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縁に縛られている

応絢那(イラエ・アヤナ)
性別:女  年齢:10代  身長:160㎝
マジックアイテム:お守り
願い:独りになりたくない
衣装:拘束衣
魔法:縁に縛られる
魔法使いの少女。家庭の問題の影響で孤独に対して異常なまでに恐怖しており、その願いが魔法に反映された。
その魔法を簡単に表すと「自分と何者かを繋ぐ『縁』が残っている限り、決して死ぬことが無い」というもの。自分を知っている者が一人でも生きている限りその『縁』によってあらゆるダメージは『縁』を材料として即座に修復される。ファントムとの敵対ですらそれ自体が『縁』となるため、ファントムとの戦闘中、彼女は絶対に死なない。また、自身を縛る『縁』を鎖として具現化し、武器として操ることもできる。
かつて初めてのファントムとの戦闘にて、肉体の大部分を食われたせいで、魔法でできていない彼女の生来の肉体部位は右脚全体と左腕の肘から先のみであり、それらの部分が己の魔法で『縁』に代替されることも恐れている。これらの部位を軽くでも怪我するとひどいパニック症状に陥り、再生させないために『縁』の鎖で傷口を更に深く抉り続ける。異物が傷口に直接接している限りは『縁』の再生が起きないためである。
思考する脳さえも己の魔法に代替されてしまっているせいで、『自己』というものに自信が持てず、精神は非常に不安定。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑩

種枚さんと犬神ちゃんは、およそ3時間の間、何も言わずその場にじっとしていた。種枚さんは目を閉じたまま脱力しきっており、犬神ちゃんはそんな種枚さんの顔を、何も言わず、微動だにもせず覗き込んでいる。
段々と辺りが暗くなり、完全に日が沈み、夜が更けていく。そのうち、背後に聞こえていた神楽の音も聞こえなくなり、祭りの終わる気配がし始めた。
不思議とここまで、本殿の方には一人も来なかったけれど、ようやく足音が迫ってきた。
「貴様ら。何をしている?」
低い男声に振り返ると、数時間前に会った、狩衣姿のあの男性がすぐそこに立っていた。
「よォ、潜龍の。遅かったじゃないか。友達が来たもんだから、悪いが帰らせてもらうよ」
答えたのは種枚さん。
「フン、馬鹿を言え。鬼の力は完全に封じた。それに加えてこの拘束、逃げられるものか」
会話内容からして、種枚さんをあんな目に遭わせたのは、この男なんだろうか。
「たしかに、ちょっとこれは、しんどい……なっと」
言いながら、種枚さんは腕を思い切り振るった。その勢いで鎖と縄、有刺鉄線は簡単に引きちぎられ、掌を貫いていた刀もあっさりと抜けてしまった。
同じように足もばたつかせ、拘束を完全に振りほどく。紙と木の御札は彼女の体温にやられたのか、真っ黒に焼け焦げていた。
男性の顔を見る。彼は信じられないとでも言いたげに目を見開いていた。
「……馬鹿な…………怪異を封じる札に、怪異を狩る刀を4振りも使ったんだぞ⁉ 有刺鉄線で動きも制限していたはずだ!」
「アァー、結構痛かったんだぜ、あの刃。ほら見ろ、まだ穴が開いてら」
未だ出血の止まらない両手をひらひらと振りながら、種枚さんは冗談めかして言い、本殿からのそりと出てきた。そのまま、これまた出血が続いている両足を引きずりながらこちらに歩いてくる。そして、呆然としている男性とすれ違うその時、足を止めてその肩に手を置いた。
「改めて言っておくぜィ、潜龍の。私は飽くまでも『人間』だ。もしかしたら薄ゥーく鬼の血でも混じっているかもだが……、これから私を捕らえたきゃ、コンクリでも使うんだね。まァ、何されたって出て行ってやるけどな」
そして男性、潜龍さんというのだろうか。彼から離れ、犬神ちゃんに手招きし、上機嫌で駆け寄ってきた犬神ちゃんの肩を抱き、舞殿の方へ歩き去って行った。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑫

「う……タマモ?」
腕の攻撃は空振りに終わったけれど、私を助けてくれたのであろうタマモの方を見ると姿が無い。ぶつけた後頭部をさすりながら周囲を見ると、数m後方でひっくり返っていた。
「タマモ……その、ごめん」
「いや謝るな、感謝しろ。俺のお陰で死なずに済んだんだぞ……痛え」
そこまでのダメージは受けなかったみたいで、すぐに起き上がった。鼻血を流してはいるけれどそのくらいだ。
「ありがと、タマモ。頭はぶつけたけど」
「マジか。次は受け身取れよ?」
「善処する」
そういえば攻撃の手が止んでいた。咄嗟にエベルソルの方に向き直る。さっきまで頑張って破壊していた腕は大部分が再生しているようだ。
「あークソ、せっかくの攻撃が無駄になったじゃねえかよ。大人しく防御だけしとけッてンだよなァ」
「上への攻撃がちょっと密度低かったかも」
「反省会は後だ。削れるのは分かったんだから……もう一度殺しきるぞ!」
タマモはまた光弾を用意してすぐに発射する。
私も光弾を描きながら、描いた傍から撃ち出していく。ほぼ真上に、奴を狙うのでは無く、取り敢えずその場から退かす意味合いで。
「……準備よし。全弾……突撃!」
十分な数を撃ち出したところで、光弾全てを敵の一点、およそ中央に向けて叩き込む。
槍の如く並んだ光弾は、腕の防御を破壊しながら奥へ、また破壊しながら奥へ、どんどん突き刺さり、体幹を破壊した。腕たちの起点を上手く射貫けたようで、腕たちがバラバラに地面に散らばる。
「……ロキお前……すげえな」
「殺せては無いし」
「いやァ……あとは1本ずつ順繰りに処理すりゃ良いだけだからな。9割お前の手柄だよ」
「わぁい」
あとは腕たちを二人で手分けして処理していき、私の初めての戦いは無事に勝利で終わった。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑨

「犬神ちゃん、まさか……」
止めようとしたけれど、遅かった。犬神ちゃんはその戸を勢いよく開け放ってしまったのだ。
薄暗い本殿の奥、大黒柱の根元に、人影が見える。あれは生きた人間……というより、まさに自分たちが探していた種枚さんだった。
大量の拘束具で身動き取れない状態にさせられている、あまりに痛々しいその状況に反して、彼女はリラックスした様子で目を閉じ、眠ってでもいるようだった。
「……今、何時だい?」
不意に種枚さんが口を開く。寝ていたわけじゃ無かったのか。
「まだ3時前だよ。キノコちゃん」
種枚さんに近付きながら、犬神ちゃんが答える。
「そうか。まだそんなものか。犬神ちゃん、これ、外せるかい?」
「無理。できたとしてもやってあげない。キノコちゃん、こないだのデートすっぽかしたでしょ。私、怒ってるんだからね?」
「悪かったよそれは……見ての通りガッツリ捕まっちまっててさ」
「どうせ逃げようと思えば逃げられるくせにー」
「誰だって痛いのは嫌なものさ。じゃ、6時になったら教えておくれよ。うっかりでも祭りに水を差すような真似はしたくないからね」
軽口を叩き合いながら、犬神ちゃんは種枚さんの目の前に座り込んだ。
このあまりに軽妙な空気感に、自分はただ誰かに勝手に入っているのを見られやしないかと不安になることしかできなかった。逆に言えば、それ以外に心配するようなことは、既に無かったと言えた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑪

「……飛んでいけ」
光弾を発射する。タマモのように直線的にでは無く、放物線を描く軌道で、奴を全方向から取り囲むように。
私の放つ弾幕は8割方無事に命中し、敵の腕を順調に命中させていく。
「え嘘、これそんな使い方できンのかよ」
「できるかなー……って思ってやったらできた」
「はぇーお前すげェな。俺は普通に飛ばした方が楽だな」
「そりゃ何も考えず飛ばせるんだから楽でしょ。その分ペース落ちるから、頑張って止めてね」
「そりゃ勿論」
追加で光弾を用意する。半分は放物線、もう半分は着弾の直前で僅かに軌道をずらすように弾道を設定して、一斉に発射する。
発射の瞬間、腕は防御態勢を取ったけれど、ずらした弾がダメージを与えていく。
「タマモ、この戦い方すっごい楽しい」
「そりゃ良かったな」
続く弾幕は、敵の50㎝ほど手前で一瞬停止するように。奴の防御が無駄に空を切り、また腕を破壊していく。
「タマモ、これ良いね。相手の防御無駄にするの楽しいよ」
「……うん、そうだな。お前にはそれが向いてるよ」
次の弾幕を用意していると、エベルソルの上方の腕がほどけ、急に伸長して全方向に向けて拳を繰り出した。私達の方だけじゃなく、周りの彫刻も狙っている。
「っ!」
用意できていた分を全部発射して、彫刻を狙っていた分の腕はどうにか破壊する。
こちらに向かってきた腕はどうしたものか、とりあえず自分の腕で防御しようとして、背後から足を払われ仰向けに倒れた。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑧

犬神ちゃんと一緒に、種枚さんを探しながら本殿の前をうろついていると、不注意で前からやって来た人とぶつかりそうになった。幸いにも向こうが避けてくれたおかげで、衝突はしないで済んだ。
「す、すみません」
「いえ、どうぞお気になさらず。ただ、前方確認は怠らないようにした方が良いかと」
「はい……」
狩衣姿のその男性は、舞殿の方に急ぎ足で去って行った。神楽の出演者だろうか。
ふと、犬神ちゃんの方に向き直る。さっきまで神楽に少しも関心を見せなかった犬神ちゃんだったけれど、今は足を止めて、口も閉じて、舞殿の方をじっと見つめている。
「犬神ちゃん?」
「………………」
「犬神ちゃーん?」
「……キノコちゃん」
「え?」
あの人……は流石に種枚さんではないし……。
「今、キノコちゃんの匂いがした」
「今の人から?」
「んー…………何だろ、分かんない」
「……そっかー」
犬神ちゃんは再び種枚さんの名前を呼びながら歩き出した。その足取りは先ほどまでの当ても無く彷徨い歩くようなものではなく、何か強い意志を感じさせる、たしかな足取りだった。そして。
「…………い、犬神ちゃん? 何してるのかな?」
本殿正面の扉の前で立ち止まり、内部をまたじっと見つめ始めた。

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復讐屋

“復讐屋”
性別:女  年齢:27歳  身長:181㎝
ブラックマーケットの奥深くで「復讐支援業」に従事している女性。本名を知っている人間はごく少数で、腕利きの情報屋ですら名前を探れないでいる。
「復讐とは、過去の因縁に決着を付け前に進むための儀式である」との信念から、顧客たちの復讐の支援を行うべく、情報収集・ターゲットの誘導・武器類の提供を行う。
飽くまでも直接手を下すのは復讐を望む本人であるべきと考えており、「復讐代行」だけは絶対にしないと決めている。
愛銃は6発装填リボルバー式拳銃の〈ジェヘナ〉と5発装填ボルトアクション式スナイパーライフルの〈リンボ〉。実際に発砲する機会は少なく、特に〈ジェヘナ〉には常に1発しか弾丸を入れていない。
仕事で使っているリュックサックは状況に応じて中身が変わるが、ミネラルウォーター500ml×2、携帯食料1日分、アーミーナイフ、防水マッチ30本入り1箱、電気ランタン、合成繊維製のロープ10m、カラビナ4個、ブランケット、〈リンボ〉用の弾薬箱20発×2、〈ジェヘナ〉用の弾丸1発は常備している。
自分の生業については、「死後地獄に堕ちることが確定しているだけでそれ自体は正当な行為である」と認識している。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑩

「しかしまあ……結構だりィぞ」
「何が? ちょっと頑張ればダメージ通せるよ?」
「いやァ……ちょいと俺の攻撃をよォーく見といてくださいよフヴェズルングさんや」
タマモの攻撃が、防御していた腕を数本吹き飛ばす。すぐに別の腕が防御に回って……。
「あ、なるほどー」
千切れていたはずの腕が無くなっている。というか、無事な腕の陰に隠れた隙に再生してるっぽい。
「火力足りてなくない?」
「だなァ。一般市民が通報して応援が来てくれるまで粘るってのもアリではあるンだがよォ……なあロキ」
「何?」
「せっかくの初陣、華々しい勝利ってヤツで飾りたくね?」
「まあ、せっかくならねぇ」
ニッ、と笑ってタマモが1歩踏み出す。
「じゃ、ちょっと頑張ろうぜ」
「うん」
タマモは素早く弾幕の用意をして、それと並行してエベルソルを攻撃している。正面から削り切るつもりだろうか。私も攻撃に参加しても良いけど、私達2人でダメージが追い付くだろうか。せめて全方位から削れれば効率良く倒せそうなんだけれど……。
「あ、良いこと思いついた」
「あ? 何だ、先輩として協力なら惜しまねーぞ」
「引き続き頑張って」
「りょーかい」
少し大きめの光弾をたくさん生成する。そのうち半分は、作るのと同時にエベルソルに飛ばして、タマモの支援をする。
そして、そこそこの数の光弾が貯まったところで、改めてエベルソルを睨む。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑦

石段を上り、鳥居をくぐり、境内に入る。“潜龍神社”は本殿の他に3社の摂社と4社の末社、舞殿があり、敷地の総合面積もかなりのものになっている。
神楽はその中でも本殿の手前に建つ舞殿で行われる。合計で半日もかけるような本格的なものというわけでは無く、7演目を合計4時間ほどかけて舞う構成になっている。
自分は普段、途中で見飽きて帰るのだが、ただでさえ人外のモノが少ない神社境内の中でも、神楽の最中の舞殿周辺には不思議と怪異の姿が見られず、清浄な雰囲気さえ感じられて、その場の空気感自体は好きだった。

犬神ちゃんに手を引かれて舞殿の前を通る。神楽は既に始まっていて、周囲には人だかりができていた。
つい足が止まるが、犬神ちゃんはそちらには全く興味が無いようで、構わずぐいぐいとこちらの手を引いて奥へと進んでいく。仕方なく彼女に従い、本殿の方へ向かう。
「キぃーノーコちゃぁーん、どぉーこぉー?」
犬神ちゃんは辺りをきょろきょろと見回しながら、種枚さんを探し呼びかけている。
「ほら君も、キノコちゃんのお気に入りなんだから一緒にあの子のこと呼んでよ」
「え、あ、はい。……く、種枚さーん」
「声ちっちゃい!」
「えぇ……?」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑨

彫刻から飛び降り、大きな影、エベルソルの下に駆け付ける。青白いヒトの腕が無数に絡みついたような気持ちの悪い姿の化け物が、公園の柵を蹴倒しながら猛然と突っこんできていた。
「おいクソッタレのエベルソル! なァに芸術以外ブッ壊してンだ生ごみ野郎がァ!」
エベルソルに対して挑発するように喋りかけながら、タマモはガラスペンで描いた光弾をいくつもぶつけた。化け物を構成する腕の表面には、弾が当たって焦げ跡ができたけれど、有効打にはなっていないみたいだった。まあ、こちらに気付いてくれたようだけど。
「ああクソ面倒くせェ。コイツそこそこ硬てェぞ」
「わぁ大変」
「お前も働くんだよロキ」
「まあまあ。まだペン使うのに慣れてないんだから……」
ガラスペンを取り出し、タマモに倣ってインキ粒をいくつか描き、エベルソルにぶつける。あまり威力は無かったけれど、練習はできた。こんな感じか。
「理想はここの彫刻全生存。最悪何個か壊れても作者さんに謝りゃ良い。気楽に行こうぜ」
「うん」
タマモがエベルソルの気を引いているうちに、少し走って奴の真横に位置取り、水玉模様の捻じくれた彫刻の陰で光弾のストックをいくつか用意する。小さい弾じゃダメージにはならないみたいだったから、少し時間をかけて大きめの弾にする。
数十個完成させたところで、攻撃に参加しようと彫刻の陰から顔を出す。エベルソルは腕のいくつかを防御のために前方に構えながら、タマモにじりじりと接近している。こちらからは完全に無防備だ。
こちらの用意した光弾のうち、3分の1ほどを一気に叩き込む。無事に奴の腕をいくらか千切り飛ばしたは良いものの、すぐに対応されて防御されてしまった。
「お、やるじゃねーのロキ。次はお前が狙われるぞ」
「えー」
たしかに、エベルソルの進路は私の方に変わっているみたいだ。流石に彫刻を巻き込むのはそれを守る人間として申し訳無いので、陰から出てタマモの方に駆け寄る。
「お前なんでこっち来た?」
「いや、つい……彫刻の少ない方にいたから」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑧

「……そうだ、何か芸術っぽいのが多い所行こうぜ。エベルソルってのは芸術をブッ壊すことに命懸けてる連中だからな」
「なるほどー。それなら“芸術公園”とか?」
「おっ、名案」
通称“芸術公園”。この彩市在住のアーティストが制作した彫刻などの立体作品がそこら中に乱立する市民公園。屋外ステージもあって、ちょくちょくイベントが開かれたりもする、住民たちの憩いの場だ。
「こっからだと歩いて……10分くらいか。お前時間とか大丈夫か?」
「うちは門限とか結構緩いから大丈夫」
「そうかい。じゃあ行こうか」
適当な世間話をしながら、公園に向かう。タマモ、私より2つも歳上だったのか。敬語でなくても構わないと言われたので、言葉遣いはそのままだけど。
「……さて、着いたわけだが」
「いないね、エベルソル」
「いないなァ……」
殆ど日没といった空の下、公園には数人の一般市民が見られる程度で極めて平和そうな日常風景が広がっていた。
「……もう帰って良いかな」
「そう言うなよ。10分くらい時間潰していこうぜ」
「ん」
曲線的なシルエットをした石材製の大型彫刻に登り、公園全体を見下ろす。
「……本っ当に平和。エベルソルって実在するの?」
「一応、10回くらい遭ったことはあるんだけどなァ……」
少し離れたところに立っている時計をちらと見やる。もうすぐ5時か。
「5時まで何も無かったら帰って良い?」
「良いんじゃね?」
そのやり取りを終えた瞬間、まるで見計らっていたかのように大きな影が公園に近付いてきた。
「……あーあ、フラグ立てたりするからよォ」
「むぅ、まあ戦い方も考えたいし良いか」

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シラー

「誰かが隣にいる」
そんな未来が良かったな
スタート地点は多分私だけ遠くて
誰も隣に居ない
居たとしても寄り添ってはいなくて
ゴール地点までは多分地球1周くらいあるんだろう

知らないあの子が楽しそうに笑ってる
私は一人 睨んでしまいそうで
でもそんなこと私はしたくないから
一人で立ちすくんでしまう

今頃みんなで連絡を取って
楽しそうに笑ってるんだろうな
私はその輪の中には居なくて
次あの子達と会っても誰とも話せないんだろうな

誰かと仲良くなって
分かり合ってバンドを組んで
そんな未来を思い描いていたのにな
誰も隣に居ない
居たとしても分かり合えてはいなくて
思い描いている人は一体どこにいるんだろう

知ってるあの子も楽しそうに笑ってる
その目に私は映っていない
「寂しいよ」「一緒に居てよ」なんて
言ってしまえたらいいのにな

今頃私と連絡を取ろうなんて
考えもせず笑ってるんだろうな
あの子達とはいくら待っても
私が送らないとメールも何も来ないんだろうな

今頃みんなで知らない話題で
楽しそうに笑ってるんだろうな
私の事なんてほぼ知られてなくて
次あの子達と会っても話せないんだろう

今頃私と話してみたかったなんて
言ってる人は居ないんだろうな
あの子達とはいくら待っても
話すことなんてできないんだろうな

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑦

「……もうこんな時間か」
タマモの独り言に壁掛け時計を見ると、15時過ぎだった。
「なァ、ロキ。暗くなる前にチュートリアルといかねェか?」
「良いね。インキ弾の使い方、私も練習してみたいし。エベルソルってどこに出てるか分かる?」
「いや分からん。たまにお偉いさんから『どこそこに行け』って言われることもあるけど、今は特に何も無いからな。適当に怪しいポイントをぶらついて、遭遇出来たらブチのめすって感じだな」
「なるほどー。私、化け物と戦った事なんて無いんだけど……」
「誰だって最初はそうだよ。俺だってまだ両手の指に足りる程しか戦った事無ェもん」
「それもそっか」
「そうだよ」
タマモが椅子から立ち上がった。私も席を立つ。
「……じゃ、行くか」
「うん」

彼について歩き、フォールム本部を出る。彼は市街地に向けてのんびりとした足取りで歩いていた。
「……なァ、ロキ。どっか行きたい場所無ェか?」
「んー……あんまり強くないエベルソルがいるところ?」
「お前大分贅沢な注文するなァ……」
苦笑しながらも、タマモは迷いなく商店街に入っていった。そのどこかに用事があるのかとも思ったけど、特にそういうことも無かったみたい。青果店で果物の並ぶ棚をじっと見ていたくらいで、結局通り抜けてしまった。
「……最近は何でも高くて良くねェ。果物なんか簡単に買えないモンだから、ビタミン摂るのが面倒だぜ」
「野菜ジュースとかオススメだよ」
「あれ、あんま好きじゃねェんだよなー」
「ふーん」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑥

フォールム本部内を1周して、あの部屋に戻ってきた。タマモは設備について逐一教えてくれたけど、様子を見ていた感じ、半分くらいは彼も初めて入った場所だったようだ。
彼が少し血のついたままの椅子に掛け、促されて私も向かいの席に座る。
「最後にここが、数ある休憩室の一つだ。最序盤でスルーした部屋は全部休憩室だな。誰がどこ使うとかは決まってねェけど、リプリゼントルは好きに使って良いことになってる」
「へー……」
「さて……施設内見学は終わったが、何か質問とかあるか?」
「はーい、ありまーす」
「何でしょうフヴェズルングさん」
「タマモせんせー、私、絵が全く描けないんですけどどう戦えば良いんですか? このガラスペンで何かを描いて戦うんですよね?」
「あー…………」
タマモはしばらく目を泳がせ、テーブルに備え付けられていたメモ帳のページとボールペンをこちらに差し出した。
「ロキお前、犬と猫を描き分けられるか?」
「…………」
とりあえずペンを取り、さらさらと2つの絵を描いてみる。なかなかに酷い出来の、辛うじて四本足の何かと分かる絵が並んでいた。
「すげェや、違いがある事しか分からねえ」
「お恥ずかしい限りで……」
「別に恥ずかしいことじゃねェよ。俺も絵はド下手だ」
そう言いながら、タマモはページをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「じゃあ、タマモはどうやってるの?」
「こうしてる」
ニタリと笑い、彼はガラスペンを取り出した。そのペン先からインキが垂れ、空中で一つの球形にまとまる。
「……さっきの紙捨てなきゃ良かったな。まあ良いや」
彼はメモ帳から新たに1ページ破り取り、宙に放った。そしてひらひらと落ちてくるページ片に、インキの球体、いや、弾丸を発射し命中させた。
「おー」
自然と拍手が出る。
「複雑なモン描けねェなら、単純なモンを武器にすりゃ良いんだ」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 ②

あたしはフンと鼻を鳴らした。
「意味不明な奴」
さっさと奪いたいなら奪ってしまえば良いのにとあたしは呟く。
ヴァンピレスはそれを聞いてうるさい!と声を上げた。
「貴女、大人しくわらわの餌食に…」
ヴァンピレスはそう言って白い鞭を振り上げる。
あたしはもはやこれまでかと目をつぶった。
しかし鞭が振り下ろされることはなく、代わりにヴァンピレスがうっとうめく声が聞こえた。
あたしが目を開くとヴァンピレスが白い鞭を振り下ろそうとする体勢で動きを止めていた。
「⁈」
あたしが驚いていると背後から聞き馴染みのある声が聞こえた。
「穂積」
思わず振り向くと、短髪で前髪をカラフルなピンで留めた、瞳を青白く光らせた少女が立っていた。
「…”フロスティ”⁈」
あたしがつい声を上げると、彼女はこちらへ駆け寄ってくる。
「逃げよう、穂積」
「え、でも」
「さっさと逃げようか」
フロスティはあたしの手を引いて元来た方へ走り出した。
暫くあたし達は走り続け、気付くと駄菓子屋の前まで辿り着いていた。
「ここなら大丈夫だね」
駄菓子屋は異能力者の緩衝地帯だし、とフロスティはあたしの方を振り向く。
その目はもう光っていなかった。
「…雪葉、どうして」
「どうしてもこうしても、親友がピンチだったからうちが助けてやったんだよ」
あたしの言葉を遮るように、フロスティこと雪葉はあたしの顔を覗き込む。
「あんたさ、たまに悩み事を1人で抱え込む事があるからよく警戒してたんだよ」
最近怪しいと思ってたら、案の定だったと雪葉は笑った。
「別に、あんたに助けて欲しいなんて」
あたしはそう言いかけるが、雪葉は友達なら助け合うのが普通だと思うよーと続ける。
「特に親友ならなおさら」
雪葉はそう言ってウィンクした。
「…もう」
あたしは呆れたように呟いた。

〈番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 おわり〉

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 ①

路地裏というものはアングラな雰囲気を纏っている事が多い、とよく言われる。
大通りに対して建物が密集しており空も狭く見えるし、上から入ってくる光も限られる。
だから”常識の外の存在”も当たり前に存在するのだ。
例えば、この路地裏を歩くあたしのような…
「うふふふふふふ」
不意に聞き覚えのある高笑いが聞こえたので、あたしはパッと顔を上げる。
しかし周囲を見回しても誰もいない。
一体奴はどこに、とあたしが思った所で後ろの首筋に気配を感じた。
「ご機嫌よう」
チョウフウ、と背後に真っ直ぐな棒状にした白い鞭をあたしの首筋に突き付ける少女…ヴァンピレスは言う。
自分の後ろに回っているため顔は見えないが、きっとその顔は笑みを浮かべている。
「…何の用」
あたしが聞くと、ヴァンピレスは貴女にお知らせがあって来たのと答える。
何、とあたしが聞き返そうとした時、ヴァンピレスはこう言った。
「貴女を利用するの、やめにしたわ」
「は?」
あたしは思わず振り向く。
「何で…」
「単純に貴女の事が、”彼ら”に気付かれてしまったからよ」
淡々としたヴァンピレスの言葉にあたしは…なるほどと呟く。
「あの常人と死霊使い達にあたしがアンタと繋がっている事がバレたから、消しに来たって訳ね」
あたしがそう言い切ると、ヴァンピレスはうふふふふと笑った。
「貴女を消してしまうのはもったいないかもしれないけど、どちらにせよ貴女の異能力は使わせてもらうから感謝なさい」
「感謝なんてするかよ」
あたしは思わず言い返す。
「あんた、あたしの親友の異能力を奪おうとしやがって、それを止めようとしたらその代わりにあたしに協力を持ちかけてきて…」
こんな自分勝手な奴に感謝なんてしな…とあたしが言いかけた所で、やかましい‼とヴァンピレスは声を上げる。
「特別使える訳でもない異能力のクセに偉そうな口を利いて…!」
せっかくわらわが奪おうとしてやっているのに…と彼女は身体を震わせる。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑤

「……外が騒がしくなってきたねェ」
“潜龍神社”の本殿、その中で厳重な拘束を受けながら、種枚は祭りの喧騒を聞いていた。
「残念なことだ、私、お祭りの雰囲気は好きなんだぜ? 人間どもが心底楽し気で、慌ただしくて…………しかしまァ」
扉から視線を外し、自身を拘束する道具類に目をやる。
両手首を拘束し、大黒柱の裏を通って腕の動きを妨げる錠。両足を床面に固定拘束する枷。全身に巻かれた荒縄と鎖。無理に振りほどこうとすれば身体に食い込むよう、手足と首にきつく巻かれた有刺鉄線。怪異に対して威力と拘束力を持つ紙製の札と木札、注連縄。そして、両手と両足を貫き縫い留める、4本の短刀。
「本ッ当に、厳重だねェ。私が何であろうと、意地でも逃がさないって感じだ」
拘束を眺めるのをやめ、再び屋外に通じる引き戸に目をやると、数秒遅れて静かに戸が開いた。
「おっ、やっと出してくれるのかい? 私も祭りを楽しみたいんだが?」
「許すわけが無いだろう、鬼子め。貴様がまた逃げ出しでもしないかと巡視に来ただけだ。こちらも忙しいのでな」
尊大な態度で答えるその青年に、種枚も挑戦的に睨んで応えた。
「……しかしまあ、前に捕まえた時と比べて随分とアクセサリィが増えたな? 素敵な持て成しじゃないの」
「2週間も拘束していて、水の一滴すらやっていなかった状態から逃げられたんだ。これでも足りないくらいだろう」
「あァ、あの時はしんどかったなァ」
「……そして今回は、そろそろひと月になるか?」
「そうだねェ。さすがに空腹がキツいや」
「……化け物め」
青年はそう吐き捨て、本殿から出て行った。

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花の魔女

・嫦娥 Jouga
年齢:不明(10代中盤くらい)
性別:女
身長:158cm
体重:身長に見合った重さ
通称:花の魔女
登場作品:なし(自分の中でボツになった作品の登場人物)
科学と非科学、人間と人外が共存する“都市”に暮らしている何でも屋の少女。
薄いウェーブがかったピンク色の長髪で、いつも白やピンク系のロリィタ服を着込んでいる。
“花”にまつわる魔法を使いこなす所から“花の魔女”と呼ばれることも多い。
魔法がかかった白い日傘を持ち歩いており、これをさすことで飛行することも可能。
何でも屋としては“都市”で起こる大小様々な事件・騒動の解決を生業にしており、“都市”に跋扈する様々な住民・勢力から一目置かれている。
元々は“都市”の中心部にある、”都市“の治安を守りそこに住む人間の権利を保障するために作られた機関“政務局”の人造人間による治安維持特殊部隊隊員のプロトタイプ。
幼い頃はずっと“政務局”のタワー内にある研究室で暮らしていたが、治安維持特殊部隊の創設に反対する“政務局”内のある派閥に依頼されたとある何でも屋によって外へ連れ出された。
“嫦娥”という名前は彼女を連れ出したとある何でも屋に付けられた名前であり、元々は“ヌル”と呼ばれていた。
このような経緯から“政務局”の関係者とはバチバチに仲が悪く、特に自分を元に量産された存在である治安維持特殊部隊の隊員とは遭遇するだけで壮絶な戦いが始まったりもする。
ちなみに彼女を引き取った何でも屋はとある仕事の最中に行方不明になっている。

〈都市〉
科学と非科学、人間と人外が共存する大都市。
かつては世界有数の大都市だったが、とある大災害で壊滅した後人間たちから隠れていた人外や非科学的存在が表に出始め跋扈するようになった。
様々な勢力が存在し、時に協力したり時にいがみあったりしながら均衡を保っている。
一応政治機関として“政務局”が存在しているが、この機関は“都市”をかつてのような人間だけのものにするための組織であり、非科学的存在を否定するが故に“都市”の様々な勢力と衝突を繰り広げている。
過去の大災害の爪痕があちこちに残っているが、人間や人外たちによって活気に溢れている。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑤

「クッソ負けた……人を操ることについては自信あったんだけどなァ……完璧にそっちのペースだったな」
そう言われて、少し得意げになってしまう。当然だ、これが私の『芸術』なんだから。
「それじゃあ、そっちから教えて?」
「……俺の芸術は…………何て言えば良いんだろうな。……敢えて言うなら、そうだな、『扇動』が近いかな。芸術ってのは、人の感情を揺さぶり動かすものだろ?」
頷き、続きを促す。
「言葉で、リズムで、テンポで、環境で。あるものと使えるもの全部使って、人の感情を動かし操る。それはもう芸術だろ」
「……言われてみればそんな気がしてきた」
タマモの表情がぱっと輝いた。
「だろー? あの野郎はそれが分からねえから駄目なンだよ。顔料か旋律が無きゃ芸術じゃねェと思ってンだぜ?」
「それは良くない」
これは間違いなく私の本心だ。私の芸術も、そういうものだから。
「で、ロキ。お前はどういう『芸術』を使うんだ?」
「んー……『展開の演出』、かな。ボードゲームなんかだとやりやすいんだ、ルールで縛られてるから。ゲームっていうのは物語の創出だから、より面白い展開を描くために勝敗を捨てて『人』と『運』、『場』を都合のいいように操作する」
「なァるほどォ……道理で負けたわけだ」
「お褒めに与り光栄至極」
「ハハッ、くるしゅーない」

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