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君とみた景色ー1

陽と付き合って半年、今年は同じクラスになれた。とても嬉しかった。信じられないくらい。
席替えで陽は私の前の前の席。
「ねえ、陽くんてさぁ…。」
またしゃべってる。仲よさそうに。陽の隣の席は南野阿。野阿は陽の事を好きらしい。隣同士で話しているとき、嫉妬してしまう自分がいる。
最近、陽とはあまりしゃべっていない。帰る方向も真反対だから、一緒に帰ることもできない。付き合っているのに、なぜこんな距離感なんだろう。

「ねえ、瑞穂。今日なにもしゃべれなかったら、陽とのこと、ちょっと考えよっかな?」
「なにいってんの実玲奈。実玲奈は陽の彼女でしょう?野阿に負けてちゃだめだよ。陽にとっては実玲奈が特別だよ?」
「……。」
瑞穂はそう言ってくれるけど、私は心の中でもう決めていた。陽と付き合っていてもなにも意味がないなら、私が彼女である必要はないから。好きだけど、陽が野阿を好きなら、私は下がるべきだから。

もう5時間目の理科も終わってしまった。理科のグループ席で同じグループの陽と野阿は今日も仲がよさそうだった。本当に泣きそうで悲しくて寂しかった。教室の掃除で私は泣きそうになりながら、机をさげていた。すると、背後でそっと、実玲奈、という声が聞こえた。
「じゃあな、また明日な。」
陽がそう言って教室をでていった。

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どしゃぶりのバス停で 〜Episode of Yurika〜 4

「木村?」
登校中、偶然見つけた。返事を言わなきゃ。そういう一心で木村に話しかけた。
「ん?」
木村はこっちを見るなりのけぞった。
「うぉあっ」
「…は?」
「いや、そのびっくりして…おはよ」
「おはよう。んでこないだの話なんだけど…」
「いやちょっとまってまって」
木村は顔が真っ赤になっている。それが面白くて緊張のシーンなのに吹き出してしまった。
「何笑ってるの!」
「いやー、木村顔真っ赤だよ!?」
「うそだ!あ、こないだ海行ったんだよ。そのせいそのせい!」
「いま冬だし」
「…るさい」
あーあ。こういうのって、もっとロマンチックな公園とかで、言うもんじゃないの?
でも、今のやりとりで、自分の中で何かが急激に変わった。
木村のことは、ちょっとかっこよくて、いいやつだとしか思ってなかった。
でも、気がついた。
こいつといると、ちょー楽しいじゃん。
いつまでもこんなバカなやりとりをしてたいよ。
今まで何人か男子に告白されたことはあったけど、木村は今までにないタイプだ。
こんなに一緒にいて楽しい人、いないよ。
好きになった。たった今。
「いい?返事言って」
「聞きたいような聞きたくないようなでも聞きたい!!!」
「どっちなんだよ…言うよ?…私も、木村のこと好きです。よろしくお願いします。」
「ぬぉっ」
木村は言葉にならない声をあげて、さらに耳まで真っ赤になった。
「まじか。まじか。よろしくお願いしますぅ」
かわいいな。

私に彼氏が出来ました。
かっこいいのに、かわいい子供みたいな彼氏です。
これからもよろしくね。

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どしゃぶりのバス停で 〜Episode of Yurika〜 3

結局、美穂には何も言えなかった。
そもそも告白されたなんてそんなこと恥ずかしくて言えないし…私の話だ。美穂には関係ない。
ぼーっと歩いていると、誰かが目に入ってきた。
山口だ。確か、木村の親友の…
「山口〜!」
「あっ、相沢!」
「今日部活あったのになんで早いの?」
「あ、俺今日塾なんだよね」
「へえ…」
山口はこっちをじーっと見て、言った。
「あのさ…相沢って、木村のことどう思ってるの?」
突然過ぎて困る。山口は知ってるのだろうか…
「え、うーん…」
「木村はね、相沢のこと本当に好きだよ。あいつの話にいっつもお前出てくるし…
ふるなら、早く。待たせないでやってよ。あいつのために。」
そんなのわかっている。わかっているけど…
「山口には関係ないじゃん」
そう言って、私は背を向けた。
木村がずっとドキドキしながら待っているのだろう。
でも私は決められない。
迷うということは、木村のことが好きなわけじゃないってことだ。
でも
迷うということは、木村のことが好きかもしれないということだ。

私は木村のことが好きなのだろうか?恋愛対象として見ていないのだろうか?
自分がわからない。
でも、これだけは言える。
木村は本当に私を思ってくれてる。
そして、木村には本当の友達がいる。
と、いうことは、木村はいいやつなんだ。
そんないいやつをいつまでも待たせる訳にはいかない。
すぐに返事をしよう。先延ばしにしないで、いますぐ向き合おう。

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どしゃぶりのバス停で 18(最終回)

「あの…」
「相葉さん…!?」
言おうと思うと口から言葉が出てこなかった。
でも、そんな私じゃない。
今の私は、そんなのじゃない。
「私は…何回も救われてきました!
一人で落ち込んでいる時、いつも助けてくれるのはあなたでした!
誰も気づいてくれなかったのに声をかけてくれたり、
あなたの小説を読むことによって、私は元気になりました。
あなたのおかげで、私は一人でくよくよ悩んで、夜遅くまで泣かなくなりました!
でも…また、くよくよと泣いている私に戻ってしまうところでした。
何も伝えずに、何も気づかないままあなたとさよならするところでした。」
言わなきゃ。
「ずーっと、ずーっと前から、好きでした!」
君は、ずっとこっちをみていた。
いつも笑顔を浮かべている顔も、今日は表情を吸い取られたみたいだった。
「あのさ」
「はい…」
「俺が別のところに行っても、ずっと俺の小説読んでくれる?」
「もちろん」
そして、笑顔を作って、言う。
わざとらしいのなんて、わかってるよ。
「永遠にファンだよ。西田そうたの正体を知ってるのは、私だけだしね。」
そう言うと、君は笑った。
「俺、大人になって、世界中で読まれるような小説を書く。世界中で存在が知られるでっかい作家になる。
そうなったら…俺、顔公開するから。でも、その前に…また、相葉さんのための小説を書いて、
必ず迎えに行くよ。」
この言葉が聞きたかった。
いや、こんな言葉、聞けるなんて思ったこともなかった。
うれしいけど、かなしい。
当分会えないのだろう。
でも、約束した。
また会える。
ちょっと待つだけだ。
私の初めてで、忘れられない恋は
まだ始まったばかりだ。

バスが来た。
あなたは少し笑って、
「待っててね」
と言った。

そうして、あなたは去って行った。
予定より15分遅いバスに乗って。

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どしゃぶりのバス停で 16

雨が降っている。
今日は、伊藤君が発つ日。
あの時もらった、『君への物語』。
そのあとがきを、気分を紛らわすために読む。
あっ。
「この短編集は、あるひとりの女の人への作品なんです」
「そろそろお別れしちゃうんです、でも、僕はその人が好きなんです」
「きっとその人は気づいていないんです。僕が西田そうただっていうことを」
「こういう時だけ、顔を非公開にしているのを後悔しますよね」…

西田そうたも、こんな気持ちになるのか
私と同じじゃないか。
自然に涙がでて来た。
もう会えないのか…お別れなのか…何も言えないまま。
何気無く見た目次のページ。
…あれ?
愛の証
命のトリック
馬車で追いかけて
三日月にさよなら
本当

あいのあかし
いのちのとりっく
ばしゃでおいかけて
みかづきにさよなら
ほんとう

そして

『君への物語』というタイトル。

…!

まさか…いや…
そういえば最初に伊藤君と西田そうたについて喋った時…
「あれ…?」
「ん?」
「…西田そうた、好きなの?」
「え、うん!!」
あのとき、何か様子がおかしかった。

そして、こないだまで、伊藤君の様子がおかしかったのは…それは…ただ単純に引越しが悲しかったからだけじゃない。
気づいてあげられなかったからだ。

そして西田そうたの作品から孤独が伝わってくるのは、友達ができてもすぐに引越しで分かれてしまう寂しさからじゃないか?

これが偶然だなんて思えない。

雨なんか、どうだっていい。今なら間に合う。走れ!!

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どしゃぶりのバス停で 9

あの日から、私たちは西田そうたという共通の話題で、よく話すようになった。でも、きっと、伊藤君のことを好きだなんて思っているのは、私だけ。
伊藤君は私のこと、どうも思っていないだろう。
「ねえ、優里香ー」
「何ー?」
「あのさ、今日一緒に帰れる?」
「あ…ごめん。約束してて」
そうだよね…優里香は最近本当に私から離れてしまった。と感じているのも私だけかも。
親友だからと言って、ずっと一緒にいるわけじゃないでしょう?
優里香はそう思っているのかもしれない。
一人で帰る。
あかりは部活だそうだ。
他の子もいたかもしれないけど、なんかそんな気分じゃない。
一人でも平気です。
全然平気じゃないけど。
木村君はいい人だから、恨むに恨めない。
こんなことで木村君を恨むなんて、性格悪いけど。
言葉にしようのない不安。
言葉にしようのない悲しみ。
こういうのから逃げるために、私は小説を読む。
伊藤君と私を繋ぐ唯一のもの、西田そうたの小説を。
自然と涙がでてくるから、自分のことで泣いているんだか小説に感動しているのかわかんなくなってくる。
こうして、私はいつも、状況を変えようともせず、逃げてばかりだ。
バカだなぁ。
優里香は幸せなんだよ。
木村君はいい人なんだよ。
勝手にこんなことで泣くなよ。
私が優里香たちの幸せを奪う権利なんてないじゃない。