表示件数
0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 6

ビーストが出現した場所から1kmほどの場所にある小学校にて。
ビーストの急襲により小学校は多くの人が集まる避難所となっていた。
「少年」
体育館と体育館の裏手を繋ぐ出入り口に座り込む少年に、青緑色の髪の少女は体育館の外壁にもたれながら話しかける。
「そんな顔してどうしたんだい?」
もしや同級生のドーリィを心配しているのかい?と青緑色の髪の少女は微笑む。少年はちらと彼女の方を見て、それはそうだけどと答える。
「…あなたのことを考えてたんです」
あなたがなぜぼくに絡んでくるのか、と少年は続ける。青緑色の髪の少女は目をぱちくりさせる。
「それって」
青緑色の髪の少女はそう言いかけるが、少年は遮るように続ける。
「最初は偶然だと思ったんです」
あなたが何かとぼくの前に現れるのは、と少年は淡々と言う。
「でも喰田(しょくだ)さんが…リコリスのマスターが“あの人はドーリィだ”って言ってきて、気付いたんです」
あなたがぼくの前に現れる理由が、と少年は青緑色の髪の少女を見上げる。青緑色の髪の少女は気まずそうな顔をしていた。
「…ぼくは、“あなたと契約できる資格のある人間”なんでしょ」
少年が静かに尋ねると、青緑色の髪の少女の目が泳いでいた。
「…そ、それはね、少年」
「ごまかさないでください」
あなたにとって、ぼくは“適正のある人間”なんですよね?と少年は立ち上がる。青緑色の髪の少女はうぐぐ…とたじろぐ。
「もう嘘はつかないでください」
全部バレてるんですよ、と少年は青緑色の髪の少女に詰め寄る。
「なんで黙ってたんですか」
言ってもよかったのに、と少年は呟く。青緑色の髪の少女は俯いたまま暫く黙っていたが、やがてため息をついた。
「…嫌だったんだ」
青緑色の髪の少女はそう言って地面に座り込む。
「“大事な人”を失うのが」
彼女はポツリとこぼした。少年は黙ってその様子を見つめる。
「…僕には、半年くらい前までマスターがいたんだ」
君より少し年上くらいのね、と青緑色の髪の少女は付け足す。
「彼女はビーストのせいで身寄りを失って、独りぼっちだったんだ」
そんな所に僕が現れた、と青緑色の髪の少女は続ける。

0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 キャラクター紹介

・アリー
モチーフ:Allium fistulosum(ナガネギ)
身長:149㎝  紋様の位置:右の手の甲  紋様の意匠:ネギ坊主
ブロンドヘアをツインテールにまとめた、やや幼い外見のドーリィ。本作開始時点では誰とも契約していなかった。
固有武器はフィスタロッサム(先端が二股に分かれた片手杖。中が空洞になっており、振ることで音を鳴らすことができる管楽器としても使える)。フィスタロッサムの演奏によって万物の「魂」を震わせ、曲目に応じた変化を発生させる。音色の届く範囲であればすべて射程圏内でありすべて対象内。回避方法は音楽に『ノる』こと。好みに合わなかった場合は防御不可の攻撃を食らうことになる。対象に音楽を解する知能が無かった場合(たとえば無生物には魂はあっても知能がないので確定で命中)は必中です。
ちなみに自称が「アリウム」じゃないのは名前感が薄くて可愛くないから。縮めたことでより人名っぽく、可愛らしくなったので気に入っている。


・ケーパ
年齢:18歳  性別:男  身長:170㎝
アリーの飼い主というか何というかなあれ。本作開始時点では約8か月も半同棲状態にあったにも拘わらず別にアリーと契約していたりしているわけでは無かった。好きなものは料理と音楽。DEXが低いのでクオリティは何とも言えない(悪いわけでは無い)。アリーの音楽性と奇跡的なレベルで高い親和性を持っており、如何なる状況でどのジャンルが奏でられようと問題無くノれる。ただの節操無しともいう。
ちなみに住所は辛うじて街の外。今は亡き両親が建てた家だけど今回ビーストに壊されてしまった。父親はビーストと無関係の事故死、母親は病死というちょっとコメントしにくい過去を抱えてはいるけれど、今日も元気に生きています。
Q,なんで頑なに「フィスタ」呼びしてたの?
A,『ソード・ワールド2.0』ってゲームがあってぇ…
 〈フィスタロッサム〉っていう武器としても使える楽器があってぇ…
 見た目が完全にネギでぇ…
 魔動機文明時代(SFな時代)のとある女性吟遊詩人が使った楽器の模造品でぇ…
 要するにTRPG楽しいよって話です。
 けーちゃん視点でいうと多分最初に「Allium fistulosum」って名乗られたんだと思う。

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 5

だがゼフィランサスが走りながら自身の周囲に緑の短槍をいくつも生成して、ビーストに向かって放つ。槍はビーストの頭部に次々と突き刺さり、ビーストは思わず悲鳴を上げて体勢を崩した。
「よし、このまま…」
ゼフィランサスはそう呟いて右手に槍を生成するが、ビーストは突然口から赤い火球を吐いた。
「⁈」
ゼフィランサスは驚きのあまり動けなくなってしまう。しかしそこへ赤髪をツインテールにした少女が両手に赤い刀を携えて飛び込む。
そして彼女は刀で火球を切り捨てた。
「リコリス‼︎」
ゼフィランサスが思わず名前を呼ぶと、リコリスは貴女、と振り向く。
「ビーストを前にして動けなくなるなんて全然ダメじゃない」
もっと攻めていかないと、とリコリスはゼフィランサスに詰め寄る。ゼフィランサスはご、ごめん…と申し訳なさそうにした。
「ま、いいですわ」
ここからはアテクシに任せなさいとリコリスは後ろを見る。しかしビーストは既にそこにいなかった。
「あ、あれ⁇」
ビーストは…?とリコリスは思わずポカンとする。ゼフィランサスも慌てて周囲を見回す。周りには人気のなくなった街が広がっており、先程まで光壁を張っていたアガパンサスの姿も見えない。
『リコリス、ゼフィランサス‼︎』
するとここで2人の頭の中に響くように声が聞こえた。アガパンサスからのテレパシーだ。
「どうしましたのアガパンサス」
『さっきビーストが移動し始めたから追いかけてるんだけど、あのビースト、避難所の小学校の方向に向かってるみたい!』
「なんですって‼︎」
リコリスは思わず声を上げる。
「避難所って…あの少年と戦う気のないドーリィが逃げている所じゃない!」
『ええそうなの』
アガパンサスは落ち着いた口調で答える。
『だから…私があのビーストを足止めするから、リコリスとゼフィランサスは急いで来て!』
「分かったわ」
リコリスはそう答えるとゼフィランサスの顔を見る。ゼフィランサスが静かに頷くと、2人の姿が一瞬にしてその場から消えた。

0

Flowering Dolly:アダウチシャッフル その③

ビーストに向けて突撃しながら、キリは自身の左腕をちらと見る。己の小麦色に焼けた傷だらけの肌とは明らかに異なる白く滑らかな皮膚と、掌に色濃く刻まれた、蔦草の絡み合った輪のような紋様。
「…………」
ビーストに視線を戻す。首の内の1本が、彼女の頭部目掛けて大口を開けて迫っていた。
「……ヴィス!」
そう言い、右手の剣を捨てて手を叩く。直後、鼻から上をビーストの顎が噛みちぎっていった。
「……………………ざぁんねぇんでぇしたぁ」
下半分だけ残った頭部をじわじわと再生させながら、口から挑発的な言葉を漏らす。完全に再生したその顔は、ヴィスクムのものだった。
「もうスワップ済み」
にぃ、と笑い、ヴィスクムは短距離転移によってビーストの上空に移動する。手を叩き、地上のキリと入れ替わって地面に突き立てていたままの剣のうち2本を、上空に移動したキリに向けて投擲した。それらをキャッチしたキリが首の1本を、ヴィスクムが別の剣2本を手に心臓を狙い斬りかかる。
2人の攻撃が届く直前、ビーストの頸の1つが口から黒紫色の霧を吐き出した。
(っ!)
それを見たヴィスクムは転移魔法によって距離を取り、スワップでキリと入れ替わる。
「ふぅ……毒吐くなんてズルいじゃん。キリちゃんはただの人間なんだから死んじゃうよ」
先程生成していた固有武器を1度消し、再び手元に生成する。
「それじゃ、ここからは私だけでお相手するね」
ビーストの頭部の1つが口を開けてヴィスクムを飲み込もうと迫る。ヴィスクムはそこに剣の1本を投げ、軟口蓋に深く突き立てた。その首は滅茶苦茶に振り回され、喉からは苦痛の咆哮があがる。続いて2本の頸が叩きつけられたが、それは跳躍によって回避し、ヴィスクムは頭部の一つに着地した。

0
0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑪

「ただいまァー、おタケちゃーん」
SSABに帰還したフィロは、真っ先に机上の籠の中で眠る赤子に駆け寄った。赤子タケはそれに気付き、彼女に両手を伸ばす。
「無事に帰って来たよぉおタケ、お前がいてくれたお陰さ。お前は生きているだけで偉いし可愛いねぇ。人間の子どもってのは本当に素敵な生き物だ……」
タケを抱き上げるフィロの背後で、ササとサヤは興味津々の様子で2人の様子を眺めていた。
「ああそうだ、サヤちゃんとササちゃんにも紹介してやろうね。この赤子が私の“マスター”可愛い可愛いおタケちゃんさ」
「ふおぉ……」
「あかちゃん……」
「赤ん坊ってマスターになれるんだ?」
「なってるってことはなれるんだねぇ」
2人が赤子をつついていると、SSABの入口扉が開き、事務員が入ってきた。
「ぴひゃあ⁉」
裏返った悲鳴をあげ、ササはサヤの背中に隠れる。
「あ、フィロスタチスさん。お疲れ様です……その双子は?」
「ん。今日拾ったドーリィとそのマスターだよ。どうも孤児の宿無しらしくってさ、私のところで引き取るが構わないね?」
「え、ええまあ、はい……それじゃあ色々と手続きするから君達もちょっと協力してくれるかな?」
事務員に手招きされ、サヤは臆さず、ササはその背中に貼り付いてびくびくとしながら、それに応じた。

0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑮

結局、SSABに相談したらケーパは仮住居を支給してもらえたので、あいつと二人してその住居に入り、私はベッドで休憩、あいつは台所の確認を始めた。
「けーちゃんどーぉー?」
「んー、結構良い感じだな。地味にコンロが3口だ。すげぇ」
「へー……3口だとどうすごいのさ」
「数は力だぞ。無限に料理作れる」
「なにそれ最高じゃん!」
「……しっかしさぁ」
あいつが私の方に振り向いた。
「お前、めっちゃ怒られてたな」
「あー……うん……」
SSABの破片回収のために近隣住民はしばらく町の外に出ていたから、私の魔法で人間が捻じ曲がることは無かったけど、流石に町一つねじねじ前衛アートの瓦礫山に変えてしまったのはやり過ぎだって偉い人に怒られたんだよね。地面もボコボコぐちゃぐちゃのクレーターまみれにしちゃったから……。やってることだけで言えば私も十分人類の敵といえるかもしれない。
「まぁ、代わりにSSAB就職すれば許してくれるってんだからねぇ……破格破格」
「ついでに給金も出るんだから助かるよなぁ……」
「ねー。けーちゃん何もしないのに」
「お? 俺が契約したからそのパワーに目覚めた奴が何か言ってんな?」
「うひひ、大丈夫大丈夫。感謝はしっかりしてるから……」
「それは知ってる」
言いながら、ケーパが台所から出てきた。
「どしたのけーちゃん」
「あん? 設備の確認は終わったからな。買い物行くんだよ。1曲分の対価をまだ出せてないからなー」
「ぃよっしゃぁ、引っ越し祝いも兼ねて派手にやろうよ。私もサービスで何曲かつけてあげる」
「やったぜ」
ぐいっ、と身体を起こし、早足で出て行こうとするあいつの隣に並び立つ。
互いの手の甲を打ち合わせ、2人して晩ご飯の買い出しに出かけた。

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 4

「マスター、行ってきます」
エプロンを外しながらアガパンサスは喫茶店の主人に言う。主人は行ってらっしゃいと優しく答える。
「…リコリス」
麗暖がそう言うと、リコリスは分かってるわと頷いて青緑色の髪の少女に向き直る。
「貴女、戦わないのなら逃げた方がよろしくてよ」
戦えなくても貴重なドーリィを失うのはあまりに惜しいわ、とリコリスは続ける。青緑色の髪の少女は少しの沈黙ののち分かったと答えた。
「それじゃ、避難しようか」
少年と青緑色の髪の少女は目の前の少年に言うと、あ、はいと彼は答えた。
そしてドーリィとマスターたち、そして少年と青緑色の髪の少女は喫茶店の出入り口へと向かった。

“喫茶BOUQUET”から数百メートルの、街の中心部にて。
5階建ての建物ぐらいの大きさの大型爬虫類のような姿をしたビーストが、街中を逃げ惑う人々をのっそのっそと追いかけている。そんな中、警察や対ビースト対策課の職員が人々の避難誘導に当たっていた。
「避難所はあちらでーす」
落ち着いてくださーいと対ビースト対策課の職員は人々を誘導していたが、不意にビーストの雄叫びが彼ら彼女らの耳に届いた。
彼らがビーストの方を見ると、ビーストが突然人々に向かって走り出していた。
「ひっ!」
避難誘導をしていた人々も声にならない悲鳴を上げ、慌てて走り出す。しかしビーストはその巨体故に歩幅が大きくあっという間に人々に追いつこうとした。
しかし不意にビーストの目の前に巨大な光の壁が出現し、ビーストはそれに弾かれた。
「⁈」
人々が驚いて振り向くと、そこには青髪をハーフアップにした少女が大きな盾を地面に突き立てていた。人々は呆然と立ち尽くすが、そこへ白髪の少女が逃げてください!と駆け寄る。その言葉で我に帰った人々は、慌てて避難所に向けて走り出した。
「アガパンサス!」
白い髪の少女ことゼフィランサスは青髪の少女ことアガパンサスに声をかける。アガパンサスがゼフィランサスと振り向いた。
「私が足止めしている内にあなたとリコリスであいつを倒して」
「わ、分かった」
ゼフィランサスはそう答えるとビーストに向かって走り出す。光壁に弾かれ地面に倒れていたビーストは既に立ち上がっており、アガパンサスの光壁に向かって再度体当たりする。

0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑩

歪みの中から現れたのは、ピンク色のテディベアの頭部。数十倍の大きさに膨張し、鋭い牙の並んだ口が大きく開かれている。
ソレがこの奇襲的攻撃に対応できたのは、殆ど奇跡といって良かった。
テディベアの顎が高速で噛み合わされる直前、そのビーストは反射的に身体を丸め、尾で地面を打つことで僅かに加速する。結果として尾の先端を僅かに噛み切られたものの、その全身は口腔内にすっぽりと収まった。
「よし、成功!」
テディベア越しに、くぐもって少女の声が聞こえてくる。ビーストの『捕食』に成功したと確信しているらしい。口内で姿勢を整え、テディベアの舌を足場に強く踏み切り、口蓋を蹴り破る。
「⁉」
生物的な体組織が突き破られる感覚とは異なる、綿と布地を突き破る感触と共に、ビーストの身体はテディベアの外に解放される。その瞬間、ビーストの頭部をフィロの短槍が貫いた。
「完璧な誘導だったよ、サヤちゃん。ササちゃんもよくヤツをこっちに引きずり込んでくれた」
「うん。クマ座さんはやられちゃったけど……」
ササは頭部の弾け飛んだテディベアの手足を、小さな手でぴこぴこと弄り回す。
「……よし、ギリギリ使える」
「オーケイ。そォら!」
フィロが槍を引き抜き、支えを失って倒れ始めたビーストの身体に、“クマ座さん”の両手の爪が迫り、無抵抗の肉体を細切れに引き裂いた。
「しょーりっ」
「よくやった」
空間歪曲を通って、サヤも2人のドーリィに合流する。
「サヤ! 勝ったよ」
「ほんとぉ? やったぁ」
「ん、これで全員集合かい。じゃ、治すからね」
フィロはそう言い、魔法の仕込みで細切れにしていた左腕を瞬時に再生させた。

1

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑭

「さて……それじゃ、もう終わらせよっか」
“フィスタロッサム”を軽く持ち上げ、音楽を1回止める。
「2曲目行くよー! 〈S21g〉!」
続いてこの管楽器から放たれますは、荒々しいドラムセットのリズム。
「それ、打楽器も行けんのかよ。万能じゃん」
「そうだねぇ」
そこから始まるハード・ロックが、捻じれた家屋群に到達するのと同時に、それらに深い亀裂が走り破裂するように崩壊していく。
「そして当然お前も……『破砕』する!」
ヤツの全身に罅が入り、主旋律が一層激しくなったのに合わせて吹き飛んだ。その破片もまた、1拍ごとに細かく砕け続け、最後には塵とすら呼べないほどの微粒子にまで細分しきってしまった。
「討伐完了っ!」
「……いやすげえな。マジであっという間じゃん」
「へへん、凄かろう。褒めてくれても良いんだよぉ?」
わざとらしく胸を張ると、彼は私の頭をぐしぐしと撫でてくれた。
「手つきが乱暴ぉー。DEXクソ雑魚めー」
「悪かったな……ところでお前の魔法」
「ん?」
頭を撫でていたあいつの手が、髪の表面を滑って持ち上げ、私の眼前に持ってくる。彼の手の中にあったのは、ツインテールにまとめられた、私の「鮮やかな緑色のロングヘア」。
「……何これ? アリーちゃんブロンドなんだけど? 長さもこの3分の1が標準だし」
「魔法で変わったんじゃねーの? ついでに服も」
その言葉に視線を下に移すと、着ているものが普段の簡単な衣装とは全く違う、ごてごてしたパンクなファッションに変わっていた。
「え、何これ⁉ やだ見ないで恥ずい!」
「いや恥ずかしいこと無くねーか? 似合ってるし」
「いやだってぇ……いつもと違う格好ってちょっと恥ずかしいじゃん……取り敢えず元の格好にもーどれっ」
魔法で髪と服を普段通りに戻し、あいつに背中を向ける。
「ほら、行こ? 帰ってご飯にしようよ」
「帰る家も台所も食材も残らず食われたけどな。さーて、これからどう生活すっかなー……SSABに相談したら何とかなっかなー」

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 3

「そんなドーリィなのに戦わないなんて恥ずかしいわ!」
ねぇ、アガパンサス?とリコリスはカウンターの方で彼女たちの様子を見ていた青髪の少女に目を向ける。アガパンサスと呼ばれた少女は慌ててそうねと答えた。
「確かに、私たちドーリィは戦うために作られたから、戦って当然…」
アガパンサスが言い終える前に、リコリスはでしょう!と手を叩く。
「アテクシたちにとって戦いは義務も同然」
それなのに戦わない貴女は…とリコリスが言いかけた所で、でもとアガパンサスが遮る。
「世の中に色んな人間がいるように、ドーリィの中にもそういう子がいたっていいと思う」
…へ、とリコリスはポカンとする。
「今まで色々な人間と出会ってきたけど、ビーストとの戦いに消極的な人も結構いるし…」
アガパンサスが苦笑いしながら言うと、リコリスはそうだけれど!と言い返す。
「アテクシたちにとっては戦いは宿命なの!」
それから逃れることはできないわ、とリコリスは拳を握りしめる。
「だからアテクシは…」
「んじゃしつもーん」
リコリスが言いかけた所で、ゼフィランサスの座っていた椅子の反対側の席に座っている若いポニーテールの女が手を挙げる。リコリスはなんですの雪(ゆき)?と彼女に目を向ける。
「ドーリィにとって戦いが宿命なら、その宿命は誰から与えられたものなの⁇」
君たちを作った人って奴?と雪は首を傾げる。リコリスは…そうですわと返す。
「アテクシたちドーリィを生み出した、太古の人々よ」
異界から差し向けられるビーストから人類を守るために、彼らはアテクシたちを作ったのとリコリスは腕を組む。
「でもその時代の人たちは今どこにも残ってないじゃん」
それならその宿命を多少無視してもいいんじゃないの?と雪は笑う。
「いつまでもいなくなった人に囚われる訳にはいかないし」
その言葉に青緑色の髪の少女は複雑な面持ちをする。一方リコリスはそれでも!と続ける。
「アテクシたちは与えられた使命を全うすべ…」
リコリスがそう言いかけた時、不意に喫茶店内にいる大人たちのスマホが鳴り始めた。各々がスマホの画面を確認すると、近くにビーストが出現したとの情報が入っていた。
「ゼフィランサス」
雪はスマホから顔を上げて目の前のドーリィに声をかける。ゼフィランサスは了解です、マスターと答える。

0
0

五行怪異世巡『きさらぎ駅』 その⑧

「ところでカオルちゃん」
「何?」
「何か今の状況を打破する方法とか、思いつかない?」
白神の質問に、カオルは一度、青葉を抱き締めていた腕を解き、手を顎に当てて思案した。
「……そうだな。無いわけじゃ無い」
「カオル、本当?」
「もちろん本当だよぉワタシの可愛い青葉ぁ、ワタシに任せてくれれば、ちゃんとワタシの可愛い青葉を生還させてみせるから! ……と言いたいところなんだけど」
青葉の質問に、彼女を抱き締めながら答え、もみくちゃに撫で回しながら、カオルは言葉を続ける。
「『武器』が足りない。ワタシの可愛い青葉の愛刀〈薫風〉があれば最高なんだけど……あるいは何か、霊体に干渉できるようなもの」
「はいはーい、それならメイさん、一応妖怪だから、霊感はあるよ?」
「お前は武器じゃないじゃん」
「それもそっかー。……あ、ただの静電気で良ければ出せるけど?」
白神の右手が、電撃を纏う。それを見て、カオルは牙を剥くように口角を吊り上げた。
「『ただの静電気』? 馬鹿言うなよ妖怪。その毒気、ワタシが気付かないとでも思ったか?」
そう言われて、白神も瞳を蒼く光らせて笑顔を返した。
「行くよ、ワタシの可愛い青葉。一番薄いところから突き破っていく」
「あ、うん、カオル」
青葉はカオルに連れられて再び駅に入り、白神もそれに続いた。

0

魔法をあなたに その⑬

怪物の倍くらいはある体格の犬のバケモノの顎の中で、怪物がじたばたと暴れている。このままじゃアッサリ噛み殺されちまう。
『……オイ【フォーリーヴス】。何寝てンだよ。せっかくのテメエの初陣だぞ。ドコのダレとも知らねェヤツらに横取りされてんじゃァねえぞ』
せっかくオイラが呼びかけてやっているのに、ヤツは倒れたまま動かない。
『……クソが!』
ヤツの近くに飛んでいき、ヤツの身体を媒体にして魔法を使う。【フォーリーヴス】の障壁刀と同じ理屈だ。犬のバケモノの首のところにバリアを展開し、ブッタ斬る。
「なっ……⁉ 何が起きて……!」
結界の外で、犬を召喚した方が何か言ってる。そうだ、コイツらにはしっかりはっきり文句言ってやらねェと。
『テメェら……ドコの雑魚に唆されたか知らねェがよォ……』
「なっ、誰⁉」
「この感覚、おリトさんと同じ……!」
“おリトさん”だァ? それがコイツらを“魔法少女”にしたヤツの名か。まあそれはどうでも良くて。
『コイツはなァ! オイラの【フォーリーヴス】の初めての獲物なんだよ! 【フォーリーヴス】はこの程度、楽勝でブッ殺せンだよ! 他人の事情も知らねェで、手柄奪おうとしてんじゃアねェぞクソガキ共が!』
「……ぅ…………」
ヤツが、【フォーリーヴス】のうめき声が聞こえた。意識を取り戻しやがったか!
『クキキ、どうだ見やがれクソ共が。オイラの魔法少女は強えェンだよ』
ヤツが立ち上がる気配。
『テメエらの出る幕なンざ1ミリだってありゃアしねェンだ! 失せな!』
オイラが啖呵を切ると、黒ワンピの方の魔法少女の頭にヘドロみてェな色したタコさんが落ちてきた。
『【ティンダロス】、【ナイトゴーント】、ここは退こう。あれはワタシより古く上位の存在だ』
「えっあの小悪魔みたいな子が?」
『ウム。ワタシは未だ百数十年の命でしか無い……アレは少なくともワタシの数十倍の時を生きている。ワタシ達は年功序列を重んじるのだヨ』
「あっはい……」
あのタコ野郎の説得のお陰で、邪魔者は消えた。
『サァ、あとはテメエが気張るだけだゼ、【フォーリーヴス】! やれるモンならやってみろ、クソヒーロー!』

0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑨

長身のドーリィの空間歪曲を攻略する手段は無いため、ビーストは彼女から逃げるように方向転換しようとして、立ち止まった。
何故、彼女が現れたのか。先ほどまで目の前にいたはず、というのは考慮に入らない。ドーリィには短距離転移能力があるためだ。彼女からソレが逃げることは、彼女自身がよく知っているはずなのだから、とどめを刺すためというわけでは無いだろう。むしろ、逃げさせて望みの場所に追い込むためか。となれば、逃走はむしろ愚策。
そこまで思考を進めたところで、1つの可能性が浮上した。
彼女が現れた理由が、『誘導』だった場合、彼女が『長身のドーリィ』自身である必要は無い。ソレに逃走の判断を下させるためには、『外見』だけあれば良いのだから。
つまり、あの『長身のドーリィ』は、『少女のドーリィ』またはそのマスター、あるいはまだ見ぬ長身のドーリィのマスターである可能性もあるのだ。仮にそうだった場合、彼女に攻撃すれば、ダメージを与えられる。
加速した思考が一瞬の葛藤の末に選んだ答えは、『攻撃』だった。その正体が少女のドーリィだった場合に備え、ジグザグとした軌道で接近して照準が定まらないようにし、少女の肉体構造を想起して、首の高さを狙い蹴りを放つ。
「……うん、正しい」
少女の声。長身のドーリィの幻影が掻き消え、少女の姿が現れる。ビーストの蹴りは、その首の高さを正確に捉えていた。
「んべっ」
少女が気の抜けた声を漏らしながら舌を出した。その口内に、人の指の欠片が覗く。
それが『長身のドーリィ』のものであるとビーストが気付くのとほぼ同時に、そこを起点に空間の歪曲が発生した。

0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑬

片手杖“フィスタロッサム”を指揮棒よろしく掲げ、勢い良く振り下ろす。
空気の通り抜けた管楽器の音ではなく、強いエフェクトのかかったエレキギターのような音色が先端から飛び出てきた。
「ヒュウッ、その……何、楽器か? どういう造りなんだ? イカす音出すじゃん」
「でしょー」
いつの間にか隣にやって来ていた、私の最高の観客兼相棒兼マスター様にウインクで返す。
「それじゃあ最初のコード、お聞きください!」
もう一度振り上げ、迫りくるヤツをビシっと指す。
「〈D21g〉」
音楽の開始と同時に、周囲の地面や住居、そしてあのビーストも、まるで粘土細工のようにぐにゃりと捻じ曲がり伸び上がった。
当然、私達の足下の地面もぐにゃっと変形して大穴になってしまったので、さっきまでとは逆に私がケーパを抱えて安全に着地する。
「な、何だこれ」
「ふふふ、けーちゃんめっちゃ面食らってる。魔法は初めて?」
「そりゃまあ、お前これまで契約してなかったわけだからな」
「けーちゃんには感謝してるよ……ん」
ぐにゃぐにゃのバキバキになった身体で、ビーストが突っ込んできた。けど、まだ続いているサイバーパンク・ミュージックを受けて、ヤツは再び捻じ曲がり倒れる。
「この音は、届く限りあらゆる物質の魂に触れ、歪め捻じ曲げる。お前じゃ私には勝てないよ」
「え待って。なんで俺は無事なんだ?」
「ん? だってけーちゃん、私の音楽好きでしょ?」
「そりゃまあ」
「私の音楽にノれるなら、それはただ魂を高揚させるだけだからね」
「な、なるほど……?」

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 2

「僕は別に君に会いたくて会ってる訳じゃないんだし〜」
仕方ないんだよ〜と青緑色の髪の少女は口を尖らせる。少年はため息をつきつつじゃあ、と続ける。
「早くマスターを見つけてくださいよ」
ドーリィなんでしょ、と少年は目の前の人物にジト目を向ける。青緑色の髪の少女はうっと焦る。
「少年、どうしてそのことを」
青緑色の髪の少女がそう言いかけた時、近くでそれはアテクシたちが教えたことですのよと声が聞こえた。
パッと2人が見ると、近くの2人がけのテーブル席の椅子から赤い髪をツインテールにして黒い和服風ワンピースを着た少女が立ち上がっていた。
「貴女が全くこの少年に正体を明かさないから、アテクシと麗暖(れのん)が教えてさし上げましたの」
ねぇ?と赤髪の少女は目の前の椅子に座るツーサイドアップの少女…麗暖を見る。彼女はええ、と頷く。
「クラスメートに親切にしないのは麗暖たちの道理に反してるから」
だから教えてあげたのよ、と麗暖は微笑む。青緑色の髪の少女はなんとも言えない顔をした。
「アテクシたちドーリィは適正ある人間と契約して戦うのが使命というもの」
それなのに貴女はなぜフラフラしているのかしら?と赤髪の少女は青緑色の髪の少女に詰め寄る。あ、いや〜と青緑色の髪の少女は思わず目を逸らす。
「僕はあまり戦いたくないというか〜」
「そんなことを言うんじゃありません!」
貴女…と赤髪の少女は声を上げるが、ここでり、リコリス!と諫めるような声が飛んでくる。彼女たちが声の主の方を見ると、赤髪の少女と麗暖が囲むテーブルの隣のテーブルから、長い白髪で緑のジャンパースカートとボレロを着た少女が立ち上がっていた。
「ゼフィランサス?」
どうしましたの?とリコリスと呼ばれた赤髪の少女が尋ねると、ゼフィランサスと呼ばれた白髪の少女はあ、えーととうろたえる。
「ちょっと、言い過ぎかなーって…」
ゼフィランサスは小声で呟く。リコリスはため息をついた。
「貴女、アテクシたちの使命をお忘れになったの?」
アテクシたちは異界からやって来るビーストから人類を守るために生み出された存在なのよ?とリコリスは腰に両手を当てる。

0
0

Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その⑦

「……マスター」
「ん? どうしたハルパ」
「ちょっと、移動するね」
「ああ、うん」
ハルパは男を担いだまま短距離転移でビーストの背中の上に腰を下ろした姿勢で移動した。唯一無傷だった竜頭が2人の方を向いて牙を剥くが、ハルパは片足で鼻面を押さえる。
「このまま死ぬまで待ってよ」
「ああうん……せっかくだから下ろしてほしいな」
「ん」
男はハルパの隣に腰を下ろし、転落防止にハルパを抱き寄せた。
「ちょっと掴まらせてね……っと」
「んー……」
男を押しのけるようにハルパが頭を押し付ける。
「待って押さないで」
「にゃーお」
「『にゃーお』じゃなく……」
2人が背中で騒いでいるにも拘らず、ビーストが動く気配はない。竜頭を除くすべての部位が、隙間ない〈ガエ=ブルガ〉の侵食を受けて完全に固定されていたためである。
「……そろそろ…………かなぁ……」
ふと、ハルパが呟いた。
「ん、そうかい」
ハルパが男を抱え、瞬間移動でビーストから離れた直後、その全身から黒い棘が突き出し、唯一無事だった竜頭ごと肉体をズタズタに引き裂き殺した。
「かった」
「よくやった」
ハルパから解放された男は、彼女とハイタッチを交わした。

0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑫

私と彼の右手の甲が一瞬光り、太陽に似た放射状のとげとげした紋様が焼き付いた。
「契約完了っと」
「これで、あいつ倒せるんだよな?」
「もっちろん」
ビーストが私たちに追いつき、前足を叩きつける。その直前、彼を瞬間移動で逃がし、私の方は再生した右手で受け止める。
「っひひ。何これすごい、手応えが全然違う。身体強化も、肉体の治癒も、契約が無かった頃とは比べ物にならないレベルじゃん」
私のボロボロの身体は、ケーパとの契約を済ませた瞬間、ほぼ完全な状態にまで急速に回復していた。おまけに、これだけの威力を受け止めたにもかかわらず、骨や筋繊維の1本すら、軋みもしない。
「そいやっ」
軽く押し返し、ついでにヤツを蹴り飛ばす。
「それじゃ、本気出させてもらいますか! ……そうだ、けーちゃん?」
大丈夫とは思うけど、念のため。
「ん? 何だよアリー」
「んー……フィスタでも良いよ。けーちゃん限定で許可したげる。マスター様だしね」
「ああ、で何だよ」
「あぁそうそう。1個だけお願いがあるの。私の音楽、変わらず愛していてね?」
「言うまでも無え」
こういうところは即答してくれるところ、私は好きだよ相棒。
「……というわけでっ!」
右手の中に、私だけの『武器』を生成する。長さ60㎝程度の片手杖。軽く振るうとひゅうっ、と空気の通る音がする。中が空洞になってるんだ。全体は白く、Y字の二股に分かれた先端はグラデーションで緑色に変わっていっている。良いデザインだ。
「 “Allium Fistulosum”! ただ今よりお前をぶっ殺しまぁーっす!」

0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑧

少女への攻撃は頭部に命中し、そしてそのまま『すり抜けた』。
その感覚を、ソレは知っている。たった1度経験した、長身のドーリィの『肉体を門とした空間歪曲』の魔法。何故この少女がその魔法を使えるのか。少なくとも長身のドーリィがあれだけ自慢げに話していたということは、誰しもが易々と使えるような代物では無いということ。
思考で脳が圧迫されたその刹那、壁の穴の脇、陰になった場所から、長身のドーリィの武器であるはずの短槍が突き出された。一瞬の出遅れのために回避行動を取れず、槍の穂先はビーストの脇腹に突き刺さる。
「成功。私の魔法でヒロさんに私の見た目を貼り付けて囮にした」
槍を持っていた少女のドーリィが、呟くように口にした。その言葉を聞き、そのビーストは思考を加速させる。
今の言葉からして、少女のドーリィの魔法はおそらく『外見を変える幻影』。それに加えて、長身のドーリィの空間歪曲による転移術。長身のドーリィの左腕は、細分化されて転移のために随所に仕込まれているだろう。それによって、ドーリィと違って超自然的現象を起こせないマスターにも、限定的な転移術が使えるようになっている。敵は長身のドーリィの転移術を利用し、数的有利を更に多角化させ、自分を追い込んでいる。敵の頭数は、少女のドーリィ・それと同じ外見――あるいは幻影によって姿を変えたマスター・長身のドーリィの最低3名。長身のドーリィも固有武器を扱っていることから、マスターが存在することは確実。未だに1名以上の戦力を隠している可能性すらある。
とすれば、敵の数を減らすことは至急の課題。長身のドーリィを倒す手段が自身に存在しない以上、殺すべきは少女のドーリィだ。
飛び退くようにして突き刺さった槍から脱出し、屋外へと逃走する。
その時、通りの奥から長身のドーリィが駆けてきているのが視界に入った。

0
0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 1

昼下がり、街の路地裏にある小さな喫茶店にて。
“喫茶BOUQUET”という小さな看板が下がったその店の中は、5人の客と店主、そして手伝いの少女が1人いるのみでがらんとしていた。
「今日は空いていますね」
青い長髪をハーフアップにしたエプロン姿の少女がカウンターに向かって言うと、そうだなとカウンターの向こうの椅子に座る初老の男は返す。
「今日は月曜の昼間だから、みんな“本職”が忙しくて来れないのだろうよ」
まぁいいじゃないかと男は手元の新聞に目を落とす。
「それにしても普段より少ない気がするんですけど…」
青髪の少女がそう言いかけた時、カランカランと音を立てて店の扉が開いた。彼女が扉の方を見ると、そこには小柄な小学校高学年くらいの少年が立っていた。
「あ、いらっしゃ…」
青髪の少女の言葉を気にせず少年は店の窓際のテーブルへ向かった。そこには青緑色で肩につくくらいのくせっ毛、そして翡翠色のジャケットとスラックスに白いブラウスを合わせた背の高い少女が座っていた。
「…お、やぁ少年」
青緑色の髪の少女は少年に気付くと笑顔で小さく手を挙げた。しかし少年はそれを無視して彼女の目の前の座席に座る。
「それにしてもどうしたんだい」
急に呼び出しなんて…と青緑色の髪の少女が言いかけた所で、少年はあのと顔を上げる。
「お願いがあるんです」
少年の真剣な眼差しに青緑色の髪の少女は少しポカンとする。
「え、なに?」
もしかして…と青緑色の髪の少女は慌てるが、少年は気にせず続けた。
「ぼくと関わるのをやめて欲しいんです」
少年の言葉にえ、と青緑色の髪の少女はポカンとする。
周囲の客たちも、その言葉で2人の方を見た。
「そ、それって…」
「もうぼくに会いに来ないで欲しい、それだけです」
少年がそう言うと、青緑色の髪の少女はなんとも言えない表情で椅子の背もたれに寄りかかった。
「…そんなこと言われてもねぇ」
青緑色の髪の少女は窓の外を見る。
「なんて言うか、どうしてもその辺でフラフラしていると君に遭遇してしまうと言うか」
「じゃあフラフラするのをやめてください」
少年は真面目な口調で言うが、青緑色の髪の少女はえ〜と不満げに返す。

0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑦

ビーストはできるだけ大きな通りを選んで駆け、やがて荒廃した広場に辿り着いた。
そして周囲に気を払う。探すのは、少女の“ドーリィ”だけではなく、長身の“ドーリィ”の肉体の破片。物陰に僅かな骨片や肉片の1つも転がっていないか。『不意打ち』の条件がこの場には無いか。全身の神経を張り詰め、情報を取り入れ続ける。
その時、右後方から物音が聞こえた。何かの動く気配に、攻撃は堪えて物音を立てた存在の正体を確認する。瓦礫の陰に隠れて全体像は見えないが、少女のドーリィの頭を飾っていたリボンと同じものがはみ出ている。
この時点で、ビーストの思考において、対象の正体は2択にまで絞られる。『少女のドーリィ』または『少女のドーリィと同じ外見の少女』。『長身のドーリィ』と異なり、完全回避の手段がない彼女らであれば、ソレにも勝機がある。
そう判断し、ビーストはそちらに向けて跳躍した。空中で回転し、ソレの背丈より長い尾を真上から叩きつける。手応えは無い。“ドーリィ”には短距離を瞬間移動する力があるため、長身のドーリィの魔法が無くとも警戒は怠れない。
「……おーい」
背後から、少女のドーリィの声がする。そちらに注意を向けると、廃墟の窓から彼女が顔を出していた。存在を主張するように手の中のピンク色のテディベアを高々と掲げて振っている。
その様子を確認した瞬間、そのビーストは確信を持って少女に突進した。
少女の主なダメージソースである、テディベアの爪や牙による攻撃は、照準を定めるために手元に抱えた上で微調整を行う必要がある。それにも拘わらず、頭上に持ち上げているということは、翻弄のためのブラフということ。つまり、彼女はドーリィではなく、ただの人間でしか無い“マスター”である。
マスターを失えば、ドーリィの戦闘能力は著しく低下する。その程度のことは、ソレの脳にも標準的知識として備わっている。そして、ただの人間には、ソレが出力する最高速度に対応できる感覚能力は無い。
その自信と共に、ソレは廃墟の壁を蹴り破り、勢いのままに飛び蹴りを少女に命中させた。

0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑪

「何立ち止まってるの。ビースト来てるよ」
私が言うと、すぐに彼はまた逃げ始めた。
「え、あ、お、おう。おいフィス……アリー、お前今何て言った?」
「『何立ち止ってるの。ビースト来てるよ』」
「その前だ馬鹿」
「むぅ。そんなに言ってほしいの?」
「いや、そうじゃなく……いやまあそうなのか……?」
ちょっと揶揄い過ぎたかな。少し混乱してるみたい。楽しいけど流石に申し訳無いか。
「あはは、ごめんごめん冗談だって。私のマスターになれる人間ってどんなのかなって考えてさぁ、私、1つの結論に到達したわけよ。大体2か月くらい前に」
「俺らが出会って半年くらいの時期かぁ」
「あー……そうだねぇ……あの時作ってもらったチーズケーキ、美味しかったなぁ。また作ってよ」
「嫌だよ製菓ってクソ面倒くせえんだぞ? 二度とやりたくねえ」
「ちぇっ。それで閑話休題。私のマスターになってくれるのは、私の音楽を好きでいてくれる人だって」
「そんなのいくらでもいるだろ。お前、演奏も歌も上手いじゃん」
ケーパめ、微妙に分かってないな。説明面倒なんだけど……。
「私が何を奏でても、いついかなる時でも、私の音楽に心の底からノってくれる。そんな人でしか私の相棒は務まらないの」
「つまり……節操無しをご所望か」
「言い方ぁ」
再び瞬間移動で彼の腕から抜け出す。
「だからさ。右手出して?」
ほぼ治癒した右手の甲を、彼に向けて差し出す。
「……クソ、分かったよ」
彼が右手を握り拳にして、手の甲を軽く私の手に打ち合わせた。

0
0

Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その⑥

ハルパ達を追跡しようとしたビーストが、勢い良くその場に倒れ込む。
「よし、着実に『根』が伸びてる」
「うぃ」
ビーストが数秒の苦心の末に右前脚を持ち上げると、その足裏から黒色の枝分かれした長い棘が突き出している。
「……ある伝説に登場する英雄の扱ったとされる、『必殺』と謳われた槍の名だ」
ハルパに担がれたまま、男は誰にともなく呟く。
「その由来は何てことはない。貫いた瞬間、穂先は無数に枝分かれした棘に変形し、敵を体内から破壊する。どんな生き物も、内臓は柔らかいからねぇ」
「はぇー…………」
「あれ、ハルパ知らないでこの技名使ってくれてたのかい」
「マスターが、くれた名前だから……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「んひひぃ」
距離を取ろうと走り続けるハルパの背後で、湿った破壊音が響く。2人が振り向くと、棘の増殖によってビーストの前脚が千切れて落下する瞬間だった。棘は更に長く、数を増やしながら伸長を続け、そのうちの1本はビーストの肉体を突き破って山羊頭の脳幹を正確に撃ち抜く。
「おやラッキー」
「んー」
ビーストの獣頭が炎を吐き出そうと口を開くが、伸びてきた棘に縫い合わされ、口腔内で暴発する。

0

Flowering Dolly:アダウチシャッフル その②

煙幕の薄れつつある中、少女キリは片手剣を右手に握り直し、再びビーストに突撃する。閃光手榴弾を投擲しながらビーストと衝突する直前で直角に曲がり、そのまま背後に回り込む。閃光弾の光と音に一瞬気を取られたビーストの隙を突いて振り下ろされた斬撃は、鱗に深い亀裂を走らせた。
「チィッ! まだ軽い、ヴィス!」
「了解!」
“ヴィス”と呼ばれたドーリィは頷いて指を鳴らした。瞬間、キリの手の中に“ドーリィ”ヴィスクムの固有武器、7本の片手剣のうちの1本が現れる。
左手の剣による刺突は、鱗の亀裂を正確に捉え、砕き、その奥の肉に深々と突き刺さった。
想定外の痛覚反応に、ビーストは9つの頭部で咆哮をあげながら、全ての頸で牙を剥き、一斉に頭突きを放つ。
「スワップ!」
ヴィスクムが叫ぶように言い、手を叩く。
瞬間、2人の位置が入れ替わり、ヴィスクムは両手に握っていた剣で敵の攻撃を受け流しきった。
「ぎりぎりセぇーフ……」
短距離転移によって“マスター”キリの隣に移動し、そちらに向き直ったビーストと睨み合う。
「身体の調子は大丈夫、キリちゃん?」
「いや全く。多分内臓駄目になってる。骨と筋肉も」
「全部駄目じゃん」
「ただの人間なんで」
「んー……とりあえず、順番にスワップしていこう。お腹の中から順番に。脚は動く?」
「……動く」
「それじゃ……ゴー!」
ヴィスクムが手を叩くのと同時に、キリはビーストに向けて駆け出した。

0
0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑥

ソレの目の前の女性、右手の武器から推測するに“ドーリィ”であろう彼女は、ビーストの拳を回避することも無く胸部を貫かれた。
腕は彼女の肉体を貫通し、背後にまで抜ける。しかし、手応えがおかしい。肉や骨を砕き押し退けた感触が無い。彼女の背中から突き出る腕の長さも、本来想定されるより僅かに長く見える。その差、ちょうど彼女の胴体の厚みに等しい程度。
「っはは、どうだ驚いただろ。お前が言葉を理解できるかは知らないが、勝手に自慢させてもらうよ。私の魔法、『肉体を“門”とした空間歪曲』。ざっくりいうと、『私の身体に触れたものが、私の身体の別の場所から出てくる』。要するに……」
フィロの刺突と同時に、ビーストは飛び退いて回避する。
「お前の攻撃は全て、私を『すり抜ける』」
ビーストが尾で薙ぎ払う。フィロはそれを跳躍して回避し、地面に突き立てた短槍を軸に蹴りを仕掛ける。
「ところで化け物。私の魔法、一見防御にしか使えなさそうに見えるだろ? ところがどっこい、面白い特性があってさ。“門”にするのに必要な『身体の一部』って、切り離されていても適用範囲内でさぁ」
フィロが懐から、小さな骨片を取り出す。
「これ何だと思う? 正解は『私の左腕の尺骨の欠片』」
フィロは骨片をビーストに向けて放り投げ、『自分の足』に槍を突き立てた。その刃は空間歪曲によって骨片から現れ、通常ならば在り得ない角度から刺突が放たれる。身体を折り曲げるようにして回避したビーストは、逃げるようにその場を離脱した。
「む……私にダメージを与える手段が無いからって逃げるのかい。まあ……あとはあの2人に任せるとするかね」

0

皇帝の目_4

「チトニア、頼らせてもらう」
「うん!指示ぷりーず!」
いつの間にかチトニアは梓の腕にべったりくっついていて、はしゃぎながら斧を渡した。
「じゃあ早速だけど。ゴルフの要領であの看護師を飛ばしてほしい」
短い指示だが、チトニアはその意味を正確に理解した。梓は常に片手を塞がないと目が見えない。更に、貧弱な梓は片手で斧を振るうことはできないため任されたのだ、と。チトニアは斧を振りかぶり、平らな面を看護師の腰に当てた。
「きゃっ!」
うまい角度で飛ばされ、看護師は病室の外へ。すかさずチトニアはベッドをひっくり返して病室の入口を塞いだ。幸いこの病室には梓しかいなかったのでベッドは有り余っていた。
「…強いな」
「パワー型だからね!」
梓が戦うのを宣言してからこの会話まで、およそ30秒。ビーストは蛇口から出切った。それは細長いおびただしい量の人間の腕の塊に、頭や胴体と呼べるものはなく、魚の尾びれのようなものが大きく一つついている姿をしていた。
「ビーストってなんか能力使う?」
「使う子もいるよ?ビーストって皆大型だけどこいつ小型だから、こいつには『大きさを変える』みたいな能力があるかも」
「なるほど…」
ビーストは、悲鳴ともつかない雄叫びをあげた。

0

Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その⑤

「ありがとうね……。さて、積もる話は色々あるけれど……まずはごめんね。長いこと君を1人にしてしまって。寂しくなかったかい?」
男の言葉に、ハルパは首を傾げた。全く理解できなかったためだ。彼女の左前腕に色濃く刻まれた紋様は、マスターたるその男との明確にして絶対的な繋がりの証であり、ハルパが寂しさを覚えたことなど1度として、また一瞬たりとも無かった。
男の奇妙な謝罪に、純粋な疑問と共にうずうずと湧き上がる言語化できない感情を抱いたハルパは、彼の首筋に噛みつき、鋭い牙を出血するほど深く突き立てた。
「いたたた……何だ、やっぱり寂しかったのかい。ごめんね。この街を離れられない事情があってさ……でも安心しておくれ、もうすぐ帰れると思うから。あと少しだけ辛抱してくれるかい?」
男の言葉にようやく口を放したハルパは、男が右手に握っていた突撃銃に目をやった。
「ん、これかい? ビーストは文明の利器に強い敵意を示すみたいでね……銃や爆弾で攻撃すると、ダメージは与えられないまでも意識は向けられるんだよ」
黒槍のドームが大きく震えた。外からビーストに攻撃されているのだ。
「む、来たね。それじゃあハルパ、久々に君の戦い、見せてもらおうかな」
男の言葉に顔を輝かせ、ハルパは何度も頷いて跳ぶように立ち上がった。ドームを解除すると、ビーストが3つの頭部で覗き込んでいる。
「……〈ガエ=ブルガ〉」
ハルパの口から、掠れた声が漏れる。黒槍を長さ1m強のジャベリンに再形成し、石突を蹴り飛ばした。
彼女の『射出』した槍は、至近距離にいたビーストの右前脚に突き刺さる。
「よし、勝った。逃げよう、ハルパ」
「ぇあ」
ハルパは男を肩に担ぎ、身体強化を利用した高い脚力でその場を離脱した。

0
0
0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑨

「おいビースト来てんぞ。どうする?」
「どうするって言われても、私がこの状態じゃ応戦は無理だし……」
「じゃあ駄目じゃねーか」
「私のプランじゃあんたが増援呼んでくれるはずだったのー」
「それはごめん……」
「あ、そういえば、けーちゃんの家、かなり喰われたよ。守れなくてごめん」
「初撃で既にぶっ壊されてたから問題ない」
「さて……どうしよっかなー」
さっき吹き飛んだ右手を見る。まだ4分の1も再生していない。
「けーちゃん、私重い? 物理的に」
「いや、半分くらいになってるから結構軽い」
「それは良かった。じゃ、私のこと抱えてしばらく逃げ回ってくれる?」
「了解」
彼は私のことを小脇に抱えて駆け出した。直後、さっきまで私たちがいた場所にビーストの踏み付けが突き刺さる。
そんなことより、今は回復に努めよう。あんまり重くなってもケーパの逃げる邪魔になるから、足や頭、お腹の傷は放置して、右手の治癒だけに集中する。今欲しいのはここだけだから。
「……あ、やべっ」
突然ケーパが私を放り投げた。
「むぐっ……どしたの、けーちゃ……」
あいつはすぐに私を抱え直して、逃走を再開する。
「あっぶな……踏み潰されるところだった」
「大変だったじゃん。怪我とかしてない?」
「してない。ギリセーフ」
「それは良かった」
右手の治癒は掌全体の再生にまで至った。これだけあれば、大丈夫かな。

1
0

Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その④

ハルパが走って約1時間。目的の都市は既に戦火に包まれていた。
「………………」
ハルパは転移魔法でその中心地にまで移動し、ビーストを探した。それはすぐに発見される。
体長約20mの巨大な猛獣。その口の端からは炎が漏れ、背中から生えた山羊と竜の頭部は不吉な咆哮をあげている。
ニタリ、と口角を吊り上げ、ハルパがそちらに突撃しようとしたその時、鋭い破裂音と共に銃弾がビーストの胴体に直撃した。
「…………?」
ビースト、ハルパ共に、銃弾の飛んできた方向に目をやる。
『おいビースト、こっちだ! これ以上好き勝手させてなるものか!』
拡声器を通した男声が、辺りに響き渡る。
ビーストがそちらに向かおうとするより速く、ハルパは飛び出していた。身体強化による超加速でその声の主の元まで駆け、勢いのままに飛びつく。
「えっうわあ!」
彼を押し倒し馬乗りになったハルパに、声の主は一瞬動揺を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「なんだ……ハルパじゃないか。久しぶりだね。もう5年……6年くらい会っていなかったかな?」
その男がワイシャツの左袖をまくり上げると、ハルパの左前腕にあるのと同じ位置に、獣の咢を模した紋様が刻まれていた。
「それより、一度退いてもらえるかな。ビーストが来ているから……」
そう言うその男の目には、間近にまで迫っているビーストの姿が映っていた。
「…………」
ハルパは黒槍を取り出し、形状変化によってドーム状の防壁を作り出す。
「いや、僕らだけ守られていても駄目なんだけど…………、1回下りてくれる?」
再び頼まれ、ハルパはしぶしぶ男を解放した。

0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その④

少女が固く抱きしめるテディベアの右腕が、ビーストを捕捉する。それと同時に、ビーストは少女から距離を取るように跳躍した。高速で伸長したテディベアの腕が、いち早く回避行動を取っていたビーストの脇を通り過ぎ、元の長さに縮んでいく。
そして、テディベアの腕が完全に縮み切ったと同時に、ビーストの背後にもう1人、ビーストの正面でテディベアを抱えているのと『全く同じ外見の』少女が、虚空から出現した。
突然の事態に対応する前に、その少女は身体強化を乗せた拳を直撃させ、ビーストを遥か下方の地面に叩きつけた。
少女は短距離転移によって尖塔の上に移動し、自身と同じ姿の少女に抱き着く。
「ササ、クマ座さん貸してくれてありがとう」
抱き着かれた側が、テディベアを抱き着いた側、“ドーリィ”ササに差し出す。
「ありがと、サヤ。私もこれ、返すね」
ササも腰にリボンで結い留めていた『クマ座さん』に瓜二つのテディベアを“マスター”サヤに差し出した。
テディベアの交換を終えた2人は、屋根の端から顔を覗かせビーストの様子を見ることにした。地面に叩きつけられ、相当のダメージを受けたはずの怪物は、しかして大したダメージを受けた様子は無く、起き上がって上方の2人を眼の無い顔で睨みつけている。
「ササぁ……あんまり効いてないよ……」
「だ、大丈夫だよサヤ……クマ座さんの攻撃は1回当たって腕を片方切れたし、私のパンチもちゃんと命中したし……」
顔を見合わせて話す2人の耳に、石材を突き砕く激しく断続的な音が入ってくる。
「「?」」
再び見下ろすと、ビーストが壁面を駆け上ってきている。
「ぴゃあぁっ!?」
「に、にげ、にげようサヤ!」
ササはサヤを抱き締め、そのままビーストの向かってくるのと反対側に屋根を転げ落ちる。端に転がっていた何者かの指に触れると同時に、2人の身体は空間歪曲に飲み込まれ、そこから数十m離れた廃墟の陰に転がり出た。

0