表示件数
0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑯

「…端的に言うと、”異能力”の”意志”が”幻影”というカタチでこの世界に実体化したものね」
イマイチ内容を理解できないわたしへの助け舟なのか、鷲尾さんは呟くように説明した。
「ま、そんな感じだな。ごく一部の強力な能力の持ち主のみが、能力発動時に呼びだすことができる、”幻”。ちなみにコレ持ち主以外が触ると消えるんだ、…こんな風に」
鷲尾さんから引き継ぐように話を続ける耀平は、不意にネクロマンサーが持つ黒い大鎌の柄に手を伸ばした。
彼の手が柄に微かに触れると、ソレは跡形もなく見えなくなった。
「あ、ちょっと勝手に消すなよ」
「いいじゃん別に…てかこんな所でそんなモン出すな。いくらここにおれらしかいないからって、ソレ自体が危なすぎるから感情に任せて引っ張り出すのはやめろ」
”具象体”を消されて文句を言うネクロマンサーに対して、耀平はあきれたようにたしなめる。
「…むぅ」
たしなめられた彼女は、不満げに頬を膨らませた。
「ソレの刃なんか他人が下手に触ると勝手に記憶をかっさらっていくからな。マジで気を付けろ」
耀平に注意されても、ネクロマンサーはむすっとした顔でそっぽを向いていた。

2
1

世にも不思議な人々をリストアップ7

モブ男子
モブ。もう出てこないと思う。
能力
過去に起因するあらゆる知識・情報を知り、アウトプットできる。
作者のコメント
もう出ないとは勿体無い能力者だ。

モブ女子
モブ。もう出てこないと思う(2度目)。
能力
『忘れる』ということを司る能力。『忘れる』能力であり『忘れさせる』能力でもある。また『忘れない』能力であり、かつ『忘れさせない』能力でもある。更に、忘却の彼方にある記憶を引っ張り出す『思い出す』能力であり『思い出させる』能力でもある。ついでに『思い出さない』能力であり『思い出させない』能力でもある。こう書くと記憶操作に誤解されるかも知れないが、飽くまで『忘れる』ということに起因した操作しかできない能力なので、悪しからず。
作者のコメント
もう出ないとは勿体無い能力者だ(2度目)。

生き物好きの少年
小五。生き物が好き。人間以外のあらゆる生き物を有害有益に拘らず深く愛している。別に人間嫌いというわけではなく、他の動植物に比べて興味が湧かないというだけなのでご安心を。
能力 かえるのうた
ヌシと認識した動植物を神格化する能力。
・神格化された動植物は寿命が大きくのびる。具体的には50年〜100年ほど。
・神格化された動植物がいる一帯はその生物が生きて居続ける限り生態系が保全される。
・神格化された動植物は高い知能を持ち、場合によっては会話さえ可能になる。
・神格化された動植物はごく稀に特殊な能力を手に入れることがある。
作者のコメント
まさか三人とも名前が出ないとは思わなんだ。人間、動植物と神格化シリーズも増えたし、次は付喪神量産かな。

2

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑬

「…これはこれで大変な事なんだよ。常人がこういう”モノ”を知ってしまったらどうなるか…分かってる? ねぇ」
鷲尾さんは少し強めの口調で言った。まるで人を責めるように。
「ちょ、ちょっとハルカ、強く言いすぎだよ。相手は年下なんだし…」
ネロに対して強めに喋っているハルカを、亜理那は苦笑いしながら諫めた。
その様子を見ながら、わたしはこの2人を”彼ら”4人に会わせるのは間違ってたのかな…と思った。
…この通り、目の前の鷲尾さんとネロは気まずい状況だし。
あとの男性陣3人は、警戒しているのか揃ってわざとらしく関係ないフリをしているし。
まぁ、ここはショッピングモールとはいえ、人気のない階段の踊り場だから、最悪修羅場みたいなことが起こっても被害は抑えられる…ハズだ。
「…とりあえず、どうなっても知らないわ。またいつかの時代みたいな事が起こっても、アンタたちのせいだから」
「…アンタ」
鷲尾さんが冷たく言い放ったところで、ネロが静かに口を開いた。
「何? 何か異論でも…」
そう鷲尾さんが言いかけた時―
「…お前ぇぇっ!!」
不意にネロが鷲尾さんに飛びかかりかかった。

2

世にも不思議な人々㊻ 敬う人その2

彼の不思議な少年としばらくお話していると、どこからか大きめのヒキガエルがのたのたと私達の方に這いずって来ました。
「あ!せーあ様だ!ほら、あれがせーあ様だよ!格好良いでしょう!」
「おー、ヒキガエルだ」
すると、そのヒキガエルが話しかけてきました。
『ヒキガエルとは何だ。我こそはこの一帯を仕切る土着の神、青蛙神にあるぞ。頭が高い!』
いや、カエルに頭が高いなどと言われましても。まあ穏便に済ませたいので言う通りにしましょうかね。私は屈んで目線を少し低くしました。
「申し訳ありません青蛙神様。ところで失礼を承知でお尋ねしたいのですが」
『何だ?』
「一体貴方様はどのような出自で?」
『出自?そんなものは知らぬ。気付いた時には既にこの世に在った。ただそれだけのことだ』
「ほう。……もしかして、そこの少年が関わっているとか、そんなこと無いでしょうか?」
『厶、彼奴か?さあ、我も所詮は産まれて幾らも経たぬ新参故、知らないことなど山とある』
ふーむ、彼の少年が一枚噛んでいると思ったのに確証が無い。
そんなこんなを考えておりますと、やけに背の高い、と言っても住之江少年よりかは少し低い、それでも細いせいでより背が高く感じられる男がやって来ました。
「む、これは奇々怪々。ヒキガエルと子供が話してら。……ふーむ、而してそれなら何もおかしくないか」
何やら訳を知っている様子。
「えーっと……すみません。これについて何か知ってるのです?」
「うにゃ。けどさっき見たお陰で分かった。ところで君もそこの少年も、僕らの仲間なのか。どんな能力なんだい?」
なぜ私が能力を持っていると知っているのでしょう。雰囲気も不審者だし近寄りたくないです。
「今君は『なぜ自分が能力を持っていると知っているのだろう。雰囲気も不審者だし近寄りたくない』って思ったろう。……君は次に『な、何故私の考えている事が!?』と言う」
「な、何故私の考えている事が!?……ハッ!」
「そういう能力だからだよ。僕のことはキタと呼んでくれ」
その男、キタさんは随分親しげに言いました。

0
2

世にも不思議な人々をリストアップ6

此花陽太郎(ヨースケ)
中学校の頃のあだ名がヨースケだった。他に陽の字がつく奴はいなかったらしい。陽介には面白いのでヨースケと呼ばせている。周りからは感情を素直に表す明るい奴だと思われているが、その実その心の中は中々のカオスであり、心中を読むのは難しい。
能力
認識した足場には、それがどんなものであろうと乗ることができる。空中の砂粒にも、尖った針の先にも、飛んでいる羽虫の背にも、風に揺れる笹の葉先にも、本当に何にでも乗れる。もちろん足場に固体の要素は不可欠。ゲルとかダイラタンシー現象はセーフ。恐ろしいのは、ただバランスがどうのという話ではなく、ただ『その足場に乗れた』という結果だけを定着させる能力であるという点である。
作者のコメント
読みは「このはな ようたろう」。バランス感覚が良かったんだと思う。童謡を考えなくて良いのすっごい楽です。

岸和田陽介(ヨータロー)
中学校の頃のあだ名がヨータローだった。他に陽の字がつく奴はいなかったらしい。陽太郎には面白いのでヨータローと呼ばせている。周りからは感情を表に出さないクールな奴と思われているが実際は感情的で表情もコロコロ変わる。ただその変化が小さいのである。
能力
『何か』を召喚する。『何か』は対象の視界の端ギリギリに出現し、視界の隅をキープするように歩き、歩行速度より早くそちらを向かれた場合は瞬間移動する。この『何か』には対象の注意を引き寄せる性質がある。ちなみに『何か』の正体は長さ60cm程度の竹ひごのような存在である。
作者のコメント
目立つのが嫌いだった結果、こうなりました。読みは「きしわだ ようすけ」。もし僕にスタンドが発現してもこんなのだな、みたいな能力。

仕出原 栄人(神か少年)
「お前神かよ」が口癖。
能力 とおりゃんせ
神だと思った人間を神格化する。たとえ冗談でも僅かにでもそう思ったのならばその人間は神になる。
・神格化された人間は長寿になる。(150歳くらい)
・神格化された人間は生命力が向上し、多少の怪我はすぐ治る上、病気にも強くなる。
・神格化された人間は、そのジャンルに由来した能力を手に入れる。
まさに現人神量産の能力。
作者のコメント
読みは「しではら はるひと」。彼の存在はこの作品の能力の可能性を広げてくれた。

1

世にも不思議な人々をリストアップ5

トカゲ氏
トカゲだった男。
能力 黄金虫
他者に暗示をかけられることによって別の生き物になる。人間以外のあらゆる生き物が変化の対象となり、植物や菌類にもなり得る。ウイルスは無理。
作者のコメント
彼の友人はこの後無事ボコボコにされました。彼については名前は考えてないです。

住之江 俊介(大男)
身長七尺に届くほど長身の初の同級生。先天性の能力者。
能力 パフ
あらゆる事象が彼にとって害にならない。その影響で危機から人間を守るためにある反射の仕組みや痛覚が無い。だから辛いのも平気。更に出力を制御するための身体のブレーキが無いため、通常ならあり得ないパワーが出せる。身体はボロボロになる。なお、彼の能力は不死とも言えるが、治癒はしない。メラニンや白血球はなぜかある。
毒や病は効かないが、所詮はタンパク質の塊なので強酸かければ爛れるし、燃やせば炭化するし、首を切り落とせば首から下は神経が切れるので動かなくなる。しかし細切れになろうと蒸発しようと食われて消化されようとそれらは彼の害になり得ないので、治せれば元に戻る。
作者のコメント
読み方は「すみのえ しゅんすけ」。中学校時代の友人との『何も害にならない能力があったら毒とか病気とかアレルギーとか平気になるんじゃね?』『それ、失血とかそういうのも平気にならない?』『実質不死身だ!やべえなww』みたいな会話から誕生した能力です。

少女
住之江と仲の良い少女。計算すると背丈は140無いことになる。不登校。過去に何があったかは不明。最近住之江の小指の先の部分を切り落として治療用に引き取ったそうな。何それ怖い。
能力 蛍の光
何かで突き刺すことによってその人間の外傷を全て完全に治す。刺すときは普通に痛いので、それこそ痛覚の無い住之江ぐらいしか使える相手がいない。
作者のコメント
上の能力者だけを治すための能力です。

2
0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑧

「…確かに」
ただわたしから”異能力を知るキッカケになった人達”を紹介してもらうなら、わざわざ鷲尾さんを呼ぶ必要はない。じゃあなぜ…
「あ~、それはね」
亜理那は少し間をとって答える。
「わたし1人だとサヤカから情報引き出せる自信がないから! あとハルカにその事教えたら絶対それが誰か知りたがっていい圧力になると思ったし」
え、とわたしと鷲尾さんは軽く凍り付く。
「あ、圧力…」
内容も内容だけど、いつもの彼女からは考えられないような言葉を繰り出した亜理那に、わたしは唖然としてしまった。
鷲尾さんもあきれたように下を向く。
「そう! 圧力! あとわたしよりもハルカのほうがそういうの得意だし…」
「いやそんなワケねーわ」
あきれ切っているわたし達を気にせず、いつも通りに話を続ける彼女に鷲尾さんは軽く反論した。
そんな突っ込むも気にせず、亜理那はわたしに向き直る。
「と、いうワケでさ~サヤカ、その人達の事教えてくれない? お願いっ!」
そう言って、彼女はぺこりと頭を下げた。
「お、お願いって…」
一生のお願いと言わんばかりに頭を下げる亜理那に、わたしは戸惑った。

1

世にも不思議な人々番外編 No.2談義

キタ「いやー、久し振りに登場ですよ」
初「僕はちょっと前にちらっと出たけど」
真琴「いやマジで久し振りだよ俺らは」
キタ「まあ、今回はこの作品で二番目に強い能力者について考察するわけなんだが」
真琴「何故二番目?普通こういうのは最強を考察するものじゃないのか?」
キタ「いやー、それについては作者公認で万能ちゃんが居りますからねー……」
初「あれか」
真琴「あれじゃあしょうがねえや」
キタ「まず候補をあげてみるか。まずは作者がNo.2だと正式に認めてる伏見君だろ」
初「誰それ」
真琴「チャチャさんのことだ」
初「ああ、あの人か」
キタ「次に阿蘇さん。人外モードの時はパワーもスピードも上がって細切れになっても再生するとか」
初「何それ強い。結構良い勝負だな」
キタ「他には、呪術使いの前橋つくばちゃんとかもいたな」
真琴「誰だそれ知らない」
キタ「僕らとはまだ会ってないからね」
初「群馬なのか茨城なのかはっきりして欲しい名前だ」
真琴「そうだ。素のフィジカルだけならあいつも負けてないんじゃあないか?ほら、通り魔のなっちゃん」
キタ「君からそんな言い方が出てくるとは」
真琴「う、うるせー!」
初「確かに彼女もすごいよな」
キタ「あとは、持久力のあいつ。大男。名前はまだ無い」
初「え、嘘、あいつも能力者なのか。この間会ったけどそんな素振り……あったな。すごい深い切り傷作って平気な顔してたわ」
キタ「さて、誰が最強かな」
真琴「なおこの中で最強になっても二番目は揺るがない模様」
初「やっぱりこの中じゃ最古参のチャチャさんを推したいな。一番縁深いし」
キタ「けどあの人呪いに勝てるか?」
真琴「有り得そうなのがなぁ。あの人なら何かどうにかできそう」
初「そうそう、底が見えない」
キタ「僕としては人外の阿蘇さんを推すな。あの人、なのか?姿がもう強キャラだもん」
初「それこそ呪いに勝てるか?」
真琴「逆にあの姿が呪いっぽい」
キタ「まあ結論は個人に任せるってことで」
真琴「終わり方雑だな」

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑤

「あ、あと! あと! ハルカは小学校からの異能力者仲間なんだ!」
「ちょ、ちょっと亜理那ぁ!」
突然の発言に、鷲尾さんは動揺した。
「なんてこと言うの⁈ バレちゃいけないのに…! 常人に見えている世界から隠さなきゃいけないモノを、何で…」
もう信じらんない…と彼女は手で顔を覆い隠す。
あ、勘違いしないで!と亜理那は慌てて鷲尾さんに説明する。
「あのね、サヤカはただの常人だけど前々から異能力のことを知ってるんだ! だから大丈夫! 多分他の普通の人たちには言ってないし!」
だから安心して!と亜理那は鷲尾さんを落ち着かせようとした。
それを聞いた鷲尾さんは静かに顔を上げる。
「多分て…それでも1人にバレてる時点で相当大変なことなんだけど?」
あーっ、まぁね…と亜理那はうなずく。
「でも、サヤカはサヤカの方で異能力知るキッカケになった人たちに脅しとかかけられてるハズだから! きっと平気!」
確かにそうだけど…わたしは多分言ってないのに、何で亜理那はその事を知ってる?
…それにしても、亜理那が会わせたい人って、予想通りやっぱり異能力者だったんだな、とわたしは思った。
まぁ、それがまさか面識のある人だとは思わなかったけど。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ④

「あ、そうなの?」
「…そういうものよ」
壁にもたれる彼女はあきれたかのように亜理那を見た。
彼女―鷲尾さんの様子を見ていて、この人は相変わらずなんだな、と思った。…まぁ、つい少し前まで同じクラスだったから、変化がなくて当然なんだろうけど。
鷲尾さんこと鷲尾 遥は、去年わたしと同じクラスの人だった。
こちら側からの印象としては、マジメで冷静。クラスでどんちゃん騒ぎしているような人たちからは、いつも少し離れたところにいるような人。
かと言って、わたしと同じように孤立していたわけではなく、よく同じようなメンバーでつるんでいることが多かった。
でもたいがい、一緒にいる人たちは彼女と同じように割とおとなしめな人達ばかり、亜理那のような人と繋がりがあるとは到底思えなかった。
「ね、ねぇ亜理那。亜理那は鷲尾さんとどういう関係?」
話が一旦落ち着いたところで、わたしは亜理那に切り出した。
「え? えーとね、ハルカはわたしと小学校の頃からの付き合いなんだ。たまにそこらへんでおしゃべりしたりするし」
ねーハルカ?と亜理那は鷲尾さんの方を見る。
鷲尾さんはまぁ、そうね、とうなずいた。

1

世にも不思議な人々㊵ 歩く人・見せぬ人その3

「流石にまいたか!?」
「やめろヨースケ。あんまりフラグを立てんな」
ええ見事にフラグです。そんな二人にあの大男がものすごいスピードで突っ込んできました。
「ぎゃっ!」
「うおっ」
「よっしゃぁ……捕まえたぜェ……」
「くそぅ……。やられたー……」
「ヨースケがフラグなんか立てっから……」
「よし、ようやく捕まえたぜ。ちとボロボロになったけどな」
「いやいや貴方、ボロボロというよりグチャグチャですけど……ぅぇ」
ヨースケの言う通り、大男の両脚と右腕はグロ注意な感じでグチャグチャになっていました。
「何、問題無い。俺の能力は『あらゆる事象が己の害にならない』能力だからな」
ところで、痛覚というものは生物への損傷がその生物にとって害になるからこそいち早く危険を察知するために存在するものである。故に危険が存在しない彼には、能力の影響で痛覚が存在しないのです。
「いやそれはどうでも良いんだ。こっちが見てて気持ち悪くなるから何とかしてくんない?」
ヨータローがつっこみます。
「おお。じゃあ俺を家まで運んでくれないか?あいつは多分今日もいる」
「ええ……。それは良いけどさぁ……。ヨータロー、どっちが右側支える?」
「俺は嫌だぞ」
「俺もだよぉ……。あ、そうだ。その『あいつ』とやらをここに連れてくりゃ良いんじゃね?文脈的にお前をどうにかできる奴なんだろ?」
ヨースケの提案に大男もヨータローも感心。
「その手があったか。じゃあ、三組に不登校が一人いたろ?あいつが多分今日も俺の家に居るはずだから連れて来てくれ」

1

世にも不思議な人々㊴ 歩く人・見せぬ人その2

「おい、どうしたヨースケ。お前があいつから逃げたそうな顔してたから隙を作ってやったが、何故あいつから逃げるんだ?」
影の薄い少年が二段少年に問いました。
「いや、自分でもよく分からん。けどあいつは何かヤバイ気がする。人間として必要な何かが決定的に欠けてる気がするんだ。あと普通にでかくて怖い!」
「だから何故逃げる?仮にも同級生だろ」
「いやー、よく分からん異能を持ってる俺らとしてはあんまりバレちゃいけない気がすんのよ。あいつは絶対俺らの異能について訊こうとしていたぜ」
「ふむ。じゃあ逃げた方が良いかもな。って、あいつ追い付いてきたぞ」
後ろを見ると、すぐ後ろにまであの大男は迫って来ていました。
「やべえぞあれ!やっぱ体格差的に逃げ切るのは無理だって。一歩当りの距離が違うもん!仕方ねえ、ヨータロー、俺に負ぶされ!」
「おお、やるのか、あれ」
ヨータロー、と呼ばれた方が何とかヨースケ、と呼ばれた二段少年の背中に取り付くと、次の瞬間には二人の姿は大男の真上にありました。
「ぬ、やはりお前ら……!」
大男が驚いている間に、二人は着地し、逆方向に向けて全力ダッシュを始めました(ヨータローもヨースケの背中からもちろん降りています)。
「くそう、逃がすか!」
大男が追おうとしましたが、その時またあの「カツン」という音が。そちらを大男が見て、やはり何も無いと確かめてから向き直ると、やはり二人は遠くに。
「ええい面倒くさい、こうなったら奥の手だ」
そう言って大男は右手を地に付き、力を溜めるような動作を始めました。

2

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ①

「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って!」
昼休み、暑いながらもそれなりに人がいる廊下を、わたしは同じクラスの亜理那に引きずられて走っていた。
「とりあえずちょっと待って!」
わたしの必死の叫びをやっと聞き入れたのか、亜理那は立ち止まってわたしの方を振り向いた。
「なぁにサヤカ?」
「何って…」
イマイチ状況を理解していない亜理那に、わたしはちょっとあきれてしまった。
…ついさっきまで、わたしは教室でいつものように本を読んでいたはずなのだ。
だけど亜理那に、ちょっと会ってほしい人がいるんだけどさぁ…いい?と聞かれ、暇だからいいよ、って答えたら…こうなった。
誰かに会うと聞いて、教室出てすぐかな、と思っていたが、教室出てすぐどころか、廊下の突き当りのほうまで移動してきてしまったのだ。
…しかも走って。
走らなければいけないって事は、何か重要なことなのだろうか。
なんとなく、察しがつきそうな気がするけど。
「ねぇ亜理那…一体誰に会うの?」
誰に会うのかまだ分からないから、わたしは尋ねてみた。
「え、それはね~…まだ秘密!」
そう言って亜理那はまだ誰に会うかも伝えず、ただ人差し指を立てるだけだった。

2

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ㉒

「…まぁ、僕から言えるとしたら、この人たちは敵に回したらものすごくヤバい人たちだって事です、はい」
美蔵は微妙な顔でそう言い切った。
「…そうなの」
わたしはポツリと呟いた。
確かに、この人たちは敵に回さない方が良いのかもしれない。
前に「常人は”異能力”に関わっちゃいけない」と言われた時に恐ろしいと思ったし、美蔵は彼らを見た時に動揺していた。
よくよく考えたら自分はかなりすごい人たちとつながりを持っているんだな…そう思った。
「…ねぇ、そろそろ駄菓子屋行っていい? いつまでもここでグダグダしてるワケにはいかないし」
話に一区切りがついたところで、ネロが切り出した。
「そうだな」
「じゃー行こーぜー」
「…まだ、買い物してなかったの」
みんなが駄菓子屋の方に移動しだす中、わたしは思わず言った。
「…いや、まだなんだけど」
ネロがぽかんとした様子でこちらを見た。
「あ、そう…」
「とりあえず行こうぜ不見崎(みずさき)。僕も用事済んでないし」
ボンヤリしているわたしを美蔵は追い抜かしながら言う。
「え、ちょっと待ってよ!」
わたしはまた置いてかれないように、彼らの後を歩き出した。

〈5.クラーケン おわり〉

1

世にも不思議な人々㊲ 死なない人・死なせない人その3

「まあそいつら普通に捕まったんだけどな」
「へー、どうやって?」
「二段ジャンプ野郎はより高いジャンプで取り押さえたし、影の薄い奴は普通に突っ込んで捕まえてた」
「二段ジャンプより高いジャンプができるその子何者?アスリートか何か?」
「さあ、知らん。けど知らないってことは違うんだろ。で、神か少年も物陰に隠れてたのがバレてあっさりお縄」
「神か少年って何その略し方」
「で、残りが主催者のジョジョなんだが、探しに行く気配が無いからどうしたのかと訊いたらそいつは絶対に捕まえられないからどうせ無駄だっつって、じゃあ試しにと一回ケイドロ止めて範囲決めてそいつを全員で捕まえようってことになったんだよ」
「範囲って?」
「4m四方」
「無理でしょ。1対6でしょ?」
「ああ、無理だった」
「やっぱり」
「捕まえるのが」
「ファッ!?」
「あれは人間の身体能力じゃなかったわ。あいつも俺らの同類だったのかね?」
「ハッハッハ、そんな馬鹿な。そんなコロコロいるわけ無いよ」
「……そうだな。それもそうだ。……あれ、そうだよな?あんまり人外ばっかで感覚変になってたかな」
「それもやむなし。だって君だろ、二段ジャンプだろ、逃げ足特化だろ……、マジに全員能力者あるかも……」
「だろ。折角だから今度そいつらにカマかけてみよっかな」
「何か分かったら教えてよ」
「おう。……さて、ところで一つ良いか?」
「何?」
「お前が不登校な分には別に構わないんだが、何故俺ん家に来た」
「細かいことは気にするなよ、少年」

2
0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑲

「…やっぱすごいなぁ」
「そう? こいつのお陰で僕は色々と大変だったんだけど?」
思わずこぼれた感嘆の言葉に、美蔵はちょっと微妙な顔をする。
「”クラーケン”が発現し始めた頃、よくこの能力で周りに被害が出てたんだよ。自分も、異能力なんてものが顕れ始めてるなんて気付かなくて、無意識のうちに能力を発動しては周りを盲目にして、面倒ごとを随分起こしてた…自分でも周りに何が起こってるか分からなくて、周りとトラブって大変なことになってたし」
彼は少し間をおいて苦笑する。
「…ま、完全に発現したら原因が全て分かってすっきりしたけどな。もちろん”クラーケン”のせいで色々大変だったけど、別に憎んだりはしてねえよ…”異能力”は自分という存在の、一側面みてえなもんだから」
「自分の、一側面…」
わたしは思わず復唱する。つまり、さっきネロが言っていたように、もう1人の自分ってことか。
「そ。人間の長い歴史の中で、延々と引き継がれてきた”もう1つの自分”。ま、自分は唯一無二なのに、他の人に引き継がれるってちょっと意味分かんないけど」
ま、ずっとそういうもんなんだけどなーと彼は笑う。

1

世にも不思議な人々㉟ 死なない人・死なせない人その1

「やあお帰り、少年。まーたボロボロになって帰ってきたね?」
少年、と言うには肉体的に成長し過ぎた、一応年齢のみは少年の2m超えの大男に、彼の3分の2程度しか無い、とても彼と同い年とは思えない少女が心底寛いだ様子で話しかけた。
「……ここは俺の家だ。何故ここにいる。そんな当たり前のように」
「案ずるな、君の親には了承を取っている。嬉々として招き入れてくれたぞ」
「……そうか。それなら仕方無いな」
良いのか。
「傷を見せてみな?私が治してやるからさ」
「いらん。どうせ大したことはない」
「腕の骨が露出するほどの裂傷を大したことないと形容するのは君だけなものだよ。全身傷だらけのズタボロだし。何をしたの?」
何故平気なんだろうねー?痛みは?気合でどうにかなるレベルを大きく超えてますけど?
「おお、そんな酷かったか。うん、確かに。こいつは実に気持ち悪い。いやな、ちょっとばかし、な」
ちょっと、何だ。
「そうでしょ?いくら君が不死身でも治癒は君の専門外なんだから」
ほう、不死なのね?道理で気にしない訳だ。
「おう、で、今回は何で治すつもりだ?包丁系は大体やっちまったろ?牛刀とかどうだ?」
「この間やったよ」
「あれ片手剣じゃなかったのか。鮪包丁は?」
「それもやったね。あれは確か半月前だったんじゃないかな?」
「あれ日本刀じゃなかったのか」
会話が剣呑過ぎます。治す算段はどこに消えた。
「まあ、私の力なら最悪縫い針1本で十分なんだけどね」
「何でも良いから早く治せ」
「了解。じゃあ果物ナイフ辺りで行きますかね」
そう言って、少女は果物ナイフをどこからか取り出し、大男に向き直り、ナイフを深々と彼の胸に突き刺した。ってちょっと待てぃ。治すって何だっけ。
「ごっふ」
そしてナイフを抜くと、胸の傷を含め全身の外傷は消えていた。
「うおお…、相変わらず慣れねーな。つーかもっと丁度良いものあったんでは?」
「気にするな。治してもらったんだから文句言わないの」

2
0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑰

「てか、ケンジが異能力者だって事知らなかったのかよ」
「えっけ…」
なんか、美蔵のことを下の名前で呼ぶ人が珍しすぎて、わたしはちょっとびっくりした。
「いや別に人の事どう呼ぼうとこっちの勝手でしょ」
「あ、そうだね…」
ネロに真顔で言われて、わたしは沈黙した。
「…そういやケンジ、何でそこに隠れてたんだよ? なぁ」
こっちの会話が終わったのを見計らってか、師郎が美蔵に尋ねた。
「い、いやぁ~さっきアイツに異能力の存在がバレたと思ってあの2人を逃がすために能力使って自分も逃げたんですけど、また会いそうになったんで…」
美蔵は気まずそうに説明する。
「…だからどっか行くまで隠れてたんですけど」
「いや自分まで逃走する必要ねーだろ。あとこういう時に敬語使うな」
「あーはいはい…てか離してくださいよちょっと痛い」
美蔵は愛想笑いを浮かべて懇願する。が、師郎はまだ美蔵の腕を離す気はないようだ。
ふと、わたしはあることに気付いて美蔵に尋ねた。
「ねぇわたしすごい気になってんだけど…」
「何?」
美蔵たちはこちらに目をやった。
「美蔵とネロとか耀平とかって…どういう関係なの?」

2
2

世にも不思議な人々をリストアップ4

鈴木燕(すずき つばめ)
伏見清次の友人。彼よりは一つ年下。つまり現役合格している。
能力 WAになっておどろう
時間を止めてその中で自由に動ける。制限時間などは特に無いが、喩えるならば水に潜るようなもので、あんまり止めてるとキツイらしい。教わるまで時を再始動するという点についてはこの能力の効果の範囲外だった。
作者のコメント
彼の場合は名前の方が地名由来です。ところで、燕市について調べてたら、市長が鈴木でびっくりしました。偶然ってすごい。

高崎有栖(たかさき ありす)
中二の少年。アルビノ。一人称が定まらず、使ったことのある一人称を挙げると、僕、私、俺、わー、なー、うー、我、うら、おいら、わっち、有栖さん、この高崎有栖、わちき、それがし、わたくしめ、オラ、我輩、などとキリが無い。
能力 子守歌
自分にかけられた暗示が世界にまで影響を与える能力。彼に嘘をついてはいけない。
作者のコメント
シューベルトのあれです。一応童謡の部類には入るはず。

前橋つくば(まえばし つくば)
有栖と同い年の少女。有栖とは10年来の友人。両親は理系だが、彼女は別にそういうわけではない。しかし腐っても科学屋の両親から産まれた自分が非科学の極みみたいな能力を手に入れてしまい、これで良いのかとも思ったが、難しいことを考えるのは得意ではないので、まあ良いかとそれについては考えるのを止めた。
能力 ひみつのパレード
対象を『呪う』能力。これは『のろう』能力にして『まじなう』能力でもある。
作者のコメント
苗字も名前も地名由来。呪術系は強い。というか、この辺でだんだん能力のレベルが暴走し出してる気がする。

4

元人間は吸血鬼(仮)になりました。#3.5

雨月視点


静かにピアノを弾き続ける涼香。本当に何も覚えてないんだ。あんなに必死であの四人のことを守ろうとしてたのに。人間ってやわだなあ。誰かに守ってもらわないと行けないなんて。
きっと私にも、人間だった頃があったんだろうけど、何も覚えてない。何も分からない。なにかを守る理由が。守るものも、守られることもなかったから。愛されなかった。ただそれだけ。分かりきってる事。だから、きっとその、憎しみで、私は、死んでから、キョンシーなんかになったしまったんだろう。
こんなに醜い見た目じゃ、ここでも誰にも愛されない。でも、風花が教えてくれた。怪物は、同族には優しいってこと。
だから、できることなら、二度と人間は見たくない。
涼香は、愛されたのかな。愛されてたか。あの四人に。悔しいな。あの四人に教えてやりたい。「怪物になってから、お前らのことなんか、涼香は忘れたよ」って。
きっと、あの四人は、笑って許すんだろう。悔しい。私だって、愛されたかった。
どうしようもなく悔しい。
きっと私は、涼香に嫉妬してるんだ。こんなに醜い感情を持っているから、愛されないんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
はい!皆さん!お久しぶりです!
イカとにゃんこです!覚えてる人いますかー⁈
覚えてる人はレスください!
実は、部活を辞めたり、勉強したり、ベース弾いたり(おい!)で忙しかったので書き込みできませんでした。(苦しい言い訳)
これからもよろしくです!(急だな!)

0

ファミリア達と夏祭り act 7

「…そう。じゃ、行けば?」
ナハツェは興味なさげに言った。
「えナハツェ興味無っ」
キハはちょっとわざとらしく後ずさった。
「別に俺は行きたくてここに来たわけじゃないんだし。ただキハがやらかさないか気になって…」
「ほらとにかく行こっ!!」
ええっ?!とナハツェが言う頃には、もうその腕はキハに握られ思いっきり引かれていた。
「ちょっと待ってちょっと待って。何⁈」
「え? だから2人で屋台回ろって…」
キハはキョトンとしたように首をかしげる。
「…俺許可してないんですけど」
「えーでもさいいでしょ! ボク的には2人で回りたいもん」
「何それ…」
ナハツェはあきれたようにうなだれた。
「まぁまぁ、いいじゃない」
「そうだぜ、2人でデートして来い!」
ピシェス、そしてカロンはそう言って2人に行くよう促した。
「…デート言うな」
「いやだってキハはナハツェLOVEじゃん」
「うるさい」
あーぁ、とナハツェはため息をついてから言った。
「好きにしろ」
「ホントに⁈ じゃー行こっか!」
ナハツェの渋々の同意を聞いて、キハは嬉しそうに彼の腕をもう1度握りなおして歩き出した。
「…行っちまったな」
人混みを行く2人の後ろ姿を見ながらカロンが呟いた。
「じゃあわたし達も行きましょうか」
「そうだな、カシミールも行くよな?」
カロンは笑ってぼくに尋ねた。
「ええもちろん。あの2人は、ぼくの千里眼で見守りますし」
ぼくはにこりと笑って右目を若草色に変えた。
「…フッ、透明で自力で消したり出したりできる羽根を持つ、様々な力を持った使い魔”ピクシー”は便利だなぁ」
カロンはにやっと笑う。
「…別に、マスターは自分の喫茶店の働き手のためにぼくを作ったのですよ?」
ぼくはそう苦笑すると、歩き出した2人の後を追って歩き出した。

0

ファミリア達と夏祭り act 6

「…人、多いね」
「そうだな…」
午後5時、ぼくらは夏祭りの会場へ足を踏み入れていた。
「ほんと、こんな中で正体がバレたらたまったもんじゃないわね…」
多くの人々で込み合う祭り会場を見渡しながら、ピシェスは呟く。
「てか割とキハはカモフラージュできてんな。すごい」
帽子を改造(?)して、角を上手いこと頭から直に生えてるように見えなくしているキハを見て、カロンは感心したようにうなずいた。
「ま、道行く人間からはただのコスプレイヤーみてーなのにしか見えてないんだろうけど…にしてもこの服慣れない」
ナハツェは自分が来ている和服の袖を眺めながら言う。
「えへへ~ん、いいでしょー。ボクのマスターにお願いして、全員分レンタルさせていただきましたー!」
そうキハは誇らしげに手を上げる。
「キハの御主人は太っ腹だね」
「というかさ、この格好する必要あった?」
「そう? こっちのほうが楽しくない? あとさ、今はマスターに内緒でこんなとこ来てんだよ? いつもと違う格好ならバレないかもだよ?」
だからいいでしょ!とキハは周りの目を覗き込みながら言う。
「うー…どうなんだろ」
「まぁ羽根を魔術で消さなきゃこんなの着れないからね」
「あ、でもぼくはこれでもいいかな~」
皆が口々に言う中、ナハツェがポツリと呟いた。
「…なぁ、それでどうすんの?」
「え?」
キハがぽかんとしたように首をかしげる。
「だから、来たはいいけど何すんだよ」
ナハツェがちょっと苛立たしげに言う。
「あー…とりあえず、お店回ろ! んでもって花火見る~!」
キハは明るくみんなに言った。

0

ファミリア達と夏祭り act 5

「え? そりゃ…おれは行きたいけど?」
「…私も」
「え、ちょっと待て2人ともマジで?」
ナハツェがカロンとピシェスに向かって思わず身を乗り出す。
「…まじで」
「え、じゃぁカシミールは⁇」
お前はどうなの?とナハツェはぼくの方を見る。
え、ぼく…?とぼくはビックリして自分を指差す。
「…ぼくも、行きたいけど…」
ぼくの返事を聞いて、うわマジか…とナハツェはため息をついた。
そして、彼はあきれたように言った。
「しゃぁない、俺も行く。カシミールがいるとはいえ、キハがいる時点で何が起きるか分かんねーから、俺もついてく」
「やったぁ! ありがとう、ナハツェ!」
喜びのあまりキハはそう叫んでナハツェに抱きついた。
「うわ! よせキハ! 椅子から落ちるっ!」
やめろとナハツェは突然抱きついてきたキハを引きはがそうとするが、キハはずっと幸せそうに抱きついたままだった。
「…でキハ。夏祭りっていつなの?」
ふと、思い出したようにカロンが呟いた。
「え、いつって? 明日! 明日の5時っから!」
キハはカロンの方を見ながら言う。
「え、明日?」
「明日か…」
「別に暇だからいっか…」
いっそもう少し前に伝えてくれた方が良かったんじゃないのとぼくは思ったが、さすがに言おうとは思わなかった。
「じゃ明日の3時くらいにここに集合ね~! 約束だよ?」
キハは明るい声でみんなに言った。
「ん? なんで3時? 5時からだよねぇ?」
ぼくは思わずキハに尋ねた。集合時間にしては早すぎない?
「え、それはね~当日まで内緒!」
キハは口元に指を当ててウィンクするだけだった。

0

ファミリア達と夏祭り act 4

「え⁈ 何? ねぇ教えてよピシェス!」
ピシェスの呟きに、キハは目をキラキラと輝かせて反応する。
「…え、そりゃぁ、カロンは耳を帽子かなんかで隠して、シッポは服の中に押し込めばいいし、キハは帽子に穴開けて角通せば、直に角が生えてるってそう分かんないでしょう?」
「え、ピシェスてんさーい!」
ピシェスの策を聞いて、キハは思わず声を上げた。
「いやちょっとひねれば思いつくでしょ」
ピシェスはそんな褒め言葉を聞いても何食わぬ顔だった。
「いやちょっと待て、羽根はどうする。隠すの難しいぞ」
不意にそう言ったナハツェは、自らのコウモリの翼のような黒光りする羽根を、マントから出して見せた。
「あ、ほんとだ」
「そーいやピシェスも羽根あるよな。白いのだけど」
そうね、と言って、ピシェスは背中から生えてる白い羽をこちらに見せた。
「羽根はもう魔術使って隠すしかないわね」
「え、それどーすんの」
できんの?とカロンが椅子から立ち上がっていう。
「そりゃぁ、キハの御主人に頼むしかないでしょう? そういうの得意らしいし」
ピシェスがちらとキハを見ると、キハはえ? ボクんとこの?と自分を指差した。
「そう、優しい人だから頼めばやってくれるでしょう?」
「…待て、キハのマスターはマジで会いたくないんだけど」
ナハツェがうつむきがちにピシェスを制止する。
「あそっか。ナハツェはピシェスの主さん苦手なんだっけ」
「えーどーしてー? ボクのマスター良い人じゃーん」
周りに尋ねられると、ナハツェは嫌そうに目をそらす。
「…ああいうのは嫌なんだよ」
「そう…」
ピシェスは静かに呟く。
「じゃあナハツェは夏祭り行かないの?」
キハはナハツェの顔を覗き込みながら聞く。
「…そもそも行きたかない。ていうか、みんなはどうなんだよ?」

0

ファミリア達と夏祭り act 3

「無理だ」
「え?」
不意に、ナハツェがキハの提案を遮った。
「このメンバーじゃどうあがいても無理だろ。目立ちすぎる。それに…”マスター”の許可取れると思う?」
「…」
現実を突きつけられて、一同沈黙する。
「隠匿されるべき”魔術”の最上級の産物である俺たち”使い魔”が、堂々と人の多いところに出られると思う? 一般人にバレたら即消滅させられるかもだし」
「確かにそうだけど…」
「もーナハツェは頭固いな~」
それでもキハはのんきそうだった。
「…当たり前のことだ」
ナハツェは冷たく呟く。
…確かに、この世界でずっとその存在を隠されてきた”魔術”の一端が、一般社会の日の目を見てしまうことは禁忌中の禁忌だ。
そして数多ある魔術の中でも、最上級の”使役精術”によって創られた”使い魔”は、一般人の前に正体をあらわにしてはならないのだ。
特に”使い魔”の中でも、最高クラスである人のカタチをしたもの―ここにいるメンバーは、人間のカタチをしているとはいえ、普通の人間と区別するために翼や角、獣の耳を与えられている。
耳や角はどうにか隠せても、翼は隠すのが難しく、うっかり人間でないことがバレれれば自らの主人である”魔術師”に、消滅させられるかもしれないし、他の魔術師に狩られてしまうかもしれない。
だから、使い魔だけで人の多い場所に行くのはかなり危険でできたら避けるべきことなのは、使い魔たちの暗黙の了解だった。
まぁでも楽しいことが好きなキハなら行きたがるのも無理はないか。
「だからキハ、これは諦めろ」
「え~やだみんなと行きたいぃ~」
諦めろ、と言われても、キハは1人駄々をこね続ける。
「…あ、でも、行こうと思えば行けるよ」
ぽつっ、と何かを思いついたようにピシェスが呟いた。

0

ファミリア達と夏祭り act 2

「俺はホットでもいい。別にアイスも飲むけど」
「え~でもボクはナハツェが無理してないか心配だよ~」
キハと呼ばれた角が生えた子が、ナハツェにすり寄りながら言う。
「…ウザいから離れろ。紅茶淹れらんない」
ナハツェはブスッとした顔でキハに言う。
それでもキハはえ~やだ~と駄々をこねて離れなかった。
「まぁ…そこまで気にする必要なくね? キハはお前さんが好きなんだし」
猫とも犬ともつかぬ耳を持つ赤髪の人物が、ナハツェに向かって笑いかける。
「…そーだよー」
赤髪の人物の隣にいる長い青髪の人物もうなずく。
「…何なんだよ、カロンも、ピシェスも…」
ナハツェはあきれたようにため息をつきながら、手元のカップに紅茶を淹れた。
ぼくはそんな彼らの様子を見ていて、ふとキハの手に目が留まった。
「…キハ、何もってんの?」
ぼくの言葉で、周りのみんなの視線がキハに集まる。
「ほんとだ」
「あーそれさっきから気になってたんだよね」
「お前、何もってんの?」
ナハツェが尋ねると、キハは、ん? コレ?と手の中にある紙筒をみんなに向かって広げて見せる。
「じゃじゃーん! 夏祭りのお知らせ!」
は?と周りの者たちは呟く。
「…何の話?」
「夏祭りって…」
「てかソレどこから持ってきた」
ぼくもそうだけど、キハ以外のみんなは何のことか、全く分かっていないみたいだった。
それでも気にせずキハは話を続ける。
「今度ここの近くの公園で夏祭りやるんだって。だからみんなで行こう!」

0

ファミリア達と夏祭り act 1

「お待たせしました。キリマンジャロコーヒーです」
「おお、いつも悪いね」
「いえ、とんでもない」
いつものように常連客と言葉を交わして、ぼくはさっきまでいたカウンターに戻った。
ちょうど、火にかけているティーポットが鳴いている。
そろそろ頃合いかな、とぼくはポットの蓋を開けた。
「…おや、また頼まれたのかい」
この喫茶店の主であるマスターが、カウンターに肘をつきながら尋ねる。
「ええ、いい茶葉が手に入ったから頼む、と… 自分でできるのだから、自分でやればいいのに」
「ハハハ、彼らしい。でも彼としては皆と雑談しながら紅茶を嗜みたいのだろう? なら、応えてやってくれ」
「はいはい、マスター」
ぼくはそう返してから、銀色のお盆にティーポットとカップを載せ、カウンターの奥へと向かった。
店内から見えないところにある急な階段を、ポットをひっくり返さないように上っていく。
一段一段上っていくうちに、2階にいる者たちの話声が聞こえてきた。
ぼくはその声に負けないように、面倒だけど階段を上り切った時に声を上げた。
「はいは~い、紅茶持ってきたよ~」
「あ、来た」
「遅いよ、カシミールぅ」
下で接客してたから仕方ないでしょ、と言いながら、ぼくは紅茶を頼んだ張本人の前にポットとカップを置いた。
「えーと、ローズ…何だっけ?」
「ローズスィーテ。別に覚えなくてもいい、そもそもお前は覚えられないだろう?」
紅茶を頼んだ黒服の人物は、ぼくに向かって嫌味っぽいことを言う。
「カシミールは匂いでそういうの見分けるからね~ ところでナハツェ、ホットじゃ熱くない? 今は夏だし」
ナハツェ、と呼ばれた黒服の人物の隣にいる、細い角が額に生えた鬼のような人物が、にこにこと笑いながら尋ねる。

2

世にも不思議な人々㉚ 呪う人・信じ込む人その1

所変わって、ここはある人物の私室である。もちろん物語には初出だ。ベッドに少女が一人、寝そべって本を読んでいた。日本人にも拘らず、髪はプラチナブロンド、目は赤みを帯びていて、肌は陶磁器のように白い。先天性白皮症、所謂アルビノというやつだ。
と、そこに、窓から別の少女が侵入してきた。
「ヘイヘイヘーイ、ハローアリスちゃん」
窓から入ってきた方が部屋で本を読んでいた方に呼びかける。
「その呼び方やめてって言ってるじゃないのつーさん。僕、これでも一応立派な男よ?」
呼びかけられた方がベッドに座り直して言い返す。ていうかごめん、男だったの?じゃあ少年だな。ほんとごめんね、雰囲気が男っぽくなかったからさ。
「ここで『これでも一応』とかつけるあたり立派な男じゃないよ」
つーさん、と呼ばれた少女が言い返す。
「大体アリスちゃんは男のくせに名前も外見も可愛らしすぎるのだよ。髪だって伸ばしてるしさ。身長いくつだっけ?120?130だった?」
「140は超えてるよ!」
「私152−。うふふ、勝った」
「つーさんこそ背が高すぎるんじゃない?」
「そうかな?普通だよ?それに呼び方についてなら私にも文句があるよ。君はいつもいつも私のことを『つーさん』と渾名でしか読んでくれない。普段から『つくば』と呼び捨てにしてくれと言ってるでしょう?」
ちょっと待って。つくば?今そう言った?キラキラネーム過ぎん?
「いや、何かもうつーさんで定着してると言いますか、何といいますか……」
「ええいうだうだと!私が下の名前で呼び捨てにするのを許してるのなんて君くらいなのだよ!友達にだって許してないのだから!このヘタレ!甲斐性無し!アルティメットチキン!」
それは別の人だ。止めてあげなさい。というかそろそろ本題に入れ。
「ああそうそう、で、本題なんだけど」
「うん、何?」
「ちょっと目を瞑って!」
「え、何でさ、怖い」
「まあ良いから良いから」
「わ、分かった」
アリスと呼ばれていた少年が目を閉じると、つーさんなる少女は彼に近寄り、耳元で囁いた。

2
2

誕生日も終わりが近づいて参りました。

 こんばんは、今日は本当に特別な日にしてもらいました、ちょっぴり成長したピーターパンです。大切な人たちから頂いた素敵な言葉の数々、本当に本当に嬉しかったです。バックアップとって保存しておきました()
 正直、誕生日のこと、当日まで完全に忘れていたんです。それくらい、自分のなかでの誕生日の位置づけって大したことのないものだったのだけれど、気付いてくれた人からの派生がすごくって。自分でも、こんなにお祝いしてもらえるだなんて予想だにしていなかったものですから、本当に驚きと嬉しさで、どうにかなってしまいそうだったんです。他人事みたいですけれど、私、愛されているんだなって。
 顔を合わせたことがなくて、文字や言葉だけで、掲示板という繋がりだけと言えばその通りでもあって。どこかで軽く話したことがあるのだけれど、私たちは出逢っていなかったかもしれない集まりなんですよね。私も含めて、たまたま、今、ここにいるだけで。ただ、そのたまたまのおかげで出逢って、しかも、自分がこの世に生を受けた日を祝ってもらえることって、それだけで特別なことだと思うんです。
 今日1日祝ってもらって気付いたんですけど、喜んでいるのが、感動しているのが、私だけじゃないんですよね。それがまた、嬉しくって。大好きな人と同じ時間を共有できることの幸せを強く感じました。みんなには感謝しかありません。私と出逢ってくれてありがとう。