鬼ノ業~本章(参拾捌)
すると意外にも、藤は「いい。」と言ったのだ。
「藤姐?まだ全て終わってはいないけれど――。」
藤は美しく微笑んだ。
「いいんだ。ここから先は村民に任せな。
それに、これ以上凛との約束を破るような真似は出来ないからねェ。」
二人は顔を会わせて頷いた。
「じゃあ、お願いする。」
「宜しくな、姐さん。」
ここで反応したのが約一名。
「あれ、蒼、呼び方変えたんじゃないの?」
「…は?」
「藤姐のこと。」
遡ること先程の戦いにて。
「確かに。名前で呼ばれたねェ…。」
美しい白くて細い首に、鮮血が付いているのを見て思い出す先程の光景。確かに、蒼は藤のことを名前で呼んだ。
「…だから、何だ。」
その神妙な顔に、蒼はやれやれとでも言うように軽くため息をつき、応えた。
「いや、藤って呼ばないのかなって思って、さ。」