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Trans Far East Travelogue47

荷物をまとめ、仮眠を取った後いきなり嫁が「竹芝ってどこ?寄港地が博多だから本州らしいことは分かるんだけど」と言うので「東京の海の玄関口だね。有明は瀬戸内海方面,竹芝は東京の離島への出口なんだ」と返す。
「話変わるけど出航明日でしょ?じゃあ、今日はどうする?」と今度は嫁が訊くので「希望があるならそれに沿うよ」と返すと「確か、韓国にはバナナ味の、栃木にはレモン味の牛乳売ってるんでしょ?それ飲んでみたいし、タピオカも飲みたい。あと、グリーン車っていうのにも乗ってみたい。でも、貴方には無理して欲しくないからなるべく安い方法で良いよ」と返ってきた。
念の為「なら、今日は電車ガッツリ乗るし昼食とか駅弁駅そばで済ませるけど大丈夫?」と訊くと「大丈夫よ」と返ってきた。
そして、おもむろにスマホを手に取り「これだと接続悪いなぁ…待てよ?ショートカットするか」と呟くと嫁が「何か調べてるの?」と尋ねるので「君の要望に沿える方法で合法的に長時間電車に乗れる方法を知ってるんだけど,列車の本数が極端に少ない地域も経由するから極力待ち時間を減らせるルートで探してるんだ。」と答えると「その間にそこの地下鉄でパスモの残高チャージしてくるね。FTずつで良い?」と頼もしい返事が来た。「助かるよ。確認だけどFTって5000円ってこと?」と訊き返すと「そうよ。なんぼか分かんないから」と返ってきたので頷きながら「万が一に備えて、そのまま電車乗れるような格好にしといて。結果出たら電話するから」と返すと向こうも無言で頷く。
今度は慣れ親しんだ関東大回りの旅が始まる。

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Trans Far East Travelogue46

荷造りの途中で月見をしていたことに気付き荷造りを再開するとすぐ、今度はスマホに着信が鳴り響き思わず「今度は何だよ!荷造りしてる時に勘弁してくれ」と呟くと船に乗っているはずの兄貴からの連絡であることに気付きすぐに応答する。
「すまない。定期航路のフェリーやクルーズ船を使うはずがフェリーの会社が不景気で倒産したり国際情勢の変化で営業停止したり高速船が導入されて車が積み込めなくなってしまい、皆の行程の線が切れて到着の目処が立たなくなった。だから、船はチャーターしないといけなくて寄港地増えるけど大丈夫か?」と焦ったような声で言われ、それを聞いていた嫁は大丈夫と耳打ちするので「俺達は構わないが、具体的にどの辺がダメなん?」と訊くと「まず、君達の場合はソヘが情勢悪化で運航休止、それから高砂両岸も同様の理由でバツ、ルソンからサンボアンガ経由でヒェネサンまでは港周辺の情勢悪化で寄港できないことに伴う需要が急降下で運航停止、サンボアンガから先はボルネオまでの船で車が積めず、その次が繋がってても進めない。」と言われて思わず絶句する。
そして、「チャーターするなら起点はどこ?鹿児島か?」と訊くと「博多発の予定で会社と交渉してたが、港湾管理局と折り合いが付かず結局竹芝発で国内の寄港地は博多だけになった。竹芝出航は明後日で寄港時間は8時間の予定だ。」と返ってきたので「嫁には悪いけど、それなら仕方ないな。じゃあ、JRとフェリーの払い戻し受けてできることやるよ。」と返して電話を切る。
すると、すぐに寄港地のリストとかつてのセブ留学生仲間からのメッセージが送られてきたので両方に目を通して一言,「懐かしい街に行ける上にみんなに会えそうなのか。こりゃ楽しみだな」と呟く。
知らぬ間に雲一つない東の空が藍色がかった紫からオレンジに変わった色にライトアップしていた。

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Trans Far East Travelogue45

慣れ親しんだ都を離れ南に向かう前夜、荷造りをしているとスマホに写真が届く。
思わず「いや〜懐かしいなぁ」と笑うと嫁が「何?昔のお友達?」と訊いてきたので「そうだね。君に恋してすぐ,受験に失敗してフィリピンへ留学行ったことがあるんだ。その時の日本人の同級生からね。皆俺と同じで当時は18、19の年でしかも皆首都圏出身でさらに着いた日が1番早い奴が1人,その1週間後に俺ともう1人,そして俺達の翌週に色々あって他の学校に途中で移った奴が着いた。俺と先に来てた奴が同じコースでクラスメイトになりその後2人も合流して歳の近い男4人仲良くなった。一番最後に着いた奴が相性良くて休みの日はいつも一緒だったんだ。ソイツが初めての休み、向こうじゃもう酒呑める歳ってことで近所のバーに連れて行ってもらう筈の先輩に置いて行かれて俺と2人翌日呑み行ったのから始まり、2人でサンセットクルーズツアーに行き引率のスタッフで日韓両語に堪能な人が主催者含めほとんど韓国人ということで韓国語で説明したのをハーフでどちらも分かる俺が同時通訳して通訳いらなくしたり、3タテ不幸4連発事件を目撃させちゃったこともあったな。先生の異動で俺達のキャンパスに集まっていた先生がもう一つの方に行ってしまって枠が残ってなかったソイツは他の学校に行ったんだ。でも,関東4人組の帰国のタイミングが同じことを知って送別会に誘ってその思い出のバーで集合したんだ。そしたら、同じタイミングで帰る日本人が大勢いてみんなで飲みながらその日のナイターの経過を話し合っていたんだ。すると、遅れて合流してきたその別の学校にいた奴が着いた瞬間、巨人はサヨナラホームランで試合終了となり興奮して追加のボトル5本1人で空けてサービスで出た強めのカクテルも飲み干したんだ。その寮で過ごす最後の夜だったし俺以外の3人は皆日付変わってすぐの便で帰国だったから俺が校門前でみんなを見送り、中東の学生と紅茶飲んでデーツ食べて月を見ながら語り明かした。コース違いで接点がなかった日本のJDもその話に交じってたんだけどその人が撮ったその晩の写真が他の3人に来て俺に回ったらしいな」と答えると「思い出話、明日の夜聞かせてよ」と返ってきたので無言で頷く。
そしてベランダへ行き当時と同様に唱歌『ふるさと』の一節を口ずさむ。
当時の晩と同じ、十三夜の朧月が濡れて滲んで見えていた。

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Trans Far-East Travelogue㊹

兄貴達の姿が見えなくなってすぐ,嫁に「君,また勘違いしてるよ。まぁ,九州の人なら有明海があるから海と有明で有明海をイメージしちゃうか〜」と声をかける。
すると,嫁が「海で有明って有明海以外に何があるの?」と訊いてきたので「有明って東京だとお台場の近くのエリアの地名だよ。西日本に向かうフェリーの定期便の出発地さ」と返す。
すると「つまり,私が勝手に勘違いして怒ってたってこと?」と返ってきたので「そういうことになるな」と言って笑い返す。
すると嫁が恥ずかしそうな顔をしていたのでちょっと笑わせようとして謎かけを出してみる。
「両片想いだけど,お互いに意識して緊張しちゃってなかなか話を切り出せない10代の男女とかけて,有明から船で博多を目指す旅人と解く。その心は?」と切り出すと「バカな私には分からない」と返ってきたので「どちらも,こくらない(告らないと小倉をかけた)と遠回りになるでしょう」と言って正解を出すと嫁が一呼吸置いて「今の貴方とかけて,故・星野監督と解く。その心は?」と切り返してきたので「これほどまでにファンに愛されて幸せな男は俺以外にいないと自負しています」と少し照れながら返すと嫁がゲラゲラ笑いながら「次は、巨人軍とかけて,何と解く?」と訊いてきた。
そこで,「君への愛と解く。その心はどちらも,永久に不滅であります。」と返すと今度は嫁が照れながら「今の貴方とかけて,私と解く。その心は?」と返してきたので「大切なパートナーから浮気されずに愛され続け,それでいて自分のことを知ろうとして貰えるので本当の幸せ者です」と返すと「それは私のセリフ」と言って嫁が拗ねてしまった。
「可愛いヤツめ。これだから俺は君に首っ丈なんだぜ。さあ,帰ろうか」と声をかけると嫁も「私も貴方に首っ丈なんだからね」と言って笑いながら2人で寄り添って歩き出す。
明日,ついに俺は生まれ育った東京と暫し野別れを告げ、サンライズ号に乗り込んで四国・高松と徳島を経由して嫁の地元,福岡を目指してまた旅立つのだ。

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Trans Far-East Travelogue㊸

「兄さん,皆はどうなってる?」そう俺が口を開くと兄貴は「俺たちが風呂入ってる間にエルサレムに着いて別働隊とも合流したそうだ。アイツらはおそらく群山で泊まるんだろうな」と言うので頷くと,嫁が「皆まだ日本にいるのよね?エルサレムと群山って日本だとどこ?」と口を挟む。
そこで,俺が「平和はエルサレムのあるイスラエルの言葉,所謂ヘブライ語ではシャロームと言う。エルは確か冠詞だけど都という意味もあったはずだから,エルシャロームは平和の都,つまり平安京と言い換えられる。もう分かると思うけど,京都市のことなんだ。群山は韓国の都市なんだけど,西に向かって流れる大きな川が海に注ぐ所にあり,また日本が占領した時代には米の積出港として朝鮮半島全域から米が集まり,日本全国に出荷された歴史があり、今でもその地方では有数の港街さ。またその街の海,厳密には河口部には、更に前の時代からある古戦場もあるんだ」とまで解説していると嫁が「まるで大阪みたいな街ね。大阪も江戸時代には天下の台所で米が集まり,また淀川という西に向かって流れる川の河口がある。更にその前の時代は石山本願寺との合戦があったり織田信長が水軍と戦った古戦場もあるのって大阪みたい」と言うので「よく気付いたね。流石は俺の妻だ。君の言うとおり,群山と大阪市は似ている。だから,日本の群山=大阪市なんだよ」と言って締める。
すると,腕時計を見ていた兄貴が「海に,有明に行かないと厳しいのでもう行くわ」と言い、俺は兄貴の言わんとすることを察して頷き,彼女さんも兄貴に続くのでここで分かれることになった。
一方,嫁は1人,「私は玄界灘の方出身なのに,なんで有明海なの?」と言って不服そうに頬を膨らませていた。

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Trans Far-East Travelogue㊷

兄貴達は無事に仲直りして手を繋ぎ、俺達を呼びに来て「調印式しようか」と耳打ちするので「白の二の舞は踏むなよ」と返して兄貴について行くと嫁は「白の二の舞ってどういうこと?」と訊いてきたので,「旧ソ連圏で一時期対立が深刻化した地域が多いことは知ってるか?」と返すと「ナゴルノ=カラバフ・アルツァフ紛争とかグルジア・ジョージア紛争のこと?」と返ってきたので「それも旧ソ連圏で起きた歴史の悲劇だけど,俺が言いたいのはロシアとウクライナの争い,いわゆるドンバス戦争のことさ」と返すと「一度ミンスク合意で停戦してたよね?あの後数年で反故にされて色々あったけど」と返ってきた。
そこで,「そのミンスクの街があるのは何ていう名前の国?」と訊き返すと「ベラルーシよね?ルーシは確かロシアって意味で…ベラは白ね。もしかして,白の二の舞って…」と返ってきたので「その通り。白の二の舞はミンスク合意の二の舞,つまり一度仲直りしたのにそのことを反故にしてもう一度いがみ合うことさ」と返すと兄貴が「ブラウヴォルフ,早く来い」と怒鳴るので「卒アルで俺のクラスが世界史選択でなぜかモンゴルの紙幣にあるチンギスハンの肖像画を差し替えられて俺がチンギスハン扱いになったからって,チンギスハンをはじめとするモンゴル遊牧民の伝説にある蒼い狼呼ばわりかよ…しかも,ドイツ語だし」と笑っていると兄貴が4人分冊子とペンを用意し出してそれぞれの冊子にサインした後お互いに冊子を回し合うので本当に国際会議のようになった。
「卒アルの寄せ書き交換会かよ!」と言う俺のツッコミの声と多摩川のせせらぎだけが田園調布の街に響いていた。

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Trans Far-East Travelogue㊶

午後5時,多摩川の駅に着いて女性陣と合流した
その後は兄貴が提案したように河原に行くと兄貴の言う通り,ちょうど沈みゆく太陽が輝いている
それを見て思わず「昔っから代々木のドコモタワーとかその他新宿の高層ビル群をバックに沈む夕陽を毎日のように観て来たけど,コイツは凄え。今までとは格が違う」と呟くと嫁が「そろそろ2人きりにしてあげない?」と訊いてくるので「そうだな。新幹線の写真でも撮るか」と返して歩き橋を潜り始めてすぐに頭上から轟音が響き,早く鳴り止んだ
橋の下を抜けて見上げると新幹線が新横浜方面に抜けているのを見て嫁が「あの新幹線,幕が黄色なのは見えたけど、行先表示は2文字でもよく見えないね」と言うので時刻から逆算してその列車が「のぞみ51号博多行き」だと気付き咄嗟にその新幹線に向けて「昔の俺みたいに関門海峡越えて離れた場所にいる人に恋した若者の夢を乗せてくれ!俺の希望は叶ったから次は他の人の望み叶えてくれ」と叫ぶと嫁が「あの列車,博多行きなのね」と言うので「君に会えなくて辛かったあの頃のように応援歌替え歌するか」と返して「想〜い届け!海越え君想う〜(実れ!)関門〜越えて想いは博多の君へ〜続く行け〜Mein liebe!あの娘に届いた〜♪」と歌うと嫁は「海越え〜貴方の為にやって来た〜♪」と外国人選手汎用応援歌の替え歌を歌っているので俺が「We are」とコールし2人で「married」と叫び,次に嫁が「I love」とコールしお互いの名前を呼び合い、そっと唇が触れ合った後に笑い出す
もう一組のカップルがそんな俺達を土手の上から見守っていた

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Trans Far-East Travelogue㊵

俺達を乗せたエアポート急行は定刻通りの16:25 横浜に着いた
そして,長い行列に合わせて行進する要領で階段を下りて改札を通り,もう一度長い階段で地下へと下りると目の前に東急線の改札口が見える
更に地下深くの東横線ホームに下りると16時32分発の通勤急行・和光市行きの電車が入線して来た
天下の大ターミナルであり世界有数の乗降客数を誇る駅,横浜では乗客は勿論降りるお客さんも多く,まだ帰宅ラッシュが始まっていないのに早くも混雑の影響で遅延が発生している
そんな中、嫁に「これから東急線に乗る。電車は通勤急行だから集合場所は多摩川でも田園調布でも自由が丘でも構わない」という1通のメッセージを送ると返事が来た
「多摩川駅集合でお願い。4人で話し合いたいから,河川敷が良いかも」とのことだ
その旨を兄貴にも伝えると「丸子橋の近くの河原が丁度いいな。夕陽が綺麗な筈だ」と返って来たので「了解。多摩川駅には5時頃着くよ」と返信してスマホを閉じると知らぬ間に電車は地下区間を抜けて白楽の駅を通過している
そして,その勢いのままに妙蓮寺の駅も通過して定刻通りに菊名のホームに滑り込んだ
菊名に着いておよそ5分後,大倉山を通過して綱島,日吉の順に止まり,元住吉を通過して早くも武蔵小杉の駅に到着した
次の新丸子を通過すると,待ち合わせ場所の多摩川駅はもうすぐだ

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Trans Far-East Travelogue㊴

「やっぱり,伊豆もいいけど温泉は関東の黒湯に限るな」「そらそうよ。俺の時は烏来がダメで代わりに行った北投が散々だったからなぁ…草津も合わなかったけど、黒湯との相性は抜群よ」
そう言って男2人,風呂から上がり談笑して帰り道,「俺は川向こうで嫁と合流するけど,兄さんはどうする?彼女さんと和解するもよし,昔の俺みたいに復縁拒否して新しい恋を探すも良し。そちらに任せるよ」と切り出すと兄貴は暫く黙っていたが「俺,アイツと話し合うよ。アイツがやったことは確かに許されないけど,中正の息子さんや岩里さんがなさった政策のように、和解に近づきたい」と言ったので俺は「台湾のことを引き合いに出すのも兄さんらしいな」と返す間に駅が見えた
「信号トラブルのため,八丁畷から京急川崎の間で京浜急行は運転を見合わせています」と言うアナウンスが聞こえる
切符の特性,もとい制約上逆方向に行くことはできないので,嫁は一駅隣の川崎でJRに乗り換えることができない
そのため,「蒲田で少し歩くけどそこから東急が出るので、多摩川か自由が丘で合流しよう」と一言送り,兄貴には「横浜で乗り換えて迂回するぞ。東横線乗れば多摩川か自由が丘で会える」と囁く

京急お得意の逝っとけダイヤが発動したな

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Trans Far-East Travelogue㊳

俺に遅れること5分,兄貴も弘明寺に姿を現した
「兄さん,呼び出してすまない。気持ちは落ち着いたか?」と訊くと「呼び出したのはこっちの方さ。でも,新幹線のおかげで落ち着けたよ」と返ってきた
ここからは歩きながら話すことに
「俺さ,どうしても知りたいんだよ」と言って兄貴が切り出すので「俺が今日の件についてどう思うか,ってこと?」と訊くと「その通りだ。俺はさ,台湾で日本時代の前から生活してきて日本語教育を受けた世代の人達やその子孫と仲が良いから彼らを傷つけたあの事件を知らずに爆弾発言をした彼女を許すことができない」と返ってきた
「俺は兄さんと違って,昔から台湾で暮らしてきた人々,本省人と俗に呼ばれる人々と縁が深い訳ではなくて、2・28は教育格差や偏見と言った根深い問題とその問題のせいで苦しんだ人々の不満があって,あの闇タバコ事件でそうした起爆剤に火がついて爆発した,歴史の悲劇だと思ってる。
ここからは完全に俺の話だけど,俺の母親は韓国人で,韓国で教育を受けた経験の持ち主なんだ。そして,母方の従兄弟も皆韓国で教育を受けた。韓国といえば反日教育で有名なだけに,俺は韓国にいる日本嫌い人達の身内じゃないかと言う疑念だけでイジメられて傷付いた。だからこそ,俺は対立の歴史を学ぶことで自分と同じように対立の渦中,特に歴史や政治といった根深い問題に関する対立の渦中で生まれ育って苦しむ人を救うための手伝いをしたいと思った。それ故,俺は台湾について霧社の悲劇も学んだ。だからこそ,嫁から事の顛末を聞いた時は憤ったよ。いくら無知でも,大勢の大切な命が失われた惨劇を生き延びた苦労とバレンタインデーのチョコ作りは大変さのベクトルが違うし,一緒にしちゃいけないってことは常識じゃないかな?」と返すと「やっぱりそうだよな」と返ってきた
「でも,パートナーに不満があって,それが積もりに積もって爆発したのならともかく、この一件だけでいきなり突き放すのもどうかと思う。『惚れた女を愛し続け,時には俺達にしか分からないことを口頭にしろ背中にしろ何らかの手段で示し,教えてあげるのが男の仕事だ』って言っていたのは誰だっけ?」と訊くと兄貴が黙り込んでしまう
このどんよりとした空気感を何とかするため「話が重くなったな。温泉入ってリフレッシュしようぜ」と提案すると「それもそうだな」と言って兄貴も頷いている

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Trans Far-East Travelogue㊲

「もうこんな時間だと?」そう呟き焦って風呂から上がるも2人とも長風呂してタイムリミットに間に合わずにバスを逃すという失態を犯してしまった
「どうしよう…この次のバスまでかなり時間あるよ」と嫁が心配そうに言うのに反応して「今,何分だ?俺、この先の坂を下りた先の集落のバス停から駅に戻れること知ってるから、時間が合えばそっち使おう」と声をかけると「今,45分ね」と返ってきたので「風呂上がりに汗かきたくないけど,仕方ない。走るぞ。10分以内にバス来るけど,坂が長いんだ」と返すと「分かった」と返ってきた
野球のベーランの要領で坂道を駆け下り、見えてきた集落のバス停に着くと俺の予想通りに三崎口行きのバスが来た
「これで引き揚げれば大丈夫さ。この先は三崎口の駅で考えようか」と声をかけると「何か鳴ってるよ」と嫁が一言言うので自分のスマホを手に取る
画面を見て思わず「え?兄貴,やってくれたな」と呟くと「どうかしたの?」と嫁が訊くので「新幹線,のぞみに乗りやがった。今さっき熱海通過だから、新横浜まで20分弱で着く。俺が待たせる格好になるな」と返すと「新横浜から弘明寺って近いの?」と返ってきたので「あの兄貴のことだから、1番早い地下鉄の優等で上大岡に出て京急で一駅だろう。それだと20分もあれば上大岡に行ける。今から15分だと俺たち,まだ久里浜線内だべ?そこから20分で上大岡までは行けないよ」と言って頭を抱えると「大丈夫。ほら、駅が見えたし時刻表だと2分で特急出るから、それ乗ろ?」と嫁が言ってくれたおかげでパッと動けて無事特急に乗れた
それも、コンセント付きの新型車両だ
「ボックス空いてて良かったな」と言って嫁に語りかけるが嫁はスマホを見つめて「ブルーラインは…信号トラブル?」と呟いている
「となると、兄貴は横浜線乗らないとな…ギリギリかなぁ」と俺も呟くと「上大岡でエアポート急行に接続するってさ」と嫁が言うので「助かるよ。そっちは川崎で乗り換えたら一駅さ。お互いの幸運を祈る」と返す
間も無く、俺達を乗せた特急は堀之内に着き、通過駅のある区間に突入する
一方、時刻表通りなら兄貴は横浜線を待っている筈
果たして、待ち合わせ場所の弘明寺に着くのはどちらになるのか

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Trans Far-East Travelogue㊱

駅に戻り、三崎口に着いてから3分の接続で乗り込んだバスの車内で少し先程の件を話すことにした
「何が原因だったか、訊いた?」そう尋ねると「名古屋で、彼氏さんが台湾にいる少し年配のお友達の親御さんに会ったんだって。そしたら、彼氏さんがその親御さんに日本語で『ホンショーのお二人が僕らくらいの頃は大変でしたよね。特に、2月のあの日は酷かったと聞いてます』と言って会話してるのを聴いて、彼女さんは『ホンショーって何?2月って何かあったの?バレンタインのチョコ作りが大変ってこと?』って言っちゃって、彼氏さん御立腹からの喧嘩別れだそうよ。でも,台湾で2月に大変なことあったの?昭南島占領しか知らないんだけど」と返ってきたので「2・28か…あれは気の毒だよなぁ…にしても、そんなセンシティブな話題をいきなり切り出すのもどうかと思うが、そんなボケかますかね…いくら無知でも、そんな反応されたら俺でも怒るよ。大勢の人の命が失われた悲惨な事件で生き延びることの大変さをバレンタインのチョコ作りと比べるのかよ…」と溜息混じりに返すと「2・28事件?2・26の間違いじゃないの?」と返ってきたので「2・26は日本の軍隊の暴走、2・28は終戦後の台湾で起きた事件で、立場によって見方が変わる、近現代の台湾を語る上で絶対に避けられない、非常にセンシティブな話だから避けるのが無難な話題さ。教育の大切さを教えてくれる歴史的事件でもある」と返す間にバスが目的地の温泉施設最寄りの停留所に着いた
「さぁ、降りるか。このことは後で兄貴とも話すよ。ここでは短時間で入って上がるけど、良いかな?」と声をかけると「そうね。私も彼女さんと話してみる。一応、持ち帰れるようならタオルはドライヤーで乾かすから、時間かかるかもね」と返ってきたので「なら、念の為今乗った奴の折り返しの2本後に乗ろうか」と返すと嫁も頷いている
バスの時間まで、タイムリミットは残り45分だ

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Trans Far-East Travelogue㉟

昼食をとった後、すぐ近くの三浦海岸の砂浜に降り立った頃に俺のスマホが、すぐに嫁のスマホも着信音を響かせるので互いに背中を向けて電話に出る
兄貴が泣きながら「おい、今どこにいる?」と訊いてきたので「神奈川県の三浦海岸だ。そっちは今…浜松かな?」と訊き返すと「名駅まで進んだが、トラブル発生。彼女と喧嘩別れだ」と返ってきたので「兄さん、運転は副長さんに任せて油壺来れそうか?油壺なら、温泉で話聴くぜ」と返すと「油壺?あの特典付きの切符使ってるって聴いたけど,俺が着く頃には日帰り入浴の入場時間過ぎるぞ。弘明寺にも温泉施設あるだろ?そっちで集合にしよう」と返ってきたので「分かった。新横浜着いた時に連絡して。ただ,地下鉄より京急側が近いから京急の駅で会おう」と返すと電話が切れた
同じ頃、嫁の方も電話が切れたらしく、「どんな内容だった?」と訊いてきたので「兄貴が彼女さんと喧嘩したんだとよ」と返すと「同じね。こっちは彼女さんの方から」と返ってきたので「どうする?俺は上大岡の次の弘明寺って駅で待ち合わせになったけど」と返すと「私達は六郷土手って所ね。六郷って何があるの?」と返ってきたので「六郷は…関東ではお馴染みの塩気がある茶色く濁ったお湯が特徴の温泉だね。俺が行く弘明寺の温泉施設にも黒湯はあるそうだ」と返すと「残ったこの一枚,どうする?」と嫁が訊いて来たので「近場で済ませるか…」と呟くと「あっ!ここ良いかも!温泉でタオルプレゼントって書いてある」と嫁が言うので「バスは…今から駅戻って三崎口行けばちょうど良いね」と返すと「決まりね。じゃあ,行こうか」と返ってきた
後に知ることになる
俺達のこの判断は正解だったと

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Trans Far-East Travelogue㉞

横須賀中央の駅に戻ると、運良く特急三崎口行きの電車が入線して来た
その車両を見て俺は驚きのあまり息を呑んだが嫁は
「見慣れない車両だけど,この白い車両ってそんなにビックリするようなものなの?」と訊いてくる「幼少期を象徴する車両の一つがこれなんだけど,もう引退間近でこの一編成しか残ってないんだよ。まさか、それが来てくれるなんて…」と返して乗り込み、「このモーター,音が大きいね」という嫁の一言に反応して「京急に直通してるけど地下鉄の車両さ。地下の駅ではめちゃくちゃこの独特な音が響いていて、昔は『白い悪魔』と呼んで仲間内でネタにしてたんだ。でも、それももう5、6年前のことで今はこの一編成しかない…浅草線ではほぼ置き換え済んだから世代交代の時代か…寂しいけど、仕方ないかぁ…もうこっちも世代交代か」と呟き「世代交代って?」という嫁の質問に「昔はさ、嬉しいことも辛い事も、夢も憧れも、希望も、挫折も全て鉄道が乗せてくれたから俺の心も負担が軽かった。文字通り、鉄道と苦楽を共にしてたと言っても過言ではないのさ。でも、幼少期の憧れと夢、日常を支えた車両は多くが引退した。地下鉄では唯一引退間近の車両なんだよ。でも、それも近いうちに無くなるけど、俺には長い間のお勤めだった鉄道車両の代わりに君と言うパートナーが来てくれた。つまり、これから俺と苦楽を共にする相手が昭和後期から平成初期にかけてデビューした、往年の車両達から君という平成後期生まれの若くて美しい妻に変わった。まさに世代交代と言うべきじゃないかな?」と返し、「じゃあ,巨人は?」という爆弾発言に「原監督と平均年齢30代のベテラン野手陣はまだまだ現役みたいだなぁ」と笑って返す間にも電車は進み続け堀ノ内、久里浜,野比、長沢,津久井浜と止まって行き遂に三浦海岸の駅に着いた
「砂浜,見たかったんだろ?ここから降りると見えるから行こうや」と軽く声かけると「愛し合う2人が砂浜に行く…まるで青春モノみたいね」と返ってきたので「かもしれないな。でも,俺にとっての青春は『鉄道の魅力再発見』かなぁ…」と返すと「私の場合は『貴方の魅力再発見』かなぁ…」と言って嫁が上目遣いで言ってるので「俺を惚れさせた責任,取ってくれよ?」と返すと嫁は「とりあえず,行こうか」と誤魔化している
潮風が高架のホームを吹き抜けていた

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Trans Far-East Travelogue㉝

世界三大記念艦の一つ、三笠の観覧を終え、公園に戻ると港を見ていた嫁が泣きそうな顔で「男同士で話してる時は生き生きとしてるのに、私と一緒にいると作り笑いしなきゃいけないほどしんどいの?2人きりの時は心から笑ってくれないから」と言う
その嫁の表情で現状を悟り、俺も正直に話す
「俺さ、ある漫画を見てショック受けたんだよ。君を見てると特に鮮明に思い出してしまってね」と返して「俺さ、本当はタメで話せるような親しい相手にはお前って呼びたいんだよ。親しい相手に対してお前って呼ぶことは相手が俺にとって特別な存在だっていうことは男同士なら難なく通じるんだけど、その漫画の主人公の女性は夫からお前呼びされるのか不満だし、恋愛系の記事読んでもパートナーから『お前』って呼ばれるのが嫌な女性は多いそうなんだよ…それ知って、大好きな君が相手でも親しみと敬意を込めるのはダメって言われて、俺のやり方を否定された気がしてショックだった。誇張じゃなくて、本当にイジメとか差別で自分を否定されたあの頃と似たダメージを受けて、君の顔を見る度にそれを溜め込んだ。君に嫌われたくなくて気を遣ってたけど、顔に出てたようだな」と続けると「『お前』って呼ばれるのは私も嫌かなぁ」という嫁の一言に「そうか」と返して黙ってしまう
「でも、もっと嫌なのは、大好きな貴方が傷付いてるのを見ることなの。だから原因を知りたかったけど、実は私が貴方にプレッシャーかけてたなんて知らなかった…気付けなくて、そして傷付けてしまってごめんなさい…」と言って俺を抱きしめながら泣いている
「バカ言え。お前に涙は似合わねえよ」
咄嗟に口から出たその一言のおかげで今まであった憑き物が取れた気がして、自然と笑みが溢れた
それを見た嫁が「やっと笑ってくれた…私、大好きな貴方の笑顔はもう2度と見れないと思ってた…」と言うので「気ぃ遣わなくて普通に笑ってられんの、久しぶりだな」と呟くと「私、『お前』って呼ばれるのはあまり好きじゃないけど貴方に呼ばれる分には悪い気持ちしないよ」と返って来たので「ありがたいな。お前みたいな一生モノの相棒にそんな風に言ってもらえるとこっちも気楽だよ。さぁ、次の場所行こうか。行きたい所あるなら俺、調べっから」と返すと「一生モノの相棒って、そりゃ夫婦ならそうなるでしょ」と言って嫁も笑ってる

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Trans Far-East Travelogue㉜

おおむね定刻通り、正確には30秒遅れで俺達を乗せた電車は横須賀中央の1番ホームに滑り込む
「懐かしいなぁ…高校の卒業旅行以来か〜」
思わずそう呟くと嫁が「高校の卒業旅行?そう言えば中学時代の卒業旅行は聞いたことあるけど高校時代は聞いたことなかった」と言って上目遣いになってるので歩きながら話すことに
「俺が君に恋しても会えなくて、一時期めちゃくちゃ苦しんだことは話したっけ?」と訊くと「それは聞いたよ。確か、あまりにも辛くて傷心旅行であの鉄道旅行ったんでしょ?」と返ってきたので「そうだよ。でも、話はあの旅の前に遡る。俺は元々福岡に行く予定だったんだけど、母さんがどうしても韓国の親戚に会いたがってて、それで韓国に行ったんだ。その時、韓国の南海岸に行くことになったから、釜山の港から福岡まで俺だけ船で行く予定を考えたんだけど、宿が取れなくて、高速バスも取れないし、なんなら新幹線はグリーン車しか空いてない、飛行機もダメで帰京できなくて諦めたんだ…それで、仕方ないから中学時代のメンバーで当時の場所を巡るというのを一気に前倒しして、2月のうちに、河津桜と菜の花が咲き誇る綺麗なうちに行くことを提案した。でも、メンバーの1人が勝手に先輩たちに呼びかけて3月に延ばすわ、他の1人は俺が韓国に飛ぶその日しか予定が空いてないって言われてヤケクソになって自分だけ行ったんだ」と言うと嫁は黙って聴いてる
続けて、「その時も今と同じ『みさきまぐろきっぷ』で横須賀中央で途中下車して三笠に行った。
そこのモールス信号打電体験ブースが空いてたから、長文だけど『キュウシュウノ,フクオカニイルアノコニアイタイ。ソシテ、アノコニアエタラ、イマデモダイスキダ。オレハキミノシアワセヲイノッテイルガ、モシコンナオレデモスキデイテクレルノナラ、カノジョニナッテクダサイ。ソノトキマデマッテマストツタエタイ。ハヤク、キミニアイタイ』と打ったんだ。そしたら、自分でも知らないうちに大好きな君と結ばれて、君は俺の彼女になるどころか今じゃ大好きな奥さんになってるんだ。全く、運命ってのは何があるか分からないな」と言って笑うと嫁が「伝えたいことはあるけど、直接じゃ恥ずかしいからモールス使うね」と囁くので何を言われるのかドキドキしながら記念艦に入ると嫁がモールスを早速打っている
その姿は陽の光を浴びる海面に反射して輝いている

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籠蝶造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
こちらは「籠蝶造物茶会」のあとがき…と言うかおまけです。
よかったらお付き合いください。

「造物茶会シリーズ」はぼくの高1の時の空想から生まれました。
ただ、元々は魔術が出てくるようなお話ではなく、人外達がいちゃいちゃ(笑)するようなお話でしたし、キャラクターもナツィとキヲンしかいませんでした(しかも当時は明確な名前がなかった)。
ただ空想の内容が少々えげつなく(お察しください)、空想している自分が辛くなってしまったために全然違うお話にしました。
それが「造物茶会シリーズ」の始まりです。
でも最初の内はキャラ名やそれぞれの設定がかなり違ったり、ナツィとセットなのはきーちゃんだったりしました。
この辺りは空想を続けている内に自分にとってよりしっくりくる方…現在の形へと変わっていきました。
ちなみにきーちゃんがナツィにくっ付いたりしているのは初期の名残りです(笑)

今回はこれくらいにしておきましょう。
いつになるか分からないけど、「造物茶会シリーズ」第3弾もお楽しみに。
また「ハブ ア ウィル」の新エピソードも絶賛制作中で、3月中の投稿を予定しております。
こちらもお楽しみに。

あと最後ですが、ぼくから質問です。
ポエム掲示板を出入りしているとここで自分以外にも小説を書いている人を度々目撃するのですが、皆さんどういうキッカケで小説を書いているのでしょうか?
ぼくはある人がここで長い長い小説を書いているのを見て、真似したくなって始めたのですが…
みんなはどうなのでしょうか?
よかったらレスから教えてください。

ではこの辺で。
テトモンよ永遠に!でした〜

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Trans Far-East Travelogue㉛

「下を見ると古い建物が多いね」という嫁の呟きに「京浜急行は神奈川まで、五街道の一つである旧東海道に沿ってるからね。そりゃ古い建物の一つや二つくらいはあるだろうよ」と返すと「神奈川って県じゃないの?」と訊いてきたので「幕末期の開港の話、覚えてる?」と訊き返すと「元々神奈川開港だったけど横浜になったんでしょ?」と返ってきた
「そこがミソなんだよ。神奈川は日本の大動脈、東海道の宿場町だから人が多くて京から江戸に向かう攘夷派や江戸から京に向かう攘夷派の人が多かった。そんな中に外国人居留地を設けたら紛争が起きてで国際問題になりかねない。だから、少し離れた田舎の横浜村を整備して開港場にしたのさ。でも、そんな事情を知らない他国は『神奈川開港の約束なのに横浜開港は話が違うだろ』と主張して怒った」と説明すると、「日本側は『横浜も神奈川の一部』って主張したよね?」と嫁が言うので補足して「その通りさ。でも、独立している村の名前をそれぞれ挙げて一方は開港場で、もう一方はその一部と呼ぶのは無理があったから、廃藩置県の時に神奈川県を作って『横浜は神奈川県の一部、つまり神奈川の一部だろ?』と主張して認めさせたという経緯があるのさ。そうした背景のもとで神奈川県に横浜市があるんだけど、後に鉄道を敷設した時に東海道線は神奈川の宿場の近くを通過するが駅がないから止まらないのに、駅がある横浜は貿易で栄えたものだから発展した横浜市が勢力を失った元々の神奈川を吸収合併した。そして、その名残は東神奈川とか京急の神奈川駅くらいにしか残ってないんだよ」と言うと嫁は納得したようで、「幕末の話って、私達の原点だね」と言って笑ってるので「その当時の名残を残す地域を走る鉄道で俺の原点とも、青春の集大成とも言える場所の1つに行くからね」と言って俺も笑う間に蒲田のホームに滑り込んだ
かつては帝都と呼ばれ、現在も愛する故郷、東京を防衛する為に置かれた海軍や海上自衛隊の施設の拠点であり、俺が10代になってからは俺には歴史を通じて様々な知識や教訓を与えてくれた大切な街、横須賀にはあと1時間程で着くだろう

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Trans Far-East Travelogue㉚

午前8時5分、予定通り品川に到着した
腕時計を見て「あと5分か…切符急いで買えば間に合うな」と呟くと「任せといて」と言って嫁が京急線改札口へ先に向かうのを見て少し呆れながらも遅れてついて行くと「ご所望の切符、私の奢りね」と言ってお目当ての切符を買っていてくれた
「2100か…先頭はキツイかなぁ」と呟くと「2100形ってどうして分かるの?」と嫁が訊くので「アナウンスで2つドアの当駅始発って言ってるだろ?京急って地下鉄やその先の京成にも乗り入れているけど、2100形は車両が直通に対応してない関係から、下り電車は隣の泉岳寺か品川始発の2択さ」と説明すると、お目当ての快特京急久里浜行きが入線してきた
「青いけど、アレも2100形なの?」と嫁が訊くので「男の子の夢と希望を詰め込んだ青い車両のブルースカイトレイン、通称ブルスカだね。横の窓の形からして、2100で間違いないよ」と少し興奮気味に返すと「貴方ってやっぱり電車好きなんだね」と言って嫁は笑ってる
「夢みたいだな…大好きな人と結ばれて、思い出と子供の頃からの夢が溢れる大好きな車両に乗ってまた思い出の1ページが上書きされるんだから」と呟き、乗り込むと数少ない運転席後ろのボックス席が2人分、それも右側だけが空いてるので2人でそこに座るともう興奮して心臓がバクバク鳴って前面展望どころでは無い
ふと我に返ると、もう気付いたらお気に入りの場所、八ツ山橋を過ぎていた
「よく分からない車両いたから撮ってみたよ」と言う嫁が差し出す写真を見て思わず「嘘だろ」と呟く
新幹線側には滅多にお目にかかれない観測車であり、レア車両として有名なドクターイエロー、そしてなんと在来線側には滅多にお目にかかれない上、お召し列車として利用されたことでお馴染みのE-655系の「和(なごみ)」の並走だったのだ思わず、「子供時代の俺が見てたら卒倒しそうだな」と呟くと嫁が「なんで?」と訊いてきた
「まず、こんなに可愛い嫁さんと一緒でしょ?それから、今乗ってるブルスカ含めて子供の頃から憧れてた車両のオールスターだからね。子供の頃には考えられない、夢のようなシチュエーションさ」と笑って返すと「私にとっても夢みたい」と言って嫁もうっとりしてる
もう間も無く、鮫洲を通過するようだ

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Trans Far-East Travelogue㉙

場所によっては鉄道大国である日本の心臓部、関東と言えど電車の本数が少ない関係で、明日の目的地を早く決めないと困るので嫁に訊いたら、「貴方の思い出の場所が良い」と言うので、電車のダイヤと相談して神奈川県方面へ行くことにしたが、時刻表を見て思わず「勘弁してくれよ」と叫んでしまう
ターミナル駅が身近な場所にある俺にとって、鉄道の利便性はどうしても目的地までの速達性とイコールになるので、ダイヤ改正で優等種別が途中駅にもガンガン止まるようになった小田急や東急線、JRは不便極まりないため湘南方面は論外だ
しかし、京急も日中最速達の「グリラピ」こと快特が思いっきり減便されている上に快特のほとんどが途中の久里浜止まりで、しかも久里浜での乗り継ぎも不便になっていて、終点までは特急ばかりであることに頭を抱えていると、路線図を見ていた嫁が「横須賀中央で降りて三笠見て、特急までの時間稼ぎすれば?」と提案してくれた
最悪、横須賀中央から各駅停車に乗る羽目になっても少し先にある堀之内という駅で乗り換えれば、特急で三崎口を目指せることは時刻表も過去の経験も示しているため嫁の提案を承諾し、お得な切符の使用を前提としてプランを練るが、ここで思わぬ障壁が立ちはだかる
特典付きか否かを問わず、切符がどれも以前よりも値上げしているのだから無理もない
思わずため息混じりに「俺の財布も京急か」と呟くと、嫁が「京急電車のメインカラーは赤、ナンバリングのイニシャルはKK…金欠(Kin Ketsu)のKKで赤字…つまり、財布も京急だとお金が無いってこと?」と訊くので「バレちゃったか…東京モンは金持ちだと思われてるから見栄張ろうとしてたんだけどなぁ…バレたモンは仕方ないか」と笑って返す
すると、嫁が「マレーから殆ど貴方の奢りだったよね…そりゃ金欠にもなるよ」と言って笑ってるので「君の前ではカッコいい男でいたいからな」と笑って返し、気付いた時には日付も変わってたので起床事故を起こさないようにする為にも消灯する
「ライアンの隣にはつば九郎」と言って嫁がいきなり俺の布団に入って来たのでお互いに抱き合うように寝るとなぜか予想以上にグッスリ眠れて予定通りに起きられた
さぁ行こう、俺の青春の集大成とも言える場所へ!

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Trans Far-East Travelogue㉘

朝食を済ませ、台湾のお茶を淹れて嫁と次に行く場所を話し合っていると俺宛に手紙が4通届いた
「住所的に、アイツらか?」そう呟くと嫁が「アイツらって知り合いでもいるの?」と訊いてきたので「国際郵便は元カノの地元からだけど、何故か国内便は新潟からなんだ」と返し、手紙を読んでみると、1通は松山の副長と付き合ってる元カノが新潟滞在時に書いたもの、他はロシアにいる元カノ達がそれぞれの地元から書いた手紙だった
「裏に和訳がある」と言って裏返して渡すと嫁が手紙を読み上げるが、途中から表情が変わる
「『私は貴方に振られた理由が分からず、また貴方の元カノ達と一緒になって貴方に会いに行っても何故避けられていたのか分かりませんでした。でも、今の彼氏を通じて教えてもらった話を聞いて納得しました。貴方とお付き合いしていた当時、私は日本語を学び始めてすぐの頃で貴方が苦しんでいることも貴方が意図的に早口の日本語で喋っていた理由も分からなかったです。試合後、彼が男友達と話した後で『アイツの元カノ達は誰1人として日本の事を知らなかったが故に、アイツは自らが抱えた悩みを話して、解決策になることを提示して要求したら皆傷付くことを知って気を遣ってあまり多くのことを語ろうとしないでいたのに、誰1人としてその配慮に気付かないで酷いことを言い続けたが故にアイツが耐えられなくて振った。それにしてもよく耐えたよなぁ…俺達なら無理だ』と言って男同士での話の内容を訳してくれて初めて知りました。それから、貴方のことを理解して受け入れてくれる優しい人と結婚したことも知りました。奥様は田舎の左遷先で僻地出身の割には頭が良い美人さんだそうですね。彼は辛いことがあると1人で抱え込むので、どうか優しくしてあげてください。お二人とも末永くお幸せに』だって。何故最後に私の故郷がボロクソに言われてるの」と言って嫁がフグのように頬を膨らませているので、「まぁ、東京人のイメージではモノレールが走るの遊園地や動物園かベッドタウンだけだからな。それで北九州も自動的に田舎認定なんだろう。まぁ、言葉は悪いが俺に言わせればまだ見ぬ土地、九州は想像もつかない僻地だから、強ち間違っちゃいない」と言うと「あんなに栄えてる福岡が田舎?そりゃないでしょ。まあ、流石に東京23区には敵わないけど」と言って嫁も笑い出す
知らぬ間に太陽は南から西へ傾き始めていた

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Trans Far-East Travelogue㉗〜この先も、2人で〜

地元を挙げて開催してもらった祝賀会も済み、無事入籍も済ませた上で嫁と2人、実家のベランダで夜景を眺めていると、突然携帯が鳴り響く
高雄の兄貴からだ
「日本の台中からかけてるんだが、聞こえるかい?」「もう清水まで行ったのか。早いな。んで、聞こえているが、どうした?」「一つ訊きたいんだが、良いかな?奥さんも一緒だとありがたい」「勿論、構わねえよ」
そう言ってスピーカーを起動すると嫁も寄って来た
「本題に入ろう。君は実家に帰ったんだろ?この先どうする?」といきなり直球質問が来た
「俺は…博多までは最低でも行こうと思ってる。俺だけ地元にいて、長旅続きなのに縁もゆかりもない東日本にずっといる嫁に悪いからな。故郷の土地でゆっくりして貰いたいし、鹿児島以北なら新幹線で行けるし、沖縄や桃園にいてもあの街は空港から近いんですぐにエアチケ取って飛べばなんとかなるっしょ」と返すと側で聴いていた嫁が「昨日の決勝、覚えてる?前日に何試合も登板した後『君に1人で背負って欲しくない』ってダブルヘッダー登板でもお構い無しに勝ちに導いてくれたでしょ?私も貴方に1人で背負って欲しくないの。貴方と一緒なら、私は故郷を素通りしてどんな所でも行く覚悟できてるよ」と言ってくれた
「君の意思は分かった。なら、俺も応えなきゃな」と覚悟を決めて言うと兄貴が「2人とも、やっぱり相性良いじゃねえか」と笑った後、続けて「流石に新婚夫婦に気ぃ遣わせたかぁねぇから、ルートを変えようと思う。俺達が沖縄着く日に博多を出て韓国経由はどうだ?大連で5時間待ちだけど、空路でアモイ行けるぞ」と言い、「アモイ…そこから金門、馬公経由の基隆で予定通りってことか」と呟くと「その通りだ。どうだ?行くか?」と訊いてくるので「どうする?」と嫁に訊くと暫く考え込んだ後、「彼と一緒なら何処へでも行きます」と言うので、「Port Arthur南北制覇ってことか。面白え、行かせて貰うよ」と笑って答え、俺も承諾する
博多までの手段を訊かれ、嫁に相談すると俺が決めた方が良いと返されるが、決めかねていると嫁が
「満足するまで首都圏の電車乗り回して、どこか新幹線出る駅から新幹線ならどう?」と提案してくれたので「なら、熱海から瀬戸で高松、徳島だな」と返し、全てのルートが決まった
新枕を交わす間に朝になり、地元の朝日も俺達を祝福してくれているようだ

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Trans Far-East Travelogue㉖〜野球大会最終編〜

お立ち台には俺と彼女が揃って並ぶことになった
「昨日今日で連続登板して勝ち星を重ねた秘訣はありますか?」との質問に「秘訣は無いですね。大好きな彼女の笑顔を見たいという気持ちで全力プレーしてたら知らないうちに勝ってました」と答えると、会場は笑いに包まれる
女房役の時の心境と感触を訊かれ、「東京生まれの彼氏に相応しい勝利をプレゼントしたいと思って受けてたら、彼の優しさに気付きました。初回の攻守交代で守る前は『どの球種で抑える?方針があるなら、それに従うよ』とベンチで声かけてくれて、それ以降は攻守交代で守備に入る度に『パターン変えるか?』とその都度確認してくれて、私の意思を最優先にしてくれたので受け易かったです」と彼女が答えたので、球場は歓声に包まれた
兄貴の彼女さんが俺の彼女に手渡すのが見えたが、続いて想定外のことが起きた
「私、貴方のファンです。この紙にサイン下さい」と言って彼女がスッとペンと紙を渡してくれたので、サインしようと紙を見たら嬉し涙が止まらず、汗と涙でロジンを手に付けないと何も持てない状態になってしまった
署名捺印の済んだ婚姻届を渡されたので無理もない
我に返ってすぐ「緊張するなぁ…俺、サイン求められたの初めてだし、それで記入するのが婚姻届って中々無いぜ」と言って笑うと、球場中が静まり返り我々の様子を見守ってくれている
「よし、書けた!捺印は実家でやるか」と言うと「判子ならポケットに入れてあるよ」という彼女の一言に驚いてポケットに手を突っ込むと本当に判子があったので、捺印すると報道陣のシャッター音が聞こえ、その場にいたラジオ局のアナウンサーが「我々は今、歴史的瞬間に立ち会っています。今大会の名バッテリーが夫婦になる瞬間に立ち会っています。まさに、生涯バッテリーの誕生です」と言い出すので「またも野球絡みで流行語か」と笑いながら彼女に書き上がった書類を渡すと彼女が「そちらの区役所に明日の朝提出で良い?」と言い出すので、「こんな形で地元帰るのかよ」と言って笑う
閉会式終了後、着替えを済ませて車内のベッドで仮眠を取り、寝台特急サンライズ号に乗って東京に帰ると朝早くにも関わらず、地元の大通りを通って地元を一周する形の祝賀パレードが行われ、沿道から流れる俺の象徴、読売ジャイアンツの球団歌と彼女の象徴、黒田節が俺達を歓迎してくれた

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Trans Far-East Travelogue㉕〜野球大会決勝編〜

初回は双方とも三者凡退
二回表は4番の兄貴、5番の彼女さんと連続で出塁俺の彼女が打席に立つが守備に阻まれ併殺
俺のフェン直打で先制し、1人残塁のまま攻守交代
裏には元カノに初安打を許すも、彼女の「行くぞ」という叫びを聞き、2塁を見たら盗塁阻止に成功
その後は6回まで両者無得点で試合が進み、7回裏にまさかの外野エラーで逆転を許してしまう
兄貴の「打たせてやれ。俺達で抑える」という叫びに「頼むぞ」と返し、その後は得意の直球フォーク混合技で抑え、8回はチャンスを作るも無得点
裏は俺と彼女でバッテリーの位置を交代し、無失点
ベンチで準備する中、兄貴が「マッチ、俺達の巨人に来たんだから熱男しようぜ」と言い出し、皆頷く
彼女は「私、打つから見てて」と宣言し、フェン直放って逆転、続く俺のソロで3点差に突き放す
裏に抑えると最後に元カノが来る計算ので、彼女が「最後はガチンコ勝負するよ」と言い、俺は頷く
元カノには粘られたが、フォーク三振で優勝
巨人ファンならご存じ、原監督名物のグータッチで兄貴と喜びを表現する
元カノが近寄って来たが、俺は互いの健闘を称えてハッキリと復縁しない旨を告げ、彼女と抱擁する
いよいよ、報道機関の前でヒーローインタビューだ

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Trans Far-East Travelogue㉔〜野球大会決勝直前編〜

決勝で対戦する相手チームの選手2名が負傷して欠員を出してしまい、助っ人が合流するまで時間がかかる関係で、試合開始が少し遅れるとのことだ
そして、姿を見せた助っ人を見て高雄の男衆と彼女は驚き、俺は頭を抱える
何を隠そう、助っ人というのは松山の副長とその彼女、つまり元カノだったからだ
彼女が「貴方の彼女として、私は絶対に元カノ相手に負けられない。だから、私が先発する」と言うが俺は首を振り、「俺は君の彼氏だろう?だからこそ、君に1人で背負って欲しく無い。2人で、俺達のバッテリーで勝てばいい。だから、俺が先発で組んで、勝とうよ」と返すと彼女も頷いてくれた
兄貴は「幼き日の君を泣かせた、あの東北楽天の名投手みたいになるのか…カッコいいぞ。本当はあのショッキングな試合を見た後の君が元気を取り戻すキッカケになった、あの少年野球の試合みたいに俺が先発で君に女房役組んで貰いたかったけど、君にはいい女房役がいるからなぁ…」と少し寂しそうだ
「兄さん、この娘は女房『役』じゃないんだ。この世に1人しかいない俺の大切な女房なんだよ」
そう返すと、彼女は「お願いしやすよ、旦那…私が籍入れる相手はアンタしかいやしないんで」とイントネーションに訛りを残しながらも東京訛りを意識して言ってくれた
一方、元カノは松山の副長と台湾華語で話している
兄貴が「『元カレに一矢報いてやれよ。そして、より戻したいなら戻せばいい』と言ってるぞ」と通訳してくれた
「言ってくれんじゃねえか。絶対負けらんねえな」そう言うと、彼女も「負けとうないわ。絶対勝つで!」と言って燃えている
マウンドの準備が整った
さあ、プレイボール!

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Trans Far-East Travelogue㉓〜野球大会CS編〜

3位決定戦は兄貴が先発し、俺は初めての女房役だ
初回は抑えたが、7回表に逆転を許してしまった
2点ビハインドの一死満塁で相手は強打の四番左打者というピンチの場面で俺の彼女が登板する
タイムを取ってマウンドに上がり、「配球、どうする?」と訊くと「3球目にフォークで振らせるからそれまでは構えたい所に構えて。」と返ってくる
「最初はど真ん中大きく構えるから信じて投げて」とだけ返し、プレーを再開させる
初球はど真ん中からインローに入るスライダーで見逃しストライク、2球目はアウトハイのストレート
そして、3球目のフォークで打たれたが、ライナーを取りサードに送って併殺に仕留める
裏には俺と彼女が二者連続アベック弾を打って振り出しに戻すも、その後両者無得点のまま、9回裏に繋がる
2死走者無し、打席には俺が入る
2-3からひたすら粘る中、彼女がベンチで「塁に出てくれたら、私が決めるから来た球打って」と叫んでくれたおかげで念願のヒットが、二塁打が出た
今度は俺が2塁上から「リラックスしろよー」と声をかけると、彼女がバックスクリーンに打球を入れてくれたおかげで8-6でサヨナラ勝ち
次の準決勝では俺も彼女も控えで、兄貴達が出て決勝に俺が登板することになる
兄貴が完封勝ちしてくれたので、決勝進出が確定だ
次の試合は約1時間後だ

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Trans Far-East Travelogue㉒〜野球大会CS前特別編〜

トーナメント当日の午前6時、兄貴の電話で全員の目が覚める
「兄さん、何かあったのか?」と訊くと「みんな、聴いて驚くなよ」と言うので副長と俺が声を揃えて「「勿体ぶってねえで、早く言えよ」」と返すと
「皆の個人応援歌できるってよ。しかも、NPBの12球団でもう使われない応援歌に限って流用ができるって」と言うので「よっしゃ!これで彼女のために考えてた応援歌使えるな」と言って俺が拳を突き上げて喜びを爆発させていると、兄貴と彼女から「「彼女さん(私)の応援歌?ちょっと聞かせてくんねえ(もらって良い)?」」と訊かれるので「任せな。現役時代の到さんの流用、もとい替え歌だ。強肩強打〜♪彼氏の誇り〜♪そのまま1発〜♪スタンド入れろ〜♪ってな感じだ」と言うと彼女は顔を赤くしてフリーズし、兄貴は「それ、アレだな。お前の彼女と俺の彼女の共用でチャンスverに使える」と言うので「じゃあ、誰のが個人には良いか…」と呟くと彼女が「私のは貴方に任せるけど、貴方のは私が決めるね」と言うのでお願いしてみる
暫くの間、彼女はイヤホンを着けてプロ野球の応援歌を聴いていたが、どうやら決まったようだ
「巨人ファンの貴方には申し訳ないけど、スワローズ時代の廣岡さんの替え歌で考えてみたの」と言うので聴いてみると、「田畑ありし〜♪中武蔵の〜♪都の誇り〜♪その優しさを基準にし橋を繋げ〜♪」という超がつくほどの傑作が生まれた
一方の俺はと言うと、かなり苦戦していた
「巨人ファンとしては、やっぱり巨人のがいいよなぁ…亀井、村田、井端…名曲揃いだけど、彼女に合いそうなのが少ないなぁ…どうすっか」と呟いていると、兄貴から「彼女さんが望んでるのは凝った選曲じゃなくて、お前の選曲なんだよ」ともっともな指摘をされたので、吹っ切れた
「ミューレンなら…」と呟くと、兄貴がハモらせて「『都の彼氏が微笑む〜♪スタンド揺るがす一振り〜♪博多に向けて〜♪ぶちかませ〜♪』か…無難にいけよ」と言ってくれたので、それに決まった
他の皆のは通常版もチャンス版も決まった
俺達のは、と言うと…巨人の久保裕也投手流用で「彼女の期待を〜♪力に変えて〜♪都の誇りを見せつけろ〜♪そのまま入れろよスタンドへ〜♪」ということに決まった
俺達の試合のプレイボールまで、あと2時間だ

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Trans Far-East Travelogue㉑〜野球大会中編〜

俺達の3試合目は兄貴の彼女さんが先発登板して1回3分の1で15失点と炎上し、中継ぎとして俺が登板してその後無失点に切り抜け、女性陣をベンチに下げ、控えていた高尾組の男衆の活躍でなんとか3回に4点、4回に4点取って逆転し、そのまま16-15で勝利した
4試合目は高雄の男衆がバッテリーで俺と兄貴で二遊間、彼女達は控えで臨むがまたも先発炎上で3回表から9回の表まで俺が火消しを行い、逆転のサヨナラホームランで勝利し、5、6試合目は俺の出番なし
全体のリーグ戦最後、かつチーム防御率の関係で俺達はこの試合で勝てば上位3チームに入ると言う意味で運命の決戦である7試合目は2試合目の時と同じバッテリーで俺が先発となる
俺の出番がなかった時に彼女に付きっきりでブルペンで教えてもらった変化球をやっつけ仕事と言わんばかりに投げまくり、7回裏までパーフェクトに抑えるが、こちらも無得点のまま8回裏の1番打者にいきなり三塁打を喰らい、その後連打で5番を相手に無死満塁のピンチになりマウンドに彼女が駆け寄ってきて「どの球種なら確実にストライク取れる?」と訊かれるが答えられずにいると「とりあえず、ど真ん中に大きく構えるから信じて投げ込んで」と言ってくれたおかげで迷いが消え、本塁と一塁でゲッツーを取り、続く6番の打球は三遊間抜けそうなので覚悟を決めて走って一塁に送球して攻守交代だ
9回表の攻撃は兄貴、俺、俺の彼女の打順で始まる
ネクストに向かう俺に彼女が「私、打つから一塁で見てて」と耳打ちしてくれた
気付いたら兄貴は初球から死球で一塁へ歩き、代走が入る
俺は初球を強振して二塁打、無死2、3塁となり彼女のランニングホームランで逆転し、3-1で9回裏の守備に入る
二死一塁の2-3から粘られるも三振に打ち取る
そしてすぐに彼女が駆け寄り、目には涙を浮かべて「このまま勝つよ。私達は優勝に向けて準備してるって所見せないとね」と言うので「心の準備はできてるみたいだな。大濠公園に咲く桜のように美しい勝利を見せつけるか」と返すと「どちらの台詞も廣岡の応援歌みたいだな」と兄貴がツッコんで笑いを誘う
その日の夜、駿河湾の波の音を子守唄に皆明日のトーナメントに備えて眠りにつく
皆気合いバッチリだ

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Trans Far-East Travelogue⑳〜野球大会前編〜

丹那の方から朝日が登り、いよいよ大会が始まる
今日の大会は参加者が多く、8チームが総当たりのリーグ戦を行い、その後上位3チームとシードの1チームで3位以上のトーナメントを行うとのことだ
ルールは四死球及び敬遠、バント、エンドラン、バスター、盗塁は認められて3アウト交代の9イニング制という所までは通常の野球と同じだが、5回終了時点で15点、7回終了時点で10点以上の点差が付いた場合はコールドになるそうだ
いきなり第1試合から俺達のチームが担当することになった
まず、打順が発表される
俺達助っ人組はクリーンナップと6番だそうだ
兄貴の彼女さんは3番一塁、兄貴は四番中堅、俺は5番遊撃、彼女は6番二塁だ
そして、プレイボールのコールがかかる
上位打線が繋いでくれたおかげで一死満塁のチャンスで第一打席が回ってきた
0-3からの4球目、直球を見逃さず振り抜くと誰もが認める特大アーチのグランドスラムの場外ホームランで海に打球落下
続く彼女は2-3から粘って15球目を打って2塁打
その後も打ちまくり、3回終了時点でスタメン全員にヒットが出て、しかも足が遅い俺がサイクルヒットを記録し、皆5回まで打ちまくり女性陣のアベックも相まって30-2でいきなりコールド勝ちだ
試合終了後、運営の人と審判団が話し合っている
そして、本来は試合中の市営球場がキャンセルで空いたとのことで残りの試合をより広い市営球場で行うことになり、第一試合だけやって移動となる
俺達の2試合目となる第5試合で打順と守備位置が変わる
兄貴が3番ショート、俺が4番投手、俺の彼女が5番捕手、彼女さんが6番セカンドを担当する
二遊間とバッテリーがそれぞれカップルであるためか阿吽の呼吸で表の守備はノーノーだ
裏の攻撃に入り、1点リードでノーアウト2、3塁の場面で俺の打席だ
バスターで外野の真上に打球が上がり、犠牲フライかと思われたその瞬間、レフトとセンターがお見合いしてまさかのヒットになる
続く彼女はセンター返しのタイムリーを放ち、早くも4点目を挙げ、彼女さんがツーラン、更に繋がってツーアウト満塁で兄貴の第二打席、決勝点のグラスラが飛び出し、俺も続けてソロを放ち2試合連続で俺と兄貴、兄貴と彼女さん、俺と彼女、女性陣2人のアベック弾4コンボが記録されてまたも圧勝
いよいよ後半戦となる

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Trans Far-East Travelogue⑲

山を越えて静岡県に入り、夕焼けに染まる柿田川公園で休憩と思いきや、兄貴はおもむろに携帯を取って電話に出る
電話を切ったらすぐ、側にいた副長に耳打ちし皆を集めて車に戻り、兄貴から「突然で申し訳ないが、大切な話があるので聴いてくれ。明日、親友が経営するスポーツ関連企業主催で初心者向けの男女混合野球大会が沼津の我入道公園野球場であるのだが、先程の電話で『とある1チームが練習中に負傷者が続出した人数が足りなくなり助っ人を探しているとの連絡があった。経験や性別を問わず、参加してくれる人が見つかったら全員で今日中に直接沼津に来てそのチームの元に行ってくれ』と言われたのでこれからすぐに沼津へ向かう」と言われ、皆納得した雰囲気の中で車は動き出す
俺や兄貴は勿論、兄貴の彼女さんも俺の彼女も出場すると言ったのでカップル2組はスタメン確実、ベンチには残りの男を入れて出場することになった
「本番の球とバットの素材、分かるか?」と訊くと「バットはウレタンかカーボンを選手がネクストに立つタイミング選ぶ形式でJ球、つまり昔のC球の改訂版だそうだ。元々この旅の途中に立ち寄る街に住んでる親戚の子供達と野球で遊ぶ予定があったから、幸い道具は全て積んである」と返ってくる
気付いたら車は目的地に停まったので、外に出て「明日は無双しようや」と言って兄貴に笑顔で声をかけると「彼女には曲がり幅の大きな変化球と火の玉ストレートで緩急付けて甘い言葉囁く癖に、実際の球種は直球しかない人が何か言ってる」と言って兄貴は笑い、俺は恥ずかしさのあまり黙っていると彼女が「私だから受け止められるけど、他の女性には普段貴方が私に言ってるような甘いことは言わないでね」と笑っているが、目だけは笑っていない
「それなら、君も俺以外の男を虜にしないでくれよ?」と返すと「カップルで冷戦始めてどうすんだ」と言って兄貴が笑い、釣られてその場の皆も笑い出す
東京湾とはまた違った輝きを放つ駿河湾の港湾地帯の夜景が輝いている

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Trans Far-East Travelogue⑱

松山の仲間と電話で話す間、高雄の兄貴はこの旅に同行する彼女さんと言葉を交わし、彼女さんが俺の彼女に何かを囁く
こちらが電話を切ってから5分ほどで出発となり,小仏峠を越えて西に行きそのまま甲州街道を進むと思いきや、何故か別の道に入る
狭い山がちの道を通るので「このルートで合ってるの?」と彼女が不安そうに訊いて来るが,俺にはこの道には見覚えがあるので「兄さん、道志道使うのか?」と兄貴に訊くと「津久井から下りるの。その理由は、彼女さんに訊いてね」と彼女さんが答える俺には何となくその理由が分かったので、彼女に「福岡は、君の地元は海水浴場が多いんだろ?と言うことは海が恋しいのか?」と耳打ちすると「何でもお見通しだね」と言って顔を赤くして笑ってる
「巨人の長嶋監督みたいなもんだからな」と言って俺も笑うと「これ以上ない表現だな」と言って他の男衆も笑い、「確かに。彼女さん、純粋、というか天然で時々分かりやすい反応して可愛い娘ね」と言って兄貴の彼女さんも笑ってる
「俺が惚れた女だから、可愛いのは当然だな。それでいて優しいし、一途だし、ある程度歴史に関する知識もあるしで最高な彼女さ。ただ、無自覚なのが怖い」と言うと兄貴が「ケトル使えねえと不便だな新竹飲みてえのに」と言って周りの笑いを誘うが、彼女には分からないみたいで「流石に新築は飲めないでしょ」と言って苦笑いを浮かべてツッコむので「新竹ってのは台湾のお茶だよ。掛川とか狭山みたいに、産地で呼んでるのさ」と言ってフォローすると彼女は間違いに気付いて顔を赤くし、俺は「次世代のアライバ誕生か?」というボケに「確かに、関東が誇る美青年と九州出身の人が組むからそうとも言えるかな。でも、俺の結婚相手はここにいる彼女だから一方の嫌いな所は何か、訊かれた時に『強いて言えば、僕より先に結婚したことです』っていう答えにはならないから違うな」と言ってツッコんで全員で笑うと、「おい、東海道線が見えたってことは近いな」という兄貴が呟くので進行方向を見ると、雄大な相模湾に反射する陽の光を受けて彼女の横顔が輝いていた

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Trans Far-East Travelogue⑯

登り始めてからわずか1時間半で山頂広場に着いた
「あの途中で灯りが所々途切れて橋みたいになってるのが万葉の東歌にも出てくる多摩川、奥の夜景は西新宿…その向こうには俺の地元がある。そして、その更に奥には文京後楽園、桜や彰義隊で有名な上野の山とか下町にある俺の母校がある」と言って2人で故郷の方を観ながら東京で案内しきれなかった場所を解説するが,帰郷してすぐまた故郷に別れを告げて旅立つことを改めて実感し、涙を堪えてるのに、肩が震えてる
「辛い時は泣いたって良かよ。私が付いてる。むしろ,ここまで頑張ってくれてありがとう。地元の近くにいるなら早く地元に帰りたかったよね?それでも,私を選んでくれてありがとう」
その彼女の言葉で堰を切ったように泣き出す
「故郷の山の手台地をもっと見せたかった…1人の男として,東京で,地元でできることは幾らでもあったのに…そう思うとめちゃくちゃ悔しいな…仙台の大敗や博多の2連発の比じゃねえ」と言い切れず言葉に詰まると「貴方は凄いよ。長旅から帰って来たと思ったら,地元の近くで恋人が泊まるからって自分の帰宅を遅らせてまで好きな人に寄り添うなんて,そして自分の地元を離れてでも恋人が地元に帰るなら一緒について行くなんて、私には絶対できん。私はそんなカッコいい貴方が好きだよ」と言って抱きしめてくれるが、山頂で待機してた仲間の1人が茶化して「ノーコンでもカッコいいそこの君,これで涙拭けよ」と言って渡された巨人の黒ユニを見て彼女が「これ,黒ですけど」と返すので思わず「俺の彼女は糸井さんか?糸井さんは現役引退したけど、俺は君の彼氏やめるつもりはないからな?」と言ったら彼女も宮國投手みたいな眩い笑顔を見せてくれたので自然と涙が引っ込んだ
空が白くなり、押上のエセ武蔵(東京スカイツリーは隅田川よりも東、つまり旧下総国にあるのに高さは634mで語呂合わせでは武蔵になる)も見えた
と言うことは、もう間もなく日の出だ

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Trans Far-East Travelogue⑮

京王ライナーに揺られることおよそ25分、夕陽が反射する多摩川を渡る
「分倍河原に関戸の古戦場…この多摩川を挟んだ両岸だったよな…『夏草や兵どもが夢の跡』って俳句が似合うぜ」と呟くと「川を挟むのは合戦の常套だったけど、ここが鎌倉打倒の激戦地…今となっては見る影もないね」と言って頷いている
山梨の丹波山から流れて羽田に注ぐ大河を渡り聖蹟桜ヶ丘の駅に着く
そしてすぐに本日の目的地、高幡不動に着く
清和天皇勅願の元建立された由緒正しい寺の境内に入った途端俺のスマホが鳴り響く
「京八じゃなくて与瀬の駅で明日の朝待ち合わせにしよう。上に1人待機させる」「言わんとすることは分かった。幸い、俺達2人とも服装は動き易い上に運動靴履いてるし上着もあるから彼女に相談してOK出たらそれで大丈夫だ」と告げ,ゴーサインが出た旨を伝えて電話を切る
そして、彼女が好きな土方歳三の故郷を2人で3時間程歩いて巡った後再び京王線の駅に戻り,駅そばの駆けつけ一杯で軽い夕食を済ませて高尾山に向かう
清滝の駅の右にある登山道に入ってすぐ、「久しぶりに登るな…緊張するぜ」と呟くと「高尾山って標高低いんでしょ?そんなに緊張するの?」と返されるが「小6の時に見た初日の出以来の夜登りなんだ。頂上の朝日は言葉じゃ言い表せないくらい綺麗なんだよ。まあこんな綺麗な彼女が、筑紫の女神が側にいるから足踏み外さないよう気ぃつけねえとな」と言って笑うと「私、セイレーンじゃないよ」と言って彼女も笑い出す
皇居のある千代田区、我が故郷の新宿区に次ぐ東京第3の大都会,八王子市の街明かりが背中を照らしてくれる中、夜の1号路をひたすら登り、山頂を目指して歩き出す

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Trans Far-East Travelogue⑭

俺は地元の成り立ちを復習し、彼女は東京について新たな発見を得てそれぞれ満足した面持ちで俺の仲間達が待つ駐車場へ戻る
荷物の積み込みを行なっている新城の仲間達に「悪いな。待たせたか?」と訊くと「想定の範囲内さ。ただ、一つ問題が発生した」とリーダーが一言返す
彼の補佐役で中学時代の後輩だった奴が「先輩、怒らないで聴いてください」と慌てた顔で言うので「どうした?燃費の悪いキャンピングカーを2台も買ったからガス欠で動けないのか?」と訊くと「燃料代は充分にあります。それよりも松山の副長の彼女さんは先輩の元カノで、未だに寄りを戻そうと狙ってます」と真面目な顔で言われ、頭を抱える
そこで高雄の兄貴に「兄さん、それは本当か?」と確認を取ると「すまない。俺の確認不足だ」と土下座されるので「頭上げてくれよ。話が進まねえだろ確か、俺みたいに恋人いる人は何組かのカップルで纏めて一台に乗せて独り身はもう一台だったよな?」と訊くと「その通りさ。なら、松山組は別働隊にするか?」と訊かれるが「別働隊にしても、松山の奴等は免許ないだろ?新城のアイツも彼女持ちでこちらに来るはずだから誰が運転する?」と訊き返すしかない
「新城と松山は皆別働隊、岡山は君達と同乗でどうだ?」と提案され俺も彼女も二つ返事で承諾する
「多摩行って甲信越回って、そのまま西に突っ切るか?多分それが彼女さんの要望にも沿うと思うが」と言われ「それで頼む。伊豆は最悪新婚旅行で行けば良いから」と笑って返し、枕を始めとした旅の荷物をキャンピングカーの後ろの棚に積み込み、まだ新宿通りという名前の甲州街道を西に突き進む
「ここが四谷の大木戸で、少し先の建物が密集してるのが元々の内藤宿さ」と言ってノリノリで解説すると暫くして信号のない場所で車がいきなり停まる
「降りて京王乗って来いよ。お前、鉄道好きだし、幼少期は故郷の新宿と同じくらい多摩で過ごしたから京王線乗ってたんだろ?それに彼女さんが大好きな近藤勇や土方歳三の故郷も沿線だから水入らずの時間過ごして来い」と言ってもらったので「度が過ぎたら俺も妬くけどな。この時間だと3番線からの特急は厳しくても1番からのライナーだな。京八で会おう」と返して彼女と2人で車を降りて地下ホームへ行く
日は代々木のタワーの方から都庁に向けて傾きかけている

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Trans Far-East Travelogue⑬

日が昇り、故郷と暫しの別れを告げる時が来た
巨人ファンだけで構成される高雄岡山組一の兄貴分が手を肩に添えて直々に声をかけてくれる
「いよいよ出発だな。日本シリーズの忌々しい記憶が残ってるかもしれないのに、福岡や大阪に行かせてしまって、欧州から帰って来て早々長旅させてしまってすまない。代わりに、日本国内では温泉で体を休められるように調整してあるよ」とのことだ
「兄さん、俺は光輝くアジアの明日を照らす東京都庁がある新宿区の出身だぜ?地方出身の彼女を送り届けずに故郷に引っ込んだままなんてのは、新宿生まれのプライドが許さねえよ」と笑いながら返すと彼女が「貴方って新宿出身なの?牛込って聞いてたんだけど」とツッコむので、俺が「兄さん、今回の移動手段であの車買ったってことは、鹿児島到着の帳尻さえ合わせられたら、出発の時間変えても良いし、行程端折っても良いんだろ?悪りいけど、出発は歴博行ってからで良いか?」と確認を取ると「お前も大変だな。俺達は2台買ったから、最悪一台は北陸回り、もう一台は東海回りで西を目指しても良い。彼女には事情話して出発遅れると伝えるから、3時間で行って戻って来いよ。後ろにEF65積む余裕作っとくから」と言ってくれたので「EF65ってw青いはやぶさだからって、俺のチャリのことブルトレの電気機関車呼ばわりすんなよwサビ止めも積まねえと…ハンドルサビてっから」と言って笑い返し、そのまま彼女の手を引いて三栄町に向けて歩き出す
タイムリミットは残り3時間、すぐに行けるだろう

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Trans Far-East Travelogue⑪

3人仲良く談笑しながら歩くが、彼女が真剣な表情で「あんなに可愛い元カノと婚約の話まで出てたんでしょ?それなのに、どうして私を選んでくれたの?」と訊き高雄の仲間も「俺達も気になってるんだ。松山組の所にハリコフの娘、同じ頃高雄にロシアの3人来て、俺達も理由が分からなくて『ヨーロッパで鉄道旅してる本人に会って訊いてくれ。今から航空券取って1番早いのに乗ればパリにいる時に追いつく』って返しちまったんだよ」と言う
「それで4人ともフランスに…分かった、話すよ。俺のバックグラウンドが影響してるんだ。それで、君達は俺が幼少期から何に憧れてるか知ってるかな?それが答えみたいなもんさ」と返すと真っ先に「君は東京で生まれ育ったけど、お母さんのルーツは東京はおろか日本にないから三代揃って東京生まれの東京育ちという江戸っ子の定義から外れてることがコンプレックスで本当の江戸っ子に憧れてたんだろ?それは君が彼女さんいない時の会話で分かるよ。多摩弁を早口にしたような江戸っ子の訛りか丸出しじゃねえか」と求めてた答えを全て仲間が言ってくれたので「元カノ達と別れたのは他の人からすれば些細なことかもしんないけど、俺からすればめちゃくちゃイヤなこと言われたからなんだ」と言うと仲間が「江戸っ子の言葉は早口だから『ゆっくり話して』とか『君の日本語聞き取れないから英語に変えて』って言われて傷付いたんだろ?」と訊き俺が黙って頷くと彼女は「そんなことで?」と驚くがその後に仲間の補足を聴いて納得してくれた
「バックグラウンドも含めて『自分を理解して受け入れ、かつ大切にしてくれる人と付き合いたい』、か…君らしいな」という仲間の一言に頷き、「それは俺がずっと求めてきた理想のパートナー像だったんだ。言葉は悪いけどその前提として、ある程度の知識が身に付いた人であって欲しかったんだけど、元カノ達は肝心の知識が俺の求めるレベルに達していないのに愛情だけ重くて気持ち悪かった。でも、君は俺の理想通りのパートナーさ。だから、君を選んだと言えば納得してくれるかな?」と彼女に問いかけると「私を大切にしてくれるのは嬉しいんだけど、なんで私の身近な西日本の話題出さないの?」と訊き返されたので「プロ野球で巨人ファンの心を抉る事件の数々が西日本絡みだから」と答えるとさっきまでの重い話題から笑い話となり、花の15区の夜は更に更けて行く

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Trans Far-East Travelogue⑩

試合はかなりの乱打戦になり、結局負けた
「巨人負けちゃったけど、プロ野球ってこんなに面白かったんだね。こんな面白いと誰だって熱中するし、この楽しみが分からない女の子は振られるよね」と彼女が呟くので「まぁ俺は君がプロ野球の楽しみ知らないからって振ることはないけどね。俺達在京組は複数球団で皆が仲間でライバルだけど、西日本の球団、特に名古屋のドラゴンズ、大阪のタイガース、広島のカープは地元の人から大切にされててるからファンは熱くなるよなぁ」と返すと「私、それで振られたんだね。あの人、カープファンだから…でも、そのことはおしまい。貴方と一緒ならどんなことでも楽しめるかも」と言ってスッキリした表情で笑顔になった
「やっと笑ってくれたな。バッセンでは君の笑顔見らんなかったから心配したんだぜ?」と言って笑うと「昔貴方を振ってまで一緒になろうとした位好きだった男が野球部のピッチャーだったから貴方のストラックアウト見てると当時を思い出して怖かったんだもん。でも、貴方のお陰で新しい発見もできたし、打球が当たりそうな時庇ってくれたでしょ?カッコよかったなぁ…こんな私を好きになってくれてありがとう」と言って俺に抱きついて来る
「自己満足で作ったデートでも楽しんでくれて良かったよ。ただ、明日は君が行きたがってた三多摩寄れるか相談してみるよ」と言って早速電話で台北松山組に相談するが、彼らの応援する西武は今日勝ったので調子に乗ってもう呑んでいるのか電話は繋がっても呂律が回ってない
高雄組と合流して相談すると「三多摩寄るのは良いけど、寝袋とか用意しろよ?」と衝撃の一言が返って来る
「もしかして、東の川向こうに行けば借りられる所が多いアレ手配したのか?」と訊くと「御名答!事後報告だけど、俺達が台湾の原住民の仲間とのコネ利用して買った、飛騨と伊豆のアレ使うよ。それで甲信越回って北上して、関越から圏央で太平洋側出て伊豆、駿州回ろうかなと」と返して来る
「なら、山梨の彼処で良くないか?わざわざ石和まで降りて泊まるのか?」と訊くと「君があの温泉施設に愛着強いと思って最初に提案したんだけど、そこが好きならそこでも良いよ。今回の旅の主役は君達であって、俺達はそのサポート役だからね。那覇から先の主導権は俺達が握らせて貰うけど」と言うので「まぁ台湾は君に任せるよな」と返し、後楽園は笑い声に包まれる

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Trans Far-East Travelogue⑨

朝になり、タイムリミット30分前に家を出る
「スタンド〜超えて打球は〜遥かな夢と続く〜ゆけ〜山田〜新たな時代を〜♪選ばれし猛者集う地で〜強く咲く大輪〜肥後より携えし力〜♪今こそ解き放て〜♪闘志燃やして攻めろよ〜♪投打に輝き放て〜♪勝利をこの手で掴み取れ〜♪」対戦相手のスワローズの有名どころの応援歌を歌いながら自転車で四谷を目指して爆走する
彼女と合流後、最初のバッティングセンター(新宿歌舞伎町)で打撃練習とストラックアウトをしようとするが、彼女は使い方が分からないそうで、俺がお手本として打ち、彼女にはネット裏でバッティングを見てもらう
「筑紫の女神が微笑む〜♪彼女を惚れさす一振り〜♪確かに当てろ〜♪ぶちかませ〜」と彼女にも聞こえる大きさでスワローズでかつて活躍した選手の応援歌を替え歌して口ずさみながら打つと、いきなりヒット級の当たりが連発する
彼女が「お前の出番ゆくぞ〜♪敵を打ち砕け〜♪巨人に勝利の旋風巻き起こせよ-♪」と汎用テーマを歌っている
それを聞いてやる気になり、俺はチャンテ「勝ち取れ」を口ずさみ、ど真ん中に甘く入った最後の一球を仕留めてアーチを描く
「凄いね。最後の最後でホームランなんて。次は私の番ね」そう言って彼女が笑顔で話しかけてくる「小学生の頃遊びでやった野球以来、バッセンでは初めてだよ。さあ、行ってこい。俺はストラックアウトして来るから」と返して別のコーナーへ行く
「今はお付き合いできているけど、将来的に胸を張って堂々とあの娘の隣に立てるカッコいい旦那になるには今みたいなノーコンじゃいられないな」そう呟き、自慢の直球を投げ込みまくる
そのようにして2箇所目(神宮)のバッセンも巡り、3箇所目(東京ドームシティ内)に行く前に後楽園名物大観覧車に乗り込む
観覧車を降りて10分後、俺達の席の最寄りゲートに着いた
さあ、いよいよプレイボールだ

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Trans Far-East Travelogue⑧

彼女はホテルの前で、俺は実家の前でそれぞれ下車してから暫くすると、彼女から電話がかかって来るまずは彼女から一言「明日、空いてる?空いてるなら貴方に明日の予定任せようと思うんだけど」 「空いてるよ。バッセンでもどう?」「バッセンって?」「結構楽しく体動かせる施設さ。そっちから1番近いのは神宮の所だね」一連のやり取りでそう言うと想定外の質問が飛んでくる
「神宮に何かあるの?」「いっぱいあるじゃん。映画『君の名は。』で登場した施設の一つは神宮にあるよ。君と付き合う前に君のことほったらかしにして野球の試合で熱くなった時あったでしょ?あの時に観てた試合会場だったのもその中の球場だし、オリパラ東京大会で有名になった国立競技場もその前のラグビーW杯で有名な秩父宮ラグビー場もある。東京のスポーツの聖地の一つとも言える場所なんだ」と返すと「じゃあ、その後球場で試合観ない?東京シリーズみたいなんだけど」「まず、球場確認しないとね。明日は文京区だってさ」「文京区?何があるの?」「文京区は小石川!小石川といえば東京ドーム!人生の基本でしょ?」「セリフパクったよね?と言うか、東京ドーム?遊園地もあるんでしょ?行きたい!」そう言って彼女が喜んでるのを聞いて「歌舞伎町、神宮、スポドリでハシゴして観覧車乗って試合見れば良いな。よし、プランは大体固まったけど、チケットどうする?」「ネットで取れそうよ。ライトスタンドやね。え?もう明日のプラン決まったの?」「決まったよ。バッセンでガッツリ体動かせるお楽しみコースさ。明日迎えに行くよ」そう告げて電話を切ると、早速錆止めスプレーを用意して自転車を見に行く
「錆止めよし、ブレーキ良し。空気圧も良いな。あの娘のホテルの場所も分かってるし、迎えに行く30分前に出れば良いかな」待ち遠しくて思わず独り言が飛び出る
自転車整備しながら懐かしい曲をかけていると地元近くの高層ビルやタワーを背に西日が輝いている
「明日の準備はこれでよし。応援バットとタオル持っていけば良いけど、またあのフリップ見せつけられるんだろうなぁ…」そう言ってベランダに出ると数多の飛行機が列を成して東京湾に向け飛んでいるのが見える
「副都心近郊のタマワンやビル群のネオンと飛行機の光、やっぱり綺麗だな」そう言って恋が実る前のことを思い出し、物思いに耽って紅茶を淹れる
夜風と紅茶の相性は最高だ

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Trans Far-East Travelogue⑦

6人乗りと4人乗りの車に分乗する
俺と彼女は高雄組の2人と花蓮組のツートップと同じ6人乗りの方に乗り込む
「横浜って意外と良い街だったね」という彼女の一言に全員反応し、「そりゃそうだろ。なんてったって、横浜は俺や幕末の剣豪の故郷、武蔵の一部だからな。廃藩置県の時に県が変わったけど、元々は同じ武蔵国だったんだ」と俺が返すと「でも、トッポは除外しろよ?」と新城のリーダーが指摘するので彼女が「トッポってどこですか?」と訊き返す
新城(花蓮)組の副長が「大船と横浜の間の三駅、分かるだろ?」と問いかけるも九州育ちの彼女が答えられるはずもなく、流石にマズイと思って「その3駅は戸塚、東戸塚、保土ヶ谷だな。まぁ、東京出身の俺達からすれば常識だが、福岡出身の彼女には難問だ」と言ってフォローする
「福岡?内川と日本一奪った泥棒の街かよ」と先輩が吐き捨て、彼女は首を傾げ、俺に「何のことか分かる?」と囁く
俺は彼が大のベイスターズファンであることを覚えており、「確かに、君の好きな球団が彼女の故郷がホームの球団との間に奪われたものが多いのは紛れもない事実だ。しかし、こちらはあの球団に日本一の機会を2度奪われ、黒4どころか黒8連続で喰らって恥ずかしい思いしたし、そちらからは使い物にならない選手が多数送られてきたり、まともに活躍してくれない選手にはそちらで活躍されるし、挙げ句の果てには流行病に選手が大量感染して試合どころではない時にそちらをはじめとした複数球団に追い越されて最終的に三位争いまで持ち堪えたと思ったらそちらの四番にソロかまされてCS出られずにシーズン終了という屈辱を味わった。だから、あの球団だけを責めるのはやめようぜ」と言って諭すと先輩は黙り込み、岡山組の1人が「俺達8人をはじめとした台湾にいる仲間達皆東京出身だけど、応援してる球団がそれぞれ違って仲間内で争ったから同じ球団が好きな人達で纏まって別々の街で暮らすことになったんだよなぁ」と回想してる
「まぁ俺は君がどこの球団のファンだろうと関係なく君を大切にするけどね。君が『女の先輩』って呼んで尊敬してたあの人も夫婦で応援してるチーム違ったし」と言って彼女の頬に口付けすると、彼女は真っ赤になりながら窓を指差し「高層ビル見えたね」と言うので外を見ると故郷の西の高層ビル群が見えた
もう、故郷は近い

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Trans Far-East Travelogue⑥

チェックアウトを終え、山下公園で今後の予定を話し合う
「次の宿は何処か決めたか?」「明後日に笛吹の石和」「それまでどこ泊まる?」「俺達は15の町にいるから別行動になるよ。君は牛で休みな。彼女さんは四の宿ね」と言われたので思わず微笑むが、彼女が「どういうこと?」と訊くので、俺は想定外の質問に驚いて沈黙し、仲間もその理由を知っているので黙り込む
仲間の1人が「15+6+3(15区と6郡と三多摩のことで、東京都の前身)を知らない女と付き合って君は良いの?悪いことは言わないから別れる方が良い」と言い、俺は「彼女は無知かもしれないけど、俺からすれば今までお付き合いした女性の中で1番魅力的だから、彼女の方から別れを切り出さない限り俺は彼女と別れない」と返したら火に油を注いだ形になり仲間割れし出して俺と岡山組副長兼運転手が慌てて仲裁するので彼女は状況を理解できていないようだ
状況が落ち着き、彼女が皆を集めて「どうして私達が別れたら良いって思ったの?」と訊くので8人の仲間の1人が「君の彼氏君も含めてこの場にいる男9人は皆東京15区出身なんだ」と答えると「東京15区って?」と訊き返す
すると、別の1人が「東京の内、江戸城近くの町で明治以降は15区と呼ばれた中心部と6郡と呼ばれた郊外を合併して今の東京23区が生まれたのさ」と答え、俺が補足して「15の町ってのは15区時代の名称で言う麹町区の麹町とか番町の辺り、つまり俺の地元の隣町だからこちらで何かあればすぐに駆け付けられるし、その逆も然りってこと。牛は俺の故郷の牛込だから良いとして、四は四谷区で牛込と麹町の隣だから、そちらで何かあっても俺達がそちらに行ける場所だな。俺達が別れた方が良いと言う提言は、俺が帰国してから地元に帰らず、電車1本で地元に帰れる所で連泊した。そんな俺に気を遣って俺達全員なら分かる言い回しで『実家に帰って休んで来い』って言ってくれた。でも、君が変な発言を勘違いしたせいで、俺が君と付き合ってるのが俺の本心からではなくて罰ゲームか何かのせいだと誤解され、そんな俺が惨めで可哀想だと思った。だから、俺達が別れた方が良いって言ったんだと思うよ。」と発言すると残りの8人が頷く
それを見て彼女が「私が無知なせいでこんなことになってごめんなさい」と言って頭を下げるので、俺たちも互いに和解し、浜風を浴びて帰路につく

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Trans Far-East Travelogue⑤

朝5時頃目が覚めると彼女も起きて、「以前貴方が電話で話した内容が気になってたんだけど、今なら訊いても良い?」と訊いてくるので二つ返事で解説する
「まず、鳳って何のこと?」「鳳ってのは言ってしまえば鳳梨酥というお菓子のことさ。その材料のパイナップルは台湾ではフォンリーと呼ばれていて、漢字で書くと鳳に梨さ。大陸ではまた別の名称があって、漢字は忘れたけど発音はポーローだね」「なるほど。フォルモサは台湾の別名ってことは私も知ってるけど、駅って?」「フォルモサっていうのは元々美しい島という意味で漢字にすると美麗島と書ける。この美麗島っていう名前は高雄の地下鉄の駅に実在する名前で、その駅は改札口の天井のステンドグラスが有名なんだ。だから、そこの写真を送ってくれと言ったんだ。」「言い回しマニアックすぎね。安平、淡水、嘉義は歴史ある町だから良いとして、大神宮跡地のホテルって?」「日本統治時代に建てられた台湾神宮を戦後に国民党政権が解体して跡地に台北で1番豪華なホテル、圓山大飯店を建てたんだ。」「あの赤い建物、ホテルだったんだ〜」「そうだよ。台湾渡航経験者は多分ほとんど知ってると思うけどな」「私はまだ行ったことないけどね。じゃぁ、イングオってもしかしてイギリスのこと?」「そうそう。帰りの航空会社はBritish Airwaysだったからね。アイツらはズーペン、つまり日本、JALで帰国すると勘違いしてたから教えただけさ。他に知りたいことはある?」「冬瓜茶って甘いの?」「めちゃくちゃ甘くて俺には合わないよ。向こうの食堂で何度か出されて飲んでみたら口直しが必要になって濃い味付けの料理食べまくってた経験があるから、俺は好きになれないなぁ」一連の流れでそう言うと彼女は「台湾のことも知ってるなんて凄いなぁ」と呟くが俺は即座に否定する
「別に凄いことじゃないさ。思い出の場所とかこれから行ってみたい場所にはなるべく多くの知識を蓄えた状態で行きたいし、それは大好きな彼女のことをもっと深く知りたいと思う気持ちと変わらない、つまり俺に言わせれば当然の心理さ」と言うと「じゃぁ、私も海外のこと何か学んだ方が良いの?」と訊いてくるので「無理して学ばなくて良いよ。韓国とか台湾行く時は彼氏の俺に君を引っ張らせろ」 そんなやり取りで笑いが絶えない中、日が昇り新たな1日が始まる

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Trans Far-East Travelogue④

夕食後彼女も交えて今後の予定を話し合う
俺がハマスタで翌日に始球式登板となり、その日は解散になる
翌朝はかなり早く起きて鮮やかな日の出を撮る
そして昼にはデートで中華街を巡り、いよいよスタジアムに入る時間になる
対戦カードは横浜対阪神、俺は始球式が終わるとレフトスタンドに座ることになっている
控え室で着替え、ブルペンで肩を慣らす
そしていよいよ俺の出番だ
あの東北の親友が捕手をしてくれるそうだ
リリーフカーから降りた瞬間、数年前に引退した選手の応援歌が聞こえる
「授かりしその力で描いた景色は横浜で輝くおのれの勇姿」というのが原曲の歌詞だが、応援団は「授かりしその姿で〜♪描いた景色は〜横浜で輝く〜彼女の笑顔〜♪」と歌っているので、彼女が照れているのだ
それを見て「360度の大歓声〜♪期待に応え〜♪さあ、投げ込め〜♪」と口ずさみながら直球をアウトローギリギリに投げ込むと、バットが空を切るのと同時にミットに球が収まる
そして、試合は両軍の投手リレーで進み延長10回表、控え投手が両軍とも残り1人になった
そしてベイスターズの控えがイレギュラーで交代し、最後の1人もプレー中の負傷でマウンドを後にしたが交代投手がいないため試合中止となりかけた際、ファンと彼女から背中を押され、始球式以来数時間ぶりに俺が緊急登板することになった
すると、制球難でストライクゾーンの四隅ギリギリにしかボールが入らないはずが凡退の山を築き上げ、裏にサヨナラ勝ちしてしまった
ヒロインの時にサヨナラ弾を打った選手の隣で「大好きな彼女のために投げたら何故か勝っちゃいました。彼女を惚れさせる自信はありましたが、遂に確信に変わりました。男は黙って投げるだけ、俺は彼女を虜にするだけです。」と自信満々に発言するとスタンドがどよめく
そして、ホテルに戻ると彼女が俺を枕に寝落ちして、俺も爆睡した