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緋い魔女 Act 32

罠、とナツィは反復する。
「あの精霊、私達の前に現れてもすぐに姿を消してしまったでしょう?」
だから逃げないように、人間にも見える状態で捕らえておくの、とグレートヒェンは続ける。
「そして捕まえた所を倒すのよ」
グレートヒェンは得意げにそう言った。
ナツィはふーん、と頷く。
「さすがに1日でかかるとは思ってないけど、罠は複数作るつもりよ」
でも牧羊地なんかに作ると何も知らない一般人に危害を与える可能性があるから、人のいない森にだけ張るわ、とグレートヒェンは言う。
ナツィは黙って聞いていたが、グレートヒェンが話し終えた所でこう尋ねた。
「お前、精霊を見える状態で捕らえておくって言ってたけど…わざわざお前が見えるカタチにする必要ある?」
俺なんて大抵の精霊は普段から見えているし、俺が"アレ"を倒すのならお前に見えなくても問題ないだろ、とナツィは真顔で言う。
「別に良いじゃない」
グレートヒェンはつまらなそうに答えた。
「ちゃんと精霊を倒したか確認する必要だってあるし…それにお前、昼間の時は精霊が姿を現してから気付いてたじゃない」
グレートヒェンにそう指摘され、ナツィはぎくっ、と気まずそうな顔をする。

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緋い魔女 Act 19

「”あれ”でしたら、多分書庫の辺りにでもいるでしょう」
最近はああいう所に隠れてたりもするんでねぇ…と言って、屋敷の主人はグレートヒェンに向き直る。
「にしても、昼間”あれ”が勝手な行動を…」
申し訳ありません、元々ああいう奴で…と屋敷の主人は面目なさそうに言う。
それに対してグレートヒェンは、謝ることかしら?と首を傾げる。
「…別に、正式な主従ではないのだから、あれ位気にすることでもないと思うわ」
むしろ、とグレートヒェンは屋敷の主人の目を見ながらにこりとする。
「あんな性格だから、今まで多くの魔術師に盥回しにされてきたのねって、よーく分かったわ」
屋敷の主人は驚いたような顔をする。
グレートヒェンは気にせず話を続けた。
「様々な魔術師が大金やら何やらをはたいて自分の物にしては、その癖の強さに耐え切れず、無理に主従として契約しようにもすぐ魔術師が契約を切る代物…」
全く、噂通りだったわ、とグレートヒェンはクスクス笑う。
「そして貴方も、その癖に耐え切れず、従えられないまま…」
グレートヒェンの言葉に、屋敷の主人は恥ずかしそうに俯いた。
「…ふふ、まぁいいわ」
決まりが悪そうにする屋敷の主人を見て、グレートヒェンは話を切り上げて立ち上がる。
「それじゃ、今日はもうお休みさせて頂くわね」
グレートヒェンはそう言うと、屋敷の主人に小さく手を振って廊下へと去って行った。

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緋い魔女(再掲) Act 1

「おぉ、よくぞいらっしゃいました。ささ、な…」
出迎えの挨拶を無視するように、赤毛の少女は屋敷の大きな扉を通り抜ける。
「あぁ、そんなに急がなくても…」
出迎えた屋敷の主は慌てて制止しようとしたが、少女は気にも留めずに屋敷内へと入っていった。
早歩きする少女は振り向くことなく呟く。
「…別に、まだ依頼を受けるとは言ってないのだけど」
「えぇ、それは分かっています」
少女を追いかけながら屋敷の主人は答える。
「ただ、わざわざこんな所まで…」
屋敷の主人はつらつらと長話を始めたが、少女は気にすることなく歩き続けた。
そうこうする内に、2人は屋敷の広間に辿り着いた。
「…まぁ、とりあえずそこの椅子にでも腰かけてください。詳しい話は座ってからしましょう」
屋敷の主人はそう言って少女に椅子を勧めると、使用人たちにお茶を出すよう命じた。
少女が座った様子を見てから屋敷の主人は椅子に腰かけると、要件を話し始めた。
「…では依頼の話を。ここ暫く、領内では動物の不審死が相次いでおります。最初は森にいる鹿なんかが死んでいたりしていたのですが、やがて家畜にも被害が出るようになり…」
少女は屋敷の主人の話を聞きながら、周囲を見回していた。

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校舎の裏

別館の5階のベランダも、教室のベランダも、今日はぼくが一人ボーっとしていられるような場所ではなかった。
売店が入っている建物の入り口に座り込むのも、人の目が気になるし。
というか、今日とうとう先生に絡まれてしまった。
だから誰もいない場所を求めて校内をさまよい…本館の裏に辿り着いた。
普段から、ほとんど人気がない校舎裏。
午後の光に照らされる薄汚れたコンクリートの校舎の壁と、学校の敷地と裏の高層マンションとを隔てる2メートルほどの壁、そして学校の裏にある高層マンションしか見えない風景は、まるで異世界のようで…とても自分が通っている学校に見えなかった。
よく見るとそれなりに手入れがされた植え込みがあり、ガスや水道のメーターの側には、人間が腰掛けるのにちょうどよさそうな段差もある。
よさげな段差に腰を下ろし、上を見上げると学校の裏にある高層マンションが見えた。
大人たちはあのマンションを「邪魔」と言うけれど、ぼくはそう思わない。
マンションのガラス張りのベランダの柵が、光を反射しキラキラと美しいのだ。
今日みたいによく晴れている日には、ガラスの柵が空の青を反射して建物が青く見える。
あんまり綺麗だから、思わず「わ」と声がこぼれてしまった。
もちろん、ガラス柵には空の青だけではなく、学校の傍のビルや学校の本館も少しばかり映り込んでいたが。
それでもぼくは、ガラスの青をしばらく眺めていた。
ガラスの中を雲が流れ、ぼくは秋の日差しの中で誰にも邪魔されずボーっとした。
ここには自分と地を這う蟻んこぐらいしかいない。
と思ったけど、校舎裏をぱらぱらと運動部の子達が通りだした。
ついでに4時台からの用事も思い出したので、ぼくは荷物を抱えてそそくさとこの場をあとにした。
居心地の良い陽だまりと、美しい青空を惜しみながら。

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悪夢

自分の布団で寝ていると、誰かが階下からここへ近づいてくる。
掛け布団を被ろうと手を伸ばすが、寝ぼけているからなのか、上手く腕が動かない。
気付くと自分の布団の側に父親が立っていた。
何かを言っているようだが、よく聞き取れない。
今何時なんだ…?と思いつつ、よく動かない腕でスマホのホームボタンを押す。
すぐにまだこんな時間だよと言わんばかりに父親にスマホを見せつける。
少しだけ見えたホーム画面がいつもと違ったのは気のせいだろうか…

という所で目が覚めた。
なんだ、夢か…と寝ぼけた状態で布団を被ろうとするが、なぜか腕が動かない。
というか、体が動かないのだ。
あれ? これって金縛り…と思ったところで、自分の側から誰かの泣き声が聞こえてきた。
寝ぼけ気味で姿はよく見えないが、「お母ちゃーんお母ちゃーん」と小さい子どもが泣いているようだ。
最初は弟妹かと思ったが、すぐに声が全くの別物だと気づいた。
「幽霊」
その2文字が脳内に閃くと共に、思いっきり目を瞑った。
多分、“奴”に起きているのがバレたら死ぬ、そう勘づいたからだ。
精一杯目を瞑っていると、側に立っている“奴”は泣きながらこの部屋から出て行った。
あー良かった、そういえば二段ベッドの上の段で寝ている妹はこれに気付いてないのかしら…

と思った所で目が覚めた。
全身ジットリと寝汗をかいている。
恐る恐るスマホに手を伸ばすと、画面は2時49分を指している。
布団に入ってからまだ30分くらいしか経ってないのか…
明日も早いから寝なきゃ…と寝ようとするが、また恐ろしい夢を見そうで寝るのが怖かった。

今度こそは、怖い夢を見ることはなかった。

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『抗議 畢竟猫には敵わない』上

 不本意に頭を悩ませているそこの人間は、どうやら言葉が上手くないことを自認しているらしい。よく4本足の高台に向かって何やら作業しているのを見るが、本日はその作業のお供であるペラペラの爪とぎと、追いかけ回したくなる細い棒はない。どうやら、“しごと”に向かっているわけではないようだ。
 先に4本足の高台といったが、別に届かない高さなんかじゃない。距離を測り、少しぐっと踏み込むだけで、ほら。着地はお手の物である。
 それにしてもこの人間、いつもならこうするだけで目を丸くし、顔をほころばせるというのに、本日はどうしたものか。“すまほ”に向かってうなっている姿は、さながらけがをした子どものよう。……けがをしているのか?
 この人間には、ごはんを用意させている。住処を整えさせている。日々、撫でさせてやっている。……けがをしているとなると、問題である。自分の生活に影響が生まれるからである、あくまで。
 顔をすりつけると、この人間は喜ぶ。それを知っている。たまには喜ばせてやるのも悪くはない。
「わ。どうした、今日は甘えたさんだな」
 喜ばせてやっているだけぞ、勘違いするでない。
 それにしても、一瞬の曇った顔をみたぞ。何がどうしてそんな表情にさせるのだ。やはり、けがなのか。
「にゃー」
 本日は“さーびす”である。人間は“さーびす”が好きだ。
「おしゃべりなんて珍しいな。構ってほしいのかー?」
 笑ってはいるが、なんだかさみしそうだぞ、人間。もしかして、けがをしているのはもっと他の部分なのか。
 それにしても、撫でる技術が上達している……ううむ、意思疎通が図れたのならば、褒めて遣わすというのに。
「お互いの言葉が通じなければ、信頼関係だけで成り立っていたかな」
 ……何を言っているのだ?

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〜二人の秘密〜番外編 長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです!

今日はいつものように彼女に引っ張られアルの部屋に行くと、ピクニックに行く事になった。
『飲み物くらい持っていくか。』
私は飲み物を持って校門へ行くと1番乗りだった。

「先生早いね!」
私が飲み物を持ってきたというと彼女は笑ってサンドイッチを持ち上げた。
“遅くなってすみません!”
アルも来て3人そろったので、私は口を開いた。
『人がいないところに行って魔法で移動しようか。』
“そうですね。”
アルもそう返事をしたので人気のない所へ行った。

『こっちにおいで。』
「どうするの?」
彼女を手招きすると少し不安そうな顔をした。
『手を貸して。アル、準備はできたな?さぁ、君は目を瞑って。離すんじゃないぞ。』
私がそう言うと、彼女はギュッと目を瞑り、恋人繋ぎで手を離さないように握った。
アルと目を合わせると、彼女の言う「綺麗な魔法」で移動をした。
私が『もう開けてもいいよ。』と声をかけると彼女は目を開け、綺麗な草原に見とれていて、嬉しそうだった。
彼女は持って来たレジャーシートをアルと広げる。
そして、真ん中に座るとランチボックスを広げ両脇に座るよう私達に指示を出した。

“これは美味しい!”
「でしょ!?昨日ちゃんと作ったんだよ(笑)?」
『昨日から考えてたのか(笑)?』
「うん(笑)。サプライズ。」
彼女は可愛らしく笑うと、残りのサンドイッチを口に入れる。
“ほんと美味しかったよ。”
『ごちそうさま。』
私がそう言ったとき、彼女は空を向いて寝転んだ。
「今日、凄く良い天気だね!このまま寝ちゃおっかな。」
“それ乗った。”
アルがそう言って眠りに着こうとしたとき、彼女はもうすでにスヤスヤと寝息をたてていた。
そして5分も経たないうちに2人とも眠ってしまった。

私は2人の寝る横で、可愛らしい寝顔を眺める事にした。
快い風と太陽の温もりが優しく包み込み、気持ち良さそうだった。
彼女が起きてしまうまで、私はそっと二人の寝顔を見守った。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

「先生!!捕まえたっ!!」
私は先生を見つけると、右腕を後ろから引っ張った。
『おぉ、なんだ?今日の授業わからなかったか?』
「いや、全然わかったよ?なんで?」
『君がいつもと違う捕まえ方をするから聞いただけだ。』
「あれ?いつもこんな感じじゃないっけ?」
『掴まれたことはなかったはずだ。』
「あ、痛かった?」
『いいや、痛くはないさ。そんなことより、私に用事があったのだろう?』
「あぁ、そうそう。倫理についてなんだけどね。」
『倫理?』
「うん。私のクラスは選択科目で成り立ってるでしょ?だから、その選択科目のせいで倫理の授業が受けられないの。」
『そうだったな。選択科目のせいで、私も君と授業ではなかなか会えないのだったな。』
「別に選択したくて、選択したわけじゃないよ。やりたくないものをやってる。嫌だって言ったら、学校辞めて働けって言われるし。やりたいことできないのにここにいる意味は、先生に逢えるっていうそれだけよ(笑)。」
『そうか。』
「そう。それでね、先生に倫理を教えてほしいの。」
『私は倫理の担当ではないが?』
「でもそういうの得意でしょ?」
『あぁ。確かに。教えられなくもない。』
「先生。約束ね。放課後、先生の空いてるときに授業してよ(笑)。」
『もちろんだ(笑)。』
「そういう先生大好きよ(笑)。じゃあ、また後でね(笑)。」

『待て。』
先生は次の授業に行こうとした私を呼び止める。
「何??」
『辛くなったら、またおいで。いつでも私は待ってる。いつもお互いがお互いを必要としている(笑)。』
「知ってる(笑)。私もこの間、先生の事待ってるって言った気がする(笑)。じゃあ、授業始まっちゃうから行くね!!」
『あぁ。』
「私、先生の事は大好きだよ(笑)。」
イタズラに笑うと教室の方向に足を向ける。

次の授業は選択科目。
先生の笑顔が、私をそっと救ってくれる。
もう少しだけ頑張ろう。
そう決意して教室の扉を開けた。