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蜘蛛の糸

カンダタが糸登りに疲れて、少し休憩と下を見ますと、何と他の亡者達もどんどん登ってきているのでした。あれだけの量の亡者、一人でも切れてしまいそうな細い糸に、どうして耐えることができましょうか。
「こら罪人ども!この蜘蛛の糸は……」
しかしここでカンダタ、言葉を止め考えました。もしも自分が今やろうとしていたように下手に騒いだりすれば、その振動で糸が切れてしまうかもしれない。幸いにもまだ糸は切れていない。では今必要なのは糸への錘を減らす事ではなく。
「おいお前ら!急げ!急いで登って来るんだ!しかし決して下手に糸を揺らすんじゃあないぞ!一人ずつ!一人ずつだ!隙間を作らず慎重に俺のところまで登って来い!」
亡者達がその通りカンダタのところまで隙間を作らずにカンダタの足のすぐ下のところまで登ってきますと、亡者の身体が梯子のような役割を果たし、カンダタの思惑通り糸への負担が軽減したのでした。
(へっへっへ、俺の思った通りだ。今必要なのは『負担の軽減』ではなく『糸の補強』!これで下の奴を踏みながら登っていけば、糸はきっと切れないだろう。極楽浄土へ行くのもいよいよ夢じゃねえな!)
そしてとうとうカンダタの手が、極楽浄土に届きました。そして全身を引き上げると。
「よくやった亡者ども!お前らのお陰で『俺だけは』極楽浄土に辿り着けたぜ!じゃ、お前らはこれからも永遠に地獄で苦しみな!」
そう言って糸を引きちぎってしまいました。
「ハッハッハッハ!こりゃあ良い!こいつぁあ傑作だな!あの阿呆共め、見事に騙されやがって。さあて、極楽巡りでもするか……ん?」
ふと気付くと、彼の身体に何かが覆い被さってその影で周りが暗くなっていたようです。
「ん?一体何だぁ?これは……え」
振り返るとそこには。
「う、うわあ!何だ、何なんだお前!嫌だ、や、止めろ、来るな、来るなぁ、うわあああああ!」
結局彼も地獄へ逆戻り。そこからは皆さんご存知の通り。
極楽ももうお午近くなったのでございましょう。

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世にも不思議な人々をリストアップ8

言葉の旅人A
特別編登場人物の一人。Bは実験台。
能力 揺籃のうた
言葉のイメージを対象に付与する。『水』なら流動性と不変性、『毛筆』ならその吸収力、『吸血鬼』なら日光で灰になったり流水を渡れなくなったりするし、『鰻』ならその正体不明の点から旧支配者になる。『人間』だけはやっちゃ駄目。
作者のコメント
この能力好きなんだけどねぇ。もう出す予定は無い。

言葉の旅人B
特別編登場人物の一人。実験台にされる。
能力 お馬
自分にかかった状態異常を良い悪いに拘わらず0にする。
作者のコメント
そんな能力持ってたらそりゃあ実験台にもされるわな。

ヒトツメコゾウ
向こうの世界からやって来た。比較的新しい異能力者。他の異能力者と違って能力に目覚めたのは物心つく前で、あまり他の異能力者と関わらなかったため(少しは知り合いの異能力者が居たがあまりそのことについて話すことは無かった)、異能力の認識の仕方が他の異能力者と少し違う。
能力
身体のパーツを増やしたり減らしたりする。身体から離れた場所に増やすことも可能で、その場合増やしたパーツの動きは元のパーツに対応する。
作者のコメント
この子もなかなか可哀相なやつですよ。まあしょうが無いね、うちの子仕様の能力だからね。

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世にも不思議な人々61 見せる人その3

「つーかキタさん、どこに行ってたんだ?」
真琴が尋ねた。
「ちょっとハブアウィル次元にねー。バレないように上空600mくらいからこっそり見てただけだったけど、ネロちゃんとコマイヌがじゃれ合ってたり、黎君が他の異能力者から話聞いてたり、セイレーンさんが路上ライブしたりしてた」
「で、キタさん、いや、嵐山斎六さん?一体どういうことなのか説明していただきたいのですが」
初が切り出した。
「キタさんの能力は確か、『普通なら見えないものを可視化する』、だったはずです。空間に穴開けるとか別次元に行くとか、そういうのは範疇の外な気がするんですが」
「良い質問だねぇ。これだよ、これ」
そう言ってキタが自分の右眼を指差した。いつの間にかその眼にモノクルがかけられている。
「それは?」
「オータロー、ラモス、君達も能力発動時に、能力に話しかけられることがあるだろう?」
随分と久し振りの呼び名を使って、キタが説明を始めた。
「僕はあれを便宜上『能力生命体』と呼んでいるんだがね、『生命体』の名の通り、彼らはただ脳内に話しかけてくるだけのものじゃあない。実体があるんだ。その実体のほんの一部だけを借りたんだよ」
「へえ、『具象体』に似てるな」
先程まで離れた位置でネコと遊んでいたぬえが割り込んできた。
「うん、まあそういう考え方であまり間違っちゃいないよ」
「けどさあ、それとさっきの現象、どう関係するんだ?」
真琴が訊く。
「可視化を利用した幻覚の応用編みたいなもんだね。人間は外から取り入れる情報の七、八割を視覚に頼ってるんだ。その視覚を操れれば、偽薬効果の要領で、思い込みだけで幻覚を実体化させることも可能なんだ」
「無茶苦茶じゃね?」
「そこは能力の不思議パワーってことで。一部を借りたときは、どうやら能力の威力も上がるらしいし」
「へー。面白いなー。もしかして僕らもそれ出来たりすんのかな」
「まあ、能力側の気が向いたらね」
「あ、そういやお前、何ていうんだ?」
真琴が突然に吾魂に聞いた。
「あ、ぼ、僕ですかい!?………うん、僕は嵯峨野吾魂だ。それより前の名前はもう良いや。どうせ死のうとしてた身だしな。気が向いたら教えるよ。能力は『どんぐりころころ』。『志半ばにして死ぬとき、その遺志を他者に継承する』能力だ。よろしく」

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世にも不思議な人々60 見せる人その2

「阿呆とは何だ阿呆とは!初対面相手に失礼じゃないのか!確かに考え無しにやって来たのは自分でもどうかと思うけどさ!」
「まあまぁまぁ落ち着け」
キタ、今は嵐山斎六と呼んだ方が良いだろうか、が何とか宥める。
「で、要するに僕が消えればそれで解決ってことで良いんだね?」
「ん、あ、ああ。あんたが死ねばそれで解決よ。けど、どこの世界に自分から進んで死にたがる阿呆がいるんだ?」
「お前十代の死因の一位だか二位だかが自殺だって知ってる?まあこうするんだよ」
キタがそう言って自分の背後に手を向け、直径およそ2mほどの大穴を『可視化』した。
「ん?そんなの見せてどうするんだ?」
「変に騙すとか通用しない気が」
真琴と初は不思議そうにしている。
「こうする」
キタは倒れ込むようにして、そのただの幻覚であるはずの大穴に飛び込んだ。そして、そのまま居なくなってしまった。
「「……ええええええええええええ!?」」
初と真琴が派手に驚いた。
「え!?何今の!?嘘だろ!そのまま入ってっちゃったけど!」
真琴が大穴に手を突っ込む。
「うわっすげえ!ちゃんと空間に穴が空いてる!あの人の能力って可視化じゃなかったのか!?」
「……えっ、あ、じゃあ、これで達成?え、嘘だろぉ……。何かあっさり……」
と、ここで空中に再び穴が開き、そこからキタが現れた。
「えっ」
「また出た」
「え、嘘でしょ」
吾魂も一緒になって驚く。どうやら吾魂になる前の性格が少し出ているらしい。野望達成により先代までの性格は、所謂『成仏』したのだ。

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世にも不思議な人々59 見せる人その1

所変わって、主人公たちの住む街では。
初が本屋に小説の新刊を買いに行き、そこで参考書を見ていた真琴に遭遇し、なんやかんやで一緒に出てきたところにヌエを連れたキタが偶然出会し、その結果、第一コミュニティ+αという不思議な組み合わせが完成していた。
「へー、別次元から来た能力者か」
「マジか。まさかあのハブアウィル次元の人間に会えるとはな」
「そっちではそんなに有名なんで?」
「まあ、少しね」
「じゃあ、お前も『ネクロマンサー』とか『クラーケン』とかと会ったことあるのか?」
「いやー、あんまり他の異能力者とは話さなかったもんで。あ、けど二十五代前の僕が初代ネクロマンサーの誕生を見たことがあるぜ」
「マジで。良いなー」
「良いだろー」
と、そこに。
「やっと見つけたぞォッ嵐山斎六!!」
立ち塞がるように現れたのは嵯峨野吾魂。
「なあヌエ、お前、嵐山って苗字だったりしないか?」
真琴が尋ねる。
「しないなー」
「じゃあ……」
四人が揃って後ろを見た。
「馬鹿野郎共が!後ろにゃ誰も居ねえよ!んな古いネタをやんな!お前だよ!」
彼が指差したのは、何とキタであった。
「「え、えええええええ!?」」
初と真琴が同時に驚く。
「キタさん名前あったの!?」
「いやそれは当然として!そんな古臭い名前だったのか!?」
「悪かったね古臭い名前で。……そうか、君があの『アコン』か。で、何の用だい?」
「あんたには死んでもらう!それこそがもう遥か昔、六代目からの悲願だからな!」
「そんな武器も無しの丸腰でよくそんなことが言えたね。どうやって死んでもらうつもりだい?」
「え、……あっ!考えてなかった!」
「阿呆か」
「阿呆かな」
「阿呆だな」
真琴、初、ヌエの意見が見事に一致した。

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世にも不思議な人々58 受け継がれる人その3

少年は困惑していた。それも当然である。一日のうちに自殺しようとして、謎の老爺に会い、その老爺が目の前で死に、性格が豹変し、突然身体が動くのを止めるという、普通有り得ない経験をいくつも続けざまにしたのだから。
(……一体何だったんだ……?突然性格が変わったと思ったら身体動かなくなるし。大体何だ吾魂って。厨二病かよ。キラキラネーム過ぎるだろ)
身体の動かない中、頭の中だけで考えていたところに、別の何かが語りかけてきた。
『オイコラテメー何ヲシタ?トットト身体ヲ動カセ。野望ヲ果タスノダ』
そこに更に別の何かが割り込んできた。
『残念ダッタナ。コイツニハ既ニ先客ガ居ルンダヨ。ソレガ俺様ダナ』
『アァ?テメーガ原因カ』
『言ットクガ、俺ノガ先ニ来テタカラナ』
『エ、マジカヨ。ケド俺ヲコイツニ送リ込ンダノハアノ爺サンダカラナ』
『ソウイウ能力ナノカ。ソレハヤベーナ。一人ニ二ツ能力ガアルノハ駄目ナ気ガ』
『ケド実際起キチマッタ』
『ジャアシャーナイ』
『提案ナンダガ、俺ガコイツノ脳ミソニ取リ憑イテオマエガコイツノ精神トイフ概念ニ取リ憑ケバ解決ジャネ?』
『メイアンヤナ!明ルクテ暗イ!』
『ソレ明暗』
(何喋ってるんだこいつら?っつーかこいつら何者なんだ?)
少年の身体が再び動くようになった。
「いってて……。転んで身体を打っちまったよ。とにかく!忌まわしき嵐山家の最後の一人、滅ぼしに行きますか!どこ居るか知らんけど!」
どうやら今の彼は嵯峨野吾魂のようだ。
「…しかし、マジでそいつは何処にいるんだろうな?先代までの記憶によると、住んでる街までは割り出せてる……って!殆ど分かってんじゃあねーか!何でやらなかったし!」
『ソレハ能力ヲイツマデモ遺シ続ケルタメダゼ』
『吾魂』の能力が語りかけてきた。
「へえ、そうかい。けどこれ、野望達成したらどうなるんだ?」
『ソシタラオ前自身ノ野望ノタメニ生キロ』
「なるほど。そういうことか。あれ、ますます達成して良くね?」

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世にも不思議な人々57 受け継がれる人その2

少年が慌てて崖の下を覗き込むが、老爺の姿はもう遥かに下方にあり、見ること能わず。
「……何だったんだ今の」
不審がり考えていると、突然少年の頭の中に大量の情報が流れ込んできた。まるで、『六、七百年生き続けている人間の記憶がそのまま彼の頭に移植されているかのように』!
「うぬぁっ、ぐあああああぁぁぁぁああ……」
そして数分後、それが終わったらしく彼は立ち上がった。しかし、どうやら様子が先程までと違うようだ。
「……くフッ。ヒャッヒャッヒャッヒャッ。これが『俺』の新しい身体か。ちょいとばかし運動不足なんじゃあねえのか?」
一人称まで変わり、まるで別人格に乗っ取られたかのようである。
「まあ良いや。……第十三代嵯峨野吾魂。先代の野望は我が身命の全てを以て果たしてやろうじゃあないか」
どうやらガチに別人格関係のようだ。
「さて、先代の野望とは……?なに、『或る血統の滅亡』?ハハッ、こいつは物騒だ!……え?嘘だろ、件の血筋、残り一人って。つまんなっ。頑張って滅ぼせよ。何でそんな微妙な感じで残してたし。しょうがねーなー。俺が達成してやりますか!」
そう言って、崖とは反対側に歩き出した。
ところが、数歩行ったところで突然、まるで操り人形が糸を切られたかのように倒れこんだ。起き上がる気配が見られない。あたかも、『彼の身体が動こうと考えることを止めてしまったかのように』。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ㉕

「…まぁ、な」
彼はくく、と笑って続ける。
「例えそうなろうとも、友達だし…いやだからこそ、か」
そしてちらと斜め後ろに目をやった。
「…あとそれを望んでる人がいるし」
耀平の視線に気づいたらしき黎が、慌てて目をそらした。
「確かにねー…黎ってボクら以外にあんまり友達いないし」
「いやお前も基本おれら以外にに友達いないだろ」
…が、学校行ってねぇからしゃあないだろ、とネロは自分をいじってきた耀平に対して口を尖らせる。
「…そうなんだ」
「…何か悪い?」
わたしの何気ない言葉に、珍しく黎が反応した。
「あ、いや…別に」
「ならいいけど。…別に、こっちは最初ただの抑止力のつもりだったから。それがいつの間にか…」
話の途中で、何か言いにくいことでもあるのか彼の言葉が途切れた。
「いつの間にか…⁇」
その続きは?と言わんばかりに耀平はうつむいている彼の顔を覗こうとした。
「…耀平、それ以上やると軽く首絞められるぞ」
黎が言いたいことに気付いているのか、師郎は苦笑いしながら耀平をとがめた。
え~と笑いながら、耀平はネロと一緒に黎の顔を見ようとしていた。
…わたしは、異能力者はやっぱり只者じゃないんだと思いながら、彼らの平和な光景を眺めているばかりだった。

〈6.ハルピュイア おわり〉

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世にも不思議な人々55 ヌエ

ヌエはどうやら、別次元に飛ばされたようだ。
「おお、飛んだ飛んだ。さて、ここは一体何処なんでしょうね?」
そこに現れたのは、皆さんご存知キタさんだ!どうやら、というよりやはり、ヨニヒト次元だったようだ。
「お、能力者。……?けどちょっと毛色が違う?何だか分からんが、まあ色々見せてもらいましょうかね」
と、彼がヌエに対して能力を行使した瞬間、彼の目に、通常の人間ならば有り得ない量の情報が、『可視化』された。
「うおっ、う、うおぇぇ……。何だ今の。吐き気したぞ。君、本当に人間か?」
「んあ?ええそりゃーもう、太陽が東から昇って西に沈むのと同じくらい確かに、あっしは人間ですぜ」
今度は『あっし』か。
「よっしゃ、もっかいやってみよう」
再び能力が行使された。しかし、今度は何故か何も『可視化』されなかった。
「あれぇ?おっかしーなー。君、何かした?」
ニタニタしながらヌエが答えた。
「あ、また『アレ』が出てましたか。何をしようとしてたのかは分かりませんが申し訳無い。いやね、このヌエ、『より不可解な方向に行く』という能力でして、多分貴方のやろうとしたことが不可解にねじ曲がったんでしょうねぇ」
「ふーん、道理で。しかしヌエ、もしかして他の次元から吹っ飛ばされたクチだったり?」
「しますな」
「ほう。実はつい最近君と同じ出自の奴がこっちに来てさ、まあ君ならきっとこっちでも上手くやっていけるだろう。なかなか良い性格をしているからな」
「そいつは有り難いお言葉。しかし生憎とこちらの能力者事情は全く知りませんゆえ、色々教えてもらいとうございます」
「ああ、喜んで」

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世にも不思議な人々54 一つ目小僧のその後その2

「けどまあ良いや。せっかくのこのこ現れてくれたんだ。今度こそこの次元から消えてもらうぜ」
ヤタガラスがその右手をヌエに向けた。しかし何も起きない。
「……チッ。またか。ホント、お前何なんだ?どんな能力を使うのかも、とにかく異端ってこと以外まだよく分かってないし、全体的に不気味で不可解なんだよな」
「だからいつも言ってるだろう?『不可解こそ俺の能力の本質だ』ってさ」
ヌエが楽しそうに返す。今度の一人称は『俺』のようだ。
「まあ今度こそ上手く行くかもしれないぜ?物は試しだ、もう一度やってみろよ」
「ええ、嫌だね。どうせまた失敗するんだ。無駄なことはしたくないんだ」
「いや、自主的能力者抹殺とかいう究極の無駄は見ないふりですかや」
突っ込んだのはマリアだ。
「まあまあまあまあ。もしかしたら今度は何か起きるかも知れないじゃない?やってみなって!」
強く推すヌエに負けて、遂にヤタガラスもしぶしぶ再び能力を使うことにした。
「どうせ無理なんだろうが、そんなに言うならやってやんよ!消し飛べ異端者!」
能力がヌエに到達する瞬間、彼の目が何色かに光ったように見られた。そして、その直後には、彼は跡形も無く消えていた。
「……何だったんだ。これまで五回やって全部見事に失敗してたんだぞ。なぜ今更消えるんだよ」
「別次元に吹っ飛んだだけだって。けど何で消えたんだろうねー?消えない方に五百円とか思ってたのに」
「賭け金どこに払うんだよ」
「さあ?しかし何故に消えたんでしょ?予想外」
「全くだ。まさに不可解だよ」

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世にも不思議な人々53 一つ目小僧のその後その1

こちらはRNテトモンよ永遠に!さんのハブアウィル次元である。とある男女の双子が一つ目小僧君をヨニヒト次元に飛ばした後の話である。
「……よし、これでお仕事終了ってわけだ」
「しっかし兄上もなかなか酷いことをするねぇ。人一人この次元から消し飛ばすなんて」
「いやお前兄上なんて言うキャラじゃ無いだろ。それに、お前のせいで他次元に飛ばすだけになってるわけで、お前の邪魔が無きゃあいつは完全に消せてたんだからな」
「だからー、そういうところが物騒なんだってば兄さん。私が居なきゃやってることただの殺人だからね?」
「知ったことか。異端は消えて然るべきだ。ってか『兄さん』呼びもお前のキャラじゃねえだろ」
「特大のブーメランですが」
「次元の番人なんだ。多少は許されるさ」
「自称だけどね」
「で、お前はさっきから何をこそこそと見てるんだ?出て来いよ」
物陰から出てきたのは、ニタニタ笑いを顔に貼り付けた何とも不気味な少年だった。年の頃は十代後半といったところだろうか。
「いやー、お久しぶりですねー『ヤタガラス』、それに『マリア』」
「おー、つい三日前にも会ったけどな」
『ヤタガラス』と呼ばれた男子の方が答える。目はまるで金属のように銀色に輝いている。
「貴方はいつも『久しぶり』と言いますよね」
『マリア』も言う。こちらの目の光り方は太陽光のように真っ白だ。
「いやいや、この私にゃあ三日も十日も花薄荷も関係無いんでね」
「いや今一個関係無いのあったぞ、『ヌエ』」
どうやらニタニタ笑いの少年は『ヌエ』と云うらしい。
「個人的にはチェシャ猫の方が良かったんだけどねぇ。ほら僕っていつもニタニタ笑ってるじゃない?」
一人称がいつの間にか『僕』になっている。

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世にも不思議な人々52 一つ目小僧その5

「さあ、さっき言ってた『あの双子』について聞かせてもらおうか」
「えぇー、嫌だね、たとえ負けてもお前らのことなんか嫌いだから教えてやんねー」
「安芸ちゃん、ゴー」
「了解!」
安芸がゆらりゆらりと一つ目小僧君に近付いていく。
「え、何、え、ちょっ、待っ、止め、ぎゃあああああああああああああああああ!!!」

「……さて、教えてもらうよ」
「う、うぐぅぅ……、だ、誰が教え」
「安芸ちゃん」
「りょうかーい」
「え、いや、止め、止めて!分かった!話すからさ!あれだけは!あれだけは許せ!」
「さあ話せ」
「あれは今日の昼間のことだった。突然変な二人組が出てきて、『お前の能力はこの次元じゃ異端過ぎる。悪いが消えてもらう』的な発言をしてきて、で、気付いたら周りは夜で知らない場所に居たと。それが事の次第だ」
「わーお語彙力の低さよ」
伏見がからかうように言う。
「うっせ」
「ところで、君のいたところじゃ、能力ってどんな感じだったんだ?」
「異能力者は能力発動時に目が光って異能力者としての別の名前になるんだ。俺のは『ヒトツメコゾウ』。『自分の身体のパーツを増やしたり減らしたりする』能力だ。あと前の異能力者の記憶も受け継ぐ。確かに異端だわな。ってあれ、そう考えると俺をこっちに飛ばしたあいつらはどうなるんだ?」
「気にするなよ。まあ、この次元じゃあ全てを受け入れるから。こっちで楽しくやるが良いさ」

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世にも不思議な人々51 一つ目小僧その4

「で、どうやって僕ら二人から逃げるつもりなんだい?」
伏見が一つ目小僧君に尋ねる。
「こうする」
そう言って一つ目小僧君が、両手を前に突き出した。
「これが俺の能力だ。まず、手首より先のパーツを『減らす』」
その言葉通り、彼の両の手首から先が消えてしまった。
「次に、そこに肘から先のパーツを二股に『増やす』」
更に手首のあった辺りから、腕が生えてきた。
「これを新しく『増やし』た腕でも繰り返す。手首から先を『減らし』、腕を『増やし』、これを繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して!!!」
そうしてみるみるうちに増えていった彼の腕が、網のように上手いこと絡み合い、伏見・安芸を囲う檻となった。
「どうだ!これで逃げられないだろ!あとは少しずつ腕を『増やし』ながらじわじわと逃げていけば、俺の勝ちって寸法だ」
得意気に言う一つ目小僧君。我らが万能二人組は何も言わずにその檻を見ている。と、安芸の方が口を開いた。
「……こうして見ると、人の腕で出来た檻って、強度云々よりも精神的な面で脱出を阻んでますよねぇ……。隙間から逃げ出せないでしょうか?」
伏見も返す。
「いや、多分そこにまた腕が『増やされる』んだろう。これは見事。なかなかどうして詰みなんじゃあないか?」
そう言っている間にも、一つ目小僧君はじわじわと後退して確実に距離を離している。
「まあ、僕らには関係無いんだが」
ジッパーの能力で、二人はいとも容易く脱出。
「え……嘘だろ……。何なんだお前らは!?」
安芸が答える。
「万能能力者です」
伏見も続く。
「多機能能力者だ」
どうやら一つ目小僧君も観念したようだ。

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世にも不思議な人々㊿ 一つ目小僧その3

さて、あの二人から逃げた一つ目小僧君だが。
「…一体何だったんだよあいつら……。異能力者だと言ってはいたけど、だったらピンとくるはずだろ…?大体あの双子に会ってから全てがおかしな方向に進んでるんだ。全く、今日は厄日だぜ」
「『あの双子』?気になるな。それについて詳しく良いかい?」
突然、どこからか現れた伏見が話しかけてきた。
「うおわあっ!何でいるんだ!?確かに撒いたはず!」
「いやー、チャチャさんの能力、本当に便利ですね。もう私並みに何でもありじゃないですか」
伏見の後ろから安芸の方も現れた。
「ああ、そうそう、ジッパーの能力。『次元を超える穴を作る』、まあワームホール製造能力と思ってもらえれば」
「おいこら無視すんな!」
「え?ああ、ごめんごめん。で、さあ、話を聞かせてもらおうか」
「ああ、いや、別に、むしろお前らとは居たくないんだが」
「そうかい?けど君は僕らからは逃げられないんだぜ?諦めた方が良いんじゃあないか?」
「……いいや。そりゃあ確かに俺の能力は、手品みたいなしょぼいもんだけどよォ…、これでも異能力者の端くれだ。そして何より、俺は負けず嫌いなんだ。つーわけで、何としても逃げさせてもらうぜ」
そう言った一つ目小僧の両目は、少々不思議な表現だが、『真っ黒に光っていた』。

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世にも不思議な人々㊾ 一つ目小僧その2

「つーかーまーえーたァッ!」
伏見は一つ目小僧のほぼ真上から首と右腕を、安芸は地面を這うような低い姿勢で両脚を捉えた。
「よーし捕まえた……ってあれ?何だこれ?」
しかし、彼らが捕まえたのは、一つ目小僧のものらしき右腕と両脚の膝から下、そして生首だけだった。
「うわっ、気持ち悪っ」
伏見がそう言っている間に、それらは消えてしまった。
「……お華さんや、どう思う?」
「これがあの一つ目小僧の能力なんでしょうね」
「もう一度だ。今度は声を出さないようにしなくっちゃね」
「やっぱりあれが原因でしたかね?」
再び追跡開始。今度は無事に組み伏せた。
「ぐああ、離せー」
既に人間の顔に戻ってしまった一つ目小僧が抵抗する。
「いいや、駄目だね」
「一体何が目的だ!?金なら無いぞ!」
「いや、別にそういうんじゃあ無いんだ。ただ君さ、能力者なんだろ?僕らも同類だからさ」
「え!じゃあお前達も異能力者なのか!?」
一つ目小僧を組み伏せたまま、会話が始まった。
「ああ、その通りだ」
「へえ、じゃあいつその能力に気付いたんだ?」
「いや、別に、手に入った時に自覚したんだが」
「ん?じゃあそっちの子は?」
「んー、気付くっていうのはちょっと変な言い方ですね」
「思い出した、の方が正確か?」
「いや、後天的に身に着いた能力だし」
「……は?」
一つ目小僧が倒されたまま、右手を軽く握った。その瞬間、伏見の腕と言わず、脚と言わず、頭と言わず、首と言わず、肩と言わず、腹と言わず、体中に人間の右手のようなものが取り付いた。
「うわ、何だこれ」
「お前ら一体何なんだ!?少なくとも俺の仲間でだけは無いね!」
そう言って軽く右手首を上げると、その動きに対応するように取り付いた右手が一斉に伏見の身体を引っ張り、引き剥がした。
「後天的、だぁ?何ふざけたこと言ってるんだ、能力は前世から引き継がれるもんだと相場が決まってんだぜ!」
そして一つ目小僧はまた逃げ出してしまった。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑱

「…ねぇ鷲尾さん、”悲劇”って…」
思わずわたしがそう尋ねかけた時、わたしの言いたいことに気付いたのか耀平が話に入ってきた。
「…例えば、”魔女狩り”。そこのハルカとかいう奴が言いたい悲劇はこういうのだろう」
「まぁそんなところね」
そう答えて鷲尾さんはちょっとだけ間を置く。
「…まだ魔法や神が、当たり前のように信じられていた頃の話よ。ふとした時に能力を使っているところを見られたり、常人とは違うような挙動を見せたりすると、色々疑心暗鬼になりすぎている時代だったから、”魔女”だとか”魔法使い”として狩られていったのよ」
「…え」
わたしは話の内容に絶句する。
”魔女狩り”という言葉は知ってたけど、まさかその裏に”異能力者”の存在があったなんて。
―それなら、鷲尾さんが常人に異能力がバレるのを嫌がるの事に納得がいく。
異能力者は前に同じ能力を持っていた人間の記憶を引き継ぐ。だから、その時代の事もよく分かっていたりするのだろう。
実際、”魔女狩り”っていうのは凄惨なモノだったらしいから、あれほどではなくとも、”異能力”のせいで痛い目に遭うのは1番嫌に違いない。

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世にも不思議な人々㊽ 一つ目小僧その1

人通りの絶えた夜道を、二人組が歩いていた。
一人は、まだ秋なのに冬用の暗い色のロングコートを着てフードを目深に被った長身の青年。もう一人はその彼より頭一つ分強背の低い少女。ぱっと見誘拐の現場だがどうもそうでは無いらしい。ご存知、チャチャこと伏見清次とリータこと安芸華世である。
「しっかし君、お華さん、何でこんな夜遅くにこんな人通りの無い場所にいたんだ?危ないんじゃあないか?」
「ちょっと外出先で用事に手間取りまして。チャチャさんは?」
「僕も同じような感じだな。……っと、ちょっと安芸ちゃん、こっち」
そう言って伏見清次が安芸華世を街灯も無い細い横道に引っ張り込んだ。最早事案。
「どうしました、チャチャさん?」
「いや、ほら、僕らの少し前方、一人歩いてる奴が居るだろう?」
確かに、彼らのおよそ50m先を一人、歩いている人間が居る。
「はい、居ますね」
「奴がそこの十字路を横切るときに、ちらっとカーブミラーに顔が映ったんだが」
「よく見えましたね」
「そいつの目、一つっきりしか無かったんだ」
「え……。つまり、一つ目小僧?」
「………」
「………」
「……捕まえるか」
「捕まえましょう」
「よし。君は下から、僕は上から攻めよう。この距離、詰められるか?瞬間移動とか」
「はい、『5m』ずつなら」
「よし来た!」
伏見清次は輪ゴムのバリアを空中に展開し、その上を走り出した(今回はスニーカーを履いていないので、例の高速移動は出来ないもよう)。安芸華世は短い瞬間移動を繰り返して一気に距離を詰め、二人ほぼ同時に彼の一つ目に飛びかかった。

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世にも不思議な人々をリストアップ7

モブ男子
モブ。もう出てこないと思う。
能力
過去に起因するあらゆる知識・情報を知り、アウトプットできる。
作者のコメント
もう出ないとは勿体無い能力者だ。

モブ女子
モブ。もう出てこないと思う(2度目)。
能力
『忘れる』ということを司る能力。『忘れる』能力であり『忘れさせる』能力でもある。また『忘れない』能力であり、かつ『忘れさせない』能力でもある。更に、忘却の彼方にある記憶を引っ張り出す『思い出す』能力であり『思い出させる』能力でもある。ついでに『思い出さない』能力であり『思い出させない』能力でもある。こう書くと記憶操作に誤解されるかも知れないが、飽くまで『忘れる』ということに起因した操作しかできない能力なので、悪しからず。
作者のコメント
もう出ないとは勿体無い能力者だ(2度目)。

生き物好きの少年
小五。生き物が好き。人間以外のあらゆる生き物を有害有益に拘らず深く愛している。別に人間嫌いというわけではなく、他の動植物に比べて興味が湧かないというだけなのでご安心を。
能力 かえるのうた
ヌシと認識した動植物を神格化する能力。
・神格化された動植物は寿命が大きくのびる。具体的には50年〜100年ほど。
・神格化された動植物がいる一帯はその生物が生きて居続ける限り生態系が保全される。
・神格化された動植物は高い知能を持ち、場合によっては会話さえ可能になる。
・神格化された動植物はごく稀に特殊な能力を手に入れることがある。
作者のコメント
まさか三人とも名前が出ないとは思わなんだ。人間、動植物と神格化シリーズも増えたし、次は付喪神量産かな。

2

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑬

「…これはこれで大変な事なんだよ。常人がこういう”モノ”を知ってしまったらどうなるか…分かってる? ねぇ」
鷲尾さんは少し強めの口調で言った。まるで人を責めるように。
「ちょ、ちょっとハルカ、強く言いすぎだよ。相手は年下なんだし…」
ネロに対して強めに喋っているハルカを、亜理那は苦笑いしながら諫めた。
その様子を見ながら、わたしはこの2人を”彼ら”4人に会わせるのは間違ってたのかな…と思った。
…この通り、目の前の鷲尾さんとネロは気まずい状況だし。
あとの男性陣3人は、警戒しているのか揃ってわざとらしく関係ないフリをしているし。
まぁ、ここはショッピングモールとはいえ、人気のない階段の踊り場だから、最悪修羅場みたいなことが起こっても被害は抑えられる…ハズだ。
「…とりあえず、どうなっても知らないわ。またいつかの時代みたいな事が起こっても、アンタたちのせいだから」
「…アンタ」
鷲尾さんが冷たく言い放ったところで、ネロが静かに口を開いた。
「何? 何か異論でも…」
そう鷲尾さんが言いかけた時―
「…お前ぇぇっ!!」
不意にネロが鷲尾さんに飛びかかりかかった。

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世にも不思議な人々㊼ 敬う人その3

例の男性、キタさんが言うことには、あの少年も能力者なんだと。詳細は、『ヌシだと認識した動植物を神格化する』能力なんだとか。似た能力に覚えがある気がします。
「……で、キタさん。何故に彼に言わずコソコソと話してるのですか?」
「能力者ってのは引き寄せ合うものだからね。あんな小さい子がそれ絡みで面倒な目にあっても可哀相だろう?」
「そういうものですか……。あ、そういえばキタさんってどういう能力なのです?何か私達のこと色々知ってるようですが」
「そんな簡単に教えるわけ無かろう?まあ教えるけど。僕の能力は『普通なら見えないものを可視化する』というものだ」
「何でもあり過ぎません?」
「何でもありだよ」
謎が解けました。良かったです。
「そういえば、僕の知り合いにまだ何人か能力者が居るんだぜ」
「ほう、それは興味深いです」
「何話してるのー?」
あの少年がヒキガエルと話すのをやめてこちらにやって来ました。
「ああ、ごめんね、放ったらかしちゃって」
「さて、僕はもう行こうかね。ヒキガエル様によろしくと言っておいて」
「はーい、さよーならー」
キタさんは行ってしまいました。
「ところで魔法使いのお姉さん。あの人誰だったの?」
「さあ?けどよく私が年上だと分かったね」
「何となく雰囲気で」

2

世にも不思議な人々㊻ 敬う人その2

彼の不思議な少年としばらくお話していると、どこからか大きめのヒキガエルがのたのたと私達の方に這いずって来ました。
「あ!せーあ様だ!ほら、あれがせーあ様だよ!格好良いでしょう!」
「おー、ヒキガエルだ」
すると、そのヒキガエルが話しかけてきました。
『ヒキガエルとは何だ。我こそはこの一帯を仕切る土着の神、青蛙神にあるぞ。頭が高い!』
いや、カエルに頭が高いなどと言われましても。まあ穏便に済ませたいので言う通りにしましょうかね。私は屈んで目線を少し低くしました。
「申し訳ありません青蛙神様。ところで失礼を承知でお尋ねしたいのですが」
『何だ?』
「一体貴方様はどのような出自で?」
『出自?そんなものは知らぬ。気付いた時には既にこの世に在った。ただそれだけのことだ』
「ほう。……もしかして、そこの少年が関わっているとか、そんなこと無いでしょうか?」
『厶、彼奴か?さあ、我も所詮は産まれて幾らも経たぬ新参故、知らないことなど山とある』
ふーむ、彼の少年が一枚噛んでいると思ったのに確証が無い。
そんなこんなを考えておりますと、やけに背の高い、と言っても住之江少年よりかは少し低い、それでも細いせいでより背が高く感じられる男がやって来ました。
「む、これは奇々怪々。ヒキガエルと子供が話してら。……ふーむ、而してそれなら何もおかしくないか」
何やら訳を知っている様子。
「えーっと……すみません。これについて何か知ってるのです?」
「うにゃ。けどさっき見たお陰で分かった。ところで君もそこの少年も、僕らの仲間なのか。どんな能力なんだい?」
なぜ私が能力を持っていると知っているのでしょう。雰囲気も不審者だし近寄りたくないです。
「今君は『なぜ自分が能力を持っていると知っているのだろう。雰囲気も不審者だし近寄りたくない』って思ったろう。……君は次に『な、何故私の考えている事が!?』と言う」
「な、何故私の考えている事が!?……ハッ!」
「そういう能力だからだよ。僕のことはキタと呼んでくれ」
その男、キタさんは随分親しげに言いました。

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世にも不思議な人々㊺ 敬う人その1

どーも皆さん私です。能力名『蛍の光』、住之江少年を治す少女です。
先日、ふと気まぐれに外に出かけたときのことです。
用水路の縁に座り込んで一人で楽しそうに話している男の子を見かけたもので、奇妙に思い近付いてみたのです。背丈は私と同じくらいだったので恐らく小学生でしょう。
どうやら用水路の中の何かに話しかけているようです。普通なら小二病かと思って放置するのですが、今回ばかりは何か直感が働き、つい話しかけてしまいました。
「ねえ、君、何と話してるの?」
「んー?あなた誰?」
「私?んー、魔法使いだと思ってもらえれば」
「ふーん、そりゃ随分と怪しい肩書きだ」
「で、何と話してたの?」
「せーあ様と話してたの」
「せーあ様って?」
「せーあ様はカエルの神様だよ。この辺りのヌシをやっていて、小さい生き物達はみんなせーあ様を敬ってるの」
せーあ……青蛙(せいあ)神のことかな?
「へー、そのせーあ様は昔からここにいるの?」
「いやー?昔は居なかったんだけど、少し前から出てきて一緒にお話をするようになったの」
「ふーん。そうだ、君、名前は?」
「えー、先生が知らない人には名乗っちゃいけないって」
「それならしょうが無い。君、最近見えない何かに話しかけられた覚えは無い?」
「うーん、無いなー」
「じゃあ頭の中に音楽が流れてくることは?」
「僕音楽好きだから、そういうのはいつものことだしなー」
「じゃあ最近、決まった曲が何度も流れてきたことは?でなきゃ、そのせーあ様と話すときとかにも」
「うーん……、あったような……無かったような
……ってあれ、せーあ様居なくなってる」
「あららごめんなさい。私と話してる間に」
「良いの良いの。せーあ様とはいつでも話せるから」

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世にも不思議な人々をリストアップ6

此花陽太郎(ヨースケ)
中学校の頃のあだ名がヨースケだった。他に陽の字がつく奴はいなかったらしい。陽介には面白いのでヨースケと呼ばせている。周りからは感情を素直に表す明るい奴だと思われているが、その実その心の中は中々のカオスであり、心中を読むのは難しい。
能力
認識した足場には、それがどんなものであろうと乗ることができる。空中の砂粒にも、尖った針の先にも、飛んでいる羽虫の背にも、風に揺れる笹の葉先にも、本当に何にでも乗れる。もちろん足場に固体の要素は不可欠。ゲルとかダイラタンシー現象はセーフ。恐ろしいのは、ただバランスがどうのという話ではなく、ただ『その足場に乗れた』という結果だけを定着させる能力であるという点である。
作者のコメント
読みは「このはな ようたろう」。バランス感覚が良かったんだと思う。童謡を考えなくて良いのすっごい楽です。

岸和田陽介(ヨータロー)
中学校の頃のあだ名がヨータローだった。他に陽の字がつく奴はいなかったらしい。陽太郎には面白いのでヨータローと呼ばせている。周りからは感情を表に出さないクールな奴と思われているが実際は感情的で表情もコロコロ変わる。ただその変化が小さいのである。
能力
『何か』を召喚する。『何か』は対象の視界の端ギリギリに出現し、視界の隅をキープするように歩き、歩行速度より早くそちらを向かれた場合は瞬間移動する。この『何か』には対象の注意を引き寄せる性質がある。ちなみに『何か』の正体は長さ60cm程度の竹ひごのような存在である。
作者のコメント
目立つのが嫌いだった結果、こうなりました。読みは「きしわだ ようすけ」。もし僕にスタンドが発現してもこんなのだな、みたいな能力。

仕出原 栄人(神か少年)
「お前神かよ」が口癖。
能力 とおりゃんせ
神だと思った人間を神格化する。たとえ冗談でも僅かにでもそう思ったのならばその人間は神になる。
・神格化された人間は長寿になる。(150歳くらい)
・神格化された人間は生命力が向上し、多少の怪我はすぐ治る上、病気にも強くなる。
・神格化された人間は、そのジャンルに由来した能力を手に入れる。
まさに現人神量産の能力。
作者のコメント
読みは「しではら はるひと」。彼の存在はこの作品の能力の可能性を広げてくれた。

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世にも不思議な人々をリストアップ5

トカゲ氏
トカゲだった男。
能力 黄金虫
他者に暗示をかけられることによって別の生き物になる。人間以外のあらゆる生き物が変化の対象となり、植物や菌類にもなり得る。ウイルスは無理。
作者のコメント
彼の友人はこの後無事ボコボコにされました。彼については名前は考えてないです。

住之江 俊介(大男)
身長七尺に届くほど長身の初の同級生。先天性の能力者。
能力 パフ
あらゆる事象が彼にとって害にならない。その影響で危機から人間を守るためにある反射の仕組みや痛覚が無い。だから辛いのも平気。更に出力を制御するための身体のブレーキが無いため、通常ならあり得ないパワーが出せる。身体はボロボロになる。なお、彼の能力は不死とも言えるが、治癒はしない。メラニンや白血球はなぜかある。
毒や病は効かないが、所詮はタンパク質の塊なので強酸かければ爛れるし、燃やせば炭化するし、首を切り落とせば首から下は神経が切れるので動かなくなる。しかし細切れになろうと蒸発しようと食われて消化されようとそれらは彼の害になり得ないので、治せれば元に戻る。
作者のコメント
読み方は「すみのえ しゅんすけ」。中学校時代の友人との『何も害にならない能力があったら毒とか病気とかアレルギーとか平気になるんじゃね?』『それ、失血とかそういうのも平気にならない?』『実質不死身だ!やべえなww』みたいな会話から誕生した能力です。

少女
住之江と仲の良い少女。計算すると背丈は140無いことになる。不登校。過去に何があったかは不明。最近住之江の小指の先の部分を切り落として治療用に引き取ったそうな。何それ怖い。
能力 蛍の光
何かで突き刺すことによってその人間の外傷を全て完全に治す。刺すときは普通に痛いので、それこそ痛覚の無い住之江ぐらいしか使える相手がいない。
作者のコメント
上の能力者だけを治すための能力です。

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世にも不思議な人々㊸ 度を越した神職その1

と言う訳で、今回彼の大男は件の神か少年に話を聞きにやってきました。
「よー、神か少年。ちょいと話があるんだが」
「何?えーっと……確か……鈴木、いや、佐藤?ごめん、誰だっけ?」
「クラスメイト名前忘れるやつがいるか?」
思いっ切りブーメランですよ。
「まあ良いや。で、何の話?金なら貸さないよ」
「そんな話ではない。そもそも俺は人に金は借りない」
「ほう。じゃあ何だ?あ、待って、予想する。えー、あ、分かった!…いや、やっぱ分からん」
「どっちだよ。まあ、話ってのはうちのクラスの陽太郎と陽介のことなんだが」
「あー……」
神か少年は何かを察したような顔をしました。
「肯定ととって良いんだな?」
「ああ、うん。構わないよ。ということはお前もだったりする?」
随分あっさりとお認めになる。
「ああ。その通りだ」
「こんな偶然あるんだねえ。そうだ、折角だから僕の力の結晶を見せてやろう。ちょっと待って。呼ぶから」
呼ぶ?召喚系の能力?でもそれだとちょっと待つ理由が分からないしねえ。
「お、おう。……そういえば、お前の能力ってどんなのなんだ?」
「お前のは?」
「不死身の能力だと思ってもらえればだいたい合ってる」
「そう。僕の能力は、『神だと思った人間を神格化する』能力だよ」
「あー、よく分からん。要するに?」
「現人神量産」
「なるほど、よく分からないということがよく分かった」

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世にも不思議な人々番外編 No.2談義

キタ「いやー、久し振りに登場ですよ」
初「僕はちょっと前にちらっと出たけど」
真琴「いやマジで久し振りだよ俺らは」
キタ「まあ、今回はこの作品で二番目に強い能力者について考察するわけなんだが」
真琴「何故二番目?普通こういうのは最強を考察するものじゃないのか?」
キタ「いやー、それについては作者公認で万能ちゃんが居りますからねー……」
初「あれか」
真琴「あれじゃあしょうがねえや」
キタ「まず候補をあげてみるか。まずは作者がNo.2だと正式に認めてる伏見君だろ」
初「誰それ」
真琴「チャチャさんのことだ」
初「ああ、あの人か」
キタ「次に阿蘇さん。人外モードの時はパワーもスピードも上がって細切れになっても再生するとか」
初「何それ強い。結構良い勝負だな」
キタ「他には、呪術使いの前橋つくばちゃんとかもいたな」
真琴「誰だそれ知らない」
キタ「僕らとはまだ会ってないからね」
初「群馬なのか茨城なのかはっきりして欲しい名前だ」
真琴「そうだ。素のフィジカルだけならあいつも負けてないんじゃあないか?ほら、通り魔のなっちゃん」
キタ「君からそんな言い方が出てくるとは」
真琴「う、うるせー!」
初「確かに彼女もすごいよな」
キタ「あとは、持久力のあいつ。大男。名前はまだ無い」
初「え、嘘、あいつも能力者なのか。この間会ったけどそんな素振り……あったな。すごい深い切り傷作って平気な顔してたわ」
キタ「さて、誰が最強かな」
真琴「なおこの中で最強になっても二番目は揺るがない模様」
初「やっぱりこの中じゃ最古参のチャチャさんを推したいな。一番縁深いし」
キタ「けどあの人呪いに勝てるか?」
真琴「有り得そうなのがなぁ。あの人なら何かどうにかできそう」
初「そうそう、底が見えない」
キタ「僕としては人外の阿蘇さんを推すな。あの人、なのか?姿がもう強キャラだもん」
初「それこそ呪いに勝てるか?」
真琴「逆にあの姿が呪いっぽい」
キタ「まあ結論は個人に任せるってことで」
真琴「終わり方雑だな」

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世にも不思議な人々㊷ 歩く人・見せぬ人その5

「さて、何を使って治そうかねぇ?」
少女がわくわくした表情で大男を見下ろしています。
「あ、そういや君、どうやってそいつの傷を治すつもり?」
尋ねたのはヨースケ(陽太郎)の方。表記が大変ややこしいです。
「そうねぇ……。よし、こうしよう」
そう言って少女は徐ろに手を貫手の形にし、大男のボロボログチャグチャの右腕に思い切り良く突き刺しました。
「えええええ何やってるの!?」
「おいおいおいあまりにグロ注意過ぎるぜ」
これには流石のヨースケ(陽太郎)&ヨータロー(陽介)も引いてます。無理も無い。多分僕も引く。
しかしその手が腕から抜かれた時には、もう傷は全て治っていました。
「これが私の能力。『何かで突き刺した対象の外傷を完全に治す』能力だよ。すごいでしょ。痛いけどね」
「うへえ……。治すために刺されにゃならないのか……。」
「俺だったら御免だな……」
「俺は痛覚無いから平気なんだよ」
陽太郎(ヨースケ)と陽介(ヨータロー)は怖がってるようですが大男は平気そうな顔。
「けど私もこのやり方はもうやりたくないな。これでもいけるかなって思ったけど、ぶっちゃけ感触が気持ち悪い」
何言ってるんだこいつは。
「何言ってるんだお前は。自分でやっといて勝手な」
あらま。大男と感想が被った。
「そういえば、君たち誰?」
少女が今更な質問を二人組にしてきました。
「ああ、こいつらが件の能力者疑惑の奴らだよ。実際そうだった」
答えたのは大男。
「へえ、二人はどういう経緯で能力者に?」
「ああ、俺達はねー」
「あいつの影響だな」
「あいつとは?」
「「神か少年」」
二人組の声が揃いました。
「いや誰だよ」
男が突っ込みました。
「ほら、ケイドロの時もいたろ?」
「『お前神かよ』が口癖のあいつだよ」
「あいつか!へー、そいつぁあ面白いや。そいつも能力者ってことで良いのか?」
「多分?」
「恐らく」
「じゃあ少年。次はそいつだな!」
そういうわけで、次回はそいつに話を聞きに行くようです。

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世にも不思議な人々㊶ 歩く人・見せぬ人その4

「お、帰ってきた。お帰りー、ヨータロー。件の『あいつ』、連れてきた?」
「いや、よく考えたらそいつの家知らなかった」
「ふふふ、ドジだねえ。しょうが無い、僕が行ってまいります!……で、君の家何処だっけ?」
「えー……めんどくせーな……。そうだ、台車か何か持ってこい」
そんなこんなで、三人で大男の家に行くことになったようです。道中、大男は二人に能力について訊きました。
「なあ、お前らの能力ってどんなのなんだ?」
「んー?じゃあこの俺、此花陽太郎の異能から教えてしんぜよう!」
言ったのは何故かヨースケの方。お前ヨースケと違うのか。
「お前ヨースケじゃなかったのか」
「ああ、それ渾名。で、俺の異能は、なかなか面白くてね、『認識した足場には無条件で確実に乗ることができる』っての。二段ジャンプは砂粒をこっそり投げてその上に乗ってたの」
「ほう、そりゃ面白い。で、お前の能力はどんなのだ、ヨータロー?あ、もしかしてお前の名前ヨースケだったりする?」
「同級生の名前くらい把握しとけと思うんだが。まあその通り、自己紹介させてもらうと俺の名は岸和田陽介。俺のは『何か』を召喚する異能だ」
「何かって何だ。あ、そこ右な」
「了解。俺もよく分からん。けど、その何かは対象の視界の端にしか存在できない代わりに注意を引く力があるんだ」
「道理でちょくちょく意識が離れたわけだ。何かってどんなのなんだろうな」
「さあ?見えないものを見る異能力者でもいれば解決するんだがなー」
どこぞの能力者がくしゃみしてそう。
「ついた。ここだ。鍵は開いてるはずだからあいつを呼んできてくれ」
行ったのは陽太郎の方。すぐに戻ってきましたが一人です。
「それっぽい奴はいなかったよ。ところで君って妹いた?」
「何でだ?いないが」
「何かちっさい小学生くらいの女の子が一人いただけだったんだけど」
「そいつだ!そいつを連れて来い!あとその話絶対そいつにはするなよ。あれで気にしいなところあるから」
「はーい」
今度は無事連れてきたようです。
「ヘイヘーイ少年?またボロボロだね。またあれをやったのかい?」
「おう。さあ早く治せ」

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世にも不思議な人々㊵ 歩く人・見せぬ人その3

「流石にまいたか!?」
「やめろヨースケ。あんまりフラグを立てんな」
ええ見事にフラグです。そんな二人にあの大男がものすごいスピードで突っ込んできました。
「ぎゃっ!」
「うおっ」
「よっしゃぁ……捕まえたぜェ……」
「くそぅ……。やられたー……」
「ヨースケがフラグなんか立てっから……」
「よし、ようやく捕まえたぜ。ちとボロボロになったけどな」
「いやいや貴方、ボロボロというよりグチャグチャですけど……ぅぇ」
ヨースケの言う通り、大男の両脚と右腕はグロ注意な感じでグチャグチャになっていました。
「何、問題無い。俺の能力は『あらゆる事象が己の害にならない』能力だからな」
ところで、痛覚というものは生物への損傷がその生物にとって害になるからこそいち早く危険を察知するために存在するものである。故に危険が存在しない彼には、能力の影響で痛覚が存在しないのです。
「いやそれはどうでも良いんだ。こっちが見てて気持ち悪くなるから何とかしてくんない?」
ヨータローがつっこみます。
「おお。じゃあ俺を家まで運んでくれないか?あいつは多分今日もいる」
「ええ……。それは良いけどさぁ……。ヨータロー、どっちが右側支える?」
「俺は嫌だぞ」
「俺もだよぉ……。あ、そうだ。その『あいつ』とやらをここに連れてくりゃ良いんじゃね?文脈的にお前をどうにかできる奴なんだろ?」
ヨースケの提案に大男もヨータローも感心。
「その手があったか。じゃあ、三組に不登校が一人いたろ?あいつが多分今日も俺の家に居るはずだから連れて来てくれ」

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世にも不思議な人々㊴ 歩く人・見せぬ人その2

「おい、どうしたヨースケ。お前があいつから逃げたそうな顔してたから隙を作ってやったが、何故あいつから逃げるんだ?」
影の薄い少年が二段少年に問いました。
「いや、自分でもよく分からん。けどあいつは何かヤバイ気がする。人間として必要な何かが決定的に欠けてる気がするんだ。あと普通にでかくて怖い!」
「だから何故逃げる?仮にも同級生だろ」
「いやー、よく分からん異能を持ってる俺らとしてはあんまりバレちゃいけない気がすんのよ。あいつは絶対俺らの異能について訊こうとしていたぜ」
「ふむ。じゃあ逃げた方が良いかもな。って、あいつ追い付いてきたぞ」
後ろを見ると、すぐ後ろにまであの大男は迫って来ていました。
「やべえぞあれ!やっぱ体格差的に逃げ切るのは無理だって。一歩当りの距離が違うもん!仕方ねえ、ヨータロー、俺に負ぶされ!」
「おお、やるのか、あれ」
ヨータロー、と呼ばれた方が何とかヨースケ、と呼ばれた二段少年の背中に取り付くと、次の瞬間には二人の姿は大男の真上にありました。
「ぬ、やはりお前ら……!」
大男が驚いている間に、二人は着地し、逆方向に向けて全力ダッシュを始めました(ヨータローもヨースケの背中からもちろん降りています)。
「くそう、逃がすか!」
大男が追おうとしましたが、その時またあの「カツン」という音が。そちらを大男が見て、やはり何も無いと確かめてから向き直ると、やはり二人は遠くに。
「ええい面倒くさい、こうなったら奥の手だ」
そう言って大男は右手を地に付き、力を溜めるような動作を始めました。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ①

「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って!」
昼休み、暑いながらもそれなりに人がいる廊下を、わたしは同じクラスの亜理那に引きずられて走っていた。
「とりあえずちょっと待って!」
わたしの必死の叫びをやっと聞き入れたのか、亜理那は立ち止まってわたしの方を振り向いた。
「なぁにサヤカ?」
「何って…」
イマイチ状況を理解していない亜理那に、わたしはちょっとあきれてしまった。
…ついさっきまで、わたしは教室でいつものように本を読んでいたはずなのだ。
だけど亜理那に、ちょっと会ってほしい人がいるんだけどさぁ…いい?と聞かれ、暇だからいいよ、って答えたら…こうなった。
誰かに会うと聞いて、教室出てすぐかな、と思っていたが、教室出てすぐどころか、廊下の突き当りのほうまで移動してきてしまったのだ。
…しかも走って。
走らなければいけないって事は、何か重要なことなのだろうか。
なんとなく、察しがつきそうな気がするけど。
「ねぇ亜理那…一体誰に会うの?」
誰に会うのかまだ分からないから、わたしは尋ねてみた。
「え、それはね~…まだ秘密!」
そう言って亜理那はまだ誰に会うかも伝えず、ただ人差し指を立てるだけだった。

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世にも不思議な人々㊳ 歩く人・見せぬ人その1

「よお、二段ジャンプ野郎」
例の大男が彼の二段ジャンプ使いの少年に話しかけました。
「……、え、何、俺?」
「お前以外に誰がいる」
「こいつかな」
彼の横には、例の影の薄い少年がおりました。
「して、何用だい?」
二段少年(長いのでこう略します)が問います。
「おう、話は他でもない、先日のケイドロについてだ」
「あー、楽しかったねー。それが何?」
「あの時の二段ジャンプについて色々訊きたい。ありゃあ人間にできる動きじゃなかったぜ」
突然二段少年が狼狽え出しました。こいつは黒だな。
「あ、ああ、あれかい?あれは、ほら、体重移動の仕方と蹴り方の工夫でどうにかなるんだよ」
「馬鹿言え。そんな小説みたいなことがあるか」
「君今結構なこと言ってるぜ……」
「さあ、話してもらおうか…」
そう言って大男が二段少年に向かって一歩踏み出したその瞬間、どこからか、「カツン」と足音のような高く硬い音が聞こえてきました。思わずその音の方に振り向くと、何も無い。しかし大男が向き直ったとき、彼の二人の少年はどこかに消えていました。
と思ったら、少し離れた場所にいました。大男との距離を全力で引き離しにかかっています。大男は、彼らは黒だと確信し、追跡を開始しました。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ㉒

「…まぁ、僕から言えるとしたら、この人たちは敵に回したらものすごくヤバい人たちだって事です、はい」
美蔵は微妙な顔でそう言い切った。
「…そうなの」
わたしはポツリと呟いた。
確かに、この人たちは敵に回さない方が良いのかもしれない。
前に「常人は”異能力”に関わっちゃいけない」と言われた時に恐ろしいと思ったし、美蔵は彼らを見た時に動揺していた。
よくよく考えたら自分はかなりすごい人たちとつながりを持っているんだな…そう思った。
「…ねぇ、そろそろ駄菓子屋行っていい? いつまでもここでグダグダしてるワケにはいかないし」
話に一区切りがついたところで、ネロが切り出した。
「そうだな」
「じゃー行こーぜー」
「…まだ、買い物してなかったの」
みんなが駄菓子屋の方に移動しだす中、わたしは思わず言った。
「…いや、まだなんだけど」
ネロがぽかんとした様子でこちらを見た。
「あ、そう…」
「とりあえず行こうぜ不見崎(みずさき)。僕も用事済んでないし」
ボンヤリしているわたしを美蔵は追い抜かしながら言う。
「え、ちょっと待ってよ!」
わたしはまた置いてかれないように、彼らの後を歩き出した。

〈5.クラーケン おわり〉