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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 18

その一方、アカはアリエヌスを引き寄せつつ要塞都市から離れるように空を飛んでいた。アリエヌスたちに自らを“親玉アリエヌス”だと思わせるレヴェリテルムの効果を与えているため、アリエヌスたちはアカを“親玉アリエヌス”だと思い込んで追いかけてきているのだ。しかし、多くのアリエヌスにその効果を与えているため、アカ自身には相当な負荷がかかっていた。
さらに、アカはアリエヌスたちに追いつかれないよう身体が耐えられるギリギリの速さで飛行しているため、余計に身体や神経に負荷がかかっており、アカは早速意識が朦朧とし始めていた。
それでも、アカはアリエヌスたちを引き寄せて飛び続けている。モザとロディ、そして他のカテルヴァのアヴェスたちが親玉に攻撃させるため、この作戦を発案した自らを囮にするのが最善だと考えたからだ。
モザやロディたちが親玉を撃破し終えるまで、自分はアリエヌスたちを引きつけていられればいい。全ては、あのアリエヌスを倒し切るまで……とアカが自分自身に言い聞かせたとき、不意につんざくような悲鳴が聞こえた。
アカは思わずその声が聞こえた親玉アリエヌスの方を見やる。すると、背後を飛んでいる小型アリエヌスたちが急に悲鳴を上げてアカに飛びかかってきた。
「⁈」
アカは一気に飛行速度を上げてその攻撃を避けるが、ただでさえ身体の限界ぎりぎりだった飛行速度を上げたものだから意識を失いそうになる。なんとか体勢を維持しようとするが、その瞬間に気が抜けてしまったのかアカの身体は突然重たくなった。そして地上へ向けて落下を始める。
このままでは要塞都市外の地面に激突する——そんな考えがアカの脳裏によぎるが、不意に誰かの腕を掴まれる。アカが思わず顔を上げると、ベレー帽を被ったアヴェスことトログがアカの真上に浮いてアカの腕を掴んでいた。
「トログ!」
アカが驚いて声を上げると、トログは笑みを浮かべる。その直後、上空からアカを追いかけてきていたアリエヌスたちが、トログの上で見えない壁のようなものに弾かれた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 16

アカがモザとロディにアリエヌスの群れを倒す方策を伝えてから10分ほど。
アカはアリエヌスの群れから少し離れた場所を飛行しつつ、群れの様子を伺っていた。
『なぁアカ、ホントにこれで大丈夫なのか?』
アカの脳内に、レヴェリテルムの効果によってモザの念話が飛んでくる。
『アカが囮になってアリエヌスを引きつけてるうちに、おいらとロディたちが親玉をやっつけるって作戦だけど……アカの負担が大きすぎねぇか?』
『そうだよアカ、いくらロディたちのことを信じたって、難しいものは難しいだろうし……』
モザとともに天蓋の上からロディも念話を飛ばす。しかしアカは『大丈夫』と短く返した。
『自分は、死んだりしないから』
アカはそう自身に言い聞かせるように言うと、不意に空中で静止する。そして銃器型に変形させていたレヴェリテルム“Aurantico Equus”を上空に向け、1発だけ高出力のエネルギー弾を撃ち出した。
エネルギー弾は上空へ向けて打ち上がると、高度数百メートルほどのところで花火のように炸裂する。戦場で戦うアヴェス、そして侵攻するアリエヌスたちはそちらに気を取られた。
「……え」
天蓋上からアカの様子を見ていたロディは思わず呟く。そして、アリエヌスの群れから悲鳴が上がった。
「あ、見ろロディ!」
モザの言葉で我に返ったロディはモザが目を向ける方を見やる。モザが目を向けるアリエヌスの群れから、衛兵のように親玉を守っていたアリエヌスたちがアカの方に向かっていた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 14

「それは、もう仲間を失いたくないからだよ」
ロディの言葉にアカは目を見開く。ロディは気にせず続けた。
「ロディたちのカテルヴァにはね、前にルベ……エリサクス ルべクラっていう仲間がいたんだ」
「でもある戦闘で死んじゃってさ」とロディは俯く。
「ルべと仲良しだったトログはすごくショックを受けちゃったし、リーダーのクリスはそのことで自分を責めるようになってしまった」
「だから」とロディは顔を上げた。
「ロディたち、アカが新しく仲間になるって聞いたとき、約束したんだ」
「ルべみたいにはしないって」とロディは笑う。アカはなにも言えずに黙り込んでいたが、それを見たモザは「まぁ、そういうことだ」とアカに歩み寄った。
「つまるところ、おいらたちはお前に死んでほしくない」
「人が死ぬのは、誰だって嫌だろ?」とモザはアカに近付き手を差し伸べる。アカは驚いたような顔をしたが、モザが「ほら」と促すとアカはその手を取った。
「さーて、こっからどうすっかね」
アカの腕をぐいと引っ張って立ち上がらせたモザは、上空のアリエヌスの群れを見上げて呟く。アリエヌスたちは他のカテルヴァの攻撃によって要塞都市への襲来を阻まれていたが、群れの中心にいる親玉アリエヌスにはどのカテルヴァのアヴェスも近付けていないようだった。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 13

「⁈」
アカが驚く間に、突然誰かが飛び込んできて彼を抱える。そしてその誰かは一気に飛行してその場を離れた。
アカは何が起きているのか分からず混乱するが、自身を抱えて飛ぶ誰かがアリエヌスの群れから少し離れたところに着地したところで、やっと自分を抱えているのが誰かを判別することができた。
「お前は……」
アカは自身を天蓋の上に降ろす浅黒い肌のアヴェス——モザの顔を見てそう呟く。モザはなにか言いたげな顔をしたが、そこへ「モーザーっ!」と元気な声が響いた。
「やったねー!」
「ロディが落下速度を変えたお陰でアカをキャッチできた‼︎」と黒と桃色のジャケットを着たアヴェス——ロディが嬉しそうにモザとアカの元へ飛び込んでくる。モザは「ロディお前ホントに大丈夫なのか?」と腰に手を当てた。
「物体の落下速度を変えるって相当現実離れしてるぞ?」
「身体に影響とか出てないのか?」とモザはロディの顔を覗き込む。するとロディは照れくさそうに「ちょっとめまいするかも」と答え、モザは「おい」と突っ込んだ。
「お前いくら身体が丈夫だからって無理はすんなよ」
「えー、仲間の大ピンチだったんだし〜」
「もっと自分のこと大事にしろ!」
モザとロディが言い合う中、その場に座り込んでいたアカは「……なぁ」と2人に声をかける。モザとロディは「?」とアカの方を見やった。
「なんで、自分のこと……助けてくれたんだ?」
「あんな風にアリエヌスの群れに突貫したのに」とアカはこぼす。モザとロディは思わず顔を見合わせたが、やがて2人はアカの方に目をやった。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 12

カテルヴァ・サンダーバードの仲間たちの元からアカが離れていって暫く。アカは空より襲来するアリエヌスの群れの中を自在に飛びながら、専用レヴェリテルム“Aurantico Equus”で敵を切り裂いている。周囲では他のカテルヴァに所属するアヴェスたちがそれぞれのレヴェリテルムでアリエヌスを倒していたが、それを気にせずアカはアリエヌスの群れの中心へと飛んでいった。
「……あれは」
時折“Aurantico Equus”でアリエヌスを撃ち落としつつ群れの中を突っ切っていくアカは、群れの中で急にアリエヌスの少ない空間に出て不意に呟く。彼の目の前には、周囲のアリエヌスを従えていると思しき体長15メートルほどの翅のあるハナカマキリのようなアリエヌスが飛んでいた。
「*}‘}“}$]€[>;;’|+|”|!<‼︎」
親玉アリエヌスはアカの姿を見とめると、耳障りな悲鳴を上げる。すると親玉アリエヌスの周囲を守るように飛んでいた体長2メートルほどのアリエヌスたちが、アカに向かって突っ込んできた。
アカは咄嗟に“Aurantico Equus”を構えて相手を両断しようとするが、体当たりしてきたアリエヌスの体表の方が硬いのか、相手は鈍い金属音を立ててアカを弾き飛ばす。アカは驚く間もなく天蓋に向かって落下し始めた。
アカはどうにか空中で体勢を立て直そうと“Aurantico Equus”に念を込めようとするが、重力に引っ張られるままに落ちているために思い通りに頭が働かない。アリエヌスの体当たりを受けたときにレヴェリテルムの飛行効果が途切れてしまったため、落下中にレヴェリテルムの効果を発動させることは至難の業だった。
このままでは天蓋に激突する、そんな思いがアカの頭をよぎり、彼は悔しそうに顔を歪ませる。しかし、これじゃ、あの子を——とアカが思いかけた時、突然ふわりと落下速度が落ちた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 10

「っ‼︎」
トログは大剣の形に変形させた“Reginae Gladio”をアカとクリスの前に掲げ、光のバリアを展開して飛来してきたアリエヌスを防ぐ。カマキリのような体高数メートルほどのアリエヌスはトログのレヴェリテルムを押し返そうとするが、彼は負けじと“Reginae Gladio”に力を入れて踏みとどまる。それを見たモザとロディはそれぞれのレヴェリテルムを向けてエネルギー弾を発射し、アリエヌスをトログから遠ざけた。
アリエヌスが後方へと飛び退くと、トログは力が抜けたようにへたり込んだ。
「トログ!」
我に返ったクリスは慌ててトログに駆け寄る。
クリスに「大丈夫かお前……」と訊かれるトログは「へーきへーき」と笑うが、その顔は青ざめている。クリスは心配そうに「無理すんなって……」とトログの両肩に手を置いた。
その様子を見るアカは口を真一文字に結んでいたが、悲鳴のような声を上げて突進してくる先ほどのアリエヌスに気づきそちらへ駆け出す。そしてそのアリエヌスが飛びかかる前に“Aurantico Equus”でそのアリエヌスを切り裂いた。
そして仲間たちが驚くことにも気にせず、アカはそのまま天蓋を蹴って宙へ舞い上がる。クリスが呼び留める間もなく、アカは上空より飛来するアリエヌスの群れへと突っ込んでいった。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 9

「アカ‼︎」
近くでレヴェリテルム“Reginae Gladio”を構えていたトログがそう声を上げると、先ほどアリエヌスを両断した人物ことアカはちらと彼の方に気付いて、刀型になっているレヴェリテルム“Aurantico Equus”を握り直す。それを見たクリスは「おい」とマシンガン型に変形させたレヴェリテルム“Caeruleum Diadema”を担いでアカに近付いた。
「アカ、一体どこ行ってたんだ」
「心配したんだぞ」とクリスはアカの襟首を掴んで尋ねる。アカはなにも答えず、それを見ているトログは「ちょっとクリス落ち着いてよ〜」と慌てる。
「ボクたちも出撃命令があったのに上に上がるまで時間がかかっちゃったから……」
「そうじゃない!」
トログの擁護に対し、クリスはそう声を上げる。トログは一瞬驚いて動きを止め、モザやロディも驚いたような顔をする。クリスは続けた。
「勝手な行動で死なれちゃ困るんだよ‼︎」
「もしそうなったらどうするんだ……!」とクリスはアカの目を見る。アカは相変わらず無言のままだ。
「俺は、俺たちは……もう仲間を失いたくないんだ」
「だから1人で勝手に行かないでくれ」とクリスは声を震わせる。トログ、モザ、ロディはその様子を静かに見ていたが、アカは「……そんなの」とポツリと呟く。
「自分には関係ない」
「そんなの!」
「関係ないものは関係な……」
クリスの言葉をアカが遮った時、「危ないっ!」とトログの叫び声が聞こえた。2人がハッとして辺りを見回そうとした時、そばで甲高い金属音が響く。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 8

アリエヌス襲来の一報から約5分、パッセリフォルムズの壁から都市を覆うように光でできた障壁——天蓋が完全に展開したころ。
パッセリフォルムズの壁の中のエレベーターで壁の上に昇っていったトログ、クリス、モザ、ロディは、手持ちのケースから既に取り出したレヴェリテルムを携えて、戦場に飛び出していた。
「ったく、あいつどこ行ったんだ……?」
「勝手に飛び出しやがって」と大太刀型から大砲型に変形させたレヴェリテルム“Viridi Canticum”を撃ちつつモザは呟く。
周囲では天蓋の上で同じカテルヴァ・サンダーバードの仲間たちが飛び道具型に変形させたレヴェリテルムで空から迫り来るアリエヌスを撃ち落としており、上空には既に出撃しているアヴェスたちが宙を舞いながらアリエヌスと戦っていた。
「まだおいらたち、仲間になってから日が浅いのに」
「なぁロディ?」とモザは近くで2つの銃器型レヴェリテルム“Rosea Choro”を空に向けるロディに尋ねる。
「そーだねー」
「でもアカもアカで色々事情があるんだと思うよー」とロディは返す。
「どんな事情だよ」
「そりゃ“戦うこと”しか考えられなくなる事情だよー」
「ふわっとしてんな!」
モザとロディはそう言い合うが、途中で「モザ! ロディ!」というクリスの声が飛んでくる。2人がハッと顔を上げると、上空から体長1メートルほどの蝙蝠のような姿をしたアリエヌスが突っ込んできていた。
2人は咄嗟にそれぞれのレヴェリテルムを構えるが、その瞬間アリエヌスは飛んできた何者かによって真っ二つにされる。モザとロディが驚く間もなく、その人物は天蓋の上に降り立った。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 7

「ボクたちの人生は本当に限られたものだから、やっぱり有意義に使お?」
「ね?」とトログはアカの腕に手を伸ばす。しかしアカはその手を振り払った。
「……人生をどう使うかは、個人の勝手だ」
「ただ、自分は戦いのためにこの命を使う、それだけ」とアカは呟き、トログの横を通り過ぎる。トログは思わず「待って!」とアカに後ろから声をかけた。
アカは思わずぴたと足を止める。
「どうして……どうして、アカはそんな考え方するの?」
「もしかして、前にいた要塞都市でなにか……」とトログは言いかける。しかしその言葉は不気味なサイレンの音によって遮られた。
「⁈」
5人は思わず顔を上げる。すると彼らが手首につけている端末に通信が入った。
『こちらドムス司令部、先程パッセリフォルムズ近傍にアリエヌス出現を確認した』
『出撃対象カテルヴァは以下の通りである』と司令部にいる司令の緊迫した声が続く。
『ルッフ、コカトリス、ハルピュイア、サンダーバード……以上の4隊は直ちに出撃せよ』
『繰り返す!』と通信機の向こうの司令は出撃対象者を宣言していく。“サンダーバード”と自分たちの部隊名が読み上げられたことを確認したアカは、レヴェリテルムの入ったケースの取っ手を握り直すと壁の方へ向けて走り出した。
「あっ待てアカ!」
アカが駆け出したことに気付いたクリスは、「先に行くなっ‼︎」と声を上げて彼を追い始める。それを見たロディも「モザ、トログ!」とあとの2人の方を見た。
「ロディたちも行こう!」
「おうよ!」
ロディの言葉にモザは威勢よく答え、トログもうんと静かに頷く。そして3人は壁に向かって“橋”の上を走り出した。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 6

「ねぇねぇ、クリスとモザはどう?」
「みんなで遊びに行こうよ!」と提案するロディを見て、浅黒い肌のアヴェスことモザは「そうだな!」と頷く。
「おれたちアカのことそんなに知らないし、せっかくなら仲良くなりたい!」
モザの言葉にロディは「でしょでしょ〜?」と明るく続ける。しかしクリスは「どうだかな」と不意に呟く。
トログ、モザ、ロディの3人は思わず不思議そうな顔をした。
「お前ら、アカのことそっちのけにしてるだろ」
クリスはそう言って自身の後ろにいる橙色の詰襟に白い和袖の外套を羽織ったアヴェス、アカの方を見やる。アカはトログたちの方を気にせず“橋”の欄干から見える風景に目をやっていた。
「……」
モザとロディは思わず沈黙し、トログは「アカ」と仲間に近寄って話しかける。
「今度みんなで遊びに行こうよ」
「この街には面白いものがいっぱいあるんだ」とトログは笑いかけるが、アカは「そんなどうでもいい」と帽子深く被った。トログは「どうして?」と首を傾げる。
「アカは世界最大の要塞都市・パッセリフォルムズには興味ないの⁇」
「別に」
トログの質問に、アカは短く答える。
「自分のやることはこの街をアリエヌスから守ることだけだから」
「それに関係ないことは、興味ない」とアカは淡々と答える。その言葉にトログは「それじゃ寂しくない?」と尋ねる。
「確かにボクたちは要塞都市を守るために生み出され、そのために戦ってる、でも……」
「戦うだけの人生じゃ、つまんないよ」とトログは俯く。トログのその様子にアカはちらと目を向けたが、気にせずトログは続ける。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 5

防衛組織・ドムス総本部の中層階からは、要塞都市を囲む壁に向かって放射状に“橋”が伸びている。
要塞都市の壁の上部には有事の際に都市を守る天蓋を展開するための回路が張り巡らされているのだが、それだけでなくドムス本部から有事の際に出撃していくアヴェスたちが天蓋の外に出るための出入り口も存在している。そのため人類の敵・アリエヌスが襲来してきた際は、その“橋”を経由してアヴェスたちは天蓋の上へ向かうのだ。
もちろん平常時も許可を得られれば壁の上に出ることは可能なので、アヴェスたちは訓練などを目的に“橋”を渡っていくことは多い。そういう訳で、アカたち5人は各々の武器・レヴェリテルムの入ったケースを持ちつつ“橋”を渡って壁の中へと向かっていた。
「ねぇねぇ、今度の休日、みんなで街を散歩しようよ〜」
“橋”の上を歩きつつ、黒と桃色のジャケットを着たアヴェス、ロディが後ろを歩く仲間たちの方を振り向いて言い出す。それに対し、空色の地に黒いストライプの入ったジャケット姿のアヴェス、クリスが「どうしたんだ急に」と聞く。
するとロディは「えー」と笑った。
「だってアカはまだここの要塞都市のことよく知らないだろうし」
「ロディたちで案内してあげようよ!」とロディは飛び跳ねる。クリスは「お前なぁ……」と呆れたような顔をするが、ベレー帽のアヴェスことトログは「それいい‼︎」と手を叩く。
「ボクたち最近そんなに遊んでなかったし、これをキッカケにカテルヴァに入ったばかりのアカと仲良くなりたい!」
「ロディあったまいい〜!」とトログはロディに近付く。ロディは「えへへ〜」と照れ臭そうにした。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 4

午後3時半、午後の暖かな光が燦々と窓から降り注ぐころ。
要塞都市・パッセリフォルムズの中心部にある高層建造物——防衛組織・ドムス総本部の、アヴェスたちの居住フロアのラウンジにあるエレベーターの扉が開く。エレベーターの扉からは、3人のアヴェス……クリス、トログ、そしてアカが降りてきていた。
「あ、来たきた」
ラウンジに備え付けられた椅子に座って他愛もない話をしていた2人のアヴェスが、3人に気付くと椅子から立ち上がった。
「待ってたよー」
「クリスたち〜」と2人のうちの一方、リボンのついた黒と桃色のジャケットに白いシャツ、そして桃色のバルーンパンツのアヴェスは飛び跳ねながら3人に近付く。それを見て「すまんなロディ、モザも」とクリスは返す。
「普段待ち合わせに遅刻ばかりするおれらより、クリスたちの方が遅刻するとは思わなかったぞ?」
椅子に座っていた2人のうちのもう片方……若草色の開襟シャツに暗灰色と黄緑色のストライプ柄半ズボンを身につけ、暗灰色のジャケットを腰に巻いた浅黒い肌のアヴェスは、「どうしたんだ?」と腰に手を当てつつクリスの後ろに立つトログとアカの顔を覗き込む。トログは「ごめんってばモザ〜」と手を合わせて申し訳なさそうにしたが、アカは真顔のままなにも言わない。
「ボクがアカとお喋りしに行ってたら約束忘れそうになって〜」
「もう、トログはドジっ子だなぁ」
「モザだってやらかしたりするじゃーん」
トログと浅黒い肌のアヴェスは暫しそう言葉を交わしていたが、やがてクリスが「トログ、モザ」と声をかける。
「さっさと自主練始めるぞ」
クリスはそう言うとまたエレベーターの方へ向かう。それを見て、アカたちは荷物を持って彼のあとに続いた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 3

「なに考えてたの⁈」
「放課後のこと? 今日の晩御飯? それとも……」とベレー帽のアヴェスは矢継ぎ早に尋ねる。しかし橙色の詰襟のアヴェスは「そんなんじゃないし」と外を見たまま呟いた。
ベレー帽のアヴェスは相手の言葉を気にせず話を続けていたが、その途中で「トログ! アカ!」と廊下の方から声が聞こえてきた。二人が廊下の方を見やると、空色の地に黒いストライプが入ったジャケットとズボン、白い立ち襟シャツを身につけたメガネのアヴェスが立っていた。
「あ、クリス!」
「どうしたの〜?」と、ベレー帽のアヴェスは手を振る。クリスと呼ばれたアヴェスは、どうしたのじゃねぇしと教室内に入ってくる。
「今日は放課後にみんなで訓練するんだろうが」
「お前が提案したんだろ、トログ」とクリスは腰に手を当てる。それを聞いて、トログと呼ばれたベレー帽のアヴェスは「そうだった!」と手を叩いた。
クリスは「忘れんなよ」と呆れたように呟く。
「とにかく、荷物まとめてさっさと行くぞ」
「トログ、アカ」とクリスは言って教室から去っていく。「今から準備するから待っててよー」とトログは声をかけると、橙色の詰襟のアヴェスに「行こう! アカ」と笑いかけた。
アカと呼ばれたアヴェスは、「まぁ、うん」とぎこちなく頷いた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 2

「それでは、本日の授業はここまで」
「みんな、宿題はちゃんとやっておくように」と言って、教室から教官が去っていく。それを見届けてから、教室内にいる色とりどりの服を着た少年たち…アヴェスたちは椅子に座ったまま近くの席の者と会話を始めたり、荷物を鞄にまとめて教室から去っていったりと、思い思いに動き始めた。
そんな中、教室の窓際の列の一番後ろの席で橙色の詰襟にバルーンパンツを履いたアヴェスは窓の外に広がる青空を見つめていた。
「……アーカ‼︎」
どんっ、と机を叩く音で橙色の詰襟のアヴェスはハッと我に返る。彼が思わず机を叩いてきた人物が立つ自身の左側を見ると、茶色と鳶色の千鳥格子模様のケープと白いパフスリーブシャツ、そして茶色いバルーンパンツとベレー帽を身につけたアヴェスが机に手をついていた。
「……」
橙色の詰襟のアヴェスは、相手に黙って冷たい目を向ける。しかし相手のベレー帽のアヴェスは、気にせずニコニコ笑っていた。
「どうしたの? ずぅっと外眺めちゃって」
「授業がつまんなかった?」とベレー帽のアヴェスはその場にしゃがみ、机に頬杖をつき始める。橙色の詰襟のアヴェスは「別に」とまた窓の外を見る。
「ただ物思いにふけってただけ」
「へぇ〜! 物思い‼︎」
ベレー帽のアヴェスはなぜかきらきらと目を輝かせる。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 1

「ねぇ、要塞都市の外へ行きたいって思ったことある?」
近代的なレンガ造りの要塞都市中心街から離れた丘の頂上に座りつつ、橙色の詰襟ジャケットとバルーンパンツ、帽子に黒い和袖の外套を羽織った少年が、同じようなジャケットとバルーンパンツに帽子、そして白い和袖の外套を羽織った少年に尋ねる。白い外套の少年は「どうした?」と訊き返す。
黒い外套の少年は「え〜いいじゃーん」と遠くを見る。彼の視線の先にはこの要塞都市を守る高い壁が小さく見えていた。
「何気なく思ったんだしー」
黒い外套の少年はそう言って笑う。白い外套の少年は「ふぅん」と頷いた。
「コマは思ったことすぐに言えるよね」
「?」
白い外套の少年がそう呟くと、コマと呼ばれた黒い外套の少年は左側を見て首を傾げる。白い外套の少年は「いやだって」と続ける。
「コマは誰とでも話せるし、自分より話すのが上手いから」
「うらやましい、な」と白い外套の少年は膝を抱える。それを見て「もーしょげないでよアカ〜」と隣に座る白い外套の少年の肩を叩いた。
「アカにはアカなりのいいところがあるんだからさー」
「そんな顔しないの〜」とコマは笑う。アカは「そうかな……?」と照れくさそうにした。
そしてコマは思い出したように、アカに尋ねる。
「それでさ、アカは要塞都市の外に行きたい⁇」
その質問に、アカは少し考えてから答える。
アカの答えを聞いて、コマはアカらしいねと笑った。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑲

「えーすごいじゃーんれーいー」
ネロはそう言って黎にくっつく。
黎は静かにネロの頭を撫でた。
一方それを見る耀平は少し不服そうな顔をしている。
「お、耀平嫉妬してる?」
ネロがかわいくて仕方ないんだな~?と師郎はそんな耀平の肩に手を置く。
すると、そ、そんな訳ないしと耀平はその手を払った。
その様子を見て霞さんはふふふと笑うが、ここでわたしはさっき思ったことを思い出し、彼に尋ねる。
「…そういえば、霞さんって異能力者だったんですね」
わたし、全然気付かなかったです、とわたしが言うと、霞さんはまぁねと頭をかく。
「君が一般人だから言わなかったけど、ネロちゃんが堂々と異能力を使っているのを見て大丈夫だと思ったからさ」
だからあの通り使ったんだ、と霞さんは一瞬両目を菫色に光らせた。
「ちなみに僕のもう1つの名前は”オウリュウ”だよ」
霞さんの言葉に対し、わたしはそうなんですねと答えた。
「…まぁ、そんなことは置いといて」
そろそろ駅へ向かおうぜ、と師郎が手を叩いてわたし達の注目を集める。
「そろそろ霞も帰らなきゃだろ?」
師郎がそう言うと、霞さんはそうだねとうなずく。
わたしと黎もうなずき、ネロは耀平に近付き、行こうよーと彼の腕を引っ張る。
耀平はちょっと不満そうな顔をしていたが、うんとうなずくと駅に向かって歩き出した。
辺りはもうすっかり日が暮れ切っていた。

〈23.オウリュウ おわり〉

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑰

「じゃあ、異能力を解除して」
黎の言葉に耀平は、え、と驚く。
「それじゃおれ達は…」
「いいからお願い!」
霞‼と黎が声を上げた時、分かった!と霞さんが言った。
その途端、辺りの霞がなくなり、元の通りの細道が現れた。
元のように周囲を見ることができるようになったヴァンピレスは、にやりと笑っていつの間にか出していた具象体の白い鞭を振るおうとする。
しかしそんな彼女に向かって中身が入った状態のペットボトルがわたしの後方から真っ直ぐに飛んできて、ヴァンピレスの額に直撃した。
「あうっ」
ヴァンピレスはそううめくと、額を手で押さえながらその場にしゃがみ込む。
「だ、誰ですの…?」
わらわにペットボトルなんて…とヴァンピレスは顔を上げる。
わたしも彼女が目を向ける方を見ると、紺色のパーカーのフードを目深に被った少年、黎が立っていた。
「まさか、貴方…」
ヴァンピレスはふらふらと立ち上がると、黎に向かって具象体の白い鞭を向ける。
黎はかすかに後ずさり、ヴァンピレスは思い切り具象体を振り上げようとした。
しかし、そんな彼女の後ろから、させるかぁーっ‼という叫び声が聞こえた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑪

「あの子は昔から明るくて、何だかこんな僕にも良くしてくれるから、すごく嬉しかった」
だから僕も、人が怖くなっていったんだろうね、と霞さんは言った。
わたしや師郎は黙ってそれを聞き、隣のベンチに座るネロと耀平は静かにこちらを見ている。
黎もちらと霞さんの方を見る。
「ま、そういう訳で僕は変われたんだ」
霞さんは微笑んだ。
わたし達はそんな霞さんの事を見ているばかりだったが、やがて彼はさて!と呟く。
「そろそろ日も暮れてきているし、帰る事にしようか」
霞さんがそう言ってわたし達に背を向けると、え~もう帰るのー‼と耀平が不満気に声を上げる。
霞さんはそうだよ~と振り向いた。
「君達だって、そろそろ帰り始めないと親に心配されるでしょ?」
「まーそうだけど…」
耀平は不満気な顔をするが、霞さんはじゃーあー、と彼に近付き顔を覗き込む。
「僕の事、寿々谷駅まで送ってくれない?」
その言葉に、耀平の顔がパッと明るくなる。
「え、いいの?」
「うんもちろん!」
ギリギリまで一緒にいたいし~と霞さんは続けた。
「やったぁ!」
耀平はそう言って嬉しそうに立ち上がる。
霞さんはふふと笑った。

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翠精造物帰路

すっかり日が暮れた商店街にて。
辺りが暗くなっても人で賑わう商店街を、1人の女と5人のコドモたちが駅に向かって歩いていた。
「でねー、そのトゥイーディアって子が助けてくれたんだよ〜」
金髪にカチューシャをつけたコドモ、キヲンがマスターである女…寧依と腕を組みながら話している。
その様子を後ろから青い長髪のコドモ、ピスケスと赤髪にキャップ帽のコドモ、露夏が見守りながら進んでおり、その数メートル後方で黒髪のコドモ、ナツィとジャンパースカート姿のコドモ、かすみが歩いていた。
「…なぁ」
「?」
ナツィに呼ばれて、かすみは隣を歩くナツィの方を向いてどうしたのナツィ、と尋ねる。
ナツィは前を向いたまま続ける。
「お前、“商会”の魔術師を止めるために“翼”を使ったんだって?」
ナツィにそう聞かれて、かすみはあ、うん…と気まずそうに頷く。
「きーちゃんを上から探してたら、露夏ちゃんが危ないと思って…」
それで咄嗟に、とかすみは苦笑いする。
ナツィはふぅんと返して沈黙した。
暫くの間、2人の間に静かな間が空いたが、ふとかすみがもしかして、と呟く。
「自分のこと心配してる⁇」
「⁈」
ナツィは驚いて立ち止まる。
「えっ、えっと…」
振り向きながら顔を赤らめるナツィに対し、かすみはなんとなくだよ、と笑いかける。
「ナツィは自分が滅多にしないことをすると心配するの、分かってるから」
かすみの言葉に、ナツィは顔を背けるように前を向く。
それを見てかすみはふふ、と微笑みナツィの手を取った。
「…大丈夫」
自分は自分の身を傷つけたりしないから、安心してとかすみはナツィの顔を覗き込む。
「…うん」
ナツィはかすみの方をちらと見て、その手を握り返した。

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飛龍造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
毎度のごとく「造物茶会シリーズ」のあとがきです。

今回のエピソードは、”今後”への布石として書いたものでした。
元々はナツィたちがいつもの街の外でワイバーン的な人工精霊やその仲間に出会って戦う…みたいな話を書きたい!と思うところから始まりましたね。
ただ実際に書いていく過程で、トゥイーディアは「人間を嫌いつつも憧れる矛盾した子」にするつもりが、「弱い子に意外と優しい姉御肌っぽい子」になってしまったので「あれ?」って感じです(笑)
でも”今後”への布石にするつもりで話の内容を詰めた結果なので「まぁいっか」と思います。
…だけどちょっと粗削りすぎた気もする。

ということで、今回はここまで。
造物茶会シリーズ第11弾もお楽しみに。

最近は想定よりも忙しくなってきちゃって、自分で始めた企画の作品の執筆が進まず悶々としてます。
あと最近はなんだか遅筆になってきちゃって、(遅筆なことは考えて書けていることかもしれないけど)逆に困ってますね。
まぁ今月中に書きあげて投稿を済ませたいので頑張ります。
それと、今は執筆を止めているけど「造物茶会シリーズ」第10弾の記念エピソードを書きかけています。
こちらはナツィとかすみの馴れ初め話なので、お楽しみに。

てなわけで、テトモンよ永遠に!でした~。

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飛龍造物茶会 Act 23

「“商会”の連中はしつこいな」
「それはこっちのセリフだ」
“学会”の犬ども、とキャスはナツィを睨む。
「おいらたち“商会”のナワバリに人工精霊を差し向けやがって…」
「は? コイツはただの迷子なんだけど」
キャスの言葉にナツィは言い返す。
嘘つけとキャスは吐き捨てるが、ナツィは嘘じゃないとキャスを睨み返した。
「単にコイツは裏路地に迷い込んで気付いたら“商会”のナワバリにいた、それだけだ」
「そんなの建前だろう⁈」
キャスは言い返すが、ナツィは建前じゃないと冷静に返す。
「コイツ、なにも武器を持ってないし出したりもしてないだろう」
普通に“学会”から差し向けられた人工精霊だったら攻撃されそうになると応戦するのが普通だろ、とナツィは続けた。
キャスは、それは…と言いかけるが、すぐに言葉が続かなくなる。
しかし…例え、そうだとしても!とキャスは槍をナツィとキヲンに向けた。
「無関係の奴に“商会”に触れられちゃ困るんだよ‼︎」
キャスがそう叫ぶと、キャスが持つ槍の穂先が橙色に輝き始める。
ナツィは咄嗟に大鎌を構える。
だがそこへ雄叫びと共に何かが突っ込んできて、キャスの槍を奪い取った。
そして上空へと舞い上がる。