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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その④

少女が固く抱きしめるテディベアの右腕が、ビーストを捕捉する。それと同時に、ビーストは少女から距離を取るように跳躍した。高速で伸長したテディベアの腕が、いち早く回避行動を取っていたビーストの脇を通り過ぎ、元の長さに縮んでいく。
そして、テディベアの腕が完全に縮み切ったと同時に、ビーストの背後にもう1人、ビーストの正面でテディベアを抱えているのと『全く同じ外見の』少女が、虚空から出現した。
突然の事態に対応する前に、その少女は身体強化を乗せた拳を直撃させ、ビーストを遥か下方の地面に叩きつけた。
少女は短距離転移によって尖塔の上に移動し、自身と同じ姿の少女に抱き着く。
「ササ、クマ座さん貸してくれてありがとう」
抱き着かれた側が、テディベアを抱き着いた側、“ドーリィ”ササに差し出す。
「ありがと、サヤ。私もこれ、返すね」
ササも腰にリボンで結い留めていた『クマ座さん』に瓜二つのテディベアを“マスター”サヤに差し出した。
テディベアの交換を終えた2人は、屋根の端から顔を覗かせビーストの様子を見ることにした。地面に叩きつけられ、相当のダメージを受けたはずの怪物は、しかして大したダメージを受けた様子は無く、起き上がって上方の2人を眼の無い顔で睨みつけている。
「ササぁ……あんまり効いてないよ……」
「だ、大丈夫だよサヤ……クマ座さんの攻撃は1回当たって腕を片方切れたし、私のパンチもちゃんと命中したし……」
顔を見合わせて話す2人の耳に、石材を突き砕く激しく断続的な音が入ってくる。
「「?」」
再び見下ろすと、ビーストが壁面を駆け上ってきている。
「ぴゃあぁっ!?」
「に、にげ、にげようサヤ!」
ササはサヤを抱き締め、そのままビーストの向かってくるのと反対側に屋根を転げ落ちる。端に転がっていた何者かの指に触れると同時に、2人の身体は空間歪曲に飲み込まれ、そこから数十m離れた廃墟の陰に転がり出た。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑧

防御に使っていた右腕が、遂に限界を迎えた。7発目を弾いたのと同時に、爆風が右の手首から先を消し飛ばした。
「あっまずっ」
撃ち落とさなきゃならない弾はまだまだあるってのに……。
もう1度、あいつの方を見る。距離は…………十分かな?
「なら、いっか……」
頭が生体ミサイルに貫かれ、衝撃で弾け飛ぶ。脳を破壊されたことで、一瞬意識が薄れ、反動のままにその場に落下する。
「……ぅー…………」
家の方からガラガラと崩れる音。目を向けると、ビーストがこっちに近付いて来ていた。見てみると前脚だけじゃなく、頭もほとんど再生してきている。あいつの家を随分喰って回復したみたいだ。
目が合った。彼我の距離約3m。3対6つの眼が、私を見下ろしている。
「ぁー……うー……そうだな…………」
生憎とこちらは片方しか眼が残っていないけど、しっかりと睨み返してやる。
「くたばりやがれ、ばーか」
奴が片方の前脚を持ち上げ、私に向けて振り下ろす。全身が潰される直線、私の身体はぐいと引っ張られ、辛うじて抜け出すことができた。
「誰……?」
「俺ぇ」
私を助けてくれたのは、ついさっき逃がしたはずのケーパだった。
「はぇ……え、なんで⁉」
「いやだって、お前死にそうだったし……」
「ドーリィが死ぬわけ無いんだけど⁉ むしろあんたの方が……もう良いや。私のことしっかり摑まえといて」
「え、わ、分かった」
瞬間移動。ビーストの視界から外れない程度に1度距離を取る。ヤツはすぐに私達を見つけて、バタバタとこっちに突進してきた。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その③

「えっいや別にいらな……いや、まあ、うん……ありがと……」
少女はしばしの逡巡の末にハルパの差し出したパンを受け取り、ちまちまと齧り始めた。
『うわすっごい頑丈な歯ごたえ……そういえば聞いてよハルパちゃん』
不意に少女から発信された念話に、ハルパは顔を彼女の方に向けて反応する。
『うちのマスターがだらしなくってさぁ。今朝だって全然起きなくって、大体あれは昨日マスターが……』
少女の愚痴をニタニタとしながら聞いていると、入り口扉が開いた。そこに立っていたのは少女の“マスター”である20代後半ほどの男性だった。ハルパは立ち上がって彼に接近し、パンの片割れをやや萎縮しているその男性の手に置き、再び折り畳み椅子の上に戻って少女に視線を送った。
『……え、何。嫌だよマスターがいる前で話す内容じゃないじゃんさすがに……』
少女の念話にハルパは首を傾げ、壁掛け時計を注視し始めた。しばらくするうちに、室内にはドーリィやそのマスター、対策課職員などが増えていき、やがて9時の時報が鳴り響いた。
ハルパは椅子から飛び降り、責任者のデスク前までにじり寄った。
「うおっ……ハルパか」
そこに掛けていた痩せ型の中年男性は、普段通りの不気味な笑みを口元に浮かべたハルパにたじろぎながらも、冷静にクリップボードを差し出した。そこに挟まれた資料を1枚ずつ確認し、やがてハルパは1枚を取り出して男性に見せた。
「ああ、そこか。その辺りは人口も多いからな。ビーストの出現事例も多いし、頼むぞ」
ハルパは口角を更に歪に吊り上げ、軽く頷いて窓から外に飛び出した。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑦

まず片足を地面に下ろす。その足を軸に回転し、ビーストの生体ミサイルが完全に貫通するより早く、背後のケーパのことを強く突き飛ばす。直後、身体に突き刺さっていたミサイルたちが一斉に爆発しながら私の全身を貫き破壊する。
「あぐぅ…………っ!」
急所は生きてる。けど、両脚は捥げたし、左腕も使えなくなったし、お腹にも結構な大穴が開いた。大分ピンチかもしれない。時間をかければ治せるけど、ケーパがいるのに時間をかけてる余裕なんて無い。
「っ……けーちゃん!」
「ぐぇっ……けほっ……な、何だよ?」
「ごめん、ちょっと守れそうにない! 逃げて! 私だけなら死なないから!」
「わ、分かった! 悪い、死なないでくれよ!」
「そこは大丈夫……」
近くじゃヤツの破片の回収作業が進んでたはずだから、多分すぐに増援は来るはず。幸運なことに右腕はまだ使えるし、既に回復効果は効き始めている。最低限両脚さえ使えるようになれば問題無い。
ビーストの方を見ると、次の生体ミサイルの発射準備態勢を整えていた。
「……さあ来い」
再びミサイルが発射される。まず瞬間移動し、1発を拳で叩き落とす。再び転移し、別のミサイルを打ち払う。再び繰り返す。再び。1回ごとに手が少しずつ壊れていくけど、問題無い。あいつに、ケーパにさえ当たらなければ、それで良い。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その①

ビーストの出現に市民が逃げ惑う中、少女はただ1人、怪物に向けて迷い無く突き進んでいた。
「……チッ、『あれ』じゃないのか。まあ良いや」
少女は肩に担いでいた片手剣を、九頭竜のような外見のビーストに突き付けた。
「どうせビーストには変わりないんだ。人類の敵が。ブチ殺してやる!」
手の中の小さな球体を地面に叩きつける。すると、そこから白煙が広がり、辺りを覆い隠した。その中に紛れて、少女はビーストの背後に回り、斬りつけようとする。その横合いから、ビーストの首の一つが彼女を轢き飛ばした。少女はそれを剣で受け、辛うじて受け身を取る。
「くそっ……重い。流石に全方位警戒してるか……」
肩掛け鞄から手榴弾を取り出し、離れた場所に投擲する。ビーストがそちらに注意を向ける気配を感じながら、それとは反対側に回り込み、再び斬りつける。その攻撃は見事、ビーストの胴体に命中したものの、厚く硬い鱗に阻まれ、有効打とはならなかった。
「クソ、硬った……あっまずっ」
脇腹にビーストの尾が叩きつけられ、弾き飛ばされる。直接的なダメージに加え、建物の壁に全身を強く打ち付け、衝撃で呼吸が止まる。
(っ…………クソッ、身体が動かない…………痛覚が邪魔だな……)
ビーストがにじり寄ってくるのを、流血で潰れかけた目で睨み返しながら、少女は力の入らない腕を地面につき、立ち上がろうと苦心する。
ビーストの首の1つが少女に向けて伸びてきたその時、彼女の背中を何者かが軽く叩いた。ビーストの攻撃が命中する直前、少女の身体は数m離れた地点に瞬間移動していた。
「…………やっ……と、来たか……遅いんだよ……」
「あなたがせっかち過ぎるだけですぅー。まったく、勝手に私の武器持っていったでしょ」
言い返しながら少女を助け起こしたのは、彼女とおおよそ同じ体格の、紅白の防寒着に身を包んだ緑髪のドーリィだった。
「まあ良いや……ビーストだ。私追い求めていたヤツとは違うけど、せっかくだから」
少女の差し出した右手に、ドーリィが左手を叩き合わせる。
「手ぇ貸せ、相棒」
「手といわず、いくらでも。キリちゃん」

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その②

朝7時過ぎ、役場に出勤してきた若い男性職員がふと見上げると、見慣れたドーリィが2階の対ビースト対策課に当たる窓に貼り付いてじっとしているのが目に入った。
「………………おーい」
男性に声を掛けられ、ハルパは首だけを回して顔を見下ろした。男性が役場の鍵を掲げ持っていることに気付き、即座に地面に飛び降りる。衝撃を殺すために大きく身体を曲げた姿勢のまま、男性を黙って見上げると、男性は溜め息を吐いて正面玄関を開錠し、中に入っていった。ハルパもその後に続き、2階の『対ビースト対策課』と書かれた扉の前に座り込み、先刻パン屋の女性にもらった堅パンを眺め始めた。
30分ほどして、ハルパの前に1人の少女が現れた。そちらに片目だけを回して姿を確認すると、少女は肩を跳ねさせて数歩後退し、扉に後頭部を打ち付けた。
「び、びっくりした……ハルパちゃん何してるの?」
ハルパは首を傾げ、手の中のパンを高々と掲げてみせた。
「……え、パン? なんで? 食べないの?」
「…………」
ニタリと笑うハルパに困惑しながらも、少女は短距離転移で扉の内側に入り、内側から鍵を開けた。
「と、取り敢えずハルパちゃんも入ったら?」
ハルパは緩慢な動作で立ち上がり、1歩大股に室内に進み入った。
部屋の隅に立てかけられていた折り畳み椅子を開き、その上に膝を抱えて座るハルパに、少女は恐る恐る声を掛ける。
「ハルパちゃん?」
「……?」
ハルパは牙を剥き出しにした笑顔を少女に向けて首を傾げる。
「いやこわぁ……は、ハルパちゃん、パンが何なのかは知ってるんだよね?」
少女の言葉にハルパは持っていた今まさに眺めていたパンを見つめ直し、こきん、と首を鳴らし、徐にそれを2つに千切って片方を少女に差し出した。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その③

そのビーストは、崩れかけの尖塔に狙いを定め、更に加速する。素早く駆け上がり、頂上で全周に注意を払う。ソレは眼球を持たない代わりに、皮膚全体が視覚に相当する情報を取り入れている。『皮膚全体』が目であるに等しいその感覚能力と、その情報量に耐え得る処理能力を最大限活用し、僅かな不信の動作も見逃すまいと注意を払う。更に並行して、ソレの脳の一部は敵対存在の分析を続けていた。
少女がこれまで、ソレに攻撃を放ったのは初撃含めて3回。アプローチの総数が32度であるのに対して1割にも満たない、極めて低い頻度である。
それら1つ1つの事例を鮮明に想起しながら、パターンを探す。
出現場所、出現位置、脅かす言い回し、構え。決して多くは無いサンプル数を反芻しながら約1分。不意に、彼の取り込む視覚情報に動きが確認された。
自身の立つ尖塔の下を見ると、件の少女がとぼとぼとした足取りで入り口をくぐるところだった。ビーストの全身に、緊張が走る。右手の拳を強く握り、尾は脱力しながらも鞭のように俊敏にしならせ、攻撃の準備を整える。
視覚を研ぎ澄ませ、引き続き周囲を監視していると、ソレの背後、尖塔の屋根の端に、幼い手の指がかかるのが見えた。
瞬間、刺突とも呼べるほどの速度で尾による『点』の打撃を放ち、手の周囲の建材ごと吹き飛ばす。破片が飛び散り、手は支えを失い落下していく。
その時、そのビーストの視覚能力は、飛ぶ破片の中に不自然な物体を発見した。
『指』。人間の手のそれに近い形状ではあるものの、先程交戦していた少女のものとするにはやや長すぎるそれ。この場に存在するにはやや不自然すぎるそれ。その理由を解き明かそうとするソレの『視界』に、空間の僅かな歪みが映った。その起点は、例の『指』。そしてそこから、桃色のテディベアを抱えた少女が現れた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑥

ヤツが家の残骸からのっそりと這い出してくる。まずは軽いドロップキックを仕掛けて、一度反発で数m距離を取り、向こうの動きを見る。契約なしの私には大したことはできないから、あまり不用意なことはできないけど……。
ヤツのことを注意して見ていると、さっき生えてきた両腕の表面がうぞうぞと動き、瞼が開くように複数個の穴が開いた。中身は眼球じゃない、むしろ……。
「ッ⁉」
咄嗟に背後、ケーパのいる場所を確認する。今いるのは、私の真後ろ約20m。問題無いはず。首と心臓を腕で庇った直後、その『目』の中身が、ミサイルのように一斉に射出された。
生体ミサイルは滅茶苦茶な弾道で大体こっちに飛んできている。弾速はなかなかのものだけど、直線軌道じゃないから回避する余裕は十分…………
「……なっ……!」
ミサイルのうちいくつかは、私の横や上を通過していった。この先にいるものといえば。
「けーちゃん!」
あいつの目の前に瞬間移動し、身体で受け止めた。
けど、受けてみて分かった。これは駄目だ。
威力が、貫通力が高すぎる。
体内を、まるで何の障害も無いかのように掘り進む感触。それでも着弾の瞬間の衝撃で、体内で破裂する感触。それらが加速した走馬灯の思考にスローモーションのように襲ってくる。
せっかく私が盾になったのに、これじゃまるで無意味じゃないか。それどころか、爆発のせいで受けなかった時以上に守りにくくなってしまっている。
こうなると、多少の無理でもするしか無い。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その①

ある朝ハルパが目覚めると、屋根の上を寝床にしていた家屋の隣家が燃え崩れていた。熟睡中だったためにそうなった経緯の分からないハルパはそちらへ意識を割くことを止め、一つ欠伸をしてから大きく伸びをして、手の中に1本の黒槍を生成した。“ドーリィ”である彼女の固有武器である。
魔法によって穂先を鉤爪状に変形させ、伸長・変形によって数m下方の地面を掴み、収縮の勢いを利用して地面に下り立つ。武器を一度消し、まだ人通りの無い早朝の通りを何とは無しに歩いていると、1つの建物の扉が開き、ふくよかな中年女性が現れた。
「あらぁ、ハルパちゃん、おはよう」
女性に挨拶され、ハルパは鋭い牙の並ぶ口をニタリと歪め、細い首をかくん、と傾げてみせた。ともすれば不気味とも捉えられるその仕草も、彼女をよく知る町の人間にとっては可愛らしい彼女なりの挨拶である。女性は柔らかく笑い、1度屋内に引き返してからバスケットを1つ提げてハルパの前に戻って来た。
「………………?」
背中を大きく丸めてバスケットに顔を近付け、匂いを嗅ごうと鼻をひくつかせるハルパに、女性はその中身を差し出した。
「ハルパちゃん、お腹空いてない? 朝ご飯はしっかり食べないと力出ないんだから、しっかりお食べ。これはあげるから」
女性が差し出したのは、ドライフルーツの練り込まれたやや堅い出来のパンだった。ハルパは呆然としてそれを受け取り、しばらく様々な角度から眺めてから、女性に深々と頭を下げて彼女と別れた。
そのまま通りを歩き続け、立ち止まったのは、町役場の前だった。時間帯のために施錠された扉を何度か乱暴に叩き、誰も出てこないことに気付いたハルパは、小首を傾げて数秒思案し、壁面の僅かな凹凸を手掛かりに登攀を開始した。

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魔法をあなたに その⑫

倒れて動かない【フォーリーヴス】にフヨフヨと近寄る。
『キシシッ、死んだか? 死んでねェよなァ。テメエがあんな一撃程度で死ぬワケ無ェ』
呼吸しているのは見て取れる。今度は怪物の方に目をやる。
『だからよォ、ホレ、さっさと踏み潰しちまえヨ。こんなヤツでも貴重なパワーソースなンだよ』
怪物が近付いてくる。そして、拳を大きく振り上げ、【フォーリーヴス】の頭目掛けて振り下ろしたところで、その動きが止まった。
『…………ァ? 何だ? 【フォーリーヴス】のバリアじゃねェな』
怪物の全身をチェックすると、ようやく理解できた。ヤツの持ち上げた右腕に、黒くて細い糸みてェな何かが絡みついて、動きを止めている。ドコから伸びてる? 糸を目で追ってみると、ソレは怪物の足下から…………。
『イヤ、違げェ。“影”ダ』
影が糸状に伸びてきているんだ。そして、これほどの強度を持っている。ドコの魔法少女だ?
「君、どこの魔法少女ちゃん? 見たことない顔だけど……」
『誰ダ?』
声のした方を見る。駐車場に等間隔に並ぶエリア表示の標識の上に、黒いワンピース姿の魔法少女が腰掛けている。
「でもまあ、よく私達が来るまで持ち堪えたね。ありがと」
……“達”、ダト?
急に嫌な予感がして、怪物の方を見る。それと同時に、地面から現れた巨大な犬のバケモノが、あの怪物に食いついて障壁に叩きつけた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑤

投げ出されたビーストは、首をじたばたさせながら口の中のものを飲み込んだ。それに伴うように、前脚部分に対応する焼けた瘡蓋が剥がれ、地面に落ちる。ヤツはそれも喰らい、結果として露わになった傷口から勢いよく1対の腕が生えてきた。
「ん……生えたね、腕」
「ってことは、向こうの攻撃力が復活したわけだな」
「それだけじゃないよ」
あいつを抱えて、真上に跳躍する。同時に、ビーストがすごいスピードで突っ込んできた。ヤツは私達の真下を通過して、けーちゃん……ケーパの家に頭から突き刺さる。
「あ、あの野郎また俺の家を!」
「台所だけじゃなく食卓まで壊す気かぁ!」
「いやそんなミクロな視点でキレられても」
「とりあえず……っと」
着地。ケーパもいるから膝と腰を深く曲げて衝撃はしっかり殺す。
「けーちゃん無事? 身体痛まない?」
「あぁ無事。取り敢えず行ってこい、フィスタ」
「…………」
あいつの脇腹を少し強く小突く。
「痛って」
「そう呼ぶなって言ってんでしょーが」
「いや今言ってる場合じゃ……ごめんって」
「それじゃ、私の勝利を祈って待て」
「おう」
あいつと拳を突き合わせ、化け物に向けて飛ぶように突っ込んだ。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その②

ビーストは目の前の壁を尾の打撃によって粉砕しながら、直線移動で建造物の反対側まで駆け抜け、勢いのままに壁を破壊して屋外へ飛び出す。そのまま向かいに建つ廃墟の壁に着地し、足に生えた鋭い鉤爪を突き立てながらその屋根まで駆け上がる。
その様子を、ビーストが開けた穴から見届けていた少女は、しばらく顎に手を当てて思案してから、その場を後にした。
それについて知る由もないビーストは、屋根も上を軽々と跳躍移動しながら、より高い場所を目指していた。
走り、そして跳びながら、ビーストは思考していた。
あの少女、外見上はまだ齢十にも届かないであろう小さくか弱い生き物は、物陰から顔を出しては、まるで子供同士が脅かし合うような軽い口調と構えで脅かしてくる。それだけであればビーストであるソレにとっては、何の脅威にもならない。
しかし。
ビーストの失われた左腕の傷が鈍く痛む。
最初に遭遇した時も、あの少女は軽く脅かすように物陰から現れた。ビーストの存在意義は人類とその文明の破壊にある。それ故に、生物学的本能として、ソレは左の拳を振るった。振るおうとした。瞬間、彼女の抱いていた桃色のテディベアが牙を剥き出しにして笑い、操り人形よろしく少女が持ち上げていた片手が巨大化・伸長し、先端に具わった鋭い爪が、ビーストの左腕を引き裂き破壊したのだ。
そして気付いた。彼女の襟元、左の鎖骨の上、衣服の下に隠れて見えにくくなっていた場所に、獣の爪を模したような文様が浮かんでいることに。
少女は“ドーリィ”であった。そのことに気付き、距離を取る。ソレは“ビースト”の中でもひときわ小さく、近接戦闘のみに特化した肉体構造で、『伸びる攻撃』との戦闘には不向きである。そして、少女本人との体格差。自分に対して少女はあまりにも小さく、少女に対して自分はあまりにも大きすぎる。それ故に、ソレの有効射程の『内側』に滑り込まれれば、攻撃は逆に届かない。相手の射程の『更に外』に出ることが、最適解だと判断したのである。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その①

廃墟群の中を、1つの影が走っていた。
背の丈は大柄な成人男性程度。やや筋肉質な体つきをしたソレは、しかしてたとえ遠目から見ようとも人間では無いと分かるような特長を有していた。
最も明確な特徴は、長く太く平たい、ある種のサンショウウオが具えているような尾である。その他にも、頭部は大型爬虫類のような顎以外のパーツを持たず、皮膚全体は粘液に覆われてぬらぬらと光っている。
付け根から切断された左腕の傷口を水かきのついた右手で押さえながら、尾でバランスを取りつつ器用に全力疾走を続けるその影、“ビースト”は、どす黒い血痕を足跡のように垂らしながら、一心不乱に駆け続けていた。
“逃走”のためではない。生体「兵器」とはいえ、ビーストは1つの生命体である。1つの明確な意志を持って、ソレは駆け続けている。
“追跡”のためではない。ソレはたしかに戦闘の只中にあるが、敵対存在を追っているわけでは無い。敵はソレから逃げているわけでは無く、追っているでも無く、敢えて表現するのであれば、“隠れて”いる。しかし、発見しようという意志も無い。
そのビーストが求めていたのは、“状況の打開”。現在地はソレにとってあまりにも不利で、敵にとってあまりにも有利な環境だった。
がらり、と左前方から瓦礫の崩れるような音が聞こえてくる。反射的に、音から離れるように後方に跳躍し、右腕を戦闘のために構える。その時だった。
「わっ」
近くの物陰から現れた少女が、脅かすように声を上げ飛び出してきた。そちらに尾を叩きつけるが、少女は既に身を伏せ、その場から消えている。
ビーストがよろめくように少女の現れた物陰から離れると、ソレの頭部ほどの高さを通っていた剥き出しの配管にぶら下がった先程の少女が、テディベアを抱えた両手をソレに向けて突き出した。
「ばぁっ」
ビーストは咄嗟に大きく跳躍し、手近な廃墟の2階、その割れた窓から屋内に飛び込んだ。少女は配管からぼとり、と落下し、その後を追って1階から建物に侵入する。

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「円環魔術師録」達による他作品所見 2

リンネ「で、『人工精霊は魔力の塊』ってところなんだけど...すごいねぇこれ。魔力の実体化でしょ?
錬成者は未来人か何か?」
ミル「魔力の実体化...魔力は目に見えないし、魔力単体で出すことはできないから、そもそも無いんじゃないか、なんて言う学者さんも居ましたね。」
リンネ「一応、魔力によって魔術や魔法を行使してる、というのが現段階での有力説だね。あと、この地名だけど...なんて読むんだろうこれ。東方の国かな?ミル君、君の出身この辺でしょ読んで。」
ミル「無理ですよ!そもそも混血だし、物心ついたときには帝国の孤児院ですよ!そんな無茶苦茶な!」
リンネ「そっかぁ、じゃあやたろう、読んで。」
ミル「もう帰りました!」
リンネ「酷いなぁもう。まぁ良いや。あと、『異能』と言うのは魔術や魔法とは別物なのかな?」
ミル「字面だけ見たらそうでしょうけど...。」
リンネ「コレも後でやたろうに聞こうか。話しを戻すけど、魔力の実体化が可能なら、何もない所から何かを出す事も可能なんじゃない?だとしたら革命だね。騎士団の荷物持ちが要らなくなる。」
ミル「規模ちっさ!」
リンネ「ま、こんなところかな。最後まであの小娘は来なかったね。」
ミル「小娘って...。まぁそうですね。異世界の魔術も面白かったです。」
猫町「ではお二人ともお疲れ様でした。また呼び出すので覚悟しやがれください。」
リンネ「なんでキレてるの?」
ミル「確実にアンタのせいだよ!」

以上、「『円環魔術師録』達による他作品所見」でした。リクエストをくださった「テトモンよ永遠に!」さん、ありがとうございます。
リクエストはまだ受け付けていますので、是非ご参加下さい。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その④

「えっ」
「危なかったぁ……私に感謝してよね」
「それはまあ毎度のことしまくってるけど……いやマジでありがとう」
「どーいたしまして。今日の晩御飯を豪華にすることで手を打とう」
「そのための台所が今削ぎ飛ばされたんだよ」
「そうだった」
取り敢えず抱えていた腕を離し、台所を破壊した憎き敵が何者なのか、それを確認することにする。
台所があったところを確認すると、巨大な『顎』が木材の破片を牙の隙間からはみ出させながら咀嚼していた。
「む……あの口の中に、私のご飯が…………!」
簡易魔法で身体強化を施し、思いっきりビーストの顎を殴りつける。ヤツは大きく仰け反り、家から少し離れてくれた。
「けーちゃん! アイツブッ飛ばそう!」
「いやそれには賛成だけど俺呼ぶか、普通?」
文句を言いながらも、あいつは隣に立ってくれた。2人で破壊された家の穴から外に出る。
ビーストの姿をよく見てみると、なるほど理解ができた。
「こいつ、多分さっきの襲撃の主犯だよ」
「は? 八つ裂きにされたんだろ?」
「まあ話を聞いてくださいよ」
目の前でのたうっているビーストは、頭部の上顎より上、両前脚、下半身全体を切断されて欠損しており、その切断面は焼き固められたように焦げ付いている。
「高熱の刃物で切り刻まれたみたいな見た目じゃない」
「たしかに……そういやさっきのニュースでやってたな。っつーかなんでこんなデケぇ塊が放っておかれてたんだよ」
「担当の子が雑な性格してたんじゃない? しかしあいつ、ダメージの回復のために何でも食べるつもりみたいだね」
「ああ……アリー、大丈夫か? ちゃんと契約してるドーリィが来るまで無理しない方が……」
あいつの言葉に、思わずため息が出る。勿論、籠った感情は呆れ一択。
「私がやる気ない時は無理に叩き起こすくせに、私がやる気出す時は無理するなとか変なこと言うんだから……」
ビーストが首をこちらに向けてきたので、身体強化で殴り飛ばし、距離をさらに広げる。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その③

あいつの家に先に入って食卓について数分、あいつも遅れて帰って来た。
「おかえりぃ」
「ただいまー……っと。ちょっと待っててな。っつーか揚げ物って地味にダルいんだよなぁ油の処理とか……」
台所で調理の準備を進めるあいつをしばらく眺めていたけど、暇になってきたので卓上のラジオの電源を入れることにした。
ちょうどオーケストラの音楽が終盤に入ったところで、それも終わると次の枠のニュース番組が始まった。それくらいのタイミングで、台所のあいつが包丁を操る音が聞こえてきた。
「…………けーちゃぁーん、さっきのビースト騒ぎのニュースやってるー」
「そうか。じゃあ音量上げてくれるか?」
「はいはい。……けど、アンタも物好きだねぇ。どうせ何もできないくせに」
「分かんねーだろ。もしかしたら俺と相性のいいドーリィがいるかもじゃん」
「無い無い」
あいつと笑い合い、ラジオの音量つまみを操作した。テーブルで聞いているには少しうるさいボリュームになったので、立ち上がって料理中のあいつにちょっかいを出しに行くことにした。
ラジオからは、刀身が燃えるナギナタを操るドーリィがビーストを八つ裂きにしてしまい、現在も破片の回収作業が続いているって話をアナウンサーが読み上げていた。
「武器かぁ……憧れちゃうなぁ……」
独り言を口にしつつ、あいつの脇の下から調理の様子を覗き見ると、あいつは付け合わせ用の葉物野菜を切っているところだった。何故か手が止まってるけど。
「どしたのけーちゃん。早く進めなよ」
「そうしたいのは山々なんだけどなー、フィスタがそこにいると危なくて進められないからなー」
あいつの脇腹を軽く小突いてから、台所を離れて窓から何とはなしに外を眺める。
住宅地のど真ん中だから、大した景色も見えないけれど、あの家々の向こう側では、今も倒したビーストの死骸処理が進んでいるんだろうか。
「私もビースト退治やりたーい」
「やりゃ良いだろ。別に最低限戦うくらいはできるんだろ?」
「武器とか派手な魔法つかって豪快に戦いたいのー」
「じゃあさっさとマスター探すんだな」
「ん……」
瞬間移動で台所に移動し、あいつを抱えて再び移動する。直後、台所周囲がまとめて『削り取られた』。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その②

「ま、どうせお役所もすぐに適当なドーリィ派遣してくれるでしょ」
「いやABSSって別にそういう所じゃなくねーか?」
「けどドーリィならあそこにもいるじゃん。それで見ないふりはそれこそおかしいでしょ? あんたの理屈なんだけど」
「ぐ……いやまぁ…………」
遠くの方から破壊音が聞こえてくる。ビーストの仕業か、ようやく来たドーリィの仕事か分からないけど、少なくとも私の出る幕は無いってことだ。
「ほらけーちゃんも、只の人間がそんなピリピリしてないで、一緒にお昼寝でもしようよ。今日は気温も風もちょうど良いよ」
「いや別に……もう良いや。行かないならせっかくだから何か1曲やってくれよ」
「お代は?」
「飯作ってやる。良い鶏が手に入ったんだ」
「お、良いねぇ……揚げ物が良いな」
「了解」
交渉成立。ハンモックを吊るしていた木に立てかけておいたクラシックギターを足で引き寄せ、適当に弦の調整をしてから、思いつくままに爪弾く。今日はこんなのしか無いし、ボサノバっぽい雰囲気で雑に流していく。
ちょうど1曲終わったところで、破壊音も収まった。事態は無事に片付いたみたい。
「終わったみたいじゃん。良かった良かった……それじゃ、こっちも終わったから行こ? ご飯ご馳走してもらわなくちゃ」
「分かったよ」
家路につくあいつの後ろをついて行く。ふと、あいつが立ち止まってこっちに振り返った。
「どしたのけーちゃん?」
「いや、言っとかなきゃと思って」
「何を」
「アリー、今日の演奏も最高だった」
「…………知ってる」
あいつを追い越す勢いで足を速め、あいつの家へ向かった。

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魔法をあなたに その⑨

僅かに遅れてヤツに追いつくと、【フォーリーヴス】は怪物の目の前に立ち止まり、目を見開いて何かを凝視していた。怪物を、じゃねェな、どっちかってーと、その足下、の……。
(オイオイマジかよ!)
最高だ。怪物が今にも踏み潰そうとしていたのは、【フォーリーヴス】、いや、千代田ツバメを普段イジメてた主犯のガキじゃねえか!
『なァツバメちゃんよォ』
魂への囁きを、【フォーリーヴス】に差し向ける。直接ヤツの魂に触れることで、その「欲望」を剥き出しにさせる、生物学的標準技術だ。
『コイツはどうしたことか、最高のシチュエーションじゃねェか。目の前にはテメエを虐めてるクソガキが、化け物の手で殺されそうになっていやがる。喜べ、テメエの願いは叶うぜェ? しかも、テメエが手を汚す必要も無ェ』
「っ…………」
【フォーリーヴス】が硬直していると、ヤツが、あのイジメッ子がこっちに気付いた。
「なっ、千代田……!」
イジメッ子の目は如何にも「助けて><!」って言いたげだ。
『キヒヒ、テメエの願いを言えよ。イヤ、言う必要も無ェ。ただ願え。心の底に眠る願いを。己を取り巻く悪環境の終結を。何たってテメエの名は【フォーリーヴス】』
“幸運の四葉”? いいや違うね。 テメエのその名に与えた意味は、“復讐の白詰草”。
『名は体を表す』、テメエらの諺だ。体を表せよ。
復讐に堕ち、人道を外れたその瞬間! 昏く鈍く擦り減り切った魂は、最ッ高に上質の“魔力源”となる。
さあ。
さァ!
『サアァッ!』
ヤツが徐に歩き出した。それに応じて、手の中のブローチも輝きを放ち始める。
学校制服はやや和風の衣装に、学校鞄は刀身を持たない日本刀の柄に、陰気な黒髪は若草色のツインテールに、ヤツの姿が魔法少女のソレに変身する。
「………………ごめん」
ヤツがそう呟き、柄を握る手に力を込めると、そこに光の刀身が現れた。何だ、マサカ自らの手でヤるつもりか? 思ったヨカやるじゃねーの。
「色々、話したいけど……全部終わって、2人とも生きて帰って、その後」
『……ァン?』

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その①

「フィスタぁー! どこだー!」
私を呼ぶ声が、正確には『あいつが私を呼ぶときの名前』が聞こえる。
「………………」
寝ていたハンモックから身を起こし、あいつの姿を遠くに確認してから自分の身体を隠すようにぬいぐるみの山を崩し、だんまりを決め込む。
「フィスタぁー? おいフィスタ!」
声がだいぶ近付いてきた。多分もう何mも無い。
「やっぱりここにいたか……おいフィスタ、いるなら返事しろよな」
ぬいぐるみバリアが崩されて、光が差し込んできた。
「フィス……」
「だっかぁらあっ! そう呼ぶなっつってんでしょうがぁっ!」
不用心に覗き込んできたあいつの顎に蹴りを食らわせてやる。
「痛っ…………てえなぁフィスタてめえ!」
「私のことは『アリー』って呼べっつってんだろクソガキ!」
「てめえも外見はクソガキだろうが!」
いつものやり取りを済ませ、渋々ハンモックから抜け出す。
「それで? どうしたのさ」
「あぁ、ビーストが出たんだよ。“ドーリィ”の出番なんだろ?」
「そんなのお役所に任せとけば良いじゃん……」
「おま、せっかく“ドーリィ”の力があって、見ないふりするってのかよ」
「『力』っていってもねぇ……」
再びハンモックに仰向けに倒れ込み、掌を太陽に向ける。ちょうど私の方に向いた手の甲には、契約済みの紋様が…………。
「浮かんでれば、考えたんだけどねぇ……」

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魔法をあなたに その⑧

フヨフヨ移動で【フォーリーヴス】を先導する。爆心地はアイツの通う学校から徒歩15分ほどの大型ショッピングモール。建物の前に広がる駐車場で、体高5mほどのクマとトカゲとチョウチンアンコウをまぜこぜにしたような化け物が暴れている。
手近な自動車を片手で持ち上げ……逃げ惑う市民に向けて……いや特に目標は定まってねェな、テキトーに投擲。壁に衝突した車両が爆発し、金属片やガラス片が市民に降り注ぐ。オイラには痛覚とか無いから分からんが、多分痛そう。【フォーリーヴス】の方を見ると、ヤツもこの光景にショックを受けているようだ。
『ウカカ、最近怪物の出る頻度も増えてきてるからなァ……“魔法少女”の需要と供給はトントンだぜ』
「……? さっきも言ってた『それ』って……」
『ンー? アー……まァ……雑にいうと…………テメエら人間が言うところの……正義の味方?』
テキトーに答えたが、ヤツは聞いちゃいなかった。オイラの「ンー」の辺りでヤツは既に歩き出していた。
『…………オイオイ、マジかよ……』
ウソだろ? 人間ってのァもうちょい弱くて臆病で自分がカワイイ生き物のハズだろ。
たしかにアイツには“力”をくれてやった。だが、「使い方」までは知らねェはずだ。
慌ててヤツの後について行く。

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魔法をあなたに その⑦

予想外。突拍子も無ェ。まさかの即断即決。その間約1秒。流石にビビった。これイジメ問題がどうこうとか言う感じじゃなさそうだな?
『おまっ、なん……いや』
何故とか野暮は聞かぬがアレよ。双方合意が取れたところで、イヨイヨ待望のご対面といこうじゃねェか。
空中をフヨフヨと進み、ヤツの眼前へ進み出る。
『ハァロォー、ツバメ=チャンよォ』
「は、はじめ、まして……」
リアルのオイラを見て、ヤツはそれなりにビビッているようだった。ま、見慣れない生き物に警戒すンのは正しいぜ。
『このタビは、ご契約いただき感謝感謝だゼ。そいじゃァ早速、テメエにプレゼントだ、千代田ツバメ』
ヤツにブローチを1つ、投げて渡す。危うげながらも無事に受け止めたところで、説明を開始する。
『ドーダ、なかなか洒落た意匠だろ?モノホンの翠玉と白金を使った、四ツ葉のクローバーさ』
「へぇ……あ、ちゃんと葉っぱがハートじゃなくて丸い……」
細かく気付くなこの女郎。
『キシシシシ、四つ葉はラッキーのお守りだからなァ。テメエの“魔法少女”としての名だって既にあンだぜ? 名付けて【フォーリーヴス】』
「はぇ……ありがとうござ……ん、魔法少女?」
ヤツが疑問を浮かべたところで、遠くから爆発音が届いてきた。
『キキッ、コイツは間が良いというベキか悪いというベキか……ついて来い、【フォーリーヴス】』

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魔法をあなたに その⑥

ようやく『入り込めた』。
「手助け……って……?」
『言葉通りサ。オイラの誘惑に乗っかるってンなら、テメエのイジメを何とかする手を用意してやっても良い。安心しろ、犯罪にゃならねェ。現行法に魔法を裁く手段は無いからな』
「ま、魔法……?」
『ソソ、魔法。メァジク。良いか、コイツはオイラとテメエの“対等な”契約だ、千代田ツバメ』
ヤツの身体がまたビクッとなった。そりゃ、名乗ってもいねェ名前当てられりゃ驚くか。
『言ったろ、オイラは情報ツウってな。ンでだ。オイラはテメエに“魔法”をくれてやる。どんな魔法になるか、悪いがそれは断言できねェ。ソレはヒトエにテメエの精神性にかかってるからだ。……だが』
「……だが……何ですか?」
チョット勿体ぶると、見事に食いついた。勝ったな。
『テメエが本気でこの“イジメ”、何とかしたいと思ってんなら……安心しな、ソイツは叶うぜ』
ヤツはオイラの言葉にかなァり引き付けられているようだった。何かあと一押しでもあれば、コロッと堕ちるな。
「えっと……1つ、質問なんですけど」
あン?
「その、“契約”…………なん、ですよね?」
『オ、そうだな』
「じゃあ、私は何を払えば良いんですか?」
チクショウ鋭い。マァ、ここは嘘はつかないようにして……っと。
『まァ……コレを受けて後、万が一テメエが何かあって死んだとする。テメエにくれてやった分の魔力……マァ魔法エネルギーみたいなモンだ、それとツイデに魂ってヤツも回収させてもらうぜ』
ドーセ“魔法少女”なんざ早死にする人種だろうし、嘘は吐いてねェやな。
「死んだ……後…………」
ヤツが考え込む。ま、即決されなくても構わねェよ。営業は数が命だ。
「分かりました」
『へ?』

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魔法をあなたに その④

『よしオーケイ、そんじゃァ早速本題に入らせてもらうぜェ』
「あ、あの、一つ良いですか?」
『ア? 何でェあと周りに人の姿が無い場所で大声で話すのはオススメしないぜ』
「え、あ、はい……」
ヤツが声を潜める。よしよしと頷き、話を再開しようとして、ヤツの方からこっちに問いかけてきやがった。
「それで、さっきの質問なんですけど。あの、あなたは一体……?」
『アァン? ンなこたァどうでも良いんだけどよォ……まーいーや。オイラのこたァ小悪魔とでも呼びやがれィ』
「あ、はい……え、あ、悪魔?」
『ソソ、悪魔タン。オイラのビジュアルがテメエらでいうところの如何にも悪魔でヨ。まァテメエらが想像するほど恐ろしい代物でもねーから、気楽に付き合おうぜ?』
「は、はい……」
『そんじゃ、自己紹介が終わったところで本題に入るか。あァ、ソッチの名乗りは要らねーゼ? オイラは小悪魔だからナ、情報ツウなんだヨ』
「そ、そうなんですね……」
ヤツの戸惑っているサマは少し愉快だったが、いい加減本題に入らねェとオイラの身体にも悪い。ここは敢えて、使い古された伝統的文句で攻めさせてもらおうか。
『なァ嬢、お前さん、“力”が欲しくないか?』

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魔法をあなたに その③

サテサテ待つこと時計の長針1周分。
よーやっと好みの人材が出てきやがった。見るからに陰気臭せェ女生徒が1人、周囲を気にしながらそそくさと出て敷地外目掛けて一直線ってなワケですよ。
『……当ォー然、声かけるよなァ、えェ?』
ヤツの背後をついて行きながら、ひとっ気の無い場所に入るのを待つ。
辛抱強く待つこと10分チョイ、遂にチャンスが訪れた。ヤツが団地の中に入っていった。
そのまま不気味なほど静かな細い道に入り込んでいったタイミングで、声を掛ける。
『よォ、そこの陰気なお嬢ちゃん』
たしかに魂が足りてねェせいで大それたマネはできねェが、人間の頭に直接声を届けるくらいはオイラ達の生物学的標準機能だ。
オイラの声に気付いたあの娘は、仰天したみてーに足を止め、キョロキョロし始めた。
『今はテメェの頭ン中に直接語り掛けてるンだよ』
「だ、誰⁉ 誰なの⁉」
『えェイ落ち着け! テメェ今、周りから見りゃ完全にヤベェ奴だゼ』
「ぅっ……」
『よォし良い子だ落ち着け落ち着け。深呼吸しろシンコキュー』
ヤツがそれなりにリラックスするのを待ってから、会話を再開。
『安心しろヨ、今テメェに語り掛けるこの声は幻聴でもイマジナリー・フレンドでも何でも無ェ、純然たるマジモンだぜ。まずはソコを受け止めてもろて』
ヤツはおずおずとって感じで頷いた。これで先に進める。

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ロジカル・シンキング その⑫

怪物は暴れ続けるうち、足下の瓦礫に躓き、横倒しに倒れ込んだ。建物の残骸はその質量に押し潰されて容易に崩壊する。
「ホタ! 目隠し!」
「はいはーい!」
アリストテレスの声に答え、フレイムコードが指揮棒よろしくスタッフを振り上げると、炎の渦はうねるように変形し怪物の頭部周辺を取り囲んだ。
(破壊力を意識した〈CB〉とはずらして、硬度と弾速に割り振った貫通力特化型のプリセット)
「〈Preset : Wedge Bullet〉。ホタ、目隠しと外壁一瞬消して!」
「うえぇ? い、いややるけどなんで……」
炎の壁が一瞬分断され、外の空気が流れ込んでくる。それと共に、弾丸のように一つの影が飛び込んできた。ドゥレッツァだ。
「そおおおおおおおおお、りゃああっ!」
勢いのまま、炎の覆いが取り払われた怪物の頭部にドロップキックを直撃させ、跳ね返る勢いで真上に跳躍する。
「カウント3!」
ドゥレッツァの合図に頷き、アリストテレスは〈WB〉と〈CB〉を連続で怪物に向けて射撃した。〈WB〉の着弾と同時に、ドゥレッツァの魔法によって衝撃が炸裂し怪物の頭部が大きく揺さぶられる。その揺り戻しと同時に、銃創を正確に〈CB〉が貫いた。
魔法弾は怪物の体内でその破壊力を発揮する。頭部、ひいては脳という生命と行動管制を司る器官を、外皮装甲の無い内側から直接破壊されたことで、怪物はその身を一度大きく痙攣させ、やがて脱力し動かなくなった。

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ただの魔女:キャラクター②

・中山サツキ
年齢:15歳  身長:155㎝
魔法少女の1人。使用武器は長さ130㎝程度の短槍。得意とする魔法は2種類の空間転移能力。
1つは「自身を対象とした最大射程3mのショートワープ」。
もう1つが少し複雑。「①対象を『3つ』選択する(それぞれ対象A、対象B、対象Cとする)②対象Bを中心として、対象Aと対象Cが点対称の位置にいる時のみ発動できる③対象Aと対象Cの位置を入れ替える」というもの。かなり使いにくい。
基本的に悪いことをした人にもそれなりの事情があるはずだから、寄り添って理解して、更生してもらおうというスタンス。こいつに「殺すしか無ェ!」と思わせる奴がもし現れたら、そいつは誇って良い。そして死ね。ヒカリは寄り添った結果本気で殺し合うのが最適解だっただけだから例外ね。
ちなみに魔法少女としての通り名は【アイオライト】。名付け当時、ヌイさんは天然石にはまっていたらしい。

・中山ヤヨイ
年齢:13歳  身長:150㎝
魔法少女の1人。サツキの実妹。姉のことは普段は「姉さん」呼びだが気の抜けているときや動揺した際には昔からの「お姉ちゃん」呼びが飛び出す。
使用武器はライトメイス。得意とする魔法は対象の外傷治癒。その外傷に負傷者の意思が干渉しているほど、治癒の際の痛みは強く鋭く重くなる。たとえば極めて浅いリスカの治癒と事故によって起きた複雑骨折の治癒では、前者の方が圧倒的に痛い。
身の回りの誰にも傷ついてほしくないし誰にも死んでほしくないという善良で無邪気な望みが反映された魔法。でも勝手に傷つこうとする馬鹿にはお仕置きが必要だよね。気絶してたから良かったものの、ヒカリの腕と背中の傷は治す時滅茶苦茶痛かったと思います。
ちなみに魔法少女としての通り名は【フロウライト】。

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魔法をあなたに その②

オイラin人間社会。
今日はアレ……何だっけ、“魔法少女”? ソレにするのにちょうど良さそうな人材を発掘するゼィ。
欲しい魂は、所謂“イジメられっ子”ってタイプの人種ダナ。
揉まれて擦れて磨き上げられた(すり減ったともいう)、鋭くタフな魂。ただのイジメられっ子で良いってわけでも無ェ。折れて引きこもったり自傷に走ったりするようなのじゃ駄目だ。やり返せるほどの跳ねッ返りも好かねェ。理想は“耐え続けている”奴。心身を削られながら、“まだ折れてねェ”奴だ。
そーいうワケで本日の狩り場は某中学校。建物部分がクソデカいんで、多分たくさん人材がいる。人が多けりゃ多いほど、好みの奴がいる確率も上がるってェ寸法よ。
つーわけで捜索のため、フラフラと建物の周りを飛び回っていると、いきなり爆音が響いてきた。あれだ、何とかって奴。……時報? 的なアレ。知ってるゼ、物事の始まりと終わりに鳴らすヤツだ。つまり、運が良ければこれからガキ共がわらわら出てくる。
ワクワクしながら出入口周辺に隠れて待ち構えていると……。
『ビンゴ!』
しばらくじっとしているうちに、同じような服装したガキ共が出てきた。狙うは2択。独りぼっちの奴か、不自然に取り囲まれてる奴。欲を言えば女が良い。アイツらは精神が野郎よかチカッとだけどろどろしてるからな。

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ただの魔女 その⑨

鳩尾への攻撃で呼吸を潰されたサツキは、抵抗できないまま押し倒されているうち、自分の首にかけられた“魔女”の手の力が緩んでいることに気付いた。
顔に垂れてくる涙と涎の混合液を左手で拭っていると、完全に脱力した“魔女”の身体が、サツキ自身に重なるように崩れ落ちた。咄嗟にその背中に手を置くと、掌にはべったりと彼女から流れ出した血が付着する。
(『ダメージを共有する魔法』…………こんな痩せた身体で、何度も私が殴った後で、私よりずっと辛かっただろうに……)
「あ、そうだ。こんなことしてる場合じゃない!」
サツキは“魔女”を抱え、舌打ちの音で『反響定位』を開始した。
(現在地と、方向……良し。あと少し、頑張れ私)
短距離転移を繰り返し、サツキは彼女が通う中学校の屋上に倒れ込むように到着した。
(マズい、流石に出血し過ぎた……ちょっと、もう動けないかも……)
「…………ヤヨイ!」
最後の力を振り絞り、サツキが呼びかけると、倒れる2人の傍に一人の少女が近付いてきた。
「はいはいお姉ちゃ……うっわ何その傷!? あとそっちの子誰⁉」
「えっと……」
(そういえば、この子の名前は聞いてなかったな……起きたら教えてもらおう)
「えっと、私の友達。この子のこと、治してくれる?」
「……分かったよ。あとですぐお姉ちゃんも治すからね?」
ヤヨイと呼ばれた少女は素早く変身し、片手に握ったライトメイスの鎚頭で、“魔女”の頭を軽く小突いた。
「ほぃ治療完了。お姉ちゃんも治すから……うっわなんで両目潰れてるの怖っわぁ……」

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魔法をあなたに その①

オイラin魔界。
今日は随分久しく会わなかった奴の姿があった。コイツぁ珍しい。せっかくだから絡んでやろう。
『ヨォー、テメェ珍しいじゃねェか。最近ずゥーっと出ずっぱりでよォ。何だァ? 里帰りかァ?』
『ム? おや、旧友。帰って早々知った顔に出会えるとは嬉しいねェ。……まァ、大した用事は無いヨ。たしかに里帰りと言って良いかもしれない』
『ウカカ、そーかィ。ところでテメエ、最近の調子はどうだァね』
『頗る良いヨ』
『バァカ言ってンじゃねェ。“回収状況”だよ』
『あァ……』
オイラ達は人間のガキ共とある種の共生関係にある。オイラ達はアイツらに超自然的パワー、所謂“魔法”をくれてやる。魔法はアイツらが自分たちの世界を守ったり、アイツら自身の人生をちょろっと彩るのに使われる。代わりに運悪くアイツらが若くして……そうだな、アイツらで言う“成人年齢”って頃より先に死んじまったら、その“魂”はコッチで回収してオイラ達自身のエネルギーとして活用させてもらう。“戦うための力”を与えてるんだからそりゃ死にやすいだろッテ? 双方合意の上だしセーフセーフ。化け物だらけの世の中だからしゃーないネ。
『先日、7番目に“魔法少女”にした子が無事に天命を全うしてくれてね。嬉しいことだ』
『ナァニ言ってダ、もう70年は早く逝ってもらわにゃ意味無ェだろーが』
『君は相変わらず口が悪いねェ……君の方こそどうなんだイ?』
『ッ…………お、オイラのことァどうでも良いだろうヨィ! 「オメガネにカナウ」良い魂の持ち主が少ねェンだよ今の時代はァ!』
『自白していくねェ……』
『ウッセバーカ! んじゃ、オイラぁもう出るからナ! ジャーナこの……あン? お前今、何て呼ばれてる? それで呼んでやるヨ』
『……そうさねェ、今はこの見た目から「ヌイグルミ」と呼んでくれる子が多いねェ』
『ホムホム了解、ジャーナおヌイ』

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ただの魔女 その⑦

ようやく気付けた……けど、こんなこと普通あり得る?
振り下ろされた槍の穂先が、身を捩った私の肩を掠める。
「っ……! 人間でも修行すればできるようになるとは聞いたことあるけどさぁ……!」
暗闇を飛ぶコウモリや海中を行くイルカをはじめとした、種々の動物に確認される生態。何らかの音を発し、それが周囲の物体に反射して戻ってくる時間差と角度から、目に見えない世界を、音を使って『視る』技術。
「”反響定位”……!」
また、短槍がコンクリートを叩く。片腕しか使えない上に、既に毒気が回り切っているはずなのに、彼女の攻撃は回数を重ねるごとに鋭さと精度を増している。これじゃまるっきり、向こうの方が化け物じゃないか。
薙ぎ払いを咄嗟に片腕で受け止める。みしり、と骨が軋む感覚。直後、全身を衝撃が駆け、弾き飛ばされた。
「っ……っあ、はぁっ……はぁっ…………! くそ……! 私、なんだよ……! 殺すのは……! 私の方、だってのに……!」
頬の皮膚が削れて熱い。槍を受けた左腕も動かない。もしかして折れた?
「っ……でも、これで……『お揃い』だ…………!」
今、私と彼女は鏡合わせに同じ腕を潰している。両眼を潰すのは気が早かったかな……まあ良いや。
「一つ、呪ってみようか」
また、彼女が短槍で足元を打つ。転移する気か。
「させるかっ!」
ダガーを投げる。この風切り音は聞こえてるはずだ。そして、この状況。『前例』はただの1度きり。使うかどうかは彼女次第。それでも、信じてる。彼女が本気で、私と渡り合おうとしてくれることを。
一瞬の浮遊感と共に、視界が変化する。来た、『位置を入れ替える魔法』!
来たる衝撃に備え、身体を硬直させる。それと同時に、背中の一点にダガーが突き刺さった。

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ただの魔女 その⑥

片目が辛うじて生きてる分、感覚能力では私に分がある。大型ゴーレムが来るまでの推定約3分、持ち堪えれば良い。
「……そんなわけ無いじゃん」
『今』『ここ』で、『私が』殺さなきゃ。
今のダメージを考えると、〈邪視〉はあと1回しか使えない。けど向こうにはどうせ見えてないわけだし、タイミングがあったら積極的に使って行こう。
懐から乾燥させた薬草の粉末を取り出し、地面に投げて火をつける。紫色の煙といやに甘ったるい匂いが辺りに立ち込める。普段から嗅ぎ慣れた、気持ち悪くて安心する匂い。慣れないうちは神経を侵し動作を鈍らせるだけだけど、毒性にさえ慣れてしまえば、高揚感と痛覚麻痺が良い具合に働いてくれる。
「うぅっ……何、この匂い…………」
彼女はやはり、この『毒』には慣れていないらしい。全身の神経が少しずつ麻痺し出して、身体に力が入らなくなってきて、ほら見ろ、どんどんふらついてきてる。
(これなら、殺せる!)
ダガーを取り出し、突撃する。腰だめに構え、全体重をかけて腹を狙い……。
カンッ、と彼女の短槍が足元のコンクリートを打った。かと思うと彼女の姿が消え、背後から風切り音が近付いてきた。咄嗟に倒れ込み、突きを回避する。
足音で気付かれた? にしたって、あの潰れた両目で、『瞬間移動の直後に』、ここまで正確な攻撃ができるわけ……。
カンッ、とまた、短槍がコンクリートを叩く。
「……そういうことか……!」

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日々鍛錬守護者倶楽部 その⑥

立ち上がろうとする怪物を前に、サホはその場でスタッフを振り回し始めた。その軌道上には闇を凝縮したようなラインが残存し、空間を少しずつ侵食するように広がっていく。やがて直径約10mの半球状に暗闇が広がり、タツタはその闇に溶け込むように姿を消した。
(サホの生み出した“エフェクト”……暗闇と、私の魔法で操る“霊”は相性が良い。この霊障は今、闇に溶けている)
無数の霊体腕が、怪物を“空間上”に“縫い留める”。
「お前の『魂』を掴んだ。この“霊体”と同様に、『障られた』お前もまた、闇と一体化する。そして……」
タツタは素早く闇の中を滑るように移動して、サホの背後に着地した。同時に、サホの振り上げていたスタッフの先端を飾る宝石が光を放ち始める。
「『闇』を切り裂く光の一閃」
振り下ろされて生じた光の軌跡が、一筋の斬撃として空間を占める暗闇を両断し、吹き飛ばす。一瞬遅れて、怪物の残骸が無数の肉片となってその場に降り注いだ。
「…………いやァ……決まったね」
タツタがサホに声を掛ける。
「うん。実践は初めてだったけど……上手く決まって良かったよ…………」
サホも額の冷や汗を拭いながら答え、肉片を回収するタツタの霊体腕に近付く。
「……バラバラだねぇ」
「うん、バラバラだ」
「タツタちゃんが闇から抜け出したタイミングに合わせて斬らないと、タツタちゃんもこうなるってことだよね?」
「ま……そうなるね。スリル満点だ」
「こわぁ……。真っ暗だから、私からはタツタちゃんがどんな状態か見えないんだよ?」
「ダイジョブダイジョブ。何年一緒に戦ってきたと思ってるの。私らの息の合い方なら失敗確率0パーだよォ」

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ただの魔女 その⑤

背後に気配と足音。咄嗟に振り向きざま、〈指差し〉を放つ。けど、奴は既にそこにはいなかった。
「……うん。何となく分かってきた」
また背後から声がする。きっと次振り向いても、あの転移の術で消えるんだろう。
「あなたは、私達のこと心配してくれてたんだね」
「はあぁあっ!?」
奴のふざけた言葉に思わずそちらを向き、〈邪視〉を使おうとした。けど無理だった。それより早く、あいつの短槍が、私のこめかみの辺りに直撃した。
視界に火花が散り、そのままコンクリートに叩きつけられる。この鈍痛と熱、きっと頭が割れたな。
「あなたは、『仲間』のことが心配だったんだ。同じ“魔女”である私達が。きっと“魔女”って存在にも思い入れがあるんだろうね」
頭上から声が掛けられる。私が倒れてるんだから当然だけど、気に食わない。睨み返そうとしたけど駄目だ。血が目に入るのと殴られた衝撃とで視界が定まらない。
「…………私があなたの心にどこまで寄り添えるかは分からないけど」
あいつの短槍の石突が、私の顎を持ち上げる。
「今から私は1人の“魔女”として、友人を傷つけるあなたを何としても止めるから」
「…………あぁ、畜生」
頭が痛くて熱い。目も見えない。何より大嫌いな『魔法少女』に見下されているこの状況が腹立たしい。
それなのに。
「何だよ…………嬉しいじゃんか」
震える両腕をどうにか踏ん張って、身体を起こす。
「ねぇ。名前、教えてよ」
「…………? えっと、サツキ。中山サツキ」
「そっか……オーケイ、サツキ」
右目に溜まった血を拭い、ありったけの敬意と殺意を込めて彼女を睨み返す。
「私の愛しい同志! 憎むべき敵! 私の全力を以て、呪い殺してやる!」

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ロジカル・シンキング その⑪

「〈Parameters〉」
炎の中を駆けるアリストテレスの手の上に、魔力塊とウィンドウが再び展開される。
(威力を光と音に振って、射程を削る。代わりに硬度に振って安定化……射撃じゃなく、投擲を主体としたプリセット)
「〈Preset : Stan Grenade〉」
炎の向こうにいるであろう怪物に向けて、手の中に生成された拳大の楕円球を投げつけた。
強烈な光と甲高い音が炸裂し、怪物の注意はそちらに向かう。しかし命中したのは怪物の位置からは僅かに外れた瓦礫の山であり、怪物はすぐにアリストテレスを探し始めた。
それを物陰から観察していたフレイムコードは、ニタリと口角を上げた。
(…………あー、なぁるほどぉ。ヒオ先輩が言いたかったこと、なーんとなく分かっちゃった。『火炎』を使う私だからこそ、この場でできる事。普段は周りを焼きかねないから、簡単には使えない私の『魔法』。けど……今は周囲が炎で埋め尽くされている。他人が生み出した炎を操るのは流石に私にも無理だよ? けど!)
「同じ炎なら『飲み込める』! なんてったって私は、炎を自在に奏でる魔法少女【フレイムコード】なんだから!」
フレイムコードがスタッフを振り回し、炎の帯を数本展開する。それらは渦を巻きながら周囲の火の海に突っ込んでいき、その勢いで巻き込むように取り込み、その勢いを増しながら変形していった。
周囲の火炎の挙動の不自然さに気付いたのか、怪物はフレイムコードに意識を向ける。しかし、その姿は炎のうねりに目隠しされて目視できず、滅多矢鱈と振り回した尾も直撃には至らない。
「ひひ、こっちに気を取られてて良いの? 私はただ、『火を揺らしている』だけなんだよ。お前が私達の姿を見られないように。『先輩がお前を狙う邪魔になる壁』を剥がせるように!」
怪物の頭の周囲を取り巻いていた炎が一瞬揺らぎ、その隙間から魔力性の閃光弾が投げ込まれ、怪物のまさに眼前で炸裂した。周囲の炎を更に上回る光量を瞬間的に浴びた視覚は瞬間的に麻痺し、それによる動揺か、怪物は一層激しくその場で暴れ狂う。

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ロジカル・シンキング その⑩

「先輩助けに来まなぁーんかヒオ先輩も変身してるぅ⁉」
炎を破って現れたのはフレイムコードだった。
「あ、ホタちゃぁん……フウリ先輩負傷中……たすけて…………」
フレイムコードに気付いたフウリが、蚊の鳴くような声で呼びかける。
「りょ、了解です! けど、不謹慎だけど火事が起きてたのは都合が良かった。私の『魔法』でも心配せずに使える。はーちゃん!」
フレイムコードに呼ばれ、炎の隙間をドゥレッツァが駆け込んできた。
「うぅ、足裏熱い……」
「はーちゃん、フウリ先輩をお願い」
「分かりましたっ。それじゃ」
ヘイローを背負い、ドゥレッツァは素早く火の中から離脱した。
「それじゃ、あの化け物片付けますか、ヒオ先輩」
「うん。早速来るよ」
怪物が口から火炎を吐き出した。それに対し、フレイムコードはスタッフを振るって炎の渦を生成し相殺する。
続いて放たれる尾の一撃をアリストテレスの障壁で一瞬防ぎ、破壊されるより早く後退して回避する。
「ぅあ……これ、マズいかもですヒオ先輩…………」
「何が?」
「いやぁ……だって考えてもみてくださいよ。好き好んで周囲火の海にする火炎放射機能搭載モンスターが、私の『火』で倒せると思います?」
「大丈夫、そっちは私の仕事だから。ホタはホタの『魔法』でできることをやって」
「私にできることぉ……?」