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無能異能浪漫探訪⑮ オカルトマニアの種明かし

一般人の俺が、奇跡的に能力者集団に潜入できた。その感動を噛み締めていると、あの二人が俺を呼びつけてきた。そちらへ寄ると、部屋を出るようにとのこと。
それに従い彼女らについて外に出ると、目つきの悪い方が深刻そうに尋ねてきた。
「……見沼さん。降霊術を行った、と言いましたよね。あれ、本当のことなんですか?」
「……と、言いますと?」
思わず冷や汗が流れる。
「私と、こっちの宮嵜さん。所謂『霊感』みたいな能力を持ってるんですけどね」
何か察せた。
「私達の眼に、霊の類は映りませんでした。トモちゃんの反応も何か不自然だったし……何をしたんですか?」
……そうか、何も来ていなかったのか。つまり、『こっくりさんは成功した』わけか。
こみ上げる笑いを堪えきれず、肩が震える。
「……いや、そうか。何も来てなかったか。来てほしいなとは思ってたんだけどなぁ……」
「……? 何を言って……」
「こっくりさんの仕組みが科学的に説明できる、って話、知ってるか?」
2人組は首を横に振った。それなら説明してやるとしよう。
「まあ、簡単に言うとだな。参加者が本当にこっくりさんが来たと信じていれば、無意識の影響と肉体の反応とで勝手に硬貨が動くって話があるんだよ。つまるところ、信仰心は大事ってことだ」
「……私たちは何も来ていないことを知っていましたが」
「多数決じゃね? 2対5じゃ動く方に偏るんだろ」
目つきの悪い方は納得いかないようだったけど、それっきり質問してくることは無かった。
「……あ、そうだ」
目つきの悪い方じゃない方、たしかミヤザキだっけ。そいつが代わりに質問してきた。
「降霊術が失敗してたなら、本当の能力は何なんです?」
「え、そんなん持ってないけど」
「えっ」
「俺はただのオカルトマニアだよ。超能力集団なんて素敵なところに潜入したくて無茶したが……これは内緒な。君ら以外だとトム……じゃなかった、岩室弥彦しか知らないんで。俺はこっくりさんの達人ってテイでよろしく」
2人に頭を下げ、帰り支度をすることにした。

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無能異能浪漫探訪⑭ 

「コックリさんコックリさん。わたしたちのこと、怖い?」
モジヒナは不敬にもとんでもない質問を放ってきた。指の下の硬貨はしばらく動かなかったが、数秒経ってようやく、動き出した。
硬貨が進む方には、「いいえ」の文字が。しかし、道半ばで止まり、反対方向へ動き始めた。
そして、あと1,2㎜で「はい」の文字に硬貨の端が触れるってところで、また硬貨が止まり、鳥居に戻って動かなくなった。
「……強がりだね」
「強がってるね」
「意地張ってるね」
「誇り高いね」
「でもちっぽけなプライドだよ」
「簡単にへし折れるね」
モジヒナとモジミチルは何やら勝手に言い合っているが、こっくりさん相手に滅茶苦茶無礼だな……。呪われても知らないぞ。
「鳥居に……戻ってるね。じゃあ次の人どうぞー」
モジヒナが言うと、後はよくあるこっくりさんの流れになった。みんなでおっかなびっくりこっくりさんに質問しては、答えていただき、答えに盛り上がり、鳥居に戻っていただく。
大体全員2周くらいしてからそろそろお帰りいただこうという話になった。
こっくりさん、こっくりさん、どうぞお戻りください。
硬貨はしばらく鳥居から動かなかったものの、モジ兄妹(姉弟?)がもう一度唱えると、自然に「はい」まで動き、その後鳥居まで戻った。
「こっくりさん、こっくりさん、ありがとうございました。お離れください」
最後の呪文を唱えて指を放した。
「……以上、俺の降霊術でした。これが俺の『能力』です。お目汚し失礼いたしました」
深々と礼をしてから、用紙を回収。処理は家に帰ってからゆっくりやろう。
「やー、楽しかったよー。こっくりさんって本当に勝手に動くんだねぇ」
トモちゃんにもご満足いただけたようで何よりだ。
「私達は君を歓迎するよ。……えっと……?」
「そういや、トム以外には自己紹介が済んでなかったっけ。見沼依緒と申します。ミヌマとでもヨリオとでもイオとでも、好きなように呼んでもろて」
「おーけーイオ君。仲間入りおめでとう!」

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無能異能浪漫探訪⑬‐B 視えるから見えない

儀式が始まった。3度目の呼びかけで、効果が動き始める。ずっ、ずっ、って感じで、少しずつ動いている。
(……宮城さん)
彼女と目が合う。彼女は微かに首を横に振った。
(……つまり、霊の類は来てないってことか)
一応、こっちでも気にかけてはいるけど、あの双子が発する謎のオーラが邪魔で上手く判別できない。流石に神様を自称するだけはある。
あの不審者が質問を投げかけた。無くし物がどこかなんて、くだらない質問だ。
質問が終わって1秒くらい経って、指の下で硬貨が勝手に動き始めた。
(か、は、いや、カバン……の、そこ。底?)
こっくりさんは見事に答え、説教まで残していった。宮城さんに目をやると。泣きそうな顔でこちらを見ながら首を横に振っている。
念のためにトモちゃんの背後の腕たちを見てみるけど、ゆらゆらしているだけで硬貨には干渉していない。
(じゃあ、何が硬貨を動かしてるんだろう……?)
解答が終了し、硬貨はいつの間にか鳥居へ。
「はいはい! 次わたしがやる!」
硬貨に置いていない方の手を上げて名乗りを上げたのは、謎オーラの双子の片割れ、陽菜ちゃんだった。不審者が促したので、陽菜ちゃんは身を乗り出して質問を開始した。

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無能異能浪漫探訪⑪ 降霊準備、ヨシ!

「あ、いっすよ。さて、ご存じの通りこのやり口、一人じゃできないくせに部外者もいちゃいけないわけなんですが……協力してくれる方、いませんかね?」
「私たちは当然、参加しますが」
目つきの悪い方が言う。もう一人も力強く頷いている。まさかの同好の士か?
「私もやるー」
トモちゃんも乗ってくれた。
「トム、どうだ?」
弥彦氏に呼びかける。
「……あ、うん、やる」
彼がそう答えた直後、二人組が露骨に嫌そうな顔をしたけど、多分気のせいだよな?
「……俺は興味無い。1時間も席を外してりゃあ足りるか?」
怖い目つきの男性がそう言ってきたので肯定で答える。彼はそのまま出ていってしまった。
「それじゃあ……全部で5人。すぐ準備しますんで、少々お待ちください」
肩掛け鞄から、専用の紙を入れたクリアファイルを取り出す。
「え、何、その紙持ち歩いてんの……」
弥彦氏がやや引いた感じで訊いてくる。
「そりゃ勿論。呼ぶ手段も祓う手段も常に持ち歩くようにはしてんのよ」
「へぇ……」
床に直接用紙を置き、鳥居の絵の上に財布から取り出した10円玉を乗せる。偶然にも昭和44年製のやつだった。これは上手くいきそうだ。
「まあ、準備なんてこれっきりなんで。さ、10円玉に指を置いてください」
俺に続いて、二人組、トモちゃん、弥彦氏、双子が10円玉に指を置く。
「……ん?」
最後に指を置いた二人の方をもう一度見る。弥彦氏や2人組よりも更に幼い、ギリ小学生か中学1年生かってくらいの二人組。男女だけど結構似てるから多分双子。向こうも見返してくる。
「……誰?」
いや、そういえば靴の数と人数がこれまで合ってなかったな。こいつらが残りの二人か。

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無能異能浪漫探訪⑩ ハッタリ屋とコックリさん

弥彦氏に連れられ、例の部屋に入る。玄関には大小さまざまなサイズの靴が全部で6組。
「めっちゃいるじゃん……」
「いや、もう少し多い日もあるし、このくらいなら割と平均的な感じっすよ」
「マジか。結構デカい集まりだったりする?」
「そっすね」
「わーお」
弥彦氏に続いて居間に入る。家具が一つも無いのにはビビったが、それを無視すると最初に目に入ったのは、部屋の隅に腕を組んで立っている20代半ばくらいに見える男性だった。さっきのトモちゃんと違って、ストレートに怖い目つきでこっちを睨んできている。
周囲を見回すと、続いてさっきのトモちゃんを発見。隣の部屋であの女子二人組と何やら遊んでいる。
「どうも、新入り連れてきました」
弥彦氏がそう言って俺を指差した。最初に反応したのは、トモちゃんだった。
「あれー、さっきの人じゃん。新入り? でもその人って……」
「おっと、まさか俺の力を疑っているんですかい? そいつは心外だなァ」
トモちゃんの言葉を遮り、ハッタリを開始する。
「聞いて驚け。……俺には、降霊術ができる」
飽くまで自信満々に。すると意外や意外、反応したのはあの二人組だった。
「降霊術……?」
「それ、本当ですか?」
「お、おう勿論。みんなも名前くらいは知ってるでしょう、『コックリさん』ってんですがね」
あの二人が、警戒しながらもこっちにやって来た。
「やってみてください」
2人組のうち、目つきの悪い方がそう言った。

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無能異能浪漫探訪⑨ オカルトマニアの悪知恵

「なあ、その集まりに俺も仲間入りできないかなぁ。せっかく『そっち側』と接触できるチャンスなんだよ」
「んー……」
俺の提案に、弥彦氏は微妙な表情をした。
「あーっと、ヨリオ。何かその手の能力を持ってたりは……」
「するわけ無いだろ。俺ァパンピーやぞ」
「となると……ちょっ……と、難しいかもなぁ……」
「え、なんで」
「いや、俺を呼びに来たあの人、トモちゃんっていうんですけどね。あの人も例によって能力者なんすけど、あの人の能力が、『他人が能力者か分かる』ってものらしくて……」
「……?」
さっきそのトモちゃんと遭遇した時のことを思い出す。なんで能力者が判別できるだけで俺が階段から落ちるのを手も触れずに止められるんだ……?
「いや、今はそこはどうでも良いか」
「何が?」
「いや、気にしないでくれ。けどなぁ……そうかー……。能力者だって言い張ったら押し通せないか?」
「いや無理でしょ……あ、いやでもなぁ……」
「ん、何か可能性ある?」
「いや、仲間に俺の先輩がいるんすけど、その人の能力の都合上、その人、トモちゃんの能力に引っかからないみたいなんすよね」
「マジで? それ、俺にもワンチャン無い?」
「無いです。あの人はそういう能力ってだけなんで。そもそも、能力者であることを主張したところで、何もできないなら即バレするだけでしょ」
「いいや、そこは考えがある」

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無能異能浪漫探訪⑧ 本物見つけた

「いや実はな、ついさっき、君がこのアパートの3階までひょいと跳んでるところを目撃したんだけどな」
「げ、見られてたのか……。一応気を付けてたのにな」
トム君改め岩室弥彦氏は、しくじったとでも言いたそうな顔でそう呟いた。
「へへっ、これからはもう少し気を付けるんだな。……それで、ありゃ一体どんなメカニズムなんだ? どこにでもいるただのオカルトマニアにも分かるように説明頼む」
「ん……」
弥彦氏は、数秒考え込んでから口を開いた。
「あーっと、ヨリオ。超能力とかの類って、信じてたりします?」
「いや、信じるも何もあれは実在するべ。実際、君も謎ジャンプかましてたろ」
「お、おう。……まあ、言っちまえば超能力みたいなものなんすよ」
「なるほど理解した。じゃあ次の質問」
「まだあるのか……」
「オカルトマニアが『本物』に出会って、たった一度質問しただけで終わると思うなよ?」
「あっはい……」
「あの部屋、何なんだ? あの部屋に出入りする人間を君含め4人ほど見たが、同じ家に住む兄弟姉妹にしちゃあ、ちょっと似てないよな?」
「兄弟姉妹でも似てるとは限らないと思いますけど……まあ他人だけど。まあ、能力者の溜まり場みたいなもんっすね」
「マジで⁉」
思わず大声を上げ、弥彦氏に掴みかかる。
「マジだけど……耳痛え。あと手は放せ」
「ああごめん」

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無能異能浪漫探訪⑦

「何だ、能力関係の知り合いかー。ちょっと待ってて、すぐ呼んでくるね」
「あ、はい……」
彼女はまたあの部屋に戻って行った。どうやら危機を脱することができたようだ。その場に座り込み、大きく息を吐く。ああ緊張した。
さて、偶然見かけたあのシーンのお陰で信用を勝ち取れたわけだが、当然俺はあいつの事なんか知らない。呼んでもらったとして、どうしたものか……。
そう考えていると、またあの部屋の扉が開き、最初に目撃したあの少年が現れた。こっちに来たが、顔も知らない俺を見て不思議そうにしている。
「あのー……どこかで会いましたっけ?」
少年が声を潜めて尋ねてくる。
「いや、初対面。ちょっと危機的状況を脱するためにダシにしましたごめんなさい」
「あっはい。で、あんたは誰でどんな用事なんです?」
「あ、はい、えー、俺は見沼依緒。ミヌマとでもヨリオとでもイオとでも好きなように呼んでもろて」
「ん、よろしくっす。俺は岩室弥彦」
「あー……すまん。さっき出鱈目並べたせいで、俺は君のことをトムと呼ばなきゃ怪しまれるかもしれないんだ。ちょっと話を合わせてくれ、トム」
「何故トム……まあ了解」
いろいろあったが、どうにか接触には成功した。ようやく本題に入れそうだ。
「それで、用件なんだが……」

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無能異能浪漫探訪⑥ 足りない才能はハッタリで補う

「あ、ごめん」
上から奴が声をかけてくる。あんまり悪いと思っていなさそうな声だ。その口調のまま、奴は質問を続けた。
「それじゃあ何の御用?」
「えっ……と、ですねぇ……」
痛む身体をどうにか起こし、身体の状態を確認する。幸いにも目立つ怪我はしていないっぽい。
「……いやまあ、実を言うと俺が用があるのは、その人らじゃ無いんすよね」
「なるほど。じゃあ誰?」
俺と大して変わらない年齢だろうに、何故か異様に不気味な雰囲気を醸している。またあの身体が動かなくなる感覚だ。
「えっとですねェ……ほら、件の二人組と同年代くらいの男子がいるでしょ」
「んー? 名前で答えないんだね」
声は軽いのに、空気はどんどん重苦しくなる。呼吸も満足にできないレベルだ。まあたしかに、今の俺はただの不審人物だもんな……。
どうにか息を吐き出し、飽くまで余裕だぜって面をしてみせる。
「まあ落ち着いてくださいよ。俺もあいつとは人伝で知り合っただけなんで、そんな親しいわけじゃ無いんですって。あいつを紹介してきた奴が、ああ、そいつ市川って言うんすけど、そいつ、あれのことをあだ名でしか紹介してくれない適当な野郎でしてね……」
ここまで息もつかずに出鱈目を並べる。ちなみに市川なんて知り合いはいない。
「へえ、どんな?」
奴の鋭い反撃。さて、ここからが勝負だ。下手に名前を模したっぽいやつをあげても、奴の本名と関係無いやつを言ったりしたら嘘だってバレるもんな。手遅れかもしれないけど。
「ああ、あいつはトムって呼ばれてますよ」
「トム?」
「そう、トムソンガゼル略してトム。ほら、あいつの人並外れた謎移動。あれヤバいっすよね。縦にも横にもバグみたいに動くんだもんなァ」
横移動してるシーンは見たこと無いけど。しかし、このハッタリがどうやらプラスに働いたらしい。急に周囲の空気が正常な雰囲気に戻った。

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無能異能浪漫探訪⑤

あの二人組があの部屋に入ってから、数分が経過した。突撃しようとも考えたが、突っ込んだとしてどう話を切り出したものか、って話だしな……。
そんなことを考えていると、あの部屋の扉が開いた。思わず身を隠すように小さくなる。
出てきたのは、さっき入って行った二人組でも、最初に目撃した奴でも無い。そいつらより少し年上に見える女子だった。女子率高えな。
ここまで知らない奴ばかりとなると、陰キャな俺にはちと分が悪い。こっそりその場を離れて次の機会を伺おうと思っていると、出てきた奴と一瞬目が合ったような気がした。
気のせいだと自分に言い聞かせて逃げようとしたが、何故か身体が動かない。恐怖で足が竦んだ時の感覚がそれに近いが、なら俺は何に恐怖してるってんだ。
奴がこっちに近付いてくる。すごい笑顔で。何かすごい怖い。身体の重心を操作する以外の行動が全くとれない。奴との距離はもう2、3m程度しか無い。
(クッソ、こうなったら多少の怪我は必要経費だ)
重心を思いっきり後方に移動させる。こうなったら階段を転げ落ちてその勢いのまま逃げるしか無い。
作戦を実行に移す。しかし、予想に反して俺の身体は大きく傾いたにも拘らず、空中に上半身を投げ出したまま硬直してしまった。
「ッ……⁉ 何が起き」
「どうも、そこの人」
すぐ目の前まで接近していたあいつが、話しかけてきた。
「あー……どうも」
声をかけられたので、物理学的に不自然な姿勢のままこちらも挨拶を返す。
「うちの子たちの知り合いか何かですか?」
奴は引き続き話しかけてくる。うちの子?
「……えっとほら、あのー……私より少し年下くらいの女の子二人組」
なるほどあの二人組か。
「いえ、知らないっすけど……」
「そっかー……」
彼女がそう言うと、身体が自由になる感覚がした。
その結果、階段を転げ落ちる用意ができていた俺の身体は、本来の予定通りの動きをしたわけなんだが。

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ツギハギにアイを。

つけっ放しのラジオが午後6時を告げる。直後、あの子が部屋に入って来た。いつものことだ。
通学鞄をベッドに放り投げ、あの子はおもむろに裁ち鋏を取り出した。裁縫が好きなあの子にとってはよくあることだ。
そしてそのまま、ぼくの方へ歩いて来た。裁縫道具を持ったまま部屋の中を歩き回るのも、よくあることだ。
そして、ぼくを持ち上げた。ぼくはあの子のお気に入りだから、これもよくあることだ。
そしてあの子は裁ち鋏を開き、ぼくの首を勢い良く切り始めた。これは初めてのことだ。
あの子はぱっくり開いた傷口から新品の綿を詰め込み始めた。ぼくの解れを直してくれるのも、昔からよくあることだ。
すかすかになっていたぼくの中身を埋めたあの子は、ぼくの毛色にそっくりな茶色い糸で傷口を縫い付け、『いつもの場所』にぼくをそっと置いた。
そろそろ終われると思っていたのに、また「穢」を貰ってしまった。
元々のぼくはもう、毛皮の7割と目玉くらいしか残っていないけど、それでもぼくはあの子を見守り続けよう。あの子の「愛」で引き伸ばされた、終わりまでの数か月か数年か。ぼくには何もできないけれど、ただあの子のために捧げるつもりだ。

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無能異能浪漫探訪② 太陽は確実に存在する

ある日曜日の午後のこと。心霊スポットと噂されている近所の古いアパートに向かった時のことだった。
斥候気分で少し離れた位置から双眼鏡で監視していたその時、俺より少し年下くらいの、多分中学生くらいのガキが一人、アパートの前で立ち止まったんだ。何となくそいつを見ていると、そいつは周りを軽く見回してから、軽くジャンプした。
そいつはたしかに、ほんの軽―く跳び上がっただけだったんだ。そんなに膝を曲げていたわけでも無かったし。にもかかわらず、奴はあっという間に3階まで跳び上がり、通路に侵入してとある一室に入って行ってしまった。
あれはつまり、そういうことだよな? どんなに跳躍力がある人間でも、たったあれだけの予備動作で数mも跳び上がれるわけが無い。それこそ、神がかり的な何かがあの中学生に味方していたとしか考えられない。
これまで抱えていた朧げな信仰心が、ようやく明確なビジョンを取ったようだった。
速攻で双眼鏡を肩かけ鞄に仕舞う。せっかく見つけた『そっち側の世界』の手がかりだ。逃がしてなんてやるもんか。
勿論全力移動でその古アパートへ。奴の入った部屋は把握しているし、ロクなセキュリティも無いから、階段を駆け上がればその部屋まで楽に突撃できる。
足音を忍ばせつつも可能な限り素早く3階まで駆け上がり、通路に飛び出そうとして咄嗟に物陰に身を隠した。例の部屋の前にさっきの奴と同年代くらいの女子が二人、屯しているのが見えたからだ。
同じ部屋が目的地っぽいし、奴らもあの中学生の関係者か? となると、奴らからも何か情報が得られるかもしれない。せっかくだし、接触してみるか。

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世界観だけ垂れ流すの3番目くらい

・機甲
全身を覆う鎧の形状の武具。
標準機能として、関節部の動作補助による身体能力の強化とボイスチェンジャーがある。顔を覆う部分は周囲の環境や装備者の状態の分析結果を表示するモニタも兼ねている。
待機状態では宝飾品のような形状。魔力を流し込むことで、一瞬で全身鎧型に変形する。
全身鎧型でバランスの良い機甲、急所部分などを限定的に守る部分鎧型で特殊効果に特化したファッション性重視の軽機甲、最低でも身長3m以上の大型で、機動力が低い代わりに火力と防御力に優れる重機甲の3種に分類される。
後述する機装以外の装備品は装備できないという欠点があるものの、機甲単体でも十分な戦闘力を得られ、力の弱い種族でも前衛ができるため、そういった種族を中心に一定の人気がある。稀に、顔を隠したい訳アリやロマン追求型の冒険者が利用していることもある。
・機装
機甲での戦闘を補助する各種装備品。
待機状態では宝飾品のような形状。魔力を流し込むことで、一瞬で各種武具に変形する。
籠手や脚甲型のものや、武器や盾状のものなど、様々な形状のものがあり、全ての機装は内部機構を起動させることで特殊効果を発動できる。
複数同時に使用することも可能。ただし、あまりに多くの機装の行使に意識を割かれると結果的にパフォーマンスが下がるため、同時使用は多くても3つ程度が推奨される。慣れれば4つでも5つでも好きなだけ同時に使ってもろて。

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人類のことが『大』がつくほど好きな第16創世神

「やあ。ようやく起きたね、かわいそうな人」
テーブルについていた陰気な彼女は、行儀悪く両足を椅子に上げ膝を抱え、今さっき目覚めたばかりの俺を尊大に見下ろしていた。その顔には気味の悪い薄ら笑いを貼り付けている。
「……何だい、ぽかんとして。まるで、起きる前の記憶なんてこれっぽっちも残っていないって感じじゃあないか。……まあかわいそうな人、君の場合は、そっちの方が幸せだったかもしれないし、まあ良いか」
彼女はそう言って俺から目を離し、両手の中でころころと弄んでいたサイコロを振り始めた。様子をしばらく見ていると、7回か8回ほど転がしたところで動きが止まり、さっきより更に不気味なにたにた笑いを浮かべてこちらに振り向いた。
「可愛い可愛いかわいそうな人、ようやく準備ができたよ」
準備? 何のことだろう。
「え? そりゃ君、君が世界を救う準備さね。……ほら、ぽかんとしてるんじゃないよ。準備ができちゃった以上、もう時間は無いんだから」
その言葉とほぼ同時に、足下から発生した光の柱が、俺を包み込んだ。
「ああ残念。もう時間切れか。いつもはもうちょっと会話を楽しめるんだけどね。まあ、こういうのもアリだよね。今回は『王道をブチ外れて往く』がコンセプトなわけだし。ほれ、さっさと行っておいで、愛しい愛しいかわいそうな人。忘れるなよ、神はいついつでも、お前ら人類を心の底から愛しているんだ」
そんな言葉を聞きながら、俺の意識は光に溶けていった。

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異分子幻肢 その②

「……どうしましたか?」
宮城さんの反応的に、やっぱり気付いていないみたいだ。
「あの、オバケが近くにいるかもしれないので、危ないです」
私の言葉を聞いて、宮城さんもすぐに周囲を警戒し始めた。
「へぇ……? 私には全く分かりませんでした。どこにいるかは分かりますか?」
「いや、そこまでは……、でも、近くにいるはずです」
けれど、何も見えないし、何の気配も感じられない。もしかして、あの感覚はオバケとは無関係?
「……宮嵜さん」
不意に、宮城さんが重々しく口を開いた。
「何でしょう」
「今、何時ですか」
「えっと……」
手首を見てみるけど、そもそも腕時計をつける癖が無いので分からない。
「今の正確な時間は分からないけど……たしか、家を出た時は7時過ぎだったと思うので、15分か20分かそこらですかね?」
そう答えて、宮城さんに目を向ける。宮城さんは何かに怯えているようだった。
「宮城さん、もしかして、何か見えてますか?」
「いえ、おかしなものは何も。……でも、この時間帯って、こんなに静かなんですか?」
そう言われてみると、たしかにいくら休日の朝とはいえ、何の音もしないのは少し不気味だ。
それに気付いた瞬間、そこら中に嫌な気配が、何というか『生えてきた』。それらはすぐに、ある形をとる。
「宮城さん、見えてますか?」
「はい、たしかに。そこら中に何か腕みたいなものが生えてきていますね。近寄るのはマズいでしょうね」
宮城さんは腕を避けるように移動し、近くの塀に寄りかかった。
「これ、何が起きてるんでしょうか……」
そう呟く宮城さんに、塀の向こうから伸びてきた腕が迫っていた。
「宮城さんッ! 早くこっちに!」
彼女も気付いたようで、すぐにこっちに戻ってきた。
「何なんですかあの腕……まともに動けませんね……」
宮城さんが吐き捨てる。
「えっと、私の家が近いんで、一度避難しましょう」
「む、了解です」
宮城さんの手を引いて、とりあえず我が家に向かった。

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異分子幻肢 その①

前回、あの溜まり場に行ってから3日が経った。このところ眠る度に毎日、夢に化け物が出てくる。あの時遭遇したのとはまた別の、見たことも無い化け物が。夢は自分の記憶が元になって作り出されているとはいうけれど、私の記憶や想像力から生み出されたとは思えない、奇妙な姿のものばかりだ。あまりにはっきりと記憶に残るものだから、目を覚ます度に夢日記の要領で化け物たちをスケッチしているけれど、どれもこれも正気とは思えない見た目をしている。私はおかしくなってしまったのだろうか。
新鮮な空気を吸って落ち着こうと、ベランダに出る。ふと下の方に目をやると、家の前の道を宮城さんが歩いていた。我が家の前を素通りした辺り、私を訪ねてきたってわけでも無さそう。
急いで寝間着を着替え、家を出る。宮城さんはまだ家の近くをうろついていた。
「宮城さん宮城さん!」
呼びかけると、宮城さんは少し間抜けた顔で振り向いた。
「宮嵜さん……? さっきあっちの方に行きませんでした? それを追ってきたんですが」
「いや、今起きたばっかりですけど。私のドッペルゲンガーでも見ましたか?」
「かもです」
「恐怖体験じゃないですか……」
「それより宮嵜さん、何故ここに?」
「私の家、この近くですもん」
「あー……そういえば見覚えありますね。千葉さんがいた時の。……まあ、まだ朝早いし、私は帰りますね」
宮城さんは小さく一礼し、道を表の通りに向けて引き返し始めた。
それと同時に、全身に走る悪寒。オバケと出会ったときの感覚だ。咄嗟に宮城さんを見るけど、彼女に反応は無い。
「宮城さんッ!」
どこにオバケがいるかも分からない今の状態でそれは危険だ。急いで宮城さんを追いかけ、その腕を掴んだ。

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視えるモノ その⑤

部屋の中を探しても、宮城さんは見つからなかった。代わりに、彼女の靴が既に玄関に無いことを発見した。
部屋を出てみると、宮城さんはすぐそこで待っていた。
「ども、宮嵜さん。帰りご一緒させてください」
「あっはい」
何だか覚えのあるやり取りを交わし、雑談しながら帰途につく。
「……あの、宮嵜さん」
世間話の中、唐突に真剣な声で宮城さんが私の名前を呼んだ。
「何ですか、宮城さん」
「宮嵜さんの能力について、一つ考えたことがあるんです」
「はい」
「たとえば、宮嵜さんには扉の肉塊が見えませんでしたね」
「まあ、そうですね」
「でも、部屋の中にいたあの人影は見えてた」
「……? あ、あれか」
そういえばそんなのもいたっけ。ほとんど忘れていた。
「私の『眼』で見た限り、あの人影は相当の悪霊だったんですよね。見えないフリしなきゃ詰みでした」
「扉の奴は?」
「ただそこにいるだけの、只管気持ち悪いやつです。生理的に無理ってやつです」
「それで、宮城さんの考えとは?」
「はい、もしかして、相手の危険度によるんじゃないかと。ヤバい奴だけ見えるみたいな」
「ふーむ……あ、そういえば、宮城さんに似たオバケに会った時の話なんですけど」
あの日の柴犬の話をする。謎の獣のオーラ、柴とは思えない吠え声、オバケを退散させたことまで。
「ふーむ? それなら、危険度というよりはその純粋な強さといった方が良いんでしょうか?」
「どうなんでしょ……可能性の一つとして頭に入れときましょう」