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少年少女色彩都市・某Edit. Modeling Master Amenonuboko その①

徹夜までして丸二日かけて制作した動画を動画投稿サイトにアップロードし、一仕事終えた達成感で大きく溜息を吐いた。
すっかり冷たくなった缶のカフェオレを飲み干し、大きく伸びをして、何となく辺りを見回す。フォールム本部の休憩室の一つを借りて、第二の作業場として使わせてもらっている、自室以外ではほとんど唯一と言って良い、安心できる居場所だ。
別に対人トラブルがあるわけじゃない。そんな物が無くたって、身内以外の人がいる場所が何となく苦手だってことはあるでしょう?
……そういえば名乗っていなかったっけ。ネット上では『雨野ぬぼ子』の名前で3Dアニメーションの動画を投稿していたりする、彩市在住1X歳のリプリゼントルです。同業のみんなからは『ぬぼ子』の名前で呼んでもらっています。本名っていう個人情報を明かさなくて済むのは有難い。
安心して少しずつ眠気を思い出しつつある頭でぼんやりとスマホのSNSアプリをチェックしていると、メッセージアプリの通知が出てきた。
『ぬぼ子さん、今本部にいますよね?』
同業者……リプリゼントルの1人だ。たしかこの子は少し前になったばかりの割と新人さんだったっけ。
『いるよー』
手短に返信する。
『これからエベルソル退治なんですけど、サポートお願いしたいんですが』
これは困った。今、眠くて仮眠取ろうとしてたところなんだけど……。
まあ、新人さんが力を付けるまでのお世話も、先輩の仕事の一つだし。電源マークをちょっぴり豪華にしたような魔法陣をぱぱっと描き上げ、変身した。
『OK!』というスタンプを送り、休憩室を出る。途中、自販機でエナジードリンクを購入し、飲みながら本部を出た。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その⑤

「あんまり待たせないでほしいなぁ……そうだ」
青年は長剣を床の上に放り出し、別のものを手に取った。干からびた枯れ枝のようで、先端は4つに分かれ尖った白い何かが貼り付いている。
「これ、この間あなたの同類から貰ってきたんですよ」
「『奪ってきた』の間違いじゃねえか?」
悪魔氏の返事に彼の方を見ると、頭も両脚も既に完全に再生していた。
「もしかしたらそうかも。まあそんなことはどうでも良くって。同類の腕に切り刻まれるのって屈辱的な気分じゃありません?」
「……いやァ? 俺は別にそーいうの気にしないタイプだしなァ」
「そうですか。じゃ、やりますね」
「バッチ来ぉい」
青年はその枯れ枝……悪魔の腕の爪を用いて、悪魔氏の頭、肩、腹、腿、腕と次々斬りつけていった。血飛沫と内臓が悪魔氏の身体から飛び出していくにも拘わらず、悪魔氏は平然として笑っていた。
「ふーむ……天使の武器も駄目。悪魔の爪も駄目」
「ソラお前、首も心臓も丁寧に外すんだからこっちも何の心配も無く受けられらァな」
「どうすれば本性表してくれます?」
「これもまた俺の本性だよ」
「そう言うの良いんで。……けど困ったなぁ…………あ、そうだ」
青年が腕から長剣に持ち替え、こちらに顔を向けた。
「同じ地上に住む者同士、仲良くしておくれ」
彼の考えに気付く前に、長剣の刃が私の首に迫っていた。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その④

「それじゃ、本題に入りましょうか」
青年は眩しいほどの笑顔で私達の方に向き直った。その手には先ほどまで見ていた長剣とは違う、刃渡り20㎝ほどの沿った片刃の短剣を携えている。
「まぁその前に」
言葉を続けながら青年は天使氏の方に歩み寄り、短剣をその口内に向けて深く突き刺した。
「このひとは煩いから黙らせときましょう。どうせこの程度じゃ死なないんだし。……では悪魔さん?」
「ンだよ」
「その偽物の身体、さっさと捨ててください。俺が用があるのはそんな小さい紛い物じゃなく、禍々しい化け物の姿の方なんですから」
長剣の刃を向け、青年は悪魔氏に言い放った。
「……『偽物』? 『紛い物』? 心外な言い方してくれんじゃねえか。この姿もまとめてひっくるめて俺なんだぜ?」
「ああごめんなさい、あなたの理屈は割とどうでも良いんです」
言いながら、青年は悪魔氏の足下に向けて長剣を振るった。殆ど何の抵抗も無く、悪魔氏の両の脛が切断される。
「俺が興味あるのは、あなたの“異形態”だけなんで」
「……そいつァアあんまりな言い分じゃねーの? 俺、自分の全てを愛してもらいたいタイプなんだk」
彼の言葉は途中で遮られた。青年が悪魔氏の上顎より上を斬り飛ばしたのだ。

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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その⑦

タマモは追加で新たに小さなインキ弾を数十個、やや大きめのインキ弾を数個生成し、理宇の身体が僅かに傾いた隙を通してエベルソルに叩き込む。まず腕を叩き落とし、頭や肩を重点的に狙うことで動きを制限する。
「ん! ありがとうございます!」
理宇が飛び退くのとほぼ同時に、タマモは予め用意していたインキ砲弾を蹴飛ばし、エベルソルに向けて転がした。
「俺の弾幕の残りは十分、つまり攻撃はもう来ない。対するこちら、この砲弾。コイツはまさに『破壊力』。スローで確かにテメエに向かい、防ぎようも無く轢き潰す! っつーわけで……さらばクソ文化破壊者!」
動きを止めるための弾幕が止むのと、砲弾がエベルソルに直撃したのはほぼ同時だった。
砲弾はエベルソルに当たった順に腕、頭、胴、脚、尾と消し飛ばした。
「わー……あんな恐ろしい攻撃できたんですね」
「俺としては、お前のインキの使い方に驚いたよ。ああいうの、アリなんだな」
「できてるしアリっぽいです。……ところでタマモ先輩?」
へたり込んだままの理宇が尋ねる。
「何だ?」
「その……運んでいただけると」
「……まあ、そりゃ内臓損傷してるだろうからな」
タマモは理宇を抱き上げ、肩に担いだ。
「あ、そう運ぶんです?」
「ん、流石に腹押す形はマズかったか? 負ぶってやった方が良いか」
「いやぁ…………そうですね、それでお願いします」
「了解」
背負い直し、歩き始める。
「……お疲れ、後輩。よく頑張った。寝てて良いぞ」
「光栄です……すみません、ご迷惑おかけします」
その言葉を最後に、理宇は意識を手放した。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その③

「……で。なんでだ?」
あの男性……彼の言葉から察するに、悪魔氏は、先ほどまでの軽い口調とは打って変わった真剣な口調で青年に問いかけた。
「俺に用があるなら、俺だけラチりゃ良いだろ。……ぁいや俺ラチってきたのも許してねーけど。羽根カスとヒトカスはなんでここに居る? 言っとくが悪魔にだって知識として『常識』はあンだよ」
長剣の刃を見ていた青年は身体の動きをぴたりと止め、ゆっくりと悪魔氏の方に向き直った。
「えっと、そうですね……見ての通り俺は片翼の“堕天使”なわけですが」
「あァ、そうだな」
「やっぱ俺って、追放された側なわけじゃないすか」
「そりゃテメェで反旗翻してンだからな」
「普通恨みません?」
「お前個人は?」
「いや特に……俺も馬鹿な事したなーって。けどせっかく見つけたんで、物のついでってことで」
「ヒヒヒ! お前良い性格してンねェ!」
「おい貴様! 誰が物のついでだと⁉」
天使氏の言葉には2人とも無視を決め込んでいた。
「あ、ついでにそっちの“かよわきいきもの”は?」
「それはほら、天使って暴力的なところあるじゃないですか」
「ウン」
「だからほら、無力な人間が一人いれば、無法出来なくなるなって」

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑧

「あの子、思ったよりタフだよ。…………いやしかし、下手とは言ったが案外悪くないぜ、あの子のやり方」
「え」
「あの滅茶苦茶な振り回し方、ロクに刃を入れられてないモンだから全然斬れてないが……」
「刀使ってるのに斬れないんじゃ意味無いんじゃ?」
「お前想像してみろ。たしか真剣の重さは1㎏くらいって聞いたことがあるが、それだけの重量がある金属の塊を叩きつけられるのを」
鎌鼬は顎に手を当てて少し考え、得心したように手を打った。
「当たっても硬度で弾かれる可能性のある斬撃と違って、打撃は当たりさえすれば絶対に、中身を揺さぶって影響を残すんだ。最低限得物を振り回せるだけのパワー、最大威力の先端をぶつけられるだけのテクニック、相手に捉えさせないだけのスピード、相手が死ぬまで戦い続けられるだけのスタミナ。全部あれば『無い』戦法じゃあないのよ」
種枚の言葉を聞きながら、鎌鼬は少女の方を見下ろす。少女は両膝をつき、肩で息をしていた。
「……全部あります?」
「……少なくともスタミナには不安があるかな」
種枚がのろのろと立ち上がる。
「おい馬鹿息子」
「……何すか」
「ちょいと転ばしてやって来な」
「師匠はどうするんです?」
「何、殺しゃあしないよ。あの子の獲物だ」
鎌鼬に目を向ける事も無く指示を出し、種枚は屋根から飛び降りた。

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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その⑥

(さッ……すがに、難しいよなァ…………アイツのやり方ってのは)
援護射撃を送りながら、タマモは相棒たるロキのことを思い出していた。
(アイツの才能『展開の演出』。たしか『より面白い物語を演出するために、持ってるもの全部使って場の全体を都合良く操る』みたいに言ってたか。……面白い展開って何だ?)
弾幕が腕を更に1本吹き飛ばす。
「やッべ、テンポ狂うじゃん」
呟き、弾速を僅かに下げる。
「向かって左、1本減ったぞ!」
「ん、了解です!」
短く答え、敵の攻撃をいなしながら、隙を見て理宇は横から来る拳を両手で受け止めた。その腕に組み付くと、エベルソルは振り解かんとその腕を大きく振り上げ振り回す。放り出されまいと歯を強く食い縛りながらも、理宇の口角は、にっ、と吊り上がっていた。
(私がトドメをお願いしたのに……当然だ。私が前にいれば、タマモ先輩は誤射の危険から敵の芯は狙えない。だけど今なら!)
理宇の取り付いている腕を振り下ろそうとしたエベルソルの身体が大きく傾ぐ。理宇は素早く離脱し、タマモの目の前に回転しながら着地した。
「見事な着地、10点満点」
「ありがとうございます……っと」
2人に向けて伸びてきたエベルソルの腕を、理宇は片手で受け流した。続いて伸びてくる腕の攻撃を、次々捌いて行く。
「うッわァ……これ、近くで守られてると圧がすげェな」
苦笑しながらガラスペンを取り出し、巨大なインキの塊を空中に生成する。
「せっかく後輩がカッコイイところ見せてくれたわけだし、こっちも1発大技決めてやらねーとなァ……」
10秒以上インキを垂れ流し続けて完成させた巨大な砲弾で、エベルソルに対して照準を定める。
「おいリウ! 隙見て躱せ!」
「え、無理です!」
「……分かった。隙はこっちで用意する」

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その②

「ここ、は……」
今目覚めた方の男性は、周りを見渡し、室内にいる唯一自由な存在にすぐ目を付け、食ってかかった。
「おい貴様! 誰に向かってこんなことをしている! さっさと解放しろ! 無礼な片羽根の罪人が、殺してくれる!」
「おーこっわ。こんな風に言われて解放するひと居るわけ無いじゃないですかぁ、ねー?」
「ネー」
長髪の青年は、先に起きていた男性と意気投合したように同意し合った。
「貴様、舐め腐りやがって……!」
パチパチと奇妙な音が鳴る。さっき起きた方の男性を見ると、彼の身体の周囲を青白い電流が走っていた。そういえばこの人、背中に白くて長い鳥の翼が1対揃って生えている。まるで……。
「『天使』に楯突くことの意味、とくと知れ!」
彼が叫ぶと同時に、電流が長髪の青年に向けて飛んで行った。青年は冷静に長剣で電流を弾き、流れ弾が私の足下にぶつかり焦げ跡を残す。
「あー、いけないんだー。地上に平和をもたらす天使さまが人間殺しかけたー」
「ウッワドン引くわー。地上の先住民たる俺ら『悪魔』を虐めるのはまァ良いとしても? だって迷惑するのは俺らだけだし? けどこんな無力でか弱い生き物イジめるのはさすがに最低だろー」
2人が揶揄うように言う。天使氏は悔しそうに歯ぎしりしながらも大人しくなった。

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厄祓い荒正し ep.1:でぃすがいず  その⑤

(角度ヨシ! 振り抜け!)
「はい!」
勢い良く泥の刀剣を振ると、それに従って刀身が勢い良く伸長し、地上の一点、雑木の下を貫いた。
「手応えあり、刺さりました」
(よっしゃ、引けィ!)
「はい!」
刀剣をぐい、と引っ張ると、鉤状に変化した刃が縮みながら、突き刺さった対象を引っ張り上げた。
「…………妖獣? ですかね」
(トゲトゲした鼠……にしちゃあデケエな)
油色の毛皮に身を包み、背中にはさっきまで飛ばしてきていたためか、少し禿げてはいるけれど棘状の体毛が並んでいる、大きめのネズミみたいな生き物が、泥刀の鉤に引っかかっていた。
(体毛を飛ばしていたわけか。にしたってあの速度はブッ飛んでるよなァ)
「気を付けましょう。また撃ってくるかも」
(いやァー……させねーよィ)
泥刀を神様の泥の余剰が伝い、瞬く間に妖獣を覆い尽くしてしまった。
(毛針も抑えた。コレで捕獲完了ってェわけよ)
「……流石神様」
(もっと褒めてくれても良いぜィ? お前は唯一の我が信徒だ。信仰と尊敬はいくらあってもあり過ぎることにはならねェ)
「はいはい。とりあえずコレの処理は後で決めるとして、この辺りに他に厄介な人外はいるでしょうか」
(雑魚の幽霊ならいくらか気配があるが……お前には分からねェのかァ?)
「残念ながら……。私、気配を感じるとかそういうのはあんまり得意じゃなくて」
(マ、追々鍛えていきゃァ良いだろうよ。そら、地上戦に行こうぜ)
「了解です」
神様が泥の足場を解き、私の身体は重力に従って落下していった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その⑤

理宇は持っていた2本の棒を地面に放り、ガラスペンを取り出した。輝くインキを無造作に垂らし、形成された大きなインキ溜まりの中に両手を突っ込む。一瞬待って引き抜いた両手には、インキと同様に輝く1双のガントレットが履かれていた。
「これだからバチは駄目なんだ。ちょっとラグができちゃうから。素手なら最速だ…………仕返ししてやる!」
口に溜まった血を吐き捨て、理宇は再びエベルソルに向かった。
敵から繰り出された3本の腕のうち2本を沈み込むように躱し、1本を手の甲で受け流し、空いた片手で顔面を殴りつけた。
続けて側頭を狙うエベルソルの攻撃を後退りながら躱し、再び始まった連撃もガントレットで防ぎ、受け流し躱していく。
エベルソルは連撃を続けていたが、突如その手を止め、再び背中を丸め身体を震わせた。
(! また腕を増やす気か!)
変化が起きる前に、理宇は素早くエベルソルの頭頂を殴り付け、地面に沈める。更にタマモの放った大型光弾2発が、腕型器官1対を吹き飛ばした。
「オーケイこのサイズが有効打な。160までなら上げてやる」
「タマモ先輩! 了解です!」
タマモは大型光弾を生成し、空中に十数発待機させてから射撃を開始した。正確に等間隔で発射しつつ、新たな弾丸を生成する。それを繰り返しながら、エベルソルの腕を重点的に狙い、理宇に向かう攻撃の数を減らしていく。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その①

目を覚ますと、私は知らない部屋の中にいた。どうやら硬い椅子に座らされ、縄と鎖で身動きが取れないよう拘束されているらしい。
「あ、起きました? おはようございます。そんな状態じゃ難しいとは思いますが、どうぞ寛いでもらって」
声の方に目をやると、長い銀髪の青年が長剣の刃の手入れをしていた。
何故こんなことになっているのだろう。起きる前のことを思い返してみても、普段通りの生活を送り、普段と変わらない時間に床に就いた、その記憶しか無い。
状況を整理するために部屋の中を見渡してみると、自分以外にも2人、同じように椅子に拘束されているのが見えた。項垂れているところを見るに、まだ目覚めてはいないのだろう。
「わ……私達をこんな風にして、あなたはいったい何をする気なんですか」
あの青年に、震える声で、それでもできるだけ毅然と、尋ねてみる。
「……そーだそーだー。そっちの羽根持ちならいざ知らず、俺がこんな目に遭わされるような恨み買った覚え無ェよォー」
自分の右側に拘束されている男性が、便乗するように口にした。どうやら意識はあったらしい。
「なァ、“片羽根”?」
その男性が、長髪の青年に言う。よく見ると、青年の腰の辺りから、真っ白な鳥の翼が右側だけ生えていた。
「そーいう『如何にも差別してます』みたいな言い方、良くないと思うなー」
「バァーカ、挑発でンな丁寧に呼ぶわけ無ェだろーが」
「それもそっか。……けど、今回の俺の目当ては、どっちかというとおたくなんですよ」
「マジで? 何それ気色悪りィ」
2人の言い合う声のせいか、最後の1人もようやく目を覚ました。

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その④

エベルソルが突進してくる。理宇はすぐにエベルソルに向けて駆け出し、敵の目前で跳び上がり、頭部に2本の棒を叩きつけた。
彼女の攻撃によってエベルソルの突進は止まり、攻撃してきた理宇に反撃しようと、背中から生えた腕のような器官を立て続けに叩きつける。理宇はそれを棒を用いて受け流し身を守る。
(……うん、このくらいの速度なら普通に見える。思ったより重いけど、まあ2分くらいは頑張れるかな?)
エベルソルの猛攻が止まり、背中を大きく曲げる。すると、元の腕型器官の付け根から、更に2対の腕が生えた。
「……わぁ。一度に2発までがルールだよね?」
震える声でおどける理宇に、エベルソルはこれまで以上の密度の連撃を叩き込む。引き続き受け流しを続けるが、少しずつ対応しきれない攻撃の比率が増え、遂に鳩尾に化け物の拳が突き刺さった。
「ぐぇっ……」
殴り飛ばされた理宇が、タマモの足下に転がって来る。
「ぅ……タマモ、先輩……敵のダメージは、どう、ですか……」
「撃ってはいるがどうもダメージになってないっぽいな……硬てェ。攻撃を止めるにしたって、もうちょっと大口径の弾じゃねえと足りない。当然描くにも時間がかかるし……これ俺ら二人でどうにかできる相手じゃないくせェぞ」
「うぁー……マジですか……」
理宇がよろよろと立ち上がる。
「いやお前無理すンなよ?」
「いえいえこの程度…………私の初陣ですよ? しかも、タマモ先輩のサポートなんて、無様に転がってられないじゃないですか。大丈夫、一度見たんで、対応はできます」
「ええ……」

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Daemonium Bellum RE 設定 Ⅱ

この書き込みは企画「Daemonium Bellum RE」の設定その2です。

・堕天使 Angelus Lapsus
天界から追放/逃亡した天使のこと。
追放された個体は大抵片方の羽根を切り落とされている。
羽根を切り落とされたことにより“権能”を一部失っていることがある。
弱点は相変わらず首と心臓で、どちらかを破壊すれば倒せる。
天使に協力する者、悪魔に協力する者、第三勢力として動く者、人間に溶け込む者と立場は様々である。

・人間 Human
地上の主な住民。
数だけが取り柄で、文明レベルは古代オリエント世界みたいなイメージ。
天使と悪魔の抗争によく巻き込まれている。
天使や悪魔を崇めたり、彼らに協力したり、邪魔がったりと様々な立場の者がいる。

・天界
天使たちの本拠地。
雲の上に中世ヨーロッパ的な都市が広がっている。
“神”がいる場所でもあるのだが、“神”自身は姿を隠してしまって出てこない(らしい)。
少し前に地上の悪魔も巻き込んだ、天界の天使の3分の1による反乱のせいで人手不足気味。

・地上
悪魔と人間が住まう場所。
人間は古代オリエント世界みたいな文明を築いているが、その中やそこから離れた所に悪魔が住んでいる。

リメイク元の企画に参加した方なら分かると思うけど、だいぶ設定をパワーアップさせました。

相変わらず難しいだろうけど…参加したい人は頑張って!
何か質問などあればレスください。

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Daemonium Bellum RE 設定 Ⅰ

この書き込みは企画「Daemonium Bellum RE」の設定その1です。

〈設定〉
・天使 Angelus
秩序を以って地上に平和をもたらそうとする勢力。
この世界を支配する唯一絶対の“神”によって創造された、“神の使い“。
悪魔が存在することによって地上が混乱状態にあると考えており、悪魔を敵視している。
姿は人型で、背中に白い翼が生えている。
それぞれが特殊能力“権能”を持つ。
白系統の制服のようなものが存在する。
基本的に集団行動が多い。
文明レベルは中世ヨーロッパくらい。
性別はない。
弱点は首と心臓で、どちらかを破壊すれば倒せる。
たまに悪魔に宥和的な者、悪魔に協力する者などがいる。
実は異方からやってきた“神”がこの世界を支配するために悪魔を模して創った存在。
所々悪魔と同じ部分があるのはこれが原因。
なおこの事実に気付いている者は少数派。
ちなみに“天使”という名前は自称だが、だんだん地上の住民たちも使うようになった。

・悪魔 Diabolus
地上に巣食う混沌を好む勢力。
元々地上は自分たちが暮らしている所のため、それを脅かそうとする天使を敵視している。
本来の姿は異形だが、普段は人間に近い姿をとっていることが多い(獣耳や角などがある人間態を持つ者もいる)。
それぞれが特殊能力“権能”を持っている。
服装は個体によってバラバラ。
基本的に個人行動が多い。
文明レベルは中世ヨーロッパくらい。
性別はない。
弱点は首と心臓で、どちらかを破壊すれば倒すことができる。
たまに天使に宥和的な者、天使に協力的な者などがいる。
“神”が天使を創造する際に元にした、言わば天使の“アーキタイプ”。
元々は“神”がこの世界にやって来る前に地上に住んでいた神霊の一種である。
所々天使と同じ部分があるのはこれが原因。
なおこの事実に気付いている者は少数派。
ちなみに“悪魔”という名前は天使からの通称だったが、だんだん悪魔たちも使うようになった名前である。

「設定 Ⅱ」に続く。

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その③

「そうだ、今日はどこに行くんです?」
街を歩きながら、理宇が尋ねた。
「んー……そうだなー……あ、思いついた。CD屋行こうぜ」
「了解ッス」
目的地に向かう近道となる細い路地に入ったその時、路地の奥から爆発音が響いてきた。
「お、ビンゴ。行くぞ、先行け」
「はい!」
ホルスターから武器となる2本の棒を抜き、両手に構えながら理宇が駆け出した。いち早く路地を抜けた彼女の目に映ったのは、CDショップの自動ドアを破壊し、内部への侵入を試みる体高4mほどのエベルソルの姿だった。
「タマモ先輩、敵です! 見える範囲では1体、2階にも余裕で届くサイズの大きさです!」
「なるほど分かりやすい状況報告感謝」
弾丸を描きながらタマモも理宇に追いつき、射撃をエベルソルに命中させて注意を引いた。
「あークソ、なんだってこうも人間の多い場所に湧くかなァコイツは。これだけ周りに障害物があると思ったように弾が撃てねェ」
「……厄介なところ申し訳無いんですが、タマモ先輩」
「ん、何だ?」
「2つほどお願いしたいんですけど」
「何だ、言ってみろ」
「一つはフィニッシャー。あれだけ大きい相手だと私は足止めに専念した方がやりやすいので、ダメージは先輩に積んでもらいたいです。あともう一つ、向こうのリズムをできるだけ一定にコントロールしてもらえると、受けやすいので……」
「……そういうのはウチの相棒の方が得意なんだけどなァ……。まあ、やれるだけやってみるが、多分上手く行かないからお前も頑張れよ」
「はい、お任せください!」
「オーケイ、来るぜ」

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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その②

「失礼します! さっきの大きい音、何があったンスか!」
ノックも無く扉が勢い良く開き、学校制服風の衣装に身を包んだ背の低い少女が飛び込んできた。
「んぃや、椅子をひっくり返しただけだ。何も問題は起きてねェ。……お前が臨時のバディか」
椅子を立て直しながら尋ねるタマモに対し、少女は背筋を伸ばしはきはきと答える。
「はい! 自分、魚沼理宇といいます! 大晦日のタマモ先輩の戦い、胸を打たれました! 先輩に憧れてこの世界に入りたいと思い、それで先日、遂にリプリゼントルと相成りまして……まだまだ新米ではありますが、先輩を守るフロントとして精一杯努めますので、どうぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
「元気だねェ…………あン? 前衛なんだよな?」
「え、はい」
「『俺の戦い方に憧れて』リプリゼントルを目指したんだよな?」
「はい! タマモ先輩の正確なテンポ取りとソフラン操って相手のペースを崩すテクニック、惚れ惚れしました!」
「そうかい。……ア? どこで見たんだ?」
「え、ネットに流れてましたよ? 監視カメラ映像でしたね」
「そッかー……」
改めて椅子に座ったタマモに促され、理宇も向かいの席に恐る恐る腰掛ける。
「そうだ、これはどうでも良い雑談なんだがよォ」
「ハイ何でしょう」
「お前は、何の才でリプリゼントルになった?」
「ハイ! 音ゲーです!」
「……音ゲー? スマホか? ゲーセンか?」
「後者ですね。音ゲープレイは演奏であり、舞踊であり、たった一つ肉体動作の最適効率を求めるパズルであり、ネタと電波を昇華する前衛芸術でもある、ギークとストリートが生み出した複合芸術なんですよ!」
「へェ……。お前とはなかなか気が合いそうだ」
「やったー! 光栄です!」
「うん。まあ前衛やってくれるんなら助かる。さっさと行こうぜ。芸術が飽和したこの街じゃ、あの文化破壊者共はすぐ湧いてくるからな」
「了解です!」

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その①

「……あー、マイクテス、マイクテス。タマモノマエのー、アジテイションレイディオー。わーぱちぱちぱちぱち」
椅子に掛けてテーブルに足を掛け、後ろの二脚を支点に椅子を揺らしながら、タマモは無感情に虚空に向けて独り言を放っていた。
「俺はぶっちゃけサポーターの方が楽なんだよ。だから相棒……ロキがいねえとエベルソルとの戦闘に当たってそこそこ困るわけなんだけどさァ……いやロキもサポート向きだから相性自体は微妙なんだけど」
向かいの席に目をやる。普段ならロキがいるはずのその場所は空席だった。
「えー……ロキの奴は現在、高校入試に向けて受験勉強が佳境に入っているので任務には参加できないそうです。俺が中3の頃なんて、ろくに勉強してなかったぜ? 勉強しなくて良いように行く高校のレベル調整してたから。……閑話休題。だからフォールムの偉い人にさ、俺1人じゃただの役立たずのクソ雑魚なんで誰か臨時のバディくださいって頼んだわけよ。ガノ以外で。俺あいつのこと嫌いだし」
言葉を切り、ドアの方に目をやり、すぐに天井に視線を戻す。
「まァ…………一応俺の提案は認めてもらえてさ。何か、前衛向きの奴寄越してくれるって話だったんだけどさ」
壁掛け時計に目をやり、溜め息を吐く。
「……まだ来ねェ…………んがッ」
バランスを崩して椅子をひっくり返し、床に投げ出される。
身を起こそうとしていると、慌ただしく駆ける音が扉の向こうから近付いてきた。
「ん、やっとか」

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑥

「……誰だい」
種枚は倒れたまま声の方へ目を向けた。彼女から10mほど後方に、抜き身の日本刀を携えた小柄な少女が立っている。
「そいつは、私の獲物だぞ!」
威勢よく言う少女を睨み、億劫そうに立ち上がってから、種枚は一瞬で少女との距離を詰めた。片手は刀身を強く掴み完全に固定し、攻撃の余地を潰している。
「ひっ⁉ お、鬼……⁉」
怯える少女の顔を無表情で覗き込み、背後から肉塊怪異の気配を感じながら種枚は口を開いた。
「……本当にやるのかい?」
「……へ?」
「あれ、君が殺すのかい?」
「っ…………や、やってやる!」
「そうか。頑張れ」
刀から手を放し、少女の肩を軽く叩き、怠そうに少女より後ろに退避していった。
「本当にあの子に任せちゃうんです?」
種枚の隣に下りてきた鎌鼬に問われ、種枚は目だけを向けた。額には既に角は無く、口も人間のそれに戻っている。
「ああ、真剣持ってたし、本人がやるっつってたんだし、別に任せて良いだろ」
「え、あれ本物だったんですか⁉」
「うん。手ェ切れるかと思ったよ」
からからと笑いながら種枚は手近な民家の屋根に上がり、肉塊怪異と交戦する少女を観察し始めた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction キャラクター紹介

・“煽動者”タマモノマエ
年齢:17歳  性別:男性  身長:171㎝
芸術:扇動文句  衣装:パーカーとカーゴパンツ
人を動かす『言葉』に芸術性を見出し、正気を奪うリズムと語数の応酬を極めんとする扇動者の卵。思い通りに動かすというよりは『正常な判断をさせない』ことに特化している。相手のペースを乱し調子を崩させるのが大好きなとても性格のわるいやつ。リズミカルに放たれる弾幕による射撃戦を得意とし、リズムを自在に変化させることで相手のペースを乱す。フヴェズルングとは相棒にして親友。戦法がどちらもサポート向きなので敵との正面からのぶつかり合いになると辛いが、互いをサポートし合うので意外とどうにかなっている。絵はド下手。実は左利き。愛称は『タマモ』。

・“演出家”フヴェズルング
年齢:15歳  性別:女性  身長:151㎝
芸術:展開演出  衣装:セーラー服風の衣装
主にテーブルゲームの戦局を操作し、劇的な展開を演出することに芸術性を見出し、勝敗を無視して如何に『面白い』展開が作れるかに心を砕くアマチュアゲーマー。面白さの為なら敵の嫌がることも味方の面倒がる事も何でもやる、とても性格のわるいやつ。変幻自在の軌道を描く弾幕による射撃戦を得意とし、相手の動きを絶妙に制限し、味方の攻撃の命中に協力する。タマモノマエとは相棒にして親友。戦法がどちらもサポート向きなので敵との正面からのぶつかり合いになると辛いが、互いをサポートし合うので意外とどうにかなっている。絵を描くことに関しては全く才能が無い。愛称は『ロキ』。

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厄祓い荒正し ep.1:でぃすがいず  その④

「これは……棘?」
油色をした針状の物体が、神様の泥に囚われて空中に止まっていた。
(かもなァー。さっきからブチ込まれてたのは、コイツだったわけだ)
火薬なんかを使うでもなく、こんなただの棘で、あれだけの破壊を発生させていたのか。やっぱり、ヒトならざるモノの仕業なんだろう。
棘を地面に放り捨て、角度からして棘の飛んできたのであろう方向に顔を向ける。
「既に移動しているとは思いますけど」
(アア、行ってみようゼ。痕跡の一つくらい残ってりゃ良いが)
崩れた廃墟の残骸の上に登り、棘の飛んできた方向を向いて大きく身体を沈み込ませる。
(オン? お前、身体の使い方が分かってるみたいじゃネーノ。神様は理解が早い神僕は好きだゼィ)
「そりゃ、さっきからお話の裏で『動かし方』の説明もしてくださってますし……」
(ィよっしゃ、ブッ飛ぶゼー)
足下の残骸を強く蹴り、斜め上前方に跳び上がる。瞬間、また棘に撃たれたけど、神様の泥が変形して受け止めてくれた。
「攻撃確認、角度調整お願いします」
(オウ任せろィ、足場は用意してやる)
神様の泥の余りが、空中で小さな円盤を形成する。そこに着地して、棘の飛んできた方向に向けて再び跳躍する。さっきまで留まっていたあの足場は、棘弾に撃ち砕かれた。
「また角度が変わりましたね」
(アア。だりィなァ……ちなみに、次に棘の来そうな位置なら読めてるが……どうするヨ?)
「当然」
空中に展開された泥の足場に着地して、腰元に手をやる。そこに神様の泥が集まり凝縮して、刀剣の形を取った。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その⑨

「あれ、誰だっけ?」
自身の頭上から顔を覗かせるタマモに、ロキが尋ねる。
「誰だったかなー……あ、思い出した。ガノの野郎だ」
「あー。助けに行く?」
「別に良いだろ。ダイジョブダイジョブ、あの程度の数なら何とかなるなる」
不意に、ガノとタマモの目が合う。
「あ! そこにいる2人! 見てないで手伝え!」
「いやァ、遠慮しときますよ。ほら、邪魔はしないんで、ガンバ」
「なっ、ふざけんなこの野郎!」
ガノはエベルソルの1体の突進を楯で受け止め、ライフル銃でその頭部を撃ち抜く。その隙に残りの3体に一斉に飛びかかられ、瞬く間に組み伏せられた。
「ぐあー⁉ マジで助けて! 死ぬ!」
助けを求めるガノのことは無視して、タマモはロキに目を向けた。
「……ロキ、じゃんけんしようぜ」
「何賭ける?」
「俺が勝ったらあいつのことは諦めよう。お前が勝ったら仕方ない、拾える命ってことで」
「分かった。チョキ出すね」
「おっと心理戦。『最初はグー』無しでいきなり『じゃんけんほい』で行くぞ」
「分かった」
「「じゃーんけーんほい」」
自分の出した『グー』を見つめ、大きく溜め息を吐き、タマモはガノに目を向けた。
「自分で言ったことだからなァ……おいガノ、土下座して頼めば助けてやるよ」
「テメエ、よく仰向けに倒されてる奴に土下座要求できるな⁉」
「冗談だよ冗談」
タマモとロキの光弾によって、ガノに群がっていたエベルソルらは全滅した。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その④

「仕方ないなァ。軟弱なお前のために、一度休憩するとしようか。畜生、まだ暴れ足りないってのに……」
もう1枚のパーカーを脱いで腰に巻きながらそうぼやく種枚に溜め息を吐き、鎌鼬は思い出したようにポケットから缶コーヒーを取り出し、栓を開けた。
(…………あ、師匠。また角生えてる……)
コーヒーを飲みながら、鎌鼬は苛立ちながらシャドウボクシングをする種枚の姿をぼんやりと眺めていた。彼女の額、両の眉の上には、頭蓋が内側から盛り上がったような短い角が生えており、また口の端は通常の倍ほども裂け、肉食獣のような牙が隙間から覗いていた。
(あの人、興奮が極まるとちょっと見た目が人間から外れるよなぁ……。俺なんかよりよっぽど生きてちゃマズいんでは?)
飲み切ったコーヒーの空き缶をどうしようか少し悩み、鎌鼬はそれを結局元のポケットに仕舞い直した。
「ンア。休憩は終わったかい?」
鎌鼬の動きを目敏く見とめ、種枚が振り返る。その全身からは濃い湯気が立ち上っていた。
「いや、もうちょいゆっくりさせてくださいよ……」
「チィ、つまらん」
「師匠、もう少し落ち着いてもらって……」
その時、重い衝撃音と振動が二人の下に届いた。
「ッ⁉ 師匠、今のって!」
音のした方向を反射的に見た後、鎌鼬はすぐに種枚の方に振り返る。彼女の表情は、鎌鼬の予想通り残虐に歪んでいた。
「今日会った奴、どいつもこいつも軽くて物足りなかったんだ」
そう言って瞬間移動並みの速度で音源に向けて駆けて行く種枚を、呆れたように溜め息を吐いて鎌鼬も追いかけた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その⑧

「ロキ、今何時だ?」
「16時半。そろそろ演奏会も終わりかな?」
再び市民会館正面に戻り、新たに出現したエベルソルの群れに対応しながら、タマモとロキは軽い口調で話していた。
「そッかー。それじゃ、お客が出てくるまでにもうちょい片付けとくかァ」
「あいあい」
応戦を続ける2人の下に、ぬぼ子が現れた。
「二人とも、さっきはありがとう。こっちはもう落ち着いたから手伝いに来たけど……平気そう?」
「あっ、姐さん」
「ぬぼさん。そんな事無いです、助けてください」
「はいはい。じゃあちょっと退いてね?」
ぬぼ子が前に出て、巨大なブロックを生成する。それを更に数十個に複製し、一斉にエベルソルらに叩き込む。コンクリートで舗装された歩道が質量と速度によって粉砕された代わりに、正面から襲い来る大群も1体残らず押し潰された。
「……なァぬぼ姐さんどうすンだこれ。帰りとかエグい歩きにきィぞ」
「いやぁ……その……とりあえずは私が描いて応急処置、かなぁ……」
「んじゃ、頼みますよ姐さん。俺らは絵なんか描けないんで、ヨソの後片付けに行きますからね」
「それじゃ、お疲れ様です。ぬぼさん、頑張ってください」
2人はぬぼ子に頭を下げ、他のリプリゼントルの持ち場に向かった。
多くの場所で、戦闘は既に終了しており、僅かに残ったエベルソルにも、余力を残したリプリゼントルが対処している。
「俺らは暇だなー……」
「ねー……」
彫刻の個展が開かれているとある展示室の前を通過しようとしたとき、2人の間をレーザー光線が通り抜けた。
「……何今の」
「……多分、この辺で戦ってる奴がいるんだろうなァ……」
展示室の陰から顔を覗かせると、ガラスペンで生成したライフル銃と大楯を装備したリプリゼントルが、4体のエベルソルと交戦していた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その⑥

(これ……間に合うか……?)
ブロックを生成しながらエベルソルらの後を追うぬぼ子の背中を見送りながら、ロキは周囲の様子を観察していた。
倒れた状態のエベルソルは絡み合ってすぐに動ける状態には無い。抜け出した2体は大ホールとの距離を10m以下に縮めている。後続の群れはすぐには到達しない。前回のぬぼ子の攻撃からの経過時間から予測するに、彼女はあと5秒程度、攻撃できない。まして、大質量の攻撃はエベルソルが建造物に接近し過ぎると巻き込む危険性から使えない。
(これは……ぬぼさんはギリギリアウトかー…………)
光弾を4発描き、エベルソルに2発ずつ撃ち込む。ソレらの脚に命中し、僅かに歩調が遅れるが、しかし歩みが止まることは無く、依然としてエベルソルらは突撃を続けている。
「…………うん。諦めよう」
ホールから目を離し、倒れたエベルソルの対処に向かう。
「ぬぼさんには、もうどうにもできない。私にも何もできない。だから」
ホールに向かっていたエベルソルの足が止まった。ホール屋上から響く電子音楽に注意を引かれたのだ。
「何とかできる人に何とかしてもらう」
「ロキィ! 何馬鹿やってンだ!」
カセットプレイヤーを高く掲げたタマモが、ホールの屋根から呼びかける。
「タマモならギリギリ間に合うかなー……って」
「俺があっちでガチってなかったら間に合ってなかったんだぞ?」
「ま、私達の芸術は破壊者には分かりにくいからね。1人になれば何とかなる気はしてた」
「コイツ……あ、ぬぼ姐さんオツです」
屋根を挟んで軽口を叩き合っていたタマモとロキだったが、不意にタマモが屋根から飛び降りながらぬぼ子に会釈した。
「タマくん。正面はもう大丈夫なんだ?」
「ええまあ。ウチの相棒が迷惑かけませんでした?」
「ううんー、むしろ助けられちゃったよ」
「ハハッ」
平坦に笑いながら、タマモはロキに近付いた。彼の持つカセットプレイヤーから流れる音楽に釣られて、エベルソルらもそれをゆっくりと追跡する。

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少年少女色彩都市 act 14

周囲の空間を覆っていたインキ製の暗闇と聖堂が、解けるように消滅していく。叶絵の生み出した空間が完全に消滅したところで、リプリゼントルの少女が近付いてきた。
少女は叶絵に一瞬目を向けたが、特に声を掛けるでもなく大鷲に近寄り、その羽毛を撫で回し始めた。
「おぉう……もふぁもふぁしてる。いきなり上半身乱造し出した時はちょっと心配したけど、こういうのも描けるんだね? あ、私のことは食べちゃダメだからね。そりゃエベルソルの匂いが染みついてるかもしれないけどさ……」
頭を下げてきた大鷲の嘴をさりげなく押し返しながら独り言を続ける少女だったが、不意にその手を放し、思い出したように叶絵の前に近付いた。
「あ…………」
「お疲れ、新入りちゃん。見事だったよ」
「え、あっはい」
返事も聞かずに叶絵の前から離れ、少女は和湯姉の前で立ち止まった。
「へいお姉さんよー。今日の事はちゃんと自分で偉い人に言うんだよ? 『エベルソル倒せなかったのでその場にいた民間人を強引に引き込んで事なきを得ましたー』って」
「なっ……見ているばかりで手伝わなかったそっちにも責任はあるでしょ!」
「えっその責任転嫁はなんか違くない? 私が悪いって言うなら発端はあれを倒せなかった弟の方じゃないの? 大丈夫? 処分いる? いや私もただのヒラ兵士なんだけど」
「ぐっ…………それは……」
(あれー? てきとーに並べただけの暴論に言い負かされないでー? まあ良いや)
言葉に詰まる和湯姉に首を傾げ、少女は3人から離れるように歩き出した。
「それじゃ、私は他にエベルソルが湧いてないか巡回してくるから、ばいばーい。まだお昼ぐらいの時間だし、残る今日を楽しんでおくれ。はぶぁないすでい!」

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厄祓い荒正し ep.1:でぃすがいず  その③

神様と並んで、すっかり廃村といった様子の集落跡地を駆け抜ける。
もう誰もいない個人商店の前を通り過ぎようとしたとき、その建物が弾けるように吹き飛んだ。咄嗟に半壊した民家の陰に飛び込んだけど、そこも爆散する。
「オォイオイ狙われてンぜェ? きっとさっき撃ってきたヤツだなァ」
神様は楽しそうに言いながらうごうごしている。こんな調子だけど私を庇うように立っているのには、まあ感謝の気持ちが無いわけでは無い。
「今の2発、位置を変えて撃ってきましたよね」
「だなァ。なかなか足が早いぜ。オマケにあの貫通力だ。…………ナァ我が神僕よ、ちょっとカッコイイやつ思い付いたンだけどよォ……やってみネ?」
「……何です?」
また近くの民家が弾け飛ぶ。あまり考えている余裕は無さそうだ。
「やりましょう」
「ヨシ来た」
神様が口と思われる顔の裂け目をニタリと歪め、一瞬全身を震わせてから液状化して地面に広がった。
「っ⁉ 神様⁉」
泥状の神様がうねうねと蠢く。どうやら生きてはいるらしい。そして神様の泥が、私の脚を伝って全身を包み込んだ。
(どォーおよコレェ? 神様の鎧だゼェ)
頭を包む泥の中で、神様の声が反響する。
「どろどろしてちょっと気持ち悪いです」
(フム……ソコはまあ、順番に改善していこーヤ)
泥の鎧が硬質化して、どろどろした不快感は無くなった。
(……しッかし我が神僕よ、オメー本ッ当に小柄だよなァ。身体が結構残った。マア、有効活用しようや)
「はい?」
足下にまだ残っていた泥溜まりが高速で伸び上がり、空中で何かを掴んだ。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その③

種枚・鎌鼬の二人は、この後も夜の町を高速で駆け抜けながら、目についた怪異たちを片端から狩り倒して回っていた。
種枚の駆ける速度は、人間はおろかあらゆる生物が発揮し得る移動速度を凌駕するほどのものであり、尚も加速を続ける彼女に、鎌鼬は異能を発動し続けてようやく食らいついているという有様だった。
「ちょ、ちょっと! マジで待ってください!」
道端に立っていた不気味な女の幽霊を真っ二つにした種枚に、鎌鼬はようやく声をかけた。
「ァン? どうした息子よ、もうバテたのかイ?」
「いや、当然でしょ……! 俺、〈鎌鼬第一陣〉発動中は全力疾走してるようなものなんスよ? むしろよく30分も保ってますよ……!」
〈鎌鼬第一陣〉とは、鎌鼬少年が種枚の手によって間接的に怪異を摂取したことで得た人外の異能である。
そもそも「鎌鼬」とは本来、3体1組で行動する怪異存在である。風のように駆ける3体の妖獣の第1体が対象を突き飛ばし、第2体が対象を切り裂き、第3体が薬を塗って止血することで、出血を伴わない切り傷を与えるというものなのだ。
鎌鼬の異能はこの第1体の力に由来し、風と化して空間内を自由に、高速で移動し、また接触した人間や動物、怪異などに接触を感じさせること無く転倒させるというものである。
この異能は体力を発動の代償としており、その消耗速度は、同じ距離を全力疾走しているのに等しい。
時おり立ち止まりながらとはいえ、異能の連続使用により、かなりの勢いで体力を消耗し続けていた鎌鼬が音を上げるのは、致し方ないことと言えた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その⑤

タマモが怒りに任せてエベルソルを蹂躙していた頃、ロキは他のリプリゼントルがエベルソルの群れと交戦しているのには見向きもせず、脇をすり抜け戦場の目標地点に向かっていた。時折自分の下に流れてくるエベルソルの個体に難儀しながらも、ロキはようやく目当ての場所に到着した。
「ぬぼさん!」
エベルソルに取り囲まれていた、サイバーパンク風の衣装を纏ったリプリゼントルの少女に呼びかける。
「え、あ、フ、フベ……」
「ロキで良いです」
「分かった、ロキちゃん、助けて!」
「まあ、はい」
変化弾をエベルソルに叩き込み、一度ぬぼ子からエベルソルの群れを引き剥がす。
「あ、ありがとう……」
「いえまあ、別に、はい。取り敢えず攻撃継続してください、溢れた分は私が整えます」
「助かるよ」
ぬぼ子はガラスペンの先を空中に置き、素早く直線を引く。するとその直線を対角線とする長方形が、地面と平行に生成された。更にガラスペンをそのまま真上に持ち上げると、先ほどの長方形を底辺とする直方体となる。
「次の音まで……3、2……」
ぬぼ子のカウントダウンの間、ロキが弾幕でエベルソルらを牽制する。
「ゼロ!」
ぬぼ子の宣言と同時に、巨大な直方体型のブロックが群れの中央に落下する。数体のエベルソルが押し潰されたが、他の個体は素早く回避し、前進を続けようとする。
そして、ロキが予め仕込んでいた変化弾に足をすくわれ、転倒した。それを堪えた個体も、倒れたエベルソルに足を取られて連鎖的に倒れ伏す。
「……あ」
「ん? ロキちゃん何……あっ!」
ブロック、変化弾の両方を回避したエベルソルが2体、2人の両脇をすり抜けてホールに向かったのだ。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その②

鎌鼬が種枚に追いついた頃、彼女は既にパーカーの1枚目を腰に巻き、今しがた狩ったばかりの怪異に齧りついているところだった。
「ン、遅かったなァ馬鹿息子よ」
「師匠が速過ぎるだけですから。っつーかなんで風の速さで移動できる俺より速いンスか」
「修行が足りてねーなー……まだまだ作業は残ってるんだぜィ?」
怪異の残骸を投げ捨て、種枚は再び駆け出した。
それを追おうとして異能を発動した鎌鼬の身体を、青白い無数の手がすり抜けた。
(ッ⁉ 風になってなきゃ危なかった……)
「おー、そっちに居たか!」
走り去っていたはずの種枚が瞬間移動と見紛うほどの速度で引き返し、腕の数本を勢いのままに引きちぎった。
「次の獲物はコイツだなァ!」
興奮したように吼え、回転しながら腕の群れに飛び込み、それらを1本残らず切り飛ばしてしまった。
「やー……やっぱすげえッスね。師匠の必殺技」
異能を解除して地面に下りてきた鎌鼬が、腕の残骸を見て苦笑しながら言った。
「シシシ、そうだろ。化け物共とやり合うために、私の知恵と身体能力の全てを注ぎ込んで考え出した技の数々だぜィ? すごくなきゃ困る」
鋭い牙を剥き出しにして笑い、種枚は答えた。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その①

とある満月の夜、午前1時過ぎ。送電鉄塔の上に立ち、種枚は街並みをぼんやりと見下ろしていた。
「師匠ぉー、可愛い弟子が部活疲れでしんどい身体をおして来ましたよぉ」
突風と共に背後から聞こえてきた声に振り向くと、防寒着に身を包んだ鎌鼬が立っていた。
「ようやく来たか、馬鹿息子」
「だからせめて弟子と呼んでくれって……」
不意に夜風が吹いて来て、鎌鼬は思わず屈み込んだ。
「うわ寒っみい」
「ハハハ、無糖のホットコーヒーで良ければくれてやろう」
種枚が放り投げてきた缶を受け取ったものの、その冷たさに鎌鼬は缶を取り落としかけた。
「めっちゃ冷たいンスけど⁉」
「そりゃ私が1時間くらい前にカイロ代わりに買ったやつだからねェ」
「それはもうホットと呼んじゃいけないやつッスよ……」
缶をそのままコートのポケットに入れ、再び立ち上がる。
「なァ息子よ、見えるかい?」
隣に立った鎌鼬に、種枚は眼下に広がる街の一か所を指差した。
「中央駅ッスね。……あ、消えた」
営業終了に伴い施設が消灯され、夜闇に紛れるその瞬間だった。
「これでいよいよ、この街も眠る時間だ。ここから先は、人間の領域外だぜ。今のうちに始末できるだけ始末していくぞ」
「ッス。……けど、なんで俺も行かなきゃならないんです? 眠いンスけど……」
「あァー? お前放っておくとすぐ心ブッ壊れるだろーが。私が見張っといてやらなくっちゃな」
鎌鼬の頭を乱雑に撫で、種枚は鉄塔を飛び降りた。鎌鼬も苦笑し、髪を直しながら異能を発動し、種枚の後を追った。

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少年少女色彩都市 act 11

叶絵は和湯姉から受け取ったガラスペンを構えエベルソルに相対したまま動きを止めていた。
(……そういえば、空中に絵を描くってどうやるの? あの魔法陣みたいなのとか……そもそも、あれを倒すって、何を描けば良いの……?)
叶絵が実際にインプットしたリプリゼントルの戦闘状況のサンプルは極めて少ない。そこに慣れ親しんだ現代科学とかけ離れた戦闘技術と、非日常へのパニックが加わり、思うように手が動かない。
ふと、エベルソルが一切自分たちに攻撃してこないことに気付き、敵の方を見る。その頭部には、先ほどのリプリゼントルの少女が胡坐をかいて3人を、否、叶絵を見下ろしていた。
「……あ、私のことは気にしなくて良いよ。君たちの戦いには手を出さないから」
にかっ、と笑い、少女が叶絵に言う。
「けどそのお姉さんもひどいよねぇ。何も知らない女の子を無理くり戦場に引きずり出すなんて……君が何の才能も無い無産なら詰んでたよ、ねー?」
蛾のエベルソルに同意を促すが、エベルソルは何も反応せず脚をばたつかせるだけであった。
「……まぁ、せっかく才能と道具、両方あるんだ。頑張れ若者、くりえいてぃびてぃに任せて好きに暴れな」
少女にサムズアップを示され、叶絵は一度瞑目して深呼吸をしてから、再び目を開いた。
ガラスペンを目の前の虚空に置く。ペン先の溝を無から生み出されたインキが満たし、目の前に同心円と曲線が組み合わさったような魔法陣が、殆ど無意識的に描き出された。
意を決してそれを通り抜けると、寝間着姿から一変してピンクと白のパステルチックなワンピース風の衣装を纏った姿に変身していた。
更にガラスペンをエベルソルに向けると、空間を暗闇に塗り替えるようにどす黒いインキの奔流が周囲を覆い尽くす。
「うっわマガマガしー。どんな生き方してたら『可愛い』と『邪悪』があの同居の仕方するんだろうね? まあ新入りちゃんの『芸術』、見せてもらおうじゃないの」
けらけらと笑いながら、少女はエベルソルから飛び退いた。

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少年少女色彩都市 Act10

女性は叶絵と典礼に曖昧に微笑むと、懐からガラスペンを取り出す。蛾のエベルソルは耳をつんざくような奇声をあげてその無数の足を動かし、こちらにすごい勢いで迫ってきた。
「ひっ…」
後ずさる叶絵の腕を引いて、典礼が場を離れる。女性は幾何学模様を書きあげた。
「んと…和湯、くん?」
「典礼でいい。立って」
蛾は女性の書いた幾何学模様の盾に突っ込み、煩わしそうに暴れて、10秒と経たない内に盾を壊してしまった。女性は典礼たちのもとに駆け寄る。そのまま三人で逃げ出す。
「やっぱりだめ…昔はできたのに」
「え、あの」
混乱する叶絵が困った顔で女性を見つめると、彼女は寂し気に微笑んだ。
「私、リプリゼントルの才能が消えかけてるの。昔は典礼よりも強かったのに」
「ちょっと!余計なこと言うなよ!」
「だってあんた燃費悪いじゃない!すぐ疲れるし、一日に何回も変身できないでしょ」
両脇で姉弟喧嘩が始まってしまい、気まずくなって叶絵は俯いた。
「あ、そうだ!あなた、私のお古で良ければ使ってみない?」
「…えっ!?わた、私ですか!?」
「そう!得意なことはある?」
「得意なこと…」
叶絵の得意なこと。
「…絵、を描くこと…」
女性は満足気に笑った。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その④

ロキは大ホールを挟んだ反対側の戦場に駆け出し、タマモは一歩前に踏み出した。
「ヘイ、エベ公! こっから先はちょいと俺一人で相手させてもらおうか。防げるモンなら防いでみろや俺の弾幕!」
光弾の密度を上げ、一人エベルソルに対抗する。しかしタマモの弾幕は直接的な軌道であり、ロキのように多角的に群れを抑え込むことはできず、少しずつ範囲外からホールに近付く個体が出る。
「あ、オイ待てい! なんで無視した⁉ (F Word)! 5秒後を覚悟しろォ!」
一度、ホールに向かったエベルソルからは目を離し、前方の群れに集中する。
「畜生が、テメエら5秒で全滅しろッ!」
タマモの弾幕が一瞬、『減速』する。リズミカルに射出される光弾に対応していたエベルソルらの防御行動は空を切り、光弾ががら空きの急所を的確に貫通し、次々と撃破していく。
態勢の崩れた群れに、駄目押しに急加速させた光弾を更に叩き込み、宣言通り僅か5秒ほどで群れを全滅させた。その残骸の向こう約数十m、新たなエベルソルの大群が近付いてきているのが見えたが、そちらは放置して足下のカセットプレイヤー片手に、ホールに向かって行ったエベルソルに駆け寄る。
「ヘイ! 文明冒涜エベ野郎共! 何故俺を無視しやがった!」
エベルソル達はタマモの声を無視して僅かに音漏れする大ホールに向かっている。
「こンの分からず屋共が……! 絵具か音符の塊だけがテメエらにとっての『芸術』か……?」
足をさらに速め、1体のエベルソルに接近する。
「ちげェだろうがァ!」
そのままカセットプレイヤーを振り抜いて殴りつけ、その頭部を地面に沈めた。しかしエベルソルもすぐにタマモを睨み返す。
「よーやくこっち向いたな生ゴミ……」
再びカセットプレイヤーを振り上げ、重力加速度も乗せてエベルソルに叩きつける。
「良いか、無知無教養のエベルソル共! 『芸術』とは! 人間が生み出した、感情を震わせる全てだ! 語彙・論理・リズム・環境・あるもの全部使って、人心を動かす『扇動』は!」
まくし立てながら、ガラスペンで直径10㎝近くの大型光弾を複数描き。
「十分『芸術』だろうがアッ!」
超高速でエベルソルに叩き込む。防御のしようも無く全身あらゆる部位を撃ち抜かれ、エベルソルは一度痙攣してから動かなくなった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その③

タマモの放つ弾幕が、正面から広範にエベルソルを捉え、回避しようと更に広がろうとする群れを、ロキの変化光弾が横からちくちくと突き、少しずつ一塊にまとめていく。
「……流石に180ぽっちじゃ対応されてくるな。200くらいに上げて良いか?」
「好きにして良いよ。私がタマモに合わせられないと思う?」
「あー……そうだな、信頼が足りなかった。じゃ、202くらいで」
タマモの放つ弾幕の間隔が更に早まる。それまで弾速に慣れて防御行動を取るようになっていたエベルソルらは、突然のリズムの変化に対応できず、再び被弾し始めた。
「…………ところで」
「何?」
「ここでタマモノマエの豆知識たーいむ」
「わーぱちぱちぱち」
「今、裏で聞こえてるこの破壊音ですが」
タマモの言葉の直後、ホールの裏から重量物が落下する重低音が響いた。
「ああ、【モデラー】ぬぼ子さんの」
「そうそうあの人。あの人がこの間出した動画見たか?」
「まだ見てなーい」
「そっかァ……あいやそれはどうでも良いんだが。あの人、攻撃のタイミングを中の演奏と合わせてるらしいぜ。何か、デカい打楽器と合わせてるんだと」
「ティンパニ?」
「いや俺あんま楽器とか知らねーし……」
「……器用だねぇ」
再び、落下音が聞こえてくる。音楽と異なるとはいえ芸術の才を持つ二人だったためか、その音を聞いた瞬間、同時に同じことを考えた。
((今、ズレたな))
「……ねぇ、タマモ?」
「分かってる。『頼む』なよ? 俺らはそういうのじゃねえだろ」
「うん。じゃあちょっと行ってくるから」
「うい任せろ。お前が帰ってくるまでくらいはもたせてやるよ」
「全部倒しても良いよ」

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少年少女色彩都市 Act 9

少女がヘドロのエベルソルを倒した頃、叶絵は倒れた肉塊エベルソルを前に少年と話していた。
「…えーと、つまり、リプリゼントルの力で作り出した特別なバイオリンを奏でることで、エベルソルに作用する特別な音波を出して倒した、と」
叶絵がそう言うと、少年はまぁそんな所と返す。
「どんな形であれ、エベルソルはリプリゼントルの“創造力”に弱いからね」
“創造力”で作り出したもので“創造力”を叩き込めば自然とエベルソルは倒れる、と少年は続ける。
「それにこのぼく、和湯 典礼(わゆ てんれい)のようなレベルになれば…」
少年がそう言いかけた所で、不意に彼は言葉を止める。何か気配を感じたのか少年は後ろを振り向いた。叶絵もつられて少年が見た方を見る。
見ると少年が先程倒したエベルソルの表皮に裂け目が入り、中から白い無数の脚を持つ蛾のような何かが姿を現した。
「なっ…!」
第二形態、だと…⁈と少年こと典礼は動揺する。蛾のようなエベルソルは翅を広げると口から火球を叶絵たちに吐き出した。
「⁈」
想定外の事態に2人は動けず、このままエベルソルの攻撃を喰らうかに思えた。しかし、2人の後ろから誰かが走ってくる音が聞こえたかと思うと、叶絵と典礼は後ろから押し倒されるように伏せさせられた。
「!」
無理やり伏せられた叶絵が顔を上げると、黒い背広姿の若い女が叶絵と典礼に覆い被さっていた。
「…あなたは」
叶絵は思わずそう呟くが、典礼は自分を突き倒した女を見て目を丸くする。
「姉さん⁈」

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厄祓い荒正し Ep.1:でぃすがいず その②

「イヤハヤ全く、人間サマの信仰心のお陰でこっちは力ァ貰ってンだ。どっちが偉いか、言うまでも無ェやね」
「どうしました突然に」
「イヤァー? 別にィー?」
「何か腹立たしいなこの御祭神……」
「ンな事よか、もう一杯くれねェかい?」
「駄目です。貴重なお神酒なんですから大事に呑まないと。ほら、せっかく出てきたんですから、仕事してもらいますよ」
「しゃーねェや。我が愛しき神僕に手ェ貸してやるかィ」
本殿を出ると、すっかり荒廃しきった神社の敷地の様子が目に飛び込んできた。何度見ても、この景色には気分が落ち込む。
崩れた石灯籠、倒れた狛犬、片方の柱が折れた鳥居、注連縄が千切れ縦に割けた神木。
「ッたく、何度見ても酷ェよなァー。神社は大事にするモンだって習わなかったのかねィ?」
「妖怪がそんな教育受けているわけは無いのです」
「そッかー……。さて、今日はどッから『直して』いこうかね?」
神様はゴキゴキと音を鳴らしながら首を伸ばし、辺りを見回し始めた。どうせ荒廃しきった風景しか見えないだろうに……。
「ごぶっ」
突然、神様が変な呻き声をあげて、伸ばした首が大きく反って頭を地面に打ち付けた。
「神様⁉」
「痛ッてェ……狙い撃たれたゼィ畜生めが」
「方角は」
「アッチ」
神様は北西の方を指差した。
「では、今日はあちらを『直して』いきましょう」
「オウ」