表示件数
2

LOST MEMORIES ⅤⅩⅠ

「ですから、お嬢さまは当初の目的を遂行するだけで良いのです。
人間界の視察と情報共有。」
軌道修正。名目はイニシエーションである。
「予想はしていましたが、ここまで話すことになるとは。」
ひとつ息をつく。
瑛瑠は冷めきったハーブティーに口をつけた。
「何も説明してくれないからよ。」
入れ直しましょうか,というチャールズの言葉に首を横に振って応え、言い訳するように言った。
「まだ、何かある?」
残りを飲み干して、瑛瑠は尋ねた。
「いえ、明日の確認くらいでしたよ。夕食の時にしようと思っていたのですが、どうしますか?一度、休憩を入れます?」
瑛瑠は横に首を振る。
休憩を入れたからといって何をするわけでもない。だとしたら、そのままの頭で話を聞いたほうが効率がいいというものだ。
「聞かせて。」
チャールズは頷いた。
「それでは、明日の確認をします。引き続き、魔力持ちを探すことと人間に馴染むことに重きをおいてください。
それと平行して、当初の目的も、少しずつ触れていきましょう。しかし、とりあえずは情報共有については考えなくても良いです。魔力持ちを見つけなければ始まりませんし、相手を見定めて共有者は選ぶべきですから。」
チャールズは瑛瑠を見つめる。
「それと同時に、お嬢さまも相手から見定められているということを忘れないでください。」

4
2
2

LOST MEMORIES ⅢⅩⅢ

「ただいま帰りました。」
「お帰りなさい。」
リビングにはチャールズ。決まってソファで本を読んでいる。このときだけはどうやら眼鏡なので、なんだか得をした気分になる。
「手を洗い、着替えてきてください。お昼ごはん準備しておきますから。」
栞を挟んで眼鏡を置き、立ち上がる。
瑛瑠は、はいと応えてリビングを出た。
多少の肌寒さは残るものの、暖かい日差しが心をわくわくさせる。洗面台にある窓は少し開いていて、昼の暖かさと共に、菜の花の香りを運んでくるようだった。そういえば,と通学路に菜の花がかたまって咲いていた場所があることを思い出す。
お腹はすいている。気化熱によって寒く感じた手を守るように、かけられたタオルで拭き、部屋に戻る。
楽な服に着替えて先生から渡された手紙を手に、再びチャールズのいたリビングへと戻る。
キッチンからテーブルへ、料理が運ばれてくるところだった。
「あ、お嬢さま。手伝ってください。」
王宮にいるときは絶対に言われなかった言葉。
付き人っぽくないと薄々思っていたが、瑛瑠はこちらの方が好感が持てた。
手に持つ手紙をテーブルの端に置き、イエスと応えるかわりにチャールズのもとへ駆け寄った。
「チャールズは、私の付き人の前は何をしていたの?」

0

LOST MEMORIES ⅢⅩⅠ

「ありがとうございました。そろそろ失礼しますね。」
二人は頷いて手を振る。
「うん、また明日ね。気を付けて。」
鞄を持ち、扉に手をかける。
もう一度手を振ろうとして振り返った。
「あ、ねえ瑛瑠ちゃん。」
すると、瑛瑠よりも先に口が開かれる。
「はい?」
輝くような笑みは相変わらず眩しい。
「瑛瑠ちゃんさ、笑った方が断然かわいいよ。」
何を言われているのかわからなかった。
「わたしたちみたいにツボ浅いのもアレだけどさ、笑うと楽しくなるから。少なからず、これからは学校にいる間がほぼ1日を占めるんだからさ、楽しまなきゃ。どうせ同じ時間、みんな与えられてるんだしね。」
「知ってる?表情筋上げるだけで人って明るい気持ちになるらしいよ。」
そう言って頬を指さす。
なんて底無しに明るい子達だろう。これも、楽しくしよう意識しているのだろうか。
「今度こそじゃあね。引き留めてごめん。」
首を振り、微笑む。
「うん、またね、二人とも。」
手を振って教室をあとにした。
不思議な場所である。不思議な人たち。
思い返せば、瑛瑠には友人らしい友人はいなかった。
よく、この経験したこともない大人数との交流に、不安らしい不安を抱かなかったな自分。
妙なことに感心しながら情報を整理する。

0

LOST MEMORIES ⅡⅩⅦ

「初めまして。ちょっといいですか?」
2人は驚いたように顔を見合わせる。
そして、笑った。
「初めまして。」
「大丈夫だよ。」
楽しそうに笑う2人を、瑛瑠は首をかしげることで笑う理由を問う。
ひとりの子がにっこりする。
「初めましてって、使い道あるんだね。
そうやって話しかけられたの初めて。」
そういうことか。では、何と言うのだろう。
尋ねると、ちょっと考えるようにしてもうひとりが答える。
「ねえねえ、とか?」
そう言いながらまた2人は笑う。
声をあげて笑うことが、今までにあっただろうか。はしたないと言われたか。はたまた、そもそもそこまで楽しいこともなかったか。
なんだか、羨ましいと思ってしまう。
「ごめんね。で、どうしたの?」
顔を向けてくれた。
「鏑木先生のことなんですけど……。
お二人は、中等部からの方ですか?」
「うん、そうだよ。」
「あ、瑛瑠ちゃんもファン入り?」
にこにこする彼女たちに瑛瑠は驚く。
「どうして私の名前……」
もちろん瑛瑠は彼女たちの名前は知らない。
「珍しい名前だったから、黒板のあの張り紙見て覚えちゃった。かわいくていい名前だよね。」
今日はたいそう名前が褒められる日のようだ。
「鏑木先生の何を知りたいの?さっき十分質問に答えてたと思ったけど。」
面白そうに彼女たちは聞いてきた。