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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

テスト週間に入った今日、教科書やノートを開いたままやる気にはなれなかった。
机に座って窓の外を眺めていると、先生が顔を覗き込んだ。
「うわぁ!びっくりした!」
『勉強、進まないのか?』
「やる気が出ないんだよね〜。」
『それなら、教えてやろうか?』
「1人よりはそっちのほうがいいかも。教えてくれる?」
『あぁ。もちろん。』

先生はノートにキレイな字を書いて説明をしてくれる。
時々色を使って、“自主勉ノート”のように完成させる。
『ここがこうなって。ここ、こうなる。わかるか?』
「わかるよ。先生の書き方わかりやすいから。このまま提出したら提出点貰えそう(笑)。」
『わかりやすいなら良かったが、提出はするなよ?私がやったとバレたら他の人にも教えなきゃいけなくなるだろう?』
「えっ?そっち??(笑)」
『どっちの「そっち?」だ?』
「これ、提出したらいけない理由が自分が面倒くさいからなのと、他の人にも教えなきゃいけなくなるっていうこと。 ん?どっちも一緒か??」
『教師として注意しない理由か?(笑)』
「そう、それ!!」
『別に自主勉強ならどうやろうが勝手だろう?私が教えたって自主勉強だ。』
「じゃあこのノート、先生に提出するよ!(笑)」
『私が私を採点する事になるじゃないか!(笑)』
「嘘、嘘(笑)このノートは秘密にしとく(笑)。」
『そうだな、二人だけの秘密だ(笑)。』
先生はニコッと笑い、立てた人差し指を口元に持ってくる。
私も真似して、人差し指を立てると先生が口を開いた。
『少しはやる気になったようで良かった。この時期のテストだ。留年するなよ?』
私は先生を見て、大きく頷いた。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

最近、窓辺にいる事が多くなった私を時々、先生が気にかけて訪ねて来てくれる。
『今日の君も見つけやすいな(笑)。』
先生がニコッと笑いながら言う。
「宝物探しゲームみたいに言わないで?学校狭いんだもん(笑)。すぐ見つかっちゃうよ。」
『また何かあったか?』
「特にないよ?な〜んにもない(笑)。」
ニコッと笑った私を見て先生は隣に座る。
『何かあったんなら、私には言え。私だけでいい。ちゃんと君を受けとめてやるから。』
「ありがとう(笑)。」
『笑いながら泣いてる。』
先生はそう言って私の頬に手を伸ばし涙を拭う。
「えっ?」
笑っていたつもりだったのに、先生が変な事言うからだ。
『何かあったか?』
「何もないよ(笑)。先生が変な事言うから(笑)。」
『私のせいか?(笑) ごめんごめん(笑)。』
「でも、ありがとう先生。嬉しいよ。」
『良かった。』
先生はニコッと笑顔を見せ肩を降ろす。

本当は沢山言いたい事があるし、先生に聞いてもらいたい事もある。
でも、先生にだけは迷惑をかけたくなかった。
それに、私の事をわかってくれるだけで、気にかけてくれるだけで良かった。
私は先生がいなかったら本当に1人になってしまう。
そう思いながら先生に言った。
「先生も何かあったら言ってね?私も先生をちゃんと受けとめるから。」

ただ1人、私の事を見てくれる先生には誰にも言えない秘密がある。
その秘密を二人で分け合った私達は、お互いを見つめていた。
私も先生もたった1人だけ、理解してくれる相手がいた。
それはきっと、どの星にいる誰よりも幸せな事なのだと思う。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

先生が窓辺で梟と話をしていた。
「先生?その子は??」
話しかけた私に気づき振り向く。
『可愛いだろう?この子が郵便配達をしてくれる。』
私は窓に腰掛ける。
「聞いたことある。伝書鳩みたいなお仕事よね?」
『あぁ。きっと鳩よりは賢いぞ。』
そう言って梟を差し出す。
「触っていいの?」
『この子は触っても問題ないさ。』
「この子がいるって事はお手紙、来たの?」
『いや、手紙を出すんだ。』
「へ〜、何処に?」
『そろそろ薬草がきれそうなんだ。』
「魔法の世界の薬草が必要なんだっけ?」
『あぁ。手紙を出せば送ってくださるからな。』
「あ、もしかして自分の事を尊敬してくれるから尊敬してる人?」
『よくわかったな。』
「先生、敬語になったから。」
『いつも人がいないときにこの子を送ってるんだ。』
「その人、きっと優しい人なんだろうね。」
『優しいさ。君は今、暇か??』
「えぇ、暇だけど?」
『ちょっとこの子を持っていてくれ、手紙を結びたいから。』
そう言って私の腕に梟を移す。
「お手紙はもう書いてるの?」
『あぁ。あとはこの子の足に結ぶだけだ。』
そう言って先生は手紙を足に優しく結ぶ。

『さぁ、おいで。』
先生は梟に話しかける。
『見ていろ。いくぞ?』
「うん。」
先生は少し手を引き梟が飛びやすいように助走をつける。
名一杯出した右手から梟が飛び出す。
「これでちゃんと届けられるの?」
『あぁ。向こうから来た子だ。あとは家に帰るだけだ。』
「先生も動物には優しんだね(笑)。」
先生は少し照れくさそうに笑う。
『バレたか(笑)』

私は先生に魔法の世界での話を詳しく聞いた。
先生の横顔を眺めながら、私は新しい秘密を受け取った。
二人の秘密。
誰にも言わないようにそっと胸の中にしまった。

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1月1日君と一緒に No.2

「うっそ。○○知ってるの⁉」
「え?あっ、うん。そっちこそ知ってるの?」
「うん!うん!ちょっと後で話そう!」
自己紹介の後もそわそわしすぎて先生の話が全く頭に入らなかった。
○○というのは4人組ロックバンドで、デビューはしてるけど世間には知られていないバンドなのだ。
チャイムが鳴るとすぐに彼女の席に行った。班が同じなのだから近くて当たり前だが2歩で着いた。
「えっと…さっきも言ったけど、結花って言うの。普通に呼び捨てで呼んでくれていいからね。○○、私大好きなの!ここちゃん?は何の曲が好きなの?」
「あ、ここでいいよ。私は『together with you』かな。歌詞が好きで」
「あ~!いいよね!私『One day we』かな。これも歌詞がいい!っていうか本当に全部良い曲だよな…」
「そうだよね。私存在が薄いから、でもそういう時に○○の曲聴くとこれでもいいんだって思わせてくれる」
「分かる!あのさ、次の時間も話さない?」
こうして今に至る。私たちはすっかり仲が良くなった。向こうも徐々に心を開いてくれ、関西弁になった。それに安心して私も関西弁になった。
これまでにも友達はいたがこんなに趣味の合う友達に出会えたのは初めてだ。
今が1番、幸せな時間だ。

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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ⑤

そんな2人のことを、ローズとリリーはもちろんよく思っていませんでした。とくにリズに対して、とても怒っていました。2人はいろんな方法でヘンリーとリズを邪魔しようとしましたし、リズにもたくさんの嫌がらせをしました。リズはとても優しいですから、なにかの間違いだと思ってとくに気にせず暮らしていました 。でもヘンリーは2人のいやがらせに気づいていました。そして、そのことをヘンリーが知らないと思ってローズとリリーが近づいてきていることにも。
王さまとお妃さまももちろん気づいていました。2人はリズとヘンリーがせっかく結ばれそうなのに邪魔をさせるわけにはいかないと、ローズとリリーを遠い田舎の別荘にしばらく泊まらせることにしました。素敵な男性方とのパーティーが毎晩あると聞かされた2人は、喜び勇んで出かけていきました。
さあ、これでヘンリーとリズの邪魔をする者はいなくなりました。2人はこれから、相手の良いところや悪いところを知り、長い年月をかけて受け入れあっていくでしょう。そしていつの日か本当に夫婦になるかもしれません。もしならなくとも、2人ならお互いをいいパートナーとして、生涯付き合っていけるでしょう。
誰もが結婚するだろうと思っていたカップルが破局するように、一生の友だちだと思っていたひとといつしか疎遠になってしまうように、先のことなんて誰にもわかりません。
けれど、願わくばすべてのひとが、そのひとだけの幸せで満たされていますように。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

最近、先生が校長になるという噂が流れている。
手を伸ばしてもスルリと抜けていく先生に、少し寂しく思っていた。

廊下の角を曲がろうとすると声が聞こえた。
現校長の声だったので、隠れて会話を聞く。
先生と話をしていた。
“先生、校長になる気はありませんか?”
『今、答えを出さなければなりませんか?』
先生は質問を質問で返す。
“いやいや〜。今でなくていいんです。考えておいて下さい。”
『わかりました。考えておきます。』
会話が終わりそうだったので、私は静かに、でも急いで、踵(きびす)を返した。

私はお気に入りの窓に腰掛け、空を眺めていた。
『またここにいたのか?』
先生の声がするので振り返る。
「あ〜、先生。なんか久しぶり?」
『昨日会ったばかりだ。』
「そうだった、そうだった。」
『何かあったか?』
「別に何もないよ?」
『またここに来てるし、何もないと言ったときは大体何かある。』
「じゃあ、本当に何もないんだけど、1つ聞いていい?」
『あぁ。もちろん。何だ?』
「先生は校長になるの?」  『え?』
「先生、校長になるの?」  『何で?』
「噂がウジャウジャしてる。」
『私が校長になると君に何か不都合があるのか?』
「別にないよ?」
『じゃあ何でそんな事を聞くんだ?』
「先生が昇格すれば、おめでたいよ、そりゃあ。でも、今みたいに一緒にいれない。先生がどんどん遠くに行っちゃう気がする。ただそれだけ。」
『そうか。ただ、私は校長になるつもりは無い。』
「本当?」
『あぁ。本当だ。君もそう言ってくれているし、踏ん切りがついたよ。』
「何でならないの?校長。」
『私には似合わぬ職だろう?笑 それに、今のままで私は十分満足だからな。』
「ありがとう。」
『何でお礼を言うんだ?』
「今のままで良いって言ってくれたから?」
『何なんだ?それ(笑)』
私達は少しの間笑い合った。

先生が、これ以上スルリと抜けてしまわないように私はそっと“レプラコーン”にお願いをした。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

今日の天気予報では曇りのはずだったのに、昨日の気温よりもマイナス10度以上で、大粒の雪が降りしきっていた。
服の袖や手の中に落ちてくる雪が、体温で溶けて水へと変わる。
窓から身を乗り出していたが、寒すぎたので窓を閉めて布団に潜る。
寝転んだまま窓から空を眺める。
真っ白な世界に吸い込まれてしまいそうだ。
出たくないなと思っていた時、ノックの音が聞こえた。
「は〜い。」
返事をすると扉が開く。
『今日、寒いから外に出ないつもりだろう?』
入ってくるなり先生はそう言った。
「出たくないな〜って思ってたとこ。」
『私と雪だるま作らないか?』
「小学生じゃないんだから嫌!!!」
そう言って布団に潜ったが、すぐに布団を取られた。
「あ〜!!寒いっ!!!」
『ほら、着替えて。でないと雪合戦に変更するぞ!』
「も〜、しょうがないな〜!!!」
私はコートを羽織って外に出る。
手袋をしている先生は手を振る。
片方の手にはまだ小さな雪玉がある。
「どれくらい大きくするの?」
『できるだけ大きくする。』
私は小さな雪玉を作り雪の上で転がす。
「今日は先生、小学生みたいね。」
『あまり降らないからな。雪。』
「そうね〜。外に出てしまえば楽しいんだけどね(笑)。」
『真っ白な世界は、私の持っている濁りもキレイにしてくれる。』
「どっちかと言うと、濁りをなすりつけてるよね(笑)。」
『そうか?』
「私達は真っ白を汚してる。」
『確かにそうだ(笑)。』
「でも、それで私達は温かくなれる。今日は誘ってくれてありがとう。」
『こちらこそ。誘ったのは私だからな。ありがとう。』

私は小さな雪玉を新しく作って投げつけ、そして笑った。
その後、少し雪合戦をして、大きな雪だるまを作った。
私達は少しだけ雪の上に寝転んでいた。

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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ④

実は、ヘンリーは隣の国の王子さまでした。もうそろそろ、好きなひとを見つけて結婚しないといけない年ごろだったので、未来の奥さんを探しに、この国へやってきていたのです。
ヘンリーが王子さまだということを、王さまとお妃さまだけは知っていました。知っていたのに、娘たちにはあえて知らせずにいたのです。そのほうが、ヘンリーに1番ふさわしい、好きなひとを選んでもらえると思ったからです。ヘンリーは、もし3人のお姫さまの誰も好きにならなかったら、他の国へ好きなひとを探しに行くつもりでした。けれど、その必要はなさそうでした。
ヘンリーとリズは少しずつ仲良くなっていました。2人は家庭教師の日でないときにも、会って遊ぶようになりました。休みの日にはお屋敷の近くの森へ木いちごを摘みに行ったり、馬にのって草原を駆け回ったりもするようになりました。
そうやってヘンリーと遊びながらも、リズは人びとのためにつくすことを忘れませんでした。ヘンリーはそうしたリズの活動にも興味をもち、彼女についていくようになりました。リズと行動を共にするうちに、ヘンリーは国民からもとても好かれるようになりました。
リズもとても優しくて爽やかなヘンリーに惹かれはじめていました。でもリズは恋というものを知らなかったので、自分の胸のうちにある気持ちがなんなのかはわかっていませんでした。
それでも確かに、リズとヘンリーは惹かれあっていました。こうして2人の仲は、ますます深まっていったのです。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

『何を覗いているんだ?』
ビー玉を覗き窓辺に座っていると先生が声をかけてきた。
「ビー玉、覗いてるの。上下反対に見えて面白いんだよ?」
『そこからは何が見える?』
ビー玉を通して先生を見る。
「逆さまになって、こっち見てる先生が見える。」
『私は逆さまではない。外がどう見えるのか教えてくれ。』
「そうね〜。校舎が反対になってて、海に浮かんでるみたい。まるで不思議な形の船ね。 校舎についている灯りがキレイよ。」
『楽しそうだな。』
「ビー玉を通した世界の方がキレイに見えるわ。先生も一緒に覗く?」
『ビー玉、ひとつだろう?私はいいさ。』
「先生。私、2つ持ってるよ?」
ポケットからもう一つのビー玉を取り出す。
『用意がいいんだな(笑)。』
「覗くでしょ?(笑) はいっ!」
先生は横に座ってビー玉を覗く。
『今日の君は小学生みたいだな。』
「そう?スプーンとかさ、私達が見ているものと違う景色って面白くて好きなの。」
『確かに、ビー玉の世界は面白いな。』
「でしょ?(笑)」
私は先生を見て笑う。
「少し違う視点から見ると、ずっと見てきたものも新しく見えるんだよ。」
『小学生みたいな顔して大人な事言うんだな(笑)。』
「だって小学生じゃないもん(笑)。」

私達は次のチャイムが鳴るまで、二人でビー玉を覗き込んでいた。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

“ねぇ。”
声を掛けられた気がしたので振り返ると女子生徒が立っていた。
「何でしょうか?」
“貴女、先生と仲良いわよね?”
「そうですが、何か?」
“先生との居残り授業をセッティングして欲しいの。”
「それ、私に何かメリットあります?」
“貴女も居残り授業に参加していいわ。今日の放課後ね。私達の教室で。それじゃあ、よろしく。”
そう言うと、女子生徒の塊に加わり消えていった。

とりあえず、先生を探しに行き見つけた。
「先生、貴方に居残り授業をして欲しいって言う生徒がいるわよ。何故か私もありで。今日の放課後空いてる?」
『空いている。……君は今、怒ってるか?』
「怒ってないわ。」
『じゃあ私との居残りは嫌か?』
「まさか。それはないわ。」
『じゃあ何故そんなムッとした顔をしている?』
「私に頼んだのは女よ?女!!自分で来ればいいのに。」
『そんな事で怒っているのか?』
「そんな事で悪かったわね!」
『君はその生徒のお陰で私に会えたのだからいいではないか。』
そう言うと、私にバックハグをする。
「先生、その手には乗らないわよ。」
先生がよくやる“賄賂”を渡す方法だ。
『バレたか?』  「バレバレ。」
そう言うと先生の手を取り、手のひらを出させる。
「チョコがある。賄賂は受け取らないわよ?」
『すまない、すまない(笑) ただ放課後は暇だ。』
「わかったわ。じゃあ、そう伝えておくわね。」
『君も来るのだろう?また後でな。』
「えぇ。また後でね。」
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その日の放課後はもう最悪だった。
他の生徒がいるから、先生はいつもの“イジワル先生”になるし、「先生、ちょっとイジワルしすぎじゃない?」と言おうとすると隣の席からどつかれるし、先生から『君はどう思う?』と聞かれる度に足を踏まれた。
何の為の居残り授業かわからないまま授業は終わった。

その日、私はすぐに部屋に戻り、誰とも話さず寝る事にした。

先生がまた少し遠くなった気がした。

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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ②

リズはこの世界でまれにしかみない、優しい心をもっていました。いつも、国の人びとの役に立ちたいと考え、そのために行動していました。
毎日勉強していたリズはいつしかとても賢くなっていました。そして、国の人びとのためになることを次々に思いつき、実行に移していきました。
リズはとても優しく、とてもかしこく、行動力がありました。そのうえ、国で1番、いえ、もしかすると世界で1番、美しかったのです。そして、お母さまに説得されて渋々承知した、それでも最小限におさえた化粧と、動きやすくて長く着られる方がいいから、という理由で作られた質素な服が、リズの美しさをさらにひきたてていました。
なによりも国の人びとが惹かれたのは、リズの飾らない言動でした。こうしてリズに、国の人びとは信頼を寄せました。加えて、リズは人気者でもありました。そしてその信頼と人気は絶大なものでした。
小さな男の子が、転んで擦りむいた膝を手当てしてもらいにきたかと思えば、年頃の女の子が恋の悩みを相談しにきました。奥さんは井戸端会議で仕入れた町の情報をリズに話して聞かせましたし、おじいさんたちも話し相手になってもらおうとやってきました。リズはそのどれもを蔑ろにすることなく、親身になって接しました。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

今日は一年のうちに何回かある、校外に出かけてもいい日。
生徒も教師も、買い物や遊園地など、それぞれ思い思いの場所へ出かける。
今日は朝から校舎が静まり返っている。私は朝が苦手なので昼前まで寝ていた。
ご飯を食べようと思い部屋を出ると、私のものではない足音が聞こえた。
『まさか、この時間まで寝ていた訳ではないだろうな。』
“げっ。”と思い振り向くとやはり先生だった。
「先生は出かけないの?」 『今起きたからな。』
「先生も今起きたんかいっ!!笑」
『私は教師だからな。』
「も〜。あっ、あと私は出かける相手居ないから出かけないかな。だから今起きてもセーフ!!!」
『君も私も同じだな。ご飯は食べたか?』
「まだ一食も食べてないよ。」
『じゃあ、一緒に食べよう。その後、一緒に出かけよう。』  「えっ?いいの?」
『もちろん。 私も用事がないからな。』

私達は大広間に行くとご飯を食べ、それぞれ準備をし、校門に集合した。
「先生、どこ行く?」
『君は何処がいい?二人で行くんだ。好きなところを選ぶといい。』
「何処でもいいんだったら、水族館かな。先生は好き?」
『あぁ。 じゃあ、行こう、水族館。』
          ︙
「先生は何が好きなの?」  『……海月。』
「じゃあ海月、見に行こう。」
フワフワ流され、キレイにライトアップされた海月を見る先生の横顔は少し寂しそうだった。
「先生は何で海月が好きなの?」
『昔、好いていた人に似ている。あの頃が懐かしくなる。』  私は少し、はっとする。
「先生にも素敵な思い出があるんだね。」
『私はもう何年もずっと彼女の事を忘れられないよ。もう二度と逢う事は出来ないのだがな。』
「せんせ、甘酸っぱいんだね。」
ニカッと笑った私の心の内を先生が知る事はないだろう。
「もう見終わったし、帰ろっか。」
『そうだな。』
“楽しかった”と物語る先生の笑顔が私の胸を締め付ける。
「きっと私には無い物を持っていらっしゃる方なのね。」私は立ち止まってそう呟いた。
『何か言ったか?』
「いいや、何も言ってないよ!今日の夜ご飯何かなって思って。」
『早く帰って確かめよう。さぁ、おいで。』
先生の元へ駆け寄る。
『さぁ、行こう。』

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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ①

昔々あるところに、小さいながらもとても裕福な国がありました。その国の王様も、もちろんたいへんなお金持ちでした。どのくらいお金持ちかというと、国中の人が押しかけてきても大丈夫なくらいの大きなお屋敷と、庭師がなにを植えれば土地が埋まるのかと頭を悩ませるくらいの大きな庭と、別荘5つとを持っていて、着るものも、食べるものも、何もかもが最上級のものばかりで、それでもなお、金と銀がお屋敷から溢れかえるほどでした。そしてその金や銀は、あと100年はなくならないだろうと言われるほど多かったのです。
さて、そんな大金持ちの王様には、1人のお妃様と、3人の娘がおりました。娘たちはそれぞれ長女をローズ、次女をリズ、三女をリリーといいます。 ローズとリリーはとても気が強くて、おしゃれが大好きでした。2人は、いつも自分が1番美しいと信じていました。けれど2番目のリズは、勉強が大好きでおしゃれなんて、てんで興味がありませんでした 。リズは毎日、お父さまがつけてくださった世界で指折りの家庭教師のもとで、勉強に明け暮れていました。
そんなリズを、姉のローズと妹のリリーは馬鹿にしていました。2人は毎晩ばっちりお化粧をして、きれいな服を着て、パーティーに出かけていきました。お母さまも、リズがあまりにもおしゃれに興味を示さないので、心配していました。このころは、若い女性はきれいにおめかしして着飾って、素敵な、家柄のいい男性と結婚するのが、上流階級のきまりだったのです。女性が勉強をすることは、望まれていなかったのでした。そうして、リズを姉や妹が馬鹿にし、お母さまが心配しても、お父さまだけは、なにもいいませんでした。そしてリズも、お父さまを1番に信頼し、お父さまが口うるさく言わないのを嬉しく思っていました。

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ザリガニはこう言った

 ザリガニと話せるようになってしまった。このことに気づいたのは、売却を依頼された別荘を見に千葉に行ったときだった。
 査定をすませて鍵を閉め、バルコニーを降りると、足元から声がした。
「素敵な下着だ。通販かな」
 見下ろすと、ザリガニがいた。
「すみません。何か言いました?」
「ああ。浮かない顔だがどうした」
 ザリガニはそう言って、両方のハサミをちょきちょきやった。ザリガニの声は、渋い低音だった。声フェチのわたしは、ついうっとりしてしまった。ザリガニは続けた。
「何か悩みでもあるのかね」
 実際わたしは悩んでいた。親しい友だちが結婚して、疎遠になってしまったのだ。
「はい……ところであの、どうして人間と話せるんですか?」
「フレンチレストランでザリガニソースを浴びたことがあっただろう。そのせいだ」
 そんな記憶はなかったが、わたしはうなずいた。このところ仕事が忙しすぎて、エピソード記憶が曖昧になっているからだ。わたしは素直に、親友だと思っていた友だちが結婚後、向こうから連絡をよこさなくなってしまった。友だちが幸せになるのは嬉しいが、なんか虚しい。憎んでしまいそう。こんな自分が嫌だ。といった悩みを打ち明けた。
 するとザリガニはこう言った。
「男の友情は自己犠牲の上に成立するものだが、女の友情は自己愛で成立している。自己防衛本能の産物なのだから長続きしなくて当然だ。日々を平穏に暮らすために君だって都合よく、その友だちを使ってきたわけだろ。だから責めてはいけない。その友だちも、自分も」
 わたしは少し笑顔になって、ザリガニと別れた。都会にザリガニがいないのを、寂しく思う。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

もうすぐバレンタインデー。 
普通は男性から女性へ贈り物をするのがノーマルなんだろうけど、ココでは違うから、私も先生に何か贈り物をしようと思う。
先生が使ってくれそうなものは何かと考える。
せっかくなら先生が持っていない物をプレゼントできたらと思い、ペンダントを手に取る。
楕円形のペンダントで中に写真を入れる事ができる。
これなら、服の下に隠す事が出来るし、先生の好きな物も入れられるから使ってくれるかもしれない。

ペンダントを手に取りレジへ向かう。
同じくバレンタインの贈り物を買いに来たであろう生徒がちらほら見える。
会計を済ませると、先生にプレゼントを渡す為、寮へと戻る。
私の学校はイベントを大切にする為、何故かクリスマスなどは外出が出来る。
あっ…。もちろん今日の外出は教師に許可を得ているが、先生には内緒で来ている。
校内へ入ると、みんな出かけているからか静まり返っていた。
私は先生が居そうな場所を巡る。
教室や先生の部屋、そんな所には居なくて、いつの日か私が腰掛けていた窓から外を眺めていた。
「先生。どうしたの?」
『あぁ……。その格好は出かけて来たんだな。おかえり。』
「うん。ただいま。」『ほら、あっち、見て。』
「あっち?」
先生の指差すほうを見てみると、そこには沢山の鳥達と見た事のないキレイな赤い、火のような鳥が一匹集っていた。
「先生、あのキレイな火の鳥は何?」
『火の鳥に見えるか?あれは不死鳥だ。』
「不死鳥ってあの、死なない鳥……だよね?」
『あぁ、そうだ。』
「何でこんな所に幻の鳥がいるの?」
『“私が魔法を使えるから”だ。魔法界では普通に存在する鳥だ。稀少だがな。』
「へぇ〜。そうなんだ…。キレイね。」
『キレイだけじゃないさ。これから、良い事か悪い事が起こる象徴だ。……私の場合は、だが。』
「あっ!そうだ!今ので思い出した。良い事にカウントされればいいけど……。はいっ!これ。」

〜すみません。長すぎるので続きます。〜

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〜二人の秘密〜長文なので時間があるときに読んでくださると嬉しいです!

今夜、学校主催のダンスパーティーがある。
私の学校では何故か“女性”が“男性”へとダンスを申し込む。
私は紳士な男性はいないのかと思いつつも少し嬉しく思っていた。
もちろん今日は休日の為、それぞれがダンスパーティーの準備をしている。
私はキラキラした赤いドレスとシンデレラのような靴を選んだ。
皆がドレスコードをしはじめた頃、私もドレスを着て大広間へと向かっていた。
沢山のキレイな女子生徒達と、そわそわしている男性達を横目に廊下を進む。
大広間に着いた頃、テーブルも全て退けられ、半分ほどの生徒が集まっていた。
男子生徒や教師が壁に沿って円を作り、女子生徒の入場を待っている。
今や、この学校にいる全員がドレスコードをしている。

生徒全員が集まり、ダンスパーティーが始まる。
それぞれ男性の元へ歩きダンスを申し込む。
私も男性の元へ真っ直ぐ歩き目の前で止まる。
長いドレスの裾を両手で少し持ち上げ、ひざを曲げてお辞儀をする。
「先生。私と踊って頂けませんか?」

実を言うと、ずっと前から先生と踊る事を決めていた。
そのために、先生がよく着ている黒色の服に合わせてドレスを選んだ。

私が顔をあげると、何も言わずに左手を差し出した。
私は先生の左手に右手を重ね、もう一度お辞儀をする。
そのまま踊れる場所まで歩いて行き、先生に体を預けて踊る。
“ダンスパーティー”の為、今日のダンスは男性がリードをして女性が体を預けなければキレイに舞うことはできない。
私と先生はまるで鳥のように舞い続けた。
『今日の君はキレイだ。』
先生がそう呟いた。
「今日の先生もキレイよ。」
私がそう言ったとき、先生は優しく微笑み、私も優しく微笑み返した。
私達はそのままダンスパーティーが終わってしまうまで踊り続けた。

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〜二人の秘密〜長文なので時間があるときに読んでくださると嬉しいです。

『おはよう。』
後ろから先生が挨拶をしてくれた。
「あっ先生!!おはよう!珍しいね先生から挨拶。」
『いつも君が私を見つけてくれる。』
「いつも先生が私を見つめてくれる。」
『返しにくいな。』
「えっ?そう? ごめん、ごめん。」
『今何してた?』
「別に何もしてないよ。暇。」
『そうか……。』
「何よ!!話しかけて来たと思ったら相談!?何!?」
『私はあっちの寮や他のクラスの奴らに“イジワル”しすぎか?』
私の学校ではいくつかの寮に別れている。
「う〜ん。………えっ?今さら!?そんな事!?」
『そんな事で悪かったな。』
「先生。“今更?”だよ。私達は昔から知ってる。」
先生は私の心中を探ろうと目を覗き込む。
「先生。私はね、時々嫌いになるよ。そりゃあね。でもね、私は先生の事、大好きだよ。」
先生は静かに何かを考えている。
「でもね。先生、少しやりすぎね(笑)。先生はすぐ減点するもの。皆、留年しちゃうわ。まぁそんな先生が好きなんだけどね!(笑)」
先生の求める答えにはなっていないだろうと思ったがイタズラに、でもニカッ!と笑った。

『そうか……。私はこのままでいいのだな…。』
「えっ?(笑) 先生、私の話聞いてた?(笑) 先生、直す気ないじゃん!!(笑)」
『ごめんごめん。減点は少し減らすさ。』
「いや、イジワルも減らして下さい!!」
私がそう言うと先生は笑った。
『ありがとう。君だけだ。私をちゃんと見てくれているのは。』
「先生も私を見てくれたでしょ?私は私を尊敬してくれる人を尊敬するだけよ。」
『そうだな。私と一緒だ。』
「うん、そうよ。知ってる(笑)」

『あっ、ほらチャイムが鳴ってしまうよ。早く教室に入りなさい。』
「先生、何かあったら言ってね。私も報告するから。」
『あぁ。』  「じゃ、教室行ってくるね。」
『ありがとう。』
「先生も話してくれてありがとう。」
私は手を振り笑った。
「じゃあ、またあとで。」
先生も笑って手を振り返す。

二人の秘密。
その一つは私の前だと笑う、そしてイジワルなんてしない先生の姿なんだろうなと改めて思う。

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〜二人の秘密〜長文なので時間があるときに読んでくださると嬉しいです。

はぁ…。 はぁ……。 ……。
バンッ! ガタッ!
私は何が起きたのか一瞬考えた。
「あっ……。」
先生と目が合う。
まさか先生の授業で眠りにつくとは…。
しかも悪夢を見るなんて……。
机に手をついた音と、立ち上がった時に椅子を引いてしまった音で皆が振り向く。
『授業中だ。前を向け。……お前も座れ。』
「はい。……すみません。」
あぁ。先生の授業で眠ってしまうなんて……。やってしまった。先生はすぐ減点しちゃうし…。
そんな事を考えていたらいつの間にか授業は終わった。
教室を後にして、大きな窓の大きな額縁に腰掛ける。
窓を開けて外側に足を出し、壁に寄りかかって目を瞑る。
ここはほとんどの生徒が来るのを避けている廊下だ。
人は来ないと思っていたが、遠くから足音が聴こえる。……聴こえたと思ったら、一瞬の静寂が訪れる。
かと思ったら、走って近づいてくる。
そう思っていたら、本当に後ろで止まった。
『何をしている??早まるな!落ち着け。』
先生の声がしたので目を開けて振り向く。
「先生……??なんの話?」
『いや……。今、そこから……。』
「うん。先生の早とちりだと思う……。飛び降りると思ったの?」
そう言いながら外に出していた足を廊下に戻す。
先生は安心したように肩を降ろす。
少し面白かったので笑ってみせた。
「早とちり先生、ここ、座る??」
そう言うと、また外側に足を出す。
「先生。ごめんね。授業中、寝ちゃって。」
『そんな事は正直どうでもいい。何かあったか?君が悩んでいるならそっちの方が重要だ。』
「ふふふ。ありがとう。でもね、別に悩みがある訳じゃないの。」
『悪い夢でもみたか?』
「うん。………ねぇ先生。1つ質問してもいい?」
『あぁ。何だ?』
「先生はさ、何処にも行かないよね?」
先生は少し悟ったようだった。
『何を言っているんだ?今もこうして君の側にいるじゃないか。』
そう言って微笑んだ。
その笑顔を見たら、悪夢の話なんてできなかった。

先生は多分、悟れてない。
私は夢の中で少しずつ遠ざかっていく先生を見た。
暗闇の中へ突き進み遠ざかっていく先生を。

私は本当にそうなってしまわないように、
先生のローブをそっと、けれども強く握りしめた。

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ずどどど、かしゅり、ととんたん #7

「今日はどうしたの? お菓子を買いに来たの?」
「いっ、いえ。今日はおばさんにお礼を伝えたくて来ましたっ。遅くなってごめんなさいっ。親に寄り道とか禁止されてて、しかも最近塾に通い始めてなかなかこのお店に来れなかったんです。今日は塾もなくて、残業で親の帰りが遅いのでやっと来れました。あのとき、おばさんがいなかったら、わたしは犯罪者でした。本当にありがとうございますっっ」
 ウエハースちゃんは深く深く頭を下げた。
「いやいや、そんな大したことしてないわよ。あたしだって、ウエハースちゃんに犯罪者になってほしくないもの。でもどうしてあんなことをしたの? 手短に済ますからとりあえず中に入って。あ、あと、そこにいるのはわかってるのよ、飛鳥ちゃん! あなたも来なさい」
「はっ、はいっ」
 急に名前を呼ばれて、私まで上擦った声になった。


 ウエハースちゃん、改め、美結ちゃん。ここから一番近い小学校に通う四年生。
「わたしの親、すごく厳しい人で、お菓子とかゲームとかテレビとか禁止されてるんです。でも、わたしあのアニメがずっと大好きなんです。幼稚園の頃に観ていて、すっごく憧れだったんです。それで、どうしてもカードがほしくて、つい……わたしが許されないことをしたというのはわかっています。本当にごめんなさい」
 最後のほうは話している、というよりほとんど泣いているようだった。

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ずどどど、かしゅり、ととんたん #6


 ****


 あれ、この女の子、どこかで見たことある顔だな。誰だっけ。しばらく考え倦ねて、やっとひとつの結論に辿りついた。
 あー! 水色のランドセル! ウエハースの子だ!
 存在を忘れるくらい万引きの様子を目撃してから時が経っている。京本さんと知り合った日だから、半年くらい前だろうか。
 あの日と同じように、彼女はキョロキョロおどおどしていた。嫌な予感がしたので、またそっと後を追いかけた。
 しかし、前回とは異なり目的地もないようで、店内をしばらくぐるぐると歩き回った。かれこれ五分は彷徨いていたと思うが、彼女は何もすることなく出口へと歩を進めた。
 疑ってごめんね、と心の中で謝罪する。けれど、本当に何をしに来たのだろうか。
 自動ドアが開き、彼女の背中は外の世界へ消えた、と言いたいところだが、そこに入れ違いで京本さんがやって来たことで状況は一変する。少女は、あ! と大きな声を上げた。そして、ぎこちなく声を発した。
「あっ、あのっ、あのときの方ですかっ?」
 京本さんは、んー、と一度唸ってから、
「あ、ウエハースちゃん?」
「はっ、はい。そそそそのとおりですっ」
 ウエハースちゃん、とはなかなか雑なネーミングだと思うが、的確といえば的確な気もする。

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ずどどど、かしゅり、ととんたん #3

 ぱしっ。

 場違いに軽快な音がしたがしたので顔を上げた。
 さっきまで私と少女しかいなかったはずのお菓子売り場に、女性がいた。先ほどの音は、その女性が少女からウエハースを取り上げた音だったようだ。そして手持ち無沙汰となった少女の右手をぎゅっと握りしめて、レジがある方向へ歩き出した。
 良かった、親御さんいらっしゃったのか、と安堵しかけたが、少女の顔は青ざめ、小刻みに肩が震えていた。この様子からすると、知り合いにはとても見えない。
 万引き少女の末路が気にならないわけがなく、私は当然のように後をついていった。
 女性は少女の手を握ったままレジに並んだ。少女と繋いである左手は解かずに、片手だけで鞄から器用にクレジットカードを取り出した。頑なに手を解かないのが、逃さないぞ、という強い意志の表れのように感じた。
「クレジット一括で」
 少し離れた場所にいる私にもはっきり聞こえるくらいの声量で女性が言った。よく通る声で、何だか聞いていて心地よかった。
 レジを終えて、袋詰めの台の前で女性は優しく微笑みながら、購入したウエハースを少女に手渡した。予想外の対応に私は驚いたが、少女はもっと驚いたことだろう。もともとまんまるな目をさらに丸くしている。
「ほら、早く帰りなさい。お家の人が心配するわよ」
 女性の言葉にはっとして、少女はほとんど転げそうな勢いで店を後にした。
 これで一件落着、と思ったのも束の間。少女を見送った女性が突然くるりと振り返り、明らかに私を見てニヤリと笑みを浮かべた。

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ずどどど、かしゅり、ととんたん #2


 ****


 キョロキョロと不自然に辺りを見回す少女のことが妙に気になって、そっと後を追いかけた。
 水色のランドセルを背負っているので、学校帰りだろうか。
 こぢんまりとした店内を、少女の歩調に合わせ早足で歩く。お菓子売り場に差しかかったところで彼女のペースが落ちた。ここが、目的地らしい。
 少女は、おどおどしていた。そして、キョロキョロしていた。
 しばらくその場に立ちすくんでいたが、よし、と言う声が聞こえてきそうなくらい勢いよく首を上下に動かして、右手を伸ばした。手に取ったのはキャラクターが描かれたプラスチック製のカードが入ったウエハースだった。園児から小学校低学年くらいの女の子に絶大な人気を誇る美少女戦隊アニメのキャラクターだ。私も幼い頃は随分と熱中していた記憶がある。
 少女は、見た感じ小学校四、五年くらいに見える。このカード入りウエハースを買うのが恥ずかしいと感じているのかもしれない。だから挙動不審だったのか、と納得しかけたそのときだった_____
___少女は、右手に握られたそれをスカートのポケットにするりと仕舞おうとした。
 目を疑った。目の前で見知らぬ少女が盗みを働いた。そうしてすぐに後悔の念に苛まれた。どうして後を追いかけたりしたのだろう。見たくなかった、知りたくなかった。
『そんなことしちゃ駄目だよ』喉元まで出かかった言葉。ほらね、やっぱり言えない。俯いて立ちすくむことしかできなかった。

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〜二人の秘密〜長文なので暇なときに読んでいただけると嬉しいです。

「あっ!先生〜!!」
廊下で先生を見つけたので駆け出す。
『何だ?』
「ん〜、特に用事がある訳ではないかなぁ〜。」
『次は昼休みだろう? ぶらぶらするか?』
「その前にご飯、一緒に食べよっ!!」
そう言ったとき、向こうから他の教師が来るのが見えた。
「あっ……。ちょっと失礼しま〜す。」
先生が着ている丈の長いローブの中に潜り込む。
『おい……。』「先生、しっー!!!」
『まったく。しょうがないな。』
先生が壁に向かって少しずつ後ずさり、持っていた教科書を窓辺に置く。
向こうから来た教師が近づいてくる。
先生の前で止まると“どうかしましたか?”と声をかけた。
『いや、教室に忘れ物をしたような気がしたのだがポケットに入っていた。』
そう言うと、ポッケの中から教師全員が使っているチョークの入った箱を出した。
“気をつけてくださいね”
『あぁ。』
そんな会話が聞こえた後、遠のいていく足音が聞こえた。
『もういいぞ。出ておいで。』
「ぷはぁ! 先生、魔法使った?」
『彼奴は視野が狭い。魔法なんぞ使わなくても君を隠せるさ。』
「ふふ。ありがとう。しかも先生、チョークなんて使わないのにねっ(笑)。」
『……君は私には話しかけるのに、何故他の教師には懐かないんだ?』
「犬とか猫みたいに言わないで!なんでって嫌いだからよ。単純でしょ?(笑)」
イタズラに笑う。
『まったく君は。』
「“まったく”ってさっきも聞いた!ほら、ご飯いこう!!」
『まったくもって可愛い生徒だ……。』
そう呟いているのが聴こえた。
こういう事を言うから私は先生が好きだ。
けど、恥ずかしかったから聴こえないフリをした。
「ほら!早く来て!!!私の事ちゃんと見てくれるの先生しかいないんだから!!」
『わかった、わかった。さぁ行こう。』
私は昔、教師の言葉で傷ついていた。もちろん今もだが、全人種“教師”は全く同じ事を言う。
だが、昔いろいろあった先生はイジワルはするものの、命の恩人だった。
そんな先生をキライにはなれなかった。
私達は予定通りご飯を食べ、広い校舎をぶらぶらした。
春の風が心地良かった。

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〜二人の秘密〜長文なので暇なときに読んでくださると嬉しいです。

「げっ。風邪引いた……。今日の授業、休まなきゃな。」
私は寮の部屋から担任に電話をかけた。
「1時間目、先生の授業なのにな……。」
          ︙
1時間目。
『おいっ。あいつ、どうした?休みか?』
“えっ?あ〜、はい。風邪引いたらしいです。”
ある生徒がそう答える。
『そうか……。欠席はひとりか? 授業を始める。』
          ︙
          ︙
放課後。
「暇だなぁ〜。ラジオ体操でもしようかな〜。」
そう考えているときだった。
コンコン。
ノック音が2回聞こえた。
「はぁぁぁ〜い!!」
返事をすると扉が開いた。
『何だ。元気じゃないか。心配して損したぞ。』
「えぇ〜。心配してくれたんだね、先生。」
手にはホットミルクの入ったカップが2つとチョコレートの乗ったお盆を持っている。

『見舞い持ってきた。』
そう言いながら、持っていたお盆を数センチ上にあげる。
先生からの“心配”が少し嬉しかった。
「ありがと、先生。暇じゃなくなったよ!(笑)」
先生はチョコレートをホットミルクの中に入れ、
魔法を使ってスプーンでかき混ぜる。
「先生の魔法は便利だね。」
『便利だけじゃないさ。』
そう言いながら、ホットチョコレートミルクになったカップを差し出す。
そして、“ニヤリ”ではない本当の顔で少し笑った。
「先生にはその顔が似合ってるわ。その顔が一番ね。」
先生は照れくさそうに笑い、ホットチョコレートミルクを一口飲んだ。

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〜二人の秘密〜長文なので暇なときに読んでいただけると嬉しいです。

部屋の扉から少し顔を出す。
「あっ。先生?……ちょっと相談があるんだけど。」
私の学校には寮があり、もう12時を回っている。
『何だ?こんな時間に。いくら“寮だから”と言っても遅すぎるんじゃないか?』
「うん。だから相談なんだってば…。」
『ほら、こっちに来い。他の教師に見つかるだろう?』
「あっ、うん。ありがとう。」
『相談とは何だ?』
『何かあったか?  ……まさか虐めか!?』
最高に質問攻めをしてくる。
「うん。違うから話し聞いて?」
『あっ。すまない。』
少し首を傾けて目を覗き込んでくる。
「あのね、寝なきゃいけないのに寝れないの。」
「…いや、違くて。眠いのに寝たくないの。…だから寝れない。」
『そうか。私にもあったなぁ、そんな事。』
「でしょうね(笑) だから聴きに来たんだもん。」
先生には、私とは違うが昔いろんな酷い事があった。
『なら、私の部屋を使うといいさ。』
先生は唐突に切り出す。
「えっ?何で?寮あるのに?」
『私が子守唄でも歌ってやろう。』
「いや、私がここで寝たら、先生何処で寝んの?」
『こんなに大きなベッドなんだ。2人で寝れる。』
大体の教師部屋はベッドは大きくキッチンさえある。
「でも、子守唄なんかで寝れるの?」
『きっとひとりだから寝れないんだろう。』
『ほら、寝ていいよ。』

私達は背中をくっつけて寝転んだ。
背中で先生の温もりを感じながら、子守唄を聴く。
ショパンだったかモーツァルトだったか、子守唄はとても綺麗だった。
久しぶりに感じた人の温もりで、
子守唄が終わる前には私も先生も眠っていた。

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〜二人の秘密〜長文なので時間があるときに読んでくださると嬉しいです。

トントン。私は先生がいる部屋の扉を叩く。
『先生?入ってもいい?』
爆発音とともに、
「ちょっと待て」という声が聴こえる。

5分ほど経つと扉が開いた。
「お待たせ。」
『先生、また魔法の薬学してた?』
「あぁ。少しだけだ。」
先生は魔法を使った薬学を“隠れた専門教科”としている。
先生の使う魔法の薬学はとても綺麗で素晴らしい。
『今日は失敗したの?』
「掛け合わせができると思ったのだが何処かで間違えてしまったようだ……。 片付け、手伝ってくれるか?」
『えぇ。もちろん。その代わり、チョコレートね。』
「わかってる。魔法の事は誰にも言うなよ。」
『もちろん、わかってるわよ。』
私は魔法使いでも魔女でもない。
いや、普通はみんなそうだ。でも私は、夢のような彼の秘密を知っている。

手伝いをしながら彼に問う。
『ねぇ。先生の魔法の事、私にバレたけど何もないの?お仕置きとかさ。』
「君が黙ってるから何もない。私も何も言わない。」
『誰かが魔法を使ったら、“魔法の存在がバレた”って事がバレるんじゃないの?』
「あぁ。もうバレてるだろうな。」
『大丈夫なの?』
「君が秘密にしてくれているんだ。何もないだろう。」
私は“そっか”といい一息つく。
『だいぶキレイになったんじゃない?』
「そうだな。元通りだ。」
『良かった 良かった。』
「そういえば、何か用事があったのでは?」
そう言いながらチョコレートを渡してくれた。
『えっとね〜……。 忘れた……。』
「まぁいいさ。思い出してからまた来るがいい。」
彼はホットミルクを差し出す。
『ありがとう。……魔法の事、先生にお仕置きがなくて良かったよ。』
先生と話したかっただけとは言えなかったが、帰宅のチャイムがなるまで話し合っていた。

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ある日私たちは。No.3

「お~い、何勝手に…。はぁ。…まぁいっか」
「えっ。えっっ!いいの⁉やったあ!!」
う~ん。そういう意味じゃなかったんだけどな~。
私はもう8割諦めている。どうしよ。
でも、私はふと思った。なんでここまで彼女は東京へ行くのか。ここまで喜ぶのか。嫌気が差した。
「ねぇ。なんでそんなに行きたいの?何かあった?」
「え?だからただ学校が面倒くさいだけだよ~」
「そっか」
「それより早く行かない⁉色々大変そうだから早く行っちゃえばこっちの勝ちだ!」
突然襲ってきた不安はどこかへ逃げていった。
「分かった。行こう!」
「うん!フフッ。嬉しいな」
こうやって私たちは歩き始めた。と、さっきとは違う不安が襲ってきた。お金とか、私たちだけで大丈夫なのか…。お金は持ってきたって言ってたけど。まぁその時はその時か。
私たちはスマホと修学旅行の記憶を頼りに駅に着いた。人が多くいる中、完全に浮いている。スマホで色々調べた通りに進んでいき、ついにホームまで来た。はぐれないように。はぐれないように。
途中大人に声をかけられたらどうしようかと思ったが大丈夫だった。
何分か待って、やっと新幹線が来た。この何分かは今まで以上に長く感じた。
大勢の大人に紛れて乗り込む時、遥がぼそりと呟いた。
「さよなら、大阪」
いや、今日帰ってくるんだけどね。心の中でツッコミ、心の中でクスリと笑った。

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〜二人の秘密〜長文なので時間があるときに読んでくださると嬉しいです。

『あっ。また意地悪してんの?先生。』
私のかけた声で、
意地悪されていただろう他の生徒が逃げる。
「私は意地悪なんてしていない。何処がそう見えるのだ?」
『先生、悪い顔してるけど?(笑)』
「私の何処が悪い顔なんだ??」
本気で問いかけてくる。
『ふふふ。嘘。私は先生の事知ってるから、悪い顔だとは思わない。たださ、もう少しだけマシな顔できないの?(笑)』
「笑うな。私にとったらこれはマシな顔だ。」
『そんな顔じゃあ、ただでさえ意地悪な先生がもっと意地悪に見えるわよ?』
少しだけ俯いた様に見えた。
『私は先生の事を知ってるから、なんで先生が意地悪してるか知ってるけどさ…』
「意地悪じゃない。」
先生は私に隠そうとしているが私は知っている。
意地悪する時には必ずニヤリと笑うのだ。
途中で話しを遮った先生を無視して続ける。
『他の生徒からしたら贔屓とか言うやつになるのよ〜?』
「贔屓をしているのはあっちの方だ。」
『それは何年も前の話でしょう?貴方が同じ事繰り返してどうすんのよ、先生。』
少しだけ考えて先生が口を開く。
「私は私なりに守ってるつもりだ。」
彼は自分なりのやり方で生徒を守っているのだ。
『わかってるわ。でも意地悪するのも程々にね。』
先生に手を振り、進路を元来た道へと戻す。

後ろで“アイツらを逃してしまった”と声がする。
私は微笑みながら彼に想いを馳せる。
彼の意地悪は、彼が学生のときにうけた傷のせいだと知っているのはこの学校で私だけだろう。
もしあの悪戯と言う名の虐めがなければ、彼はとても良い人になっていただろうに。
彼は何処でひん曲がってしまったのだろうか。

………ため息をつきながら、次の授業へと向かう。

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つき (3) (Side 真月)

どうやら彼奴…龍樹は俺が入り込んだ事に気付いた様だ。
あ〜あ、もうちょっとだけ気付かれなければ上手く行ったのにな。
小豆を救う事が。
小豆は俺の猫だ。ちゃんと愛していたつもりなのに、つい最近身体の不調が目立つ様になった。
獣医に見せるも、時すでに遅し。
"この子の寿命は…5ヶ月持ったらラッキーだと思ってください。動物は強くありたいが為に自分の体の不調を自分から訴えないから初期発見は難しく、貴方のせいではないです"
嘘だ。
俺が悪い。
俺が…鈍感だから。
俺のせい。
駄目だ…
現実に苛まれながら寝たその日に、俺は不思議な夢を見た。

ねぇ、
あずちゃんだよ。小豆。
ねぇ、私ね、死んじゃうのはしょうがないと思うんだ。
だからね、最期に私の願いを聞いて欲しいな。
あず、好きな子が居るの。
近所の龍樹さんって人の猫で、ゆつきくん。
5年前に散歩してて出逢ったの。
うち、最期にゆつきくんに気持ち伝えてから逝きたい。真月にぃなら会わせてくれるよね?強いもん。

…目覚める。
起き上がると、足腰も弱くなって階段すらも登れない筈の小豆がベッドに上がってきていた。

まさか、ね

でも…

俺は計画を練り始めた。
龍樹の記憶を断片的に失くして行けるなら、ちょっとだけ"ゆづきくん"とやらを借りて来よう。
手始めに俺の龍樹の共通点…龍樹の元彼女と俺の彼女が同一人物なことを利用する。
いわば実験の様なものだ。
そして俺の勤務先が病院である事も。
彼女に仕掛け人を頼めば事故が起きる確率を増やせる。経過観察にも丁度良い。
その他にも、色々と。
俺の特殊能力をありがたいと思ったのもこれが初めてだ。
僅かながら理性は叫んだが、小豆は長く生きられないという事実が俺を駆り立てた。

《お詫び》
つき (2)でタグに『長編小説』いれるの忘れてました。すみません。

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ある日私たちは。No.2

「何言ってるの⁉私たちで行けるわけないじゃん」
「だって美咲ちゃんが行き先決めてって言うから…。私、本気だよ」
私は考える。本気とは何か。0,11秒で答えが出た。
「あんたそれ本気っていうんじゃないよ。本気っていうのは何から何まで全部決めて、冗談抜きの気持ち」
「じゃあ、行き先は東京。手段は新幹線。時間は今から。帰ってくるのは今日の夜。で、どう?」
おい。おい。そんな真剣に返してくるんじゃないよ。
「帰ってくるの今日なの?日帰り?じゃあ休みの日とかでもいいんじゃないの?」
「いやぁ。学校面倒くさいなぁって思って」
そんな理由…。
「そうか。ほんじゃ分かった。ジャンケンをしよう。それで私が勝ったら今日は行かない。君が勝ったら行く前提で考えよう。それで良い?」
「うん。分かった。私が勝てばいいんだね。そんなの楽勝」
私も勝ってやる。
『最初はグー、ジャンケンぽん!』
遥はグー。私はチョキ。…負けた。
「やったあ!!東京行ける!」
いつもの遥に戻った。
「まだ行くって決まったわけじゃないからね。行く"前提で”って言いましたからね」
「え~。でも行く可能性の方が高いってことでしょ?それなら行くってことだよ!」
どうしよう。彼女はもうその気になってはしゃいでいる。幼稚園児みたいに。