と星のおかげで思ったよりも暗くない、塩っ辛い水中で、わたしは動けないでいた。
全ては体感10時間くらい前に遡る。100体弱の大型インバーダの大群が、わたしの配備されている都市の近くに出現した。そのまま侵攻すれば、わたしの担当区域にまでやって来るし、出現地点周辺の軍隊やモンストルムだけじゃ対処しきれないってことだから、わたしや仲間たちも駆り出された。
戦況はひどいものだった。
向こうはただでさえ巨体のせいで破壊力があるというのに、その上熱線による射程戦までこなすというのだから、人間の軍隊にはまず勝ち目が無い。モンストルムですら、小さな人型で熱線を浴びれば一瞬で蒸発する。それで何人か死んだ。
怪物態で応戦した子も、格闘戦の末にひどいダメージを負った。3分の1は熱線で首を飛ばされるか心臓を貫かれるかして死んだ。3分の1は肉弾戦で急所を叩き潰されて死んだ。わたしを含めた残りは、辛うじてインバーダたちを押し返して、結局負傷がひどくて動けなくなった。わたしは人型に戻る中で海に落ちて、そのまま海流に押されてだいぶ沖までやって来てしまった。
わたしは泳ぎが得意だから、流血で染まった海水を辿って対策課の人たちが回収に来るまで浮いているくらいならできると思っていた。
けど、考えが甘かった。空が赤らんでも、陽が沈み切っても、月が昇ってきても、人間の気配の一つすら近付いてこなかった。
さすがに力尽きて、身体の力が抜けていくのにつれてどんどん沈んでいった。
別に鰓があるわけじゃないから呼吸もできないし、水面に上がりたくても、血を流し過ぎて動けないし、もう死んでいくんだと思った。
諦めて目を閉じたその時、遠くからモーターの駆動音が近付いてくるのに気付いた。再び目を開いて、音の方に目を向ける。あまり大きくない船がこちらにやって来ているようだった。
やっと回収に来たんだろうか。死に体に鞭打ってどうにか水面まで上がり、舳先にどうにか掴まる。死力を振り絞って身体を持ち上げると、知らない老人が三叉の銛をこっちに向けていた。どうやら対策課の人間では無いようだった。
けど、そんなことを気にしている余裕はこちらにも無い。現状唯一の脅威である銛を掴んでへし折り、船の上に身体を投げ出し、そのまま気を失った。

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CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 3

「そうねぇ…」
だって、とデルピュネーが言いかけた時、店の外でけたたましいサイレンが鳴り始めた。
「⁈」
店内にいるコドモたちはバッと顔を上げる。
「こんな時にお出ましか!」
イフリートがそう言いながら店の入り口に近付く。
「せっかくみんなで出かけてるっていうのに」
インバーダは空気読めないんかなとワイバーンも店のガラス戸から外を見る。
「羽岡(はおか)さん、インバーダの出現地点は?」
デルピュネーが店の入り口に立つ男に尋ねると、羽岡と呼ばれた男は手元のスマートフォンを見ながら答える。
「ヴィアンカ通り周辺…ここからすぐの所ですね」
彼がそう言うとイフリートはよし!と指を鳴らす。
「さっさと行って倒して来ようぜ!」
そう言ってイフリートは扉を開けようとするが、待ちなさい!と羽岡に止められる。
「武器が届いてないのにどうやってインバーダに対抗するんです?」
本部からの武器到着を待ちましょう、と羽岡は淡々と言う。
「なんだよそれ‼︎」
怪物態使えばすぐ倒せるのに!とイフリートは羽岡を睨みつける。
「そうだよ!」
さっさか倒して駄菓子屋さんでお買い物したいー!とワイバーンは頬を膨らませる。
それに対し羽岡はダメです、と真顔のままだった。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その②

扉の破壊で、埃が舞い上がる。その向こうから、鉄球が独房の天井の方に飛んでいって、監視カメラと機銃を叩き壊した。
「よォ、ベヒモス。ハジメマシテだな」
すぐに晴れた埃の煙幕の中から現れたのは、私より少し背の高いモンストルムの男の子と、その子よりももう少し背の高い、スレンダーな女の子だった。
「俺はフェンリル。こっちはスレイプニル。よろしくな?」
「ぇ……ぁ……」
答えようとしたけれど、動揺が収まっていなかったのと長いこと言葉を発していなかったのとで、上手く言葉が出ない。
「とりあえず、『ソレ』も壊してあげたら?」
「ン、そうだな。ベヒモス、動くなよ? 下手すりゃ死ぬぜ」
フェンリルがそう言いながら、わたしの両手、両足の枷を1つずつ指で軽く突いた。その瞬間、拘束具は全て砕け散り、私の身体は自由になった。長いこと立ちっ放しの姿勢で固定されて疲れ切っていた両膝からは力が抜け、床の上に頽れる。
「…………ぁ、ありがとう、ございました」
さっきは上手く言えなかったお礼の言葉を、改めて口にする。
「あー、礼ならスレイプニルに言ってくれよ。スレイプニルが仲間が欲しいっつーから出してやったんだ」
「……仲間?」
この疑問に答えたのは、スレイプニルの方だった。
「そう。この地下牢から脱走する、そのための仲間」

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その①

近付いてくる足音に、目を覚ました。
兵隊が履いている重くて上質な軍靴のそれじゃない。科学者の革靴を引きずるようなくたびれたそれでもない。スーツ姿のDEM上層部の偉そうなそれでもない。
ぺたぺたと無警戒に鳴るそれは、例えるなら子どもが素足で歩き回るような……。
音はもう1種類。ごり、ごり、とコンクリートがむき出しになった施設の廊下を、何か硬くて重い金属塊でも引きずるような……。
ふと、一つの可能性に思い至り、足元を見る。
私の両脚の枷に鎖で繋がれた、鉄球の重り。もしかして、私と同じようにここに閉じ込められているモンストルムの子?
「……いや、あり得ないか」
そう呟き、首を横に振って希望めいた考えを打ち消す。その理由は、両手を戒め壁に固定している手枷にあった。両手両足を拘束されて、おまけに首にも鉄球付きの枷がはめられていて、独房には監視カメラと遠隔機銃があるから、脱走なんて考えたところでちょっとでもおかしな動きをしたらアウトだ。
足音が、私の独房の前で止まった。
「ここ、誰の部屋だ?」
「ベヒモス」
「へぇ。強いのか?」
「閉じ込めざるを得ない程度にはね」
分厚い金属扉1枚隔てた向こうで、男の子と女の子が話している声が聞こえる。今さっき否定したはずの希望が、再び頭の中に大きく広がっていく。
「っ、たすけて!」
殆ど無意識のうちに、掠れた声を振り絞って外の2人に助けを求めていた。馬鹿なことをした。撃たれてもおかしくないのに。
「……りょーかい。動くなよ?」
扉の向こうの男の子の声が答えた。直後、扉に放射状の亀裂が入り、砕け散った。

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CHILDish Monstrum:人造神話隊 その③

4人が怪物態に変化してからは、戦況は完全に一方的な蹂躙と言えた。ティンダロスの高速の突進に触れた傍から、インバーダたちは腐ったように崩壊していき、動くこともできないほど腐り落ちた残骸を、ビヤーキーとナイトゴーントが轢き潰すように仕留めていく。3体の怪物の突進から逃れた、あるいは致命傷を避けたインバーダも、遅れてついて来るディープワンが三叉槍で1体1体、確実に急所を貫き片付けていく。
4体の化け物は勢いが衰えることも無く只管驀進を続け、東の空が僅かに明らんできた頃、インバーダは数体の小さな個体を残して殆ど全滅していた。
「そろそろ人間どもの時間だな」
残っていたインバーダのうち1体を大鎌で殴り潰しながら、ナイトゴーントが言った。
「ギリギリ間に合ったって感じだね。流石だよみんな」
人型に戻りながら、ディープワンが反応する。
「それじゃ、誰かに見られる前にさっさと帰るか。ほらみんな、私の背中に乗って」
人型に戻ったビヤーキーに言われ、ディープワンとナイトゴーントはすぐにそれに応じた。
最後まで残っていたインバーダを全て蹴散らした後、ティンダロスも遅れてビヤーキーの背中に飛び乗り、4人が飛び立ったのは、日光が戦場跡に届いたのとほぼ同時だった。

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人間ではないらしい

放課後、部室として使っている3年A組の教室に入ると、既にそのクラスの人は全員いなくなっていて、代わりに部長が机に座ってスマホをいじりながら、紙パックのカフェオレを飲んでいた。
「こんにちは、部長。先生は?」
「何か用事でしばらく遅れるんだってよ」
「そうですか」
適当な机を借りて荷物を置き、椅子に腰かける。
部長はこちらに目もくれず、スマホを触るのに夢中になっている。ゲームでもしているんだろうか。
それより、先生がしばらく来ないというのなら、都合が良い。仕掛けるなら、今しか無い。
「部長」
「なに?」
「これはクラスの子から聞いた噂話なんですが」
「うん」
部長がこちらに顔を向ける。
「部長が人間じゃないって本当ですか?」
部長の動きが止まった。ゆっくりと机から下り、手近な椅子に腰かけ、姿勢を正してこちらに向き直った。
「その質問に正確に答えるためには、ちょっと言葉の意味をきちんと擦り合わせておかないとだね。そうだな、何をもって人間とすべきか……たとえば人権があることを人間の定義とした場合、天皇さまは人間じゃないことになる。ならば生物学的特徴を条件とすべきか。そうだな、たとえば人間の肉体を完全に模倣して現世に降臨した神が存在したと仮定しよう。彼は人間か? ……まあ、これも議論の余地はあるんだろうけど」
部長はまるで、何かをはぐらかそうとしているかのように長々と話している。
「……まあ、うん。そうだね、何と言ったものか……。……いやまあ、従うルールによっては人間だと言い張っても良いんだけど…………あぁー……うん。私は人間じゃあないよ」
噂は本当だったようだ。

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CHILDish Monstrum:アウトロウ・レプタイルス その⑤

ミズチの雄姿を見届け、サラマンダーはラムトンとククルカンの下に引き返した。
「くーちゃん、ラムちゃんの様子はどう?」
「ん、サラちゃん隊長。ぜんぜんだめー。あのビームでちょっと蒸発してる」
「そっかー。じゃあみーちゃんが戻ってくるまで待とうか」
「んー。……ねえラムちゃん、土に還る気無い?」
「無い」
駄弁る3人の背後で、倒れていたインバーダが突然爆散した。
思わず3人が振り返ると、燃えるインバーダの残骸から、ミズチがほくほく顔で這い上がってきた。その両手には何かを抱えている。
「はいタイマーストップ」
そう言いながら首にかけたストップウォッチのボタンを押し、画面を確認する。
「3分18秒……30m未満級だとまだ遅いなー。最初っから“怪物態”で行けばよかったかなー」
頭を掻き、抱えていたものを地面に置いた。
「今回は可食部がちょっと少なかったけど、頑張って削ぎ落としたよー。軽く味見した感じ、思ったより甘くて柔らかくて生でも美味しかったから、雑に炙ってたたきにしました。さあ食えラムちゃん」
言いながら、インバーダの外皮を加工した皿に乗った肉片の一つをラムトンの口に押し付ける。
「どうよ?」
「…………」
「美味しい?」
「…………」
「おーい?」
「…………、咀嚼中に声を掛けるな馬鹿」
「あー……それもそっか。で、どうだった?」
「もっとあっさりした味付けを所望」
「オーケー。次は調味料も色々持ってこよう」
戦場跡に、武装車両の駆動音が近付いてくる。
「お、後始末の軍隊が来たな。そろそろ撤退だ。ラムちゃんの身体はくっついた?」
サラマンダーに尋ねられ、ラムトンは自分の身体を見下ろしてから首を横に振った。
「いや、動かせるレベルでは付いてない。表面だけなら繋がった」
「分かった。くーちゃん、お願いできる?」
「まかせろー!」
ククルカンが地面を軽く叩くと、4人のいた場所が僅かに持ち上がり、彼らを乗せてスライドするようにその場を離れた。

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CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 1

「こんちゃーっす!」
とある地方都市、クララドルの中心部の路地裏にある駄菓子屋に、バタバタと短髪で赤いパーカーを着たコドモがやって来る。
それに続いて色違いでお揃いのパーカーを着た4人のコドモと、1人の男が店内に入って来た。
「おばちゃん元気かー?」
「こんにちはー」
「こ、こんにちは」
5人のコドモの内4人は思い思いに店の店主に声をかけながら、店内の品物を眺め始める。
それに対し背広を着た大人の男はその様子を店の入り口で鋭い目で見つめていた。
「あ、これ新商品だー」
「ど、れ、に、し、よ、う、か、な〜」
コドモたちがどの駄菓子を買うか迷っている中、茶色いパーカーを着て髪を二つ結びにしたコドモがふとあることに気付く。
「ゲーリュオーン?」
二つ結びのコドモが、店に入った所で突っ立っている黄土色のパーカーを着て長い茶髪を高い位置で結わいたコドモにどうかしたの?と声をかける。
ゲーリュオーンと呼ばれたコドモは二つ結びのコドモに目を向けた。
「…別に」
ゲーリュオーンがそうそっぽを向くと、おうおう素っ気ないな〜とオレンジのパーカーを着た金髪のコドモがゲーリュオーンの肩に手を置く。
「ビィのことが気になるのか〜?」
金髪のコドモにそう絡まれたが、ゲーリュオーンは何でもないと自身の肩に置かれた手を払った。

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CHILDish Monstrum:水底に眠る悪夢 キャラクター紹介

・カナロア
性別:?  外見年齢:7~15  身長:可変
特殊能力:触れた『人間』に恐怖を与える触手を展開する
とある都市の地下隔離室に幽閉されているモンストルム。大規模決戦兵器として生み出されたものの、何故か人間に対して有害な能力が発現してしまい、地下深くに隔離された。本当にどうしようもない時は、タコ足の如き触手だけを地上に伸ばしてインバーダをボコボコにする。人間との区別は触手で捕まえた時に硬直するのが人間、振りほどこうと暴れるのがインバーダ、って感じ。
クトゥルーとは能力の性質が酷似していたためか、触手が融合し離れられなくなってしまった。そのためか彼我の境界も曖昧になっていて、一人称は二人合わせて『ぼく』。自分一人だけを指す機会は無い。渾名は「ロード」。

・クトゥルー
性別:?  外見年齢:7~15  身長:可変
特殊能力:触れた『人間』に狂気を与える触手を展開する
とある都市の地下隔離室に幽閉されているモンストルム。大規模決戦兵器として生み出されたものの、何故か人間に対して有害な能力が発現してしまい、地下深くに隔離された。本当にどうしようもない時は、タコ足の如き触手だけを地上に伸ばしてインバーダをボコボコにする。人間とインバーダの区別は、触手で捕まえた時に滅茶苦茶に暴れるのが人間、冷静に振りほどこうとするのがインバーダ、って感じ。
カナロアとは能力の性質が酷似していたためか、触手が融合し離れられなくなってしまった。そのためか彼我の境界も曖昧になっていて、一人称は二人合わせて『ぼく』。自分一人だけを指す機会は無い。渾名は「リトル」。

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CHILDish Monstrum:人造神話隊 その②

象よりも大きな身体と馬のそれに似た頭部を持つ、悍ましい鳥のようなインバーダの突進が、応戦していた最後の戦車を横転させ、行動不能に陥れた。
這う這うの体で脱出した戦車兵たちを、インバーダが見下ろす。その悍ましい姿に動けないでいる兵たちを食らおうとしたのか、インバーダは大きく口を開けた。その時だった。
「よくやったテメエら! テメエらはギリギリで持ち堪えた!」
威勢の良いティンダロスの声と共に、異形の怪物がインバーダに衝突し、弾き飛ばした。
小柄な競走馬ほどもあるその怪物は、危機を救いに現れたヒーローというにはあまりに冒涜的な外見をしていた。カラスでもなく、モグラでもなく、ハゲタカでもなく、アリでもなく、腐乱死体でもない、名状し難く見る者に恐怖を与える、邪悪な生物だった。
「ぷわんの力があったとはいえ、よく耐えた。もう逃げて良いぞ。死にたかねーだろ?」
怪物の背から下りたティンダロスに言われて、正気に戻った兵たちは慌ててその場から逃げ去った。
「ン、邪魔者は消えた?」
ディープワンが怪物の背中から下り、立ち上がろうとしていたインバーダの頭部に自動小銃を撃ち込み倒した。
「……上から見えた感じじゃ、あちらさんで2割くらいは削ってくれてたっぽいな」
怪物の陰から、コウモリのような翼を具え、手に大鎌を携えた顔の無い化け物が現れた。
「へー、思ったより頑張ってたっぽいな。そんなにデカくないのが幸いしたか?」
「馬鹿言え、数が狂ってンだろ。面倒だから朝までに終わらすぞ」
「はいはい。相変わらず厳しいタイムスケジュールだねェ、ヤキちゃんよォ」
笑いながら、ティンダロスも腐食した大柄な猟犬のような外見の怪物態に変身した。
「みんな頑張れー」
応援の言葉を述べ手を振るディープワンを、ティンダロスは呆れたように見返した。
「……お前もやるんだよ」
「ちぇー、ショウガナイ」
そうぼやき、ディープワンも半魚人のような外見の怪物態に変身した。

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CHILDish Monstrum:人造神話隊 その①

深夜、とある都市の上空約200mを、一つの影が高速で飛んでいた。
「ビャキたんもっと飛ばせぇー! いくら我が国のヘータイったって私らがいつまでも居なくて持つかよー」
「ちょっっっと待ったァティーちゃん! その言葉聞き捨てならないヨー⁉ 戦車も戦闘機もつよつよ最新鋭だぞー⁉」
「相手はインバーダだ! 私らがいなきゃ詰みだろーが!」
「わたしの信仰がインバーダごときに負けるとでもー⁉ それはわたしの力を疑うことだヨー⁉」
その影の上で騒ぐ二人のモンストルム、ディープワンとティンダロスを、飛行していたモンストルムの少女、ビヤーキーが諫める。
「うるさいよ、ぷわん。ティー。振り落とすよ?」
「ナンデわたしの名前を先に呼んだの⁉」
「ぷわんのほうが好きだから。あんまりうるさいと高度上げるよ?」
「ゴメンナサイ……。でも好きなのはウレシイ」
「ティーも落ち着け。ぷわんが大丈夫だって言ってんだぞ? 大丈夫に決まってるでしょ」
「がるる……」
唸るティンダロスの顎を、その後ろに控えていた少年のモンストルム、ナイトゴーントが掻き撫でた。
「許してやってくれよ、ビャキ。コイツは暴れたいのと人間が心配なのとが頭ン中でごちゃ混ぜになってトチ狂ってんだ。だから真っ直ぐ飛んでほしい。俺が死ぬ」
「……そんな心配するなぃヤキちゃんよ。もうすぐ着くよ」
ビヤーキーが地上を指差す。街灯の明かりに照らされて、無数の影が蠢いているのが見えた。

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CHILDish Monstrum:アウトロウ・レプタイルス その④

「はいよーいスタート。さくっとインバーダお料理たーいむあたぁーっく」
独り言を口にしながら、ミズチはインバーダに向かって行った。そのまま足元まで歩いていき、牛刀をインバーダの脚部に思い切り叩きつける。
「うっわ硬い。硬っっっったい! でもきみ、良い外皮してるねぇ! お皿にするね!」
牛刀を再び振り上げ、今度は切っ先を突き立てる。この攻撃は有効打となり、刃が数㎝、インバーダに突き刺さった。更に腰の左のホルスターから和包丁を抜き、その峰を牛刀の柄に叩きつけ、牛刀を更に深く刺し入れる。
そこまでされたことで、インバーダも反応した。単眼をミズチに向け、光線を発射する。
しかしその反撃は、ミズチの前に不意に現れたサラマンダーに反射され、無力化された。
「あ、サラ隊長。ヘルプに来てくれたの?」
「うん、みーちゃん」
続いてインバーダが2人を踏みつけようとしたが、サラマンダーが足裏に触れると、弾かれたようにインバーダの脚が跳ね上がり、勢いのままひっくり返ってしまった。
「今だ、みーちゃん!」
「だいじょぶ見えてる!」
ミズチが軽く跳び上がると同時に、彼女の姿は巨大な一角の龍の姿に変わった。そしてインバーダの腹部に噛みつき、外皮を噛み砕き、体内に頭を突っ込み、再び人型に戻り体内に侵入した。

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常勝のダイヤ#4

風が室内練習場の窓を揺らし、あの大声援よりは小さく空気は震え、さっきまで差し込んでたオレンジの光も西に引きずられている。
パスン!!!!(もう何球投げた?)俺の頭の中で今日あの一球のように投げられたボールはだれもいないホームベースの上を飛んでネットを揺らす。一球投げるたびに後ろに高々と飛んでいく白球の気配がして目をつむる。
おrrrrreあ!!!!!!!!!!!!  パスっっっ!
最高球速148キロの自信のあるストレートを受けても、何もなかったかのように元の位置に戻るネット。まるで俺の無力感を突き付けられたように感じた。
「なにやってるんだ、俺は」常勝の大東参賀のエース。甲子園でも投げた。今までのものはなんだったんだ、、気づけば俺は思い切り振りかぶり、自分の前へ投げた。もう、視界はゆがんでいる。溢れるものが、足元の土を湿らせていく。
バシンっっっ!! (え、)
「ナイスボール。気持ち入ってんじゃん」 橋爪、、、、
不意に隣で音がしたカキンッ!!!
「まだまだ!甲子園行くんや!」田中、橋本、、、、
「小宮山、スライダーってどうやってなげてるん?教えてや!」垣間、、、
『おっしゃ、キャッチボールからやろか!!!』一人だったはずの場所にみんながいる。 そうだよな、、、
「キャップ!泣かないでくださいよ!俺たちも頑張りますんで!!」
みんな、ありがとな、、、!!!「声出してこうっ!!!!」『よぉし!!!』

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CHILDish Monstrum:アウトロウ・レプタイルス その③

「今日は誰がやる? 私はこの間やったし、みーちゃんで良いかな?」
「え、良いの? たすかるー」
腰のホルダーから包丁を2本抜き、ミズチは弾んだ声で言った。
「おい待てェぃ女子共。リーダーの意向を聞い」
2人を諫めようとしたラムトンの言葉は、インバーダの放った光線によって、胸の高さで身体を両断されたことで中断された。
「あ」
「あ」
「……てから動けって言おうとしたんだよ」
分断されたラムトンの上半身が、構わず言葉を続ける。
「で、どうすンだよリーダー」
ラムトンに問いかけられ、サラマンダーは即答した。
「うん、みーちゃんに任せようと思う。それが一番手っ取り早いしね」
「はいはいリョーカイ。それじゃ……」
ミズチはインバーダに向けて歩き出しながら、首にかけたストップウォッチをスタートさせた。
「……よし、みーちゃんはスイッチ入ったね。おれはみーちゃんの援護に向かうから、くーちゃんは……」
サラマンダーがククルカンに目を向けると、ラムトンの下半身を引きずり、傷口同士を宛がおうとしているところだった。
「……うん、言わなくても分かってるみたいだ」
サラマンダーは苦笑し、インバーダに向けてクラウチングスタートの姿勢を取った。

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CHILDish Monstrum:水底に眠る悪夢

「おはよう、“ロード”」
能力によって展開された触手で埋め尽くされた狭い地下空間。その奥底で1人のモンストルム“クトゥルー”は相方に声を掛けた。
「おはよう、“リトル”」
触手に埋もれて眠っていたもう1人のモンストルム“カナロア”も目を覚まし、相方に挨拶を返した。
「今日の早起き対決はきみの勝ちか。これで何勝何敗だっけ?」
「10回より先はもう覚えてないよ」
「そっか」
2人の肉体は、能力によって各々の肉体から伸びる無数の触手が絡み合い、一つになっている。2人の意思は触手を通して音声言語を必要とせずに共有できるのだが、それでも敢えて、口に出してのコミュニケーションを意識していた。
2人が幽閉されている地下空間には、既に数年もの間、IMS職員も訪れていない。ただ定期的に、給餌用の小さな扉を通して食料と水が届けられる、それだけが外界との繋がりである2人にとって、発話を介するコミュニケーションは人間性を失いただの化け物に成り果てないためにも必要な行為だった。
「………………」
クトゥルーは数十m先に地表があるであろう天井を見上げ、触手を通してカナロアに意思を飛ばした。
(“ロード”、今日は何だか上が煩いね?)
(そうだね。ここに来てから初めてくらいの五月蝿さだ)
(もしかしたら、出番があるかもしれないね)
(そうだね)
2人が念話をしていると、天井がスライドし、金属製の格子と遥か上方に僅かに見える外の光が現れた。
「やっぱり『ぼく』の出番だ」
「うん。『ぼく』の力が必要なんだろうね」
無為に地下空間を埋め尽くしていた無数の触手が、整然とした動きで解かれ、格子の隙間から地上へと向けて高速で伸長していく。
「「平伏せ。『我』は水底の神なるぞ」」
完全に重なった二人の言葉の直後、無数の触手が地上に出現し、交戦していたインバーダ、IMS、モンストルム、それら全てを隙間ない奔流で飲み込み、叩き潰した。
「思ったより数があったね」
「うん。一応人間は潰さないようにしたけど……もしかしたら『ぼく』以外のモンストルムが戦場にいたかもしれない」
「別に良いよ。モンストルムならこの程度で死ぬわけが無い。これで死ぬならどの道インバーダには勝てないよ」
「そうだね」
天井が再び閉まり、2人は触手の中で眠りに就いた。

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CHILDish Monstrum:アウトロウ・レプタイルス その②

先んじて飛び出したククルカンの身体にあとの2人が掴まった状態で、ククルカンは愛用の武器を展開した。折り畳んだ状態では1m弱の長さでありながら、展開することで3m強の長さにまでなる長槍。
それを、自身の真横を下から上へ流れる高層ビルの壁に突き刺すと、ビルの表面が粘土のようにぐにゃりと変形し、3人を優しく包み込んで受け止めた。そのまま、エレベーターのように地面まで下りていく。
「はいとうちゃーく。みんな私に感謝して?」
「はいはい」
「してるしてる」
ククルカンより年上に見える少女のモンストルム、蛟(ミズチ)と、幼さの消えつつある少年姿のモンストルム、ラムトン=ワームは適当に返した。
「我らがリーダーはまだ来ねえのか……っと」
ラムトンが2歩、右に避ける。すると先ほどまでラムトンが居た場所に、少年のモンストルム、サラマンダーが音も無く着地した。
「サラちゃん隊長! サラちゃんは私に感謝しなくて良いよー」
「あーうん。くーちゃん2人を運んでくれてありがとう」
「あれー感謝のことばぁー?」
照れながら身体をくねらせるククルカンを無視して、サラマンダーは大型インバーダを見上げた。
「……いやしかし、デカいな」
「ここまでだとたしかに、モンストルムの出番だよなァ……」
半ば唖然としているサラマンダー、ラムトンに反して、ククルカンとミズチは既に武器を取り交戦する気満々という様子だった。

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視える世界を超えて エピソード4:殺意 その②

種枚さんに連れられて市民センターへと向かい、ロビーに設置されていたベンチに腰掛ける。彼女は自分の目の前に立ち、摘んでいたハエを手放した。ハエはしばらく彼女の手の上を這い回ってから、飛び上がった。
十数㎝ほど上昇したのを見てから、種枚さんはハエを鋭く睨んだ。すると、突然ハエが、電源が切れたかのように動きを止め落下した。
「一体何を……⁉」
「ん? そうだな。殺意を向けられればストレス感じるし、ストレスを感じれば体調悪くなるだろ?」
「まあ、そりゃそうですけど……」
実際、彼女の殺意はそれだけで人を殺せそうな凶悪さをしているけれども……。
「それ」
「?」
「殺意を練り上げて、ぶつける。かわいそうだけど今のハエには死んでもらったよ」
「ええ……」
「慣れれば攻撃に乗せることもできる」
「どういうことなんですか……」
この問いには答えず、真横に向けて指を差した。そちらを見ると、センターの奥に小さな人影が見える。よく見てみれば、足下が透けている。
「あそこに小さな幽霊が見えるね?」
「見えますね」
「あれを、こう」
幽霊に向けて、種枚さんが無造作に手を振る。すると幽霊がこちらに気付いたのか、振り向いてこちらに向けて近付いてきた。

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CHILDish Monstrum:アウトロウ・レプタイルス その①

体高約25m。生物とも機械とも取れない奇妙な外見のインバーダの周囲を、様子見するように1台の戦闘用ヘリコプターが飛び回っていた。
「もっと寄せて! もうちょい! そっちのビルの方!」
少女の姿をしたモンストルム、ククルカンがパイロットの背後から組み付くようにしながら呼びかけた。
「3めーとる! 3めーとるくらいの位置まで近付いてくれれば良いから!」
「精一杯やっています! ただ、あまり近付くと奴の攻撃が……!」
パイロットが言ったその時、インバーダがヘリに顔を向け、その中央にはまった眼から光線を発射した。しかし、その光線はヘリの底部に触れた瞬間、反射して空中に飛び去って行く。
「ほら、どうせアイツが何してきてもサラちゃんが何とかしてくれるんだから! もっと近付いて! ちーかーづーいーてー!」
耳元で甲高い声で何度も言われ、パイロットは渋い顔をしながらもヘリを操作し、1棟の高層ビルに、僅かに機体を寄せた。
「よぉーしゴクロウ! あとは私らに任せてさっさと逃げちゃってよ」
「ああ……頼むぞ、〈アウトロウ・レプタイルス〉。君たちは我々にとって、最後の希望だ」
振り絞るように言うパイロットにサムズアップで応え、ククルカンは同乗していたもう2人の仲間と共にヘリから勢い良く飛び出した。

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CHILDish Monstrum 〈設定〉

この書き込みは企画「CHILDish Monstrum」の〈設定〉です。

・モンストルム Monstrum
人類の敵“インバーダ”に対抗するために開発された決戦兵器。
ヒトのコドモとほぼ変わらない容姿・人格・精神を持つが、伝説上の生物・妖怪にちなんだ名と特殊能力、“怪物態”を持つ。
基本不老だが致命傷を負えば死にかねない。
軍事転用を防ぐために量産型ではなくワンオフであり、全ての個体がバイオテクノロジー大手企業の“DEM(デウスエクスマキナ/デム)社”によって開発される。
各都市圏に数体ずつ、中心都市の役所の“インバーダ対策課”に配備される。
基本的に“インバーダ対策課”の指示によってのみ出撃し、普段の行動も制限されていることが多い。
戦闘時は刀剣類や銃器などの武器を携行する。
適度な食事と睡眠、それと定期的な“メンテナンス”がなければベストコンディションを保てない。
各個体の意思で巨大な“怪物態”に変身することが可能。
しかし“怪物態”の恐ろしさやコドモのような人格を持つが故の不安定な精神などから暴走する危険があり、そういった面から彼らを恐れる人々も少なくはない。

・インバーダ Invader
異界からやって来る人類の敵。
人間大から高層ビルに匹敵する大きさまで様々なサイズのものが存在するが、総じて恐ろしい姿をしている。
種類によって違う方法で攻撃する。
知能があるかどうかはハッキリしていない。
比較的小さめな個体は通常兵器で対応可能だが、大型個体はモンストルムでなければ対処できない。

・インバーダ対策課 Invader Measuring Section
各都市圏におけるインバーダ対策の要。
各都市圏の中心都市の役所に設置される。
主な仕事はモンストルムの管理や出撃時の援護。
司令室や輸送用ビークル、ヘリコプター、各種武装を持っている。

設定は以上になります。
質問などあればレスください。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 年末のごあいさつ2023

どうも、テトモンよ永遠に!です。
2023年も終わりが目の前に迫って参りました。
という訳で年末のごあいさつ2023です。

今年は思ったより「ハブ ア ウィル」の物語が進まなかったなって思います。
去年は8エピソード分くらい投稿したんですけど、今年は約4エピソード分くらいしか投稿できませんでした。
まぁ去年から始めた「造物茶会シリーズ」の投稿もあったり、企画の開催もしたりと「ハブ ア ウィル」以外の投稿もよくしたのでこうなったのかな~と思います。
それでも初期の頃から書きたいと考えていた「15.」や「18.」の投稿をやっとできて良かったです。
また、ずっと出したいと思っていた「ヴァンピレス」をやっと登場させることができました。
彼女についてはまだまだ謎だらけですが、多分来年の内に彼女について語ってあげられると思います。
お楽しみに。

さて、今回のごあいさつはここまで…と言いたい所ですが、最近気になることがあるのでもう少し。
ここの所、ぼくの作品につくスタンプの数が前より増えているんですけど、皆さん「ハブ ア ウィル」はどこから読んでいるのでしょうか?
良かったらレスで教えて欲しいですね。
多分最近読み始めた人が多いと思うんですけど…
でも初期のエピソードを読んでないと理解できない部分もあると思うので、最近読み始めた人はぜひまとめから初期のエピソードを読んでいただきたいものですね(宣伝)!

では、今回はこの辺で。
来年は元日から投稿し始める予定です!
また、新年明けてすぐに既に投稿した「企画アンケート」で1位になった企画を開催します!
「造物茶会シリーズ」もまだまだ展開していきますよ~
そういう訳で、テトモンよ永遠に!でした。
皆さん良いお年を~

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視える世界を超えて 番外編:愛娘

「よォ、馬鹿息子」
高校からの帰り、校門を出た鎌鼬の背に、種枚から声がかけられた。
「ぐ……だからその呼び方やめてって……うわっ」
鎌鼬がそちらに目をやると、種枚が足の甲を街灯に引っかけ、逆さにぶら下がっていた。
「なァ鎌鼬、携帯電話持ってないか? 貸してくれ」
街灯から飛び降りながら、種枚が話しかける。
「スマホッスか? 別に良いですけど……師匠、持ってないんスか?」
「残念ながらなー」
鎌鼬から放られたスマートフォンを危なげなく受け取り、種枚は電話番号をプッシュし始めた。
「で、誰に電話するんです?」
「お前の姉」
「いや俺一人っ子…………あぁー……『娘』ッスか」
「そういうこと」
ニタリと鎌鼬に笑いかけ、通話が繋がったために種枚はすぐそちらに集中し始めた。

それから約10分に及び、種枚は電話口の相手と楽しそうに会話を交わし、満足げな表情で通話を切った。
「助かったよ鎌鼬。あの子、元気そうだった」
そう言いながら種枚が放り投げたスマートフォンを、鎌鼬は一瞬取り落としそうになりながらも、どうにか受け止めた。
「もっと丁寧に扱ってほしかったなぁ……あ、そういえば」
「ん?」
「俺の……姉弟子? って人は、どういう人なんです?」
「たしか今中2くらいだったっけかな?」
「俺より年下」
「あの子はねぇ、『河童』を喰った子だよ」
「かっぱ」
「ああ。お前なんかよりずっと上手く折り合ってる良い子だぜェ」
「子供どうしを比べて評価するもんじゃねッスよ」

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我流もの書きスタイル キャラクター編

前にぼくが作り出したキャラクターを「魅力的なキャラクター」と表現してもらったことがある。
魅力があるのか自分にはさっぱりだけど、普段どうやってキャラを作ってるかというと2パターンあるんだよね。

まず1つ目は「キャラデザインから作る」パターン。
正確にはキャラクターの姿が“降ってくる”んだけど、先にキャラクターの容姿を作ってから設定を詰めていく方法です。
自分が1番よく使ってきた方法で、物語の主要キャラはこうして生み出されることが多い(気がする)よ。

で、2つ目は「キャラ名から作る」パターン。
先にキャラ名を決めてからそれに合う容姿・設定を詰めていく方法です。
容姿を先に決める方法だと中々限界があるので、最近はこの方法を採用しがち。
ちなみにキャラ名は日本人の名字の場合、最近はGoogleの乱数生成ツールで最初の2文字まで決めた上、日本の名字がたくさん載っているサイトで事前に決めた2文字から始まる名字を抽出、そこからさらに「上から“乱数生成で出た数字”番目の名字」を選択…みたいな方法をとっている(めんどい)。
面白いけど中々容姿が思いつかないことがあるのが難点です。

最後に余談だけど、キャラクターを作る際はよほどのことがない限り容姿はしっかり設定するようにしている。
自分の中で物語を展開させる時に想像の中でアニメーションを作っているので、そうしないとかなり面倒なのよね。
そのために最近は自分の手でキャラデザインを起こすこともしている(下手だけど)。