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女心と秋の空[3]

「ねえ、ケンくん?」
 食べ始めてしばらくした頃、ふとナナミが食べる手を止めた。いつもと同じ笑顔だが、どこかほんの少し翳りが見える。
 ケンジは慌てて脂の多い唐揚げをビールと一緒に飲み込んだ。
「っん、どうした?」
「どうしたって...。何か、ないの...?」
 上目づかいで訊ねられると参る。何かないの?とはどういう意味だ?あ、そうか、やはり髪のことを何か言った方が良かったのか?いや、しかし今まで何も言わなくとも気にも留めていなかった。別の何かだろうか?...思い当たらない。やはり髪のことか?
「ああ、その髪、似合ってるよ」
「違う、違うのそうじゃなくて忘れたの?」
 やはり違ったか。では何だ?本当に思い当たる節がない。まさかメイクを変えたとか...?いや、ナナミはいつもと同じだ。
 忘れたの?と言ったな...。何か忘れているか...?いやしかしそんなはずは「今日は一緒に暮らし始めて一ヵ月でしょ」そう、暮らし始めて...ってそこ?!
「そんなことも忘れちゃうなんて...。ケンくんは私のことなんてどうでもいいんだ......」
 いや、そんなこと、って言うなら責めないでくれよ...。
 一度だけ彼女のスケジュール帳を見たことがあるが、そこには所狭しといくつもの「記念日」が記されてあった。ケンジが知っているものから知らないもの、果ては彼女にすら関係のないものまで(レジにたまたまきたお客さんの結婚記念日とか)。
 よほど記念日を気にかけるタイプなんだろうと思っていたがまさかこれほどとはな...。さすがに一ヵ月は祝うには短すぎないか?ケンジは驚きを通り越して呆れてしまった。


 初心忘るべからず、という言葉がある。はじめの頃の情熱を忘れるな、とか未熟さがあったことを覚えろ、とか様々な意味合いがあるが、一貫して同じなのは、その当時と今とでは、大小はあれど、必ず変化が生じている、ということだ。
 記念日というのは、そういう変化に気づき、忘れないためのもんなんだろうと思う。今までこんなことがあったから、これからもこうしよう、これからはああしよう等と考える機会が必要なのだ。

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女心と秋の空[2]

「ケンくん?」
「ん?どした?」
 ナナミに呼ばれて振り返る。ただひとつの点を除いて、いつもと同じ彼女がこちらに微笑みかけている。
 髪が短くなっていた。昨日までは胸の辺りまで合ったのが、今では顎のラインまでバッサリとなくなっている。
 そうか。"今日はちょっぴり遅くなる"って言ってたのはこれか。
「唐揚げ、どのお皿で出す?」
「うーん、じゃあその黄色い縁のヤツ」
「えっと、コレ?」
「それそれ」
 ナナミは最近髪型に凝り始めた。あるときはお団子にしてみたり、またあるときは三つ編み、はたまたツインテールやワンレングス...。
 ナナミが髪型を変える度に、「髪型変えた?」「かわいいね」「似合ってるよ」等と声をかけ、彼女も嬉しそうにしていたが、六回目を越すと、もう何も言わなくなった。ナナミの髪型がコロコロと変わるのは、もうすでに日常茶飯事だった。がしかし...
(こんなに切ったのなら、言ってやった方が良いのか...?)
 そんなことを考えながら、二人一緒に食卓につく。
「いっただっきまーす「いただきます」」
 手を合わせたあと、ケンジは缶ビールのプルタブを引いた。カシュッと小気味の良い音が口角を吊り上げる。
「ナナも飲む?」
「あ、もらうー」
 自分のを注いだあと、ナナミのグラスにもビールを注いでやる。やはり炒め物にはビールだな。昼飯をあまり食べていなかったこともあって、どんどん箸が進む。


「ねえ、ケンくん?」

8

LOST MEMORIES CⅦⅩⅡ

「今日は、長谷川さんとの約束があるんです。ごめんね、ふたりとも。」
英人は妙に納得した様子で、そうか,と一言。
「もう大丈夫だろう。指輪もあるしな。」
微笑んで送り出す英人。一方の歌名といえば、不満そうに口を尖らせている。
「そんな。やっと瑛瑠と仲良くなったっていうのにー。」
そんなことを言いながらも、最後にはにっこり笑って、
「また体調崩したら承知しないからね。」
ぽんと肩を叩いて、じゃねと手を振る。
「じゃあ、フラれた者同士仲良く帰ろうか英人くん。」
「そうだな。また明日、瑛瑠。気をつけて。」
二人に手を振り、瑛瑠は図書室へと歩を進める。
後ろでは歌名が賑やかだ。
「ねえ英人くん、また明日ってどういうこと!?休みだよね!あと、さっきスルーしたけど指輪って!?ねえ!」
明日のことを歌名は知らない。しかし、共有者として、友だちとして、歌名と知り合ってしまった。夢に歌名は見つけられなかったけれど、繋がっているのだろうと、何ともなしに思う瑛瑠。
混乱を回避して少しずつ紐解いていくためにも、明日は英人と答え合わせをしたい。きっと聞いたところで、案外聡い歌名のことだ。深入りはしてこないだろうと思うも、上手く返してほしいと瑛瑠は願う。同じ魔力持ちとして、それ以前に友だちとして、歌名を傷付けたくないと思ってしまった。存外、英人にかなり信頼を置いていることを自覚し、微かに笑う。これから会う望とも、そんな関係が築けていけたら、そんなことを考えながら、扉に手をかけた。

4

LOST MEMORIES 番外編

「秋の哀しい心、ねえ……。」
黒板に残る字を見て、ふと瑛瑠は呟く。先程の授業は国語であった。
そういえば、最近は秋桜を見かけるようになったっけ。
「歌名は、秋を哀しく思います?……歌名?」
瑛瑠はランチボックスを開けながら、向かいにいる歌名に尋ねる。勿論、チャールズお手製だ。
何やらがさがさとやる歌名は瑛瑠の声など聞こえていない。
「歌名、それは何?」
歌名が持つのはビニール袋。そして、いつものお弁当箱が見当たらなかった。
「一回、やってみたかったんだ!」
取り出したのはおむすび。
見ててね,そう言って、仰々しく包まれたおむすびを手に取り、奇妙な開け方をし始める。
瑛瑠は思わず凝視してしまう。
「じゃーん!海苔がぱりぱりのコンビニおむすび!」
呆気にとられた瑛瑠は、無惨な姿に成り果てた包みを手に取る。
「の、海苔が乾燥したまま入ってたってことですか……!?」
忘れがちだが、パプリエールはお嬢さまなのである。
「ふっふっふ、科学の進歩は凄まじいのよ!
あとね、スイーツも美味しいらしいの!今日の帰り寄ってみない?」
きらきらと効果音が鳴るレベルには目を輝かせている瑛瑠に、歌名は笑いかけた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「さっき瑛瑠さんが話してたのって、このことだよね?」
黒板の白い字を消しながら望は言う。投げ掛けた言葉の相手は、教卓へプリントを置きに来た英人で。
「少なからず、今は哀しいなんて感情とは程遠いだろうな。
こういうの、何て言うか知ってるか?」
――食欲の秋。
「今日、柿持ってきた。」
「……食べたい。」
望は一言そう返し、『哀愁』をそっと消した。

3

LOST MEMORIES CⅥⅩⅤ

「友達になろ!」
思いもよらぬところから飛んできたボールに、とっさの判断ができない瑛瑠。
「え、あ、あの、」
歌名といえば、顔を文字通り林檎のように真っ赤にして、弁解を始める。
「も、もー!こういうシナリオじゃなかったんだもん!」
そう言ったが最後、瑛瑠の言葉などお構いなしに、機関銃のように捲し立てて説明を追加していく歌名。
「こんな年になってまで友だちになろうとかほんと恥ずかしいことだし、そもそも友だちってこういうものでもないと思うけど、でも瑛瑠ちゃんに話しかけようとするとその場にはいっつも望がいるし、ほんとはもっと早い段階で仲良くなりたかったんだけどいつの間にか2週間たつし、瑛瑠ちゃん自体結構神出鬼没で――!」
「ま、待ってください!」
落ち着くよう促す。支離滅裂とは言わないにしても、逆接に逆接を重ねすぎてぐじゃぐじゃだ。
神出鬼没、そんな風に思われていたのか。
そうではなくて。
望のいるところに歌名がいたのではなく、望がいるときに居合わせてしまっていたということか。用があるのは望ではなく瑛瑠だった、と。
「今朝、邪魔しないでって言ってたのは……。」
まだ何か言いたげにしている歌名へ、引き継ぐように聞く。
歌名は目線を少し下げ、
「聞こえてたか。今日、いつもより早く出て瑛瑠ちゃんを捕まえようとしたのに、また望が来ちゃったから。」
恥ずかしくて、友だちになろうとか言えないじゃん……なんてぶつぶつと呟く。
「瑛瑠ちゃん、一線引いてるから、言わなきゃ伝わらないと思って。」
バツが悪そうに微笑む。
思い出す歌名とのシチュエーション。哀しそうに微笑ったのは、瑛瑠と望コンタクトに失敗したそれだったのかと腑に落ちる。
「私のこと、どこまで気付いてる?」
今度は瑛瑠が覗きこまれた。

8

LOST MEMORIES CⅥⅩⅡ

おかしい。おかしいといったらおかしい。
瑛瑠はお昼前最後の授業を受けながら、授業内容とは全く違うことを考えていた。二日の授業遅れはどうにかなると判断したこともある。それ以上に、集中できないほど気になってしまうことがあった。
長谷川望。彼は、朝の授業以来言葉を交わしていない。後ろを一度も振り返ってこないのだ。こうも急に避けられるような態度をとられてしまったので、悶々としていた瑛瑠。
終業を告げるチャイムと共に、望の背をつつく。瑛瑠から話しかけるのは初めてかもしれなかった。
振り返る望は、変わったところは見受けられない。つまりはいつも通り。
「瑛瑠さんから話しかけてくるなんて珍しいね、どうかした?」
「あの、私、長谷川さんに何かしましたか?」
周りではクラスメートが動き始める。やっと来たお弁当の時間。瑛瑠はその前に確認したかった。
ガタガタと机を移動させる音を横で聞きながら尋ねる。
「長谷川さん、私のこと避けてますか?それって、私が何かしたから?」
理由もなく避けられるのは、辛い。
目の色が弱くなっていることに、自分では気付いてはいない瑛瑠。
一方の望といえば、思ってもみなかった、そんな言葉が聞こえそうなほど目を丸くしていて。

5

LOST MEMORIES CⅤⅩⅦ

「おはよう。瑛瑠さん、歌名。」
聞き覚えのある声。
「おはようございます、長谷川さん。」
そっと制服の上から指輪を握りしめる。
大丈夫。そう、自分に言い聞かせる瑛瑠。
「……邪魔、しないでよ。」
背筋に何かが走った。暖かい春の気温の中に、1ヶ所氷点下の地点がある。
思わずぎょっとして歌名を見るが、先の殺気じみた氷点下はなくなっていた。
見据えるその目の先には望。
「おはよ、望。」
にっこり笑う歌名は、会ったばかりの雰囲気そのものだった。
この子も、何かある。
正直、歌名には何のアンテナも張っていなかった。どんな子だろうかと今までを思い起こすと、望と話しているときにしょっちゅう同じ場に居合わせているのだ。
「あ!私、昨日先生に頼まれていたプリント、コピーするの忘れてた!
望、お願い、手伝って!ひとりで敵う量じゃないの!」
さっと青ざめた歌名は望の腕を引っ張る。
この子、表情豊かだ。そして、わかりやすい。
「え、ちょ、待って!歌名!?」
「瑛瑠ちゃんごめん!先学校行ってる!」
つんのめる望は引っ張られるがまま。朝から元気だなあなんて考えてしまうのは、2日間のブランクが原因だと思いたい。
台風のような勢いで去っていったその場に残された暖かい空気は、春を告げていた。
そして、またひとりに戻る。

2

LOST MEMORIES CⅤⅩⅥ

「おはよ!」
ぽんと肩を叩かれる。
朝のやりとりを回想していたことと、今までされたことがないということ、さらに後ろからというのは意外と心臓に悪いもので、驚いて振り返ってしまう。すると、叩いた本人が一番驚いた顔をしていた。
「ち、ちょっと!驚きすぎだよー!」
「い、伊藤さん……!?」
肩につかないほどの茶色がかった髪を揺らし、目を丸くしている歌名。
「びっくり、しました。おはようございます。」
ばくばくしている心臓を落ち着かせるように、努めて落ち着いた声を出す。
「ごめんね、前歩いてるの見かけたからさ。
一緒に行こ。」
にっこりという言葉が合う、お手本通りの眩しい笑顔を向けられた瑛瑠は、不意を突かれて言葉が喉を通り抜けなかった。
歌名とふたりきりで話すのは初めてだ。ごめんねとは言うものの、反省する気は無いらしく、からっと笑いかけられる。その笑顔は、もしかしたら初めて見るといっても過言ではないような、そんな笑顔だった。
「風邪って聞いたよ。大丈夫?」
チャールズか、英人か。情報源は鏑木先生だろうか。
とりあえず、風邪ということになっているらしいことは把握できた。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
歌名は一瞬、少し哀しそうな顔をした。
「授業のノート、いつでも貸すからね!」
瑛瑠が見逃すはずもなければ、見間違いのはずもない。
しかし、思い当たる節もなければ、言及しようとも思わなかった。
歌名が、また笑顔に戻ったから。
けれど、この顔は見たことがある。所謂、作り笑いってやつだ。
「瑛瑠ちゃん。」
声が固い。
「……どうしましたか?」
思わず身構えてしまうのは許してほしいと思う。
「あの、さ――」

4

LOST MEMORIES CⅤⅩ

「ヴァンパイアの彼にはお礼を。彼のおかげで、私も多少は安心してお嬢さまを送り出せます。」
指輪のことだろう。まだ薬指にはめているそれを見る。
「これ、返さなくてもいいのかな。」
チャールズを見やると、
「返す必要は、今はまだありませんよ。」
と言われる。
また、含みのある言い方。では、いつ返すというのだ。
「有り難く借りていましょう。」
質問の余地なしな間合いには口をつぐむしかない。
「でも、さすがに指は目立つよね。どうしよう。」
そう瑛瑠が言うと、チャールズはやっと立ち上がり、徐に瑛瑠の部屋を後にする。
一人残され、少し重く感じる自分の体をベッドから持ち上げようとすると、チャールズが戻ってきた。
「リングネックレスにしましょう。」
チャールズが持ってきたのは、チャームのつけられていないネックレス。
「それは?」
「ただのネックレスですよ。」
誰かの随身具とか、そういった魔力物の類いではないらしい。
指輪を外す。エタニティリングだ。それも、ハーフエタニティ。改めて綺麗だと思いながらチャールズに手渡す。そして彼もまた、その輝きに劣ることなく流れるようにチェーンを通すその姿は様になっていて。
そつのない動きを黙って見ていると、後ろを向いてください,という指示が聞こえる。
ベッドからやっと降り、チャールズの前に背中を向けて立つ。すると、今しがた通したばかりのそのネックレスを、瑛瑠に着けた。

6

LOST MEMORIES CⅣⅩⅤ

「……。」
聴力に難はないはずだけれど。
「ごめん、チャールズ。たぶん、聞き間違えてしまったと思うの。なんて?」
チャールズはねめつけて、もう一度口を開く。
「2日、目を覚まさなかったんです、お嬢さまは。」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。それにしても、2日という時間が流れていたとは。
「よく、お医者さまに診てもらおうという思考にならなかったね。」
何もかわりないのだ。目を覚まして、そういえば保健室にいたよなということを思い出さなければ、深夜に目が覚めてしまったことと何一つ変わらないし、違和感もない。
心配されたいなんてさらさら思わないが、変に過保護なチャールズがこの状態をそのままにしておくとも考えられず。
どこから聞けばよいかわからず、思ったことがそのまま口をついて出てきてしまったのは仕方ないとも思う。
チャールズが何も言わなければ、自分の着替えをまさかチャールズがやったのかと聞こうかなんて呑気に思っていると、
「ウルフの魔力にあてられた体調不良を、どうお医者さまに説明するんです?」
と返される。確かに。
じとっと向けられたその目を見つめていると、チャールズは深い深い、それはもうマリアナ海溝より深い溜め息をつき、再びベッドの、瑛瑠にかけられた布団へと顔を埋めた。

8

LOST MEMORIES CⅣⅩⅡ

はっとしたときには、目が覚めていた。
「夢だ……。」
人間界に来てから見る夢は初めてではなかったが、ここまで鮮明に残っているのは今日が初めて。身に覚えのない夢。
しかし、心臓がばくばくいっている。いつぞやの、チャールズによる心臓の労働過多とはまた違う、嫌な感じ。
見慣れた天井。ここは自分の部屋。額には生ぬるく濡れたタオル。
「保健室にいたんじゃ……。」
左手の薬指には、確かに英人に借りた指輪がはめられている。
上半身を起こすと、嫌な汗が背中を伝った。
目の前には白。瑛瑠のベッドのふちに突っ伏して眠るチャールズの頭。
体が重い。そして、状況を把握できていない。さらに、身に覚えがないとはいえ、夢の内容はパプリエールの過去に違いなくて。
壁にかかる時計を見る。午前2時。どおりで暗いはずである。目はその暗さに慣れ、いっそカーテンから漏れている月の光が眩しい。
濡れたタオルと突っ伏し具合からみて、ずっと付いていてくれたのだろうと察する。
彼こそ、夢に出てきた彼。やっぱり、初めましてじゃなかった。そう思う。しかし、瑛瑠はチャールズを忘れ、チャールズは瑛瑠に嘘をついた。なぜ。
さらに、エルーナを名乗るあの少年も、きっと知っている。しかし、あんな過去は知らない。狐のことも、知らない。
最後の浮遊感。あれは、投げ飛ばされたのだ。ジュリアという彼女に。

9

LOST MEMORIES CⅢⅩⅤ

どうしようと頭を悩ませる彼女を前に、どうすればいいかわからない子ども2名。
ジュリアの目が光った。
「ジュリアたちはね、指令を受けて人間界にいたの。その指令っていうのが、東雲を鎮めること。今暴れてる狐が、その東雲。」
時間がないのは百も承知である。彼女は説明することを選択した。
「東雲を鎮めないと魔界が危ない。なのに、東雲がここに来ちゃった。それを止めるために、ジュリアたちもここに来た。」
わかったようでわからない。
エルーナの質問、何してたの?どうしてここに来たの?
狐を鎮めろという指令に従っていて、その狐が魔界に来たから追いかけてきた。
その狐は何者なのだろう。なぜ魔界が危ないのだろう。
どうやらジュリアはエルーナの質問に答えただけ。それ以上を説明するつもりはないらしい。
「さっきので、東雲に見つかった。こんなに離れてるのに……。」
悔しそうに言うジュリア。
「君たち二人は、何がなんでも逃がさなきゃ行けない。」
「どうして……?」
思わず声が出てしまった。条件反射だ。
「未来のこの世界を背負う子たちだから。」
3人の隠れていた壁に衝撃が走る。
ジュリアが羽織るマントに、パプリエールとエルーナは包まれた。
「出口は塞がれちゃったけど、絶対に道は作るから。だから、ふたりは必ず逃げて。」
「姉ちゃんは!?」
エルーナが叫ぶ。もはや悲鳴に近い。
「大丈夫、エルをここから逃がすまでは一緒にいる。」
彼女の目はもうこちらを向いていない。
残酷な言葉だった。