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復讐代行〜第15話 不止〜

橘を先頭に4人でゾロゾロと廊下を歩く。
この違和感まみれの様子が周囲に生み出す余波は私たち2人にとっては不快であり、恐怖であった。
「あれ誰?」「なんか釣り合わない」「ブスが際立つ」
「いや、イケメンの引き立て役か」「…」
こんなもの何日も喰らえばノイローゼになるだろう。
味わったことも無い気持ち悪さにこれまでのことを後悔しそうになる。それでも後悔の0コンマ1秒後にはその全てを彼らへの復讐心に変えた。
“私はもう…戻れない…”
「ねぇ、」
気づけば橘に声をかけていた。
「なんだ?青路」
“私”の少し驚いた反応を確認した上で
「さっきなんて言ったの?まさかほんとにあの子を…」
そこまで言いかけたところで小橋が割り込んできた。
「お前な、そんなわけないだろ?それともお前にそういう気があるのか?」
正直、そう返されるとは想像していなかった。
「は、はぁ?お、俺はただ!」
「そう動揺するなよ、蓮にも考えがあるんだろうからさわざわざちゃちゃ入れんなよ」
「青路、俺らは友達だが別に何もかも話さなきゃいけないわけじゃない、お前も俺らに話してないことあるだろ?例えば…」
さすがだ、体のことに気づいているとは思わないがそれをこぼしてしまいそうになる脅迫の目をしている。
“こいつを…私の手で…”
「こういうのはギブアンドテイクってもんだろ?話すならお前も話すことだ」
これで迂闊に踏み込めなくなってしまった。
“どうする…これじゃ…二の舞…”
何事もなかったかのように再び歩を進める橘と小橋について行くことしかできない自分に腹が立つ。
その気持ちをグッと堪え“私”の差し出す手を振り払った。

to be continued…

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沢山を貰った推しへ…いいえ、貰った沢山の教え

今日推しが卒業を発表した
そのことを知ってからタイムフリーで追いかけることしかできない自分に今日ばかりは腹が立つ。
アイドルを好きという人はいるが、よっぽどアイドルを目指していない限り、尊敬していると言う人はそうそういないんじゃなかろうか。
正直、彼女に出会わなければいくらドルオタと言えど、生き方を尊敬するなんてことを思わなかったんじゃないかとさえ思う。
「真ん中だけがアイドルじゃない」
「王道じゃないアイドルが市民権を得るまで」
彼女はいつも惜しみない努力と数え切れない希望を僕らに見せてくれていた。
彼女は功績を自分のものとはついに一言も言わなかった。
感謝を必ず述べ、レギュラー番組の告知は必ず主語を複数形で書かれていた。
求められることに全力で応える。
口にするのは簡単だし、誰だってそのつもりでいるだろう。
でも彼女は誰かが望むこと、それがたとえ少人数でも、手が空けば、可能ならば必ず応える。
「王道じゃないから」
そんな言葉は彼女になかった。
最後までそれを突き通し、メンバーを思い、リスナーを思い、関係者を思い、全ての人を尊重した彼女はかっこよかった。最後までかっこよかったんだ。
こんな感情はなかなか出会えないだろう。
ならば今、僕がすべきことは悲しむことや縋ることじゃない。

はじめて尊敬したアイドル、
彼女の新たな門出を前向きに送り出すこと。
彼女の意志を尊重したい。
彼女の真意を少しでも汲める自分でありたい
そういうファンであることが
彼女を尊敬する者としての礼儀だと思うから

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復讐代行〜第13話 交代〜

「やめてやってくれ」
彼のその一言は荒ぶっていた女子陣を黙らせるには十分だった。
当然彼らは笑っている。
その態度は火に油を注ぐようなものだ。
女子陣は激昂しそうな感情を押さえ込んでいる…がそれも限界に達した。結果矛先は向いてはいけない方向へと…
「どうして!?どうして、そんな女を!そんな…ただの陰キャ…いや…根暗クソ陰キャなんかを!」
女子陣のひとりがそう叫び、橘に向かって拳を振りかざす。橘は避けるでも止めるでもなく、そのまま喰らう。
目の前で起きたまさかの事態に俺は言葉を失った。
そしてその沈黙は数秒続いた。
全員が我に返った瞬間に彼女は泣き崩れる。
嗚咽の中に籠る謝罪の中に“闇子”の影もなかったが、特段気にすることはなかった。
その光景にまた全員が次の言葉を探しながらもそれを見つけられずにいる時間が流れる。
実際の時間はものの数秒なのだが体感はとても耐えられない程に長く感じられた。
「何か言ってよ…ねぇ!蓮!なんか言いなよ!」
嗚咽が落ち着いたのか、さっきよりも聞き取りやすい
それでも橘は何も言わない。
「どうして何も言わないの!」
彼女の怒りは何となく次のフェーズに入ったようだ。
今なら多分この体くらいは逃げられるとも考えたが刺激する可能性は避けるのが妥当だった。
「おい…━━━━━━━」
たまらず小橋が橘に耳打ちをする
橘は少し笑って小橋を制し、そっと彼女の元に歩き出す
グッと顔を近づけ、今度は橘が彼女に耳打ちをする
少し間が空いて、彼女は驚いた顔で飛び退いた。
内容はわからなかったが、彼女の涙が止まった様子からして私に関する何かであろうとは想像が着いた。
「分かったら今日はもう帰ってもいいかな?青路のおかげで“闇子ちゃん”に奢らなきゃいけないからね」
「おいおい」
“俺”はやや反応が遅れながらも愛想笑いを浮かべる。
そうして放課後の第1幕が終わった。
“しかし…あの時彼は一体何を…?”

to be continued…

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復讐代行〜第12話 接触〜

4人で揃って教室に入る。
どう考えても男子3人がサボっていることを示しているがこの教室ではその光景はサボりなんかよりもずっと大きな違和感を意味していた。
「橘、小橋、桐谷、お前らまさかサボってたんじゃないだろうな」
「まさか!ちゃんと保健室まで送ってましたよ」
「その割に喪黒も元気そうだが?」
「そりゃあ、僕らが頑張って…なぁ」
「そうなんです!先生!ただ誤解を解いてただけなんです!」
多分これはやらかしている
完全に私だけが浮いている
しかしもはや後には引けなかった
同じように“私”も覚悟を決めた目をしていた。
「そこに少し仲裁で入ってたんですよ、なので勘弁してくださいよ先生」
口を開きかけた“私”を制止して橘がそこをまとめる。
この瞬間、教室がざわついた。
正体不明の違和感はこの授業が終わるまで続いた。
一部の女子ではその日中その話題で持ち切りになっていたようだが。
「あんたさぁ、何なの?さっきの態度」
予想通り彼女達は“私”に突っかかる。
傍から見ているとセリフも何もかもが典型的すぎてもはや笑みすらこぼれる。なぜならこの後、
「やめてやってくれ」
そう言って橘が現れるのだから
何の冗談だろうか、いつもは私をいじめていた女子共が味方だと思っていた男に裏切られる。
しかもそれによって守られるのが“私”だなんて
しかし同時に私もかつてないほど滑稽だった。
自ら望んで体を入れ替え、復讐の機会を伺って
そのうちにあろうことか“私”が救われてしまう
それも自分が復讐しようとしていた相手に救われたというのだからどうしようもない。
思わず笑みがこぼれてしまう。
“これで復讐が終わっていいのか?”
体が私に問いかける。
“受けた屈辱は1度救われたくらいで報われるのか?”
かつて私の体にあった傷の位置が痛む。
いや違う、これは彼の傷だ…
『桐谷君の…復讐心だ…』
頬を伝う涙に禍々しい熱がこもる。

to be continued…

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復讐代行〜第11話 死角〜

“この男はわかっていないのか?自分もこの復讐の対象者だと、それともわかったうえで…”
無意識の感動と裏腹に理性は疑うことをやめない。
「いいよ、そんなの」
“私”が当然断る、少しでも話を引き伸ばすためだろう
「そんなこと言わないでよ、せっかくの橘の誘いだよ?」
それに合わせて私はあえて逆を言う
“橘の誘いに何の価値があるのか”
その疑問が頭をよぎる。今までと違うのは何か価値があるのかもしれないと思い始めている自分がいることだ。
これは…まさか…彼の体の影響…?
「だって、そんなことしたら…」
“私”の演技はかなりいい所をついていた。
このままついて行けば彼に群がる女子陣に後で何をされるかわかったもんじゃない、かと言って行かなければ彼らにとって都合がよく、完全な泣き寝入りだ。
今回の目的のためにもここはいくべきである。
それを見事に表情で語っていた。
とはいえ、まさか自分の顔に対してそんな評価をするようになるなんて…
どこかおかしかった。
「そんなことしたら、またいじめられるのか?」
「そりゃ陰キャじゃしょうがないだろ、見ててムカつく」
小橋はうんざりしたかのように悪態をつく。
「どっちにするんだよ、来るのか来ないのか」
“私”はいつの間にか涙を滲ませていて、それを拭い強く私に目線を送る。不自然にならないように橘、そして小橋と順番に睨みをいれた。
「…行く」
「え?」
3人が3人とも身構えたうえで聞き直した。
「行くよ、私」
「そう来なくっちゃ」
橘は表情を崩し、口角をあげた。
「もしもの時は守ってもらうから」
「調子に乗るな、陰キャが」
いつもの悪口もどこか朗らかだ。
明らかに“私”が全てを持っていった…
私にはできない芸当だ…
私は“私”に体が奪われる気がして
嫉妬のような視線を“私”を送っていた。
「桐谷君、どうかした?」
「いや、なんでもない少し驚いただけだ」

to be continued…

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復讐代行〜第10話 順調〜

“こんなに上手くいっていいのだろうか”
親にも同級生にも否定されてきた私にとってはこんなの初めての経験で、にやけるのを精一杯堪える。
「すみません!遅くなりました!」
“私”が教室に駆け込んでくる。
髪は乱れ、制服も着崩れとは違う乱れ方をしたその姿はさながら激昂した後といった感じだ。
“なるほどよくできている。ならばこれに合わせて”
「あーあー、大丈夫か?闇子ちゃん、何があった」
そう言って席を立ち、駆け寄ろうとする。
そして同時に2人に目配せをする。
大切なのはただ目立たせるのではなく、喪黒闇子が復讐する可能性があることをを強く植え付けることである。
「こ、これは酷い…」
三文芝居を演じる桐谷青路を演じる。
言っててもパニックになりそうな状況だ。
「先生!ちょっと3人で保健室まで運びます!」
小橋は教師を煽るように教室を出た。
「大丈夫だから!1人でいい!」
“私”の方も状況と狙いがわかったようであえて抵抗する
「サボるのに丁度いいだろうが、陰キャブスが口答えしてんじゃねーよ」
小橋は“私”の口元を掴む。
「ひ…ひひゃい…」
「顎を細く見せてもブスはブスだな」
執拗なまでの攻撃、なんなら悪口の勢いは増していた。
「一応、形式的には保健室まで連れてくぞ」
橘は面倒くさそうに会話を区切る。
「それにしても青路、お前一体何を」
そして俺に話を振った。
“なるほど、大人しくついて来たのはそれが狙いか”
2人は同じことを察し、目配せをする。
「なぁに、ただ罰告、つまりは嘘だったことを責めてきたから言ってやっただけさ、外見も中身もブスなお前が告られるはずないだろって」
言っていて涙は出なかった。何せ事実、いや、本音だったからだ。なのに、なぜか目の前の“私”は泣いていた。
“いやいや、なんで?なんでお前が…あぁ、演技か、いやそれにしては上手すぎやしないか?”
「あぁもう!分かったらこれ以上関わるな、いいなっ!」
小橋は居づらくなったのか、早く切り上げたそうだった。
しかしこのままでは復讐の理由はできても、復讐の機会が皆無だ。
「そこまで言ってやるなよ、元はと言えば俺らのノリのせいだ。今度何か奢ってやるよ」
橘…全てにおいて完璧すぎる…

to be continued…

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復讐代行〜第9話 始動〜

屋上に取り残された俺、もとい私は
その場に座り込み、数秒考えた。
“さてと…目立つって言ってもどうするか…”
あれこれと案は出て来るがどれも『いじめ』を連想するものばかりで想像するだけで吐き気がしてしまった。
「ひとまず、髪でも振り乱して遅れて行けば御の字だろ」
そう言ってゆっくりと腰を上げ歩き出した。
その頃教室では
「おい、青路、どこ行ってたんだよ」
「悪いな、少し朝から体調が悪くて屋上で休んでた」
屋上から来たことを見られていても大丈夫な嘘をつく
「あれ?屋上ってことは青路、あの陰キャにも会ったのか」
「え?あぁ闇子ちゃんか、うん、会ったよ」
隠せと言われたがここでわざとらしい嘘をつく方が疑われる気がして普通に答えた。
「朝のことといい、青路、あの時何があったんだ?」
「んー、秘密かな」
今度はわざとらしく誤魔化した。
たとえどんなに小さなことであってもあの場でのことを知られる訳にはいかなかった。
「かなって…お前そんなキャラじゃないだろ」
「可愛く誤魔化したって無駄だからな!」
そう言いながらも2人とも笑っていた。
「ほら、授業始めるぞ」
教師が入ってくる。当然闇子はまだ教室にはいない。
「あれ?青路、あの陰キャとあってたんだろ?まだ来てなくね?」
「青路、まさかお前…」
2人は予想以上にあっさりと
『桐谷青路が喪黒闇子に何かをした』
というイメージを浮かべてくれた。
しかも幸いなのは私がまだ何もしていないことだ。
「そんなに酷くはしなかったつもりなんだけどなぁ」
ここでもわざとらしくそのイメージに乗ってやる。
しかし今回はみんな信じるだろう。
これでいい、計画は怖いほどスムーズだ。

to be continued…

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復讐代行〜第8話 遅刻〜

「優しいとしたら?」
「俺の体に対してだ!お前、俺の体で何をメソメソしてくれてるんだよ、なんか気持ち悪いわ!」
言っていて恥ずかしくなって思いっきり顔を背けた。
「あ…あんたの体が悪いんでしょ!私こんなんで泣くような女じゃないもん!」
「女って言うな!パニックになる!」
「私は女だもん!なんなら明日女の服きてやろうか!」
まるで友達かのようにテンポよく言い合いが始まってしまった。
「あぁ!もう!なんでお前とこんな楽しく話さなきゃいけないんだよ!俺とお前はあくまでも体を入れ替えた、というより体を入れ替えられただけなんだぞ!」
むず痒くなったのともしも他人に見られたらという不安から突っぱねたくて仕方なかった。
「…もしかして?意識しちゃってる?しちゃってるんだ!自分の体にー!」
「気色悪いこと言うなー!」
俺が言い返した瞬間にとてもタイミングよく予鈴が鳴った。
「まずい、授業遅れる!」
駆け出して1歩目で気がついた。
「お前、先帰れ…俺が遅れる分には目立つという目的のためにもなるが、お前が俺と会ってて遅れたなんて知れたら計画はオジャンだ」
「わかった!じゃ、お先に!」
足を止めることも無く“俺”は走っていった。
その抵抗の無さと俺の体が明らかな女の子走りしている姿に改めて現実を感じた。
「少しは遠慮しろよ」

to be continued…
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前回の話数間違ってましたね
失礼しました。

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復讐代行〜第6話 進歩〜

「とにかく目立って欲しいの、私たちが入れ替わってるなんて誰も気づかないし思いつくはずもない、だから私にあいつらの目を引き付けて欲しい、そしてできるなら奴らの弱みになりそうなこと、この際、いじめの決定的証拠でもなんでも構わないわ」
「とにかく目立てって、ここまでは用意周到だったのにここだけ急に人任せだな」
ここまで惹き込まれていた自分が情けなく感じられた。
「しょうがないでしょ!自分なんてどうなったっていいっていうメンタルで考えてたんだから!」
さっきまでの毅然とした態度から一転普通の女の子のような甘え様だ。とはいえ、自分の姿でやっていることがどうしても気になってせせら笑うことすら叶わない。
なんとももどかしい…というか気持ち悪い。
「はぁ、まぁ俺のやることはわかったよ、どちらにせよお互いのことを知らなければこの計画は成功しない。下手なバレ方をして面倒なことになるのも避けたいから、お前のことを一通り教えろ、学校での振る舞いはもちろん家の事、家での会話、部屋の使い方、その他諸々だ」
理想やら革命やらという輝かしい言葉に失望した途端に冷静になって必要なことが次々に思いついた。
「やっぱり話して正解だった、私だけじゃ私を大切にできない…だからあなたの…他人の体なら、きっとまだ生きたいって思えるって…」
“俺”は泣きそうな顔だった。
「でも出来なかった…結局私は私のことが嫌いで!自分じゃない誰かになりたくて!自分の体を誰かに押し付けたかっ…」
自分でも何故かわからなかった、しかし俺、もとい私の体は“俺”の体を抱きしめていた。
“何をしている…?俺の意思?違う…体が…勝手に…”
「何?あなた、そんなに優しかったっけ?」
「勘違いするな、俺じゃない、優しいとしたら…」
お前だ、という言葉は出す前に飲み込んだ。
言ってしまったら関係が変な方向に行ってしまう
そんな気がしてならなかった。

to be continued…

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復讐代行〜第6話 真歩〜

「どういうことだよ!俺しかいないって!」
「あんたは人の話を聞かないね、言ったでしょ?誰も下克上を考えないことって!そのためには野心溢れる奴らは根こそぎ淘汰しなきゃならない、橘や小橋じゃ女子辺りに新たな火種を産みかねない、その点あんたはそういう火種になりそうな取り巻きがいないから」
絶妙に貶されてはいるが納得できた。
いつか歴史か何かで聞いたフレーズ
“流血、闘争を伴わない戦争”
矛盾するようだが、“俺”の革命はまさにそんな感じだ。
「橘、小橋を黙らせてあなたがトップになり、解放を宣言する。それが最も美しい」
「お前の理想はまぁわかった、それで俺にわざわざそれを話したのはなんでだ?今のところ、俺、正しくは今の喪黒闇子がすることはないようだが」
その切り返しに“俺”は少し驚き、そして笑った。
漫画によくある余裕を振りかざすアレだ。非常に気に食わなかった。
「何がおかしい」
「いや、まさかあなたがこんなにノリ気になってくれるとは思ってなかったからさ」
言われて初めて気がついた。2人に復讐をするということに対しての反対意見がいつの間にか通り過ぎていることに。気づきはしたがもはやどうだってよかった。この入れ替わりだってきっと復讐のひとつなのだろう、こうして深く関わってしまった以上は俺が、喪黒闇子としてこの復讐劇に幕を降ろすのも悪くはない。
どこかそう開き直った。
「別に同情したわけでもないし、お前のとばっちりを喰らうのもごめんだ」
「じゃあどうして?」
「悪くない話だからだ」
「嬉しいよ、わかってくれて」
“あなたも復讐の対象だってこと忘れてくれて”
「改めて俺は何をすればいい、ただ漠然と生きろというわけじゃないだろう、そもそもお前らしい生き方なんて知らないしな」
「そうね、なら頼まれてくれるかしら」


to be continued…

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復讐代行〜第5話 真意〜

「復讐を代行?どういうつもりだ?俺はそんなもの望んでないし、矢面に立つのはまっぴらごめんだ」
「別に逆恨みの矢面にするつもりじゃないわ、それにそんな悪い話でもない」
「いや、今のところ怪しさしかない、この状況含めて」
「まぁとりあえず人の話を聞きなさい、私達のクラスにヒエラルキーがあるのはあなたもご存知でしょ?あれのせいで私のようにレッテルを貼られた人間は『陽キャに遊んでもらえる』という立場で“イジり”を受け入れなければならないのが現状。かと言ってヒエラルキーを崩すだけの力もなければ改革を起こすだけの人数を集めることすら叶わない」
まるで小さい政党の演説を聞いている気分だった
「しみったれた言い訳だな、何が言いたい?」
思わず口を挟んでしまった。
「結果、“陽キャ”にとって都合のいい現状に泣き寝入りすることしかできないでいる。」
“俺”、もとい闇子は語気を荒らげて言い切った。
「そこで内部崩壊を狙って俺の体に目をつけた…」
「順序が若干違うけどね」
「え?」
「あの日、あなたが罰告をすることになったことを知って私はこの復讐を決行することにした。あなたとなら私の復讐を、理想を成し遂げられる!そう思った!」
(勝手に)ヒートアップした熱量を持った目が俺の方に向いた。その迫力に一瞬たじろいたが、平静を装い見つめ返した。
「理想?また随分飛躍したな」
“元々飛躍してるのに”という言葉は何故か飲み込んでしまった。
「飛躍?どこが、まさか私が単純な恨みで復讐しようとしてるとでも思ったの?」
違和感が何か形を結んだ気がした。
「理想のための復讐…」
「そうよ!」
完全に“俺”のペースになっていた。
「このヒエラルキーを崩壊させるにはトップがその解放を宣言すること、そしてそこに誰も下克上を望まないことのふたつが揃わなきゃいけない。そのためには今のような安定したトップが必要、」
「なら俺でなく、橘を狙う…いや、実質“陰キャ”をイジっているのは小橋か…」
いつしか俺も積極的に意見を出すようになっていた。
「あんたバカなの?だからあんたしかいないんでしょ?」
「はぁ?」

to be continued…

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復讐代行〜第4話 真実〜

「まさかそっちから呼んでくれるなんて、よっぽど私のことが好きなのね」
「まぁ、俺たちは体と中身を入れ替えた間柄だからね」
“俺”は今大事なことをさも何事もないようにサラッと言った。それ故にその事に気づくのに時間を要した。
「入れ替えた!?」
「あれ?まだ気づいてなかった?」
驚いた顔を面白がっているようだった。
「ほんとだ、振り回されてる私の顔、最高に面白い」
俺が『入れ替わり』に混乱していることがそんなに面白いか、しかも自分の顔で言われると何もかも見透かされているようで…経験のない苛立ちを覚えていた。
「なんてね、どう?イラッと来たでしょ、私の体で味わう苦しみ、私の視点で見るいつもの景色は」
煽っていた目は急に共感を求めるような目に変わった。
「イラッと来るも何も、色々パニック過ぎて頭が追いつかねーから、だから教えろ、一体何がどうなってんだ」
半分は“俺”にのせられないための演技だが、もう半分は本音から出た言葉だ。もう何が何だかわからない。
「教えるも何もこれが現実ってだけなんだけどなぁ、要はあなたが罰告することを知って、あなたと入れ替わることを決めた。それだけ」
「それだけって!」
俺はピシャリと閉じられた真実への扉を強くノックするように“俺”に怒鳴りつけた。
「要は元に戻る方法が知りたいんでしょ?それなら生憎だけど今すぐは無理、私がしたくないっていうのもそうだけど物理的に無理」
聞きたかったことではあったが内容は聞きたかったようなものではなかった。もっとなにか条件とかを提示してくるとばかり踏んでいた。
「…わかったよ…けどせめて次のチャンスには変われよ」
苦し紛れだったが必要なことだ。
「なら私の復讐に協力してね、次のチャンスが早く来るように」
いよいよ“俺”が何を言っているのかわからなくなってきた。次のチャンスが早く…?
「どういうことだ?」
「興味を持ってくれたみたいだね」
「いや、興味も何も必要らしいからな」
「あなたに、いえ、“あなたの体”に私の復讐を代行させてあげる。」

to be continued…

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復讐代行〜第3話 学校〜

「おい!どうなってんだ!てめぇ、一体誰なんだよ!」
思わず“俺”の胸ぐらを掴んでしまった。
「おいおい、陰キャが青路に何の用だよ!」
近くにいた小橋健太郎が嘲るように俺を蹴り飛ばす。
「痛…何すんだよ!健!」
「あぁ?クソ陰キャが気安く名前で呼んでんじゃねーよ」
今の姿のことも忘れて思わずいつもの名前で呼んでしまった。
「あ、ごめん…」
「そういうとこがキモいんだよお前!」
いつも見てきた健太郎の顔がこんなにも怖く感じるものだったのかと改めて置かれた状況に困惑する。
「はっ、ちょっと責めたらすぐこれだよ!陰キャとのコミュニケーションは難しいなぁ!」
俺、いや私が困惑した隙をつくように健太郎は煽り立ててくる。これでこちらが殴りかかりでもしたら完全にアウトである。だからといって黙ってる訳には…
「まぁまぁ、その辺にしておいてやれよ」
教室に現れたのは橘蓮だった。彼もまたいつも一緒にいたメンバーだったが今は輝くヒーローにすら見えた。
「蓮もこう言ってるんだからさ、“闇子ちゃん”を攻撃すんのはやめてあげようよ、元はと言えば俺の“罰告”が原因なんだろうからさ、でしょ?闇子ちゃん?」
彼の言葉に続いて“俺”が健太郎を制した。しかも何やら言いたげな表情だ。
「う…うん…」
「まぁなんだ、悪かったな喪黒さん」
「え?あぁ…うん」
もはや状況への混乱と“俺”の表情に何も頭に入らず、生返事が精一杯だった。
そうして授業中は慣れない席、慣れない道具に四苦八苦しながらどうにかやり過ごした。
昼休み
「闇子ちゃん、昼一緒に食べない?」
“俺”から声をかけてきた。
「何の用だ、こないだの“罰告”の続きか?」
用があるのは明らかに私の方だったが、周囲の目もあったため“俺”は俺らしく“闇子”は闇子らしくなるように意識して返答した。
「それもいいね、でももっと大事な…」
そっとメモを私の目の前に見せてきた。
『体の入れ替わり』
その言葉に思わず反応してしまう。
「気に入ってもらえたみたいだね、また屋上でいいかな」
「わかった」
もはやそう言う以外の選択肢はなかった。
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露骨な表現を含みます。
苦手な人は見るのを避けてください。

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復讐代行〜第2話 現実〜

「あなたは学校の屋上で桐谷さんと倒れているのを発見され3時間ほど眠り続けていたんです。」
もはやどんな言葉も雑音にしか感じられず、内容は微塵も入って来なかった。
“だって…俺はあの時…白い光に包まれて…”
しかしその光のあとの記憶がまったくなかった。
そうやって回想するのを医者と看護師は待っているようだったが、その沈黙を突き破るように喪黒の母が病室に乱入する。
「闇子!なんで人様に迷惑かけるの!」
問答無用の怒号が飛んだ。
わかりやすい恐怖を感じてるわけではないがひたすらに理不尽に晒されるのもここまでくると新手の悪夢である。
「まぁまぁ、お母さん、娘さんもおそらく倒れた衝撃で記憶が混濁しているのでしょうし、ここはひとつ我々にお任せいただけないでしょうか」
自分がその怒号の対象者であることすら忘れて完全な他人のヒステリーを見ている気分で、医者の対応に感心していた。
しかしその瞬間に当事者に引き戻される。
「すみません、先生、あんたも!頭下げなさい!」
「っつ…」
頭を捕まれ起き上がったばかりの体が強く曲げられた。
どうにかその場は収まる形に収まり、
その後俺、もとい、私は脳への影響の懸念からMRIなどの検査を受けて、1泊だけ入院し翌日、あのヒステリー母に連れられる形で退院した。
自分が別人になっているというこの状況は到底受け入れられるものではなかった、それでも、形はどうあれ生きられただけでも良かったと思うことにすることでどうにかやり過ごした…つもりだった。
しかし、次の日学校に行くとそこには
いつもと変わらない生活を送る俺の姿があった。
“あれは…一体…誰なんだ?”

to be continued…

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復讐代行 設定

喪黒闇子
県立TT北高校の2年生。2年A組
幼い頃に両親が離婚してからネグレクト気味の母と暮らしている。
ある時期以来クラスでは「陰キャ」と呼ばれ、クラスのヒエラルキーを強くコンプレックスに感じている。

桐谷青路
クラスメート
小学生の頃に「陰キャ」と呼ばれていじめられて以来いじめ、仲間はずれに対して強い恐怖を感じている。
高校デビューでどうにか陰キャ脱却はできたもののその恐怖は拭えず、陽キャのグループと少し無理しながら一緒にいる。

橘蓮
クラスメート
ずっと「陽キャ」で居続けるカリスマ的存在でクラスのヒエラルキートップ。
クラスのまとめ役もこなし、いじる時とそうでない時の使い分けもはっきりしていて信用も厚い。だが、そこにはただならぬ覚悟があり少し残酷な1面も?

小橋健太郎
クラスメート
橘蓮の幼馴染で同じくクラスのヒエラルキートップ
橘と違うのはカリスマでないこと。歪んだ正義感を持ち、それ故に「陰キャ」に対して嫌悪感を持っている

三浦祐介
県立TT北高校2年B組
桐谷青路の幼馴染で「陰キャ」というものに対して理解があるが揉め事が苦手なため、いじめに対して強くは出れていない。それでも陰ながらにサポートをしている。
(桐谷青路が立ち直ったのも彼のおかげ)

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復讐代行 ~第1話 異変~

目が覚めるとそこには見知らぬ天井が広がっていた。
どうやら死なずに済んだようだ。
「あ、目が覚めたんですね、喪黒さん」
そう言って看護師が歩み寄る。どうやらここは病院らしい。それにしてもよくある展開だ、記憶喪失モノだと大体ここから…
「自分の名前、言えますか?」
ほら来た、しかし幸か不幸か僕の記憶は鬱陶しいほど鮮明だった。
「桐谷青路です」
問題なく答えられた。
「…」
しかし看護師はどこか困惑した表情だ。
なぜだ?何も間違っていないはずだ、それとも上手く発音できていなかったのか?
「桐谷青路!20XX年5月N日生まれ!なんなら住所だって言えるよ!」
長めに喋ったが反響して帰ってくる言葉に発音のおかしな点は見受けられない…
でも、そろそろ気がついていた。
なんだ…?この違和感…
少し体を起こして感じる胸元の重み、
でもこれは気絶明けで体が慣れていないだけだと言い聞かせることができた。
男の声が…聞こえない…
こればかりは言い訳が出来なかった。
気絶の影響で声が出づらいなら喉の異変でわかるし、何より発音に問題がないことからも異変がないのは明らかだった。
そんな自問自答の間に病室に医者と思しき白衣の男が入って来ていた。看護師がその医者と話している内容までは聞こえなかったが、何やら不思議そうな顔でこちらを見ていることだけはひしひしと感じられた。
「担当医の福原です、もう一度お名前を言って頂けますか?」
「だから!桐谷青路!記憶には何の異常もないんだってば!何なんだよさっきからさ!」
「あなたの名前は喪黒闇子なんです」
俺は全ての辻褄が合うその情報にただただ目を丸くすることしか出来なかった。

to be continued…