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緋い魔女 Act 19

「”あれ”でしたら、多分書庫の辺りにでもいるでしょう」
最近はああいう所に隠れてたりもするんでねぇ…と言って、屋敷の主人はグレートヒェンに向き直る。
「にしても、昼間”あれ”が勝手な行動を…」
申し訳ありません、元々ああいう奴で…と屋敷の主人は面目なさそうに言う。
それに対してグレートヒェンは、謝ることかしら?と首を傾げる。
「…別に、正式な主従ではないのだから、あれ位気にすることでもないと思うわ」
むしろ、とグレートヒェンは屋敷の主人の目を見ながらにこりとする。
「あんな性格だから、今まで多くの魔術師に盥回しにされてきたのねって、よーく分かったわ」
屋敷の主人は驚いたような顔をする。
グレートヒェンは気にせず話を続けた。
「様々な魔術師が大金やら何やらをはたいて自分の物にしては、その癖の強さに耐え切れず、無理に主従として契約しようにもすぐ魔術師が契約を切る代物…」
全く、噂通りだったわ、とグレートヒェンはクスクス笑う。
「そして貴方も、その癖に耐え切れず、従えられないまま…」
グレートヒェンの言葉に、屋敷の主人は恥ずかしそうに俯いた。
「…ふふ、まぁいいわ」
決まりが悪そうにする屋敷の主人を見て、グレートヒェンは話を切り上げて立ち上がる。
「それじゃ、今日はもうお休みさせて頂くわね」
グレートヒェンはそう言うと、屋敷の主人に小さく手を振って廊下へと去って行った。

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緋い魔女(再掲) Act 1

「おぉ、よくぞいらっしゃいました。ささ、な…」
出迎えの挨拶を無視するように、赤毛の少女は屋敷の大きな扉を通り抜ける。
「あぁ、そんなに急がなくても…」
出迎えた屋敷の主は慌てて制止しようとしたが、少女は気にも留めずに屋敷内へと入っていった。
早歩きする少女は振り向くことなく呟く。
「…別に、まだ依頼を受けるとは言ってないのだけど」
「えぇ、それは分かっています」
少女を追いかけながら屋敷の主人は答える。
「ただ、わざわざこんな所まで…」
屋敷の主人はつらつらと長話を始めたが、少女は気にすることなく歩き続けた。
そうこうする内に、2人は屋敷の広間に辿り着いた。
「…まぁ、とりあえずそこの椅子にでも腰かけてください。詳しい話は座ってからしましょう」
屋敷の主人はそう言って少女に椅子を勧めると、使用人たちにお茶を出すよう命じた。
少女が座った様子を見てから屋敷の主人は椅子に腰かけると、要件を話し始めた。
「…では依頼の話を。ここ暫く、領内では動物の不審死が相次いでおります。最初は森にいる鹿なんかが死んでいたりしていたのですが、やがて家畜にも被害が出るようになり…」
少女は屋敷の主人の話を聞きながら、周囲を見回していた。

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校舎の裏

別館の5階のベランダも、教室のベランダも、今日はぼくが一人ボーっとしていられるような場所ではなかった。
売店が入っている建物の入り口に座り込むのも、人の目が気になるし。
というか、今日とうとう先生に絡まれてしまった。
だから誰もいない場所を求めて校内をさまよい…本館の裏に辿り着いた。
普段から、ほとんど人気がない校舎裏。
午後の光に照らされる薄汚れたコンクリートの校舎の壁と、学校の敷地と裏の高層マンションとを隔てる2メートルほどの壁、そして学校の裏にある高層マンションしか見えない風景は、まるで異世界のようで…とても自分が通っている学校に見えなかった。
よく見るとそれなりに手入れがされた植え込みがあり、ガスや水道のメーターの側には、人間が腰掛けるのにちょうどよさそうな段差もある。
よさげな段差に腰を下ろし、上を見上げると学校の裏にある高層マンションが見えた。
大人たちはあのマンションを「邪魔」と言うけれど、ぼくはそう思わない。
マンションのガラス張りのベランダの柵が、光を反射しキラキラと美しいのだ。
今日みたいによく晴れている日には、ガラスの柵が空の青を反射して建物が青く見える。
あんまり綺麗だから、思わず「わ」と声がこぼれてしまった。
もちろん、ガラス柵には空の青だけではなく、学校の傍のビルや学校の本館も少しばかり映り込んでいたが。
それでもぼくは、ガラスの青をしばらく眺めていた。
ガラスの中を雲が流れ、ぼくは秋の日差しの中で誰にも邪魔されずボーっとした。
ここには自分と地を這う蟻んこぐらいしかいない。
と思ったけど、校舎裏をぱらぱらと運動部の子達が通りだした。
ついでに4時台からの用事も思い出したので、ぼくは荷物を抱えてそそくさとこの場をあとにした。
居心地の良い陽だまりと、美しい青空を惜しみながら。

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悪夢

自分の布団で寝ていると、誰かが階下からここへ近づいてくる。
掛け布団を被ろうと手を伸ばすが、寝ぼけているからなのか、上手く腕が動かない。
気付くと自分の布団の側に父親が立っていた。
何かを言っているようだが、よく聞き取れない。
今何時なんだ…?と思いつつ、よく動かない腕でスマホのホームボタンを押す。
すぐにまだこんな時間だよと言わんばかりに父親にスマホを見せつける。
少しだけ見えたホーム画面がいつもと違ったのは気のせいだろうか…

という所で目が覚めた。
なんだ、夢か…と寝ぼけた状態で布団を被ろうとするが、なぜか腕が動かない。
というか、体が動かないのだ。
あれ? これって金縛り…と思ったところで、自分の側から誰かの泣き声が聞こえてきた。
寝ぼけ気味で姿はよく見えないが、「お母ちゃーんお母ちゃーん」と小さい子どもが泣いているようだ。
最初は弟妹かと思ったが、すぐに声が全くの別物だと気づいた。
「幽霊」
その2文字が脳内に閃くと共に、思いっきり目を瞑った。
多分、“奴”に起きているのがバレたら死ぬ、そう勘づいたからだ。
精一杯目を瞑っていると、側に立っている“奴”は泣きながらこの部屋から出て行った。
あー良かった、そういえば二段ベッドの上の段で寝ている妹はこれに気付いてないのかしら…

と思った所で目が覚めた。
全身ジットリと寝汗をかいている。
恐る恐るスマホに手を伸ばすと、画面は2時49分を指している。
布団に入ってからまだ30分くらいしか経ってないのか…
明日も早いから寝なきゃ…と寝ようとするが、また恐ろしい夢を見そうで寝るのが怖かった。

今度こそは、怖い夢を見ることはなかった。