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Trans Far-East Travelogue①

成田空港第二ターミナル1階の22番出口前で6人の仲間と合流し、高雄から来てくれた親友と談笑する
「岡山なら、台鉄で高雄、そこから地下鉄で小港出た方が…」「飛行機取れなくてな」「そうか。ところで、後2人、どこ行った?」「1人は第二ビルの駅、もう1人はアイツの彼女さん迎えに第三ターミナル行ってる。」「3ター?スプリングで来るのか?」「いや、オレンジの会社で札幌から来るそうだ。」「ジェットスターで札幌…懐かしいな」「お前もあのLCCで札幌行ったんだっけ?」「そうだよ。忘れやしないさ。初めてのヨーロッパ旅行で機内に帽子忘れちまって、そのおよそ1ヶ月後に北海道は初めて行った時新千歳空港近くのレラって名前のアウトレットで緑の野球帽買ってもらったんだよ」「思い出の場所ってか」「まあでも、滞在時間は短かったけど、台南の方が思い出多いかなぁ」「台南は旨いものも歴史的建造物も多いし、日本語通じるからな」「それを言ったら北海道も沖縄もそうだな。ただ、北海道や沖縄、台湾の強みの一つが今の俺にとっては不要なものなんだけどな」と言って笑うと、今まで黙っていた台北の仲間が口を開く
「お前のことだから、『砂糖が取れる』とでも言うんだろ?」「違うな。美人が多いんだ。全く、めちゃくちゃ美人で可愛くて、話題も含めて色々俺に合わせてくれる。そんなに素晴らしい彼女が俺にはいるってのに」と笑うと「お前らしいな」と向こうも笑う
本線経由の直通特急に乗り込み、定刻通りに大門に着く
モノレールとの乗り換えで地上に出ると竹芝桟橋に響く汽笛が俺の帰郷を出迎えてくれるようだ

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ユーラシア大陸縦横断旅〜あとがき〜

受験勉強の傍ら、クリスマスまでに全て書き上げる予定で執筆を始めた「ユーラシア大陸縦横断旅」シリーズでしたが、予定の4日遅れで書き上げることに成功しました。
自分は旅行に行ったら写真や動画で記録して文字には記録しないタイプの人間なので、本格的な旅日記の形式は初めての取り組みでした。
僕が中学2年の頃に世界地図を見て、上手く列車を乗り継げば東南アジアのシンガポールからフィンランドのケミヤルヴィ、ロシアのムルマンスクといった北極圏の諸都市、ルートによってはユーロトンネル経由でスコットランドのエディンバラまで鉄道で繋がっている事に気付き、中学の卒業旅行としてこのユーラシア大陸の端から端までを鉄道で旅することを計画した体験、中国とラオスを結ぶ国際鉄道計画の発表、コロナ禍の影響とロシアのウクライナ侵攻に伴うシベリア鉄道に乗車できなくなった現状に加えてオープンチャットで知り合った理想の異性とやり取りできなくなって半年経った今でも忘れられない恋にまつわる経験、そして企画「Romantic trains」で憧れだったロシアの鉄道やかつて訪れた所の鉄道を紹介する機会をいただいた経験が重なったことが端緒となり、思い出の場所やまだ見ぬ憧れの場所を大好きな鉄道で想い人と巡るという理想の旅行を題材に執筆しました。
約10年前、実際にマレーシアのクアラルンプールやヨーロッパを家族で旅行した経験と世界地図、それから海外の鉄道路線図から得た情報と海外に関する既存の知識だけを参考にして今まで出会った人達も登場させるというコンセプトのもと書き上げた結果、致命的なものも含めた様々なミスはあったものの、初めてにしては上出来だと思える作品が完成しました。
今後も想い人と日本国内は勿論、世界各地様々な場所を巡る旅を題材とした作品を投稿する予定です。
シベリア鉄道の英名「Trans Siberian Railway 」のように、今後は訪れる国や地域ごとにシリーズを分けて「Trans European travelogue」という形の旅行記として投稿したいと思います。
現在、日本、オーストラリア(NSW)、台湾、韓国、フィリピンでの旅の大まかなアイデアは出ているので文章として纏まり次第投稿したいと思います。

以上、旅行とプロ野球の巨人軍が大好きな日本一の美男子(自称)、ロクヨン男子でした。

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ユーラシア大陸縦横断旅67〜最終回〜

ロンドン最後の夜が明け、いよいよ思い出の街にも別れを告げて故郷に帰る日が来た
世界でも指折りのハブ空港の一つ、ヒースロー空港の国際線ターミナルは広大なため早め早めの移動が必要だ保安検査所へ向かう5分前、涙を堪えて「先行ってるよ。江戸小路で会おう」と告げると彼女は無言で抱きついてくる
彼女がもう一つのターミナルへ向かう頃、俺は出国を済ませて飛行機に乗り込む
時差ボケ防止でしばらく寝て機内マップを見るともうウラル山脈を超えてシベリア西部にある元カノの1人の出身地上空を飛んでいる
機内食を食べる間にも飛行機は進み、北京、大連、ソウル、チェジュと幼い頃から成田空港で見てきた国際線の行き先の街の名前が地図に表示される
対馬海峡を越えて福岡の上空に至り、そこから福岡、広島、高松、大阪、名古屋、浜松の地名が見えてきた
「海外行く時、帰る時に必ずマップに出る地名だ。もう帰って来たんだな。エスカレーター降りて泣かないと良いんだがな」そう言う間にも飛行機は硬度を下げる
左手に故郷で幼い頃からずっと観て来た高層ビル群が見えて感慨深くなると、成田空港に着陸した
お馴染みの入国審査場までの下りのエスカレーターから見える看板を見て毎度のように泣く
この看板には様々な言語で「日本へようこそ」という意味の文が書かれているが、日本に帰国した全ての人の目に入るように一際目立つ大きさの柔らかいフォントで書かれたひらがな7文字の言葉を見て泣かない人は少ないだろう
この言葉が見えた瞬間、俺が生まれてから今までお世話になった全ての人と一緒に彼女もその言葉を言ってくれるような気がした
「「おかえりなさい」」

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ユーラシア大陸縦横断旅66

宿に戻り、すぐに荷物を纏める
一通り纏め終わると、スマホの着信音が鳴り響く
台湾の仲間達からだが、彼等は長電話好きなので、軽く1時間ほど時間を取られると覚悟して対応する
「土産物、何が良い?」「お茶っ葉と鳳で頼めるか?あと、フォルモサの写真も頼む」「鳳と梨のアレね。お前、好きだもんな。写真は…新高、次高、それから101と85で良いか?」「各地の写真じゃなくてその名前を漢字に意訳したら出てくる地下鉄の駅があるだろ?その駅の写真をお願いしたい」「あのステンドグラスか。任せな」「ありがとう。頼んだよ。東京で俺の彼女とも会えるだろうから紹介してやるよ。その次の時は案内頼んだよ。特に、安平とか嘉義とか淡水が良いな」「任せとけ。でも、お足は高くしとけよ?」「高くするのは良いけど、流石に大神宮跡地のホテルには泊まらないからな?」台湾に造詣が深く同じような物が好きな男同士の会話が弾み、こちらの到着予定の話になる
「こちらの到着は日本時間の夕方4時頃の予定だ」「航空会社ズーペンだろ?」「いや、イングオ」「また金がかかる所を…」「それは俺じゃなくて幼馴染が取ってくれたんだよ。国泰が使えなくなったから」「そう言えば言ってたな。で、どうして福岡経由じゃなくていきなり成田なんだ?」「彼女が羽田経由だから東京で俺といたいんだとよ。俺はてっきり彼女が先に福岡に帰ると思って向こうに寄ってから帰ろうと思ったんだが、俺のことを1番に考えて東京にいる決断をしてくれたんだろうな。健気で一途、それでいて俺が故郷の東京をはじめとした関東、そしてその対極と言える関西がどうしても好きになれないことも理解してくれる。だから、俺は彼女に首っ丈なんだ」「その辺にしとけ。彼女さん、淡水信義線カラーになるだろうから」「もうなっちゃるよ。冬瓜茶より甘くして気まずいから切るぜ」「橋頭のアレみたいだな。遠慮せずに切りな」
最後は俺達ではお馴染みの台湾ネタで締めてどちらともなく電話を切る
そして、彼女が背伸びして耳打ちする
同じ頃、例の鐘が鳴り響き、即興で短歌を一首詠む
「協定の 日の街で聞く 鐘の音 君の隣で 聞くぞ嬉しき」
この日にロンドンで起きた歴史上の出来事を踏まえて詠んだ歌に歴史好きの彼女が反応し、より甘えて来たのは言うまでもない

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ユーラシア大陸縦横断旅65

今回の旅が恋人と2人旅だったので見栄を張って彼女の分も俺が支払ったところ予想以上に出費が多く、仲間達からカンパしてもらわないと成田空港から出られないレベルの金欠になったことに気付く
そのため、急遽川沿いの観覧車に乗るための行列に並んでいる間に今回の旅を計画する時に協力してくれた仲間に電話で相談すると「岡山と松山、新城から8人のメンバーで君の救援として明日の朝一の便で桃園から飛び、午後3時頃成田に着く予定を既に組んでる。俺は新城組に帯同して東京へ行く」と頼もしいことを言われた
「岡山〜松山は早ければ2時間ちょっと、新城〜松山でも早ければ1時間ほどで着くだろ?」と訊くと「そうだな。俺達は5分ほど前に復興で松山組と合流したが、他は岡山を出たと3時間前に連絡が来て以降何の音沙汰もない」と言われた
「なら、出費抑えようとしてくれて在来線乗ってんだろ?だとしたら、岡山〜松山の時間考えると多分今頃清水だろ」と返すと「今連絡が来たが板橋に着いたそうだ。詳細は追って連絡する」と言われて電話が切れる
「新庄から松山まで1時間ってどうやって行くの?」ともっともらしいツッコミが飛んでくるが、彼女はとんでもない勘違いをしている
そう、俺が電話でやり取りした相手は日本にいるのではなく、台湾にいるのだ
台湾が日本統治下だったのは有名だが、現地入りした当時の日本人が日本風の地名を付けたことは台湾に詳しい人でないと知らない
美濃、岡山、清水、板橋、松山、新城、瑞穂、松浦と言った地名が今でも残っており、普通に日本語読みすれば現存する日本の地名と同じため台湾渡航経験のない日本人なら位置関係のおかしさに気付き、すぐに指摘するというお約束の勘違いをするのだが、彼女も全く同じ状態なので笑ってしまった
ゴンドラの中でGoogleマップで台湾の地図を出して説明すると彼女も自分の勘違いに気付き、頬を西日の色に同化させて笑い出す
中心街のライトアップも始まる頃に俺達が頂上に来るや否や4時の鐘が鳴る

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ひとりごと。

12月の終わりも近づいてきました、寒いです
最近あんまり来れてなかったし、ここから年末までも来られるか怪しいので、突然ですが、2022年の振り返りをしようと思います
ひとりでどーこー振り返るだけなんですけれども、よかったら読んでいってください

私の中の大きな出来事として、2月に受験がありました。前のアカウントの頃ですが、受験応援ポエムを色々投稿しました。
合格して、それからは、、あんまり覚えてないですね笑、全体的に、恋のポエムを書いていました。
今から見るとすごく恥ずかしいですね!!
いや今も恥ずかしい…来年こそは頑張ります…

この1年で嬉しいことも楽しいことも、悲しい時間も苦しい時期も、ぎゅっと密に経験してきました。とても満たされた1年間だったと感じています。
これらの日々を言葉に表すこと、抽象的なものを、脳内の語彙をひねりにひねって言葉に絞り出す力は少しはついたのかな、、ついたということにさせていただきましょう!

それから個人的な感想なのですが、2022年は掲示板での交流が活発でしたよね
スタンプをたくさん押していただいたり、レスでやり取りをしたり、他の人のことを身近に感じることができて嬉しかったです
特に今年は感想をレスしていただく機会が増えて、本当に私のポエムが届いているのだな、と感動していました。
来年は私もレスしていこうかな、と思ってます(突然お邪魔するかもしれませんがよろしくお願いします)


相変わらずまとまりのない文章ですが、長くなってきたのでこの辺で。
普段私のポエムを読んでくださっている方々、ありがとうございます
より成長した自分で、よりまっすぐに言葉を伝えていけるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

La-la.

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ユーラシア大陸縦横断旅64

霧に包まれたタワーブリッジを渡り、第二次大戦中に対独戦のエースとして活躍し、ドイツ降伏後は対日戦に備え対空装備を充実させたが装備が整うまでに終戦を迎え、戦後には博物館としてロンドンに係留されて保存された歴史を持つ元軍艦の博物館船HMSベルファストに入る
甲板に出てみると彼女は川の対岸に広がる中世の伝統に則って建てられた歴史的建造物群に見惚れている
俺はというとそんな彼女の横顔を見惚れて即興の替え歌を口ずさむ
「川面に〜渋く光る〜♪ロンドンの守り人なのに名前はなぜかアルスター由来」と歌うと、彼女が反応して「アルスターってどういうこと?」と訊いてくる
「このベルファストをはじめとした巡洋艦というジャンルの軍艦の総称知ってる?」「タウン級でしょ?」「そうさ。ちなみに、ベルファストは北アイルランド、つまりアルスター地方の大都市が由来だから、イングランドの都を守った軍艦の名前がイングランドとは関係ないアルスターの町から付けられたことをちょっとネタにしたんだ」
「それを言ったら、レイテ沖で沈んだのは東京由来の軍艦でしょ?」という反論のしようがない正論を返され「一本取られたなぁ」と言って笑うと彼女も笑い出す
そして、しばらくして「たかだか80年ちょっと昔に敵対していた国の軍艦のことをネタにして笑えるほどの平和ってのはありがたいな。当時の戦争を体験して、かつての敵国を未だに憎む人だっているのに、友達のように扱ってくれる国が多いのは外交努力の賜物だな」と呟く
「そうね。アメリカに至っては震災の救出作戦で日本語の『友達』をそのまま作戦名に使ってくれたのは知ってるでしょ?」と返ってくる
「そうだな。東郷神社も記念艦三笠もアメリカの援助がなければ戦争で消えてそのままだったし、震災が起きるとすぐに救助隊出してくれたから感謝してるよ。それに、東郷平八郎とアメリカ海軍の話題が無ければ君とは海外の話で盛り上がれなかった。そういう貴重な経験をくれたという意味でもアメリカには感謝している。ただ、言葉は別だね。あんな癖の強い英語は俺には合わない」と言うと「私にはマーマイトみたいに癖の強い英語は合わないんだけどね」と言って彼女が苦笑いを浮かべる
「マーマイトとハギスは俺にも合わんよ」と言って俺も笑うと何度目かわからないお馴染みの鐘が鳴る

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ユーラシア大陸縦横断旅63〜夜の情報戦〜

彼女は寝息を立てて夢の中にいる深夜1時、妙なプレッシャーから目が覚めてしまう
「彼女は寝てるし、今の内にやっちゃおうか」そう呟き、東京の電車のダイヤを調べ、目的地別に纏めて確実なルートを割り出し、イレギュラーにも備えてプランを幾つも用意する
「さあさ皆で歌おう俺達の歌を〜♪
(オイオイオイ!)
進め進め〜♪次のステージへ〜♪愛しの君と〜なら〜♪困難には負けない〜♪
百戦錬磨の知識、引き出す時〜♪あの子と2人武蔵巡るぞ〜♪
華麗に魅せろ俺流を〜東京生まれのプライドと積み重ねた知識〜♪今だ、纏めておけ〜♪
門司より遠く〜離れた東京〜俺の故郷が〜君の味方だ〜♪さあエスコートするぜ〜♪俺の出番だ〜♪
それゆ〜け弾けるLiebe♪使え〜よ閃くルート♪知識をうまく使って彼女を笑顔に〜♪
沸き立つ思い、君への愛は〜♪もう、止まらない〜永久不滅さ〜♪
この俺を虜にする君をいつまでもそういつまでも〜この想い共に抱き〜我ら支え合うのさ〜♪
関門海峡超えて届くこの想い〜♪
奏でよう俺ら2人で末永く愛を紡ごう〜♪
静かに〜されど熱く〜胸に秘めた想いは〜♪東京(ふるさと)で花となり〜いつまでも咲き誇る〜♪」かつて、想い人に会えなくてつらい思いをしていた頃、耐えきれない寂しさから俺が好きなプロ野球チームの選手個人応援歌の替え歌をしていた時期がある
当時作った替え歌とそれを即興でアレンジして歌いながらスマホで今後の予定を練り、気付いたら3時を告げる鐘が大英帝国繁栄を象徴する議会のある方から鳴り出す
「これだけやっとけば、多分何とかなるな。よし、これで寝られるな」そう呟き、もう一度眠りに付く

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ユーラシア大陸縦横断旅62

部屋に戻ってゆっくりしていると、幼馴染予約してくれた航空券のデータがLINEで送られて来る
彼女にも送られた航空券のデータを見せる
「成田行きだね。私のは羽田行きなのに…私、関東はほとんど行ったことないから分からないんだけど、成田と羽田って遠いの?」と返ってきた
そこから、関東トークが始まる
「俺は九州行ったことねぇから細けえことは分かんねえけど、強いて言うんなら羽田が北九州、成田は福岡空港みたいな感じかなぁ…まあ空港と市街地の距離は福岡が異常に近いんだけどね」と答える
「東京と成田空港ってどのくらい離れてるの?」「分かりやすく言えば下関〜博多と同じくらい」そう答えると「えっ?思ったより遠い」と言って絶句している
「そりゃ利根川のすぐ近くだからね」と言って苦笑いを浮かべる
「利根川って遠いの?」と返ってきた
「江戸時代までは近かったよ。でも、東北からの東周り航路だと今の千葉県にある銚子という町の沖からは黒潮に逆らって船を漕がないといけない関係で危なくなるので、銚子から江戸まで安全に船を進められるように付け替えたからめちゃくちゃ遠くなったんだ。九州で例えると小倉から唐津くらいの距離になってるんだ」と言うと「多摩川は?貴方の地元から近いの?」という質問になり、話題が変わる
「俺の地元からは少し離れてるけど、池袋以外のターミナルからは基本電車一本で多摩川に行けるし、羽田空港はその河口の埋め立て地にあるんだ。それに、君が好きな土方歳三の故郷を流れる浅川は新田義貞の古戦場がある関戸の辺りで多摩川にぶつかるんだ。」「私にとっては夢みたいな川だなぁ」「江戸時代に多摩川から水を引くために作られた水路のおかげで武蔵野が潤い、明治の頃に浄水場ができて、その跡地が故郷のランドマークになったんだ。それに、割合こそ減ったものの多摩川は今でも都民の喉を潤す水道水に活用されているから東京で生まれ育った俺にとってみれば自分のルーツの一つを形作る大切な川さ。まさか、関門海峡や不破関、丹那や箱根の山、馬入川と並んで俺達を隔てていた物の象徴の多摩川が俺達を繫ぐ象徴になるとはなぁ…」そう言って物思いに耽っていると、彼女が不安そうに訊いてくる
「私達は離れててもずっと一緒だよね?」という質問には即答で「勿論、ずっと一緒さ。君に嫌われない限り、ね。」返す
ブリテンの都の夜はこれから更ける

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ユーラシア大陸縦横断旅61

「次はどこ行く?」そう彼女に問いかけると
「市内をタクシーで見たい」と返ってきた
疲れていたので市内巡りでいいと言われて安堵し、恋人繋ぎで来た道を戻り、パディントンからタクシーに乗り込む
俺はイギリスの中流階級の話し方に日本語の発音を混ぜたような英語で、運転手は訛りの抑えた北部イングランド方言の英語で雑談をしていると、「日本からの観光客なんだろ?なら、日本の歌かけてやるよ。歌詞の意味は分からないけど、イギリスを歌ってるみたいだから分かったら歌詞の意味教えてくれよ」と言われたので実際にかけてもらうと、聞き覚えのある曲が流れてきた
そう、俺が昨夜寝言で歌った曲の原曲だった
「ビッグベンの前を左折して川沿いに行き、ロンドン橋を渡って川の南岸を通ってウォータールーに向かってください。ブラックフェアーズ辺りで今の曲をもう一度再生してください。そうすると、時間を計算するとタワーブリッジが見えて来る頃には夕暮れ時なので文字通りの歌詞の風景が見えますよ」と告げると「間奏の後のユーロスターってのはどういう意味で言ってるんだい?」と返ってきた
「『風を切り走るユーロスターみたいに、向かい風も気にせずに走り続ける』、つまり困難には負けずに進み続けるということを歌の中で宣言しているのです」と答えて再び話していると「Look at your bird (Birdとはイギリスのスラングで女という意味。つまり、『君の彼女を見ろ』)」と言われたので振り返って彼女に声をかけると明らかに不機嫌そうな表情で「私って頼りないの?」とだけ返ってきた
「俺の思い出の場所と関東では俺がエスコートするから、俺が不慣れな場所では代わりにお願いできるかな?」と訊くと「その時は任せてよ」と言ってそれまでとは打って変わって笑顔になってくれた
歌の歌詞通り、夕暮れのロンドンに佇むタワーブリッジと彼女の笑顔を見て、後に俺が大好きになるチームで活躍したが新しい応援歌ができてすぐに移籍した選手の幻の応援歌の歌詞を思い浮かべるのだった

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ユーラシア大陸縦横断旅60

地下鉄で40分、思い出の駅に着いた
「「この駅舎、この改札口、懐かしいなぁ…俺(僕)たち、ここで東北の震災の影響で延びた卒園式以来5年ぶりの再会を果たしたんだ(よ)」」「君は震災の後、すぐ向こうの国に逃げ込んだんだよね?」「そうなんだよ。向こうではそもそも地震がないから親戚が不安になってしまうし、放射線の問題が云々で大人の話に振り回されて大変だったよ。父方の親戚がいる名古屋に行って安否確認を取り、その翌日にセントレアから飛び立ったんだ。安全が確認されて羽田空港に降り立った後、モノレールから東京タワーの先が斜めになったのを見て泣いたのは覚えてる。当時は幼稚園出たばかりの子供で俺達は何もできなかったけど、大人達が日本全体で頑張ってくれたから新幹線はやぶさも、スカイツリーもできたんだ。」「そうだね。僕はスカイツリーが完成する直前にイギリスに引っ越したから完成形は帰国してから見たんだ」同じ幼稚園で親友となり、震災と親の仕事で引き割かれたものの英国で再会し、友情を取り戻した男2人でしみじみとしていると「私って場違いみたいだね」と彼女が泣きそうになる
即座にそれを否定し、「そんなことないさ!ここは俺とコイツにとって、いや俺やコイツの家族にとっても大切な思い出の場所なんだ。だから、これから俺の家族になる君にも見ておいて貰いたかったんだ。」と俺が言うと、彼も一緒になって続きを言う「「ここで一緒になった後、また離れ離れになっても再会した時は今まで以上に仲良くなれる。ここはそんな場所なんだ。」」彼女が俺に抱き付き、「2人ともいつも通りだね」と幼馴染が呆れたように言うと「俺たちの幼少期と変わらんよ。友愛の精神で男同士仲良いか好きな異性と結ばれたのかの違いだけさ」と高らかに笑い返し、そのまま駅のコインロッカーから荷物を取り出し、ヒースローエクスプレスで空港に向かう
「君は3ター、彼女さんは僕と同じ2ターだね。今度は同窓会で会おうか」「そうだな。体には気をつけろよ。俺達兄弟の思い出が詰まった街は美しいから堪能して来い!チャリ専用の道に落ちるなよ」と言うと「チャリ専用の道?まさかあんな所に落っこったことあんの?酔っ払ってたの?」と笑われた
「そこかよ!次会う時もまた笑顔で、な」と言って握手し、「今度はオレンジ門で会おう」「そうしようか」と言ってお互いの道を進む

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ユーラシア大陸縦横断旅59

午後10時40分、グラスゴー発ロンドンユーストン行き最終電車は終着駅に滑り込む
「バスは最終便出ちゃったか…」幼馴染が腕時計を見てそう呟く
「なら、Northern-LineでBank経由はどうだ?」そう問いかけると「何でも良いから早いルート使おう。眠いよ」と彼女が口を挟む
「幼い頃に俺を育ててくれた親の苦労が今になればよく分かるぜ」と苦笑いを浮かべると「歳の差が大きな弟妹がいるとよくあることさ。」と言って幼馴染も笑っている
地下鉄を活用し、日付が変わる前に宿に戻る
「明日は市内観光で良いと思うんだが、どうだ?」そう尋ねると「僕は午後の飛行機でヒースローからコペンハーゲンに発つからそれで良いよ」と返って来る
「なら、俺たちが再会したあの駅行こうぜ」と提案する
彼女も乗り気のようで頷いたが、すぐに睡魔に負けたらしく俺の腕の中で眠ってしまった
「寝かしてくるよ。また、明日な。おやすみ」と告げて部屋に戻る
彼女はスヤスヤと眠っており、俺も眠くなる
「何か硬いけど、どうせすぐ寝るし良いかな」と言って明かりを消し、眠りに付く
日の出の頃に起きて、とんでも無いことに気がつく
朝起きたら彼女が着替えを取り出しやすいようにと思って上げたはずのスーツケースを俺が枕にして寝ていたのだ
俺が目覚めたのを見て、彼女は苦笑いを浮かべる
「この間のお返しね。寝顔と寝言録ったよ」と言って今まで見たことのない輝きを放つ笑顔を浮かべている
「え?」「はい、これ。『男の嗜みとは〜♪嫁さんとのTea break。飯田橋のお堀に咲く花〜♪みたいだろ〜♪』って、これ昔のアニメのキャラソンだよね?原曲ではイギリスのこと歌うのに替え歌して東京のこと歌ったよね」と言って笑ってる
「君のことも歌ったんだけどね」と言って笑うとお互い顔を真っ赤にする
「お二人さん、起きたかい?」と言って幼馴染が呼びに来る
「あの駅行くなら、時間かかるからそろそろ行くよ」と言われた
当時を彷彿とさせる服で思い出の場所へ向け、部屋に鍵をかける
「「待ってろよ。僕(俺)達の思い出の駅!」」そう叫び俺たちはウォータールーの地下鉄駅を目指し、幼稚園の駆けっこを彷彿とさせる走りでロンドンの大通りを駆け抜ける

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ユーラシア大陸縦横断旅58

ロンドン・ユーストン行き最終の特急はイングランド西海岸の田園地帯を南下する
この地方有数の都市、ランカスターを過ぎると車内が騒がしくなる
何事かと思い、幼馴染に見て来て貰ったが、「馴染みのない言語が飛び交っていてよく分からないけど、アジア系の人達が騒いでるというのは分かったよ。」と返ってきた
厭な予感がしたので「ペンと紙、貸してくれないか?最悪の事態になるかもしれないと言う不安があるんだ。それを確かめて来る」と言うと彼は何かを察した様で「可能性は否定できないってことか。行って来な。」と言って筆記用具だけでなく、モバイルバッテリーと充電コードもくれた
「ありがとう。俺、やって来るよ。必ず戻るけん、ちょいと待ってな」そう言って騒ぎになっている場所へ行った
すると、予想通り広東語が飛び交っている
そして、中の人達に割って入る形で漢字を使い、筆談を始める
要約すると、「政治上の問題があり、香港空港に飛行機が入れない。いつまでこの状況が続くか分からない」とのことだ
そして、幼馴染が声をかける
「最悪だ」と言うと「ニュースで知ったよ。でも、大丈夫。全額払い戻しが効くってさ」と言ってくれた
「何のマイレージ持ってるの?」と訊く
「キャセイとスタアラなら持って来てる」と返す
「ブリティッシュ直行で帰れるよ。」と言ってくれたが、当初の予定は変えられずミュンヘン乗り継ぎにして帰る決断をする
幼馴染は頷くが、彼女は不思議そうだ
「確かに、ドイツ経由だと料金は高くなるし、遠回りさ。でも、俺は福岡へ行きたいんだ。帰国したら、俺は大好きな君とはまた会えなくなる。それだったら、また会えなくなる前に君の故郷を見ておきたいんだ」と切り出す
「今まで言えなかったんだけど、私は羽田経由で帰ることになってるんよ。私も貴方と気持ちは同じ。だけど、私は九州だから気軽に東京に行けない。それなら、次はいつ行けるか分からない東京で思い出を作ってから帰りたいの」と返ってくる
「分かった。俺も羽田直行で帰るよ。東京を発つ時間教えてくれたらそれに合わせて周れる場所探すよ」と言うと彼女は笑顔になり、幼馴染も安心した様な表情で「これで仲良く帰れるね」と言っている
列車はゴルフの町、ワトフォードを過ぎたので間も無く思い出の街、愛しの都、ビッグベンのお膝元人によって呼び方が様々あるロンドンに着く

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ユーラシア大陸縦横断旅57

定刻通り、バロー・イン・ファーネスに着く
「想像以上の長旅だったね。まぁこれまでの寝台列車の旅ほどじゃないけど」そう彼女が言うと、「俺の地元から君の地元行くならこれと同じくらいの時間がかかるんだ。これくらいの時間で音を上げてたら君と一緒にはなれないよ」そう言って笑う
そして、俺は彼女と町を一望できる場所に向かう
「懐かしさを感じるな」そう呟くと「えっ?この街、初めてなんだよね?」「ここ自体は初めてさ。でも、陸地のすぐそばまで深い海が来ている港町は行ったことがあるんだ。まさに横浜さ。って、関東の話なんかしても分からないよね」そう言って笑うと、「横浜って行ったことないんだ。教えてくれる?」と言って上目遣いをしてくる
「まさかイギリスまで来て横浜の話するとは思ってなかった」と言って苦笑いを浮かべながら頭を掻くと「お二人さん、邪魔しちゃったかな?」と幼馴染達が声をかける
「「そんなことないさ(よ)。やっぱり、2人ともお似合いだな(ね)」」そう返すと「君達もね。そうだ!そろそろ市街地に戻らないとマンチェスター行きの列車に乗るハメになるよ」と返ってくる
彼女が「グラスゴーから飛行機はどう?」と訊くので「財布が京急だから無理」と言って笑顔で返す「「関東の鉄道ファンにしか通じない言い回ししてどうすんだ(の)よ。まあ、君らしいけどね」」と幼馴染達が呆れた様に笑う
「俺らしい、か…確か、君にアプローチした時管制用語ゴリゴリに使ったことあったよね」「ダイバートは許可しないけどね」と思い出した様に笑い出す
水平線の向こうに金色の太陽が沈み、それを見届けてすぐに中心街へ戻る

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ユーラシア大陸縦横断旅56

列車はランカスター駅3番線を出る
「そう言えば、2人とも例のマラソン大会のボランティアやったんだっけ?」そんな幼馴染の質問にまず、俺が答える
「やったよ。ゴール地点でね。俺、入る所間違えたせいで待ち合わせ時間に間に合わなくなってめちゃくちゃ恥ずかしかったなぁ」「確かに、30分も遅刻して来てたね。もしかして、交通整理かかって近道使えなかったの?」「地元なのに間違えることあるの?」そんな女性陣の質問連発にタジタジになっていると、幼馴染が間に入り、話題を変える
「もう過去のことなんだし、そんなに質問責めにしなくてもいいんじゃない?とりあえず、この先の予定確認しようか」「そうだな。帰りの関係上滞在時間が3時間になるんだが、予定としては港の向こう岸に向かうことになってる」そう言うと「ただ、問題は帰りだね。」と幼馴染が言う
「「「どういうこと(だ)?」」」俺達の質問に対して幼馴染はスマホの画面を見せて「君はリバプールのホテルに泊まってるんだろ?でも、僕達3人はロンドンの宿に泊ってるんだ」と言う
即座に俺が「そういうことか!」と反応する
「流石は鉄道ファンだ。そう、僕らが帰りに乗るロンドン行きの列車はリバプールを迂回するように走るんだよ」「じゃあ、どうするの?」今度は俺の彼女が質問する「選択肢は2通りさ。一つは、ウォリントンで乗り換えて1本。あるいは、俺達が乗るロンドン行きの次の便がマンチェスター行きで、それに終点まで乗ればウォリントンで乗り換えるのと同じ列車に乗り換えができるんだ」と俺が答える
「よく言ってくれた。それが言いたかったことなんだ」と幼馴染が感心したように言う
「感心してる場合か?ポイント渡ったってことはもう到着じゃないか?」と訊くと「あっ時間的にそうだね」と言って慌て出す
「「「しっかりして(くれ)よ!」」」と言いながら荷物を纏めて降りる
バスを乗り継いでいると、途中で青森の深浦を彷彿とさせる海岸線に出る
予報では雨のはずが、アイリッシュ海上空をダブリンに向けて虹が対岸を繋ごうとしている

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ユーラシア大陸縦横断旅55

8時30分、ロンドン・ユーストン駅13番線からAvanti-West Coast線グラスゴー中央駅行きの特急が定刻通り発車する
「これからどのくらいかかるんだ?」「5時間。博多行くもんだと思えば良いさ」「本当に感覚で言えば福岡行くのと同じだな」そんな風に談笑していると、俺ではなく幼馴染に向かって「久しぶりだね」と日本語が飛んできた
話を聞いていると、幼馴染と仲良さそうに話す若い女性は中学時代の同級生、そして周りの男衆はその知り合いのようだ
「お前、もしやストライクか?」「中学の英語キャンプ以来じゃん!皆久しぶりだな」「それだけじゃないだろ。ほら、中3夏のコンテスト」「あっ!確かにあの時各校の名前背負ってたけど皆いたな」「やっと思い出したか」「忘れててごめん」
幼馴染は同級生と、俺は2泊3日苦楽を共にした4人の友と話していると、膝枕で寝ていた彼女が起きて「騒がしいけど何かあったの?」と訊いてくる
「起こしちゃったよね。すまない。別に騒ぐほどのことじゃないさ」と返す
そして、俺の彼女も交えて談笑して30分が経つ
「そろそろウォリントンだな。俺達4人はここで降りるんだ。またあの時の皆で集まろうぜ。グループ入れてやるよ。」そう言って西中のリーダーが画面を差し出す
「ありがとう。また地元で会おう」
そう言って4人とは別れる
「これで俺達3人の旅は再開だな」「いや、4人だよ。紹介が遅れたね。こちら、僕の彼女さ。というか、中1の時のキャンプで同じグループだったそうだから君は知ってるよね」「当時はネイティブ講師と意気投合してたんだよなぁ」「レクでイギリスからアメリカのブースに行った時『Are we immigrants?』って質問したよね。中1で歴史を絡めたあの台詞言ったのは凄いと今になれば思うよ。あと、書き取りゲームでネイティブ受けが良い単語だけ選んでたよね」「オージー相手の時はそうだったね。俺、母さんの母国以外で初めて訪れたのがシドニーだったんだ。シドニー行った当時は動物が好きで、タロンガ動物園で見た動物を片っ端から書き出してただけさ。スポーツだって、俺はサッカーのつもりでFootballって書いたらオージーに誤解されそうになってBritish-Footballって言ったのさ」
思い出話をする2人とそれを聞いて驚く2人を乗せ列車は北上を続ける

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ユーラシア大陸縦横断旅54

朝霧に包まれたロンドン、ウェストミンスターから朝6時を告げる鐘が鳴り響く
各自着替えを事前に済ませ、手荷物を持ったまま一階に降りて朝食を取る
「イギリスの朝と言えばBangers&mash だと思ったんだけど、流石に重かったかなぁ」
「Bangers&cheeseが朝のメインかなぁ…Mash は昼とか夕方のイメージだね」「それ、先に言ってよ」「やっぱり2人とも訳わかんないこと言ってる」そんなやり取りをしていると、待っていたダブルデッカーバスが来た
「方角的に左がウェストミンスターだね」「あと、トラファルガー広場もな」「トラファルガーって、ナポレオン戦争でフランスを破った海戦の勝利記念広場?」「そうだよ。懐かしいなぁ…初めてその広場行った時、俺は前日の香港からの乗り継ぎ便の座席ポケットに帽子しまって置き忘れたから母さんの帽子借りて写真撮ったんだ。」「なるほどね。だから、あの時帽子好きの君が帽子被ってなかったんだね」「実はそうなんだよ」俺達は思い出に浸る
「忘れっぽい所があるのは意外ね。まぁ完璧志向なのにそう言う抜けてる所があるのも人間味があって好きなんだけどね」そう言って彼女が笑ってる
「あっ…もうそろそろだね」「そうだな。右にキングスクロスってある看板見えたから」
「駅名言われても私にはさっぱり分かんないや」
「俺の脳内地図がダメになった時に備えて頭の中に地図くらい入れといてくれよ。まあ、そうやって抜けてる所があるから俺の彼女は可愛いんだよなぁ」「「あなた(君)が完璧を求め過ぎるだけや(だ)ろ」」「マンナル湾は必要ないっての」「「正論とセイロン島を掛けるんじゃない!」」
辛辣なツッコミが入ると同時にチューブの駅が見えた「Euston…ここなんでしょ?」「そうさ。僕が発券するから、荷物持っといて」「任せとけ」
三者三様の台詞を放ち、新宿の南口やソウルの龍山を彷彿とさせる見た目の駅舎に入る
そして、ウェストミンスターから7時の鐘が鳴る

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ユーラシア大陸縦横断旅53

宴の後片付けも済んだ午後11時、幼馴染に質問を飛ばす
「明日はどこ行く?」「そっちは行きたい所ないの?」「バローなんだけど」「北イングランドにある造船の町かい?」「そうそう。あの町は日本を守った軍艦の故郷なんだ」「その軍艦に乗っていた司令官の孫弟子を自称する君なら行きたいと言うだろうね。」「孫弟子?確かに言われてみればそうだ」
そうやって男2人、談笑していると彼女が口を挟む
「私、行き方分からないんだけど」「EustonからLancaster経由だろ?」
そう言って確認を取る「そうそう。ただ、往復に時間かかるよ」「まぁ仕方ないさ。マージー川越えて北上しなきゃいけないし、それでいてあの町空港無いし」「ロンドン行きの国内線が飛んでる最寄りの空港、マンチェスターなんだよね…」「そうそう。ランカスターには空港無いし、マン島やベルファストまで行けば確実なんだろうけど、生憎そのどちらにも船出てないしな」そこまで男2人が話の主導権握っていると彼女は「地図が頭ん中ないからさっぱり分からん」と言って頭を抱える
それを見て「嘘だろ…」と言って俺も頭を抱える
「確かに、君は地図と国旗が昔から好きで何度も見ちゃう何となく頭の中入っちゃってるからなぁ」と言って幼馴染が笑う
「昔は鉄道が好きで、そこから派生して地図と歴史が好きになったんだ。昼は一緒に地図を見ながら、あるいは実際に街歩きをてそこに載ってる土地の歴史の話を楽しみ、夕焼けを2人で眺めて夜は2人で夜景を堪能する。それが俺の理想のデートなんだよなぁ」昔を懐かしむように言うと、「それ、付いていける人少ないよ」と幼馴染が苦笑いを浮かべ、「レベルはかなり高いけど、上手くやっていけるの私しかいないね」と言って彼女も苦笑いだ
「そうそう。君しかいないんだよ。」と言って頷く
「そう言えば明日は早いし、そろそろ寝た方が良いんじゃない?明日の列車8時半だからね。先に寝るよ。おやすみ」そう言って幼馴染は自室へ戻る
「窓開けて換気したら寝ようか」そう言って窓を開けると窓の外に霧の向こうに満月が浮かぶ。感慨深くなっていると、思い出と今を繋ぐ鐘が日付が変わったことを告げる

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ユーラシア大陸縦横断旅52

「えっ…嘘だろ…」「どうしたの?」「俺んとこの部屋,番号見たらあの時と同じだ。」「「そんなことってある(の)?」」チェックインを終えて部屋に向かうLiftでそんな話をする
「僕は隣なんで。お二人さん、楽しんでね。」「言い忘れてたけど、夕飯のアレにはビネガー付けるのがイギリス流だけど、あの店でTakeawayするとビネガー付いてこねえよ」「I know that ,mate !」
そう言って幼馴染が早速買い出しに向かう
「アレって何なの?」「それは後でのお楽しみな。俺の大好物でもあるんだけどね。小2の夏休みに韓国以外の国に初めて行った時に食べたんだ。忘れやしない,7月26日の現地の波止場で、サーキューラーキーの屋台で買って、そのまま波止場の対岸にかかる橋を見ながら潮風を浴びながら食べて虜になったんだ。」「もしかして、韓国以外の初海外ってオーストラリア?」「そうさ。NSW」「そのイニシャルで東京から行けるのはシドニー、となると答えはFish & chips しかないやん」「バレたか」「というか、イギリスじゃお酢かけるの?」「ビネガーガツンとかけると、さっぱりして美味しいんだよ?」「自称紳士球団が好きな自称紳士による自称紳士本家の食文化講座w」「分かりづれえ!って言うか自称紳士は独り身で変な方言使って威張ってる。それでいて女性の扱いが雑。じゃあ、俺は?」「ごめんなさい。前言撤回します」「それでよろしい」そんなやり取りをしていると、もう一度ビッグベンの鐘が聞こえる「昔は下の道路を車の音で聞こえなかったのに、今は聞こえるのか…変わったなぁ」「私への思いは?」「永久不滅で一筋貫く」そう談笑していると、呼び鈴が鳴る「来たな。紅茶も淹れるか」「本当のティーパーティ」「待たせたね。サイダーもあるよ」「待っちゃいないさ。って言うかこのサイダーって酒じゃん!俺酒飲んだことないけど…さあ、始めるか!」「黒田節にあるけん、飲んじゃえ!」「「黒田節?何だそれ?」」「代わりに東京音頭で!ハァ〜踊り踊るな〜ら、チョイと東京音頭〜♪ヨイヨイ!」」「東京音頭やめてw」「「素面で始められるの凄い」」
どんちゃん騒ぎから始まったロンドンの夜の宴はまだまだ一回表、始まったばかりだ

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ユーラシア大陸縦横断旅51

荷物を持ってホテルまでテムズ川沿いを歩く
(良い子は真似しないでね。肩とか腕が痺れるよ)
「Southwarkって、実はこの辺まで広がってるんだよ。」「Waterloo-Roadから右側一帯だろ?広いな」「Waterlooってベルギーに有るよね?」「一時期国際問題になったからその話はNG」「「国際問題って?」」「ナポレオンとユーロスター…」「そっか!ユーロスターはSPの前はウォータールー始発だったね。確かに、『我が国の英雄、ナポレオンが負けた所の地名が付いた駅から我が国へ向かう列車を出すなんて我々フランス国民に対する侮辱だ』と言ってフランスで問題になってたな。」「そんなことあったの?私、聞いたことないよ」「「僕(俺)が3歳になる頃までの話だったからね(な)」」
歩きながらそんな会話をしていると、目の前に思い出のアレが見えた
「ロンドンアイが見えたということはもう近いね」
「I’m back,Waterloo!!Thanks for waiting for me! 」
「そうだったね。君が初めてこの街に来た時に滞在したエリアはここだったね。」「そうなんだよ!全く、太平洋戦争でルソンから追い出されてレイテ島に上陸したマッカーサーの気分だぜ」「どうせ言うんでしょ?『I shall return 』ってね」「お前にはお見通しだな」「そりゃそうでしょ。3歳の頃からの付き合いなんだし。ガキの頃には迷惑かけちゃったけど、まぁロンドンへ会いに行って高校で再会した時のアレでチャラかな?」「君がいうセリフではないさ」「まぁ俺ら,弟よりも付き合い長いし兄弟みたいなものだな」そう言って男2人語り合う
彼女は「男同士で仲良いなぁ」と呟く
「まぁ俺達だって会えない時はあった。それを経てより一層仲良くなれてんだ。そう言う意味では、俺も君ともっと仲良くなれるさ。そうでもなきゃ生涯バッテリーなんて組もうと思わんよ」「お二人さん、そろそろ着くよ。夕飯は僕の奢りね」「じゃあ、久しぶりにアレ食おうや」「君が虜になったアレね。Take awayで良いよね?」「勿論。俺達の部屋で3人で食おうか」「賛成」
話し合った後でチェックインを済ませる
「懐かしいな。内装も当時のままだ」「弟妹達もまだ幼くてここまで会いに行けなかったんだよなぁ」最後まで幼馴染コンビの思い出話は続く

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ユーラシア大陸縦横断旅50

彼女は移動続きで疲れたのか俺の膝を枕に寝息を立てている
「この列車はビクトリア行きだけど、London-Bridge停まるよ」「マジかよ…そこ通過すると思ったのになぁ。予定変更だな」
そんなやり取りをしてからおよそ30分、「予定変更だよ。次で降りるから起きな」と言って彼女を起こす
彼女は「もう終点なの?まだ寝たいよ〜」と眼を擦りながら甘えてくる
「さあ、着いたよ。London Bridgeさ」そう幼馴染が言うと「え?終点じゃないやん。なんでこんなとこで降りるの?」と彼女が噛み付く
「それについては、君が好きで止まない大切な彼氏君から説明があるよ。」と言って押し付ける
「まあ良いや。ここは川南岸、つまりロンドンの街で言うと今回泊まる宿があるサイドでここから地下鉄に乗れば乗り換えなしだけど、列車の終点は川の対岸にあって、そこから宿の最寄りまで行くと地下鉄は乗り換えが必要になって時間の無駄。それに、終点のビクトリアはかなり大きくて構造が複雑で久しぶりに訪れる俺が正確に進める自信がない。だから、ここで降りたのさ。」と言って答える
「どうやってその答えに行き着いたの?」と訊いてくる
まだ彼女は俺の思考回路が分かっていないようだ
「普通に地下鉄の路線図見ただけだよ?大抵の街は地下鉄の路線図を見て、ある駅に乗り入れる路線数とターミナル駅の位置が分かれば街の位置関係や規模は分かりやすいよ。あっ今回はロンドンという、一度訪れた街で当時と路線が変わっていないということも関係してるかなぁ…今度初めて行く福岡はまだよく分からないけど」と答えると「首都圏でも行き方が分からない場所があれば最寄駅の名前さえ言えば彼が脳内の路線図で行き方を探してくれるんだよ。彼、東京近辺の鉄道は全て路線図が頭の中入ってるんだ」と言って幼馴染が頼もしそうに話す
「房総や北関東のローカル線は知らないけどな。まあでも、地下鉄の路線図なら東京、横浜以外にも台北と高雄くらいなら分かるよ」と言うと彼女が「凄い!惚れ直しちゃうよ」と言ってはしゃいでいる
「惚れ直してくれるのは彼氏として嬉しいんだけど…」「もしかして、僕と考えてること,同じかな?」「そうかもな。海外行くなら旅先のこともう少し知っておいた方が良い」「僕もそう思う」
男2人でそんなやり取りをしていると,川向こうのビッグベンから鐘が鳴り響く

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ユーラシア大陸縦横断旅49

ドーバー港で入国審査を終え、幼馴染と合流し、駅まで行くバスに乗り込む
彼女が「エスコート、ちゃんとしてや〜」と上目遣いで言ってくる
「任しとけ。と言いたいんだけど、生憎頭の中のロンドンの地図は小6の時のヤツだからアップデートしないとな」と言って笑うと、「記憶力が良い君のことだから、流石にチューブの乗り方は覚えてるんでしょ?こいつは僕の奢りさ」と言って幼馴染が2枚のオイスターカードを手渡す「わざわざありがとう。乗り方は覚えてるよ。でも、路線図は確認のためにもう一度見ないといけないけどな。まぁでも、列車の終点がビクトリアだから乗り換えはEmbankmentかな」と返す
「チューブって?」と彼女が訊く
幼馴染は絶句していたが、俺は苦笑いを浮かべて「ロンドンの地下鉄のことさ。車体を前から見るとかまぼこ型で、イギリスの人はチューブに見えると言ってそう名付けたんだよ」と返す
「Dover Priory Stationか…着いたぜ。I’m back, our mate, the UK. I shall return,London.Please wait for us for a few hours.」「お二人さん、あまり見せつけないでくれよ?」「憧れの街を好きな人と一緒に廻るの、楽しみだなぁ」とそれぞれ三者三様のセリフを残して目の前に入線してきた特急に乗り込み、ニューカッスル、ニューヘブンと並ぶ英国第三の海の玄関口を後にする

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ユーラシア大陸縦横断旅48

シェンゲン協定加盟国のフランスと非加盟国のイギリスの間を往来するなら国境チェックを受けなくてはならない
だから、パスポートには船のイラストと外に出る矢印、そしてDunkerqueと書かれたスタンプが押された
それを見て、「シェンゲン協定圏ともお別れだな。Dankeschön,Europe.Auf Widersinn.」ドイツ語混じりに呟くと彼女も出国審査を終えて出てきた
「ここの砂浜、ダンケルクっていう題名の映画で見たことあるかも」と言ってる
「そりゃそうでしょ。ここ、第二次大戦の古戦場でその映画の元ネタの戦いが起きた街だもん。」と返す
しばらくして、ボーディングが始まる
内装の豪華さのあまり「山下公園から出るクルーズかよ」と思わず言ってしまう
「山下公園?どこそれ?台湾?」と想像の斜め上の質問が彼女から飛んできた
「台湾じゃなくて横浜ね。質問がまるで川上さん顔負けのエグいカットボールだな」と苦笑いを浮かべながら甲板に向かうと、上で「野球経験者ですか?」といきなり日本語で質問される
「プレー経験はほとんどなくてブランク長めですが、バリバリの巨人ファンです。」と答えると
「もしや、君はあの時の…」と返ってくる
そして、俺も相手が小学校時代の東北の姉妹校の同級生だと気付く
「そうさ。俺たちが小5の夏にホームステイでそちらにお世話になった、もう1人の男の子さ。アレから元気だったか?」「僕はいつでも元気さ。春は迷惑かけちゃったけど」「気にすんなよ。まぁスカイツリー行ったのはアレが最初で最後だったけど。そうだ、紹介するよ。俺の彼女で婚約者さ。」
近況報告とお互いの紹介が済むと「どうだい?バッテリー組んでみないかい?」と誘われる
「誘いはありがたいんだけど、俺、彼女と生涯バッテリーなんだよね」と言って断ると「メジャーかよ」と言って笑う
そうして談笑していると、彼女が「あれ見て、海面に夕陽と白い崖が反射して幻想的」と言って目の前に近づきつつある陸を指差しす
「そうだな。となると、そろそろドーバーだ。時間取らせちゃってすまない。また、東京で会おう」そう言ってさりげなくLINEのQRを差し出す
その画面には夕陽が反射して黄金に輝いていた
船が着岸すると同時にジャイアンツ勝利の一報が届き、最後まで笑顔が絶えない船旅だった

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ユーラシア大陸縦横断旅47

まるで韓国のKTXの鼻の部分を潰して平たくしたような顔の車両がガール・ドゥ・ノル10番線に20両編成で停まっている
カレー・ヴィル行きのTGVだ
「お二人さん、そっちは途中のダンケルクまでだけど僕は終点まで乗ることになってるのでよろしく」と幼馴染が声をかける
そして、4人がけのボックスに3人で座ると後の席の客の話し声であることに気付く
「これも運命か」と呟くと「運命?どう言うこと?」と訊かれたので「後ろの席の話し声、ロシア語だ。しかも、声の主からすると俺の元カノ4人組…絶対復縁迫ってくるだろうな」と答えると「池田屋かな?」と彼女がボケてくるので「それも、長州視点のね」と返し、様子を窺う
実際にその客が近くに来て元カノだったことが分かり、気付かれて復縁要請されたが、彼女に話を合わせてもらって福岡をはじめとした日本各地の方言を使い、俺は拙いロシア語で「俺は日本の田舎者で君たちが探している人じゃない」と言って無理矢理押し切った
「あんなのでよく乗り切ったね」と皮肉を込めて幼馴染が声をかけると「東京でもよく使われる相模弁とか多摩弁が自然と出ちゃってボロが出そうでめちゃくちゃ焦った」と返す
彼女からは「あんなの、思いつかん」と言われ、皆で笑っていた
それからおよそ20分、ダンケルクの港のすぐそばにある駅に着いた
俺たちは「ブリテンで会おうぜ」と決め台詞をかまして颯爽と降りる
かつて訪れたブルッヘやハンブルクを彷彿とさせる潮風が西から吹き抜ける

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ユーラシア大陸縦横断旅46

「ここ、パリだけじゃない。ベルリン、ロンドン、モスクワ、ウィーン、ベオグラード、ブダペスト…こうして見ると、どこもヨーロッパの都ってのは大河に沿って建てられているんだなぁ」昼間のセーヌを見て改めてそう呟くと
「東京も大河に沿っているんじゃないの?」と彼女が訊いてくる
「東京は大河に沿っているわけじゃないよ。大河と大河の間にあった低地と台地の間の町さ。元々江戸の頃に台地を削って入江や湿地を埋め立てて、城の堀とそれに続く水路を幾重にも張り巡らせて市街地を作ったんだ。台地に多いのが武家屋敷さ。ちなみに俺の故郷は御三家の一つ、尾張の屋敷の町だよ。でも、江戸の大衆は海を埋め立てた低地に住んでいたから井戸水は海水が混じって飲めなかった。生活の上で必要な水を多摩川から引っ張って来るために掘られたのが玉川上水で、新宿の近く、四谷の大木戸で江戸市中に入っていたんだ。」と解説すると「東京の歴史、まだまだ知らないから教えてね」と上目遣いで返して来る
敢えて少し屈んで目線を合わせ「なら、君のことももっと教えてくれよ」と返すとムードをぶち壊す一言がロンドンまで行動を共にする幼馴染から放たれる
「お二人さん、時計見て」言われた通りに時計を見て気付く
ユーロスターには間に合わないことに
「どうする?後続便乗るしかないのか?」と訊くと「後続便乗るくらいなら、到着時間は遅くなるけど安いフェリールート使いな。ダンケルクから行くか、カレー経由で行くか決めて。イギリス側の港は同じだから、僕は2人が選ばなかった方で行く。それでいいっしょ」と返ってきた
「じゃあ、ダンケルク経由にすっか?」「よかよ」と案外あっさり決まった
「ダンケルクなら、30分後だから今すぐ駅に行けば良いね。さぁ、行ってこい!」「ドーバーで会おう」そんなやり取りを経てパリ北駅へ急いで向かう

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ユーラシア大陸縦横断旅45

派手な演出をしたセーヌのクルージングを終えてホテルの部屋に戻ると、もう夜中の1時だ
疲れているはずなのに、未だに緊張して眠れない
涙で滲んだ夜景を眺めると勝手に言葉が出てくる
「明日ロンドンに着いたら4泊してすぐ香港から福岡だもんなぁ…それも福岡着いて2時間くらい時間が取れてれば何とかなるはずだろうけど、13時半頃福岡空港着で14時の新幹線で帰らないといけないからなぁ…これでまた昔みたいに想い人に会えなくて寂しい時を故郷で、東京で過ごさなきゃいけないのか…どうしようもねえや」そこまで言うと言葉が続かなくなり、いつから聞いていたのか彼女も泣きながら「私もお別れは寂しいよ。福岡〜東京って、すぐ行けるようですぐには行けないの。でも、滞在時間が短くても彼氏が福岡まで来てくれるだけで嬉しいなぁ…」とあたかも自分に言い聞かせるように言っている
「はかた号で空席あるかなぁ…って、あるじゃんか。ったく、金は飛ぶ〜飛ぶ〜夜行の予約で〜♪嗚呼、これ〜はひどい♪新幹線のキャンセル代よりも高いぜ夜行バス!さ〜すがに〜痛すぎる〜緊急の出費は〜勘弁して〜♪」と巨人の球団歌のワンフレーズを替え歌して自嘲気味に歌うと「闘魂こめて替え歌するとそんなことできるんだ〜」と言って彼女が笑う「まぁ闘魂こめて替え歌すれば都営三田線の駅名歌えるからな」と笑うとさっきまでの重い空気は吹っ飛んだ
話し込んでいると2区の方が明るくなってきた
もうすぐ日の出だ

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ユーラシア大陸縦横断旅44

ホテルにチェックインして、部屋で用意されていたスーツに着替え、セーヌ川のクルーズ船に乗り込む
「え?なんでこんなに大勢の人いるんだ?今日何か式典でもあるのか?」と幼馴染に訊くと「君の彼女さんの誕生日パーティーだよ。ただ、彼女さんのSNSを見た彼女さんの知人達がが昨日一斉にパリに押しかけちゃって調整が大変だったんだ。本当なら、僕は今日君たちとパリで合流したら荷物を預かって最終のユーロスターでロンドンへ先に戻る予定がお察しの通りさ」と言って苦笑いを浮かべていると前から
高校の同級生、中学の同級生、小学生時代に仲良かった仲間がこちらに来ていた
そればかりか幼稚園時代の仲間達もいた
彼女も知人達と大勢会ったらしく、「みんな来てくれたの?」と息を合わせて言ってしまった
「せっかくの誕生日でサプライズするなら、大規模にやった方が良いだろうと思ってね。彼女の知り合いしかいなくて肩身が狭いんじゃ彼氏は辛いと思ってね。シチュエーションならぴったりだ。バンクーバーの管制官みたいに、カッコよく決めちゃいな。そのために『愛の町、華の都』でやると決めて、モスクワで買い直したんでしょ?」という幼馴染からの返事が返って来た
「そうだな。こんな大規模にやって後で怒られても知らないけど」と言って笑い出す
そして,彼女の誕生日にという憧れのシチュエーションで行ったプロポーズは成功した
次の瞬間、俺がボタンを押したことでエッフェル塔の照明が代わり、日本語が浮かび上がる
「おめでとう」とだけ書いてあった
「これ、全部貴方がやってくれたの?」と彼女がはしゃぎながら訊いてくる
「全部じゃないさ。俺がやったのは指輪の買い替えとセーヌ川のクルージングの手配、そして最後のメインイベントの手配だけさ。彼達が細かいところの調整と費用の支払いをしてくれたんだ」そう言って幼馴染の肩に手を添える
彼は俺にアイコンタクトをして「Are you ready?」とマイクに向けて話し、「Un,deux,trois! 」とフランス語でカウントダウンをする
次の瞬間、色とりどりの花火が打ち上がる
「クールだけどロマンチックな所あるんだね」と彼女が笑い、「コイツはツンデレなだけさ。」と昔の俺を知る仲間達からツッコミが入り、誰もが同意して笑い出す
夜景と花火という光のアーチの下、船は進み続ける

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ユーラシア大陸縦横断旅43

「駅舎、赤レンガだね。」「そうだな。故郷の丸の内を思い出すよ。」「東京駅もかつての江戸城の堀として開削された水路に囲まれているんだったね」
そんなやり取りを経て、スキポール空港方面行きの電車に乗り込む
空港で搭乗手続きを済ませると、保安検査場を過ぎて目の前のゲートにエールフランス機が停まってる
チケットを見ると、なぜか2人ともビジネスクラスだ
「アイツ、こういう粋な計らいできるのは変わってないな」と言って笑う
離陸直後、彼女が「綺麗な夜景」と呟く
「そうだな。The Hage、つまりハーグだって」そう言っていると、気付いたらもうランス上空だ
フライトはあっという間に過ぎてターミナルに着いた
荷物を受け取って出ると、幼馴染が1組のアジア系のカップルと共に待っていた
お互いに簡単な自己紹介を済ませて車に荷物を放り込む
幼馴染曰く、そのカップルはアイツのロンドンの日本人学校時代のクラスメイトで2人とも九州出身だそうだ
彼女さんは俺の彼女と同じ福岡県出身ということで意気投合しているようだった
薩摩隼人の彼氏さんはハンドルを握りながら、「色々あったけど、アキラ(幼馴染の呼び名) からプラン聞いて、俺たちで埋め合わせたんだ。パリは初めてなんだろ?楽しめよ。」と言ってくれた
幼馴染に「そう言えば、ロンドンのホテルはどうしたの?連泊だったよな?」と訊くと「カレーにいた時に連絡したんだ。そしたら、パリの系列ホテルの予約取ってくれたんだ。だから、3人揃ってパリで一緒だね」と言って男3人で談笑していると、エッフェル塔がセーヌの向こうに見えた
「Привет, Париж 」と呟く
夜景は今日もパリを輝かせる

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ユーラシア大陸縦横断旅42

列車に乗り込んですぐ、「オルリーって何?スキポールって何?」と訊かれた
「オルリーっていうのは空港の名前さ。パリの空港はオルリーとシャルルド・ゴールの2ヶ所なんだよ。スキポールはオランダのアムステルダムにある空港のこと。さっきダメだって言われた手段はメインのシャルルド・ゴールから市街地へ行く時に使わなきゃ行けない手段なんだ」と答える
「え?オランダ?行ってみたかったんだ〜」と彼女はさっきと打って変わってかなりウキウキしている
そんな俺たちを横目に、列車はフランダースの大地を北上している
列車がメヘレンに着いた頃、幼馴染からLINEが届いた
「よっしゃ!来た!」と叫んでしまう
「来たって何が?」「航空券、取れたんだってさ」と言ったら彼女も「これで、パリに行けるんだよね?」と言って喜んでいる
だが、時刻表を見ると悲しい現実を突きつけられる「スキポール止まる電車はこちらが着いて10分後、その次は30分後、そのまた次だとフライトに間に合わない…またお預けか…」と言っていた
次の瞬間、悔し涙が頬を伝っているのが分かった
「お預けって…そうだったね…私のせいでごめん」とだけ言って黙ってしまった
「君のせいではないよ。ストのせいなんだよ」と言って彼女にも自分にも言い聞かせる
「楽しい話しようよ。って、また巨人勝ったよ」「勝ち投手は?菅野?」「勝ち投手大勢!チョーさんがサヨナラ打った」「巨人勝ったか!今2位か〜今年こそだな」いつもの俺たちに戻った
「もうスヘルデ川か…速いな」と言って驚いている間にオランダ入りをした
あと1時間ほどでアムステルダムだ
ロッテルダムに着いた頃、空港の地図が送られて来た
「アムステルダム滞在はお預けになってしまったけど、空から見えるロッテルダムの埠頭やランスの夜景を楽しんで。」というメッセージ付きだ
そして、列車は最後の停車駅、ユトレヒトに着いた
車窓を見ると、終点に近づくに連れて水路と家々が夕陽に照らされて金色に輝いている

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ユーラシア大陸縦横断旅41

アウデナルデを発ち、これからパリへ向かうべくブリュッセルへ戻る列車に乗り込む
ブリュッセル・ミディ駅からフランスの高速鉄道TGVでパリ北駅を目指すことになっていた
だが、列車は遅延しているのか発車時刻になっても列車は来ず、スマホが鳴り響く
電話に出るとあの幼馴染からだ
「聞こえてるかい?大変なことになってる!」そう言われたので咄嗟にスピーカーにする「どうした?手短に言ってくれないか?俺たち、まだブリュッセルにいて、これからtgv乗る予定なんだよ。」「僕は今、君たちを迎えに行くためにユーロスター乗ってたんだけど、トンネル抜けた先のカレーで足止め。仕方ないから他の手段でパリを目指そうとして調べたらストライキでどこも鉄道は動かないし、バスも動いてないことが分かったんだ。バリにいる友人曰く、メトロもダメだそうだ。彼がこれからカレーまで迎えに来てくれるそうなんで、こっちは待ってるんだよ」と衝撃の事実を伝えられる
「パリメトロもダメなのか?参ったな…」と言って考え込む
彼女が「飛行機はダメなの?」と訊いてきた「パリの空港から市街地へ行くにはタクシー、バス、メトロ、幹線鉄道の4通りの手段があるんだけど、今の話だと全滅なんだよなぁ」と答えて暫く考え込む
すると、幼馴染が「オルリーはどうかなぁ」と提案する
「オルリーか…ブリュッセルからはダメだから、スキポール発しかないよな?」と尋ねると、「そうだね。僕が取っておくよ。ただ、手配した会場の人達もストライキしちゃってるから予定通り開催できない。だから、確実にパリに来れるように手配しとく。チケット番号とかLINEで送るよ。」と言われてすぐに電話が切れた
「予定変更だ。アムステルダムに行こう」と彼女に声をかけ、目の前に来た北行のICに乗り込む

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ユーラシア大陸縦横断旅40

グランプラスの建物群の紺色屋根は朝日を受け水色になっている
今日は彼女の誕生日だ
サプライズパーティーの最終打ち合わせをしていると、彼女が起きて来た「おはよう。誕生日、おめでとう。今日もまた慌ただしくなっちゃうけど、できるだけ君のリクエスト聞いて君が行きたい場所は行けるようにするよ。でも、ゴールがパリだってことは忘れないでね」そう言うと、「行きたい場所?なら、イースタンフランダースにあるオーデナルドかなぁ」と返ってきた
「つまり、アウデナルデの古戦場かな?」そう確認すると「そうだよ。」と一言だけ返ってきた
「古戦場巡りってかなり個性的だなぁ。男の趣味だと思ってたよ」と言うと「だから、女子達には理解してもらえなくて秘密にしているの。でも、貴方が古戦場巡りに理解がある彼氏でよかった」と言われた
「もしかして、君がペテルブルグとモスクワ行ったのって…」と返すと、「お察しの通りよ。まあでも、私が好きなのはオイゲンとマールバラの2人なんだけど」と苦笑いだ
「マールバラとオイゲン、それってかつて俺たちの相性の良さを例えた時に出した2人じゃん」と言って俺も笑い出す
「それだけ貴方のことが好きで、昔のやり取りも覚えてるの。」と返された
「なら、アウデナルデやマルプラケはピッタリだね。昨日言ってたイープルの猫祭り開催までは1ヶ月あるけど」そんな話をしながら朝食を食べ終えると、チェックアウトの時間が迫ってきた
そしてすぐに駅へ向かい、中央駅のコインロッカーに荷物を預けて地下ホーム4番線から12:32発ICコルトレイク行きに乗り込む
暫くしてOudenaardeの駅名標が見えた
そう、この町にはオイゲンとマールバラ公という中世ヨーロッパの戦争を語る上で欠かせない2人の司令官が合流して戦い、宿敵を撃破する活躍を見せた古戦場がある
当時敵だったフランスの天才指揮官が不可能だと思っていた、この2人の麾下の兵による600キロも離れた地点からの合流に成功した情報を聞いて放った「悪魔が奴らを連れて来たに違いない」という名言を文字って、「オイゲン公が俺たちを連れて来たに違いない」と言うと彼女が即座に首を振って、こう訂正する「歴史が私達を繋いだに違いない」と
「確かにそうだな。」と返し、どちらともなく手を繋ぎ、古戦場のある丘に向け歩き出す

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ユーラシア大陸縦横断旅39

ケルンを出てからおよそ40分、ライン以西の平野を駆け抜けて最初の停車駅にしてドイツ最後の停車駅、アーヘン中央駅に着いた
「もうアーヘンか…次はリュッティヒ、そしてノルトだな…ノルトの次が目的地のセントラール…」と呟く俺と違って彼女は楽しそうだ
「ベルギー、楽しみだなぁ。ワッフルとか、色々甘いお菓子で有名なんだろうなぁ。アントワープとかブルージュの旧市街も良い。イープルでは猫祭りの時期だから猫耳付けて愛しの彼氏を惚れさせちゃおっかなぁ」と独り言を言っている
「全部聞こえてるぞ〜」と言うと2人揃って顔が赤くなる
そして、リエージュに着くまで沈黙が続く
「もうリュッティヒか」と言うと「リーゲじゃないの?」と訊かれた
「それを言うならリエージュだね。リュッティヒはドイツ語の名前さ。フランス語ではEの字の上に点があればその文字はエ段の音で発音する。逆に、点が無ければ発音しないよ。あと、リエージュと言えばワッフルだね。あのサクサクした感じのベルギーワッフルはリュッティヒのスタイルだね。反対に、丸くて焼き目が付いた柔らかいヤツはブリュッセルのスタイルさ」と返すと、「もっと知識がないと貴方は楽しくないのかなぁ」と言って俯く彼女に「君と一緒だと楽しいし幸せだよ。むしろ、君ほど意気投合できる女性とお付き合いしたことないから。大好きだよ」と返して彼女にキスをする
「これ、一塁だからな」と言ったらどちらともなく笑い出す
そうして2人だけの時間が過ぎると、Bruxelles Nord と書かれた駅に着いた
「そろそろ降りる支度しないとな。もうブリュッセル北だから次の駅で降りるよ」と告げる
そして、列車を降りて今夜の宿に向かう
「何か、色々あったな。」と言うと「そうだね。でも、明日はパリで過ごすの、楽しみだなぁ」と返ってきた
「俺、イギリス英語は話せるけどフランス語は話せないぜ?」と言い、彼女も笑い出す

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ユーラシア大陸縦横断旅38

ベルリン中央駅を出て最初の停車駅、シュパンダウに着いた
俺たちのボックスは4人掛けなのでさらにもう2人と相席することは分かっていたので、誰が来ても良いように荷物の位置を調整した
すると、中学まで一緒だった幼馴染が乗り込んで来て、俺の向かい側に座った
しばらく談笑していると、向こうは戦後のドイツを研究しており、実地調査でシュパンダウ戦犯刑務所跡を視察しに来たことを知った
だが、問題は俺の彼女だ
「難しい話、しないでよ〜」と言って俺に泣きついてきた
すると、旧友から「スキー教室の余興で歌いまくったアレの舞台、行ったのか?」といきなり質問が飛んできた
「モスクワだろ?行ったよ。彼女と2人で、な。ただ、2人ともその前に観光したペテルブルクでヘロヘロになってオンボロの寝台列車乗って一睡もできないままだったからまともに観光できなかったけど」そう言って頭を掻きながら笑うと、「お前に彼女できるなんて凄いな。」と返された
すると、彼女が「写真撮影が上手で、それでいて複数ヶ国語を操れる、更に私が好きな日本史、特に1番得意な幕末や明治の話でも盛り上がれるという、まさに私には勿体無い最高の彼氏です」と言ってきた
「今言うなよ」と言って呆れた感じを出すが、流石は旅を同じくしてきた彼女と中学の3年間で苦楽を共にしてきた仲間には俺が照れていることがお見通しだったようだ
昔話や近況報告をしていると、デュッセルドルフを過ぎた
荷物を纏めていると窓の外には中央駅へ入る手前の鉄橋が見える
「見ろよ、このラインの水面に映る夕焼け、照れた時の君そっくりだ。見ているこっちがうっとりしてしまう程鮮やかな赤色だ」と言って彼女に呼びかける
その場の全員が頬を染め、その後笑い出す
「ロンドンでアイツに会うんだろ?アイツによろしく言ってくれよ?」「ああ。俺もアイツもお前も3人幼稚園の頃からの付き合いだからな。そっちも元気でな。式の時には呼ぶよ」と言って笑い、分かれる
ブリュッセル行きが接続取って待っていてくれているので、急いで駆け乗る
奇しくも、俺がかつて乗ったブリュッセル行きICEと同じ時刻にケルンを発車する列車だった
橙に輝く一筋の光がガラス屋根を貫く中、列車はベルギーの都、ブリュッセルに向け走り出す

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ユーラシア大陸縦横断旅37

ハンガリー大使館の角を右に曲がり、フランス大使館のあるパリ広場まで来ると、目の前にはブランデンブルク門が見える
ブランデンブルク門を見て思わず「『Einigkeit und Recht und Freiheit 』、『統一、正義、そして自由』か…ドイツがなぜその3つを大切にしてきたのがよく分かるなぁ」と呟く
すると、彼女が「日本史は分かるんだけど、ヨーロッパ史が苦手だから、ドイツのことは分かんない…誰か教えてくれないかなぁ」と呟く
「簡単なドイツ史なら分かるんだがなぁ…俺は恋人と付き合って日が浅いからまだまだ彼女のこと知りたいんだがなぁ」と言ってわざとらしく返す
すると、彼女も俺も顔が赤くなり、「東一色だな」「そっちもね」と言って笑い合う
しばらくして、スマホが鳴る
電話に出るとかつてロンドンで再会した幼馴染から「君は今、ヨーロッパなんだよね?僕はかつて君がロンドンに来てくれたルートで5日ほどロンドンに滞在してヨーロッパ周遊する予定だけど、もしロンドンで会えそうなら会わないかい?」と誘われた
「ヒースロー到着、そっちは何時?こっちは明後日ユーロスターでセントパンクラス入りするんだ。彼女と2人旅さ。あっ、でも、ホテルは俺が昔泊まったちょっとお高い所」と言うと「現地時間で日付変わる直前、ホテルは僕と同じだね。あっ…これから搭乗だから切るね。」と返ってきた
彼女はよほど嬉しかったのか、スキップしてもと来た道を歩いている
駅に着くと俺たちが乗るケルン行きのICEは定刻の30分遅れだそうだ
だが、ここで奇跡のようなことが起きる
カメラの動作チェックをしているとたまたま俺が過去に乗った思い出の車両が俺たちの立つホームに入線し、その様子がカメラに収まったのだ
「思い出の車両か…」と言うと「貴方のこと、そして昔の話ももっと知りたいから私達のボックス席で沢山話そうね」と上目遣いされた
とりあえず予約した一等車に乗り込む
「そうだな…あっ、窓の外見なよ。俺たちが通った議事堂が見えるよ。」「私達、付き合い出したのと同じでだいぶ遠回りして辿り着いたんだね」そんなやり取りをする2人を乗せ、ICEはハノーファーやデュッセルドルフ、そしてその先のケルンに向けて進む

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ユーラシア大陸縦横断旅36〜ベルリンデート〜

列車は定刻の5分遅れでオイローパシティに位置するHBFに着いた
「ここが故郷の姉妹都市なのか…」そう呟くと横で彼女が時計を見ながら「ブランデンブルク門、今からなら行けるかなぁ」と呟く
「ブランデンブルク門なら、ここからシュプレー川を渡ってティーアガルテンを抜ければすぐさ。それに、俺たちはEUレールパスを使うんだから、通る国さえ間違えなければ列車は好きなタイミングで乗れるから大丈夫さ。どうせ、ハンブルクかケルンで1時間近く待つんだから」そう言うと、彼女が「森鴎外の舞姫の舞台、行ってみたかったんだ〜」とめちゃくちゃ喜んで早速シュプレー川を渡りに行き、俺は走って追っかける
「この橋の名前知ってる?」そう訊くと、「ここはドイツ帝国の都だったから、帝室の名前からホーエンツォレルンじゃない?」「ホーエンツォレルン橋はケルンのライン川の橋さ。この橋はモルトケね」そう言うと、「モルトケってあの、プロイセンの軍師モルトケ?」「そうだよ。あっでも、俺はビスマルク派なんだけどね」と返すと「あっ、アレ、戦前に放火されて建て直されて冷戦期は立地上の問題で使われなくなって放置されてた建物じゃない?」と彼女が進行方向右側を指差す
「そうだね。昔はあの屋根の上にソビエトの兵士が赤旗を掲げたんだよなぁ…そう考えると感慨深いな」とまたもや歴史談義が始まる
そこで悪戯っぽく、「首都とかけて、俺の彼女ととその心は?」と謎かけを始めてみると「どちらも大好き。違うの?」と訊かれたので「どちらも何度か変わったけど,もう変わらない」そう自信満々に答えると、彼女もつられて笑い出す
偶然か必然か、俺たちの頭上には演習中のドイツ空軍のアクロバット航空隊が描いたハートのスモークが浮かんでいた

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ユーラシア大陸縦横断旅34

昼下がり、ネヴァ川の船に乗る。
彼女は「歴史の街なのに、船は現代的だね」と呟く
「言われてみれば現代的だな。でも、この船、幼少期に乗ったヤツに似てるなぁ」と返す
「どこで乗ったの?もしかして,ここ?」「いや、ロシア自体今回初めてだったんだから、ここでは乗ってないよ。東京湾の水上バスさ。母さんに連れられて,よく葛西臨海公園に遊びに行ったんだけど、その時はお決まりのように夕陽に照らされて輝く臨海副都心やレインボーブリッジを眺めながら水上バスでお台場に行っていたことを思い出してね…」そう言うと、「じゃあ、そっちのカメラのカバー貸して」と彼女の一言
彼女の意図に気付いてカメラからカバーを外して差し出す
そして、「俺,こんな粋な計らいしてくれる女の子と付き合ったこと,一度もねぇなぁ…」と呟く
「どう?惚れ直しちゃった?」と彼女がいつもとは逆の立場で揶揄ってくる
流石に恥ずかしくなって,「察してくれよ」と返す
彼女が「好きな人を揶揄うのって、意外と楽しいね」とイタズラっぽく笑うと、俺も苦笑いだ
しばらくして、ピョートル大帝の像が見えて来た
「あっ!騎馬像だ!」と叫ぶ
「これがピョートル大帝の像か…って、向こうに要塞が見える!ということは、この先の右に見えるのはエルミタージュ美術館だよ」と教える
「私、本当は絵画も含めて宮廷文化には興味ないんだ。でも、ここってもともと貴族の街だから『美術館が多い街に来て美術館に行かないとは何事だ』って怒られそうだったから宮殿も見てみたいって言ったんだ」と彼女がポツリと呟く
「この街には宇宙開発の歴史を知ることができる博物館があるし、過去の戦争についての博物館もあるよ。要塞が見たいなら、港の沖にある要塞地帯、クロンシュタット行きの観光船の空き便も探してみるし、他の場所も探してみるよ」と返す
そしたら、積もりに積もった思いが込み上げてきたのか「やっぱり、優しいね」と一言呟くと泣いてしまった
「俺は心から幸せになれた時期よりも多くの人から傷つけられた時期の方がはるかに長いんだ。だから、どんなことがあっても、俺が傷つかないように気を配ってくれる人をパートナーにしたいと昔から思っていた。そんな理想の異性というのが君というだけさ」と返し、彼女を抱き寄せる
バルト海に沈む夕陽は水面に反射し、巨人のホームカラーに輝いていた

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ユーラシア大陸縦横断旅33

ホテルを出て開口一番、「さっきの虹、まだかかってるよ」と彼女が幼稚園児のように無邪気な笑顔を浮かべてはしゃぐ
「本当だな。こんなに綺麗で長い間かかってる虹は初めてだなぁ。って、あっ…終わった…」俺も興奮していたが、カメラを取り出した瞬間、悪夢のような現実が待っていた
そう,北国のサンクトペテルブルクは年によっては4月の末でも川が凍結するほど寒い日があり、カメラが外の冷気に晒されてバッテリー消耗のペースが早まり、充電切れで作動しなくなった
「終わったってどうしたの?昨日のプロ野球、巨人勝ったんだから、元気出してよ」と彼女が慰めようとしてくれる
「カメラのバッテリー、早くも切れた」そう言うと
「実は、隠してたんだけど、私もあなたと同じ機種のカメラ持って来てるんだ。ただ、カバーはそっちと同じコラボの限定品で2種類あるうち、そっちとは違う方ね」と衝撃の告白が
「そっちが使えそうになるまではこちらで撮って,そっちに転送するね。だから、撮りたいものあったら言ってね。私、頑張っちゃうから」と頼もしい一言が続く
「よし、じゃあ行くか」
「そうだね。帝政ロシア時代の貴族の宮殿の建物とか、この土地に古くからあった要塞跡とか、博物館になってる軍艦アヴローラも見たいね」とこれからどこを巡るのかで盛り上がる
俺たちのサンクトペテルブルク観光は、これからだ

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ユーラシア大陸縦横断旅32〜ペテルブルグの夜明け-

午前5時、降りしきる雨の音で目が覚める
カーテンを開けて外を見ると、雨で視界が真っ白になる中建物の灯りだけが黄色く輝いている
まるで,早朝のイルミネーションだ
ロシアと言えば、言わずもがな紅茶文化圏だ
それ故、このホテルの部屋にも給湯器とティーバッグがある
冷蔵庫には無料と書かれた袋の中に使い捨て容器に入ったジャムがある
日が昇り切るまでに急いで給湯器でお湯を沸かして,紅茶を淹れる
雨の音、愛しの彼女の寝息、街明かり、東の空の色
この全てが織りなすハーモニーはロシアの伝統に近いスタイルで頂く紅茶の味を引き立たせてくれる
「おはよう。今何時?」彼女が眠そうに目を擦りながらそう訊く
「おはよう。起こしちゃったかな?今、朝の5時半だよ」
「え?5時半?そんなに早いならもうちょっと寝たかったなぁ…って、外の景色、綺麗だね」「そうだな。タワーブリッジを渡る二階建てバスの二階席から見たロンドンの街並みを思い出すよ。あの時もこんな風に雨の音が聞こえたんだ。」
「そっか…ロンドンもペテルブルグも,貴族の街で太い川が流れてるんだよね。ロンドン、憧れの街なんだ」
そんなやり取りをして、彼女もおもむろにカップを手に取り紅茶を淹れて飲む
隣の部屋のテレビから俺が昔元カノと付き合ってた頃によく歌っていた思い出の歌が流れてきた
時計を見れば午前6時だ
窓を開けるとひんやりとした風と雨の音が部屋に入り込む
そして、「さあ、行こうか」
「それ、俺のセリフや!」そう言って2人顔を見合わせて笑う
荷物を持って外に出ると、空にはネヴァ川を覆うように虹がかかっていた

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ユーラシア大陸縦横断旅31

モスクワを出てから一時間、サプサン号はトヴェリを通過した
そしたら、彼女が一言「さっき言ってたタシュケントの花って何なの?」と訊く
「少し悲しい歴史の話も入るんだけど,旧ソ連構成国だった中央アジアのウズベキスタンの首都、タシュケントには日本から贈られた花があるんだよ。」と軽く話し始めると、彼女が「もしかして,ナヴォイ劇場の建設で殉職した日本人のお墓に植えられている桜のこと?」と食いつく
「そうだよ。まぁ厳密に言えば、日本人墓地だけじゃなくて向こうの中央公園にも桜は植えられているそうだけどね。さっき調べてたんだけど、中央公園の桜、満開だけど所々葉桜があるね」と言って画像を見せる
「この白っぽい桜、滅多に見たことないなぁ」と彼女が一言
「どれ?これ?ソメイヨシノじゃん」「知ってるの?」「知ってるも何も、東京じゃ一般的なんだよ。江戸時代に今の東京で生まれた品種なんだよ。」なぜかロシアにいるのに東京談義が始まる
「東京って意外と歴史もあるし、何でも揃ってるんだね。地元の九州とは大違い」と彼女が自虐気味に笑う
そして,俺も自虐気味に笑って反論する「まあでも、俺からすれば福岡の方が魅力的さ。東京にはないものがあるから」「東京にないもの?海も城跡も山も島もあるでしょ?何がないの?」「君がいない」と真面目な表示に向き直ってそう告げる
「そんな表情されたら、私戦力外なのかと思っちゃうよ」と笑われる
「戦力外ってwプロテクトならまだしも、戦力外なら俺がされるのかと思ってた」と笑い返す
いつのまにかプロ野球の話になり、2人で談笑しているとあっという間にネオルネッサンス様式の駅に入線した
駅名標にはМосковскийと書いてある
貴族文化と芸術の花咲く北の港町、ペテルブルグに着いたのだ
街に出て,彼女に囁く
「これがネヴァ川につながる運河なんだけど、君ってこの水面に映る夕陽よりも綺麗だね」
その瞬間、彼女がはにかみながらも笑う「私の顔がレニングラードになっちゃった」
「俺はどれだけ大変な状況でも、千日経とうと何万日経とうと、一生添い遂げるだけさ」とこの街の歴史に絡めて一言返す
その瞬間、お互いに言った短いワンフレーズは潮風にかき消されて聞こえなくなった

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ユーラシア大陸縦横断旅30

定刻から1時間遅れの午後3時頃、俺たちを乗せたK3列車はは終点,モスクワ・ヤロスラフスキー駅に着いた
2人揃って子供のように目を輝かせている
それもそのはず
モスクワは帝政ロシアの前身、モスクワ大公国時代からのロシアの都であり、帝政時代に北の古都へ遷都された後も皇帝の戴冠式が行われた歴史の街だからだ
ロシア語を読める俺に対し、東京の夜景のように輝く彼女が建物の看板に書いてある文字を読んでくれとせがんでくる
そして,彼女が目的地を見つけてくれた
そこには,Ленинградский вокзалと書いてある
モスクワは列車の方面ごとに駅が分かれていて,その方面にある地域の名前が駅名になっているのだ
彼女が見つけたレニングラーツキー駅はその名の通りレニングラード、つまり古都ペテルブルグ方面へ行く列車の起点なのだ
俺たちはサプサン号でペテルブルグに行き、ペテルブルグで一泊して歴史を肌で感じ、その後寝台列車赤い矢号でモスクワへ戻り、さらにベラルースキー駅前のホテルで一泊して午前11時の寝台列車でベルリンを目指すことになっている
と言うのも、モスクワ〜ベルリン間は片道およそ2日の行程なのだが、俺たちが乗った北京発の列車だとモスクワに定刻に着いても乗り換えには間に合わないので、モスクワに帰ってきた便の折り返しに乗る必要があるからだ
今後の予定を話し合っていると、粉雪がモスクワ市街北東部にある3つのターミナル駅が集まる広場に舞い落ちる
「もう4月の中頃だと言うのに、まだ雪降ってる…故郷の福岡じゃ考えられない…」と彼女が呟く「俺の故郷、東京でも見たことないよ…でも、今頃タシュケントでは綺麗に花が咲いてるんだろうなぁ」と返す
サプサン号の発車時刻が迫っている
そして,3つのターミナル駅が集まる広場で1番北にあるレニングラーツキー駅から15:30発770番列車が一路、サンクトペテルブルク・モスコフスキー駅を目指して走り出す

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ユーラシア大陸縦横断旅28

太陽が南から西に傾き始める中、列車はエカテリンブルクのホームに滑り込む
ふと、「もうエカテリンブルクか…シベリア鉄道の旅ももう終わりだなぁ」と呟く
彼女はまるで雷の音が響いた時の子供のように丸くなって何かに怯えているように見える
「おい、大丈夫か?」「ここ、エカテリンブルクでしょ?怖い話を思い出しちゃって…」「ロシア革命で皇帝のニコライ2世が家族もろとも処刑された事件のこと?」「そうだよ。100年以上前の話だと言われても,怖いよ」そう彼女が震え声で言うのでリアクションに困って苦笑いを浮かべて「幕末の剣豪が好きな人とは思えないリアクションなんだけどなぁ」と思わず心の声を漏らしてしまった
「まだ発車しないの?」「30分停車だからね。あっでも,その館はもう取り壊されてるよ」「もう…ないの?出てきても大丈夫なの?」と尋ねられる
「大丈夫。俺が守ってやるからな」「本当?」「勿論。というか、俺が君に初めて惚れた時に何て言ったか覚えてる?」それを聞いて頬を染めながら「『惚れた女を大切にし、彼女が傷つかないよう気を配る。そして,時には体を張って彼女を守ること。それは男としての俺の一生モノの課題だ』ってこと?」と訊く
「大正解!さぁ、安心して出ておいで。」そう言うと彼女がハムスターのように出てきた
「どんなシチュエーションでも,やっぱり俺の彼女は魅力的だな」と呟き、彼女が照れる
そして,列車は発車する
明日のこの時間にはモスクワだろう

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ユーラシア大陸縦横断旅27

現地時間で日付が変わってからおよそ30分、オムスクに着いた
時差ボケと彼女の魅力のせいで眠れない
「どうしたの?眠れないの?」「まあ、時差ボケでな」
「時差ボケってwハワイはもっと酷いよ。ましてや貴方、ハワイよりも時差が少ないロンドン行ったことあるんでしょ?このくらい我慢してよ」
「ロンドンから帰国した当時は真夏、しかも地球の裏側じゃちょうどリオ五輪やってて、上野の屋外パブリックビューイング場で猛暑の中熱中症で倒れてどうやって時差ボケ治したのか記憶にないんだけどw」「リオ五輪っていつだっけ?」
「76年だけど?」「皇紀じゃなくて西暦か元号で言ってよ。皇紀で計算するの慣れてないの(笑)」「西暦だと2016だな」
そんな話をして気づいたら、イシムを過ぎ、朝日に輝くチュメニの駅に着いた
彼女は話し疲れたのか爆睡、俺は油田の街に着いたことに興奮を覚えたが、流石に起こすのも可哀想だと思い、手書きのメッセージを枕元に置いて俺も寝た
「Спасибо, что стала моей девушкой 」と敢えてロシア語で書いて置いた
意味は,「俺の彼女でいてくれてありがとう」だ
その意味を知った彼女に甘えられたのは言うまでもない
そして,甘い響きとは程遠く拙いフランス語で
こう囁く「Unis pour la vie 」
意味は,「ずっと一緒だよ。」だ
そんな俺たちを乗せ,いよいよエカテリンブルクまであと数分という所まで来た…
ウラル山脈超えも近い

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ユーラシア大陸縦横断旅25

現地時間午後7時半、薄暮の空の下、俺たちが乗るK3/0033号列車はノヴォシビルスク駅に着いた
ホームを見て彼女が一言「駅の時計とこっちの時計、合わないよ。」「どれ、見せてみな」実際に見たら笑うしかなかった
「なんだよ、そう言うことかよ」と思わず吹き出す
そして、彼女が頬を膨らませながら「どうせ私は彼氏ほど旅慣れていない田舎者ですよ〜だ」と拗ねてる
「まあまあ、落ち着けよ。原因、話してやるから」
「本当?教えて教えて!」と子供っぽくはしゃぎながら答える
「ロシアってのは、国が大きいのは知ってるよね?ロシアよりも小さなアメリカだって国土が大きいから国内にも時差がある。それはハワイとアメリカ本土に訪れたことがある君なら分かるでしょ?」
「流石に知ってるよ。でも、その話とこれって何の関係があるの?」「まあいいから、最後まで聞きなよ。シベリア鉄道はいくつものタイムゾーンを跨ぐようにして線路が張り巡らされている。だから、走らせるなら基準となるタイムゾーンが必要なんだ。そうなると、首都であり列車の起点であるモスクワの時間を基準にして列車を動かすと都合がいい。だから、シベリア鉄道の長距離便が停まる駅ではモスクワの時間を採用しているんだ。モスクワとここ、ノヴォシビルスクは時差が四時間だから、駅の時計も君の時計と4時間ズレているよ」そう言うと彼女は「さっすが私の彼氏!頼りになる〜」と笑い出した
一方、俺はと言うとその無邪気な笑顔に心を撃ち抜かれて無意識のうちに「ヤバい。俺の彼女、いや、俺の嫁さん可愛すぎんだろ…こんなんじゃ理性なんか吹っ飛ぶな」と呟いていた
その後すぐ、食堂車で晩飯を食べていると列車は市街地に挟まれたオビ川の鉄橋を渡る
「シベリア鉄道は風景が同じでつまらないって言われているけど、愛しの人と一緒なら彼女の顔だけ見てればいいんだからいい癒しになるな」と言ったら彼女が「私の彼氏って、こんなロマンチックな人だっけ?」と自問してる
そこですかさず、「フランスと江戸っ子と華族文化が入り混じる街の出身だからな」と笑う
そして、2人揃って「これからもずっと一緒だよ』と言う
シベリア有数の大都市の夜景が俺たちの将来を照らし、祝福してくれている中を列車はモスクワに向け突き進み、俺は彼女の誕生日プレゼントを買うべく、グム百貨店のカタログを読み漁る

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ユーラシア大陸縦横断旅25

クラスノヤルスクを出てからおよそ五時間半、マリインスクに着いた
「え?今2時過ぎだよね?なんで10:27発なの?」彼女が駅の時計を見て驚く
「さあ、なんでだと思う?」といたずらっぽく笑って訊き返す
そしたら彼女が「その笑顔は反則だよ〜もしかして、あの中国のお仲間とグルでプロポーズとセットのドッキリ仕掛けたの?」と見当違いの質問が…
もう種明かしするしかないな
「ロシアって国土が大きいでしょ?だから、タイムゾーン、つまりある一定の範囲から向こう側に行けば時計の針が戻ったり進んだらするエリアの境界が複数あるんだ。それでも、一つの国の中にそうしたエリアの境界線があって、そこを跨ぐ列車を走らせるなら、基準が必要でしょ?」そこまで言うと、「じゃあ、その基準ってもしかして、首都であるモスクワの時間ってこと?」「その通りさ。ここはノボシビルスクのタイムゾーンの中なんだ。こことモスクワの時差がおよそ四時間なんだ。あと、プロポーズの件はアイツが勝手に指輪が入った箱を北京の大使館経由で俺に届けただけさ。俺は先輩がパリの日本大使館にいると思ってパリの大使館経由で渡したかったんだけどなぁ」そう説明しているうちに列車は駅を出る
「それってどういうことなの?」
「これ、見てみなよ」
「この日って…」そう、そこには『パリ到着』と書いてあり、その上には『想い人の誕生日』と書いてあったのだ
「この日って君の誕生日じゃなかったっけ?」「そうだけど、なんで知ってるの?」「あの時一緒だったオプで誕生日の話題になったの、覚えてない?」「思い出した!その時、私も自分の誕生日言ってた。と言うことは、覚えていてくれてたの?」と嬉し泣きしている「KLで言ったろ?君のこと忘れられなかったって。言い換えれば、君とのやり取りはほとんど、俺の頭の中に入っているんだよ。あと、俺は好きな人にプロポーズする時はその人の誕生日に『プレゼントは俺だよ。その証拠に、ほら』と言って夜景の綺麗な街で指輪と赤バラの花束を渡すシチュエーションに憧れてたんだ。でも、『愛の街』で有名なパリに着く前にやっちゃった」と言うと「じゃあ、11月生まれの貴方の誕生日プレゼントは花嫁姿の私だね」と彼女が顔を真っ赤にしつつも笑っている「いや、それよりも読売の日本一」と返す
彼女の誕生日まであと6日
よし、プレゼントをモスクワで調達だ

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ユーラシア大陸縦横断旅24

日の出に近いがまだ西は暗い午前6時頃、トラス橋を渡る音で目が覚める
川面の向こうには朝靄の中アパートや教会らしい建築物群が見える
「ここは?橋を渡っているが、ボルガやオビはまだ先だよなぁ…それに、川の向こうに中心市街地が見えるとなると、これはクラスノヤルスクのエニセイ川か?」
確証は持たなかったが、到着駅の駅名標にはКрасноярск( クラスノヤルスク)と書いてあった
つまり、さっきの川はエニセイ川だったのだ
クラスノヤルスクを出ると同時に彼女が目覚める
そして、開口一番「どうして私と距離置こうとするの?私ってそんなに魅力ないの?」といきなり尋ねてくる
「正直言って、君は俺にはもったいないくらい魅力的だからなぁ…君の彼氏が本当に俺でいいのか分からなくなってしまってね。俺がそばにいない方が君が幸せになれるんじゃないかとか考えちゃうんだよ。自分と彼女の関係のことになると後ろ向きになっちまうダメ男が彼氏でごめん。もし、こんな俺でも受け入れてくれるなら嬉しいな」そう言って頭を下げる
「バカなこと言わないで!私が生涯バッテリーを組みたいと思っている相手は貴方しかいないの!だから、こっちは貴方が重くてど天然で抜けている所がある私なんかと一生一緒に居たいと思ってくれるまで20年でも30年でも待つつもりなの!」と俺が彼女に初めて惚れた時のセリフで返された
「そうか。実は、俺も同じ気持ちだったんだ。こんな時にムードもへったくれもないけど、言わせてくれ。俺と結婚してくれないか?ゴーアラウンドならいくらでもするがダイバートはしない」と当時の言い回しで伝えて指輪を渡す
「もう、離さないよ」「俺もな」
カレカノから婚約者同士になったカップルを乗せ、列車は西へ行く