鬼ノ業~本章(拾壱)
すすり泣く声と共に感じるのは怒り。
「…鬼の仕業だ…鬼のせいだ!」
信乃から冷静なんて言葉は失せていた。急に薊を思い出す。このままでは、負の連鎖が続くばかりである。
しかし、だからと云って朔が何かを言ってあげることはできない。自分の母やおじ、友人の命を奪ったのは人間だ。
するとここで声が掛かる。
「信乃さん…?」
後ろから姿を現した人物。村人、だろうか。
「見かけねぇ旅人が来たと思ったら、焦ったような顔して出ていって…何事だと思ったば…一一!?」
叫び声があがる。そして、人がわらわらと集まってきた。こうなっては手の回しようもない。村人にまかせるだけだ。
岡っ引きも来た。随分と遅いご到着である。そして偉そうにその場を仕切ってしまった。
思わず出た朔の溜め息に、蒼は苦笑する。その笑みが、朔の心を見透かしたようで恥ずかしかった。
しばらく其処にいると、岡っ引きが旅人二人に訊ねる。
「主らが第一発見人か?」
朔が答える。
「正確には、凜が第一発見人です。それも、現場に居合わせた。」
一人は頷き、二人に背を向ける。もう一人の岡っ引きは、朔を訝しげに見やり、背を向けた。あの目は一一
「蒼。」
「ん?どうした。」
朔は、その一人の岡っ引きから目を離さない。
「あの岡っ引き…鬼だ。」