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×××××中学校の七不思議 甲斐田正秀 12

 次の日の放課後。
 部活に参加した俺に、件の先輩がやって来た。部活の始まる前からソワソワした様子で辺りを見回していた。俺を見つけるとぱっと明るい顔で俺の名を呼びつつ駆け寄ってきたのだ。
「で、昨日どーだったよ!?」
 やっぱりな。
 先輩はおっかなびっくり訊いてきた。
「どうだったって……」
 甲斐田正秀はいましたよ。彼と話して、彼は噂とは全く違う人物で、空襲で死んだ中学生でした。
 ……とは言わなかった。言いたくなかった。
 あの少年は、そうやって大っぴらにして恐れられて良い対象ではない。もっと純粋で幼くて、切ないものだ。会って、直接話を聞いてやらなければならない。あそこに行こうと思った者だけが密かに確かに知って、ずっと心に止めておけば良いのだ。彼もそれを望んでいる。
 だから俺は
「何もありませんでしたよ」
 そう言った。
「……なあんだ、そうだよな、ははは、期待して損しちまったぜ」
「そうっすよ。それより、あれから大変だったんすよ!昇降口全部しまってて、職員室行ったら何でいるんだってチョー怒られて!」
「ははは、どんまーい」
「元凶先輩っすよ!」
「へへへ」
「もう!」
「おい!そこうるせーぞ!」
「すいません!」「すいません!」
 またも先生に怒鳴られ、部活を始めた。

 あれ以来、俺はあの時間にあの教室に行くことはなかったけど、後輩には教えてやった。
 甲斐田正秀の『恐ろしい噂』を。


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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー の設定②

プロフの自作改造ギア一覧
・光の力貯蔵システム
明晶が住んでいる小屋の入り口に隠された装置が、出入りした人間の光の力を一部吸収し、別の機会に使うために貯蓄する。貯蔵された光の力は電力・電波の代替に加え、各種改造ギアの動力源になったり、光の力を貯めるのに使われたりする。
・カゲ除け
対象範囲内に光の力を流し込み、接近したカゲを押し返すように力を働かせることでカゲを寄せ付けない設備。
・腕時計型デバイス
装備者の光の力の現在値と割合を画面に表示する。現在製作されているのは2台のみ。2台の間での通信機能、光の力で手足を保護し格闘戦を可能にする機能がある。P.A.の常識に真っ向から喧嘩を売るシリーズ。
・ドローン型P.A.
カメラとマイク・スピーカー付きのドローン。電気の代わりに光の力を使うため、光の力が尽きない限り動かし続けられる。電波の代わりに光の力で交信するため、光の力が尽きない限りどこまでも飛ばせる。
・銃型P.A.
弾倉が特別製。予め光の力を弾丸の形に形成してストックしておける。
・遠隔シールドP.A.
光の力を透明なバリアに変換して空中に展開できる。射程距離は使用者の光の力にもよるが大体10~20m程度。一度にバリアに変換できる光の力の上限は、使用者の光の力に対して一定の割合(1%弱)で決まっていて、面積を広げるほど薄く脆くなるし、耐久力のために厚みを出せば小さくなる。
・監視カメラ
動力源は光の力。常時光の力が流し込まれているので、カゲにもみくちゃにされても壊れない。
・迎撃システム
監視カメラと連動して、カゲが接近すると光の力の弾丸で迎撃してくる。
・変化弾銃
光の力を通常より大型の弾丸に変換して発射する銃。仕様上大口径。任意のタイミングで弾丸を構成する光の力の一部をシールドに分裂・変換し、跳弾させて弾道を変化させる。その性質上、弾道変化を行う度に威力が減衰していく。ちなみに外見はほぼコードレス掃除機。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー の設定①

登場人物
・村崎明晶(むらさき・あきら)
「プロフェッサー・アメシスト」を名乗る女性。髪は腰元まで届くほど長く、目つきの悪い目元には濃い隈ができている。村外れのトタン小屋に住み、改造P.A.の研究を続けている。既に3年この小屋から1歩も出ていないが、村の状況は知っている。現在の目標は村の解放。彼女自身の持つ光の力は悲しいほど弱く、単身では戦えない。光の力の量は「6」。これはリボルバー型P.A.を6発撃ってちょうど光の力が尽きたことから計算したもの。公的機関の診断は受けたことが無いため、完全に我流。
・三色吉代(みいろ・よしろ)
明晶に協力する青年。類稀なる強さの光の力の保有者で、明晶の改造ギアを使いこなせる貴重な人材。その力で村の解放に努めている。住所は村の外、元の村民たちが移り住んだ仮拠点の一つ。ほぼ毎日明晶の小屋に通っている。光の力の量は「1250」。

洞志村(どうしむら)
明晶達が住んでいた村。3年前に突如大量のカゲに浸蝕され、人間が住めない環境になった。数㎞離れた位置にあるSTIから、2度大規模討伐部隊が派遣されたが、その両方が全滅という結果に終わった。
占拠しているカゲは未確認の種類であり、耐久力が低い代わりに流動性に優れ、体内を移動しているためかコアの位置も不確定。ヌシも見つかっていない。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その⑨

「終わったァッ!」
乱暴に足音を立て、吉代が部屋に入ってきた。
「おつかれ、親友。一応カゲ除けはどこも壊れてないよ。単純にあのカゲが強かっただけみたい」
「ああ、あと、あれと同タイプのカゲ、結構増えて来てたな」
「そっか。じゃあ防衛機構を増やさなきゃかな。もうP.A.はできてるからさ、余裕がある時に取り付けに行ってくれない?」
「あー、じゃあ帰る時にやっとく。場所は?」
「この地図参照」
明晶から図面を手渡され、吉代はちらりと見てから折りたたんでポケットに仕舞った。

「……そういえば」
数十分の沈黙の後、吉代が不意に口を開いた。
「どしたの親友」
「光の力、もう回復したのか? さっき銃3発も撃ってたけど」
「あー、あれね」
明晶はモニターを見つめたまま、自分のデバイスの画面を吉代に向けた。
「……点いてないじゃねーか」
「うん。全然回復してない」
「なんで撃てたんだ」
「カゲ除けと同じだよ、親友。君の光の力を勝手にちょっともらってストックしてたのを、弾倉に詰めてたんだ。この技術、特許申請したらお金になるかな」
「さあ……まあ便利ではあるな」
「勝手に使ったの怒ってないの?」
「俺の光の力は4桁あるらしいからな。今のところ不都合があるわけでも無いし、それだったら天才技術者サマの護身用に役立ててもらった方がずっと有意義だ」
「わぁいありがとー。ちなみにここの設備は全部、君の光の力を吸って動いてるからね?」
「……まあ、許す」
「やったぁ。今日はもう次の改造P.A.製作に費やすから、もう帰っても良いよ? 次は弾道が曲がる銃を作るんだー」
「そうか頑張れ」

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鏡界輝譚スパークラー Crystal Brother and Sister おまけ Ⅱ

企画「鏡界輝譚スパークラー」参加作品「Crystal Brother and Sister」のおまけ…キャラ紹介のその2です。

・福貴迫 弾(ふきさこ はずむ)
所属STI:幕針文化学院
学年:高等部美術科1年
所属部隊:加賀屋隊
使用P.A.:ハルバード型、拳銃型
イメージカラー:ピンク
水晶のチームメイトの1人。
可愛いものと楽しいことが大好き。
「面白そうだから」という理由で「加賀屋隊」に入った。
「加賀屋隊」の斬り込み隊長。
中等部から幕文に通っている。
くせっ毛が特徴的で水晶より背が低い。
いつもカーディガンを着ており、ピンクのリボンタイを身に付けている。

・熊橋 寵也(くまはし ちょうや)
所属STI:幕針文化学院
学年:高等部理数科1年
所属部隊:加賀屋隊
使用P.A.:マシンガン型
イメージカラー:緑
水晶のチームメイトの1人。
理知的で基本冷静だがふとした時に感情的になる。
弾のことが心配で「加賀屋隊」に入った。
「加賀屋隊」のブレーン。
中等部から幕文に通っている。
黒縁メガネをかけている。
いつもセーターを着ており、緑のネクタイを身に付けている。

・加賀屋 石英(かがや せきえい)
所属STI:澁谷學苑
学年:高等部3年
所属部隊:クルセイダース
使用P.A.:刀型、拳銃型(共に本編未登場)
イメージカラー:白
水晶の実兄。
誰にでも心優しく、様々な人々を惹きつけるカリスマ性を持つ。
また、類稀な戦術眼を持つ。
東鏡の名門STI「澁谷學苑」に初等部から通っており、代表部隊「クルセイダース」の隊長を務めている。
白いセーターを着ている。

これでキャラ紹介は全て終了です!
何か質問などありましたらレスください。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その⑦

「……あれ、死なない」
明晶が間の抜けた声をあげた。撃たれたカゲは反動で仰け反ったものの、銃創は少しずつ塞がっていっているのだ。
「ごめん、殺しきれなかった」
「いや良い、こっちで片付ける」
カゲが怯んだ隙を狙い、吉代が斬り上げる。両断されて体外に投げ出されたダークコアを明晶が正確に撃ち砕き、そのカゲは遂に消滅した。
「ふぅ、危ないところだった……」
「畜生トドメ搔っ攫いやがって……。……ところでプロフ、なんでカゲが入ってきてんだ」
「さあ……あのカゲが強かったからかな? そもそも『カゲ除け』って、この小屋の壁全体に光の力を通して、近付いたらちょっと押し返しつつ微弱なダメージを与えることで奴らに近付かせないようにしてるんだよね。これに勝てるほど強いカゲなら、まあ入って来れるだろうねぇ。あいつらの浸蝕能力はすごいし」
「なるほど。……つまり、今この小屋、穴開いてるのか?」
「多分ね」
「おい待てヤバいんじゃねえのか?」
「うんヤバい。この小屋は、この村にとっての『最後の砦』だ。突破されたらワタシ達の希望は完全に潰える。というわけで、直してきて?」
「言われなくても」
そう言って吉代は駆け出した。
「道具と建材は入ってすぐ右……だから中から見て左の壁の隠し扉に入ってるからー」
吉代の背中に呼びかけ、明晶はモニター越しに防衛システムの点検を始めた。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その⑦

「吉代!」
明晶が叫び、吉代は咄嗟に頭を下げた。直後、彼の頭上を伸びてきた腕が通り過ぎ、そのまま明晶の首を乱暴に掴んだ。
「っ!」
「なっ……今役に立つか!」
吉代はデバイスを起動し、拳を腕に叩きつけて千切り飛ばした後、即座に残った腕を叩き落とした。
「助かったよ親友……ワタシの首、大丈夫かな」
「どっぷりカゲに染まってる。切り飛ばすか?」
「冗談言えるってことは無事みたいだね。けど……」
明晶が自身の手首を指すと、デバイスの画面は暗転していた。
「ワタシの光の力はもうからっけつでね。守って?」
「言われなくとも」
侵入してきたカゲに向き合った吉代の背中を眺めながら、明晶は光の力の回復のために新しい缶を開け出した。

2人のいる部屋に、カゲが入ってくる。屋外に蠢いているカゲ達のようなおおよそ人型に近い形状のものとは全く異なり、体高は約2.5m。既に再生している前肢は異様に長く、肘に当たる関節は3か所、指は3本具わっている。
また、老人のように折れ曲がった背中からは6本の触手が生えて滅多矢鱈に暴れており、全身の皮膚は爛れたように剥がれ、随所から垂れ下がっている。
「……これはまた、随分と変わった姿だね」
「気持ち悪いな」
カゲが伸ばしてきた4本の触手を、吉代は次々弾き返す。
「……あ、もしかしてこれがヌシかな?」
「だったら話が早くて助かるけどな……あ」
吉代が防ぎ損ねた触手が、明晶に向かって行く。その直撃より早く吉代が左手を明晶に向けると、光の力で構成された透明な壁が彼女の眼の前に出現し、触手の攻撃を阻んだ。
「悪い、通した」
「だいじょぶ。遠隔シールドもばっちり動くね。あ、親友、これ使って」
明晶の放り投げた刀型P.A.をその場で回転しながら受け取り、吉代は姿勢を低くしてカゲに接近し、抜刀の勢いのまま斬り付けた。カゲはそれを両腕を交差させて防ぎ、触手による反撃を試みた。
「村崎!」
「ああ、バッチリ狙える」
明晶がモニターの裏に隠していた銃型P.A.を取り、カゲの眉間と心臓部を撃ち抜いた。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その⑥

「戻ったぞ、プロフ」
「見てたよ親友、ご苦労様」
「そっちこそ」
「ええ? ワタシは大変なことなんて何もしてないよ?」
「そういうのは机の上の缶を隠してから言ってくれ」
吉代が指差す先、明晶のついている机の上には、『Photonic Dorper ver.1.5.0』の空き缶が既に4本転がっていた。
「仕方ないんだよぅ。何せ私の光の力はこれっきりだからね」
明晶の手首のデバイスは、赤く染まったゲージと『1』の数字を表示している。
「ドローン飛ばすだけで馬鹿にならないんだ。電波とバッテリーの両方を光の力で代用してるからね」
「…………」
「あ、ワタシがあげたデバイス、どうだった?」
そう問われ、吉代は思い出したように右腕のデバイスを見た。
「あー、結局使わなかった。まあ邪魔にはならないから良いか、って感じだな」
「へー。あ、光の力どれくらい減った?」
「……今1133だな。5だけ減った」
「ワタシなら死ぬね」
「だな……ん」
不意に、吉代が背後を振り返った。
「どしたの」
「いや……一応、入ってくるときにはちゃんと扉も閉めたし鍵もかけたし、カゲ除けも動いてるんだろ?」
「うん? ……うん、問題無く動いてる」
明晶もモニターを確認してから答えた。
「じゃあ……この足音は何だ?」
吉代のその言葉とほぼ同時に、二人のいる部屋の入り口に、腐り爛れたような禍々しい黒い手がかかった。

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野良輝士市街奪還戦 登場人物

・下野真理奈(しもつけ・まりな)
部隊内での役割は中~遠距離からの援護射撃と全体を俯瞰しながらの指揮。アプリで通話する時、一人だけハンズフリーイヤホンを使っている。P.A.故の補助効果を抜きにしても謎の狙撃能力の高さを持つ。
使用P.A.:猟銃。スコープは取り外し可能で、攻撃メインの時は外し、指揮メインの時は設置して望遠鏡代わりに使う。
・和泉宗司(いずみ・そうじ)
部隊内での役割は前衛としての敵の翻弄と破壊力が必要な敵への攻撃。特技は投擲で、特にある程度の質量があるものを狙った場所に投げるのが得意。
使用P.A.:戦槌。片側が錐状に尖っている。片手でもギリギリ使える程度のサイズ。投げたりもする。
・門見初音(かどみ・はつね)
元々の仲間たち全員から渾名で呼ばれている。部隊内での役割は前衛での補助役とヘイト分散。知り合いにSTI所属の人間がいて、その縁でP.A.製作業者とも繋がりがあり、彼女が居なければ野良輝士たちは武器を用意できなかったので感謝されて然るべき。
使用P.A.:片手半剣。全長約1.5m。地面や壁に突き立てて足場代わりにすることが多い。
・月舘灯(つきだて・あかり)
本来の部隊内での役割は中距離での支援と移動支援。P.A.の性質上機動力が最も高いので、前線に出ることも多い。
使用P.A.:鉄線銃。射程距離は約50m。巻き取り機構はあるものの、人間の重さを引き寄せられるほどでは無いため、移動時にはワイヤー部分を掴んで自力で引っ張る必要がある。銛みたいな先端が当たると普通に痛い。
・田代小春(たしろ・こはる)
STIである県立鉱府光明学園に通う少女。カゲに沈んだ町でどうにもできずに身を守っていた。後に部隊に加入する。
使用P.A.:折り畳み防楯。原色の迷彩模様で彩られた4枚の金属板で構成されている。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その⑤

『そういや、コントローラーとか机の上に見えなかったけど、どうやって動かしてるんだ?』
「何、単純な疑問かい?」
『単純な疑問』
「普通にチェストに入れてただけだけど。そもそもドローンも隠してたでしょ」
『たしかに。……カゲが来た。切るぞ』
「はーい」
通信が途切れて数秒後、ドローンに付属したマイクが戦闘音を受信した。
「お、始まったねぇ。それ行けドローン」
ドローンは戦闘を繰り広げる吉代とカゲ達の頭上を通過し、カゲの犇く村の中央に移動した。
ドローンに設置したカメラから受信された映像は、モニタ上に監視カメラの映像とは別ウィンドウで表示される。
(さて……無駄だとは分かっているけど)
カゲ以外に動くものは無いかと画面を注視する。勿論そんなものがある訳も無く、すぐに諦めて明晶はドローンを小屋に戻すよう飛ばした。

「さて……やるか」
回転刃を具えた草刈り機型P.A.のエンジンスターターを引き、吉代はカゲ達に相対した。
「かかって来い、侵略者ども」
吉代の挑発と同時に彼に飛びかかったカゲ達の第一波は、吉代の薙ぎ払いによって膝の辺りを切断されてその場に倒れ、それに躓いた第二波、さらにそれに衝突した第三波と続き、カゲ達の手が届く前に最下層のカゲは他のカゲの重みで弾け飛んだ。
「こうなれば楽なんだよなぁ」
のたうつカゲ達を、吉代は単調作業のように1体ずつ切り殺していった。

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野良輝士市街奪還戦 おまけ

……
「うえぇっ⁉」
最初のビルの屋上に、小春の驚嘆の声が響いた。
「そんなに驚くことかな?」
先に辿り着いた灯に助けられていた真理奈が首を傾げながら問い返した。
「いやはい、落ち着いて聞いてくださいね」
「新入りちゃんこそ落ち着いて話してね?」
「えっと……まず、そもそもP.A.を手に入れるのって、STI以外だとすごく難しいんです」
「へー。そこはかどみーちゃんに頼り切ってたから分からなかったよ」
「はい、皆さん初音さんに感謝すべきです。……だから、皆さん全員がSTIに入ってないってのはあまりに衝撃的過ぎまして」
「なるほど理解した」
「えっと……灯くん、でしたっけ」
突然話しかけられ、灯が僅かにびくりとした。
「な、何だよ」
「灯くん、私と同い年って聞きましたけど、進路はもう決めてるんですか?」
「ああ、県立第二高校に……」
「私の通ってるSTIが中高一貫なんですよ。ほら、県立鉱府光明学園って、割と有名だと思うんですけど」
「ああー……知ってる知ってる。たしかこの間ラジオで特集組まれてたよな」
「はい。で、今からでもそこに変えません? 偏差値も近いですし。STI所属ならカゲの討伐報酬も入るし、P.A.のメンテナンスとかもやりやすくなるし、他のスパークラー達と情報交換できるし、メリットずくめですよ」
「ええ……」
「なぜそんなに消極的……」
「いや何かなんとなく……」

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その④

「というかこの技術、前に『それ』作ってあげた時に説明したよね? 『弾丸以外の形状に光の力を造形する』って」
明晶が指す吉代の左手首には、腕輪型のP.A.があった。これもまた、明晶が自作した改造ギアである。
「それでなんだけど親友」
「んー」
「ちょっとこれの試運転ついでに、ここの周りのカゲ狩ってきてくれない?」
「え、俺格闘の心得とか無いっすよ」
「だいじょぶだいじょぶ。君、何やってもそれなりに上手くいくじゃん」
「……まあ、いつも使ってるP.A.の補助用に使うくらいなら」
「よし来た。使った感じはこっちからも監視カメラで見ておくけど、戻ってきたら使用感の報告とかしてくれると嬉しいな」
「了解」
吉代が部屋を出た直後、明晶はチェストから1台のドローンを引っ張り出し、開け放しになった部屋のドアから吉代の後を追跡させた。
(さて……彼が働いてくれている間に、ワタシもやることやらなくちゃねぇ)
『Photonic Dorper ver.1.5.0』と印字されたアルミ缶の栓を開け、ストローを挿して中身を一口吸ってから手首のデバイスの通話機能を起動した。
「あーもしもし親友?」
『何だ、プロフ?』
「今、君の後に続いてドローンが飛んでいったんだけどね」
『ああ、後ろから近付いてくるこの音はそれか』
「ワタシが操縦してるんだ。ついでにこれも光の力で動かしてるから、P.A.といって差し支えないね」
『戦えるのか?』
「まあ……ローターが直撃すれば痛いんじゃない?」
『あとあんた、光の力めっちゃ低かっただろ』
「そこはドーピングしてるからオッケー」
缶を足蹴にして揺らしながら明晶は答えた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑩

倒れ込んだヌシはそれ以上動かず、肉体は少しずつ溶け消えていった。それに伴い周囲の小型のカゲも奇妙な鳴き声を上げながら消滅していく。
「助かったぜ真理ちゃん……」
うつ伏せに倒れたまま、ガッツポーズを見せる宗司。
「……何やってんだ宗司お前」
「さっきまでカゲの群れが覆い被さってたんだよ」
呆れ顔の灯に答えながら、宗司はどうにか立ち上がった。
「……うえ? カゲ達もういない……?」
宗司と並んでカゲ達にもみくちゃにされていた小春も、宗司たちの話す声に気付いて立ち上がった。
「お疲れー小春ちゃん」
初音が小春を助け起こすと、携帯電話から真理奈の声が聞こえてきた。
『もしもーし? 疲れてるところ悪いんだけど、ちょっと助けてくれなーい?』
「ん」
「どうした?」
通話に参加していた初音と灯が反応する。
『最初のビルからちょっと落ちそうになってるんだけど』
「何があったらそうなるんだあの馬鹿は……ちょっと行ってくる」
灯が鉄線銃型P.A.で屋根に登り、そのまま真理奈のもとへ駆け戻って行った。
「……俺らも行くべ。真理ちゃんに何が起きてるのか見に行こうぜ」
「了解。ついでに小春ちゃんの顔見せもしよう」
「ああはい、よろしくお願いします……」

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その③

「ワタシの光の力は見ての通り悲しいほど低くてね。この機械を動かすだけで精いっぱいだよ。けど、君は違う。君の光の力は人並み外れているからね、君なら使いこなせるだろう」
「さっさと言えよ、オプションとやらの内容を」
ぼやきながら、吉代はデバイスを腕に巻く。同時に画面が起動し、ほぼ完全に残った状態の緑色のゲージと『1138』の数字が表示された。
「ああ、もう一つのオプションはね、『素手によるカゲとの格闘戦を可能にする効果』だ」
「……は?」
光の力は、カゲから身を守りカゲを倒すことができる力である。しかし、その真価はP.A.(Photonic Arms)を媒体に出力しなければ十分な効果を発揮できず、基本的にカゲと格闘戦を行うことは不可能なのだ。籠手やメリケンサック型のP.A.を用いれば有効打を与えることも可能ではあるが、素手となるとカゲとの戦闘は不可能と言って良い。
それを理解しているからこそ、吉代の反応も訝し気なものだった。
「おや、信じてないね?」
「いやプロフ、あんたの技術は信じてんだ。けどなァ……流石にこれまでの常識を無視し過ぎだろ」
「うーん……ちょっと説明するとね……これと同じなんだ」
言いながら、明晶は机に立てかけていた猟銃型P.A.を手元に引き寄せた。
「いや全く分からん」
「君も使ったことあるから知ってるだろうけど、銃器型のP.A.は、光の力を弾丸に変換して射撃できるんだよね」
「それは知ってるけど……」
「よくよく考えてみれば、おかしくないかい? これらの武器が示す通り、光の力は『直接叩きつけてカゲにダメージを与える現象』に変換可能なんだよ。それなのに、その性質が飛び道具でしか発生しないなんて……」
「けど実際そうだろ」
「まあね。実際作ってて分かったよ。弾丸みたいな小さくて一瞬で着弾・消滅する物体に変換するまではどうにかなるんだけどね。格闘戦のためには、手足をエネルギーで包み込み、その状態を維持しなくちゃならない。これがなかなか結構難しくってね……」
「……それで?」
「大量の光の力を消費させることで、力づくで解決した」
「これはひどい」

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その②

「そういえば親友、今日はたしか君の誕生日だったよね。良いものをあげよう」
ふと思い出したように明晶が口を開いた。
「今日誕生日なのはプロフの方な」
「あれ、そうだっけ。ワタシの誕生日を祝ってくれる家族は、3年も前にもういなくなっちゃったからねぇ……」
「死んだみたいに言うじゃん」
「えへへ、みんな無事なんだよね。ここがカゲに沈んだのがちょうどみんなの旅行中で良かった」
「……で、『良いもの』って何だよ」
「ああ、そうそう」
明晶が放り投げて寄越したものを。吉代は片手でキャッチし、改めて確認した。
腕時計のような形状ではあるが、文字盤の代わりに液晶画面が取り付けられている。
「何だこれ。スマートウォッチ?」
「それっぽいでしょ。頑張って作ったんだー。素材だけは腐るほどあるからね」
吉代が顔を上げると、明晶の右手首にも同じデバイスが嵌められている。彼女のデバイスの画面には、半分ほどまで減り黄色くなったゲージと『3』の文字が表示されている。
「おそろい」
「で、これ何」
「装着した人の光の力の現在値と、どれだけ消耗したかを表示してくれる機械。オプションもついてるよ」
「オプション?」
「まず一つが、通話機能。ワタシのデバイスとだけだけど」
「……ってことは、他にもあるのか」
「うん」

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野良輝士市街奪還戦 その⑧

「あとは任せたぞ宗司、かどみー」
「おう任せろー」
片手を上げて答えた宗司に、ヌシが腕による薙ぎ払いを仕掛けてきた。
「お、その攻撃は助かる」
そう言いながら、宗司は予め初音が突き立てていた剣を足場に跳び上がり回避した。弾き飛ばされた剣は初音が回収し、宗司が頭上から、初音が足元から攻撃を仕掛ける。ヌシは両方を一瞬見た後、まず宗司を殴りつけようとした。しかし、その拳は途中で不自然に停止する。
灯が地面に向けて撃ったワイヤーがヌシの腕を絡め取っていたのだ。
その隙を逃さず、宗司が頭を叩き潰し、初音が片脚を切断したが、ダークコアには当たらなかったようで、ワイヤーを振り払い更に攻撃を放とうとする。
「させるか」
即座に巻き取ったワイヤーを再び発射した灯の攻撃と遠方からの真理奈による狙撃がヌシの腕を貫き、殴る勢いでその腕が千切れ飛んだ。
「いよっしゃ片腕片脚取った!」
「ナイスゥ灯に真理ちゃん」
親指を立てた宗司の横に、小春が吹き飛ばされてきた。
「ん、どうした新入り?」
「ごめんなさい、押し負けました……。私の押さえてた分、一気に押し寄せてきます」
「マジか。流石に片方しか防げないぞ」
そう言っている間にも、前方からはヌシの叩きつける攻撃が、後方からは無数のカゲたちが、その場の4人に迫ってくる。その時、
『宗司くんは後ろを止めて! ヌシの攻撃は当たらないからかどみーちゃんが心臓を狙って!』
通話状態が続いていた携帯電話から、真理奈の指示が轟いた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑦

「あ、なるほどそういうこと。さっさと退かなきゃお前までぺちゃんこになるぜー!」
宗司も続いて飛び込み、カゲ数体をまとめて押し潰した防楯を更に戦槌で打ち、下敷きになったカゲ達のダークコアを衝撃で粉砕した。
「これ良い方法だなー!」
「1回きりですけどねー!」
「あん? まだ行くぞ」
「えっ」
宗司が向かってきたカゲたちを戦槌で薙ぎ払い、体勢の崩れたカゲたちを指す。
「バッシュ!」
「あ、そういうこと!」
小春もすぐさま広げた防楯を構えてカゲの群れに突っ込み、ブロック塀に押し付けた。
「理解が早くて……助かるぜ!」
小春が離れたところで再び宗司が戦槌で打ち、カゲの群れはまたも押し潰された。
「っしゃあ! もう1発行くぞ!」
「え、いやちょっと……」
足を止める小春に宗司が尋ねる。
「どうした?」
「こ、この楯、結構重いんですよ…………。何度も、バッシュするのは、ちょっと……キツイ、かも…………しれないです…………」
「……マジで?」
「マジで……」
「うわマジか。まあ良いや。じゃあ後ろの足止め役頼んだ」
「了解、です」
防楯を開いたまま小春はヌシから離れ、ヌシのもとに近付こうとする小型のカゲたちを押し返し始めた。
「かぁどみー!」
「分かってるって」
宗司に呼ばれ、初音は溜め息を吐きながら地面に飛び降りた。カゲたちのいなくなった地面に落下の勢いで剣を突き立てて着地する。
「よっしゃ、灯ー! もう引け!」
「やっとか前衛ども!」
それまで一人でヌシと交戦していた灯だったが、宗司に呼ばれてヌシと距離を取り、手近な家の屋根に着地した。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その①

「やァ、今日も来たね、親友」
いつも通りノックも無しに自室に入ってきたその青年、三色吉代(みいろ・よしろ)に目も向けず、モニターに向かってキーボードを叩きながら村崎明晶(むらさき・あきら)は親し気に話しかけた。
「ああ。しかしこの小屋、そろそろ限界なんじゃないか? 周りのカゲの数やばかったぞ」
「ははは、つまり『カゲ除け』は上手く動いていてくれてるわけだ。君のお陰だね」
「あとプロフ」
「『プロフェッサー・アメシスト』ね。変な略し方しないでよ。……で、何だい親友」
「実験台に親し気な呼び方して警戒心解こうと思ってるなら無駄だぞ。俺はもうあんたにすっかり慣れちまってるんだからな」
「ははは、すっかり癖になっててね。……けど、ワタシは本当に君のこと、親友だと思ってるんだよ? だってさ」
そこで一瞬言葉を切り、自分の座ったキャスター付きの椅子をずらし、監視カメラの映像が映ったモニターを吉代に見せるようにしながら言葉を続ける。
「この村が『こんなこと』になっちゃってから、ずっと一緒に戦ってくれてる唯一の戦友なんだから」
モニターの中には、村中のあらゆる場所を埋め尽くす無数のカゲと、9割方カゲに飲まれ、廃村とすら呼べない有様の『村だったもの』が映されていた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑥

「え、誰」
見知らぬスパークラーに戸惑う宗司。
「初めまして、田代小春です! そこの初音さんに助けていただき、皆さんの助太刀に来ました!」
「あ、うん。……ごめん初音って誰?」
「あんたらの言うかどみーちゃんのことだよ」
一歩遅れて追いついてきた初音につっこまれ、宗司は思い出したように手を打った。
「もしもし真理奈? こっち見えてる?」
『うん、スコープで見てるよー。その子が援軍?』
初音の通話に、銃声混じりに真理奈が通話に答えた。
「そう、小春ちゃん」
『楯使いかー、防御力の高い子はうちにいなかったから助かるね。こっちのカゲの勢いもちょっと落ち着いてきたし、もうちょっと援護射撃に回れそ……あごめんやっぱ無理』
銃声が更に3発鳴り響き、真理奈の声が途切れた。
「ごめんかどみー? 早くこっち手伝ってくれるか?」
「ん、ごめん。おいで小春ちゃん」
宗司の声に振り向き、小春に手招きして宗司の横に並んで地面を見下ろす。
「走り回りたいから足元を広げたいんだ」
「あ、それだったら多分、私役に立てますよ」
小春が手を挙げながら言う。
「マジか。よっしゃ行くぞ」
「了解しました。ついて来てください」
小春が防楯を広げて地面に向け、その体勢のまま勢い良く飛び降りた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑤

「よしよし、こっからは俺の出番だぜー。そぉー……りゃっ!」
宗司は這い寄ってきた小型のカゲ数体を薙ぎ払い、返す一撃で錐状に尖った側の鎚頭を別のカゲの頭部に叩きつけ粉砕した。こちらは頭部に核があったようで、ぐずぐずと溶けるように消滅した。
戦槌を構え直す宗司の隙を狙って4体のカゲが飛びかかったが、2体は灯の撃ったワイヤーに貫かれ、あとの2体は二人の遥か後方からの狙撃によってダークコアを破壊され、大気中に掻き消えた。
『よし命中』
「お、ナイス狙撃。真理ちゃん無事だってー?」
そう尋ねる宗司に親指を立て、灯はワイヤーで捕えたカゲを引き寄せ、体組織を破壊され露出したダークコアを改めて破壊した。
「そろそろヌシとの距離がキツイな。俺がしばらく気を引いとくから、雑魚は任せたぜ、宗司」
宗司に告げ、灯は鉄線銃型P.A.による立体機動でヌシの周りを回り始めた。
「おう頑張れー」
宗司は向かってくるカゲたちを数度殴り飛ばし続けていたが、狙いの荒い打撃は核を破壊できず、敵の数は一向に減らない。
「宗司ーカゲ減ってねえじゃねえかー」
ワイヤーで跳び回りヌシの注意を引きながら、灯が文句を言う。
「コアが小さいのが悪い」
「もっと頑張れよ……お?」
「どうした?」
「着いたみたいだ、援軍」
「ほう」
「しぃーーるど、ばあぁあーーっしゅ!」
小春が防楯を身体の前に構えながら突進し、カゲ数体を屋根から弾き飛ばした。

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野良輝士市街奪還戦 その④

遡ること数十秒、空中移動中、ふと地面を見下ろした初音は、地上を埋め尽くすカゲたちの中に不自然に空いた隙間を発見した。
(何だろ、あそこ……)
目を凝らし、その正体に気付くのとほぼ同時に、初音は灯の肩から手を放し、そこ目掛けて飛び降りていた。
カゲたちをクッションにして着地し、それらを順番に斬り倒しながら突き進み、遂に初音は小さな空白の正体に辿り着いた。
ビビッドカラーの迷彩模様に彩られた、金属製の折り畳み防楯。ひょいと跳び越えて内側に入ると、まだ幼さの残る少女が必死で押さえていた。
「ねえ」
「! え、誰、何⁉」
「ごめん、私は門見初音。あなたと同じ輝士だよ」
「わ、私は田代小春。逃げ遅れたんだけど、私のP.A.がこの楯で良かった……」
「ある程度は斬っておいたから大丈夫。それより小春ちゃん、突然で悪いんだけど、ちょっとついて来てくれる?」
「え、うん、はい」
小春が防楯を畳んでいる間、初音がカゲたちを牽制する。
「はい、準備できました!」
その声に初音が目を向けると、小春は防楯を折りたたんで、背中に背負っていた。
「うん」
通話アプリを起動し、真理奈と灯の通話に参加する。
『あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
『大丈夫じゃねえ……』
『誰か生存者でも見つけたのかも』
自分が勝手に離れたことについて話しているのだろう。そう考え、初音は声をかけた。
「ごめん、勝手に離れて」
『うわあ⁉』
突然の大声に耳を押さえながらも、状況を伝えようとして電話口から灯の声が聞こえてきた。
『うわやっべ引き寄せちゃった』
(……今の大声でカゲを呼び寄せちゃったのかな)
「ちょっと待ってて、援軍連れて行く」
『あー?』
電話を耳から離し、小春の方に振り返る。小春はカゲたちから逃げるように背後のブロック塀の上に避難していた。
「ちょうど良いや小春ちゃん、ついて来て。私の仲間が危なそう」
「あ、りょーかいです」
ブロック塀から屋根の上によじ登り、2人はヌシのいる方角に向けて駆け出した。

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白と黒と青き星 〜第1話 出撃〜前編

STI校内、そして防災庁特定特殊生物対策班の施設内に警報が鳴り響き、対策本部は警報と共に電源が入る。
「東鏡都瀬田谷区に大型デネブリスの出現を確認。政府より緊急事態宣言発令に伴うプラン11要求!」
「了解。瀬田谷区全域の河川及び公道にフォトンウォール展開、住民避難を開始します。」
「陸自班、空挺班は東鏡I.Cを中心に第1種戦闘配置!」
指示を出す澁谷分隊長は私たちの通う東鏡第1分校澁谷校の校長でもある鳴海晃司。かつてスパークラーとして第1線で活躍したエースだった男だ。今もその戦術眼は衰えることを知らない。
【空挺班より報告します。目標は現在双子田万川駅周辺を侵攻中。幸い侵食は国道246号線、都道11号線に囲まれた範囲内で抑えられています】
「その範囲なら住民避難完了しています」
通信と本部隊員の声が次々に飛び交う。
【澁谷分隊、全隊員配置完了。目標捕捉しました。】
「了解。総員、飽和攻撃体勢に移れ!」
隊長はその全てを聞き逃すことなく、的確な指示を出す。
【『了解』】
【空挺班、攻撃準備完了。いつでも打てます】
【同じく陸自班、いつでも打てます】
「GPS誘導弾発射準備完了。いつでも打てます」
さすがに特殊自衛隊。行動は迅速で乱れがない。
「住民避難完了のため、政府の承認は省略。飽和攻撃開始。打てぃ!」
隊長のその合図で発射、着弾の轟音が鳴り響く。
先程まで見えていたモニターはその爆撃の衝撃のためか、それを防ぐためか映像が途切れている。
その轟音は数秒間続き、その間も本部は忙しなく誰かしらが動いているが音は掻き消される。
その中で隊長は何か言伝を受け、少し口角が上がる。
「飽和攻撃終了。モニター、復旧します」
そのモニターに映ったのは爆発によって先程までとは少し形状が変化したデネブリスの姿があった。しかし本部の面々に動揺する様子はなかった。
「実弾、光弾共に全弾命中。目標のコアに損傷、認められません」
「結構。第2フェーズ移行への時間は稼げた」
そう言うと通信をアナウンスに切り替える。
「全隊員に告ぐ、これより作戦を第2フェーズに移行する。総員、配置に着け!」
隊長は再び通信をSTI校内の出撃準備室に切り替え、問いかける。
「2人とも、いけるな?」

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野良輝士市街奪還戦 その③

それから更に2度空中を移動し、灯と宗司はカゲたちのヌシである大型個体と10mほど離れた家屋の屋根の上にいた。ヌシも彼らに気付き、眼球に似た器官をぎょろりと動かす。
「おーおー見られてるねー。行くぞ、灯、かどみー」
「おう」
灯は答えたが、その場にいない初音の返事は無い。
「……あれ、かどみーは?」
「え? そういや肩が軽かったような……あれ、いない。……どうすんのこれ」
「まあ……俺が倍働けば良いだけだしなぁ……」
ヌシの身体が少しずつ二人の方に向いていく中、灯の携帯電話から通知音が鳴った。
『ああ、もしもしアカリちゃん? 私だけど』
「あ、真理奈か。今ちょっとした問題が……」
『あー、かどみーのことでしょ? あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
「大丈夫じゃねえ……」
『誰か生存者でも見つけたのかも』
『ごめん、勝手に離れて』
「うわあ⁉」
突然グループ通話に入ってきた初音に、灯が驚きの叫び声をあげる。その声に反応したのか、周囲のカゲたちが一斉に動き出し、灯たちがいる家に群がり始めた。
「うわやっべ引き寄せちゃった」
『ちょっと待ってて、援軍連れて行く』
「あー?」
通話こそ繋がっていたものの灯の疑問符に初音は答えず、灯は小さく舌打ちをして敵に相対した。

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野良輝士市街奪還戦 その②

「……まあ、真理ちゃんがそう言うなら、俺らからは何も言うこと無えよ」
「あ、宗司お前、『ら』って言ったな! 俺はまだ賛成してねえぞ!」
「じゃあ多数決で負けね」
初音も真理奈の意見に従うようで、灯もすぐ押し黙り、鉄線銃を強く握りしめた。
「……じゃあ行くぞ、宗司、かどみー。遅れんなよ、落ちて死ぬぜ」
「おう」
「了解」
3人は同時に駆け出し、屋上の落下防止柵に跳び乗り、勢いのまま空中に飛びだした。
「っしゃ行くぞコラァッ!」
灯が掛け声と同時に鉄線銃を発射し、約30m先のビルの屋上にフックを固定する。そのワイヤーを掴んで引き寄せると、勢いで灯とその肩に掴まったあとの二人の身体はそのビルに向けて飛んでいき、3人は地上を蠢くカゲと関わることなくその距離を無事に移動した。
「よっしゃ、もう1発頼むぜ」
宗司に言われ、灯はワイヤーを銃の中に巻き取りながら答えた。
「ああ分かってるよ。今ワイヤー回収してるから待ってろ」
「はいはい」
先にこの建物の屋上まで投げておいた戦槌型P.A.を拾い上げながら、宗司もそれに応じた。
「……あ、そういえば」
思い立ち、初音はポケットから携帯電話を取り出して通話アプリを起動した。
「もしもし真理奈?」
『はいはいこちら真理奈。そっち見えてるよー』
「そっち大丈夫?」
『そこから見える?』
初音が元来た建物の方を見ると、猟銃を杖に、右手でスコープを持ち、肩と耳で携帯電話を挟み、片脚で屋上への入り口の扉を押さえている真理奈の姿が小さく見えた。
「大丈夫じゃなさそうなんだけど⁉」
『まあそろそろ限界かなー。そういうわけで、1度切るからまたかけ直して?』
「え、あ、うん……」
「おいかどみー、次行くぞー!」
初音が灯の言葉に振り向くのとほぼ同時に、真理奈の側から通話が切られた。

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野良輝士市街奪還戦 その①

「沈んだねぇ……」
カゲの奔流に沈み、フォトンウォールで急遽封鎖された町の、カゲに浸蝕されきらなかったビルの屋上で猟銃型のP.A.のスコープから目を離し、その少女、下野真理奈は呟いた。
「沈んだなぁ……一瞬だった」
戦槌型のP.A.を杖代わりにして、真理奈とほぼ同年代の少年、和泉宗司も彼女の隣で賛同する。
「ヌシどこ?」
「あそこ、あの大きい交差点のところだよ、アカリちゃん」
「『ちゃん』って言うなこれでも男だぞ」
「良いじゃない男で『ちゃん』付けでも」
鉄線銃型P.A.を構えた少年、月舘灯に真理奈が受け答える。
「あそこ、あのビル、中学校の屋上、青い家の屋根。この順番で結構近付けるかな」
真理奈がスコープを銃から取り外しながら言い、灯も鉄線銃の狙いを定める。
「宗司、あの距離届くか?」
「ん、……おう、余裕だな」
「助かる。お前の武器重いからな、先に投げとけ。……よっしゃ、行くぞ」
「おう了解。かどみー、出番だぜー」
宗司に呼ばれ、屋内から彼より少し年上に見える少女が出てきた。
「結構上ってきてたよ。そろそろキツイかも」
「了解、こっちで対処するからヌシは任せたよ」
真理奈の言葉に、後の3人は信じられないといった顔を向ける。
「……え、何?」
「いやいや真理ちゃん、狙撃銃1丁でそれを言うのは無理あるぜ」
宗司の言葉に灯も頷く。
「その上こっちに指示まで飛ばすつもりなんだろ? 自分は1人しかいないって忘れてるところ無い? かどみーだけでも置いてった方が良いだろ」
「たしかその銃、最大装弾数5発とかじゃなかったっけ?」
『かどみー』と呼ばれた少女、門見初音も心配そうにしている。
「大丈夫! そっちは正直スコープでときどき覗いてれば良いし、そこの入り口結構狭いからちょっとずつしか出てこれないだろうし」
狙撃銃とスコープを左右それぞれの手に持ち、真理奈はウインクをしてみせた。

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伝搬・見物衆・難化

「よォお前、こんな往来ド真ん中で立ち止まってどうしたィ?」
「ん? 何だ友よ、俺に気付いてあっちに気付かねえとは、随分と視野が狭いな。葦でも覗いてんのかい?」
町をぶらついていると友人の姿を見つけたんで声をかけてみた。返事はいつも通り皮肉たっぷりだったが。
「んで、何を見ていた?」
「あれさね」
「どれさね」
「俺の指を見ろ」
「…………」
「馬鹿野郎、指を見てどうする。指差す先を見ろってんだよ」
「最初からそう言えよなー」
冗談を交えつつ奴の指す方を見てみると、異国の僧衣を纏った異国の少女が、たどたどしい日本語で何やら演説をしていた。
「何あの美少女」
「どーも異国の宗教について話しているらしいぜ」
「シュウキョウ……? 生憎と興味が無えな。俺が信じるのは祖霊だけだ」
「ばちぼこ浸かってんじゃねえか」
「で、どんな胡散臭い宗教だ? 見てくれだけなら若い男が黙って通り過ぎるわけが無いと思うんだが」
「ごめん俺異国の顔は好かねえ」
「俺もー。で、どんな宗教だって?」
「話聞いてやれよ」
「お前は聞いてたんだろ?」
「おう、割と朝早くからそこに立って、もう二刻は話し続けてるぜ。もう十回は同じ話してる」
「それで野次馬がお前1人か」
「うん」
「そっかァ……。で、どんな宗教だって?」
「だから話聞いてやれって」
「発音が聞きにくいんだよ」
「そんならしゃあねえや」
2人して笑っていると、俺の博打仲間が声をかけてきた。
「ようお前ら、何を笑ってんだ?」
「おー、お前俺達には気付いてあれには気付かねえのか」
友人にやられたことを、そっくりそのまま繰り返す。
「『あれ』? あれってどれだ」
「俺の指を見ろ」
「…………?」
「指差す先を見ろって話だ馬鹿野郎」

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うちの七不思議NovelEdition:鉄棒の上の幽霊 エンディングと怪異紹介

「よー、グループチャットに何も貼られてなかったけど、ちゃんと写真撮ってきたのか?」
翌日、早めに学校に来て教室で待っていると、仲間の一人が俺の机まで駆け寄るように近付いて尋ねてきた。
「……まあ」
一応、証拠写真は2枚ある。まず幽霊野郎の方を見せる。
「これ、うちの生徒じゃね? 制服着てるし。心霊写真にしちゃ存在感あり過ぎんだろ」
「そうかもしれない。何かいたんだよ」
「何組の誰だ、これ?」
「しらね」
続いて、フラッシュで撃退するついでに撮っていた『サメ』の写真を見せる。
「……これ、何てZ級映画のスクショ?」
「…………『巨大ダルマザメ襲来』」
適当に誤魔化しておく。フラッシュで背景が白く飛んでちょっと見た感じじゃ校庭で撮ったようには見えないし、信じてもらえないのも仕方ないか。
「まあ良いや。何か面白いから画像上げとけよ」
「あーうん、そうするわ」


今回の怪異
・鉄棒の上の幽霊
『サメ』に追い詰められて鉄棒の上から逃げられないでいたかわいそうな幽霊。結果的に『疑似餌』にさせられていたが、悪意は無い。ただの被害者。結局食われたが、解放されたのはある意味幸せかもしれない。
・鉄棒の下に潜むモノ
外見は目が顔の正面についた巨大ダルマザメ。鉄棒の下に隠れ潜み、遅い時間に近付いてきた不良人間を食ってきた。人間と同等程度の知能と感覚能力を持ち、その強さゆえに回復能力は貧弱。土の中を水中のように自由に泳ぎ回れる怪獣の一種。多分トンネル効果を使っている。身体を地上に1.5m以上出すことはできない。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その⑧

『サメ』がまた地面の下に隠れた。それと同時に、その場で思いっきり足を地面に叩きつける。まるで地面の下に振動を届けるように。
そしてもう一度。強く地面を蹴り、その勢いで前に向かって飛ぶ。直後、俺の背後で『サメ』が顎を閉じるあの「ガチン」って音がした。
大きく音を立ててまた着地し、また強く踏み込んで、今度は横に向けて跳ぶ。『サメ』の通過する風圧を感じながら逆立ちのような姿勢で手を下にして着地し、手首と肘をできるだけ曲げて衝撃を殺し、できるだけ静かに倒れ込む。そのまま身体を微塵も動かないようにしてしばらく待つ。
実際やってみると、これは結構危険な賭けだったと思う。ちょっとした緩急はつけたが、全く振動を起こさずに行動するなんてことはまず無理だし、そのまま喰われる可能性は十分にあった。
けど、幸運にもあの『サメ』は意外と鈍かったようだ。地面の下から頭を出して、今出てきた地点の周りをぐるぐると回り始めた。もしかしてあいつ、まだ視力も回復してないのか? だとしたら、相当感覚が弱いぞ。
とにかく好都合。静かに立ち上がり、奴がすぐ近くまで泳いでくるのを只管待つ。
(……来た)
奴が正面から泳いできた。思わず口角が吊り上がる。片脚を大きく振り上げ、タイミングを合わせて思いっきり振り下ろす。この一撃は奴の鼻先を直撃し。上手いことダウンさせることに成功したようだ。
「ザマア見やがれサメ野郎が。それじゃ、俺は先生方にバレる前に帰るからな」

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その⑦

インカメラを起動して、画面で背後の様子を確認しながら走る。あと数mでコンクリートで舗装された場所に着くが、奴が追って来ている様子は無い。しかし、奴は地面の下に潜ることもできるわけだから、全く以て油断はできない。

ふと、嫌な予感がして足を止めた。
慣性で前に引っ張られるのを全力で堪え、そのまま後ろに跳ぶ。直後、俺がさっきまでいた場所のほんの1歩先、そこの地面の下からあの『サメ』の大顎が現れた。
(この野郎……たしかに目眩ましも成功してたのに、復帰して追いつくまでが早過ぎるだろ……!)
いや、正直なところそこは問題じゃない。今本当にマズいのは、奴が鉄棒からこれだけの距離を離れられるという事実の方だ。
奴がまた頭を地上に出してこっちに突っ込んできた。考えるのは後だ、とにかく逃げなくっちゃならない。
通学鞄をその場に投げ捨てて、斜め右前方に転がり込むようにして回避行動をとる。ちょうど、正面からやって来るあいつの横をすり抜けるような形になるが、この回避は上手く成功して、『サメ』は俺の鞄に頭突きをかまして通り過ぎて行った。
(今の動き…………、ちょっと面白いことを思いついたぞ)
さっき轢き飛ばされた鞄だって回収しなくっちゃならない。そのついでに、ちょっと実験してみるとしようか。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その⑥

両足が鉄棒から離れると同時に、『サメ』が地面から顔を出した。大口を開けて俺の落下地点に待ち受けている。
「そう来るだろうと思ってたぞサメ野郎!」
落ちながら鉄棒に手をかけ、一瞬地面への落下を止める。こっちの目論見通り『サメ』の牙は空を切り、俺の足のすぐ下でガチンと顎が閉じた。顎が閉じて少し安全になった『サメ』の鼻先を強く踏むようにして着地し、すぐに地面に下りて素早くスマホを拾う。電源ボタンを押してロックを解除すると、つけっぱなしになっていたカメラアプリが起動する。
『サメ』の方に目をやると、鼻を踏み潰されたショックから既に立ち直っていたようで、こっちに向かって来ようとしている。
「はい、ちぃー……ずッ!」
奴が目の前まで来たタイミングで、シャッターを切る。フラッシュを『ON』に設定しているんだ。もうかなり暗くなったこの時間帯、文字通り目の前でいきなり強い光を食らえば、それなりにキツイだろう。
奴の進路は狂い、俺を避けてすぐ横を通り過ぎて行った。
「ザマア見やがれ。じゃーな、サメ野郎」
『サメ』に向けて親指を下に向けてから、校門に向けて全力疾走を開始した。あいつが動けないでいるうちに、できるだけ距離を取らなくっちゃな。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その④

こいつが何者かなんてこの際どうでも良い。現状一番の問題は、下の化け物をどう躱して逃げるかってことだ。
最悪のパターンは、この状況が誰かしら先生に見つかって、説教しに来た先生がこっちに近付いてくること。そうなったら、その先生がサメに襲われるかもしれない。関係無い人間が巻き込まれることだけは避けなきゃならない。
「……おい幽霊野郎」
現状、こいつしか頼れる奴がいない。まずは情報収集からだ。
「何だね被害者君」
「あいつ、この鉄棒からどれだけ離れられる?」
「さあ……一度、走って逃げようとした人がいたけど、すぐ捕まってたよ」
「距離で言え」
「えー……そうだな……」
幽霊野郎は考えるような素振りを見せながら、腕をぴんと伸ばしてちょうど45°くらいの角度で地面を指した。
「この鉄棒の高さが、たしか……2.5mくらいだったかな。僕の座高やら何やらを合わせて考えると……」
腕の角度を保ったまま、弧を描くように真横の地面を指す。
「あの辺りが3mくらいの距離か」
そのまま指す方向を微調整しつつ、奴は空いた片手でこめかみをコツコツと叩く。
「だから……うん。大体5mくら」
奴の言葉が急に途切れた。鉄棒から両手を放した状態で急にこっちに頭を振って話したせいで、バランスを崩したんだ。
俺が捕まえる前に幽霊野郎の身体は鉄棒の上から完全に重心を外し、そのまま地面に向けて落下していった。あの『サメ』が待ち受けている、ちょうどその地点にだ。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その③

「何イィーーーーッ⁉」
咄嗟に真上に跳んで鉄棒に掴まり、その勢いのまま逆上がりのように鉄棒の上に避難して顎を回避する。畜生め、うっかりスマホを落としちまったじゃねえか。
「何なんだよあいつはァ!」
思わず叫ぶと、先に鉄棒の上にいたあいつが冷静に答えた。
「さあ……僕は『サメ』って呼んでる。ちょっと似てるし。幸いにも上まで身体を伸ばしてくることは無いけど、困ったことになったね。きみは食われずに済んだけど、どちらにしろ詰みだ。もう逃げられないよ」
「……『は』? 今、『きみは』って言ったな?」
「うん」
「その言い方は……『食われた奴を見たことがある奴』の言い方だ」
「うん」
「お前、さっき幽霊じゃないって言ってたが、絶対にあのサメと関係あるだろうが! 嘘ついたのか!」
「そうだったとして、幽霊相手にすごい喧嘩腰じゃない」
「冷静に突っ込むなよ」
突っ込み返したおかげで少し落ち着いた。とりあえず、幽霊野郎と同じ腰掛けた姿勢で、奴の隣に座る。
「まあ、そう怒らないでくれよ。僕も立ち位置としては被害者なんだから」
幽霊野郎がそう言って俺をなだめてきた。
「被害者だと?」
「そう被害者。だって、僕もそいつのせいでずっとここに縛り付けられてるようなものなんだから」
「知った事か」
「冷たい……」

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その②

完全下校時刻10分前を知らせる校内放送が流れた。作戦決行だ。
「ちゃんと証拠として写真と動画撮ってこいよ!」
そう呼びかける仲間たちに親指を立て、俺は周りの目を盗んでさっき決めた隠れ場所に素早く滑り込んだ。そのまま周囲の物音に注意を払いつつ、スマホの時計を見ながら完全下校時刻である18時を待つ。1度は見回りの先生が近くを通った気配がしたけど、スマホの電源を落として息を潜めていたら結局バレずにいなくなってくれた。
まずは植木の陰から顔を出し、学校側を確認する。職員室の明かりが点いているが、窓の近くに人がいる様子は無いし、今ならうまく鉄棒に近付けるだろう。
体育倉庫の陰に隠れるようにして、うっかり誰かに姿を見られたりしないよう気を配りながら件の鉄棒に近付いた。さて、幽霊ってのは本当にいるんだろうか……
「ねえきみ、もう完全下校時刻は過ぎてるだろう? 何してるの?」
不意に頭上から声をかけられた。面食らって腰を抜かしてしまったが、よくよく見てみると鉄棒の上には俺と同じ制服を着た俺と同い年くらいの生徒が腰かけていた。
「ゆ、幽霊……!」
「え、いや違うけど」
「え、あ、違うの」
「うん。なに、肝試し?」
「そんなところだ。お前もか」
幽霊じゃないって言ってたし、制服も同じだし、多分こいつも肝試しか悪戯で来た奴なんだろう。とりあえず今はそう思っておくことにする。ついでだから写真も撮っておこう。
「いぇーい」
スマホを向けたら奴はピースサインを作って応じた。結構ノリの良い奴だな。
「で、お前はそんなところで何やってんだよ」
立ち上がり、鉄棒の上の奴に問いかける。
「ああ、いや僕も下りたいのは山々なんだけど、『そいつ』のせいで下りるに下りられなくってね」
「『そいつ』?」
奴が指差す鉄棒の下の地面――今まさに俺が立っている場所を見る。
たしかに『そいつ』は居た。地面に突如現れた巨大な顎が、俺を飲み込もうと閉じつつあったのだ。

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うちの七不思議

「学校の七不思議」というものがある。
やれ『トイレの花子さん』だとか、やれ『動く人体模型』だとか、うちの学校にも勿論、そういった噂話はいくつか伝わっている。しかし、そんな『七不思議』の中でも、他所では聞かないような奇妙な話が一つある。こんな話だ。

『放課後、完全下校時刻も過ぎた頃に校庭に行くと、隅の方に設置してある一番高い鉄棒の上に腰掛ける幽霊を見ることができる』

この幽霊ってのがどんな姿をしているのか、というところについてはよく分かっていない。大体の話は「遠巻きに幽霊の姿を見て、慌てて逃げるように帰った」という実体験形式の話ばかりで、肝心の部分の作りが甘いんだ。
そして今日、俺はこの七不思議の幽霊を見に行くことになった。
理由は極めて馬鹿らしいもので、仲間内でのちょっとした罰ゲームみたいなものだ。この幽霊に出会うためには、単純に完全下校時刻を過ぎるまで学校に残っていなくっちゃならない。主な『罰』はこっちなんだよな。先生にでも見つかれば面倒だし。
しかし俺は今回、ちょっとした秘策を思いついたのだ。簡単な話、見つかるのが嫌なら、見つからないような場所に身を隠していれば良い。
そんなわけで昼休みのうち見当をつけておいたのが、体育倉庫と体育館の間にある狭い隙間。手入れの全くされていなさそうな植木と建物二つが上手い目隠しになって、よほど注意して見ない限りはそうそう見つからないようになっている。おまけに件の鉄棒もすぐ近くにある。

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