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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その②

「そういえば親友、今日はたしか君の誕生日だったよね。良いものをあげよう」
ふと思い出したように明晶が口を開いた。
「今日誕生日なのはプロフの方な」
「あれ、そうだっけ。ワタシの誕生日を祝ってくれる家族は、3年も前にもういなくなっちゃったからねぇ……」
「死んだみたいに言うじゃん」
「えへへ、みんな無事なんだよね。ここがカゲに沈んだのがちょうどみんなの旅行中で良かった」
「……で、『良いもの』って何だよ」
「ああ、そうそう」
明晶が放り投げて寄越したものを。吉代は片手でキャッチし、改めて確認した。
腕時計のような形状ではあるが、文字盤の代わりに液晶画面が取り付けられている。
「何だこれ。スマートウォッチ?」
「それっぽいでしょ。頑張って作ったんだー。素材だけは腐るほどあるからね」
吉代が顔を上げると、明晶の右手首にも同じデバイスが嵌められている。彼女のデバイスの画面には、半分ほどまで減り黄色くなったゲージと『3』の文字が表示されている。
「おそろい」
「で、これ何」
「装着した人の光の力の現在値と、どれだけ消耗したかを表示してくれる機械。オプションもついてるよ」
「オプション?」
「まず一つが、通話機能。ワタシのデバイスとだけだけど」
「……ってことは、他にもあるのか」
「うん」

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野良輝士市街奪還戦 その⑧

「あとは任せたぞ宗司、かどみー」
「おう任せろー」
片手を上げて答えた宗司に、ヌシが腕による薙ぎ払いを仕掛けてきた。
「お、その攻撃は助かる」
そう言いながら、宗司は予め初音が突き立てていた剣を足場に跳び上がり回避した。弾き飛ばされた剣は初音が回収し、宗司が頭上から、初音が足元から攻撃を仕掛ける。ヌシは両方を一瞬見た後、まず宗司を殴りつけようとした。しかし、その拳は途中で不自然に停止する。
灯が地面に向けて撃ったワイヤーがヌシの腕を絡め取っていたのだ。
その隙を逃さず、宗司が頭を叩き潰し、初音が片脚を切断したが、ダークコアには当たらなかったようで、ワイヤーを振り払い更に攻撃を放とうとする。
「させるか」
即座に巻き取ったワイヤーを再び発射した灯の攻撃と遠方からの真理奈による狙撃がヌシの腕を貫き、殴る勢いでその腕が千切れ飛んだ。
「いよっしゃ片腕片脚取った!」
「ナイスゥ灯に真理ちゃん」
親指を立てた宗司の横に、小春が吹き飛ばされてきた。
「ん、どうした新入り?」
「ごめんなさい、押し負けました……。私の押さえてた分、一気に押し寄せてきます」
「マジか。流石に片方しか防げないぞ」
そう言っている間にも、前方からはヌシの叩きつける攻撃が、後方からは無数のカゲたちが、その場の4人に迫ってくる。その時、
『宗司くんは後ろを止めて! ヌシの攻撃は当たらないからかどみーちゃんが心臓を狙って!』
通話状態が続いていた携帯電話から、真理奈の指示が轟いた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑦

「あ、なるほどそういうこと。さっさと退かなきゃお前までぺちゃんこになるぜー!」
宗司も続いて飛び込み、カゲ数体をまとめて押し潰した防楯を更に戦槌で打ち、下敷きになったカゲ達のダークコアを衝撃で粉砕した。
「これ良い方法だなー!」
「1回きりですけどねー!」
「あん? まだ行くぞ」
「えっ」
宗司が向かってきたカゲたちを戦槌で薙ぎ払い、体勢の崩れたカゲたちを指す。
「バッシュ!」
「あ、そういうこと!」
小春もすぐさま広げた防楯を構えてカゲの群れに突っ込み、ブロック塀に押し付けた。
「理解が早くて……助かるぜ!」
小春が離れたところで再び宗司が戦槌で打ち、カゲの群れはまたも押し潰された。
「っしゃあ! もう1発行くぞ!」
「え、いやちょっと……」
足を止める小春に宗司が尋ねる。
「どうした?」
「こ、この楯、結構重いんですよ…………。何度も、バッシュするのは、ちょっと……キツイ、かも…………しれないです…………」
「……マジで?」
「マジで……」
「うわマジか。まあ良いや。じゃあ後ろの足止め役頼んだ」
「了解、です」
防楯を開いたまま小春はヌシから離れ、ヌシのもとに近付こうとする小型のカゲたちを押し返し始めた。
「かぁどみー!」
「分かってるって」
宗司に呼ばれ、初音は溜め息を吐きながら地面に飛び降りた。カゲたちのいなくなった地面に落下の勢いで剣を突き立てて着地する。
「よっしゃ、灯ー! もう引け!」
「やっとか前衛ども!」
それまで一人でヌシと交戦していた灯だったが、宗司に呼ばれてヌシと距離を取り、手近な家の屋根に着地した。

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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その①

「やァ、今日も来たね、親友」
いつも通りノックも無しに自室に入ってきたその青年、三色吉代(みいろ・よしろ)に目も向けず、モニターに向かってキーボードを叩きながら村崎明晶(むらさき・あきら)は親し気に話しかけた。
「ああ。しかしこの小屋、そろそろ限界なんじゃないか? 周りのカゲの数やばかったぞ」
「ははは、つまり『カゲ除け』は上手く動いていてくれてるわけだ。君のお陰だね」
「あとプロフ」
「『プロフェッサー・アメシスト』ね。変な略し方しないでよ。……で、何だい親友」
「実験台に親し気な呼び方して警戒心解こうと思ってるなら無駄だぞ。俺はもうあんたにすっかり慣れちまってるんだからな」
「ははは、すっかり癖になっててね。……けど、ワタシは本当に君のこと、親友だと思ってるんだよ? だってさ」
そこで一瞬言葉を切り、自分の座ったキャスター付きの椅子をずらし、監視カメラの映像が映ったモニターを吉代に見せるようにしながら言葉を続ける。
「この村が『こんなこと』になっちゃってから、ずっと一緒に戦ってくれてる唯一の戦友なんだから」
モニターの中には、村中のあらゆる場所を埋め尽くす無数のカゲと、9割方カゲに飲まれ、廃村とすら呼べない有様の『村だったもの』が映されていた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑥

「え、誰」
見知らぬスパークラーに戸惑う宗司。
「初めまして、田代小春です! そこの初音さんに助けていただき、皆さんの助太刀に来ました!」
「あ、うん。……ごめん初音って誰?」
「あんたらの言うかどみーちゃんのことだよ」
一歩遅れて追いついてきた初音につっこまれ、宗司は思い出したように手を打った。
「もしもし真理奈? こっち見えてる?」
『うん、スコープで見てるよー。その子が援軍?』
初音の通話に、銃声混じりに真理奈が通話に答えた。
「そう、小春ちゃん」
『楯使いかー、防御力の高い子はうちにいなかったから助かるね。こっちのカゲの勢いもちょっと落ち着いてきたし、もうちょっと援護射撃に回れそ……あごめんやっぱ無理』
銃声が更に3発鳴り響き、真理奈の声が途切れた。
「ごめんかどみー? 早くこっち手伝ってくれるか?」
「ん、ごめん。おいで小春ちゃん」
宗司の声に振り向き、小春に手招きして宗司の横に並んで地面を見下ろす。
「走り回りたいから足元を広げたいんだ」
「あ、それだったら多分、私役に立てますよ」
小春が手を挙げながら言う。
「マジか。よっしゃ行くぞ」
「了解しました。ついて来てください」
小春が防楯を広げて地面に向け、その体勢のまま勢い良く飛び降りた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑤

「よしよし、こっからは俺の出番だぜー。そぉー……りゃっ!」
宗司は這い寄ってきた小型のカゲ数体を薙ぎ払い、返す一撃で錐状に尖った側の鎚頭を別のカゲの頭部に叩きつけ粉砕した。こちらは頭部に核があったようで、ぐずぐずと溶けるように消滅した。
戦槌を構え直す宗司の隙を狙って4体のカゲが飛びかかったが、2体は灯の撃ったワイヤーに貫かれ、あとの2体は二人の遥か後方からの狙撃によってダークコアを破壊され、大気中に掻き消えた。
『よし命中』
「お、ナイス狙撃。真理ちゃん無事だってー?」
そう尋ねる宗司に親指を立て、灯はワイヤーで捕えたカゲを引き寄せ、体組織を破壊され露出したダークコアを改めて破壊した。
「そろそろヌシとの距離がキツイな。俺がしばらく気を引いとくから、雑魚は任せたぜ、宗司」
宗司に告げ、灯は鉄線銃型P.A.による立体機動でヌシの周りを回り始めた。
「おう頑張れー」
宗司は向かってくるカゲたちを数度殴り飛ばし続けていたが、狙いの荒い打撃は核を破壊できず、敵の数は一向に減らない。
「宗司ーカゲ減ってねえじゃねえかー」
ワイヤーで跳び回りヌシの注意を引きながら、灯が文句を言う。
「コアが小さいのが悪い」
「もっと頑張れよ……お?」
「どうした?」
「着いたみたいだ、援軍」
「ほう」
「しぃーーるど、ばあぁあーーっしゅ!」
小春が防楯を身体の前に構えながら突進し、カゲ数体を屋根から弾き飛ばした。

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野良輝士市街奪還戦 その④

遡ること数十秒、空中移動中、ふと地面を見下ろした初音は、地上を埋め尽くすカゲたちの中に不自然に空いた隙間を発見した。
(何だろ、あそこ……)
目を凝らし、その正体に気付くのとほぼ同時に、初音は灯の肩から手を放し、そこ目掛けて飛び降りていた。
カゲたちをクッションにして着地し、それらを順番に斬り倒しながら突き進み、遂に初音は小さな空白の正体に辿り着いた。
ビビッドカラーの迷彩模様に彩られた、金属製の折り畳み防楯。ひょいと跳び越えて内側に入ると、まだ幼さの残る少女が必死で押さえていた。
「ねえ」
「! え、誰、何⁉」
「ごめん、私は門見初音。あなたと同じ輝士だよ」
「わ、私は田代小春。逃げ遅れたんだけど、私のP.A.がこの楯で良かった……」
「ある程度は斬っておいたから大丈夫。それより小春ちゃん、突然で悪いんだけど、ちょっとついて来てくれる?」
「え、うん、はい」
小春が防楯を畳んでいる間、初音がカゲたちを牽制する。
「はい、準備できました!」
その声に初音が目を向けると、小春は防楯を折りたたんで、背中に背負っていた。
「うん」
通話アプリを起動し、真理奈と灯の通話に参加する。
『あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
『大丈夫じゃねえ……』
『誰か生存者でも見つけたのかも』
自分が勝手に離れたことについて話しているのだろう。そう考え、初音は声をかけた。
「ごめん、勝手に離れて」
『うわあ⁉』
突然の大声に耳を押さえながらも、状況を伝えようとして電話口から灯の声が聞こえてきた。
『うわやっべ引き寄せちゃった』
(……今の大声でカゲを呼び寄せちゃったのかな)
「ちょっと待ってて、援軍連れて行く」
『あー?』
電話を耳から離し、小春の方に振り返る。小春はカゲたちから逃げるように背後のブロック塀の上に避難していた。
「ちょうど良いや小春ちゃん、ついて来て。私の仲間が危なそう」
「あ、りょーかいです」
ブロック塀から屋根の上によじ登り、2人はヌシのいる方角に向けて駆け出した。

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白と黒と青き星 〜第1話 出撃〜前編

STI校内、そして防災庁特定特殊生物対策班の施設内に警報が鳴り響き、対策本部は警報と共に電源が入る。
「東鏡都瀬田谷区に大型デネブリスの出現を確認。政府より緊急事態宣言発令に伴うプラン11要求!」
「了解。瀬田谷区全域の河川及び公道にフォトンウォール展開、住民避難を開始します。」
「陸自班、空挺班は東鏡I.Cを中心に第1種戦闘配置!」
指示を出す澁谷分隊長は私たちの通う東鏡第1分校澁谷校の校長でもある鳴海晃司。かつてスパークラーとして第1線で活躍したエースだった男だ。今もその戦術眼は衰えることを知らない。
【空挺班より報告します。目標は現在双子田万川駅周辺を侵攻中。幸い侵食は国道246号線、都道11号線に囲まれた範囲内で抑えられています】
「その範囲なら住民避難完了しています」
通信と本部隊員の声が次々に飛び交う。
【澁谷分隊、全隊員配置完了。目標捕捉しました。】
「了解。総員、飽和攻撃体勢に移れ!」
隊長はその全てを聞き逃すことなく、的確な指示を出す。
【『了解』】
【空挺班、攻撃準備完了。いつでも打てます】
【同じく陸自班、いつでも打てます】
「GPS誘導弾発射準備完了。いつでも打てます」
さすがに特殊自衛隊。行動は迅速で乱れがない。
「住民避難完了のため、政府の承認は省略。飽和攻撃開始。打てぃ!」
隊長のその合図で発射、着弾の轟音が鳴り響く。
先程まで見えていたモニターはその爆撃の衝撃のためか、それを防ぐためか映像が途切れている。
その轟音は数秒間続き、その間も本部は忙しなく誰かしらが動いているが音は掻き消される。
その中で隊長は何か言伝を受け、少し口角が上がる。
「飽和攻撃終了。モニター、復旧します」
そのモニターに映ったのは爆発によって先程までとは少し形状が変化したデネブリスの姿があった。しかし本部の面々に動揺する様子はなかった。
「実弾、光弾共に全弾命中。目標のコアに損傷、認められません」
「結構。第2フェーズ移行への時間は稼げた」
そう言うと通信をアナウンスに切り替える。
「全隊員に告ぐ、これより作戦を第2フェーズに移行する。総員、配置に着け!」
隊長は再び通信をSTI校内の出撃準備室に切り替え、問いかける。
「2人とも、いけるな?」

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野良輝士市街奪還戦 その③

それから更に2度空中を移動し、灯と宗司はカゲたちのヌシである大型個体と10mほど離れた家屋の屋根の上にいた。ヌシも彼らに気付き、眼球に似た器官をぎょろりと動かす。
「おーおー見られてるねー。行くぞ、灯、かどみー」
「おう」
灯は答えたが、その場にいない初音の返事は無い。
「……あれ、かどみーは?」
「え? そういや肩が軽かったような……あれ、いない。……どうすんのこれ」
「まあ……俺が倍働けば良いだけだしなぁ……」
ヌシの身体が少しずつ二人の方に向いていく中、灯の携帯電話から通知音が鳴った。
『ああ、もしもしアカリちゃん? 私だけど』
「あ、真理奈か。今ちょっとした問題が……」
『あー、かどみーのことでしょ? あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
「大丈夫じゃねえ……」
『誰か生存者でも見つけたのかも』
『ごめん、勝手に離れて』
「うわあ⁉」
突然グループ通話に入ってきた初音に、灯が驚きの叫び声をあげる。その声に反応したのか、周囲のカゲたちが一斉に動き出し、灯たちがいる家に群がり始めた。
「うわやっべ引き寄せちゃった」
『ちょっと待ってて、援軍連れて行く』
「あー?」
通話こそ繋がっていたものの灯の疑問符に初音は答えず、灯は小さく舌打ちをして敵に相対した。

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野良輝士市街奪還戦 その②

「……まあ、真理ちゃんがそう言うなら、俺らからは何も言うこと無えよ」
「あ、宗司お前、『ら』って言ったな! 俺はまだ賛成してねえぞ!」
「じゃあ多数決で負けね」
初音も真理奈の意見に従うようで、灯もすぐ押し黙り、鉄線銃を強く握りしめた。
「……じゃあ行くぞ、宗司、かどみー。遅れんなよ、落ちて死ぬぜ」
「おう」
「了解」
3人は同時に駆け出し、屋上の落下防止柵に跳び乗り、勢いのまま空中に飛びだした。
「っしゃ行くぞコラァッ!」
灯が掛け声と同時に鉄線銃を発射し、約30m先のビルの屋上にフックを固定する。そのワイヤーを掴んで引き寄せると、勢いで灯とその肩に掴まったあとの二人の身体はそのビルに向けて飛んでいき、3人は地上を蠢くカゲと関わることなくその距離を無事に移動した。
「よっしゃ、もう1発頼むぜ」
宗司に言われ、灯はワイヤーを銃の中に巻き取りながら答えた。
「ああ分かってるよ。今ワイヤー回収してるから待ってろ」
「はいはい」
先にこの建物の屋上まで投げておいた戦槌型P.A.を拾い上げながら、宗司もそれに応じた。
「……あ、そういえば」
思い立ち、初音はポケットから携帯電話を取り出して通話アプリを起動した。
「もしもし真理奈?」
『はいはいこちら真理奈。そっち見えてるよー』
「そっち大丈夫?」
『そこから見える?』
初音が元来た建物の方を見ると、猟銃を杖に、右手でスコープを持ち、肩と耳で携帯電話を挟み、片脚で屋上への入り口の扉を押さえている真理奈の姿が小さく見えた。
「大丈夫じゃなさそうなんだけど⁉」
『まあそろそろ限界かなー。そういうわけで、1度切るからまたかけ直して?』
「え、あ、うん……」
「おいかどみー、次行くぞー!」
初音が灯の言葉に振り向くのとほぼ同時に、真理奈の側から通話が切られた。

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野良輝士市街奪還戦 その①

「沈んだねぇ……」
カゲの奔流に沈み、フォトンウォールで急遽封鎖された町の、カゲに浸蝕されきらなかったビルの屋上で猟銃型のP.A.のスコープから目を離し、その少女、下野真理奈は呟いた。
「沈んだなぁ……一瞬だった」
戦槌型のP.A.を杖代わりにして、真理奈とほぼ同年代の少年、和泉宗司も彼女の隣で賛同する。
「ヌシどこ?」
「あそこ、あの大きい交差点のところだよ、アカリちゃん」
「『ちゃん』って言うなこれでも男だぞ」
「良いじゃない男で『ちゃん』付けでも」
鉄線銃型P.A.を構えた少年、月舘灯に真理奈が受け答える。
「あそこ、あのビル、中学校の屋上、青い家の屋根。この順番で結構近付けるかな」
真理奈がスコープを銃から取り外しながら言い、灯も鉄線銃の狙いを定める。
「宗司、あの距離届くか?」
「ん、……おう、余裕だな」
「助かる。お前の武器重いからな、先に投げとけ。……よっしゃ、行くぞ」
「おう了解。かどみー、出番だぜー」
宗司に呼ばれ、屋内から彼より少し年上に見える少女が出てきた。
「結構上ってきてたよ。そろそろキツイかも」
「了解、こっちで対処するからヌシは任せたよ」
真理奈の言葉に、後の3人は信じられないといった顔を向ける。
「……え、何?」
「いやいや真理ちゃん、狙撃銃1丁でそれを言うのは無理あるぜ」
宗司の言葉に灯も頷く。
「その上こっちに指示まで飛ばすつもりなんだろ? 自分は1人しかいないって忘れてるところ無い? かどみーだけでも置いてった方が良いだろ」
「たしかその銃、最大装弾数5発とかじゃなかったっけ?」
『かどみー』と呼ばれた少女、門見初音も心配そうにしている。
「大丈夫! そっちは正直スコープでときどき覗いてれば良いし、そこの入り口結構狭いからちょっとずつしか出てこれないだろうし」
狙撃銃とスコープを左右それぞれの手に持ち、真理奈はウインクをしてみせた。

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伝搬・見物衆・難化

「よォお前、こんな往来ド真ん中で立ち止まってどうしたィ?」
「ん? 何だ友よ、俺に気付いてあっちに気付かねえとは、随分と視野が狭いな。葦でも覗いてんのかい?」
町をぶらついていると友人の姿を見つけたんで声をかけてみた。返事はいつも通り皮肉たっぷりだったが。
「んで、何を見ていた?」
「あれさね」
「どれさね」
「俺の指を見ろ」
「…………」
「馬鹿野郎、指を見てどうする。指差す先を見ろってんだよ」
「最初からそう言えよなー」
冗談を交えつつ奴の指す方を見てみると、異国の僧衣を纏った異国の少女が、たどたどしい日本語で何やら演説をしていた。
「何あの美少女」
「どーも異国の宗教について話しているらしいぜ」
「シュウキョウ……? 生憎と興味が無えな。俺が信じるのは祖霊だけだ」
「ばちぼこ浸かってんじゃねえか」
「で、どんな胡散臭い宗教だ? 見てくれだけなら若い男が黙って通り過ぎるわけが無いと思うんだが」
「ごめん俺異国の顔は好かねえ」
「俺もー。で、どんな宗教だって?」
「話聞いてやれよ」
「お前は聞いてたんだろ?」
「おう、割と朝早くからそこに立って、もう二刻は話し続けてるぜ。もう十回は同じ話してる」
「それで野次馬がお前1人か」
「うん」
「そっかァ……。で、どんな宗教だって?」
「だから話聞いてやれって」
「発音が聞きにくいんだよ」
「そんならしゃあねえや」
2人して笑っていると、俺の博打仲間が声をかけてきた。
「ようお前ら、何を笑ってんだ?」
「おー、お前俺達には気付いてあれには気付かねえのか」
友人にやられたことを、そっくりそのまま繰り返す。
「『あれ』? あれってどれだ」
「俺の指を見ろ」
「…………?」
「指差す先を見ろって話だ馬鹿野郎」

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うちの七不思議NovelEdition:鉄棒の上の幽霊 エンディングと怪異紹介

「よー、グループチャットに何も貼られてなかったけど、ちゃんと写真撮ってきたのか?」
翌日、早めに学校に来て教室で待っていると、仲間の一人が俺の机まで駆け寄るように近付いて尋ねてきた。
「……まあ」
一応、証拠写真は2枚ある。まず幽霊野郎の方を見せる。
「これ、うちの生徒じゃね? 制服着てるし。心霊写真にしちゃ存在感あり過ぎんだろ」
「そうかもしれない。何かいたんだよ」
「何組の誰だ、これ?」
「しらね」
続いて、フラッシュで撃退するついでに撮っていた『サメ』の写真を見せる。
「……これ、何てZ級映画のスクショ?」
「…………『巨大ダルマザメ襲来』」
適当に誤魔化しておく。フラッシュで背景が白く飛んでちょっと見た感じじゃ校庭で撮ったようには見えないし、信じてもらえないのも仕方ないか。
「まあ良いや。何か面白いから画像上げとけよ」
「あーうん、そうするわ」


今回の怪異
・鉄棒の上の幽霊
『サメ』に追い詰められて鉄棒の上から逃げられないでいたかわいそうな幽霊。結果的に『疑似餌』にさせられていたが、悪意は無い。ただの被害者。結局食われたが、解放されたのはある意味幸せかもしれない。
・鉄棒の下に潜むモノ
外見は目が顔の正面についた巨大ダルマザメ。鉄棒の下に隠れ潜み、遅い時間に近付いてきた不良人間を食ってきた。人間と同等程度の知能と感覚能力を持ち、その強さゆえに回復能力は貧弱。土の中を水中のように自由に泳ぎ回れる怪獣の一種。多分トンネル効果を使っている。身体を地上に1.5m以上出すことはできない。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その⑧

『サメ』がまた地面の下に隠れた。それと同時に、その場で思いっきり足を地面に叩きつける。まるで地面の下に振動を届けるように。
そしてもう一度。強く地面を蹴り、その勢いで前に向かって飛ぶ。直後、俺の背後で『サメ』が顎を閉じるあの「ガチン」って音がした。
大きく音を立ててまた着地し、また強く踏み込んで、今度は横に向けて跳ぶ。『サメ』の通過する風圧を感じながら逆立ちのような姿勢で手を下にして着地し、手首と肘をできるだけ曲げて衝撃を殺し、できるだけ静かに倒れ込む。そのまま身体を微塵も動かないようにしてしばらく待つ。
実際やってみると、これは結構危険な賭けだったと思う。ちょっとした緩急はつけたが、全く振動を起こさずに行動するなんてことはまず無理だし、そのまま喰われる可能性は十分にあった。
けど、幸運にもあの『サメ』は意外と鈍かったようだ。地面の下から頭を出して、今出てきた地点の周りをぐるぐると回り始めた。もしかしてあいつ、まだ視力も回復してないのか? だとしたら、相当感覚が弱いぞ。
とにかく好都合。静かに立ち上がり、奴がすぐ近くまで泳いでくるのを只管待つ。
(……来た)
奴が正面から泳いできた。思わず口角が吊り上がる。片脚を大きく振り上げ、タイミングを合わせて思いっきり振り下ろす。この一撃は奴の鼻先を直撃し。上手いことダウンさせることに成功したようだ。
「ザマア見やがれサメ野郎が。それじゃ、俺は先生方にバレる前に帰るからな」

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その⑦

インカメラを起動して、画面で背後の様子を確認しながら走る。あと数mでコンクリートで舗装された場所に着くが、奴が追って来ている様子は無い。しかし、奴は地面の下に潜ることもできるわけだから、全く以て油断はできない。

ふと、嫌な予感がして足を止めた。
慣性で前に引っ張られるのを全力で堪え、そのまま後ろに跳ぶ。直後、俺がさっきまでいた場所のほんの1歩先、そこの地面の下からあの『サメ』の大顎が現れた。
(この野郎……たしかに目眩ましも成功してたのに、復帰して追いつくまでが早過ぎるだろ……!)
いや、正直なところそこは問題じゃない。今本当にマズいのは、奴が鉄棒からこれだけの距離を離れられるという事実の方だ。
奴がまた頭を地上に出してこっちに突っ込んできた。考えるのは後だ、とにかく逃げなくっちゃならない。
通学鞄をその場に投げ捨てて、斜め右前方に転がり込むようにして回避行動をとる。ちょうど、正面からやって来るあいつの横をすり抜けるような形になるが、この回避は上手く成功して、『サメ』は俺の鞄に頭突きをかまして通り過ぎて行った。
(今の動き…………、ちょっと面白いことを思いついたぞ)
さっき轢き飛ばされた鞄だって回収しなくっちゃならない。そのついでに、ちょっと実験してみるとしようか。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その⑥

両足が鉄棒から離れると同時に、『サメ』が地面から顔を出した。大口を開けて俺の落下地点に待ち受けている。
「そう来るだろうと思ってたぞサメ野郎!」
落ちながら鉄棒に手をかけ、一瞬地面への落下を止める。こっちの目論見通り『サメ』の牙は空を切り、俺の足のすぐ下でガチンと顎が閉じた。顎が閉じて少し安全になった『サメ』の鼻先を強く踏むようにして着地し、すぐに地面に下りて素早くスマホを拾う。電源ボタンを押してロックを解除すると、つけっぱなしになっていたカメラアプリが起動する。
『サメ』の方に目をやると、鼻を踏み潰されたショックから既に立ち直っていたようで、こっちに向かって来ようとしている。
「はい、ちぃー……ずッ!」
奴が目の前まで来たタイミングで、シャッターを切る。フラッシュを『ON』に設定しているんだ。もうかなり暗くなったこの時間帯、文字通り目の前でいきなり強い光を食らえば、それなりにキツイだろう。
奴の進路は狂い、俺を避けてすぐ横を通り過ぎて行った。
「ザマア見やがれ。じゃーな、サメ野郎」
『サメ』に向けて親指を下に向けてから、校門に向けて全力疾走を開始した。あいつが動けないでいるうちに、できるだけ距離を取らなくっちゃな。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その④

こいつが何者かなんてこの際どうでも良い。現状一番の問題は、下の化け物をどう躱して逃げるかってことだ。
最悪のパターンは、この状況が誰かしら先生に見つかって、説教しに来た先生がこっちに近付いてくること。そうなったら、その先生がサメに襲われるかもしれない。関係無い人間が巻き込まれることだけは避けなきゃならない。
「……おい幽霊野郎」
現状、こいつしか頼れる奴がいない。まずは情報収集からだ。
「何だね被害者君」
「あいつ、この鉄棒からどれだけ離れられる?」
「さあ……一度、走って逃げようとした人がいたけど、すぐ捕まってたよ」
「距離で言え」
「えー……そうだな……」
幽霊野郎は考えるような素振りを見せながら、腕をぴんと伸ばしてちょうど45°くらいの角度で地面を指した。
「この鉄棒の高さが、たしか……2.5mくらいだったかな。僕の座高やら何やらを合わせて考えると……」
腕の角度を保ったまま、弧を描くように真横の地面を指す。
「あの辺りが3mくらいの距離か」
そのまま指す方向を微調整しつつ、奴は空いた片手でこめかみをコツコツと叩く。
「だから……うん。大体5mくら」
奴の言葉が急に途切れた。鉄棒から両手を放した状態で急にこっちに頭を振って話したせいで、バランスを崩したんだ。
俺が捕まえる前に幽霊野郎の身体は鉄棒の上から完全に重心を外し、そのまま地面に向けて落下していった。あの『サメ』が待ち受けている、ちょうどその地点にだ。

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その③

「何イィーーーーッ⁉」
咄嗟に真上に跳んで鉄棒に掴まり、その勢いのまま逆上がりのように鉄棒の上に避難して顎を回避する。畜生め、うっかりスマホを落としちまったじゃねえか。
「何なんだよあいつはァ!」
思わず叫ぶと、先に鉄棒の上にいたあいつが冷静に答えた。
「さあ……僕は『サメ』って呼んでる。ちょっと似てるし。幸いにも上まで身体を伸ばしてくることは無いけど、困ったことになったね。きみは食われずに済んだけど、どちらにしろ詰みだ。もう逃げられないよ」
「……『は』? 今、『きみは』って言ったな?」
「うん」
「その言い方は……『食われた奴を見たことがある奴』の言い方だ」
「うん」
「お前、さっき幽霊じゃないって言ってたが、絶対にあのサメと関係あるだろうが! 嘘ついたのか!」
「そうだったとして、幽霊相手にすごい喧嘩腰じゃない」
「冷静に突っ込むなよ」
突っ込み返したおかげで少し落ち着いた。とりあえず、幽霊野郎と同じ腰掛けた姿勢で、奴の隣に座る。
「まあ、そう怒らないでくれよ。僕も立ち位置としては被害者なんだから」
幽霊野郎がそう言って俺をなだめてきた。
「被害者だと?」
「そう被害者。だって、僕もそいつのせいでずっとここに縛り付けられてるようなものなんだから」
「知った事か」
「冷たい……」

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うちの七不思議Novel Edition:鉄棒の上の幽霊 その②

完全下校時刻10分前を知らせる校内放送が流れた。作戦決行だ。
「ちゃんと証拠として写真と動画撮ってこいよ!」
そう呼びかける仲間たちに親指を立て、俺は周りの目を盗んでさっき決めた隠れ場所に素早く滑り込んだ。そのまま周囲の物音に注意を払いつつ、スマホの時計を見ながら完全下校時刻である18時を待つ。1度は見回りの先生が近くを通った気配がしたけど、スマホの電源を落として息を潜めていたら結局バレずにいなくなってくれた。
まずは植木の陰から顔を出し、学校側を確認する。職員室の明かりが点いているが、窓の近くに人がいる様子は無いし、今ならうまく鉄棒に近付けるだろう。
体育倉庫の陰に隠れるようにして、うっかり誰かに姿を見られたりしないよう気を配りながら件の鉄棒に近付いた。さて、幽霊ってのは本当にいるんだろうか……
「ねえきみ、もう完全下校時刻は過ぎてるだろう? 何してるの?」
不意に頭上から声をかけられた。面食らって腰を抜かしてしまったが、よくよく見てみると鉄棒の上には俺と同じ制服を着た俺と同い年くらいの生徒が腰かけていた。
「ゆ、幽霊……!」
「え、いや違うけど」
「え、あ、違うの」
「うん。なに、肝試し?」
「そんなところだ。お前もか」
幽霊じゃないって言ってたし、制服も同じだし、多分こいつも肝試しか悪戯で来た奴なんだろう。とりあえず今はそう思っておくことにする。ついでだから写真も撮っておこう。
「いぇーい」
スマホを向けたら奴はピースサインを作って応じた。結構ノリの良い奴だな。
「で、お前はそんなところで何やってんだよ」
立ち上がり、鉄棒の上の奴に問いかける。
「ああ、いや僕も下りたいのは山々なんだけど、『そいつ』のせいで下りるに下りられなくってね」
「『そいつ』?」
奴が指差す鉄棒の下の地面――今まさに俺が立っている場所を見る。
たしかに『そいつ』は居た。地面に突如現れた巨大な顎が、俺を飲み込もうと閉じつつあったのだ。

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うちの七不思議

「学校の七不思議」というものがある。
やれ『トイレの花子さん』だとか、やれ『動く人体模型』だとか、うちの学校にも勿論、そういった噂話はいくつか伝わっている。しかし、そんな『七不思議』の中でも、他所では聞かないような奇妙な話が一つある。こんな話だ。

『放課後、完全下校時刻も過ぎた頃に校庭に行くと、隅の方に設置してある一番高い鉄棒の上に腰掛ける幽霊を見ることができる』

この幽霊ってのがどんな姿をしているのか、というところについてはよく分かっていない。大体の話は「遠巻きに幽霊の姿を見て、慌てて逃げるように帰った」という実体験形式の話ばかりで、肝心の部分の作りが甘いんだ。
そして今日、俺はこの七不思議の幽霊を見に行くことになった。
理由は極めて馬鹿らしいもので、仲間内でのちょっとした罰ゲームみたいなものだ。この幽霊に出会うためには、単純に完全下校時刻を過ぎるまで学校に残っていなくっちゃならない。主な『罰』はこっちなんだよな。先生にでも見つかれば面倒だし。
しかし俺は今回、ちょっとした秘策を思いついたのだ。簡単な話、見つかるのが嫌なら、見つからないような場所に身を隠していれば良い。
そんなわけで昼休みのうち見当をつけておいたのが、体育倉庫と体育館の間にある狭い隙間。手入れの全くされていなさそうな植木と建物二つが上手い目隠しになって、よほど注意して見ない限りはそうそう見つからないようになっている。おまけに件の鉄棒もすぐ近くにある。

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うちの七不思議:完全に機能する音楽室の防音壁

とある学校に勤める用務員氏の話。
その学校の音楽室は学校裏手の駐車場に面しており、そこを掃除している時に生徒たちの音楽の授業と時間が重なると、子ども達の元気な歌声や楽器の演奏の音が聞こえてきて、用務員氏はその場所の清掃作業が特に気に入っていたという。
ある日の事、その日も駐車場の清掃作業に従事していた用務員氏。今日は静かだ、ということは今日この時間は音楽の授業は無かったか、などと考えながら作業を進め、ふと顔を上げた時、自然と目に入った音楽室の窓を見て彼は驚いた。
音楽室の中には何人もの子どもの姿が見え、その動きから彼らが合唱の練習をしているということが見て取れたのだ。
よくよく思い出してみれば、確かに普段その曜日のその時間帯はどこかのクラスの音楽の授業があったはずだ。それなのに何も聞こえないということは、いつの間に防音壁の補強でもしたのだろうか。
そんなことを考え、これからは子ども達の歌声を聞きながらの作業もできなくなるのだろうかと寂しくなりながら、用務員氏は作業を終えた。
しかし翌日、彼が同じ場所で作業をしていると、音楽室からは別の子供たちの元気な歌声が。ならば昨日の無音は何だったのだろうか。
その後、用務員氏は同じ現象に数度遭遇したものの、ついにその原因は掴めなかったという。

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企画思いついたんで協力してください。

どうもナニガシです。そろそろ入学式やら新学期の季節ですね。私の身内も明日から学校だとはしゃいでおりました。
学校生活が始まるとは言いますが、学校といえばやっぱり怪談ですよね。
そういうわけで、今回は「学校の怪談・七不思議」をテーマにした企画を催します。架空の怪談や学校の七不思議を自作するなり、本当に自分の学校に伝わっているお話を持ってくるなり、実体験を素知らぬ顔で書き留めるなりして、作品を投稿してください。
作品の形式は自由。怪談のエピソードを淡々と並べるも良し、七不思議に巻き込まれた登場人物たち視点のホラー小説でも良し、気付いたらバトルアクションになっているも良し、怪異になぞらえた連続殺人事件が起きるミステリなんかもアリです。皆さんの創造力次第でいくらでもぶっ飛んだものを書いて大丈夫です。
参加しても良いよーって方は、タグの2つ目か3つ目に「うちの七不思議」と書いて作品を投稿してください。別に1つ目に書いても問題は無いですが。
期間は4月いっぱい。作品数の上限はもちろん無いので、思いついたら思いついただけ投稿していただければ幸いです。みんなで最強の七不思議作ろうぜってことで、皆さんの参加お待ちしております。

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てぶくろ異説・冬を越す雪下の2匹

「ただいま、カエル君」
この手袋の拠点の中に声をかけながら、我が相棒ネズミ君が拠点に帰ってきた。これ幸いとすっかり冷めきっていた寝床から這い出す。
「やァ、危うく凍え死ぬところだったんだ」
「馬鹿言え。せっかく僕が作った防寒着を着ておきながら、凍え死ぬってことは無いだろうさ」
ネズミ君は笑いながら、自慢の毛皮についた雪を払って拠点の外に蹴り捨てた。
たしかに彼の手先は器用だ。外で拾ってきたという何かの毛皮の欠片を、これまた外で拾ってきたという植物を解した繊維で縫い合わせたこの防寒着を着ていれば、ただ寝床で丸まっているよりは随分とマシな気分になる。しかし、我がカエルの身体はひんやりと湿っていて、防寒着の内側に溜め込む熱を生み出すには向いていないのだ。ネズミ君の体温は我が生命維持にきわめて重要なのである。
「ネズミ君、今回の収穫はどうだったい?」
「ああ、いくらか毛皮と植物片を拾ってきたよ。これから肉を削いで、もう少し頑丈な防寒着を作ろうかと思ってね。そうすれば、君も雪掘りに出てこられるだろう?」
「ああ、2匹がかりなら多少は危険も避けられような。我が足技が唸るぜ」
「ははは、期待しているぜ。それじゃあ、僕は防寒着づくりに取り掛かるよ」
ネズミ君はそう言って手袋の奥へ引っ込んでいった。手袋の四指の側は彼の休息と製作作業のための空間になっている。彼は毛皮を作業台の上に伸ばし、石の欠片のナイフを用いて毛皮を洗い始めた。
さて、彼がああして疲れた体に鞭打って働いてくれるわけだし、彼を労うために疲労回復の膏薬でも作り溜めておくとしようか。植物片を拾ってきたと言っていたし、我が観察眼を以てすれば有用な薬草の1つや2つは見つかるだろう。

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理外の理に触れる者:だいぶ遅れてご挨拶

先月いっぱいを目安として「理外の理に触れる者」という企画を立ち上げたナニガシです。だいぶ遅れてしまいましたが、終わりの挨拶くらいはしておこうと思いまして書き込もうというわけでして。
今回は未完成の全知全能さん、赤い思想さん、テトモンよ永遠に!さんの3名に参加していただけました。
登場人物を「時の異能者」のみに絞り、戦闘シーンを重点的に描写してくれた未完成の全知全能さん。ナニガシは男の子なのでバチバチの戦闘シーンとか大好きなので助かりました。
怪奇・ホラー的要素の中に異能者の設定を混ぜ込んだ赤石奏さん。ナニガシは少し前からホラーやら怪談やらにお熱なので好みの世界観で楽しかったです。
そして、よく長編小説を投稿していらっしゃるテトモンよ永遠に!さん。人外の異能者の存在は最初の設定でほんのちらっと示唆していたんですが、どうやら拾っていただけたようでたいへん嬉しかったです。
また良さげなもの思いついたら何か企画しますし、他の人が何か企画してくれたら参加させていただきたいと思っております。
そういうわけで今回はこれっきりです。参加してくださった皆さんありがとうございました。

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理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫 おまけ 壱

「理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫」のおまけ…と言うか解説編です。

・黒羽(くろは)
異能:死の指揮者
一応この物語の主人公。
作中ではあまり描いてないが長い黒髪で黒地に柄の入った和服を着ている。
明言し忘れたが、一応男。
元々は街で有名な地主の子どもだったが、妾の子だったために家族から疎まれていた。
そのため実母の元で幼少期を過ごしていたが、母親が亡くなったことで父親の家に引き取られることになった。
しかし幼い頃から異能を持っていたために、無自覚の内に小動物や植物を殺すことを繰り返していたため、家族から恐れられ、最終的に実家から追い出されてしまった。
実家から追い出された後も実家の人間から命を狙われることは多く、一度死にかけたこともある。
その時にカラスに出会い、カラスの異能によって傷の治りが早くなる“性質”を与えられたことによって生き永らえている。
現在は街外れの古民家に住んでいる。
なお、カラスに出会うまで異能と言う概念は知らなかった模様。
異能“死の指揮者”は触れた生物を死なせることができる異能。
ただ、人間に使おうとすると抵抗されることが多い。
黒羽自身はあまり制御できてないようだ。

・カラス
異能:カタチの支配者
黒羽の友達(?)。
ただの気まぐれで黒羽を助けた結果、黒羽と連むようになった。
カラスの姿をしているが、喋ったりするようにその正体はカラスではない。
真の正体は物質の身体を持たない神霊のような存在。
遠い昔から存在し、その異能で長い時を過ごしてきた。
カラスの姿をしているのは、今はそういう気分だから。
異能“カタチの支配者”はありとあらゆる生物・非生物に様々な性質を与えることで、性質や見た目を変えることができる異能。
回想では黒羽に“傷の治りが早くなる”性質を与えることで死の危機から救ったりした。
カラス自身には“不死身”とか“発話”とかの性質を与えることで現在の姿を保っている。
ちなみにカラス自身に“名前”は存在しない。
“カラス”という名前自体は通称みたいなものである。

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理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター④

・来実(くるみ)
異能:雨雪の干渉者
二つ名:白雪姫
桜の同級生にして一番の親友。異能者仲間でもあるので割とずぶずぶ。過去に『夜の指揮者』から攻撃を受けた際、日和に助けられ後見された。二つ名は桜からもらった。
異能の性質は大気中の水分や既に発生している雲に干渉し、雨を降らせる、雨を止ませる、雪を降らせる、雪を止ませる、雨を雪にする、雪を雨にするの6通り。射程距離はかなり長く、数㎞程度の範囲は余裕でカバーできる。

・湊音(みなと)
異能:時間の干渉者
二つ名:付き人
日和とは同い年でいとこの関係。そっくりでまるで双子。苗字も同じなせいで学校では双子だと思われているし、本人たちも特に否定はしていない。
異能の性質として特に得意なのは過去への干渉。過去視をしたり、過去の自身の動作に干渉して間接的に現在を改変したり、触れたものの過去の状態を現在に持ってきて固定したりといったことが可能。それ以外のこともある程度はできる。
異能者としても生物に対しては無力な日和の弱点を補う存在であり、異能者を取りまとめる『女王』の補佐役としていろいろと動き回っている。ひぃちゃんが後見した異能者に実際に指導を行うのも彼の仕事。

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理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター③

・桜(さくら)
異能:狼の干渉者
二つ名:白狼侍
日和の1個下くらいの年齢。過去に『夜の指揮者』から攻撃を受けた際、日和に助けてもらい後見された。二つ名は日和から賜ったもので「はくろうじ」と読み、由来は後述する“白雪姫”に仕える狼の侍従ということから。
異能の性質は、「狼」という生物の定義に干渉してその条件の中に自分を割り込ませることで、自身の肉体に狼の特徴を発現させるというもの。最近、後述する”付き人”との修行の末に完全な狼化もできるようになった。

・黒崎孝太郎(くろさき・こうたろう)
異能:砂漠の干渉者
二つ名:海殺し
今作で町一つ砂漠化させたやべー奴。異能者になってから日が浅いどころじゃないので、異能の扱いには慣れていない。亮晟に後見され、どうにか異能の制御が可能になった模様。
異能の性質は、自身を中心とした半径5㎞程度の空間における環境条件に干渉し、その一帯を砂砂漠または岩石砂漠にランダムに変えるというもの。今回は砂砂漠になった。移動すれば勿論砂漠の範囲も動き、また自身から離れた位置程、元の環境の性質が重なり合ったようになる。異能を使うと世界がバグるやべー奴。

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理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター②

・水呼(みこ)
異能:水の観測者
二つ名:水先案内人
道連れ。多分亮晟と同い年くらい。
異能の性質は、水源や水の多く集まっている場所までの距離と方向が分かるというもの。汗や涙、血液など自分の体液を水の集まった方向に引き付けさせる力もあり、もうしばらく能力を使い続ければ干渉者への昇格もあり得ない話じゃない。

・日和(ひより)
異能:無生物の支配者
二つ名:無命女王
ここら一帯の異能者を統括しているボス的存在。中学2年かそこらだと思う。異能の扱いに長け、支配者としての自覚もあり、とても偉そうで実際偉い。支配者としてとても強いので、シハイシャ・スゴイツヨイ・プレッシャーとシハイシャ・スゴイサトイ・シックスセンスが使える。

※シハイシャ・スゴイツヨイ・プレッシャー:支配者級の異能者が自分の異能の強さとそれゆえに発生する王としての責任を強く自覚していると使える、自分の強さに基づいた威圧。生物としての根源的恐怖を刺激するので、どんなに強い異能者でもビビッて動けなくなる。実際は能力でも何でもないただのハッタリ。
※シハイシャ・スゴイサトイ・シックスセンス:異能の扱いに長け、対象に慣れ親しんだ支配者級の異能者にだけ使える第六感。他の異能者が異能を使っていると、その人の位階が何となく分かる。干渉者と指揮者の違いを判別する時などに便利。

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理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター①

・八街亮晟(やちまた・りょうせい)
異能:怪獣の指揮者
二つ名:モンスター
本作の主人公的人物。高校2年か3年くらい。他の異能者との関わりはそんなに無い(皆無ではない)。
異能の性質は怪獣への変化と怪獣の召喚・使役。身体の大きさや形状が本来のものと外れるほど変化した際に身体が動かしにくくなるが、修練によってある程度は補える。
彼が異能によって操る怪獣とは夢と浪漫と破壊力の合成であり、似非科学を含めた科学的論理によって説明可能な範囲で特殊な形状と能力を具えた物質的に実在する生物である。月の操る鬼神と異なり、霊感など無関係に観測が可能。

作中に出た手持ちの怪獣一覧
・石竜:体長約3m。4本の脚の先には長い3本の指を具え、身体と比較して異常に長い両腕から続く手は4本指であり、対向拇指の形を取っている。背中の翼はそこまで大きくはなく、飛行には使えない。放熱用のものと思われる。皮膚の熱遮断性も高く、高温環境での生息に適応している。ワニのような頭部には眼球が無いものの、何故か人間と同程度の視覚能力がある。
・人狼:体長2.5m、尾長2.3mの2本足で立つ狼のような姿の小型怪獣。尾は鱗に覆われている。厚い毛皮と体毛の色などから、寒冷地での活動に特化していると思われる。
・砂鯨:体長80m程度の白いマッコウクジラから手足が生えたような形状の怪獣。牙が長い。砂の中を水中と同じように泳ぐことができる。脂肪が厚いため、衝撃に対する耐久力も高い。
・駿竜:体長4m程度、尾長3m程度の4本脚で歩くドラゴンのような怪獣。最高時速500㎞以上で走ることが可能でありながら、鱗や体毛の性質、細長い体形などが影響し、騒音も衝撃波も発生させずに高速行動をとることができる。
・病霞:体長5m、尾長5m。巨大な黒蛇の胴体から手足が生えたような姿の怪獣。口内に並ぶ牙は鉱石のような性質をしており、それらを打ち合わせて発生させた火花に、揮発性の高い可燃性の毒液を舌下の器官から霧状にして噴き出すことで引火させ、火炎放射が可能。手持ちの中で唯一火を吹ける怪獣。毒霧を利用して有毒空間を作り出すことも可能。

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理外の理に触れる者:海殺し その⑪

後見。そんなものがあるらしいってことは人伝に聞いたことがある。たしかあれは、支配者級の異能者の特権じゃ無かったのか。
「指揮者の中でも、お前ほど異能を制御し切れている奴は見たことが無いぞ。純粋な力で言えば支配者級にも匹敵するあの“総大将”でさえ、既に半分ほど人間を辞めているというのに。『能力を制御する』という観点において、指揮者以下の位階の異能者じゃお前は間違いなく最高の実力者だよ。……ああ、評判を気にかけているなら心配は無用だ。お前の実力は私が保証するし、異を唱える阿呆は『説得』してやる」
「そもそもお前が後見してやれば済む話じゃねえのか」
「嫌だよ。私は可愛い女の子だけに囲まれて生きてたい」
「こいつ……」
とりあえず駿竜を消し、砂漠の異能者の胸倉を捕まえて立ち上がらせる。
「おいお前。名前は」
「え⁉ あ、ああ、えっと、あー、あの、俺は黒崎。黒崎孝太郎」
「長えな。略してクロコって呼ぶぞ」
「あっはい」
「異能『怪獣の指揮者』、二つ名“モンスター”、八街亮晟。クロコ、お前を『後見』する。お前は今から俺の弟子な。俺のことは師匠とでも何とでも好きに呼べ。1時間以内にこの砂漠、消すぞ」
「えっあっ了解」
了承を取ったところで、あの女王さまがけらけらと笑い出した。
「何なんだよお前はァ!」
「いやぁーはっはっはっはっ、悪いね、楽しくて楽しくて。おいクロコ」
女王さまがクロコの方に向き直る。
「お前に二つ名をくれてやろう」
「え、あ、はいどうも」
クロコの方も素直に応じる。
「”海殺し”。あらゆる環境条件に干渉し、土壌の養分と水分を完全に奪い取る、げに恐ろしき世界の破壊者。『砂漠の干渉者』として、これからはその名を使って良いぞ? お前と怪獣のことは、私の異能に乗せてここらの異能者たちに広めてやる」
「う、ウス」
盛り上がっているところ悪いが、今は砂漠を元通りにするのが先だ。女王さまからクロコを引き離し、騒がしいだけのこいつらから離れてクロコに指導する場所を探すために歩き出す。
「行くぞクロコ。お前に異能の使い方を教える。まあ、身に付くかどうかはお前次第だけどな」
「あ、ウス、よろしくお願いします」
何故か無言で俺たちのあとをついて来るその他大勢を何度も追い返すことになったのは、大変腹立たしかった。

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理外の理に触れる者:海殺し その⑩

「よう、砂漠の。とりあえずこの状況どうにかしてくれ」
そいつに話しかけると、ようやく覚醒したようで急に慌て出した。
「え、ああ、ああッ⁉ 何だこの状況!」
「こっちが言いてえよ」
「とにかくその化け物どっかやってくれ!」
「ああうん」
駿竜を消し、砂漠の異能者の胸倉をつかむ。
「さあ、この砂漠をどうにかしろ。ここは温暖湿潤気候帯で今は真冬なんだよ」
言ってやると、そいつは目を泳がせながら答えた。
「い、いやな、実を言うと俺もよく分かってねえんだよ。この滅茶苦茶な力に目覚めたのが多分今日の朝、自覚したのはこの砂漠の中でも全く暑いなーとか日差し強っとか思わないなって思ったあたりからだから、今日の正午くらい。とりあえず家を出てみたら突然自分の周りに砂嵐が起きてさ、どうしようも無かったんだよ……」
「……なるほど、理解はできた。で、この状況、直せるのか、直せないのか」
「実を言うと……ちょっと厳しいかなって……」
「駿竜、来ませい」
あの怪獣を再び召喚し、砂漠の奴の首から上を口の中に収めさせる。別に噛みちぎらせようってわけじゃ無い。ただの脅しだ。
「……なあ怪獣。そいつ、もしかして異能の使い方に慣れていないんじゃあないのか?」
女王さまが話しかけてきた。
「ほら、今日発現したばっかりだって言っていたろう」
……そういえば。
「つーことはこの砂漠、このままになるのか」
「ああ……最悪なことに。本当に申し訳無いんだけど」
怪獣の口の中でそんな言い訳をするあたり、こいつ結構胆力あるな。
「……なァ怪獣。良い方法があるぞ?」
女王さまがいたずらっぽく後ろから声をかけてきた。
「何だ」
「怪獣、お前そいつを後見しろ」
「……はぁ?」

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理外の理に触れる者:海殺し その⑨

思うように動かせない身体をどうにか少しずつ捻って背後に目をやると、女王さまと似た見た目の中性的な少年が俺の背中に手を置いていた。
「彼女を攻撃しようって言うなら、ぼくは止めなくっちゃならない」
「な……何をした…………」
「わぁいミナト。紹介するよ、怪獣」
答えたのは女王さまの方だった。
「そいつが私の用事、っていうか探し人」
「へぇ……」
「私の恋人さ」
「そうかい……」
「まあ冗談なんだけど」
「ハッ倒すぞテメエ」
「ちょっとみっちゃーん? そいつ普通に動いてんだけどぉー?」
普通には動けてない。憎まれ口をたたくのが精いっぱいだ。
「しょうがないよ、ぼくは飽くまで干渉者だ。あらゆる時間は自然に流れたがる権利がある」
ミナトとやらの発言からして、こいつは『時間の干渉者』か。しかし、ただの干渉者に人ひとりの動きを止めるほどの力があるのか?
「ほら、喧嘩は良くないよ。今はその砂漠の異能者をどうにかしなきゃってところでしょう?」
ミナトの異能について考えていると、奴がそう言って俺から手を放した。身体の自由が急に戻り、反動でバランスを崩しそうになったところを駿竜の首にどうにか寄りかかる。
「ああクソ、そうだった……。駿竜」
指示を出し、まだ駿竜が咥えていた異能者を地面に落とした。その衝撃で意識を取り戻したようだ。

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理外の理に触れる者:海殺し その⑦

矢印を数十個辿りつつ歩いて1時間も経った頃だろうか。ようやく奴らを見つけた。あの女王さまに道連れ、その他知らない顔が何人か。その場の異様な雰囲気に馴染んでいる様子から、全員異能者なんだろう。
「ん、お前か怪獣。ご苦労だったな。良いもの乗ってるじゃないか」
砂が固まってできたパラソルの下で、水の塊をクッション代わりにして寝そべった女王さまがこっちに手を振ってきた。
「このや……この女郎……」
殴ってやろうかと拳を握りしめると、別方向からも話しかけられた。
「あ、おかえりー。何か頑張ってくれたみたいじゃない」
道連れも砂でできたデッキチェアに腰掛け、素足を地面からわき出す水に浸しながらこっちを見ている。とりあえず片手を挙げて応える。
「わん」
また別の声。こっちは聞き覚えがある。
「……その声、狼か」
「うん」
女王さまと同じか少し下くらいの年齢の、狼の耳と尻尾を生やした少女が、別の少女に捕まっている。
「さすがにあの竜巻は私じゃ破れなかったから助かった」
「そうかい」
「こっちはうちのお姫様。雪を降らせてた異能者」
そいつも会釈してきたのでこっちからも会釈で返す。
「何だよぅ、私にだけ邪険じゃないかぁ?」
女王さまがわざとらしくすねたように口をとがらせる。
「うるせえ。パシってきた奴に振り撒く愛想なんざ持ち合わせてねンだ」
ビビらせてやろうと火を吹こうと口から肺にかけて部分的に怪獣化し、牙を打ち合わせた時だった。
「駄目だよ、きみ」
誰かの手が背中に触れ、身体の動きが突然に止まった。

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理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫 壱

ぱち、と目を覚ますと見慣れた天井が見える。
暫くの間そのままでいたが、やがて誰かの気配を感じて窓の方を見た。
「よぉ」
そこにはカラスが留まっていた。
「随分と寝てたみたいじゃないか」
そう言って、カラスはケタケタと笑う。
「…」
畳の上に寝転んでいる黒髪の人物は、静かに起き上がった。
部屋のゼンマイ時計を見ると、午後2時を指している。
「どうだいお前、よく眠れたかい?」
夢でも見てたのか?とカラスは笑いながら言う。
「…別に」
見てたとしても忘れてるよ、と黒髪の人物は素っ気なく答える。
「そうかね?」
お前がそう言う時は大体…とカラスが言いかけた所で、黒髪の人物は立ち上がった。
「…おっと、どこへ行くんだい?」
部屋の出入り口へ向かおうとする黒髪の人物を、カラスが引き留める。
「ちょっと散歩」
あんまりいい寝覚めじゃないから…と黒髪の人物は部屋から出ようとする。
「じゃあオレ様も連れてってくれよ、黒羽(くろは)」
お前1人じゃ心もとないだろ?とカラスが言うと、黒羽と呼ばれた人物は窓に一瞥もせずこう言った。
「好きにしたら」
カラスはその答えを聞くと、バササッと黒羽の肩に飛び乗った。
「へっへっへ」
やっぱりこの場所は落ち着くなぁとカラスは笑う。
黒羽はカラスがちゃんと肩の上に乗ったのを確認してから歩き出した。