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LOST MEMORIES~Christmas ver.~

「瑛瑠、付き合ってくれないか。」
帰り道、時はクリスマス。ケーキを囲む家族や甘やかな時間を過ごす恋人たち、かたやクリスマス商戦に追われたバイトとクリスマスなんていらないと追い込まれた受験生。
そんな喧騒に飲み込まれていた瑛瑠は、英人の言葉に応える。
「いいですよ、どこへいくんですか?」
薄暗い帰り道さえ光で彩られ、浮き足だった街並みを体現している。
ふっと笑った英人は、デートと一言。瑛瑠は呆れたようにため息を吐く。
「行き交うカップルのクリスマスムードにでもあてられたんですか。」
「横に何の申し分もない女がいて、見せつけたくないわけがないだろう。」
瑛瑠はじとっと横目で見てやる。その目を見て、肩を竦める英人。
そうして瑛瑠はふと思うら、
「たしかに、隣にイケメンを置いてクリスマスの街を闊歩できるのは光栄なことですね。」
すると、今度は英人が好戦的な目を瑛瑠に向け、艶やかに微笑む。
「お手をどうぞ、プリンセス。」
ダンスパーティーにおけるマニュアル通りのエスコートを演じられてしまったので、瑛瑠はその手をとる。
「ほんと、いい性格してますね、王子様。」
どちらともなくきゅっと握った手は、冬の帰り道にも関わらず、あたたかかった。

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なぞなぞリスペクト続き

と、そこで、使用人の一人が、ワゴンを押して客間に入ってきた。ワゴンには二つのクロッシュと二本のペットボトルが乗っている。
「昼食を用意させました。どうぞ召し上がってください」
「はあ、それはどうもすみません。ありがたくいただくことにしましょう」
使用人がクロッシュをとると、そこにはきれいに盛り付けられたクリームパスタ。
「ウニとアボカドのクリームパスタでございます」
「ああ君、ちょっと待ってくれ」
使用人が下がろうとすると、原垣内氏は彼を呼び止めた。
「少し毒味をしていってくれないか」
「構いませんよ」
返事をすると、使用人は皿の前にあったフォークを手に取り、少量をするっと絡めて音もたてずに口にはこんだ。
「恐らく大丈夫でございます」
「ありがとう、下がっていいよ」
使用人は客間からそそくさと出ていった。原垣内氏は安心したようにパスタを口にはこぶ。こちらも全く音をたてない。流石、育ちが違うというのだろうか。
「こんな風にものひとつ食べるのにも過敏になってしまってね。飲み物でも買ってきたもの以外は飲まないようにしているんだよ」
そういうと原垣内氏は置いてあった◯やたかのペットボトルの蓋を、これまた音もたてずに開け、口にはこんだ。
「ささ、刑事さんもどうぞ召し上がってください」
「はあ、ではお言葉に甘えて」
そういって観音寺も(流石に音をたてずにというわけにはいかなかったが)その絶品のパスタの味を楽しんだ。いつも安い飯ばかり食べている彼からすれば異文化の食である。

「今日はごちそうさまでした。近いうちに調査のためにもう一度お邪魔させてもらうと思いますのでまたよろしくお願いいたします」
「ええ、わかりました。お待ちしております」
そういって観音寺は帰っていった。
その晩、原垣内氏が毒殺されたとの情報が入った。その日の話を観音寺がすると、案の定先輩刑事の五十嵐にとことん絞られたのである。

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LOST MEMORIES ⅢCⅥⅩⅦ

「私と英人さんで先に話のすりあわせをしていたこともあり、ふたりで出した仮説なのですが、」
ちらっと隣の英人を見ると、頷いてくれた。それを確認した瑛瑠は、背中を押されるように言葉を紡ぐ。
「この前も話したように、何らかのプロジェクトの一環、またはその延長ではないかという結論に至りました。
ここに至るまでの思考の過程のして、ふたりにきいておいてもらいたい話があります。」
瑛瑠が見た夢の話。もう、完全に覚えていない。ノートに書いてあることが、瑛瑠の今話せるすべて。やっぱりかと思うも、思わず苦笑いがこぼれる。
3人は黙って瑛瑠の話を待つ。もちろん、英人は知っているけれど。
「夢を見たんです。」
歌名と望の目は至って真剣で、英人に話したときと重なる。
夢という言葉に拍子抜けするような仲間でなくて良かったという思いが胸を掠めた。
雪のなか、まだ幼い自分が母と神殿へ行ったこと。そして、そこで起きたことやエルーナとの出会い、会話内容をすべて伝え、締めくくる。
「これが、たぶん実際にあった出来事の夢なんです。」
瑛瑠の引っ掛かるもの言いに気が付かないふたりではない。
「たぶんってことは、覚えていないってこと?」
優しく問いかける歌名に、瑛瑠は困ったように微笑んだ。

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LOST MEMORIES ⅢCⅢⅩⅢⅩⅦ

「私と英人さんで先に話のすりあわせをしていたこともあり、ふたりで出した仮説なのですが、」
ちらっと隣の英人を見ると、頷いてくれた。それを確認した瑛瑠は、背中を押されるように言葉を紡ぐ。
「この前も話したように、何らかのプロジェクトの一環、またはその延長ではないかという結論に至りました。
ここに至るまでの思考の過程のして、ふたりにきいておいてもらいたい話があります。」
瑛瑠が見た夢の話。もう、完全に覚えていない。ノートに書いてあることが、瑛瑠の今話せるすべて。やっぱりかと思うも、思わず苦笑いがこぼれる。
3人は黙って瑛瑠の話を待つ。もちろん、英人は知っているけれど。
「夢を見たんです。」
歌名と望の目は至って真剣で、英人に話したときと重なる。
夢という言葉に拍子抜けするような仲間でなくて良かったという思いが胸を掠めた。
雪のなか、まだ幼い自分が母と神殿へ行ったこと。そして、そこで起きたことやエルーナとの出会い、会話内容をすべて伝え、締めくくる。
「これが、たぶん実際にあった出来事の夢なんです。」
瑛瑠の引っ掛かるもの言いに気が付かないふたりではない。
「たぶんってことは、覚えていないってこと?」
優しく問いかける歌名に、瑛瑠は困ったように微笑んだ。

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LOST MEMORIES ⅢCⅥⅩⅢ

「みんなも薄々気付いていたとは思うが、このイニシエーションには裏があると踏んでいる。
通過儀礼として送られたことをまず確かめたいんだが。」
そう言ってこちらをみるので、先に口を開いたのは瑛瑠。
「私も、成人においての通過儀礼と言われました。人間界の視察と情報共有が主な目的。」
瑛瑠の言葉に、歌名と望も頷く。伝えられている大まかな内容は、4人とも同じようだ。
英人は引き継ぐ。
「視野を広げることや情報を扱うことについてが最終目的なら、疑問はない。これは僕の推察だが、僕らは将来的に上に立つべくして教育されてきたはずだ。もっともなイベントであるとも思っている。
本当に、それが目的なのであれば。」
英人の鋭く光る黒い瞳は、今日はいつもに増して研ぎ澄まされていて、目にハイライトがあるにも関わらず感情とは程遠い表情をしていた。
「疑わしい理由は主に2つ。1つは、期限がはっきりしていないこと。あくまで儀式の体なのに、ここまで弛いのはおかしい。絶対と言ってもいい。」
さらに続ける。
「もう1つは、僕が成人しているということ。既に成人の儀を終えている僕を人間界に送る理由は、」
「成人においての通過儀礼じゃないから。」
歌名が、神妙な顔で引き継いだ。

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This is the way.[Ahnest]18

轟音とは、こういうもののことを言うんだと知った。

明くる日のこと。
「うーんっ、よく寝たあ」
「ホント?私体がカチコチなんだけど...」
「まさか、今まで岩の上で寝たことがなかったり...」
「ま、普通に暮らしてたらそうある話じゃないわよ」
そう言ったシェキナが首を横に曲げて手で引っ張ると、ゴキゴキっと音がする。うわあ、と顔をしかめるアーネスト。
「どっか折れてるみたいだ」
「何言ってんのよ」
肩、腰、脚と順番に体をほぐしていくシェキナ。そのたびにすごい音がなる。
「さあ、朝食でも探しに行くわよ」
「そうだな、登ってくるときにおそらく鹿の足跡っぽいのが向こうに続いてたからいるかもしれないな。昨日の晩の雪でだいぶ消えちゃってるけど」
「そんなの見つけてたの?」
「まあ、ね。確かあっちの......」
アーネストが岩屋の出口に近づき、外に出ようとする。と、そのとき、はっとアーネストは足を止めた。
「どうしたの、アーネスト」
「シッ.........。何か聞こえないか?」
「??いえ、何も...待って、なんだか低い音がなってるみたい。重たい家具を動かしてるときみたいな......」
「やっぱりそうか、聞き間違いなら良かったんだが...」
「え、何、どうしたの?」
「これはまずいかもしれん......どうする...?」
「ちょっとなんなのよ教えてよねえ!」
オヅタルクニアではこんな音を聞くのは日常茶飯事だった。でも、こんなにも大きな音を聞いたのは初めてだ。それもそうだ、いつも遠くから眺めているだけなのだから。そう、この音の正体は............。

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LOST MEMORIES ⅢCⅥⅩ

瑛瑠はそのあと、しっかりと責任をとって英人にかけられた不名誉な疑いを晴らした。
彼にしては珍しく表情を顔に出し、不機嫌そうにする。
「すみませんて、英人さん。」
「僕を犯罪者にでもする気か。」
歌名の座っていた椅子に座った瑛瑠は、向かいの英人に謝る。
そっぽを向いてしまった英人に瑛瑠は困ってしまい、歌名と望に目で助けを求めるが、ふたりとも苦笑いを返すのみ。
「今回は、瑛瑠が悪い。」
「紛らわしい言い方はよしてよ、瑛瑠さん。ぼく、本気でぞっとしたから。」
ここまで言われてしまったら、反省する他ない。
瑛瑠は英人をつつき、再度困ったように謝る。
「犯罪者にする意図はまったくもってありませんでしたし、英人さんなら犯罪じゃないですから。」
そういうことではないし、そういうところだぞ祝瑛瑠。
3人が、完全に諦めた瞬間だった。呆気にとられている歌名と望を置き、一足先に冷静になった英人は、深いため息をひとつつき、苦笑する。
「もういい。瑛瑠はもっと表現力を学ぶべきだ。」
きょとんとする瑛瑠に、さらに言う。
「無防備なのは僕の前だけにしてくれ。」
その一言に対する狼男と透明人間の抗議により、朝の時間はさらに賑やかになるのだった。

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遅い。【検閲編】1

【検閲編】のまとめです。
こんな感じで作品を募集しました。

《以下の条件を満たして作品を作りなさい。
・詩であること。散文、韻文、定型、不定形は問わない。
・自らの手によって検閲を入れること。███のようにすること。
・タグを「新言語秩序」にすること。》

さあさらにめんどくさい条件を出しました。ある人に喧嘩売りすぎて作ってくれませんでした(笑)実際詩に限らなかった方が良かったのかもしれません。しかしやはり(すごい接続詞)、今回も面白い投稿が多々見られました。
実は今回の条件には裏課題がありまして。それは、
《自分の過去の作品を検閲して投稿すること。》
気づいてくれたのはお一人だけでしたが、気づいてもらえて嬉しかったです(。-∀-)

このテーマの着想は、僕の大好きなバンドのamazarashiの武道館公演『朗読演奏実験空間・新言語秩序』から来ています。詳しくはいろんなとこがライブレポート出してるので是非。
そういう話じゃない。検閲の話です。この掲示板にも検閲システムは存在します。あまりにも不適切な投稿に関しては、一部が削除されたり、時には掲載されないことだってあります。それをやめろといっているのでは決してありません。いや、ほんとに。誤解しないでくださいね。ただ、この掲示板外でも、我々は『検閲』を怖れていないでしょうか。
空気の読めない発言、知らず知らずの内に誰かを傷つけている言葉、そういうものを怖れて日々生きてはいないでしょうか。それについては僕が最たる例です。ですからここからの文章には全くもって説得力はありませんが、まあ聞いて(読んで)やってください。

(そして続く(長すぎた))

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なぞなぞリスペクト

「遅くなりました!!」
 観音寺隼人は、車から慌てて降りると、先に待っていた先輩刑事に頭を下げた。五十嵐剛。規律にはめっぽう厳しいので有名だ。
「遅い!もう七分も遅刻だぞ!」
「すっ、すいません!」
「…まあいい。事情聴取だ。いくぞ」
 凄まじく早い五十嵐の徒歩に、観音寺は必死でついていく。
 今回のガイシャは、上殿敬子、四二歳主婦。場所は自宅のリビングで、何者かによって後頭部を殴られた後に失血死。争った形跡はなく、現場からは犯人を特定できるものは何も見つからなかった。死亡推定時刻は、昨日一月一三日午後7時頃。目撃証言もなく、捜査は非常に難航していた。
 今回事情聴取を取るのは、ガイシャの夫である上殿凛太郎、四五歳会社員。近隣の住民によると、最近あまり中は良さそうには見えなかった、とのこと。

 以下が事情聴取の様子だ。
「上殿さん。あなたは昨日の午後七時頃、どこにいらっしゃいましたか」
「刑事さん、まさか私を疑っているんですか?!」
「いえ、あの、この質問は皆さんにお答えいただいているものでして…」
「…ふん。まあ、良いですけどね。じゃあお答えしますよ。私は確か、まだその時空の上でした」
「…空の上、ですか」
「ええ。私はここ二週間休暇をとってオーストラリアに旅行に行っておりまして、昨日の夜十時にやっと帰国したんですよ。そしたら、まさか妻が、あんな目にあっているなんて…」
「そうでしたか。それはお気の毒に。ところで、オーストラリアでは何をなさっていたんですか?」
「別に、観光ですよ。色んな所を見て回りました」
「良いですねー、オーストラリア。僕もいつか行ってみたいものです。何が一番良かったですか?」
「やっぱり海ですかね。一月なんでちょっと寒かったですけど、夕日の沈んでいく様は圧巻でしたよ」
「そうでしたか。それでは一応確認を取らせていただきます。ご利用になられた旅行会社はどちらでしたか」……

 その後、旅行会社などに問い合わせてみたが、上殿氏がオーストラリアに行っていたことは確からしい。これは難しい事件になるぞ…。そんな話を五十嵐刑事にすると、
「おい、何をぼさっとしているんだ。どう考えてもその凛太郎ってやつが怪しいじゃないか」

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青い夏

誰もいないはずのプールサイド。今年初めて水を張った今日。僕はふらっとプールに向かった。

ぴちゃん、ぱちゃん、ぱしゃん。プールから音が聞こえた。不思議に思いながらプールサイドに出る。まず、目に飛び込んできたのは、青い硝子玉のように美しい空を反射する真新しい水。そして一人の少女。
「西城さん…。何やってるの…?」
なに聞いてんだ…。一人でため息をつく。見たら分かる。水に足を浸けてる。西城さんと話すことは今までほとんどなかった。感じた違和感は夏の空に似合わない白い肌だった。黒い長髪を揺らして振り返る。
「何って…。死のうと思って。」
冗談とも本気ともとれない表情で言い放った。
「死ぬ…?」
「冗談だよ。こんなとこで死のうと思って死ねないでしょう?本気にしちゃって、君、面白いね」
「西城さんって…変な人…?」
「ふははっ。そうかもね。梢でいいよ。西城さんって固い。この際仲良くなろうよ。」
「梢…は本当は死にたいと思う?」
「誰だって思うんじゃないかな。君もあるでしょう?意味もなく死にたくなるとき。」
「あるかも…しれない。」
「一回死んでみようか。」
「え。」
梢がプールに飛び込む。
「はっ?何して…。」
「ぷはぁー!!気持ちいいよ!!」
僕の手を梢が引っ張る。
「うわぁ⁉」
顔を上げると濡れた髪が気持ちいい。馬鹿だと思った。青すぎて笑っちゃいそうだった。というか実際笑ってた。
「どこが死んでるんだよ。」
「うじうじ考えてても仕方ないからそういう考えを殺した。」
「そっか」
梢がプールサイドに上がって鞄からバスタオルわ出す。
「何で持ってるんだよ…」
「え、逆に君は持ってないの?」
「当たり前だろ…。」
「貸すから、拗ねないの。」
「拗ねてない。」
梢はバスタオルを被ってフェンスの外を見て呟いた。
「私、生きるよ。君の生きる世界で、生きてみる。もー…君のせいだよ?私が死ねなかったのは。」
なぜか声が震えていた。

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LOST MEMORIES ⅡCⅤⅩⅨ

「私の話の前に、お嬢さまの涙の理由を教えていただけますか。」
静かに言うチャールズに、瑛瑠は困ったように微笑む。交換条件のつもりだったのだろうか。
きっと、「節度あるお付き合いを。」という発言について、瑛瑠が何かしら突っ込んでくると思っていたチャールズは、そこで帰宅が遅くなった理由や赤くなった目の理由を探るつもりだったが、違う話題を振られたために、いつも学校生活について突っ込まないからこそ、自分の話と引き換えに改めてその理由を引き出そうと言うのだろう。
しかし、どうして改めて。そんなに目が赤いのかと考え込む瑛瑠。それとも、
「……本当に、彼らと節度あるお付き合いをしていないとでも思っているの?」
そんな瑛瑠に、チャールズは一言。
「お嬢さまのわからず屋。」
まるで拗ねたような言い方に呆気に取られる。
「まあ、冗談ですが。」
「……冗談。」
「そんなことは思っていませんが、泣いた痕があるんですから、心配もするでしょう。なんせお嬢さまは、溢れるまで溜め込むしょうがない性格の持ち主ですからね。」
瑛瑠は思わず聞く。
「そんなに目赤くなっている?」
チャールズは微笑んだ。
「いつもと様子が違うことくらいわかりますよ、一番傍に居るんですから。」

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