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マホウショウジョ・リアリティショック 後編

ぬいぐるみが鬱陶しかったので、再び向き直り、目の前にしゃがみ込む。
「良い? ぬいさん」
「え、何……」
「私はね、今がすっごく楽しいんだよ。友達もたくさんいて、趣味も充実してて、勉強も頑張ってるし。これから多分部活にも入るから、もっと楽しく忙しくなる。そんな私の青春の時間と、仮に『魔法少女』とやらになったとして私が懸けなきゃならない命を、何の対価も無しにあげるわけが無いよね?」
「えっ……と……いや、そう、願い! 魔法少女になれば、何でも1つ願い事が叶うんだ! 君にもあるd」
「たった1つ? 私、自分の命と時間にはもうちょっと価値があるって自負してるんだけどなぁ」
「そ、それじゃあ……」
「ねぇぬいさん。1個だけアドバイスしてあげるね」
立ち上がりながら言う。
「そんなに無償の少年兵が欲しいなら、もっとコンプレックス丸出しの自己肯定感なんか欠片も無いネガティブな子を当たると良いよ。適当に甘い言葉並べて誘いたいならさ」
「うっ…………分かったよ」
思ったよりもあっさり引き下がってくれた。ちょっと意外で思わず振り返る。
「ためになるアドバイスをありがとう、ミチカちゃん。お礼にこれをあげよう」
ぬいぐるみは私に何かを差し出してきた。見たところ、髪飾りみたいだ。
「魔法少女に興味が出たら、それを使って。もちろん、ただのアクセサリとして使ってくれてもきっと君に似合うだろうし」
使って、と言われても……そこまで言うなら使い方まで教えてくれれば良いのに。まあ使うつもりは1ミリも無いけど。
ぬいぐるみは徐に立ち上がり、四足歩行でゆったりとした歩調でどこかへ歩き去っていった。それを見送ってから、もらった髪飾りをポケットにしまって私も帰途についた。

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マホウショウジョ・リアリティショック 前編

学校からの帰り道。目の前にぬいぐるみが座っていた。
何かの動物をモチーフにしているんであろう、実在の生き物では確実に無い何か。
それに気を引かれながらも真横を通り過ぎようとすると、すれ違う瞬間、それの首がぐりん、とこちらに向いた。
「わぁ生きてた!」
「やぁ、ミチカちゃん」
ぬいぐるみが私に話しかけてくる。何故これは私の名前を知っているんだろう。
「……取り敢えず何? ぬいさん」
しゃがみ込んで目線を合わせ……いや高さ15㎝かそこらのぬいぐるみと完全に目線を合わせることは不可能なんだけど……とにかく用件を聞くことにする。
「ねぇミチカちゃん、『魔法少女』になってみたくないかい?」
「何それ」
「煌びやかな衣装を身に纏い、華やかな魔法を自在に操り、化け物達と戦って世界を守る、素晴らしい人種さ」
「へぇー……お断りしまーす」
立ち上がって帰ろうとする私を、ぬいぐるみが引き留めた。
「ま、待ちたまえよ! 君だって一度や二度はあるだろう。『魔法』や『ファンタジー』に憧れたことくらい! ぼくの誘いを受ければ、『魔法少女』としてどんなことだってできるようになるんだ!」
「へぇ興味無いなぁ」
「そ、そんな……」

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五行怪異世巡『天狗』 その③

青葉は背負っていたリュックを地面に下ろし、杖代わりにしていた刀だけを抱くようにして種枚の隣に腰を下ろした。
「しかしまあ、よくついて来るじゃあないか。その貧弱な身体でさァ」
揶揄うように言いながら、種枚は青葉の腕をつついた。上着の下に隠れて目立たなかった、骨と皮しか無いかのような細腕の感触が、種枚の指に伝わってくる。
「ははは……まあ、軽いので。同じ力でも人より大きく動けるんです」
「なるほどなァ。私も結構細いんだぜ? 筋繊維が人より丈夫な分、量が要らないんだ」
笑いながら、種枚は腕まくりをしてみせた。彼女の骨ばった手首から前腕までが露出する。
青葉は曖昧な笑いを返し、リュックから水入りのペットボトルを取り出し、栓を捻った。
「……しッかし、居ねえなァ……天狗」
青葉が水を飲んでいると、不意に種枚が呟いた。
「いませんねぇ……」
登山道を離れているため、当然周囲に人の気配は無く、風に木々がざわめく音や鳥の鳴き声だけが聞こえてくる。
自然音に和んでいると、2人のもとに強風が吹きつけてきた。それに煽られ、青葉が被っていたキャップ帽が地面に落ちる。
「ン……鎌鼬じゃあねエな。まあ山ン中だし風くらい吹くか」
一度伸びをして、種枚は立ち上がった。それに釣られて、青葉もペットボトルをリュックにしまい、刀を杖に立ち上がる。
「疲れは取れたかい、青葉ちゃん?」
「まあ、少しは」
帽子を拾い、リュックを背負いながら答える。
「オーケイ、それじゃあ行こうか」
そう言って、種枚は更に山奥を目指して歩き始めた。

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鉄路の魔女:あんぐら・アングラー キャラクター

・ギン
日比谷線の魔女。固有武器はシックル・クロウ(足に取り付ける鉤爪)。「シックル・クロウ」とはもともと、小型肉食恐竜の後脚に発達した1本の爪である。鎌のように湾曲した長い爪がついた指は普段は持ち上げているため移動には用いられず、狩猟時に獲物に突き刺し、体重をかけて引き裂くために使われた部位である。ギンの装備するシックル・クロウはこれを再現した金属製の刃を具えた品で、足首に取り付けられたそれは普段は持ち上がった状態で固定されているが、使用時には発条機構によって勢い良く振り下ろされ、鉄板や岩石をも容易く貫ける威力を発揮する。こんな武器を使っていることから分かるように、基本戦術はアクロバティックな三次元機動から放たれる蹴り技。シックル・クロウは壁や天井に貼り付きよじ登るのにも利用できる。

・キン
有楽町線の魔女。固有武器はクロスボウ。様々な性質の矢弾を発射する。通常の鏃のついた矢、炸薬や粘液の入ったタイプの矢弾、着弾地点や軌道上で魔法的効果を発生させる特殊な矢弾など、放つ矢弾は本当に様々。何、本体は矢弾じゃないかって? いーやクロスボウが本体だねとは本人の談。

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鉄路の魔女:あんぐら・アングラー その④

超高速で飛び込むように大鯰に追いつき、ギンはシックル・クロウをその頭部に突き立てる。
(こいつのパワー相手じゃ、私ごと引きずり込まれるだけだ。私如きの力じゃブレーキにもならない)
「……だから」
踵落としの要領で、突き刺した足を勢い良く振り下ろす。彼女自身の落下速度と蹴りの威力もあり、大鯰の下降は更に『加速』される。
「もいっぱあああぁぁぁあッつ!」
まだ自由な状態にあった方の足もシックル・クロウを起動して突き刺し、下方向への勢いを更につける。
「まだまだぁあ!」
真上から地面を透過して、キンの放った矢弾が大鯰に直撃し、爆発してその勢いで更に下方へと押し出す。大鯰とギンが地下を通る線路をすり抜けた直後、地下鉄の車両が轟音を立てながら通り抜けていった。
「……ふゥー、間に合った。そして、このまま殺す」
地上からキンの放った徹甲矢弾が、大鯰の片目を正確に射貫く。ダメージで暴れ狂う大鯰の銃創を、ギンの精密な蹴りが更に貫いた。事前の射撃によって砕かれていた頭骨はそれを止めることはできず、柔らかい脳漿に足首まで深々と沈み込む。
「どんな動物でも、脳味噌をブチ抜かれれば死ぬんだ」
一度格納されていたシックル・クロウが、再び起動する。その威力と衝撃は大鯰の内部から破壊を引き起こし、一度大きくびくりと身を震わせてからその幻影は動きを止め、少しずつぐずぐずと消滅していった。

「おかえり。勝てたんだ?」
出迎えたキンに、地上へ這いあがって来たばかりのギンは無言でサムズ・アップを示した。その手を引いてギンを完全に地上に引き上げ、衣服についた汚れを払ってやってから、2人は車道を出て手近な商店の屋根によじ登った。
「お疲れ」
「いえい」
拳を突き合わせ、互いを讃え合う。
「助かったよキンちゃん。っていうかよく私の意図が分かったね」
「まぁ、付き合いそこそこ長いからねぇ」
「あと、地面挟んで見えないはずの相手によくあんなに正確に当てられるよね……毎度のことながらちょっと怖いよ」
「いやぁははは。慣れてまして」

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑬

「それは辞めといた方が良いんじゃねッスか、シラカミさんよぉ」
後ろから鎌鼬くんが声をかけてきた。白神さんが面倒そうに振り返り、彼の方を見やる。
「その人、種枚さんも目ェ掛けてますんで、あの人と喧嘩する羽目になりますよ?」
「やぁーだぁー! 千葉さんはわたしが囲うのー!」
放電しながら自分を抱き締め、白神さんは反抗した。電流で身動きが取れない。
「いやマジでお願いしますよ。俺、お目付け役任されたんで、2人に喧嘩されると100パー巻き込まれるンス」
「し、白神サン」
自分もどうにか口を開く。
「ここは間を取って、その、自分は不可侵ってことでどうですかね。いきなり白神さんのものになるのはちょっとアレだけど……白神さん以外のものにもならないってことで」
「む……それなら、良いかな……」
そう呟き、白神さんは自分を解放してくれた。電気にやられて完全に麻痺しきった身体がその場に崩れ落ちる。
「……そういうわけで、鎌鼬くん。種枚さんに言っておいてくれる……? そうしておかないと、自分が死にかねない」
「了解ッス。じゃ、俺は失礼します。お大事に」
白神さんに抱えられて帰途に就きながら、鎌鼬くんにどうにか会釈を返した。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑫

「じゃあお前がやれよ、潜龍の」
「何?」
「だから潜龍の、お前がリーダー。私は別に、この寄合さえ完成しちまえば誰が偉いとかはどうでも良いんだよ。だからお前が代表な。お前にとっても都合良いだろ? ちなみに、お前がやらなかった場合、一番不満が出ないであろう青葉ちゃんがやることになるぜ」
「…………分かった、引き受けよう。……で、何をすればいいんだ?」
「知らないよ。お前がテッペンなんだからお前が考えろ。もう私には責任無いからな」
「貴様…………」
結局、平坂さんと種枚さんで今後の方針を固めるということに決まり、残りのメンバーは自由解散ということになった。

市民センターからの帰り道、すっかり暗くなっていた道を白神さんと隣り合って歩く。
「いやぁ、わくわくするなー。ね、千葉さんや?」
「いや、自分は別に、どうとも……」
「んー? 千葉さんも〈五行会〉に入るんだよ?」
至極当然といった顔と口調で、白神さんが言ってきた。
「はい?」
「だってわたし、良さげな人を好きに身内にして良いんでしょ?」
「それは……どうなんだ……?」
「これで千葉さんはわたしのものだね」
「……それも、どうなんですかね……?」

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑧

「まあコイツのことはどうでも良いんだよ。見張りも付けるし、何ならお前が直々に目ェ光らせておきゃ良いんだ、潜龍の」
種枚さんの言葉に、不満げながら潜龍さんは納得したようだった。
「さて、この寄合の本質は、『怪異に手の出せない人間の保護』だ。ちょっと偉そうかね?」
「「いや」」
青葉ちゃんと平坂さんが同時に答えた。
「『それ』は“潜龍”の存在意義でもある」
「岩戸家も左に同じく」
「マジかよお前ら。こいつァ都合が良いや」
けらけらと笑い、種枚さんは話を続けた。
「この寄合はこれからどんどんデカくなるぜ、予言する。私ら5人はその天辺に立つのさ」
「はい、1個質問」
青葉ちゃんが手を挙げた。
「何だい青葉ちゃん」
「この寄合を作る意味って何です? 怪異退治なら、正直既にいくつか組織がありますけど、これ以上増える必要ってあるんですかね?」
「ぁー…………」
種枚さんは軽く唸り声をあげ、しばらく目を泳がせ、再び口を開いた。
「まず、この寄合は飽くまで『個人の集まり』だ。勝手と融通が利く。次に、『はぐれ』の霊感持ち、あとはシラカミみてーな奴を好きなように囲える」
「へ? メイさんみたい、とは?」
白神さんが気の抜けた声をあげた。
「『こっち側』に引き込めそうな『そっち側』」
「はーん……なーるほどー」

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子供は適切な保護者に安全に教育されなければならない 前編

〈ブラックマーケット〉のとある夜。元より陽光は〈地表面〉に遮られ、昼夜の区別など殆どつかないこのエリアでは、クォーツ時計と体内時計だけが日時を示す。
下品なネオンライトの輝く路地を遠くに眺めながら、男は『学校』を囲む塀――もはや『城壁』と呼ぶべき規模のそれ――その上、半ば私室化した空間でアルコールバーナーを操作していた。
「………………」
青白い火を眺めていた男はふと、塀の下、『学校』敷地内に視線を送る。
闇に紛れるように黒色の布地に身を包んだ小柄な影が、前庭を駆け抜けようとしている。
「……はァ。クソガキがよォ…………」
男は溜息を吐きながらアルミ・ケトルを火にかけ、わざとらしく物音を立てた。それに気付き、影がびくりと身じろぎして足を止める。
「よォ。夜更かしか? ガキは寝てるべき時間だろうが」
影は答える事無くじっとしていたが、不意に布の下から腕を突き出し、男に向けた。男が合金製のライオット・シールドを引き寄せるのとほぼ同時に乾いた破裂音が響き、男の構えた盾に何かが高速でぶつかる。
「……なるほどなァ…………。『武器庫』から火薬銃が1丁無くなってると思ったら、お前か。どうせなら熱線銃の方パクっときゃ良いものをよォ。ま、隠し持つならそっちだよな」
軽く笑いながら、男は『武器庫』と呼んでいる木箱から目的の道具を手探りで取り出し、地面に向けて放り投げ始めた。
目的の品を出し尽くした後は、ライオット・シールドも地面に放り、自身も飛び降りる。一連の動きを、影は身動きできずに眺めていた。
「さァて…………と」
着地の衝撃を殺すために大きく曲げていた膝と腰を伸ばしながら、男は口を開く。
「よォ、不良のクソガキが」
「…………ミネ、先生」
影が羽織っていた黒色の布を解き、地面に投げる。その下から現れたのは、まだ幼さの残る少年だった。

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Side:Law in Black Market 用語集・その他編

・200年前:人類が軽く滅亡したあの一件。詳細は不明。病気かもしれないし、戦争かもしれないし、地球外生命体かもしれないし、ロボットとAIの反乱かもしれない。真相は〈アッパーヤード〉の情報保管施設で厳重に保存されており、それと過去の様々な記録を基に、有力者の人たちが社会維持のための様々な方策を考える。これに関する無断での情報閲覧は違法。死刑。すごく面倒で長ったらしい手続きをこなせば、監視付きで閲覧可能。公表されていない理由は、無用なパニックでただでさえギリギリで持ち堪えている人類が崩れてしまったらマズいから。人類の危機を救うため、本気で知りたがっている人間だけが面倒な手続きの果てに知ることができる。ただの尋常じゃない好奇心でも、手続きさえほっぽり出さなければ閲覧できる。

・『商品価値』:〈ブラックマーケット〉の『掟』において最重要視されているもの。所持品、才能、技術、人脈、人徳、その他もろもろ、金を稼ぐあるいは食いつなぐことができるだけの何か。無くても大丈夫。『肉体』と『生命』の価値は誰かが見出してくれる。

・〈ブラックマーケット〉の掟
この地において上界の法は適用されない。我々は法的に「死人」である。
この地を出る際、身の振り方には注意すべし。我々は法的に「死人」である。
他者の持つ『商品価値』には相応の『商品価値』を対価として差し出すべし。
『商品価値』無き者の価値は、それを最初に見出した者の自由とする。

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Side:Law in Black Market 用語集・地理編

・スカイ・スクレイパー群:滅亡の危機において人類が退避した、世界各地のメトロポリスの高層建造物群。特に呼称が定まっているわけでは無く、敢えてそれ全体を指して呼ぶ際はかつてその場所につけられていた地名で呼ばれる。

・〈アッパーヤード〉:居住区のうち、地表から100m以上に位置するエリア。有力者や権力者の居住区と、情報・記録関連の施設が見られる。『天界』と呼ばれることもある。ちなみに〈グラウンド〉や〈ブラックマーケット〉の人間がここに来たからと言って罰せられるとか後ろ指差されるとかいったことは起きないので安心。人間皆、滅亡の危機を協力して乗り越える仲間である。……いややっぱブラマの住人は変な目で見られるかも。バレてはいけない。

・〈グラウンド〉:居住区のうち、地表から40~100mに位置するエリア。構想建造物どうしの間に橋渡しのように増築された居住区が特徴。総人口の7割ほどが住んでいる。『地上』と呼ばれることもある。

・〈地表面〉:〈グラウンド〉において、高層ビルの隙間に橋渡しするように増築された部分。多層的に重なり、ほとんど隙間なく敷き詰められていることから、〈グラウンド〉で生まれ育った若者や子供の中には、自分の立っている場所が文字通り「地表面」と勘違いしている者もいたりする。

・〈ブラックマーケット〉:居住区のうち、〈アッパーヤード〉にも〈グラウンド〉にも属さないエリア。ここの住人に市民権は無く、このエリア内で法律は適用されない。

・〈ホワイトホール〉:周囲を〈ブラックマーケット〉の領域に囲まれ、完全に分断された〈グラウンド〉または〈アッパーヤード〉。ほとんど見られない。一見危険そうに見えるが、〈ブラックマーケット〉の住人は外にあまり出ないので意外と安全。ただ旅行はできないのが難点。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑥

「お、全員揃ってんじゃーん。みんな真面目だねェ」
そう言いながら、扉に一番近い椅子に身を投げ出したのは種枚さん。その背後に鎌鼬くんが立ち、……あと1人、この少女は見たことが無いな。小学生くらいかな? 種枚さんの知り合いだろうか。
「ほれ、全員座りなよ。いつまでも立ってるのも疲れるだろ? ああ、犬神ちゃん、セッティングありがとう」
「良いの良いの」
答えながら、犬神ちゃんは種枚さんの席から1席挟んだところに座った。隣に座るだろうと思っていたから意外だった。種枚さんの隣には、近くにいた白神さんが座る。
「……あれ、潜龍神社の跡継ぎさんだ」
「ん? ……何だ、岩戸の三女じゃないか」
「なんで姉さまとの縁談断ったんです?」
「悪いがこちらも跡取りだ……というかそんな話を人前でするな」
「これは失礼しました」
少女はどうやら、神社の男性と知り合いらしい。
「……コネの無い連中は知らない同士だろ。とりあえず自己紹介でもしておくかね? お前ら全員私のことは知ってるはずだから良いとして」
種枚さんが顎で白神さんを指す。
「あ、白神メイです。どうぞよろしくー。じゃあお隣さん」
「私? 犬神って呼んでくれれば良いよ。はいお隣にパス」
犬神ちゃんの左隣に座っていたのはあの少女だった。
「えっと、岩戸青葉です。呼び方はどうぞお好きなように。跡継ぎさん、どうぞ」
「む…………一応、潜龍の名で通ってはいるが……平坂だ」
一周して、種枚さんに手番が回ってくる。
「あとは私の馬鹿息子とお気に入りが同席してるな」
「だからその言い方やめ……あの、俺別にこの人の子どもとか養子とかそういうのじゃないんで。どっちかっつーと弟子です。えっと、まあ鎌鼬と呼んでいただければ。じゃあお気に入りさん」
「えっあっはい」
そういえば、鎌鼬くんにも名乗った事は無かったっけ。
「えっと、千葉です。種枚さんにはいろいろと助けてもらってます」
何故か拍手があがった。

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鉄路の魔女:Nameless Phantom その②

『私』が自我を得た時、既に下半身は機械の蹄を持った馬のそれだった。ただでさえ文字通り『馬力』のある脚が、更に機械仕掛けでパワーを強化されている。そんな私の蹴りを受けて尚、あの二人は立っていた。どうやら各々、武器で身体を庇っていたようだ。
「さて……困ったなァ…………喧嘩は良くないって常識じゃンかァ…………」
イマジネーションはさっきの人から十分もらってるから、戦うには足りる。
「…………けどなァ……そういうの良くないもんなァ……」
残念ながらアオイちゃんもミドリちゃんもやる気満々みたいなので、取り敢えず自衛のために武器は用意しておくことにする。
右手を真上に掲げ、その中に私の武器、金属製の六角柱に持ち手を付けたような武骨な外見の棍棒を生成する。取り敢えずそれを肩に担ぎ、2人の様子を見ることに。
「くっ……アイツ、武器を出した。やる気だよアオイちゃん」
「うん……かなり大きい。不用意に射程に入らないようにしなきゃ」
2人はどうやら作戦会議をしているようだ。まあ、こちらから仕掛ける理由も必要も無いわけだし、のんびり待とうか。
2人は声を潜めてしばらく会話していたが、20秒ほどで切り上げ、こちらに向かってきた。その足取りはさっきまでの勢いのあるものとは違う慎重なもので、試しに棍棒を軽く振って見ると、すぐに後退ってしまう。
「どうしたの? 私を倒すンじゃァなかったの?」
「うっ……うるさい! お前なんか、私たち2人で掛かれば楽勝なんだから!」
ミドリちゃんがそう言った。頼もしいね。
それから数秒ほどだろうか、2人が遂に動き出した。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その④

「やあ、岩戸青葉さん」
学校から帰ってきた少女を、彼女の自宅の門の前で種枚が出迎えた。
「あの月夜ぶりだね。君の化け物狩りの姿、正直感動してたんだぜ」
そう言われて、ようやくその少女、青葉も種枚のことを思い出したようだった。
「あ……あの時はありがとうございます、えっと……」
「そういえば、名乗っていなかったか。こっちは人伝に君の名を聞いていたけど……改めて、私は種枚。よろしく」
「よろしくお願いします。私は……って、もう知ってるんでしたっけ」
「ああ。それで、今日私が来た用事については、聞いているかな?」
「…………あ、もしかして、この間姉さまが言ってた人って、あなたでしたか」
「そうそう。それで、来てくれるのかな?」
「えっと、はい。少し待っていてください、鞄片付けて着替えてくるので」
「ああ。……そうだ、ついでに君の愛刀も持ってくると良い。きちんと鞘に仕舞った状態でね」
「? 分かりました。では一度失礼します」
数分後、私服に着替えた青葉が、刀を専用の袋にしまった状態で携えてやって来た。
「ようやく役者が出揃った。じゃ、行こうか。そうだ、『青葉ちゃん』って読んでも良いかね?」
「え、まあはい。どうぞ好きなように」

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その③

「やあ、君」
千葉・白神の2人は大学からの帰り道、種枚から声をかけられた。
「……いるとは思ってたが、やっぱりシラカミも一緒にいたか」
「あっはい」
「さぞしんどかろうて」
「意外と慣れますよ。たまにバチッと来るくらいで」
「まあ良いや。今回用があるのはシラカミの方だから」
「およ、メイさんに何の御用ですかね?」
「来週の金曜、17時以降、空いてるかい?」
「うん空いてるけど……」
「来てほしい場所があるんだ。その子を連れてきても構わないから、来てくれるかい?」
「良いよー。千葉さんや、一緒に来てくれる?」
「あ、良いですよ」
「よっしゃ、じゃあ場所と時間を教えるぜ。多少なら遅刻してくれたって構わないから、気楽に構えておくれよ」
2人に情報を伝え、種枚は足早にその場を去った。
「……白神さん」
背中にぴったりと貼り付く白神に、千葉が声をかける。
「何?」
「実は行きたくなかったりします?」
「なんで?」
「いや、あの……電気が漏れてまして」
「あ、ごめん。いやね? やろうと思えばちゃんと抑えられるんだよ? 動ける?」
「少し待ってもらえれば……」
「ごめんよー」
謝罪したにも拘わらず離れようとしない白神に苦笑し、千葉は絶え間なく弱い電流を流され続けて麻痺した身体を解そうと少しずつ動かし始めた。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その④

鈴蘭が幻影を引きずっていった先は、専用道路近くを流れる川が海に出る河口付近だった。
幻影を掴んだまま水中に踏み入り、足のつかないほどの深さまで進んでからは触腕の一部を川底に付けながら移動する。
「このまま……広い所に出ようねぇ…………君はおっきいから、喧嘩するならこんな風に誰の邪魔にもならないところでやらなくちゃ。ね?」
海水域まで進出し、ようやく幻影を解放すると、その巨大な水まんじゅうはクラゲのように身体を伸縮させながら水面に浮き上がった。
「よしよし。じゃあこれで……」
左手の中にグレネードランチャーを生成する。射撃しようとしたところで、幻影が突然接近してきて、銃口に吸い付いた。
「ありゃっ。離れろぉーぅ」
幻影化した右腕で押し退けようとするが、幻影の身体は銃と鈴蘭の身体に柔らかく貼り付いていき、彼女の身体を完全に取り込んだ。
「ぐぁぁ……ええい、面倒だ」
引き金を引く。銃口を塞がれていた擲弾銃は暴発し、装填された炸裂弾どうしが誘爆し、大規模な爆発が幻影を引き剥がした。
「うぅ、痛い…………」
破損した銃の破片が処々に突き刺さった顔を拭い、幻影に向き直る。幻影はその体組織の4割程度を吹き飛ばされ、黒々とした核が露出している。
「…………どう? 参った?」
鈴蘭が尋ねると、幻影は核から原油のような黒い液体を垂れ流しながらぶるぶると震えた。
「そっか。それじゃあ、今日はもう帰ろうね? 他の人たちに迷惑かけちゃ駄目だよ? 暴れたくなったら、私が遊んであげるから。今度はちゃんと人のいない場所で会おうね」
幻影は静かに水面を泳いで川を上っていく。それを見送ってから、鈴蘭も地上に向けて触腕を動かし始めた。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その③

「あっ」
体表に僅かに残っていた機械装甲も地面に落ち、黒色の醜い全体像が露わになる。
肩から4本に枝分かれした中央の腕は人骨のそれのような構造、その周囲を囲むように昆虫の肢のようなもの、皮膜の無い蝙蝠の前足のようなもの、更に枝分かれする頭足類の触腕のようなものが生えている。
「うぅんこれは……良くない。人に見られたら怖がられちゃうな。さっさと終わらせなくちゃ」
再び突進してくる幻影を、蝙蝠型の腕で受け止める。先端の4本の鉤爪が幻影自身の勢いもあって深々と突き刺さり、幻影は痛みに苦しむように大きく身体を反らせ震えた。
「そいっ」
射撃を合わせ、爆発で更に態勢を崩し、ひっくり返す。
「……ほらほら、駄目だよ、君。『公共の場』で暴れるのはいけないことなんだから」
鈴蘭の言葉に、幻影は水まんじゅうのような身体を小刻みに震わせる。
「だから駄目なんだって。こら、だーめ。そんなに暴れたいなら、まずは人のいない所に行かなくちゃなんだよ」
グレネードランチャーの銃口で幻影をつつきながら、鈴蘭が説教を続けていると、彼女らのいる場所をバスが通過していった。
「………………ほら。ここはバスが通るんだから、びっくりされちゃうよ」
触腕を絡め、昆虫腕と蝙蝠腕を突き刺し、骨腕で表面を掴んで幻影を引きずり歩き始める。
「まずはここからいなくなろうね。マナーってものがあるんだから」

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その②

“鉄路の魔女”は基本的に、子どもにしか感知できない。鈴蘭が腕を失う原因にもなった大災害の頃、少年期にあった人間でも、十数年を超えた現在、社会人になった者も少なくない。ただ不老不死の魔女である鈴蘭には、時間経過による変化が理解しきれず、かつて交流し共に遊んだその人間が自分を無視している理由が理解できなかった。
専用道路の上をぽてぽてと歩き、2駅分ほど歩き続けたところでふと足を止める。
「………………や」
目の前の黒い影に、右手を挙げながら声を掛ける。人間の赤子の頭部程度の大きさだったそれは、鈴蘭の声に反応して全高数mほどにまで膨れ上がった。
「駄目だよ。こんな風に道を塞いじゃ。迷惑になるんだよ」
幻影は首を傾げるように変形し、目の前の魔女に突進を仕掛けた。
鈴蘭は右手だけでそれを受け取める。幻影の質量と速度が生み出すエネルギーは破壊力として機械腕を軋ませ、装甲の随所からは損傷によって火花が飛び散る。
「む…………」
空いた左手を大きく後ろに引き、軽く握った形に固定する。その手の中に、六連装グレネードランチャーが生成される。
「そー……りゃっ」
射撃では無く、銃器そのものの質量を利用し、幻影を殴りつける。
幻影を引き剥がし、煙の上がる右手を開閉する。
「まだ……動くかな。よし」
その手を強く握りしめ、それと同時に機械腕が爆発し、装甲が弾け飛んだ。

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その⑨

「ああクサビラさん、最期にお友達とおしゃべりする時間をもらうよ?」
「……好きにしろ」
白神さんの問いかけに答え、種枚さんが1歩退いた。一息ついて、白神さんの方に向き直る。
「ねえ千葉さんや。1個だけ、正直に答えてほしいんだ」
「……何でしょう」
白神さんの質問が何なのかは、既に察しがついていた。深い藍色の虹彩に縦長の瞳。微笑を浮かべた口から伸びる鋭い牙、さっき攻撃を受けた際に身体を庇ったのか、上着の袖の破れた穴から覗く、滑らかな栗毛の毛皮。パチパチと音を立てて、彼女の身体の周りに目視できるほどはっきりと流れている放電。
「千葉さんや。わたしのこと、怖いと思う? 正直に答えてほしいんだ。『怖い』って、そう言ってくれたら、わたしは人間に混じっているべきじゃない。大人しくクサビラさんに殺されるよ。それが正しいことなんだから、わたしは気にしない」
「…………」
正直に答えるとしたら、たしかに『怖い』と言わなくちゃいけない。ヒトじゃない存在の恐ろしさは、実体験として知っている。友人として接していた人が、『人』ではなかった。その事実に戦慄するなという方が無茶な話だ。
「…………全く怖くない、とは言いませんよ。妖怪だっていうなら」
「そっかー」
「でも、それでも白神さんは自分にとっては大事な友人です。そんな白神さんを失いたくない。……それに」
種枚さんに目を向ける。
「白神さんなんかよりよっぽど恐ろしいモノ、自分は見慣れてますから。だから大丈夫、白神さんは怖くなんかありません。可愛い可愛い私の友人ですよ」
「ち、千葉さぁん……!」
種枚さんがどんな反応を示すのか、注意を向けてみると、種枚さんは後方の自身の足跡を眺めていた。少しずつ火の手が広がりつつある落葉に向けて適当に腕を振るうと、落葉が大きく舞い上がり、火もかき消された。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その④

触手は筐体を破壊することなくただ理宇だけを執拗に追跡していく。理宇はゲームコーナーの中をひたすら逃げ回り、格闘ゲームコーナー、メダルゲームコーナー、再びクレーンゲームコーナーと走り続けたところで、前から襲い来る触手に挟撃され、再び拘束を受けた。
首、両手首、両足首を絡め取られ、完全に身動きができない状態で空中に持ち上げられる。
「うげっ……! た、たすけて先輩……!」
身じろぎして抵抗するが、エベルソルの力はかなり強く、全く歯が立たない。そのうち胴体にも触手が巻き付いていき、更に締め付ける力が少しずつ強くなり始めた。
「せ、先輩……どこ……? ロキ、先輩……」
首の触手も締め上げられ、意識が遠のいていく。完全に気を失う直前、ロキの光弾が触手の拘束を吹き飛ばし、理宇の身体はそのまま床に落下した。
「リウ、変に逃げ回るからサポートが遅れたよ。ごめん」
「ぁぅ……それは、ごめんなさい」
「謝らないで。立てる?」
駆け寄ってきたロキに助け起こされ、理宇は再びスティックを生成した。
「すみません、まだ戦えます。ロキ先輩は下がってください」
「ん、頑張れリウ」
再び始まった触手の猛攻を捌き始めた理宇を置いて、ロキはゲームコーナーからひとまず脱出した。