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LOST MEMORIES~バレンタインver.~

例によって放課後。しかし今日いつもと違うのは、歌名も待ち組であるということ。望を待つ3人の間に会話はなく、しかし穏やかな時間が流れていた。
瑛瑠は本を読んでいた。肩まで下ろした髪はたまにこぼれ落ち、流れるようにそれを耳にかける。そして、ページをめくる。英人は瑛瑠のそんな様子を眺めていた。
伏し目がちな透き通った目、形の整ったつやめく唇。
また、ページをめくる。すると、優しい香りが鼻腔を擽る。
「……甘そうだな。」
思わず呟く。
瑛瑠が顔を上げ、視線をこちらへ向けたことで、自分の声が漏れていたことを悟った。
思考が停止してしまい、対応できない。歌名の視線が痛い。睨み殺されそうだ。
次の瞬間、瑛瑠はふわりと微笑んだ。
「なんだ、バレちゃっていたんですか。望さん来てから渡そうと思っていたのに。」
そう言って、可愛らしく包まれたひとつの小さな箱を取り出し、英人の机にことんと置く。
「甘そうに感じたのは、たぶんこのチョコレートの香りでしょう?こちらの文化に乗ってみました。英人さん、ハッピーバレンタイン。」
──そうか、今日はバレンタインデー。
同じように歌名からも渡された箱には、今挟めたかのような2つ折りのメモ。
“瑛瑠が鈍くてよかったね。今年は甘そうな瑛瑠が作った甘いチョコレートで我慢しなよ!”
今年は,なんてフレーズに友人の愛を感じ、甘いなと今度は苦笑してみせた。

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今を生きる辛いひとに幸を(下)

私の前に、やたらと元気な妖精さんが現れた。どこかあどけなくて、笑顔の似合う、私とは正反対の妖精さん。
私には友だちがいない。上司も同僚も嫌い。家族ともしばらく会ってない。毎日嫌い。嫌い嫌い嫌い。でも、そんな自分が一番嫌い。
何が元気よ,はじめはそう思った。元気とかバカみたい。誰も認めてくれない。楽しくない。ただ、妖精さんは、私の想いをすべて受け止めてくれた。
それから私はたまに笑うようになった。正反対の私たちだけど、ひとつだけ、好きな食べ物が一緒だった。それが、プリン。一緒にプリンを食べているときが、一番笑ったかもしれない。

外に出るようになった。
上司から褒められるようになった。
同僚と趣味が同じだった。
家族はあったかかった。
妖精さんに元気をもらった。


カーテンを開けたある朝、いつも元気な妖精さんが泣きそうになってた。一瞬ためらって、もう会えない,そう言われた。
私は君を元気にするために来たの。もう君は、ひとりでも自分を奮い立たせることができる。そう言って、微笑んだ。
訳がわからなかった。違う、まだ私はあなたがいないと生きていけない。
すると妖精さんは悪戯っぽく笑った。
私は、君がこれまでに捨ててきた元気なの。私は君、君は私。君にはちゃんと元気がある。一度は捨てた元気を、私を、もう一度拾ってくれて、本当にありがとう。
――姿が見えなくなった。

元気になったはずなのに涙は止まらなかった。けれど、私は仕事へ行く準備を始めた。
テーブルにメモと一緒にプリンが置いてあったから。

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面白くもなんともないので読まないことを推奨します。

タイトルにも表記したように、面白くもなんともないです。ロスメモ関連でもありませんし、文学的に“魅せたい”作品でもありません。ただの散文の上、長文になりますので、純粋に読まないことを推奨します。戻るなら今です。

結局、他人は他人なんだなと強く思ったことについて思うまま描きたかっただけなのです。中途半端に仲良くなんてならずに、他人のままでいた方が心地よい距離を保っていられたのではないかと私は思うのです。
特に何があったわけでもないので心配は一切無用なのですが、人と関わるなかで不快に思ったときほど、いけないとは思うものの、私の絶対的な友人と無意識的に比較しているのでしょう。
正直、これ以上の人を見つけようとは思わないし、これ以上の関係性を他の人と築けるとも思っていません。いかんせん、親友と呼ぶにはドライすぎて、他人と変わらないくらいにはお互いに干渉しない少々特殊な間柄ですので、そもそも理解してもらえるかわからない状態を丁寧に他人に説明してやる気もありません。
それでも、人並みに関係性は広げているので、他の人と理解し合うことができそうだと思う場面にも多々遭遇するのです。しかし、決定的に合わない部分を見つけてしまう。もちろん、そんなことで関係を切ろうなどという人でなしでもございませんので相変わらず仲良くしますけども、やはり他人は他人なのだと思わずにいられなかったのです。
何が言いたいかって、他人に私を理解して私の存在を好いてくれなんて求めても意味がないのだけれど、誰かひとりでも「貴女だけいればいい」と言ってくれる人がいて、それが自分も絶対的な存在として認めている人であるならば、それに勝る幸せはないのかなと。
私は人と距離をとることに恐怖はないし、大概のことには折り合いをつけて受け入れることも苦ではありません。それは、私は私として認められ、確固たる存在であると思っているからなんでしょうね。
独り言に最後までお付き合いいただきありがとうございました。最後まで読むだなんて、貴方は相当な物好きかしらね。笑

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告別の詩

今日もまた下らない太陽が上り
真っ青な空は吐きそうな程です
全身の気怠さは昨日の後悔達で
いつまでも僕の踝を掴むのです
こんな何でもない冬の朝だから
縮こまった体を少しだけ震わし
また今日も行くべき場所へ行く
目的などとうの昔に忘れました
こんな僕をこんな所に繋ぐのは
死ぬことさえ面倒に思う怠惰と
この世への未練かのような顔で
僕の心に居座り続ける恐怖です
自分の為に生きられるほどには
僕は強くなんてなれなかったし
誰かの為に生きられるほどには
僕は優しくなんてなれなかった
僕に死ねるだけの勇気があれば
僕はもっと幸せだったでしょう
努力することを覚えられたなら
僕はもっと幸せだったでしょう
それでもその何方でもない僕が
幸せだなと思う瞬間があるから
この世界はやっぱり意地悪です
僕の襟を掴んで離さないのです
貴方はこれをただの詩だと思い
また溜め息をつくのでしょうか
何れにせよ僕の中の浅ましさが
やっぱり僕は嫌いでなりません
誰に伝える気も無いかのような
こんな長ったらしい詞たちさえ
貴方は何故か拾ってくれるから
やっぱりこの世界は意地悪です
そんな詞ももうすぐ終わります
ですが最後に一つだけとすれば
僕は貴方のように生きたかった
それしか言うことは無いのです

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ショートポエム選手権授賞式~講評~

総応募数51。喜:6,怒:3,哀:26,楽:7,全:4,?:5
想定を遥かに越える詩の数々。皆さん本当にありがとうございました。それではこの選手権について話していきたいと思います。
僕がテーマを決めて募集をかけるときは、決まって「裏テーマ」というものを設定させていただいているのですが、今回の「裏テーマ」は、「日常」でした。喜怒哀楽という感情の基本単位、そこから日々の思い、気づき、情動を描いて欲しかった、という思いがありました。喜怒哀楽という感情は、もっと身近なものだと。この掲示板にいると、どこか崇高なもののようにさえ覚えてしまうものの、根本的な部分に気づいて欲しかったのです。どうだったでしょうか。
さて、選考の話です。今回特別審査員をお願いしたお二人は、僕が「おお...」とよく思わせるポエムをかかれる方々でした。このお二人なら、きっと良い詩を見つけ出してくれる。そう思いました。そのせいで僕の選考の際、お二人の作品を選ばないので必死でした(笑)改めてお二方、ありがとうございました。
今回の作品群。冒頭に書いた通り、圧倒的に「哀」が多かったですね。やはり哀歌というのは描きやすいのでしょうか。かくいう私も「哀」で描いた一人なのですが(笑)
長くなるとあれなので、短くまとめさせていただきました。

さあ、「第一回」と銘打ったからには第二回をやらねばなりませんね!審査員がしたい!こんなテーマでやりたい!そもそも主催を代われ!という方、是非お声かけください。

それではまた。
memento moriでした。