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三題噺(ネギ、缶コーヒー、白+600字前後)

 これは、平々凡々とした私の日常に、ほんの少しルビを振ってくれた男の子との、数分の非日常のお話。

 広がる橙色を見上げてカラスでも鳴いてくれないかななんて思うほどには、所謂いつも通りだった私の一日。強いて言うなら、課題が大量に出されたくらいだ。課題なんて、燃えてしまえばいいのに。
 そんな日常にも綻びはあるもので、今日は偶然にもその綻びが拾い上げられた日だったのだ、きっと。
 いつもなら、きっと気にも留めなかっただろうけれど、生憎私はイヤホンを忘れてしまい、五感が正常に働いていた。そのため、お使いでも頼まれたであろう男の子に、目を引き付けられてしまった。なんせ、今にも落ちそうな袋からはみ出したネギを、引きずるように運んでいるのだから。
 ……言わんこっちゃない。
「君、ちょっと待って!」
 案の定袋から飛び出したネギを私は拾い上げ、男の子を追いかける。
 男の子は驚いたように振り返った。真ん丸な目に宿るのは、不思議そうな色。
「これ、落としたよ」
 慌てて袋を確認し、困ったように笑った。
「ありがと、おねえちゃん」
 それが違和感だったから。
「……拾わないほうがよかった?」
 なんて、ばかなことを聞いてしまった。男の子はさらに困った顔で笑った。
「ぼく、ねぎのしろいとこ、からいからきらい。でも、おかあさんに、おつかいしてきてっていわれた」
 だから、そのまま落ちてくれれば食べずに済んだのに。なんて思ったのだろうか。
 ばいばい、と振る小さな手が、とても大きく見えるようだった。
 小さな背中さえ見えなくなってから、自動販売機に立ち寄る。
 大きく息を吸ってみた。
「……よしっ、課題でも頑張りますか」
 缶コーヒーのボタンを押したら、準備は万端だ。

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Happyは舌先から。※LOST MEMORIES番外編

「今、私は幸せです。」
 瑛瑠の突拍子もない声に、チャールズは微笑んで口を開く。
「新婚さんみたいですね。」
 抑揚のないその声。もはやからかう気すら起こらないほどまっすぐなその言葉。
「改まってどうしたんです。」
 瑛瑠は、自分で放った言葉に別段責任を持つわけでもなく、ティーカップに手を伸ばした。
「私って幸せ者だなって、唐突に思ってしまったの。……思ってしまった、なんて、語弊があるかしら。」
 瑛瑠がチャールズを見つめるから、チャールズの顔から貼り付けの微笑みは消える。
「特にいいことがあった、なんていうわけじゃないのだけれど。私って幸せだなって思えることが、本当に幸せでたまらないの。」
 見つめる瞳に、いたずらな色が混ざる。
「確かに、いまだに訳もわけらず異世界にいるし、私の持つ記憶は欠けているし。」
 チャールズの嫌がる話題だと知ってあえて振ってみると、案の定わずかに顔を顰めた。
「できないこともたくさんあるし、だめだなーって思うことだってたくさんある。」
 でもね、
「好きな人が居て、その人に認めてもらえて、大切だって言ってもらえることが、本当に嬉しいんだな、きっと。」
そう言って微笑む。
「だからね、幸せって自分で作れると思うの。言葉にして初めて、幸せって形になるんじゃないかな。」
 __Happyは舌先から。

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時間が許すのなら、ぜひ、読んでください。長くてごめんね。

 僕は、望遠鏡を通して、彼女に恋をした。

 僕は火星人、彼女は木星人だ。いつものように望遠鏡で、宇宙を眺めていた。そして、彼女を見つけた。
 僕と彼女は出逢った。そして、瞬く間に恋に落ちたのだ。
 何度かデートを重ねた。驚くことはたくさんあった。理解できないこともたくさんあった。受け入れがたいこともたくさんあった。でもそれは、仕方のないことだ。だって、僕は火星人で、彼女は木星人なのだから。僕と彼女は生き方も、持つ文化も違うのだから。
 僕は彼女にプロポーズした。そして、僕たちは結婚した。
 僕たちは地球へ移住し、子どもも生まれた。すると、少しずつ歯車が軋み始めた。
 子供は地球人だ。僕たちも地球人として生きる。
 今まで違うことを理由に受け入れてこられたことが、同じだからという理由で受け入れることができなくなってきた。
 違うとわかっていたときは、あんなに理解しようとしていたのに。
 「どうして同じ地球人なのにこうしてくれないの?」
 「どうして同じ地球人なのにこうできないの?」
 「どうして違う考え方をするの?」

 僕は、火星人でいたほうが幸せだったのだろうか。彼女が、木星人でいたほうが幸せだったのだろうか。