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黄色いおにいちゃん No.3

「ただいま」
「おかえり。…ねぇ、いっつもどこで遊んでんの。誰と遊んでんの。ケンくんママが大学生くらいの男の人と遊んでるって言ってたんだけど」
ママは僕の答えを待たずに言った。
「…うん。カズにいちゃん!優しいよ!」
「正気?学校で習わなかった?『知らない人と遊んではいけない』って」
「でも、本当に優しいもん。不審者なんかじゃないもん!」
「ふ~ん。どうなっても知らんからな」
知ってたまるか!もう、こんな家出てってやる!
靴を履いて家を飛び出した。
さっきより空は暗くなっていた。こんな時間に1人で外に出たことはない。自分から出てきたくせに弱音を心の中で思った。

「…カズにいちゃん」
「…」
カズにいちゃんはなぜだか知らないけど、そこにいて、抱きしめてくれた。
「もう、カズにいちゃんと遊んじゃダメなんだって」
「…」
「僕、もっと遊びたいよ」
「…そうか。…もし俺が今、君を連れていくって言ったらどうする?」
「えっ。…分からない」
「じゃあ、少しは怪しんでるってことか」
そうじゃない。そうじゃない。
「そうじゃない!」
「じゃあどうなんだ」
僕は答えられなかった。これは算数のテストなんかよりもずっとずっと難しい問題だった。でもカズにいちゃんはぎゅっと抱きしめてくれて、僕が答えるのを待っていてくれた。

どのくらい経ったろうか。
僕は見たことのある景色を眺めていた。

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笑わない世界、笑えない世界 No.2

私は空を見上げた。雲のすきまから見える太陽は美しい。少し向こうに天使のはしごが見える。いいな。私もああいう風に照らされてみたいな。
「クルミ!早く来なさい!」
母だ。
「何でしょうか」
「何でしょうか、じゃないでしょう!早くこれを片付けなさい」
「はい」
机に置いていた食器を台所へ運ぶ。カチャンカチャンという音を立てて流し台に置いて行った。
「できました」
「よろしい。勉強をしなさい」
「はい、分かりました」
私は2階にある自分の部屋へ行くため階段を駆け上った。
机に教科書やワークを出して早速取り掛かった。来週テストだからこのワークを終わらさなければならない。
「クルミ!こっち来て!」
また母の声がした。私は急いで階段を降りて母のもとへ行く。
「今日はやっぱり勉強しなくてもいい」
「えっ、でも。来週…」
「黙りなさい!今日はいいと言っているの」
「は、はい。分かりました。片付けてきます」
再び私は階段を上って部屋のドアを開けた。出していた物を棚や引き出しに片付けた。
「これ、観よ」
「え?あ、はい」
降りてきて言われた。今日の母はどうしたものか。変に優しい。
言われて観たテレビ番組は、相変わらずつまらないものだった。
バラエティー番組なのに、ニュース番組を観るかのように黙りこくってジッとしていた。

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笑わない世界、笑えない世界 No.1

ここは笑わない世界…いや、笑えない世界です。
まずはこの世界のご説明をいたしします。少し長くなるかもしれません。少々お付き合いください。
その前に、自己紹介をしておきましょうか。
ワタクシは渡辺と申します。28歳です。趣味はギターを弾くことですかね。
まぁ、ワタクシのことは置いといて。
早速説明に入ります。

先ほども言いましたがここは、笑えない世界です。笑うのが禁止の世界です。
それは昔、ある王がいました。
その王は、少し短気な人でした。
ある日、王が間違いをしたんです。それはすごく簡単なものだったのに、大きな間違い、失敗をしてしまったものですから、噂はすぐに行き渡りました。
そして、王はこの世界の笑い者になりました。
それに怒った王は近くの者を殺してしまいました。
そして言いました。
「これ以上俺のことを笑うとこんな風になるぞ」
と。
それから人々は、笑えなくなりました。
王のことで笑っていなくても、「王のことを笑っていた」と言う悪者がいるんです。それもあって、何でも笑えなくなりました。
王が亡くなった後も、「笑わない」という文化は受け継がれていきました。そして、その頃のことを誰も知らなくなって「歴史」になった今でもそれは受け継がれています。

お付き合いいただきありがとうございました。ざっと説明しましたが分かりましたかね?また、何か分からないことがありましたらご連絡ください。
では、ワタクシはこの辺で。

次回からはクルミという14歳の少女の話が始まります。
時々ワタクシが出てくるかもしれません。その時は…。
では、またいつか。

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黄色いおにいちゃん

黄色いおにいちゃんは、いつも黄色。髪も、服も、靴も。
ぜーんぶ黄色。笑顔も、明るくて、太陽みたい。
そんな黄色いおにいちゃんは、毎日公園にやってくる。
「何してるの?」
「ん?掃除だよ」
「何で?」
「何ででしょうか」
ちょっと意地悪だ。でも好きだ。僕は黄色いおにいちゃんみたいになりたい。
「おにいちゃん何歳なの?」
「何歳だと思う?」
「う~ん。25歳!」
「ブブ~」
「え、じゃあ正解は?」
「教えな~い」
やっぱり意地悪だ。でも僕は好き。好きというか憧れているのかもしれない。
「お家どこ?」
「あそこ」
「あそこってどこ?」
「あそこはあそこ」
ほらね、やっぱり。何だか、本当に僕のおにいちゃんみたい。もし、25歳だったら15歳くらい離れている。だけどいつも、放課後ここに来て遊んでくれる。
「明日も来る?」
「分からない」
「来てね」
「君は来るの?」
「うん!」
「じゃあ来ない」
「え~!なんでよ!!」
黄色いおにいちゃんはヒヒッと笑った。目の間、鼻の上、そこにしわを集めてクシャっと笑う顔も僕は好きだ。
少し真似をしてみたけれど、変な顔と言われて、またその顔で笑われた。僕は笑われるのが嫌いだけど、なぜか黄色いおにいちゃんだけは悪い気分にならない。おにいちゃんが笑うと、僕も笑いたくなる。

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神様が与えた私たちへの罪 No.1

「あ?今何て言った?」
「だから、そこどけよって」
「お前いい加減にせーよ。俺は今ここにおるからどかんで。あっち通ったらええやんけ」
「いや、周りの迷惑って分かってないん?アホちゃうか」
「アホで何が悪いねん」
また、戦いが始まった。ヒロトとユウタが取っ組み合いになって、周りにいた生徒が先生を呼びに行く。お決まり事だ。
私はというと、本を読んでいる。これもお決まり事。
こんなやつら、無視しておけ。
それが私の考え。
すぐに、先生が止めに来た。ヒロトの方が顔を真っ赤にして教室から連れ去られていく。それに対してユウタは冷静だ。もう1人の先生が事情を聞いている。
「ねぇ、みっちゃん、またケンカだね。何であんな怒るのかな?素直にどけばいいのに」
「うん。でも、私たちには関係ないでしょ?ほっとこ」
コウは優しく声をかけてくれる。でも、照れくさいからいつも素っ気ない。本当はしっかり話したいけど。

5時間目を告げるチャイムがなった。
国語か。国語は好きだ。本が好きなのだから。

5時間目終わりを告げるチャイムがなった。
あと1時間。6時間目は総合。楽だ。

家に帰っても、お菓子を食べて、本を読む。ただそれだけだ。
あともう3ヶ月もしないで卒業。
中学生だ。

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1月1日君と一緒に No.9 ~結花Var.~

家に帰ってきた。何とも言えない気持ち。
これ、開けてみようか。
袋をビリビリ破っていくと、アルバムが出てきた。それも、新品のやつ。
開けてみると、手紙らしきものが入っていた。

『結花へ
今までありがとう。少し長くなるけど、最後まで読んでね。
私は、友達なんかいらないって思ってた。ずっと一人で良いって。でも、あの日結花が声をかけてくれて、変わった。素直に、この人と友達になりたいって思ったの。でも、その後すぐに転校の話が出て私は、すごく悲しくて、寂しくて、泣いた。何回も。もっと一緒にいたいって思った。○○の話ももっといっぱいしたいって思った。
ごめんね。こんな早くに。また絶対会えるって信じてる。
アルバムは、空の写真を撮って入れてほしいなって思ったの。○○の歌詞に、[離れていても、空はどこまでも繋がっている]ってあるじゃん?それがすごく好きで、私たちみたいだな~って思ったの。それで、毎日でも気が向いた時でも良いから撮ってほしい。それでこれに入れてほしい。この空の向こうでお互い頑張ってるって実感してほしいな。
本当に今まで楽しかった。転校先でも頑張るから、結花も頑張ってね!大好き!
Sweet dreams!!
小春。』

読み終わった後の私は、嬉しさもありつつ、絶句した。

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(タイトルなし)

「あの娘のこと、好き?嫌い?」と聞かれて「好き」と答えたら、次の日から嫌われました。どうしてですか?好きで何が悪いので好きすか?あなたたちが私を嫌うのなら、私もあなたたちを嫌っていいのですか?それはダメなのですか?それじゃああなたたちも私を嫌わないでください。
「好き」とか「嫌い」とかよく分からないです。「普通」が好きです。人を「嫌い」と言うのなら、まずは嫌われてみては?私が尊敬している人の言葉です。

みんなが嫌いなあの娘としゃべっていたら、次の日から無視されました。別にいいですよ。私とあなたたちは関係ないですもんね。分かってますよ。あなたたちは本当は弱いっていうこと。強がりというならば、私があなたたちのことを嫌っても何も言わないはずですもんね。
さっき、「普通」が好きと言いましたが、本当は「好き」が1番好きです。なぜ、人は人を嫌うのでしょうね。知っていますか?「好き」だけでいいですよね。

「嫌い」があるからいつまで経っても平和な世界にならないんじゃないんですか?
私は知りませんけど。いつになったら「嫌い」がなくなるんでしょうね。その頃私はどうしているでしょうか。生きているでしょうか。もういないでしょうか。
何も分かりませんね。未来のことは。

とにかく、私はみんなが好きですよ。この世界が好きですよ。
だから、生きますよ。一生懸命。

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1月1日君と一緒に No.8

でも、時はあっという間に過ぎていった。
ここがまた、まじめな顔で言ってきた。
「夏休み中に引っ越す」
覚悟はしていたから、今度はそれほど悲しくはなかった。私は平常心を保って言う。
「うん。分かった。あと2週間か…」
あと2週間。私たちは"今”を大切に過ごした。
運動場を駆け回ったり、授業中に手紙を回したり、カラオケや映画館に行ったり。
本当に色々なことをして楽しんだ。

そして、当日。お別れをしに私はここの家を訪ねた。もう荷物などはない。すっからかんだ。
「もう、バイバイだね。寂しいな」
「そうだね。…あのさ、これ」
私は持ってきたものを差し出した。手のひら2つ分より少し大きいものだ。
「何?」
「今、開けないで、私がいないときに開けてみて」
「分かった。…あ、ちょっと待ってて」
パッと立って、部屋を飛び出していった。
「私も、これ。同じように開けないで」
それは、私が渡したものより、結構大きかった。大きさなどよりも、向こうも用意してくれていたということが嬉しかった。
「ありがとう」とお互いお礼を言って、外へ出た。
泣かないと決めていたのに、もうお別れだということを実感して涙が出てきてしまった。ほとんど同時にここも泣き始めた。
「本当にありがとう。本当に楽しかった。絶対また会おうね」
「こっちこそ本当にありがとう。結花がいてくれて毎日が充実して楽しかった。離れるけど、○○のこともいっぱい話そうね」
「じゃあ」
「じゃあ」
私はここに背を向けて歩き始めた。
振り返りはしなかった。もっと涙が出てしまうから。

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1月1日君と一緒に No.2

「うっそ。○○知ってるの⁉」
「え?あっ、うん。そっちこそ知ってるの?」
「うん!うん!ちょっと後で話そう!」
自己紹介の後もそわそわしすぎて先生の話が全く頭に入らなかった。
○○というのは4人組ロックバンドで、デビューはしてるけど世間には知られていないバンドなのだ。
チャイムが鳴るとすぐに彼女の席に行った。班が同じなのだから近くて当たり前だが2歩で着いた。
「えっと…さっきも言ったけど、結花って言うの。普通に呼び捨てで呼んでくれていいからね。○○、私大好きなの!ここちゃん?は何の曲が好きなの?」
「あ、ここでいいよ。私は『together with you』かな。歌詞が好きで」
「あ~!いいよね!私『One day we』かな。これも歌詞がいい!っていうか本当に全部良い曲だよな…」
「そうだよね。私存在が薄いから、でもそういう時に○○の曲聴くとこれでもいいんだって思わせてくれる」
「分かる!あのさ、次の時間も話さない?」
こうして今に至る。私たちはすっかり仲が良くなった。向こうも徐々に心を開いてくれ、関西弁になった。それに安心して私も関西弁になった。
これまでにも友達はいたがこんなに趣味の合う友達に出会えたのは初めてだ。
今が1番、幸せな時間だ。

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ある日私たちは。No.3

「お~い、何勝手に…。はぁ。…まぁいっか」
「えっ。えっっ!いいの⁉やったあ!!」
う~ん。そういう意味じゃなかったんだけどな~。
私はもう8割諦めている。どうしよ。
でも、私はふと思った。なんでここまで彼女は東京へ行くのか。ここまで喜ぶのか。嫌気が差した。
「ねぇ。なんでそんなに行きたいの?何かあった?」
「え?だからただ学校が面倒くさいだけだよ~」
「そっか」
「それより早く行かない⁉色々大変そうだから早く行っちゃえばこっちの勝ちだ!」
突然襲ってきた不安はどこかへ逃げていった。
「分かった。行こう!」
「うん!フフッ。嬉しいな」
こうやって私たちは歩き始めた。と、さっきとは違う不安が襲ってきた。お金とか、私たちだけで大丈夫なのか…。お金は持ってきたって言ってたけど。まぁその時はその時か。
私たちはスマホと修学旅行の記憶を頼りに駅に着いた。人が多くいる中、完全に浮いている。スマホで色々調べた通りに進んでいき、ついにホームまで来た。はぐれないように。はぐれないように。
途中大人に声をかけられたらどうしようかと思ったが大丈夫だった。
何分か待って、やっと新幹線が来た。この何分かは今まで以上に長く感じた。
大勢の大人に紛れて乗り込む時、遥がぼそりと呟いた。
「さよなら、大阪」
いや、今日帰ってくるんだけどね。心の中でツッコミ、心の中でクスリと笑った。

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ある日私たちは。No.2

「何言ってるの⁉私たちで行けるわけないじゃん」
「だって美咲ちゃんが行き先決めてって言うから…。私、本気だよ」
私は考える。本気とは何か。0,11秒で答えが出た。
「あんたそれ本気っていうんじゃないよ。本気っていうのは何から何まで全部決めて、冗談抜きの気持ち」
「じゃあ、行き先は東京。手段は新幹線。時間は今から。帰ってくるのは今日の夜。で、どう?」
おい。おい。そんな真剣に返してくるんじゃないよ。
「帰ってくるの今日なの?日帰り?じゃあ休みの日とかでもいいんじゃないの?」
「いやぁ。学校面倒くさいなぁって思って」
そんな理由…。
「そうか。ほんじゃ分かった。ジャンケンをしよう。それで私が勝ったら今日は行かない。君が勝ったら行く前提で考えよう。それで良い?」
「うん。分かった。私が勝てばいいんだね。そんなの楽勝」
私も勝ってやる。
『最初はグー、ジャンケンぽん!』
遥はグー。私はチョキ。…負けた。
「やったあ!!東京行ける!」
いつもの遥に戻った。
「まだ行くって決まったわけじゃないからね。行く"前提で”って言いましたからね」
「え~。でも行く可能性の方が高いってことでしょ?それなら行くってことだよ!」
どうしよう。彼女はもうその気になってはしゃいでいる。幼稚園児みたいに。

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ある日私たちは。No.1

「ねぇねぇ。このままどっか行かない?」
遥は私の前に立って、満面の笑みで言った。
「え、どういうこと?これから学校だよ」
「だ~か~ら~これから学校行かずにどっか行くの!」
「はっ?何で?学校は?」
「まあ無断欠席ってやつだね。なんかワクワクしない?」
相変わらず満面の笑みで見つめてくる。ワクワクって…。
「もう私の部屋の机にね、置いてきちゃった。手紙。『学校を休みます。心配しな いでください』って」
嘘だろ。何でそういうことすんのよ。
「どうすんの。どこ行くの」
「あ、じゃあ行くってことだね!行き先は決まってないよ。お金いっぱい持ってきたから、乗り物にも乗れるよ!」
お~い。行き先決まってないでどうするんだ~い。っていうか行くとか誰も言ってないし。それでも彼女は満面の笑み。
正気かよ。
「君、少しは頭で考えなさい。それだから数学のテスト15点なんだよ。そんな馬鹿げた気持ちじゃ通用せんぞ。ちゃんとどこ行くか決まってからにしなさい」
私はいつもこういう風に彼女を叱る。
「ごめん」
おう。こういう所は素直でいい奴だ。
「決めた。東京へ行こう!」
お~~~~い!…お~~~~い!何を…。やっぱり馬鹿だなこいつは。